説明

溶融接合したポリマー積層体

【課題】耐薬品性、低透過性、耐圧性などの物性を備え、しかも、柔軟性、難燃性などの要求をも同時に満足しうるフッ素樹脂積層体を提供する。
【解決手段】共重合体を構成する重合単位の質量を基準として56質量%以下のテトラフルオロエチレン(TFE)、58質量%以下のヘキサフルオロプロピレン(HFP)及び8〜70質量%のビニリデンフロライド(VDF)からなるフッ素系二元もしくは三元共重合体の層と、ポリビニリデンフロライド(PVDF)類の層とを溶融接合したポリマー積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ビニリデンフロライド(VDF)からなるフッ素系二元もしくは三元共重合体の層と、ポリビニリデンフロライド(PVDF)の層とを溶融接合したポリマー積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置などの電子部品製造装置、インクジェットプリンターなどの精密機器、又は、医薬品製造装置などの用途では、柔軟性、難燃性、耐薬品性、低透過性、高温時の低アウトガス性、低溶出性、耐圧性などの種々の要件を満たすチューブが要求されている。
【0003】
従来から用いられているシリコーンやポリウレタン、ゴム材料は、柔軟性に優れている一方、高温時にアウトガスを生じ、また、溶出物が発生し、チューブ内を汚染し、さらに、炭化水素系材料からなるポリウレタンやゴムは可燃性があり、安全上の問題もある。
【0004】
そこで、耐薬品性があることや汚染物を生じにくいことから、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やパーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体(PFA)などのフッ素系樹脂が半導体製造装置などの装置を構成する部品として使用されている。しかし、これらの材料をチューブに使用した場合、非常に柔軟性に乏しいという欠点があり、また、接着が非常に難しいので、チューブ製品などの成形加工品として使用されるときに、単層で使用されることが多い。耐薬品性、耐圧性、バリア性などの観点から、ポリビニリデンフロライド(PVDF)も有用なフッ素系樹脂である。ポリビニリデンフロライド(PVDF)も比較的硬いので、柔軟性が要求される用途では改良が求められている。このため、柔軟性の高いポリウレタンなどの非フッ素含有ポリマーと、ポリビニリデンフロライド(PVDF)との積層体がチューブ材料としてしばしば使用されている。しかし、ポリビニリデンフロライド(PVDF)は他のポリマーとの接着性が低いので、接着剤を介して接着がなされることになる。接着剤を用いた場合には、層間接着力の信頼性や製造コストの点で問題になり、接着剤は成形加工品の加熱時にアウトガスを発生する原因となるので好ましくない。このため、接着剤を用いない積層体の製造が望まれている。
【0005】
特許文献1(特開2005−14464号公報)、特許文献2(特開2005−305672号公報)、特許文献3(特開2006−44201号公報)及び特許文献4(特開2006−44074号公報)は共重合フッ素系樹脂と、非フッ素系樹脂との積層樹脂成形体を開示している。しかし、非フッ素系樹脂は成形体の柔軟性を改良するが、一般的に溶出性、可燃性などの問題点が残る。
【0006】
特許文献5(米国特許出願公開第2003/0198771A1号明細書)は、フルオロポリマーの積層について記載している。テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びビニリデンフロライド(VDF)からなるフッ素系三元共重合体であって、そのモノマー組成比が異なる2種の第一の三元共重合体と第二の三元共重合体との積層体、あるいは、テトラフルオロエチレン(TFE)とエチレンとのコポリマーと三元共重合体との積層体など、幾つかの積層体が例示されている。
【0007】
たとえば、該三元共重合体はPVDFと比較すると、柔軟性には優れいるが、耐薬品性や透過性、耐圧性に関しては劣っている。それぞれの樹脂には一長一短があり使用上の制約を受けてしまう。
【0008】
【特許文献1】特開2005−14464号公報
【特許文献2】特開2005−305672号公報
【特許文献3】特開2006−44201号公報
【特許文献4】特開2006−44074号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0198771A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、耐薬品性、低透過性、耐圧性などの物性を備え、しかも、柔軟性、難燃性などの要求をも同時に満足しうるフッ素樹脂積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を含む。
(1)共重合体を構成する重合単位の質量を基準として56質量%以下のテトラフルオロエチレン(TFE)、58質量%以下のヘキサフルオロプロピレン(HFP)及び8〜70質量%のビニリデンフロライド(VDF)からなるフッ素系二元もしくは三元共重合体の層と、ポリビニリデンフロライド(PVDF)類の層とを溶融接合したポリマー積層体。
【0011】
(2)前記ポリビニリデンフロライド(PVDF)類は、ビニリデンフロライドのホモポリマーであるか、又は、ビニリデンフロライドと、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)からなる群より選ばれる1つ以上のコモノマーとのコポリマーである、上記(1)記載のポリマー積層体。
【0012】
前記積層体はチューブあるいはフィルムもしくはシートの形態である、上記(1)又は(2)記載のポリマー積層体。
【0013】
(3)上記(1)〜(3)のいずれか1項記載のポリマー積層体を含む、包装・パッケージ材料。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項記載のポリマー積層体を含む、電子部品製造装置、精密機器又は医薬品製造装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構成によると、該二元もしくは三元共重合体の柔軟性と、PVDF類の耐薬品性、低透過性、耐圧性の利点を備えた積層体製品、たとえば、チューブ、フィルム、容器を提供することができる。
また、いずれの層もフッ素系ポリマーからなるので、溶出物やアウトガスの発生を抑制し、耐熱性、難燃性を維持することができる。
また、上述の組成比の該二元もしくは三元重合体とPVDF類とは溶融接合によって十分な接着力を発揮できるので接着剤を使用する必要がなく、十分な強度を備えるとともに、接着剤に由来するアウトガスや溶出物も発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明について、その好ましい態様に基づいて説明するが、本発明はそれらに限定することを意図するものでない。
【0016】
二元もしくは三元共重合体
本発明の積層体は、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びビニリデンフロライド(VDF)からなるフッ素系二元・三元共重合体の層と、ポリビニリデンフロライド(PVDF)類の層とを溶融接合したものである。該二元もしくは三元共重合体は、ポリマーを構成する重合単位の質量を基準として56質量%以下のテトラフルオロエチレン(TFE)、58質量%以下のヘキサフルオロプロピレン(HFP)及び8〜70質量%のビニリデンフロライド(VDF)からなる。TFEの量が多すぎると、PVDFとの溶融接合が困難になり、積層体の柔軟性が低下する。また、HFPは単独重合しないので添加量には限界がある。VDFの量が多すぎると、積層相手となるPVDFと類似の特性となって柔軟性が低下する。また、VDFの量が少なすぎると、PVDFとの溶融接合が困難になる。
【0017】
ポリビニリデンフロライド(PVDF)類
本発明において用いられるポリビニリデンフロライド(PVDF)類は、ポリビニリデンフロライド(PVDF)のホモポリマーであるか、あるいは、他のコモノマーとのコポリマーであることができる。コモノマーとしては、たとえば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、又は、それらの組み合わせが挙げられる。ポリビニリデンフロライド(PVDF)がHFPとのコポリマーである場合、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)コモノマーの量が多すぎると、ゴム特性が顕著になりコポリマーの耐圧性や低透過特性が悪くなるので好ましくない。このため、PVDFは、ポリマーを構成するモノマーの質量を基準として30質量%以下のHFPコモノマーを含むことが好ましい。
【0018】
層の厚さ(肉厚)
本発明の積層体を構成する該共重合体の層/ポリビニリデンフロライド(PVDF)の層の厚さの比は、所望の物性によって適宜選択され、特に限定されるべきでない。しかし、一般に、該共重合体の層/ポリビニリデンフロライド(PVDF)の層の比は99/1〜70/30である。ポリビニリデンフロライド(PVDF)は比較的に薄い層であっても、バリア性や耐薬品性を発揮することができる一方、柔軟性を実現するためには、比較的に厚い該共重合体の層が必要となるからである。また、積層体の厚さは、その形態(たとえばチューブ、フィルム、容器)や使用条件(たとえば、温度、圧力など)によって決まるが、チューブとして用いる場合には実用上、0.5〜5mmの厚み(肉厚)で用いられることが一般的である。
【0019】
積層体の製造
積層体は以下のとおりに製造することができる。たとえば、該共重合体からなる第一の層と、ポリビニリデンフロライド類からなる第二の層を、押出成形などの適切な手段で別々に形成し、第一の層と第二の層とを重ねて、それを両者の軟化点もしくは融点以上の温度に加熱してヒートラミネーションする。この方法により、積層体フィルムを形成することができる。
あるいは、ダイを通して第一の層と第二の層を同時押出することで積層体を形成することもできる。この方法により、積層フィルム又はチューブなどを形成することができる。
さらに、第一の層と、第二の層とをブロー成形によって積層することで、タンクなどの容器の形態の積層体を形成することができる。
【0020】
他の層
本発明の積層体は、少なくとも1層の該共重合体からなる層と、少なくとも1層のポリビニリデンフロライドからなる層を溶融接合して含む。したがって、積層体は、3層以上で構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわないかぎり、他の層、たとえば、ポリウレタン、シリコーン、ゴム、樹脂などの層を含んでもよい。
【0021】
添加剤
本発明の積層体は、アウトガスや抽出物の発生を抑制するように、原則として添加剤を含まないが、本発明の効果を損なわないかぎり、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などの機能性添加剤を含んでもよい。
【0022】
用途
本発明の積層体は、アウトガスや抽出物や外来物などの不純物の混入を嫌う用途、耐熱性や耐圧性、難燃性を要求する用途に特に有利に使用でき、具体的には、電子部品製造装置、精密機器又は医薬品製造装置などにおいて使用するのに適する。例えば、インクジェットプリンターは印刷するためのインクを搬送するためにチューブが用いられているが、そこに使用されるチューブは狭い装置内を配管するために柔軟性が必要である。また、インクの成分に対する耐久性(耐薬品性)が必要であり、そのインク成分がチューブ壁面を通して蒸散し、組成が変わらないように低透過性である必要がある。更に、インクが通っているか確認するために透明であることが望ましく、装置を輸出する際には装置を構成する材料には難燃性が求められる。この用途には一般的にポリエチレンが多用されているが、透過性が高いために、インク成分がチューブ壁面から蒸散したり、大気中の酸素がチューブ内部に容易に侵入したりする。これによりインク成分が変質する。また、ポリエチレンは柔軟性が乏しいためコストをかけて曲げ加工を行う場合があり、樹脂の透明性が低いためチューブ内部のインクの視認性が悪いなどの問題がある。本接着技術を用いた積層チューブを適用することによりこれらの諸問題を解決することができる。また、接着剤を用いていないので、チューブの形態への成形に特に有用性を見出す。
【実施例】
【0023】
以下において、本発明を実施例に沿って説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、特に指示がないかぎり、百分率や割合などは重量基準である。以下の実施例で使用した種々のポリマーの組成を表1にまとめた。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例−1
層間接着力測定
PVDFおよびVDFとHFP、CTFEの共重合体からなるポリマーA,B,Cのシートと各種該フッ素系共重合体のシートとを重ね合わせ、200℃に加熱した熱プレス機で熱溶融圧着し積層シートを作製した。これらの積層シートを巾25mm、長さ100mmに切断し層間接着力(剥離力)をASTM D1876(T−剥離試験)に基づき引張試験機(東洋精機製ストログラフV10−C)を用いて測定した。測定条件は300mm/分の剥離速度で180度剥離力の測定を行った。その結果を下記の表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例−2
積層チューブの製造
2台の押出機を含む2層チューブ成形機にて、積層チューブを成形した。チューブの内層の樹脂として、ポリビニリデンフロライドコポリマー(ポリマーC)を用い、アダプター温度を210℃に設定した。外層の樹脂として、該共重合体(ポリマーG)を用い、アダプター温度を210℃に設定した。これらの2つの樹脂を230℃のダイにて合流させ、積層チューブに成形した。さらに、積層チューブの寸法精度を上げるために真空サイジングを行い、減圧冷却バスに導入して、溶融していたチューブを冷却固化し、引き取り機を通して巻き取り装置で巻き取った。これにより、内径4mm、外径6mmであり、内層樹脂(ポリマーC)の厚み(肉厚)が0.1mm、外層樹脂(ポリマーG)の肉厚が0.9mmである2層の積層チューブが得られた。
得られた積層チューブの内層樹脂(ポリマーC)と外層樹脂(ポリマーG)の層間接着力を確認するため、巾10mmにはがして接着力を測定したところ20N/cm以上であることを確認した。
【0028】
実施例−3
積層シートの製造
2台の押出機を用いた2層フィルム成形機にて、積層フィルムを製造した。フィルムの上面側の樹脂としてポリビニリデンフロライドコポリマー(ポリマーB)を用い、アダプター温度を210℃に設定した。下側の樹脂として該共重合体(ポリマーG)を用い、アダプター温度を210℃に設定した。これらの2つの樹脂を230℃のTダイにて合流させ、積層フィルムに成形した。さらに、積層シートを温度調整したミラーロールに導入し、ニップロールで押さえて寸法精度を上げ、溶融していたシートを冷却固化して巻き取り装置で巻き取った。これにより、上面の樹脂(ポリマーB)が0.1mm、下面の樹脂(ポリマーG)が0.9mmである2層の積層シートが得られた。
得られた積層シートの内層樹脂(ポリマーC)と外層樹脂(ポリマーG)の層間接着力を確認するため、巾25mm、長さ100mmに切断して層間接着力を測定したところ20N/cm以上であることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体を構成する重合単位の質量を基準として56質量%以下のテトラフルオロエチレン(TFE)、58質量%以下のヘキサフルオロプロピレン(HFP)及び8〜70質量%のビニリデンフロライド(VDF)からなるフッ素系二元もしくは三元共重合体の層と、ポリビニリデンフロライド(PVDF)類の層とを溶融接合したポリマー積層体。
【請求項2】
前記ポリビニリデンフロライド(PVDF)類は、ビニリデンフロライドのホモポリマーであるか、又は、ビニリデンフロライドと、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)からなる群より選ばれる1つ以上のコモノマーとのコポリマーである、請求項1記載のポリマー積層体。
【請求項3】
前記積層体はチューブあるいはフィルムもしくはシートの形態である、請求項1又は2記載のポリマー積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のポリマー積層体を含む、包装・パッケージ材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載のポリマー積層体を含む、電子部品製造装置、精密機器又は医薬品製造装置。

【公開番号】特開2008−18688(P2008−18688A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194586(P2006−194586)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】