説明

溶融液部を有する測定対象物の相変化検出装置及び温度測定方法及び測定温度校正方法

【課題】溶融液部を有する測定対象物の相変化を簡単に検出する装置を提供する。
【解決手段】溶融液部3を有する測定対象物2を撮像し、画像データを出力可能なカメラ11と、制御演算装置13とを具備し、前記カメラは画素の集合体である撮像素子12を有し、前記画像データは前記画素の出力によって構成され、前記制御演算装置は前記画像データに基づき液相部と固相部の境界を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像分析によって物質の液体から固体へ相変化する状態を検出する相変化検出装置及び温度測定方法及び測定温度校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相変化を伴う物質の温度測定が必要な場合として、例えば溶接があり、溶接では溶接後の冷却速度、熱影響部等が溶接品質に影響し、種々の溶接条件での温度測定が必要である。
【0003】
相変化を伴う物質温度を測定する場合の、温度を測定する方法として2色測温法がある。2色測温法は、波長の異なる2つの光を用いて同一点の画像を取得し、光強度と測定対象物の放射率から温度を測定するものである。又、放射率は温度の他に測定対象物の状態、固体、液体或は表面状態(表面酸化膜の有無等)等で変化する。2色測温法では、2波長で各画素について温度を光強度と放射率の関数として得ることができる。この時、2波長が近ければ放射率の波長依存性が無視できるほど小さい為、これを利用して光強度の比により測定対象物の温度を測定するものである。
【0004】
2色測温法により測定した温度を実際の温度に換算する為には、基準値となる値が必要であり、従来では熱電対等を測定対象物に取付け、実際の温度(以下、真の温度とする)を測定して基準値としていた。この為、真の温度を測定する為の準備、測定に手間が掛っていた。
【0005】
尚、特許文献1には、テレビカメラからの映像信号及び放射温度計からの温度信号を画像処理用計算機に入力し、放射温度計の温度信号を用いてテレビカメラの輝度信号を温度に換算し、コークスの温度を算出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−256010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み、測定対象物の相変化を検出し、或は相変化の検出を真の温度の測定に利用し、或は計測温度の校正等に利用しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶融液部を有する測定対象物を撮像し、画像データを出力可能なカメラと、制御演算装置とを具備し、前記カメラは画素の集合体である撮像素子を有し、前記画像データは前記画素の出力によって構成され、前記制御演算装置は前記画像データに基づき液相部と固相部の境界を検出する相変化検出装置に係るものである。
【0009】
又本発明は、前記制御演算装置は、測定対象物の融点温度データを有し、該融点温度データに基づき前記境界の温度を測定する相変化検出装置に係るものである。
【0010】
又本発明は、前記制御演算装置は、画像上で溶融液部を横断する光強度検出ラインを設定し、該光強度検出ラインに沿った前記画素からの出力に基づき光強度曲線を作成し、該光強度曲線で得られる光強度極小値を示す位置を液相部と固相部の境界と判断する相変化検出装置に係るものである。
【0011】
又本発明は、前記制御演算装置は、画像上で溶融液部を横断する光強度検出ラインを複数設定し、液相部と固相部の境界線を求める相変化検出装置に係るものである。
【0012】
又本発明は、前記制御演算装置は、画像全体の画素について変化量を検出し、画像全体での変化量の分布を求めることで、振動している部位と静止している部位とを判断し、振動している部位と静止している部位の境界を液相部と固相部の境界と判断する相変化検出装置に係るものである。
【0013】
又本発明は、前記制御演算装置は、時系列に複数の画像からそれぞれ液相部と固相部の境界を求め、該境界の経時的な変化に基づき溶融液部の凝固速度を演算する相変化検出装置に係るものである。
【0014】
又本発明は、画像データを出力可能なカメラにより溶接部を撮像する工程と、前記カメラにより出力される画像データに基づき画像中の液相部と固相部の境界を検出する工程と、母材の融点温度に基づき前記境界の温度を特定する工程とを有する温度測定方法に係るものである。
【0015】
又本発明は、2色測温法に於いて、画像データを出力可能なカメラにより溶接部を撮像する工程と、前記カメラにより出力される画像データに基づき画像中の液相部と固相部の境界を検出する工程と、母材の融点温度に基づき前記境界の温度を特定する工程とを有する温度測定方法に基づき基準温度を測定し、該基準温度に基づき2色測温法で得られた測温結果を校正する測定温度校正方法に係るものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶融液部を有する測定対象物を撮像し、画像データを出力可能なカメラと、制御演算装置とを具備し、前記カメラは画素の集合体である撮像素子を有し、前記画像データは前記画素の出力によって構成され、前記制御演算装置は前記画像データに基づき液相部と固相部の境界を検出するので、前記溶融液部の相変化が検出でき、又相変化の境界が検出されることでも測定対象物の融点温度に基づき境界の真の温度が測定できる。
【0017】
又本発明によれば、画像データを出力可能なカメラにより溶接部を撮像する工程と、前記カメラにより出力される画像データに基づき画像中の液相部と固相部の境界を検出する工程と、母材の融点温度に基づき前記境界の温度を特定する工程とを有するので、温度センサを設けることなく、溶接部の液相部と固相部の境界の真の温度を測定できる。
【0018】
又本発明によれば、2色測温法に於いて、画像データを出力可能なカメラにより溶接部を撮像する工程と、前記カメラにより出力される画像データに基づき画像中の液相部と固相部の境界を検出する工程と、母材の融点温度に基づき前記境界の温度を特定する工程とを有する温度測定方法に基づき基準温度を測定し、該基準温度に基づき2色測温法で得られた測温結果を校正するので、温度センサを設けることなく、2色測温法で得られた測温結果を校正することができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る第1の実施例の概略構成図である。
【図2】(A)は、第1の実施例で取得される画像を示す図であり、(B)は該画像から得られる光強度曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る実施例の概略構成図であり、図1中、1は本実施例に係る相変化検出装置であり、2は測定対象物である。
【0022】
又、図1は、溶接が実行されている場合を模式しており、前記測定対象物2は溶接される母材、3は溶接が実行されている場合の溶融プールを示している。尚、図1中、溶接装置は省略している。
【0023】
図1中、11はカメラであり、CCD、CMOSセンサ等、多数の画素の集合体である撮像素子12を具備し、静止画像、連続画像のデジタル画像信号を出力する。又、撮像素子12中の基準位置、例えば撮像素子12の中央とカメラ11の光軸とが合致しており、各画素の位置は前記基準位置に対して位置が特定される様になっている。13は制御演算装置であり、前記撮像素子12からの画像信号に基づき種々の処理、演算を実行して相変化、温度測定、計測温度の校正、冷却速度の測定等を実行する。14は表示装置であり、前記カメラ11で撮像した画像、前記制御演算装置13の演算結果等が表示される。
【0024】
前記制御演算装置13は、演算処理部(CPU)15、記憶部16、画像処理部17、操作部18を具備しており、前記記憶部16には画像処理を行う為の画像処理プログラム、前記撮像素子12からの画像信号から各画素毎の光強度或は経時的な偏差を算出し、算出した結果を該撮像素子12内の画素の位置情報に関連付ける画像処理プログラム、算出した光強度に基づき光強度曲線を演算し、偏差に基づき測定対象物2の表面の動的変化を演算する演算プログラム、得られた前記光強度曲線或は表面の動的変化に基づき液相−固相の境界を求めるプログラム等のプログラムが格納されている。又、前記記憶部16には、プログラムを実行する為に必要なデータ、例えば、前記測定対象物2の融点の温度等が格納されている。
【0025】
本実施例では、前記カメラ11によって前記溶融プール3及び該溶融プール3を含む周囲を撮像し、撮像して得られた画像データに基づき、相変化が起きている部位を測定する。
【0026】
以下、第1の実施例を説明する。
【0027】
物質の温度に起因する放射率は、固体と液体とで異なり、液体が凝固すると温度が低下しているにも拘らず、光強度が増加する。従って、画像上、温度が低下している部位で光強度が増大している点を検出すれば、相変化を生じている部位であることを検出できる。
【0028】
前記カメラ11では所定時間間隔で静止画像が撮像され、或は連続画像が撮像され、撮像された画像は、前記画像処理部17を経て前記演算処理部15に入力され、或は該演算処理部15を経て前記記憶部16に格納される。
【0029】
図2(A)は、前記カメラ11で撮像した測定対象物2の画像19であり、画像処理の為に前記記憶部16から呼込まれる。尚、図2(A)中、21は母材(即ち固体部)、22は溶融したプール(即ち液体部)を示している。前記演算処理部15は、前記記憶部16に格納したプログラムにより以下の処理を行う。
【0030】
前記画像19上で、前記プール22を横断する光強度検出ラインA−A′を設定し、画像デ−タから該光強度検出ラインA−A′にある画素の出力信号を抽出する。更に、画素の出力信号と、画素の番地とから前記光強度検出ラインA−A′に沿った光強度曲線を作成する。
【0031】
得られた光強度曲線は、液相と固相の境界部を横断しているので、固相となった部位で光強度が増大する。又、液相部及び固相部ではそれぞれ温度の低下に対応して光強度は低下する。
【0032】
図2(B)は、光強度曲線23を示しており、Xの範囲は前記プール22の表面での光強度であり、液体の温度に対応し、中央(点O)が光強度が最大であり、周辺に向って温度が低下し、光強度も低下する。
【0033】
更に、前記光強度曲線23上、点Pで光強度が減少から増加に反転しているが、温度が周辺に向って上昇することはないので、表面での放射率が変化していると判断できる。
【0034】
即ち、点Pで液相から固相に相変化していることを示している。換言すると、液相から固相に相変化する点Pが光強度の極小値を示すことになる。
【0035】
Yの範囲は、液相から固相に変化している範囲であり、温度は変化していないにも拘らず、光強度が増加する。更に、点Qで2番目の極大値となるが、固相に完全に変化したと考えられる。点Qを超えると(Zの範囲)、完全に固体となるので、放射率は温度に対応し、温度の低下と共に光強度は減少する。
【0036】
而して、前記プール22、即ち液体部を横断する光強度検出ラインA−A′を設定し、該光強度検出ラインA−A′に沿った光強度曲線を取得し、該光強度検出ラインA−A′に於ける光強度の極小値の点Pを求めれば、点Pは液相から固相への変化点であることが測定できる。
【0037】
次に、融点の温度(液体から固体に相変化する温度)は物質に固有であるので、測定対象物2の融点温度を予め測定しておき、前記記憶部16に格納しておけば、前記点Pの位置の温度が、融点温度であることが直ちに測定できる。
【0038】
得られた、点Pの温度は、温度測定で得られた計測温度の校正に利用できる。
【0039】
例えば、2色測温法により測定した温度を実際の温度に換算する為の、基準値として利用できる。
【0040】
次に、連続画像の各フレーム毎に、或は所定時間間隔で取得した静止画像毎に、前記光強度曲線23を算出し、前記点Pの位置の変化を時系列で観察することで、或は前記点Pの位置の経時的な変化量を時間で除することで、凝固点の移動速度、即ち凝固速度が測定できる。尚、前記静止画像の時間間隔は、測定対象物2の状態変化、例えば凝固速度、或は溶接の速度等に追従できる時間間隔が設定される。
【0041】
更に、前記光強度検出ラインA−A′を1本ではなく、例えば30゜間隔で設定することで、前記プール22の輪郭に沿った凝固点を検出でき、凝固ラインとして2次元での移動速度を測定できる。
【0042】
尚、溶融した金属が凝固する場合の、凝固速度は金属の性質、機械性能に影響を及すことが知られており、溶接時の溶融プール3の凝固速度を測定することで最適な溶接条件を設定できる。
【0043】
又、上記実施例では、画像を一旦、前記記憶部16に格納し、適宜該記憶部16から読込んで画像処理したが、前記カメラ11で取得した画像を前記画像処理部17で直ちに処理して前記光強度曲線23を求め、凝固点、或は凝固ラインをリアルタイムで測定する様にしてもよい。
【0044】
更に、上記実施例では、測定対象物2の表面の光強度に基づき凝固点を測定したが、第2の実施例として、液部が固化する場合の振動を検出して、凝固点或は凝固ラインを検出することができる。
【0045】
特に、MIG溶接等フィラーメタルを供給する溶接方法では、溶融プール3表面の振動が顕著であり、表面の振動を画像上から検出する。
【0046】
第2の実施例に於ける構成は、図1に示した第1の実施例と同様である。以下は、図1を参照して説明する。
【0047】
カメラ11から得られる画像データを動画像であれば1フレーム画像毎に、静止画像であれば1画像毎に、全ての画素について変化量を検出し、画像全体での変化量の分布を求めることで、振動している部位と静止している部位の境界を求めることができる。尚、1画素について得られる変化としては、明度、輝度が得られる。
【0048】
或は、予め閾値を設定しておき、閾値より少ない変位では静止、閾値より大きい変位では振動と判断して静止と振動の境界を求めてもよい。或は、変位を各画素ではなく、所定画素数毎、例えば10×10画素を一単位として、単位毎に変化量を求めて振動の有無を検出してもよい。
【0049】
上記した様に、本発明では液相から固相に変化する際の凝固点、凝固ラインを検出でき、更に凝固速度を測定できるが、測定された凝固速度に基づき凝固速度の制御を行ってもよい。
【0050】
例えば、鋳型に湯を注入し、凝固させる場合に、鋳型の形状により速く凝固する部分と遅く凝固する部分が生じる。凝固速度が速い部分と遅い部分が混在すると品質の不均一が生じる可能性があり、例えば第1の実施例を用いて、凝固ラインを検出し、凝固速度を測定することで、凝固速度の速い部分については加熱を行い、凝固速度を遅らせる等し、凝固速度を全体で均一化することができる。
【0051】
又本発明を2色測温法により測定した温度を実際の温度に換算する為の、基準値となる真の温度を測定する方法、及び2色測温法により測定した温度を実際の温度に校正する方法として実施することができる。
【0052】
2色測温法では、測定対象物2について波長の異なる光線で2種類の画像を取得するが、取得したいずれか一方の画像に基づき、本発明を実施して液相、固相の境界を検出し、測定対象物2の融点温度に基づき境界の温度を特定し、特定した温度を基準温度として2色測温法で得られた温度を校正することができる。
【0053】
2色測温法に本発明を実施した場合は、基準温度を測定する為の温度検出器を別途設けることなく、基準温度が簡便に測定でき装置コストの低減、測定作業の簡易化が図れる。
【0054】
尚、2色測温法にて2波長で得られた画像それぞれについて、液相、固相の境界を検出し、得られた2つの検出結果を平均化する等して測定精度を向上させてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 相変化検出装置
2 測定対象物
3 溶融プール
11 カメラ
12 撮像素子
13 制御演算装置
14 表示装置
15 演算処理部
16 記憶部
17 画像処理部
18 操作部
19 画像
21 母材
22 プール
23 光強度曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融液部を有する測定対象物を撮像し、画像データを出力可能なカメラと、制御演算装置とを具備し、前記カメラは画素の集合体である撮像素子を有し、前記画像データは前記画素の出力によって構成され、前記制御演算装置は前記画像データに基づき液相部と固相部の境界を検出することを特徴とする相変化検出装置。
【請求項2】
前記制御演算装置は、測定対象物の融点温度データを有し、該融点温度データに基づき前記境界の温度を測定する請求項1の相変化検出装置。
【請求項3】
前記制御演算装置は、画像上で溶融液部を横断する光強度検出ラインを設定し、該光強度検出ラインに沿った前記画素からの出力に基づき光強度曲線を作成し、該光強度曲線で得られる光強度極小値を示す位置を液相部と固相部の境界と判断する請求項1又は請求項2の相変化検出装置。
【請求項4】
前記制御演算装置は、画像上で溶融液部を横断する光強度検出ラインを複数設定し、液相部と固相部の境界線を求める請求項1又は請求項2又は請求項3の相変化検出装置。
【請求項5】
前記制御演算装置は、画像全体の画素について変化量を検出し、画像全体での変化量の分布を求めることで、振動している部位と静止している部位とを判断し、振動している部位と静止している部位の境界を液相部と固相部の境界と判断する請求項1又は請求項2の相変化検出装置。
【請求項6】
前記制御演算装置は、時系列に複数の画像からそれぞれ液相部と固相部の境界を求め、該境界の経時的な変化に基づき溶融液部の凝固速度を演算する請求項1〜請求項5のいずれかの相変化検出装置。
【請求項7】
画像データを出力可能なカメラにより溶接部を撮像する工程と、前記カメラにより出力される画像データに基づき画像中の液相部と固相部の境界を検出する工程と、母材の融点温度に基づき前記境界の温度を特定する工程とを有することを特徴とする温度測定方法。
【請求項8】
2色測温法に於いて、請求項7の温度測定方法に基づき基準温度を測定し、該基準温度に基づき2色測温法で得られた測温結果を校正することを特徴とする測定温度校正方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−64633(P2013−64633A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203166(P2011−203166)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】