説明

溶融物の急冷装置及び急冷方法

【課題】溶融物の保有する熱を有効利用することができ、急冷後、急冷物を自動的に破砕することができ、急冷に伴う水処理も不要な溶融物の急冷装置等を提供する。
【解決手段】一端3aが閉塞し、他端が開放された管路3と、管路3の閉塞端部に挿入されたノズル4とを備え、閉塞端部に溶融物Mを供給するとともに、ノズル4から水Wを溶融物Mに噴射し、溶融物Mを冷却しながら、水Wが気化して膨張することにより生ずる水蒸気Sの流れにより溶融物Mを開放端部側に移動させるとともに、該水の蒸発による爆裂で急冷物Pを破砕する溶融物の急冷装置1等。水Wの気化により生じた水蒸気Sを回収する水蒸気回収装置8を備えることができ、水蒸気Sを溶融物Mを得るための原料の乾燥又は/及び予熱に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉で生成した廃棄物等の溶融物を急冷、破砕して溶融スラグ等を製造する溶融物の急冷装置及び急冷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ごみ等の廃棄物は、焼却炉において、ダイオキシン類を分解可能な800〜1200℃の高温下で焼却処理し、焼却処理の過程で発生した溶融スラグを水中に投下するなどして急冷して水砕スラグとし、その一部を路盤材等として利用しているが、大部分は、最終処分場で埋め立て処分されている。しかし、埋め立て用の最終処分場の確保が年々困難になってきていることから、上記焼却処理によって発生する溶融スラグの利用の拡大が求められている。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、廃棄物を焼却溶融炉で高温処理した後、この過程で得られた高温度処理物を急冷し、得られた急冷粉砕スラグを、金属アルミニウム成分の含有の有無に応じ、これを適宜除去して微粉砕して得られた微粉末に、セメント粉を混合してセメント代替物とする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−30980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のセメント代替物の製造方法では、溶融物を水槽に没入させて急冷しているため、溶融物が保有していた熱は水没によりすべて失われ、有効利用することができないという問題があった。
【0006】
また、溶融物の急冷に使用した後水槽に残留する水には、廃棄物に含まれていた鉛、ホウ素等の有害物質が混入して徐々に濃度が高くなるため、適宜水処理設備に送水して処理する必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、溶融物の保有する熱を有効利用することができるとともに、急冷後、急冷物を自動的に破砕することができ、急冷に伴う水処理も不要な溶融物の急冷装置及び急冷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、溶融物の急冷装置であって、一端が閉塞し、他端が開放された管路と、該管路の閉塞端部に挿入されたノズルとを備え、前記閉塞端部に溶融物を供給するとともに、前記ノズルから水を該溶融物に噴射し、該溶融物を冷却しながら、該水が気化して膨張することにより生ずる水蒸気流により該溶融物を前記開放端部側に移動させるとともに、該水の蒸発による爆裂で急冷物を破砕することを特徴とする。
【0009】
そして、本発明によれば、溶融物を水で冷却しながら、水の蒸発による爆裂で急冷物を破砕するため、溶融物の急冷と急冷物の破砕を一つの装置を用いて略々同時に行うことができ、簡単な装置構成で急冷物の破砕物を得ることができ、装置の運転操作も容易である。また、この際、従来のように溶融物を水槽に没入させないため、有害物質を含む残留水が発生せず、水処理設備が不要となる。
【0010】
上記溶融物の急冷装置は、前記水の気化により生じた水蒸気を回収する水蒸気回収装置を備えることができる。これにより、該水蒸気を前記溶融物を得るための原料の乾燥、予熱等に用いることができ、溶融物の保有する熱を有効利用することができる。
【0011】
また、本発明は、溶融物の急冷方法であって、溶融物に水を噴射し、該溶融物を冷却しながら、該水が気化して膨張することにより生ずる水蒸気流により該溶融物を移動させるとともに、該水の蒸発による爆裂で急冷物を破砕することを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、溶融物の急冷と急冷物の破砕を略々同時に行うことができ、有害物質を含む残留水が発生せず、水処理が不要となる。この溶融物の急冷方法を用い、例えば、溶融スラグ、セメントクリンカ、吹付コンクリートの急結材用鉱物、ガラス質の組成物等を得ることができる。
【0012】
前記水の気化により発生した水蒸気を、前記溶融物を得るための原料の乾燥又は/及び予熱に用いることができ、より効率よく溶融物を製造し、急冷破砕することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、溶融物の保有する熱を有効利用することができ、急冷後、急冷物を自動的に破砕することができ、急冷に伴う水処理も不要な溶融物の急冷装置及び急冷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる溶融物の急冷装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明においては、本発明にかかる溶融物の急冷装置等を用いて廃棄物から溶融スラグを製造する場合を例にとって説明する。
【0016】
図1は、本発明にかかる溶融物の急冷装置(以下、「急冷装置」という)の一実施の形態を示し、この急冷装置1は、大別して、略々円筒状の管路3と、管路3の右端部に挿入され、水Wを噴出するノズル4と、管路3を水冷する冷却部5と、管路3の左端部側に設けられた排出部6とで構成される。
【0017】
管路3は、鋼管等で全体的に略々円筒状に形成され、閉じられた右端部3aに、溶融物Mの供給部3bと、ノズル4とが配置される。尚、右端部3aに絞り部3cを形成したのは、生成する水蒸気Sの流速を上げ、急冷された溶融物Mでも吹き飛ばし易くするためである。管路3の左端は開放され、急冷された溶融物Mが、水Wが気化して生成した水蒸気(過熱蒸気を含む)Sとともに排出されるように構成される。管路3内は高温となるため、内壁には耐火物が施工され、外側は冷却部5によって冷却される。
【0018】
ノズル4は、管路3に供給された溶融物Mに直接水Wを噴射するために設けられ、先端部が左方を向くように、管路3の右端部に挿入される。ノズル4の先端には、水Wを噴射するためのチップが装着される。
【0019】
冷却部5は、管路3を水冷するため、管路3の外壁の略々全体を囲繞するように配置され、冷却水Cの入口部5aと、出口部5bを備え、内部を冷却水Cが流れる。
【0020】
排出部6は、管路3の開放左端部を収容する部屋状空間を形成するように設けられ、管路3に対向する壁面に衝突板6aが固定され、天井部に水蒸気S等の排出部6bと、ホッパ状の下部本体の最下部に、破砕された急冷物Pの排出部6cが設けられる。この排出部6cには、二重フラップダンパや、ロータリーフィーダ等シール性のよいダンパが設けられる。尚、壁面に衝突板6aを設けずに、壁面そのものを衝突面とすることも可能である。
【0021】
次に、上記構成を有する急冷装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0022】
溶融炉2で廃棄物を溶融させ、溶融物Mを溶融炉2から直接供給部3bに供給し、ノズル4から水Wを溶融物Mに噴射する。すると、溶融物Mは、ノズル4から噴射された水Wによって急冷されるとともに、管路3に噴射された水Wは、気化して膨張し、水蒸気Sとなる。ここで、管路3の右端部3a側は閉じているため、水Wが気化して膨張することにより生じた水蒸気Sが管路3内で左方向に高速で移動し、この水蒸気流によって冷却された溶融物Mは、左方に高速で移動する。また、これと同時に、急冷物Pが水の蒸発による爆裂で破砕され、破砕された急冷物Pは、衝突板6aに衝突した後、排出部6cから排出される。一方、水蒸気Sは、排出部6bから排出され、水蒸気回収装置8で回収され、廃棄物から上記溶融物Mを得る際の廃棄物の乾燥、予熱等に利用することができる。
【0023】
以上のように、本実施の形態によれば、溶融物Mを水Wで冷却した際に発生した水蒸気Sの流れによって溶融物M及び急冷物Pを高速で移動させるとともに、急冷物Pを水の蒸発による爆裂で破砕するため、溶融物Mの急冷と急冷物Pの破砕を一つの装置を用いて略々同時に行うことができ、簡単な装置構成で急冷物Pの破砕物を得ることができ、装置の運転操作も容易である。
【0024】
また、本実施の形態によれば、従来のように溶融物を水槽に没入させて急冷していないため、有害物質を含む残留水が発生せず、水処理設備が不要となる。尚、廃棄物に鉛、ホウ素等の有害物質が混入している場合でも、本実施の形態によれば、これらの有害物質は、急冷物Pに含有された状態で排出されるか、水蒸気Sとともに水蒸気回収装置8に搬送されるが、いずれの場合でも濃縮することがないため問題とはならない。
【0025】
さらに、本実施の形態によれば、溶融物Mの保有していた熱を、水蒸気Sの回収によって有効利用することができ、水蒸気回収装置8で回収した水蒸気は、上述のように廃棄物から溶融物Mを得る際の廃棄物の乾燥、予熱等に留まらず、他の工程で利用してもよいことは勿論である。
【0026】
尚、本実施の形態では、廃棄物を溶融炉で溶融させて溶融スラグを製造する場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、所要の原料を用いて溶融物を得た後、セメントクリンカ、吹付コンクリートの急結材用鉱物、ガラス化組成物等の水硬性物質を得る際、又は水硬性物質以外の物質を得る際に本発明を適用することができる。
【0027】
また、図1に示した急冷装置を2段に配置し、溶融物の冷却速度を低く抑えたり、1段の急冷装置での溶融物の急冷が不十分な場合等に対応することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 急冷装置
2 溶融炉
3 管路
3a 右端部
3b 供給部
3c 絞り部
4 ノズル
5 冷却部
5a 入口部
5b 出口部
6 排出部
6a 衝突板
6b 水蒸気排出部
6c 急冷物排出部
8 水蒸気回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が閉塞し、他端が開放された管路と、
該管路の閉塞端部に挿入されたノズルとを備え、
前記閉塞端部に溶融物を供給するとともに、前記ノズルから水を該溶融物に噴射し、該溶融物を冷却しながら、該水が気化して膨張することにより生ずる水蒸気流により該溶融物を前記開放端部側に移動させるとともに、該水の蒸発による爆裂で急冷物を破砕することを特徴とする溶融物の急冷装置。
【請求項2】
前記水の気化により生じた水蒸気を回収する水蒸気回収装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の溶融物の急冷装置。
【請求項3】
溶融物に水を噴射し、該溶融物を冷却しながら、該水が気化して膨張することにより生ずる水蒸気流により該溶融物を移動させるとともに、該水の蒸発による爆裂で急冷物を破砕することを特徴とする溶融物の急冷方法。
【請求項4】
前記水の気化により発生した水蒸気を、前記溶融物を得るための原料の乾燥又は/及び予熱に用いることを特徴とする請求項3に記載の溶融物の急冷方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−216740(P2010−216740A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65421(P2009−65421)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】