説明

溶融金属の回収方法

【課題】主として含クロム冷鉄源中のケイ素を用いて、含クロムスラグから金属クロムを回収する溶融金属の回収方法において、還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御することにより、含クロムスラグの還元を過不足なく行い、安定した操業の下で、金属クロムを十分に回収するとともに、後工程である脱炭工程での酸素効率やメタル歩留まりを向上させる。
【解決手段】含クロム冷鉄源と、含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの量の90質量%以下の量の含クロムスラグを溶解炉に投入し、含クロム冷鉄源および含クロムスラグが完全に溶融した後に溶融金属中に含まれるケイ素量を測定し、測定された量のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの量を、溶解炉に追加で投入する前記含クロムスラグの量として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の回収方法に関し、特に、主として含クロム冷鉄源中のケイ素により、含クロムスラグから金属クロムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多量のスラグを還元して金属クロムを回収することが行われている。例えば、転炉等において発生したスラグを、合金鉄やスクラップ等の冷鉄源とともにスラグを電気炉に装入して加熱し、溶融金属中の炭素やケイ素により、スラグ中の酸化クロム(Cr)を還元して金属クロムを回収する。回収された金属クロムは、例えばステンレス鋼の原料等として使用される。
【0003】
このような金属クロムの回収方法として、例えば、ステンレス鋼の製造を主とした精錬プロセスから排出される酸化クロムを含有したスラグから金属クロムを回収する方法において、精錬プロセスから排出されるスラグが還元されない状態で、電気炉に装入し還元する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、例えば、製鋼工程において発生した転炉スラグを、溶融状態のまま電気炉に装入して、スラグ中の金属を回収する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−502504号公報
【特許文献2】特開昭51−28502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載された方法では、還元剤となる炭素やケイ素と還元されるスラグの量的関係や、還元剤量と還元されるスラグ量のバランスの制御については検討されていない。このように、還元剤となる炭素やケイ素の量と還元されるスラグの量のバランスが適正でないと、以下のような問題があった。すなわち、還元剤量が過剰の場合には、後工程である脱炭工程で酸素効率が低下したり、メタル歩留まりが低下する、という問題があった。一方、還元されるスラグ量が過剰の場合には、十分にクロムの還元や回収ができなかったり、スラグの流動性が悪化して炉から排滓できない、という問題があった。また、流動性が確保できた場合でも、COガスが発生してスラグフォーミングが起こり、安定した操業ができない場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、主として含クロム冷鉄源中のケイ素を用いて、含クロムスラグから金属クロムを回収する溶融金属の回収方法において、還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御することにより、含クロムスラグの還元を過不足なく行い、安定した操業の下で、金属クロムを十分に回収するとともに、後工程である脱炭工程での酸素効率やメタル歩留まりを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によれば、含クロムスラグを溶解炉内で還元して金属クロムを回収する溶融金属の回収方法において、含クロム冷鉄源と、前記含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む前記含クロムスラグの量の90質量%以下の量の前記含クロムスラグを前記溶解炉に投入し、前記含クロム冷鉄源および前記含クロムスラグが完全に溶融した後に溶融金属中に含まれるケイ素量を測定し、測定された量のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む前記含クロムスラグの量を、前記溶解炉に追加で投入する前記含クロムスラグの量として決定し、決定された量の前記含クロムスラグを前記溶解炉に追加で投入する、溶融金属の回収方法が提供される。
【0008】
このように、スラグの添加量を冷鉄源中のケイ素量に対して不足した状態で投入した後に、溶融金属中のケイ素量を分析し、この分析結果に基づいてスラグの追加投入量を決定することにより、還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御することができる。
【0009】
ここで、前記含クロム冷鉄源と前記含クロムスラグを前記溶解炉に投入する際に、前記含クロム冷鉄源のみを前記溶解炉に投入した後に、前記含クロム冷鉄源の少なくとも一部が溶融した状態で、前記含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む前記含クロムスラグの90質量%以下の量の前記含クロムスラグを前記溶解炉に投入することが好ましい。
【0010】
また、前記溶融金属の回収方法において、前記溶解炉に初めに投入する前記含クロムスラグを、前記溶解炉の炉上から連続的または断続的に投入することが好ましい。
【0011】
また、前記溶融金属の回収方法において、追加で投入する前記含クロムスラグを、前記溶融金属を前記溶解炉から出湯している容器中に投入してもよい。
【0012】
また、前記溶融金属の回収方法において、追加で投入する前記含クロムスラグの一部または全部に代えて、クロム鉱石、鉄鉱石および含クロムスケールのうちの1種以上を投入してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、主として含クロム冷鉄源中のケイ素を用いて、含クロムスラグから金属クロムを回収する溶融金属の回収方法において、還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御することができ、これにより、含クロムスラグの還元を過不足なく行い、安定した操業の下で、金属クロムを十分に回収するとともに、後工程である脱炭工程での酸素効率やメタル歩留まりを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶融金属の回収方法の操業の流れを示すフローチャートである。
【図2】同実施形態に係る溶融金属の回収方法の操業状況を示す説明図である。
【図3】溶融金属を溶解炉から取鍋に出湯している際に含クロムスラグを追加投入している状態を示す説明図である。
【図4】比較例1における溶融金属の回収方法の操業状況を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例における出湯後のスラグ中のCr濃度と溶湯中のSi濃度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例及び比較例における出湯後のCr濃度(質量%)とスラグの初期投入割合(質量%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
[還元剤量とスラグ量のバランス制御方法についての検討]
まず、本発明に係る溶融金属回収方法の好適な実施の形態について説明する前に、酸化クロムを含むスラグ(以下、「含クロムスラグ」という。)を還元して金属クロムを回収する方法において、還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御する方法について、本発明者らが検討した結果について説明する。
【0017】
(鉄源中のケイ素量に基づいて含クロムスラグの全投入量を決定する方式について)
還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御する方法として、本発明者らは、クロムを含む冷鉄源(以下、「含クロム冷鉄源」という。)中のケイ素量に基づいて含クロムスラグの全投入量を決定する方式について検討した。まず、溶解炉に投入する冷鉄源に含まれるケイ素量に基づいて、当該ケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグを全て一度に溶解炉に投入する方式の適否を確認した。その結果、以下のことが判明した。
【0018】
<反応物の量バランスが適正でない場合の問題について>
含クロム冷鉄源中のケイ素による含クロムスラグ中の酸化クロムの還元反応は、下記反応式Aのように行われる。
3Si+2Cr → 4Cr+3SiO ・・・(反応式A)
なお、この反応の際には、塩基度(CaO/SiOの質量比)は、1.2〜1.7の範囲内とすることが好適である。これは、塩基度が1.2未満の場合、上記反応式Aの反応が充分行われにくく、酸化クロムの充分な還元が実施されにくくなるためである。また、塩基度が1.7を超えると、添加する生石灰量が増え、コストが悪化するとともにスラグの溶融状態を保ちにくくなり反応が阻害され易くなるためである。
【0019】
ここで、含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの全量を一度に投入するとき、何らかの原因で、反応物量(すなわち、還元剤となるケイ素量と還元される酸化クロム量)のバランスが適正でない場合には、以下のような問題が生じる。
【0020】
まず、ケイ素量が酸化クロム量に対して過剰の場合、すなわち、ケイ素のモル濃度を[Si]、酸化クロムのモル濃度を[Cr]としたときに、[Si]>(2/3)[Cr]の場合には、還元反応後のケイ素濃度が高く、後工程である脱炭工程で、余分なケイ素の酸化に使用される酸素量が増えるため、酸素効率が低下する。また、還元反応後のケイ素濃度が高いと、後工程である脱炭工程におけるスラグ(SiOと塩基度調整のために添加するCaO)量が増加するため、メタル歩留まりが低下する。
【0021】
一方、ケイ素量が酸化クロム量に対して不足している場合、すなわち、[Si]<(2/3)[Cr]の場合には、還元される酸化クロム量が多く、還元剤となるケイ素量が不足しているため、酸化クロムの還元反応が十分に進まず、十分な量の金属クロムの回収ができない。また、反応後の酸化クロム濃度が高くなるため、スラグの流動性が悪く、還元反応を行う炉からの排滓が困難となる場合がある。さらに、反応後に残存している酸化クロム濃度が比較的低く、スラグの流動性を確保できた場合であっても、スラグ中に多く残存している酸化クロムと溶融金属中の炭素が反応してCOガスが発生し、スラグフォーミングが起こってしまう場合があり、安定した操業を行うことができない。
【0022】
<反応物の量バランスにバラツキが出る理由について>
また、本発明者らの検討の結果、含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの全量を一度に投入する場合には、以下の要因で、反応物であるケイ素と酸化クロムの量バランスにバラツキが出るため、適正になりにくいということが判明した。
【0023】
この要因としては、ケイ素量がバラつく場合と酸化クロム量がバラつく場合とがあり得るが、ケイ素量がバラつく場合としては、含クロム冷鉄源として主に用いられる鉄スクラップの種類(鉄スクラップ中の元素の組成比)が雑多であるため、当該鉄スクラップのケイ素含有量を正確に把握することができない、という要因がある。この場合は、投入する含クロム冷鉄源量を決定する際に、ケイ素量にバラツキが出る。また、冷鉄源を溶解炉中で溶解させる途中で、外部から進入する空気、スクラップカッティング用の酸素、補助バーナ中の酸素等により、含クロム鉄源中のケイ素が酸化するため、酸化クロムの還元反応に使用されるケイ素量が減少してしまう、という要因もある。この場合、酸化されるケイ素量は、含クロム冷鉄源の溶解条件によって変動するため、ケイ素量にバラツキが出る。一方、酸化クロム量がバラつく場合としては、含クロムスラグは融点が高いため、溶融させたときに均一融体とはなっていない、という要因がある。そのため、含クロムスラグ中の酸化クロム成分分析値は代表性に乏しく、酸化クロム量のバラツキが大きくなる。
【0024】
以上のように、含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの全量を一度に投入すると、反応物であるケイ素と酸化クロムの量バランスにバラツキが出やすい。従って、含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの全量を一度に投入する方式は、適当でないことが判明した。
【0025】
[本発明の一実施形態に係る溶融金属の回収方法について]
そこで、本発明者らは、さらに検討を進めた結果、含クロムスラグの添加量を含クロム冷鉄源中のケイ素量と反応する当量分に対して不足した状態で投入した後に、溶融金属中のケイ素量を分析し、この分析結果に基づいて、溶融金属中のケイ素量と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの量を追加投入量として決定することにより、還元剤となるケイ素の量と還元されるスラグの量を適正なバランスに制御することができる、ということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明に係る溶融金属の回収方法は、含クロムスラグを溶解炉内で還元して金属クロムを回収する方法において、以下の(1)〜(3)の手順を含むものである。
(1) 含クロム冷鉄源と、この含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの量の90質量%以下の量の含クロムスラグを、溶解炉に投入する。
(2) 含クロム冷鉄源および含クロムスラグが完全に溶融した後に溶融金属中に含まれるケイ素量を測定する。
(3) 測定された量のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグの量を、溶解炉に追加で投入する含クロムスラグの量として決定する。
(4) (3)で決定された量の含クロムスラグを溶解炉に追加で投入する。
【0027】
ここで、本発明において、投入予定量の含クロムスラグを一度に全て投入せずに、還元される酸化クロム量がケイ素量と反応する当量分に対して不足している状態で溶融させた後に、溶融金属中のケイ素量を測定し、この測定結果に基づいて追加で投入する含クロムスラグの量を決定することとしているのは、以下の理由による。
【0028】
すなわち、含クロムスラグを投入予定量の全量一度に溶解炉に投入した場合、含クロム冷鉄源に含有されているケイ素量が、含クロム冷鉄源として使用した鉄スクラップ等の種類や溶解途中のケイ素の酸化などにより、含クロムスラグ中に含まれる酸化クロムと当量反応する量よりも少なくなるケースが発生することがある。そのようなケースでは、溶融金属中のケイ素が全て酸化クロムの還元反応に使用されてしまっているため、溶融スラグ中の酸化クロム量を分析して、追加で投入するケイ素源(本実施形態では、含クロム冷鉄源)の量を計算することが原理的には可能である。しかし、現実的には、スラグの組成分析は、一旦溶融状態のスラグを採取してから、当該スラグを固化させた後に粉砕してから分析にかけるなど、ハンドリングや分析操作が煩雑で時間もかかるため、スラグの還元反応の操業中に分析を行うことは非常に困難である。一方、溶融金属の組成分析については、後述する方法により容易に行うことができる。
【0029】
そこで、還元される酸化クロムの量が還元剤となるケイ素の量に対して必ず不足する状態となる量の含クロムスラグを初めに溶解炉に投入し、投入した含クロムスラグ及び溶解炉内の含クロム冷鉄源を完全に溶融させることにより、溶融金属中のケイ素量を分析可能な状態とすることができる。これにより、溶融金属中のケイ素量の分析結果に基づいて、追加で投入する含クロムスラグの量を計算することが可能となる。このように、ケイ素量が酸化クロム量に対して必ず過剰となる状態で含クロムスラグ及び含クロム冷鉄源を溶融させることにより、酸化クロムの還元反応後に溶融金属中にケイ素が必ず残存する状態となる。従って、このケイ素の量を測定し、測定されたケイ素量に基づいて追加で投入する含クロムスラグの量を決定することにより、還元される酸化クロムと還元剤となるケイ素の量バランスを適正な状態とすることができる。
【0030】
以下、図1及び図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係る溶融金属の回収方法について詳細に説明する。なお、図1は、本実施形態に係る溶融金属の回収方法の操業の流れを示すフローチャートであり、図2は、本実施形態に係る溶融金属の回収方法の操業状況を示す説明図である。
【0031】
(手順(1)について)
本実施形態に係る溶融金属の回収方法では、まず、含クロム冷鉄源Msと、該含クロム冷鉄源Msの組成分析値を基に、該含クロム冷鉄源Ms中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む含クロムスラグSsの量(以下、「投入予定量」という。)の90質量%以下、好ましくは80質量%以下の量の該含クロムスラグSsを溶解炉1に投入する。このときの投入方法としては、含クロム冷鉄源Msと含クロムスラグSsを一括で投入する方法(図1のS103)と、含クロム冷鉄源Msと含クロムスラグSsを分割して投入する方法(図1のS105〜S115)とがある。なお、含クロム冷鉄源Msとしては、例えば、鉄スクラップや合金鉄等を用いることができる。
【0032】
一括で投入する方法は、含クロム冷鉄源Msと含クロムスラグSsをスクラップバケット等により投入(S103)した後に加熱(通電)を開始するものである。この方法は、加熱(通電)途中での含クロムスラグSsの投入がないため操業が簡便であり、含クロムスラグSsの炉上投入設備がない場合でも実施できる、という利点がある。
【0033】
一方、分割して投入する方法を図1及び図2を用いて詳細に説明する。まず、図2の(a1)に示すように、含クロム冷鉄源Msのみを溶解炉1に投入する(図1のS105)。すなわち、この時点では、含クロムスラグSsは溶解炉1に投入されておらず、装入弁3が閉じた原料装入ホッパー2内に保持されている。次いで、溶解炉1の電極4への通電を開始し、溶解炉1に投入された含クロム冷鉄源Msを溶融させる(図1のS107)。
【0034】
そして、図2の(a2)に示すように、含クロム冷鉄源Msの少なくとも一部が溶融した状態、すなわち、溶融金属Mm中に固体状の含クロム冷鉄源Msの一部が溶け残っている状態で装入弁3を開放し、予め計算された投入予定量の90質量%以下、好ましくは80質量%以下の量の含クロムスラグSsを溶解炉1に投入する(図1のS109)。
【0035】
後者の分割して投入する方法は、含クロム冷鉄源Msの少なくとも一部が溶融したメタル浴に含クロムスラグSsを投入するので、一括で投入する場合に比べて、スラグをより効率的に溶解できるという利点がある。ただし、含クロムスラグSsの炉上投入設備が無い場合は、加熱を途中で中断して、バケット等にて該含クロムスラグSsを投入することになるため、操業の煩雑さ、投入時の漏煙等が一括で投入する方法と比べて問題となる場合がある。従って、使用する設備構成に応じて、一括で投入する方法、または分割して投入する方法のいずれかを選択することが望ましい。
【0036】
ここで、溶解炉1に初めに投入する含クロムスラグSsの量(以下、「含クロムスラグSsの初期投入量」という。)を投入予定量の90質量%以下、好ましくは80質量%以下としたのは、以下のような理由である。すなわち、後述する実施例で説明するように、初期投入量を投入予定量の100質量%とした場合(すなわち、投入予定量の全量の含クロムスラグSsを一度に投入した場合)には、前述の通り、出湯後のスラグ中の酸化クロム濃度のバラツキが大きいのに対し、初期投入量を投入予定量の90質量%とした場合には、出湯後のスラグ中の酸化クロム濃度が低位に安定したものとなるためである。また、初期投入量を投入予定量の80質量%以下とした場合には、出湯後のスラグ中の酸化クロム濃度は、90質量%の場合よりも更に低位に安定化するため、含クロムスラグSsの初期投入量を投入予定量の80質量%以下とすると、より確実に出湯後のスラグ中の酸化クロム濃度が低位に安定したものとすることができる。
【0037】
なお、含クロムスラグSsの初期投入量を投入予定量の70質量%以下としても、出湯後のスラグ中の酸化クロム濃度の低位安定化効果が飽和するが、含クロムスラグSsの初期投入量が少なすぎると、追加投入する含クロムスラグSsの量が増えるために、その中の酸化クロムの量のバラツキが大きくなり、反応物の適正な量バランスを保ちにくくなるとともに、後述のような、出湯している取鍋中への含クロムスラグSsの追加投入の形態を実施することが難しくなる。従って、下限は50%とすることが好ましい。
【0038】
また、含クロムスラグSsを投入する場合は、溶解炉1の炉上から連続的または断続的に投入することが好ましい。すなわち、初めに投入する含クロムスラグSsを含クロム冷鉄源Msと同時に溶解炉1の通電開始前に投入せずに、先に溶解炉1に投入した含クロム冷鉄源Msが所定量溶融している状態で、含クロムスラグSsを、溶解炉1の炉上から随時溶解させながら連続的または断続的に投入することが好ましい。これにより、投入した含クロムスラグSsが未溶解の状態で炉内周辺の湯面に凝集することを抑制できる。
【0039】
(手順(2)について)
次に、図2の(a3)に示すように、溶解炉1に投入した含クロム冷鉄源Ms及び含クロムスラグSsを完全に溶融させる(図1のS111)。そして、含クロム冷鉄源Ms及び含クロムスラグSsが完全に溶融した状態、すなわち、溶解炉1中に溶融金属Mm及び溶融スラグSsのみが存在する状態で、溶融金属Mm中に含まれるケイ素量を測定する(図1のS113)。このケイ素量の測定は、図2(a3)に示すように、柄杓5等を用いて溶融金属Mmをサンプリングし、そのサンプルに含まれるケイ素の含有率を例えば発光分光分析装置により測定し、その測定値から溶解炉1中の溶融金属Mm中に含まれるケイ素量を算出する。あるいは、溶解炉1中の溶融金属Mmの表面にレーザを照射し、その結果として溶融金属表面Mmから発光される励起光のピーク位置を解析するレーザ発光分光分析法等のオンラインレーザ分析などの非サンプリング方法によって、溶解炉1中の溶融金属Mm中に含まれるケイ素濃度を直接測定してもよい。
【0040】
(手順(3)について)
次に、上述したようにして測定された溶融金属Mm中のケイ素量に基づいて、溶解炉1に追加で投入する含クロムスラグSsの量を決定する。この追加で投入する含クロムスラグSsの量は、溶融金属Mm中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む量とすればよい。そして、このようにして決定した量の含クロムスラグSsを、図2の(a4)に示すように、溶解炉1に追加で投入する(図1のS115)。
【0041】
ここで、追加で溶解炉1に投入する含クロムスラグSsの投入方法としては、当該含クロムスラグSsを溶解炉1に投入する代わりに、溶融金属Mmを溶解炉1から出湯している取鍋などの溶融金属容器中に投入してもよい。この理由について、図3を参照しながら説明する。図3は、溶融金属を溶解炉から取鍋に出湯している際に含クロムスラグを追加投入している状態を示す説明図である。
【0042】
溶融金属Mmを溶解炉1から取鍋6に出湯している際は、取鍋6内の溶湯は激しく攪拌された状態である。この状態の取鍋6に、含クロムスラグSsを追加で投入すると、その強い攪拌力により短時間で溶融し、反応させることができる。ただし、追加投入時には加熱源がないため、初期に投入する含クロムスラグSs量を投入予定量の70質量%以上とすることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態に係る溶融金属の回収方法において、追加で投入する含クロムスラグSsの一部または全部に代えて、クロム鉱石、鉄鉱石および含クロムスケールのうちの1種以上を投入してもよい。クロム鉱石、含クロムスケールには酸化クロムが含まれるため、これらを酸化クロム源として代用することができる。一方、鉄鉱石には酸化クロムが含有されていないため、酸化クロム源として用いることはできないが、主成分である酸化鉄により、溶融金属中のケイ素量と反応する当量分の酸化鉄を追加投入することにより、従来技術の様な反応物の量バランスが適正でない場合の問題を解消することができる。
【0044】
以上のようにして追加の含クロムスラグSsを投入した後に、図2の(a5)に示すように含クロムスラグSsを溶融させて、本実施形態に係る溶融金属の回収方法が終了する。
【0045】
(作用効果について)
以上説明した本実施形態に係る溶融金属の回収方法によれば、還元される酸化クロムと還元剤となるケイ素の量バランスを適正な状態とすることができるので、酸化クロムの還元反応を反応物の過不足がない状態で行うことができ、十分な量の金属クロムを回収することができるようになる。
【0046】
また、本実施形態に係る溶融金属の回収方法によれば、還元される酸化クロムと還元剤となるケイ素の量バランスを適正な状態とすることができるので、酸化クロムの還元反応終了後に余剰のケイ素が存在することもほとんど無い。従って、後工程である脱炭工程においてケイ素の酸化に使用される酸素量が増えることもほとんど無いため、酸素効率が低下することを防止できる。また、ケイ素の酸化に伴うスラグ量の増加もほとんど無いため、メタル歩留まりの低下を抑制することもできる。
【0047】
また、酸化クロムの還元反応終了後に余剰の酸化クロムが存在することもほとんど無い。従って、酸化クロムの存在によるスラグの流動性の悪化も防止できる。さらに、スラグ中酸化クロムがほとんど残存していないことから、スラグ中の酸化クロムと溶融金属中の炭素が反応してCOガスが発生することも抑制でき、安定した操業を行うことができる。
【実施例】
【0048】
以上、本発明に係る溶融金属の回収方法の好適な実施形態について詳細に説明したが、続いて、本発明に係る溶融金属の回収方法について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。以下に説明する実施例及び比較例においては、含クロムスラグの投入方法を変えて、実機で電気炉においてスラグの還元反応を行い、出湯後のスラグの成分と溶融金属(溶湯)の成分分析及び操業状況の観察を行った。
【0049】
(実施例1)
本実施例では、上述した図2に示す溶解炉1と同様の構造を有する交流アーク式電気炉を溶解炉として用いてスラグの還元反応を行った。具体的には、フェロクロム51.5トン、ステンレス鋼スクラップ39トン(3種類のスクラップを、それぞれ、12トン、16トン、11トン)、酸化クロム(Cr)を30質量%及び酸化鉄(FeO)を6質量%含有するスラグ14.6トン、合計105.1トンを90トン容量の溶解炉に投入し、溶解(通電)を開始した。また、スラグの塩基度を調整するために、通電開始30分後から生石灰を約1トンずつ6回に分割して、約10分間隔で投入した。
【0050】
スラグの初期投入量14.6トンは以下のように決定した。
【0051】
<スラグの初期投入量の決定方法>
まず、フェロクロム及びステンレス鋼スクラップに含まれるケイ素(Si)量を、フェロクロム及びステンレス鋼スクラップの使用量とこれらのSi成分値から、以下のように計算した。Si成分値は、フェロクロム:4.3質量%、ステンレス鋼スクラップ(A):0.4質量%、ステンレス鋼スクラップ(B):0.4質量%、ステンレス鋼スクラップ(C):0.3質量%であった。
・フェロクロムに含まれるSi量
=51.5トン×(4.3質量%/100質量%)=2.215トン
・ステンレス鋼スクラップ(A)に含まれるSi量
=12トン×(0.4質量%/100質量%)=0.048トン
・ステンレス鋼スクラップ(B)に含まれるSi量
=16トン×(0.4質量%/100質量%)=0.064トン
・ステンレス鋼スクラップ(C)に含まれるSi量
=11トン×(0.3質量%/100質量%)=0.033トン
以上の計算の結果、フェロクロム及びステンレス鋼スクラップに含まれるSi量は、2.36トンであった。
【0052】
次に、冷鉄源(フェロクロム及びステンレス鋼スクラップ)の溶解中に外部からの空気により酸化されるSi量を、投入した冷鉄源90.5トンの0.5質量%、すなわち、0.45トンと設定した。なお、0.5質量%という値は、通常の電気炉によりフェロクロム及びステンレス鋼スクラップを溶解する際に、酸化される(酸化ロスする)Si分の一般的かつ経験的な値であるため、この値を用いた。
【0053】
さらに、スラグ中のCrの値を低位に経済的に安定化させるため、出湯メタル(溶融したフェロクロム及びステンレス鋼スクラップ)中のSi成分の目標濃度を0.4質量%程度にした。スラグ中のCr濃度と溶湯中のSi濃度との関係は、公知文献(例えば、鉄鋼便覧第III版、製銑・製鋼編、P.705)に記載されており、Si濃度によりCr濃度を制御することができる。具体的には、Si濃度を0.4質量%より大きな値にしても、スラグ中のCrの濃度の低下は顕著でなく、また、SiをCrの還元に有効利用できないので非合理的である。一方、Si濃度を0.4質量%より小さな値にすると、スラグ中のCr濃度が上昇し、クロム(Cr)の還元回収が不十分となる。以上から、出湯メタル中のSi成分の目標濃度を0.4質量%とした。出湯メタル量は、投入したメタル(冷鉄源)から、スラグの還元反応での増加やダストロスを考慮して決定されるものであるが、概算としては投入したメタル量を用いることができることを経験的に確認している。従って、出湯メタル(溶湯)中の残存Si量は、投入したメタル量90.5トンの0.4質量%相当、すなわち、0.36トンとなる。
【0054】
以上から、スラグ中のCr及びFeOの還元に使用できるSi量は、2.36トン−0.45トン−0.36トン=1.60トンとなる。なお、還元反応は下式で表され、反応終了後のCrの目標濃度は2質量%とし、FeOの目標濃度は1質量%としたが、目標濃度の値は、類似成分での小型ラボの溶解試験により、1650℃での溶湯中のSi濃度と、スラグ中のCr濃度と、FeO濃度との関係を予め調査し、その結果から、Si濃度0.4%のときに平衡する値とした。
2Cr + 3Si → 4Cr + 3SiO ・・・(反応式A)
(304) (84) (208) (180)
2FeO + Si → 2Fe + SiO ・・・(反応式B)
(136) (28) (112) (60)
※( )内の数字は各物質の式量を示す。
【0055】
スラグ投入予定量、すなわち、溶解炉に投入した冷鉄源に含まれるSi量と反応する当量分のCrを含むスラグ量をXトンとすると、SiとCrの量バランスより、下式(1)が成立し、X=18.3と算出された。そこで、スラグ投入予定量18.3トンのうちの80質量%、すなわち、14.6トンをスラグの初期投入量(X)とした。なお、上述したように、スラグ中のCr含有量は30質量%であり、FeO含有量は6質量%であった。
【0056】
【数1】

【0057】
通電開始から80分後に、通電を一次停止し、熱電対による溶湯の測温、及び、柄杓による溶湯のサンプリングを実施した。その結果、溶湯温度は1650℃であった。また、溶湯のサンプルについては、発光分光分析装置により成分分析を実施した結果、Si成分値は0.5質量%であった。
【0058】
溶湯の測温及び成分分析終了後、溶解炉への通電を再開するとともに、上記成分分析の結果得られたSi成分値を基に、溶解炉に追加投入するスラグ量(X)をスラグ投入予定量(X)の決定と同様の方法により決定した。すなわち、SiとCrの量バランスより、下式(2)が成立し、X=1.0と算出された。そこで、1.0トンのスラグを溶解炉に追加投入した。
【0059】
【数2】

【0060】
通電再開から15分後に通電を終了し、溶解炉を傾動して炉下の取鍋に出湯した。なお、溶解炉内のスラグは常に流動性を保ち、また、スラグフォーミングも見られず、終始安定した操業が可能であった。その後、取鍋内の溶湯の測温、溶湯のサンプリング及びスラグのサンプリングを行った。溶湯の温度は1650℃であった。また、溶湯成分及びスラグ成分は下記表1の通りであり、Crの濃度は低位であり、充分に還元反応を進めることができた。
【0061】
【表1】

【0062】
(実施例2)
本実施例では、上述した図2に示す溶解炉1と同様の構造を有する交流アーク式電気炉を溶解炉として用いてスラグの還元反応を行った。具体的には、フェロクロム51.5トン、ステンレス鋼スクラップ39トン(3種類のスクラップを、それぞれ、12トン、16トン、11トン)合計90.5トンを、90トン容量の溶解炉に投入し、通電を開始した。通電開始25分後から(含クロム冷鉄源が一部溶融し始めた時から)、酸化クロム(Cr)を30質量%及び酸化鉄(FeO)を6質量%含有するスラグ14.6トンを、約2トンずつ7回に分割して、5分間隔で投入した。また、スラグの塩基度を調整するために、生石灰を約1トンずつ6回に分割して、スラグ投入の合間に合計6.4トン投入した。以下、実施例1と同様の考え方、方法にて操業を行ない、溶解炉へ追加投入する含クロムスラグ量(X2)が、0.7トンと算出されたため、0.7トンのスラグを溶解炉に追加投入した。その結果、実施例1と同様に、操業は終始安定しており、出湯後の取鍋内のCr濃度も、下記表3の通り、低位であり、充分に還元反応を進めることができた。
【0063】
(実施例3)
本実施例では、実施例1〜2と同様の考え方により、追加投入する含クロムスラグ量(X2)が、1.2トンと算出された。そこで、炉下の出湯中の取鍋の中へ、追加分の含クロムスラグを投入した。具体的には、溶解炉1と同様の構造を有する溶解炉である交流アーク式電気炉から取鍋に5分で出湯し、一方、含クロムスラグの追加投入は、出湯開始から30秒後〜出湯開始から4分の間に、連続的に投入した。その結果、含クロムスラグ投入によるフォーミングは見られずに終始安定していた。また、出湯後の取鍋内のCr濃度も、下記表3の通り、低位であり、充分に還元反応を進めることができた。さらに、取鍋から出湯した後、取鍋底部を確認したところ、取鍋底部への追加スラグの固着も見られなかった。
【0064】
(比較例)
本比較例では、実施例と同様の図4に示す溶解炉1を用いて、スラグの還元反応を行った。具体的には、図4の(b1)に示すように、冷鉄源Msとして、フェロクロム51.5トン、ステンレス鋼スクラップ39トン(3種類のスクラップを、それぞれ、12トン、16トン、11トン)合計90.5トンを、90トン容量の溶解炉1に投入し、通電を開始した。通電開始25分後から(図4の(b2)に示すように、冷鉄源Msが一部溶融し始めた時から)、図4の(b3)に示すように、酸化クロム(Cr)を30質量%及び酸化鉄(FeO)を6質量%含有するスラグSsを溶解炉1の炉上から合計18.3トン投入した。このとき、スラグSsは、約2トンずつ9回に分割して、5分間隔で投入した。また、スラグの塩基度を調整するために、生石灰を約1トンずつ6回に分割して、スラグSsの投入の合間に合計6.4トン投入した。なお、スラグSs投入量は、上述した実施例に記載された計算方法により決定し、溶解炉1に投入した冷鉄源Msに含まれるSi量と反応する当量分のCrを含むスラグSs量として、18.3トンとした。
【0065】
スラグSsの投入終了から30分経過後(通電開始から95分後)に、図4の(b4)に示すように冷鉄源Ms及びスラグSsが完全に溶融したため、通電を終了し、電気炉1を傾動して炉下の取鍋に出湯した。なお、操業中の溶解炉1内では、操業後半からスラグSmの流動性が低下し、出湯時に全量排滓することができず、一部溶解炉1内に残留した。その後、取鍋内の溶湯Mmの測温、溶湯Mmのサンプリング及びスラグSmのサンプリングを行った。溶湯Mmの温度は1653℃であった。また、溶湯Mmの成分及びスラグSsの成分は下記表2の通りであり、Crの濃度は高く、還元反応が不十分であった。この原因としては、冷鉄源Msとして使用したステンレス鋼スクラップの種類が雑多であることから当該スクラップ中のSi量が正確に把握できていないこと、スラグSsの融点が高いことからCrの成分分析値の代表性が乏しいこと等が考えられる。
【0066】
【表2】

【0067】
(実施例と比較例の実施結果の比較)
以上述べた方法により、本発明の実施例1及び実施例3を各1回、実施例2を複数回、比較例を複数回実施した結果を下記表3及び図5に示す。図5は、本発明の実施例及び比較例における出湯後のスラグ中のCr濃度と溶湯中のSi濃度との関係を示すグラフである。なお、図5において、縦軸はスラグ中のCr濃度、横軸は溶湯中のSi濃度を示している。
【0068】
【表3】

【0069】
表3及び図5に示すように、比較例では、出湯後のスラグ中のCrの濃度は、溶湯中のSi濃度と関連して変動し、再現性良く低位に安定しない。しかも、Si濃度が低く、Cr濃度が高い場合は、操業の末期に溶湯中の炭素とCrが反応して、COガスが発生し、スラグのフォーミングが起こり、安定した操業ができなかった。また、Crの濃度がさらに高い4質量%以上のものは、スラグの融点が上昇して流動性が悪化するため、フォーミングは発生しなかったが、溶解炉からの排滓性が悪く、炉内でスラグが残留した。一方、本発明の実施例では、Cr濃度は低位に安定し、フォーミングは起こらず、排滓性も良好で、常に安定した操業ができた。
【0070】
(スラグの初期投入量の検討)
次に、本発明者らが行った溶解炉へのスラグの初期投入割合の検討結果について説明する。スラグ初期投入割合を、冷鉄源中のSiと反応する当量分のCrを含むスラグの量の90質量%、70質量%の2水準で、上述した実施例と同様の方法でスラグの還元反応の操業を実施した。すでに示した実施例(初期投入割合:80質量%)、比較例(初期投入割合:100質量%)、及び上記操業の結果(初期投入割合:90質量%、70質量%)について、出湯後のCr濃度と、スラグの初期投入割合との関係を調べた。その結果を図6に示す。図6は、本発明の実施例及び比較例における出湯後のCr濃度(質量%)とスラグの初期投入割合(質量%)との関係を示すグラフである。なお、図6において、縦軸は出湯後のCr濃度を示し、横軸はスラグの初期投入割合を示している。
【0071】
図6に示すように、スラグの初期投入割合を100質量%(比較例の方法)した場合に対して、初期投入割合を90質量%にすることにより、出湯後のスラグ中のCr濃度は、低位に安定し、初期投入割合が80質量%ではさらに低位に安定化することがわかった。また、初期投入割合が70質量%では、低位安定化の効果が飽和することもわかった。以上の結果に基づいて、本発明では、初期投入割合を90質量%以下、好ましくは80質量%以下としている。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
例えば、上述した実施形態においては、初めに溶解炉1に投入する含クロムスラグSsを、含クロム冷鉄源Msの一部が未溶融で残存している状態で投入する場合について説明したが、初めに溶解炉1に投入する含クロムスラグSsを、含クロム冷鉄源Msが完全に溶融してから溶解炉1に投入してもよい。
【0074】
また、上述した実施例では、溶解炉の一例として、交流アーク式電気炉を用いた例を示しているが、本発明に係る溶融金属の回収方法に用いる溶解炉としては、直流アーク炉、誘導加熱炉、電気抵抗加熱炉等の電気炉だけでなく、補助的に、化石燃料のバーナや酸素を用いてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 溶解炉
2 原料装入ホッパー
3 装入弁
4 電極
5 サンプリング用柄杓
6 取鍋
Ss 含クロムスラグ
Sm 溶融スラグ
Ms 含クロム冷鉄源
Mm 溶融金属



【特許請求の範囲】
【請求項1】
含クロムスラグを溶解炉内で還元して金属クロムを回収する溶融金属の回収方法において、
含クロム冷鉄源と、前記含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む前記含クロムスラグの量の90質量%以下の量の前記含クロムスラグを前記溶解炉に投入し、
前記含クロム冷鉄源および前記含クロムスラグが完全に溶融した後に溶融金属中に含まれるケイ素量を測定し、
測定された量のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む前記含クロムスラグの量を、前記溶解炉に追加で投入する前記含クロムスラグの量として決定し、決定された量の前記含クロムスラグを前記溶解炉に追加で投入することを特徴とする、溶融金属の回収方法。
【請求項2】
前記含クロム冷鉄源と前記含クロムスラグを前記溶解炉に投入する際に、前記含クロム冷鉄源のみを前記溶解炉に投入した後に、前記含クロム冷鉄源の少なくとも一部が溶融した状態で、前記含クロム冷鉄源中のケイ素と反応する当量分の酸化クロムを含む前記含クロムスラグの90質量%以下の量の前記含クロムスラグを前記溶解炉に投入することを特徴とする、請求項1に記載の溶融金属の回収方法。
【請求項3】
前記溶解炉に初めに投入する前記含クロムスラグを、前記溶解炉の炉上から連続的または断続的に投入することを特徴とする、請求項2に記載の溶融金属の回収方法。
【請求項4】
追加で投入する前記含クロムスラグを、前記溶融金属を前記溶解炉から出湯している容器中に投入することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の溶融金属の回収方法。
【請求項5】
追加で投入する前記含クロムスラグの一部または全部に代えて、クロム鉱石、鉄鉱石および含クロムスケールのうちの1種以上を投入することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の溶融金属の回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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