説明

溶融金属の成分分析方法および溶融金属の成分分析装置

【課題】レーザー発光分析法を用いて、スラグなどのレーザー透過遮断物の影響を抑制し、また、安価でメンテナンス費用も軽微な方法で実現する方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】レーザー発光分析法を用いて表層部に浮遊物を有する溶融金属の成分分析を行うに際し、レーザー照射用ランスを介してレーザーを溶融金属へ照射すると共に、レーザー照射用ランス先端部から表層部に浮遊物を有する溶融金属に保護ガスを吹きつけて、少なくともレーザー照射部の浮遊物を連続的または間欠的に排除した状態で、成分分析を行うことを特徴とする溶融金属の成分分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、主に、真空脱ガス機能を有する、RH、REDA、DH各真空脱ガス装置や、大気圧下での処理を基本とする、CAS、CAB、SAB、KIPなど、製鉄製鋼工程の取鍋精錬工程やタンディッシュにおける溶融金属の成分分析に関するもので、溶融金属としては、低合金鋼、ステンレス鋼、高Ni鋼等の鉄系溶融金属の分析方法に関するものであるが、SiやTi、Crなどの非鉄金属の成分分析にも適用が可能である。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の成分調整などに際しては、サンプリングによる溶融金属の成分分析を実施して、成分不足分について合金成分を添加するなどして、目標成分に見合う組成にコントロールする。また、溶融金属の成分分析値を把握することによって、鋳造後の成分保証を行ったりするものである。これらの目的で行う成分分析手段としては、精度の高い分析範囲や、分析時間の短縮による製造効率の向上が求められる。
【0003】
このための溶融金属の成分分析方法としては、メタルサンプルを採取、冷却、切断して研磨した試料面にスパークを当てて発光分析を行うカントバック分析装置や、燃焼法によるCS分析法(例えば、(株)堀場製作所製EMIA−320V等の炭素、硫黄同時分析装置)などが通常行われる。また、特許文献1に示されるような、溶融金属を汲み上げたサンプルに直接レーザー発光分析法を用いる技術が提案されてきている。
【0004】
一方、サンプリングを行わずに溶融金属の直接分析を行う方法として、特許文献2に示されるような、レーザー照射による直接発光分析法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−40081号公報
【特許文献2】特開昭56−114746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、溶融金属を採取して取り扱うための特別な装置が必要となり、設備費も高価になり、メンテナンスも複雑になる。また、現状の製鋼工程ではサンプル採取から分析値判明に一般に5〜10分の時間を要する。
【0007】
溶融金属のサンプリングを行わずに直接成分分析を行うオンライン分析ができれば、分析所要時間を短縮することができるので好ましい。そのため、オンライン分析についてのニーズは非常に高く、特許文献2に示されるように、レーザー発光分析法を実プロセスに用いることが検討されてきた。ところが実プロセスにおいては、取鍋などの溶融金属容器に満たされた溶融金属の表層にスラグ等の浮遊物が存在しており、この浮遊物がレーザー透過を遮断するために溶融金属の発光分光分析が阻害され、分析精度を低下させるという問題があったが、何ら解決されていなかった。
【0008】
本発明は、実プロセスにおける溶融金属の成分分析について、レーザー発光分析法を用いて、スラグなどのレーザー透過遮断物の影響を排除し、また、安価でメンテナンス費用も軽微な方法で実現する方法および装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) レーザー発光分析法を用いて表層部に浮遊物を有する溶融金属の成分分析を行うに際し、レーザー照射用ランスを介してレーザーを溶融金属へ照射すると共に、レーザー照射用ランス先端部から表層部に浮遊物を有する溶融金属に保護ガスを吹きつけて、少なくともレーザー照射部の浮遊物を連続的または間欠的に排除した状態で、成分分析を行うことを特徴とする溶融金属の成分分析方法。
(2) 両端が開口している筒状部材と、その底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材で覆われて構成された浮遊物低減装置を、少なくともレーザーを照射する位置の溶融金属に浸漬させて、該筒状部材の底部側の溶融金属に溶解可能な部材が溶解して除去され、溶融金属を筒状部材内に流入させて、浮遊物厚みを低減することを特徴とする(1)に記載の溶融金属の成分分析方法。
(3) 両端が開口している筒状部材と、その底部側の開口部が取り外し可能な部材で覆われて構成された浮遊物低減装置を、少なくともレーザーを照射する位置の溶融金属に浸漬させた後、該筒状部材の底部側の取り外し可能な部材を取り外すことにより、溶融金属を筒状部材内に流入させて、浮遊物厚みを低減することを特徴とする(1)に記載の溶融金属の成分分析方法。
(4) 保護ガスが、アルゴン、窒素、炭酸ガス、ヘリウムの1種または2種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の溶融金属の成分分析方法。
(5) 保護ガスと溶融金属との衝突位置付近における酸素濃度を10容量%以下とすることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の溶融金属の成分分析方法。
(6) ランス先端から溶融金属までの保護ガス流路の区間について、その一部または全部の区間の周囲に保護ガス流路を囲む遮蔽物を用いることを特徴とする(5)に記載の溶融金属の成分分析方法。
(7) 表層部に浮遊物を有する溶融金属へレーザーを照射するレーザー照射装置と、レーザー照射用ランスとを備えた溶融金属の成分分析装置であって、該ランスへ保護ガスを導入する機能を有し、レーザー照射用ランス先端部から溶融金属表面に保護ガスを吹きつけることによって溶融金属の表層部の浮遊物厚みを低減可能としたことを特徴とする溶融金属の成分分析装置。
(8) 表層部に浮遊物を有する溶融金属へレーザーを照射するレーザー照射装置と、レーザー照射用ランスと、選択的励起レーザ照射装置と、光量検出器とを備えた溶融金属の成分分析装置であって、該ランスへ保護ガスを導入する機能を有し、レーザー照射用ランス先端部から溶融金属表面に保護ガスを吹きつけることによって溶融金属の表層部の浮遊物厚みを低減可能としたことを特徴とする溶融金属の成分分析装置。
(9) さらに、両端が開口している筒状部材と、その底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材または取り外し可能な部材のいずれかで覆われて構成された浮遊物低減装置を有することを特徴とする(7)または(8)に記載の溶融金属の成分分析装置。
(10) ランス先端から溶融金属までの保護ガス流路の区間について、その一部または全部の区間の周囲に保護ガス流路を囲む遮蔽物が設置されたことを特徴とする(7)〜(9)のいずれかに記載の溶融金属の成分分析装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、実プロセスにおける表層部に浮遊物を有する溶融金属の成分分析について、従来のレーザー発光分析法よりもレーザー透過不良による精度不良が大幅に改善され、また、安価で、簡易な測定が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般に、製鋼取鍋やタンディッシュなどでは、スラグやタンディッシュ保温材などの浮遊物で、溶鋼表層部がカバーされている場合が通常である。このため、実プロセスにおける溶融金属のオンライン成分分析について、レーザー発光分析法を用いて行う場合、これらの浮遊物がレーザー透過を遮断して分析精度を低下させている。
【0012】
そこで、本発明者は、実プロセスにおける溶融金属のオンライン成分分析について、レーザー発光分析法を用いて行う場合、溶融金属の表層にスラグ等の浮遊物が存在しており、この浮遊物がレーザー透過を遮断するために、分析精度を低下させるという問題に対して、レーザーが照射される部分について溶融金属表面のスラグ等の浮遊物の厚みを、保護ガス等を活用して連続的または間欠的に排除した状態でレーザーを照射することで、分析精度が飛躍的に向上できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
以下に、本発明の実施形態を、溶鋼のRH真空脱ガスに適用した場合を例に挙げて、図面を用いて説明する。
【0014】
図1、2とも、溶鋼21が取鍋11に満たされ、取鍋内の溶鋼表面には浮遊物(スラグ)22が層をなしている。RH真空脱ガス装置の真空槽13の2本の浸漬管12が、溶鋼中に浸漬し、取鍋11と真空槽13の間を溶鋼21が環流する。真空槽中の雰囲気は、排気孔14から排気されることによって減圧状態に保持される。
【0015】
レーザー発振器6で発振されたレーザー2は、レーザー照射用ランス1内に照射され、ランス1内のミラー(反射鏡)5を介して溶融金属表面23に照射され、励起された信号がレーザー照射用ランス1内に導かれ、ミラー5で反射され分光器7に取り込まれる。
【0016】
発光させるためのレーザーはYAGレーザー等の、一般的にレーザー発光分析法に使用されるもので良く、分光器で各成分毎に強度を測定して、成分分析が行われる。このときのレーザー発光分析法は、上述の一般的方法(例えばLIBS法)を適用することができる。
【0017】
また、特定元素を精度良く測定する場合は、レーザー発振器で発振されたレーザーを溶融金属表面に照射して、一旦レーザー励起させた後に、選択的励起レーザ照射装置により特定周波数のレーザーを照射して特定元素の波長のみを再度励起させて、光量検出器により特定元素の成分分析を行う様な、特殊な分析法(例えばLIFS法)などでも良い。
【0018】
特に、炭素やリンのようなガラスファイバー透過時の励起光の減衰率が大きい元素の測定にLIBS法を適用した場合、ミラーを介して分光器に伝送する際に励起光が減衰して成分分析が行いづらいため、LIFS法を用いて特定波長のみを再励起し、反射波のみを積分するなどして電気信号にするような光量検出器を設置することが望ましい。
【0019】
本発明では、レーザー照射用ランス1を介してレーザー2を溶融金属表面23へ照射する際に、同時にレーザー照射用ランス先端部から溶融金属の表層部の浮遊物22に保護ガス3を吹きつけて、少なくともレーザー光を溶融金属へ照射するエリアの浮遊物を連続的または間欠的に排除した状態で、成分分析を行うことで、良好な測定精度が維持できることを実験的に知見した。尚、本発明で対象とする浮遊物とは、スラグやタンディッシュ保温材などの外来性の浮遊物を意味している。また、浮遊物を排除した状態とは、上記のレーザー発光分析法により得られた溶融金属の主成分のピークおよび分析対象成分のピークが、充分に特定できる分析精度である場合を意味している。従って、ベースラインの乱れと、溶融金属の主成分のピークや分析対象成分のピークとの判別ができない様な場合は、浮遊物を排除した状態とは言えない。
【0020】
また、溶融金属の主成分のピークおよび分析対象成分のピークとともに、浮遊物が大きなピークとして測定された場合でも、浮遊物を排除した状態と見なしても構わない。但し、この様な場合は、保護ガス量を増加させる等により、浮遊物のピークをより小さくさせた状態で測定する方が、分析精度がより向上するという点で好ましい。
【0021】
ここで、浮遊物厚みを連続的に排除するには、事前に実験等により保護ガスの必要吹きつけ流量を把握しておいても良く、また後述の様に公知の式を用いて計算により保護ガスの必要吹きつけ流量を求めることにより実施することができる。この様な状態であれば、連続的に分析することも可能であり、また分析を行う必要が生じた任意のタイミングで分析することも可能である。
【0022】
また、浮遊物厚みを間欠的に排除する場合というのは、上記の様な浮遊物厚みを連続的に排除するための保護ガス流量より少ない流量としても、溶融金属表層部が攪拌等により流動しているために浮遊物厚みが間欠的に排除される状態が繰り返される場合と、分析を行う必要が生じたタイミングで、浮遊物厚みを連続的に排除するために必要な保護ガス流量以上を吹きつけて、間欠的に測定を行う場合のいずれでも良い。
【0023】
前者の場合、浮遊物厚みが間欠的に排除される状態が繰り返されている様に保護ガス流量を調整すれば良い。例えば、保護ガス流量が少なすぎることにより、浮遊物が溶融金属の表層部を覆っている場合は、オンライン分析では溶融金属のピークが極端に小さく検出され、かつ浮遊物のピークが検出される状態となる。このため、保護ガス流量を徐々に増加させて、溶融金属のピークが適正に検出され、かつ浮遊物のピークがほとんど検出されない状態が、間欠的に検出できる様に調整すれば良い。そして、溶融金属のピークが適正に検出され、かつ浮遊物のピークがほとんど検出されない状態の測定値のみを、分析値として採用する様に、信号処理を施す等の処理を行うことで、溶融金属の成分分析を精度良く行うことができる。
【0024】
また、後者の場合は、浮遊物厚みを連続的に排除するために必要な保護ガス流量を上記と同様の手法により求め、所望のタイミングで測定を行えば良い。
【0025】
また、保護ガスは、アルゴン、窒素、ヘリウム等の分析に影響の小さいガスを適宜吹きつけることが好ましい。
【0026】
図2に示す例では、レーザー照射用ランス1に保護ガス3を導入し、レーザー照射用ランス1の先端部から保護ガス3をレーザー照射部に向けて吹き付け、レーザー照射部付近の浮遊物(スラグ)22を排除している。
【0027】
また、図1に示す通り、レーザー2を照射する位置の浮遊物厚みをより薄くするために、両端が開口している筒状部材8と、その底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材9または取り外し可能な部材で覆われて構成された浮遊物低減装置を、溶融金属が存在する深さまで浸漬させることが好ましい。尚、筒状部材8は、MgO、アルミナ、ジルコニア、AlN等の高融点酸化物を主成分としたものや、各種不定形耐火物、高温に耐えうる冷却構造などを備えた部品など、また、比較的短時間であればタングステンやモリブデン、炭素などの可溶性高融点物質なども用いることができる。
【0028】
また、溶融金属に溶解可能な部材としては、例えば、溶鋼に対しては、鉄やステンレス、ニッケル、銅などの金属の他に、黒鉛や硫黄質のものが適用可能である。この溶融金属に溶解可能な部材は、筒状部材8の底部へアルミナセメントなどにより接着しても良く、あるいは接着させることなく、筒状部材8の底部に配置させるための治具を用いて浸漬前に底部をカバーしておき、このままの状態で筒状部材8を溶融金属に浸漬させ、その後、前記の治具を回収するなどでも良く、適宜設置することができる。
【0029】
一方、溶融金属に溶解しないものでも、取り外し可能な部材として用いることができ、例えば、耐火物を筒状部材8の底部に弱く接着させておき、溶融金属が存在する深さに到達した後、筒状部材8内側から棒などを用いて耐火物をつつき出すなどして取り外すことでも、溶解可能な部材9を用いた場合と同様の効果が得られる。ここで、取り外し可能な部材としては、例えば、アルミナ系耐火物、マグネシア系耐火物などを、アルミナセメントで筒状部材8の底部に弱く接着させたものなどが適用可能である。
【0030】
これにより、図1(b)に示すように、浮遊物低減装置を溶融金属に浸漬させる際には、筒状部材8の底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材9などで覆われているため、スラグ等の浮遊物が筒状部材8に流入することはなく、その後、筒状部材8の底部側の部材9は、溶融金属21の温度による溶融や溶解度を利用した溶解により、溶融金属21は筒状部材8の底部から流入する。
【0031】
従って、図1(a)に示すように、筒状部材8の底部からは、主に溶融金属21が流入し、スラグ等の浮遊物22が混入してもその混入量を少なくすることができ、浮遊物厚みを薄くすることができる。
【0032】
また、前記の通り、保護ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等の非酸化性ガスを用いることで、分析に影響が小さいため好ましい。しかし、この様な非酸化性ガスを用いた場合でも、実際に保護ガスを吹き付ける際に、保護ガスの周囲の空気を巻き込んで酸素が多量に混入する場合がある。
【0033】
保護ガスに酸素が多く混入すると、酸素が溶融金属中のAlやSi等と反応してアルミナやシリカ等の酸化物となり、これが溶融金属表面23に酸化膜として形成されることで、良好な測定精度が維持しづらくなるため、保護ガスについては周囲の空気の巻き込みを極力避けることが好ましい。
【0034】
そこで、空気の巻き込みによって保護ガス中の酸素濃度が増加し、保護ガスと溶融金属との衝突位置付近における酸素濃度が10容量%を超える場合、保護ガス自体がアルミナやシリカなどの酸化膜の生成を促進して良好な測定精度が維持しづらくなることが実験的に知見されたため、上記の衝突位置付近における酸素濃度は10容量%以下とすることが好ましい。
【0035】
尚、この酸素濃度は低いほど良好な測定精度を維持できるため、好ましくは3容量%以下、さらに好ましくは1容量%未満、最も好ましくは0容量%である。
【0036】
この様に、上記の衝突位置付近における酸素濃度をより低減させるために、ランス先端から溶融金属までの保護ガス流路の区間について、その一部または全部の区間の周囲に保護ガス流路を囲む遮蔽物を用いることが好ましい。
【0037】
例えば、簡単な方法としては、図1に示される筒状部材8をランス先端まで長くしたものを用いることで、保護ガス流路の全区間を外気と遮蔽できるため、外気の侵入を防止できる。
【0038】
また、この遮蔽物は保護ガス流路の一部の区間に設定することでも、外気の遮蔽効果は発揮されるが、遮蔽している区間が長いほど、その効果は大きいため好ましい。例えば、スラグ厚が比較的薄いために、筒状部材8を用いる必要がない場合は、図3のようなガス進入防止具10を設けることでも良い。このガス進入防止具10は、溶融金属に浸漬せず、保護ガスの衝突面とガス進入防止具10との隙間を小さく設定することで、ガス進入防止具10の内部を正圧に維持でき、外気の侵入を防止できる。
【0039】
但し、ガス進入防止具10を用いた際に、保護ガスの流量だけではガス進入を防止できない場合には、ガス進入防止具中に、別途、非酸化性のガスを流すことで、良好な測定が実施できる。
【0040】
ちなみに、この酸素濃度は、例えばレーザー照射部付近のガスをパイプで吸引して質量分析計等により測定することができる。
【0041】
従って、上記の衝突位置付近からガスサンプリングを行うことになる。但し、ガスサンプリングは上記の衝突位置に極力近いことが好ましく、その距離は正確な酸素濃度の分析が可能であれば、特に規定するものではないが、例えば、レーザー衝突位置から50mm以内が推奨される。
【0042】
上記の方法を実現するためには、溶融金属へレーザーを照射するレーザー照射装置と、レーザー照射用ランス1と、分光器7とを備えた溶融金属の成分分析装置であって、このレーザー照射用ランス1へ保護ガス3を導入する機能を有する装置を用い、レーザー照射用ランス先端部から溶融金属表面に保護ガスを吹きつけることによって、溶融金属の表層部の浮遊物を排除することができる。あるいは、前述の通り、溶融金属へレーザーを照射するレーザー照射装置と、レーザー照射用ランスと、選択的励起レーザ照射装置と、光量検出器とを備えた溶融金属の成分分析装置を用いることもできる。
【0043】
レーザー照射装置は、レーザー発振器6を有し、レーザー照射用ランス1内のミラー5でレーザー2を反射して溶融金属表面にレーザーを照射することができる。
【0044】
上記本発明の成分分析装置を用い、レーザー照射用ランス1の先端開口部4から保護ガス3を溶融金属表面に吹き付けることにより、少なくともレーザー照射部の浮遊物厚みを連続的または間欠的に排除した状態で、成分分析を行うことができる。
【0045】
特に、浮遊物厚みを間欠的に排除した状態で成分分析を行う場合は、例えば、バックグラウンドとなる鉄のピークが極端に小さく検出され、かつ浮遊物のピークが検出される分析値をキャンセルする等して、オンライン分析を可能とすることができる。
【0046】
ここで、本発明のレーザー照射用ランス1の材質は、ステンレスなどの金属パイプにキャスタブル(例えば、アルミナを主成分とした各種不定形耐火物、マグネシア質、マグネシアクロマイト系耐火物、アルミナ−炭素系,MgO−炭素系、ジルコニア系耐火物)を施したものや、一般的な水冷ランスなどが有効であるが、場合によっては、セラミックス製の管や、冷却に支障のない金属パイプなど当該業者らが適宜設定するものでよい。
【0047】
また、発明者らの知見より、本発明のレーザー照射用ランスは必ずしも溶融金属の湯面に垂直である必要は無く、少なくとも、垂直から45度までの間であれば良好な測定ができることもわかった。
【0048】
また、両端が開口している筒状部材8と、その底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材9で覆われて構成された浮遊物低減装置、または取り外し可能な部材で覆われて構成された浮遊物低減装置、を併用すると、溶融金属の表層部の浮遊物厚みをより低減できるため、好ましい。ここで、筒状部材8の底部を覆う溶融金属に溶解可能な部材9は、対象とする溶融金属の使用温度で溶解するもので、かつ、溶融金属を汚染しないものであれば、特に規定するものではないが、対象とする溶融金属の成分と同一の成分の金属、あるいは構成成分が類似している金属を用いると、確実に溶融するとともに、溶融金属を汚染しないため、好ましい。
【0049】
例えば、溶融金属として溶鋼を対象とした場合、筒状部材8の底部を覆う金属9は鉄板とすることが推奨される。
【0050】
また、保護ガスに非酸化性ガスを用いた場合でも、ランス出口から衝突面の間に空気を巻き込むことに起因して酸化物生成による測定誤差を生じることがある。このため、前述のとおり、ランス先端から溶融金属までの保護ガス流路の区間について、その一部または全部の区間の周囲に保護ガス流路を囲む遮蔽物を設置することや、さらにランス出口から衝突面の間隔を短くすることにより、酸化物生成が抑制でき、悪影響を排除することができる。
【0051】
尚、上記の遮蔽物やガス進入防止具は、例えば、前述の筒状部材8と同様の材料を用いることができる。
【0052】
以上の通り、本発明によれば、オンラインで連続的に表層部に浮遊物を有する溶融金属の成分を分析できるため、測定値を連続的にモニターしたり、あるいは所望のタイミングで測定値をモニターして、例えば、RH真空脱ガス処理後の成分調整の際の操業など、表層部に浮遊物を有する溶融金属を扱う種々の操業の判断に適用することが可能である。
【実施例】
【0053】
本発明の効果を検証するために、図1に示す装置を用いて、転炉出鋼後の容量300トンの取鍋内溶鋼に対してRH真空脱ガス処理を行う際に、本発明のオンライン分析を用いて溶鋼の成分調整処理を実施した。但し、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0054】
今回の実施例において、RH真空脱ガス処理条件は、到達真空度が6.7〜13.3KPa程度の条件で行った。
【0055】
また、鋼種は低炭アルミキルド鋼(炭素濃度400〜700質量ppm)溶鋼の成分調整の目標の金属をアルミニウムとして、溶鋼中のアルミニウム濃度が0.03〜0.06質量%となる様に、Al合金を添加による成分調整を実施した。
【0056】
このときの条件としては、取鍋11内溶鋼表面の初期スラグ厚みは、浸漬棒により100〜150mmであることが確認された。また、溶鋼の成分調整の際の溶鋼温度は1620〜1660℃であった。
【0057】
さらに、スラグの主な成分は、蛍光X線分析法による測定の結果、トータルFe=17〜23質量%、MgO=7〜12質量%、塩基度(質量ベースでのCaO/SiO2)=3.4〜4.5であった。
【0058】
また、この実施例では、レーザー発振器6としては、チタンサファイヤ型の発振器を用い、また、レーザー照射用ランス1としては、内径7.5mmのステンレスパイプを用い、先端開口部4の孔形も内径7.5mmの円形である。ステンレスパイプの周囲にファイバー入りキャスタブルを施したものを用い、さらに、分光器7としては、YAGレーザー((株)経営システム研究所,レーザービーム、S59.3.1発行、24頁等参照)を用い、ランス高さは、スラグ表面から150mmの高さからとした。また、保護ガス3には工業用Ar(純度98容量%超)を用いた。
【0059】
さらに、筒状部材8としては、多孔質のマグネシア系耐火物((株)ニッカトー製材質記号MG相当)で、筒状部材8の底部を覆う溶融金属に溶解可能な部材9を鉄皮とした浮遊物低減装置を併用して、溶鋼中に浸漬させた。これにより、鉄皮は溶鋼温度により溶解し、スラグ厚みは100〜150mmであるのに対して、筒状部材8内のスラグ厚みを15mm程度にまで低減することができた。
【0060】
この様に、筒状部材8内のスラグ厚みを15mm程度にまで低減させた状態で、保護ガスであるAr流量を調整することにより、スラグ厚みを変化させた。
【0061】
例えば、上吹き酸素条件からスラグへこみ深さを求める式(松尾ら:鉄と鋼 第76年(1990)vol.11,pp1871中、Fig8中の瀬川の式に基づいたスラグに対する補正式)として、以下の[1式]〜[2式]が知られている。
s=Lh・exp(−0.78・h/Lh)・(ρm/ρs) [1式]
h=63.0・(k・FO2/(n・d))2/3 [2式]
ここで Ls:スラグのへこみ深さ(mm)
h:スラグからのランス高さ(mm)
ρm:溶鉄の比重(g/cm3
ρs:スラグの比重(g/cm3
k:干渉係数(単孔の場合は1)
FO2:送酸速度(Nm3/h)
n:ノズル数
d:ノズル径(mm)
この式を利用して、Ar流量からスラグのへこみ深さLsを求め、このLsを指標として、後述の3水準を設定した。
【0062】
ここで、溶鉄の比重は一般的に知られている7g/cm3の値を用いた。また、溶鋼スラグの比重は一般的には3〜4g/cm3とされていることから、3.5g/cm3の値を用いた。
【0063】
また、[1式]は酸素吹きつけによる運動エネルギーがもたらすへこみ深さを表していることから、Ar吹きつけの場合に適用するために、酸素との比重比(Ar/酸素=40/32=1.25)を掛け合わせ、以下の[3式]〜[4式]で評価した。
s=1.25×Lh・exp(−0.78・h/Lh)・(7/3.5) [3式]
h=63.0・(k・FAr/(n・d))2/3 [4式]
ここで h=150(mm)
k=1
FAr=Ar流量(Nm3/h)=0.06×Ar流量(l/min)
n=1
d=20(mm)
【0064】
この実施例の予備実験(レーザーなしでガス衝突位置のスラグ厚みの変動を浸漬棒によって調査)で、Arガス流量を500、700、1000Nl/minの3水準でスラグ排除の状況を調査したところ、500Nl/min(計算Ls=5.3mm)ではスラグ厚みは5〜12mmの間を変動するのみであった。また、700Nl/min(計算Ls=12.0mm)では、スラグ厚みは最大で8mmでかつ数秒間隔で溶鋼湯面が見られる状態であった。さらに、1000Nl/min(計算Ls=25.0mm)の場合は、常にガス噴流がスラグを完全に突き破って排除している状態を維持できることが確認できている。
【0065】
そこで、レーザー照射を実施した予備実験を、上記の3水準で行い、オフラインの分析法(サンプリングしたメタルサンプルをカントバック法とCS分析計で分析)の結果と比較した。
【0066】
まず、Arガス流量が500Nl/minの条件では、溶鋼の表面にスラグが浮遊物として常時存在している状態でレーザーが照射されることから、スラグ成分で着目したCaの波長が強く出たのに対し、メタル成分の波長は弱く、鉄とAlとのピークの強度比から算定される鋼中Al元素の濃度の分析値は、オフラインの分析値の標準偏差と比較して、5倍以上の程度の乖離があり、精度の良い分析結果は得られなかった。
【0067】
次に、700Nl/minの条件では、メタル成分のピークが大きく検出されてスラグ成分のピークがほとんど検出されない場合と、メタル成分のピークが極端に小さく検出されてスラグ成分のピークが大きく検出される場合が、交互に表れる現象が見られた。このときは、メタル成分のピークが大きく検出されてスラグ成分のピークがほとんど検出されない場合に溶鋼表面にスラグが排除された状態になっていると見なして、信号処理を施して、この様な場合の測定値のみを採用して分析を行った。その結果、オフラインの分析値とほぼ同様の標準偏差の値が得られ、精度の良い分析結果が得られた。
【0068】
また、1000Nl/minの条件では、特別な信号処理を行うことなく、オフラインの分析値とほぼ同様の標準偏差の値が得られ、精度の良い測定が得られた。
【0069】
以上の予備実験により、実施例では、Ar流量は1000Nl/minで行った。また、試験中にレーザー照射位置付近のガスを、マグネシア質の吸引管を用いて、1回/チャージサンプリングし、ガス分析を行った。ガス分析は質量分析計で行った。
【0070】
その結果、各チャージともにレーザー照射位置の酸素濃度を1容量%以下で試験が出来ていることが確認できた。
【0071】
一方、比較例1として、現行法(サンプリングしたメタルサンプルをカントバック法とCS分析計で分析)により、実施例と同じ条件で溶鋼の成分調整処理を行った。
【0072】
【表1】

【0073】
その結果は表1(10チャージの平均)に示す通り、本発明はオンライン分析のため、比較例の様なサンプリングが不要なことから、分析待ち時間を解消でき、溶鋼の成分調整の処理時間に関して、5分以上の短縮を図ることができた。従って、溶鋼の成分調整処理の能力が向上したことは言うまでもない。
【0074】
ここで、溶鋼の成分調整の処理時間とは、RHの処理時間と等価であるため、RHの処理時間として、RHへの取鍋到着時間から処理後連鋳へのクレーン吊り上げ時間と定義した。
【0075】
また、この実施例ではRH(真空脱ガス)後工程である連続鋳造に必要な温度を確保するための昇熱が必要になった場合に、Al合金を添加して送酸を行うことによるアルミ昇熱を実施していたが、処理時間を短縮できたことで、RH(真空脱ガス)精錬炉処理中の温度低下幅を縮小できたことから、昇熱用のAl合金使用量を低減できた。
【0076】
更に、成分調整により変動するAlの濃度をオンラインでモニターできることから、目標とする溶鋼中のAl濃度の値を、要求範囲の下限側になる様にAl合金を添加することができた。この両者により、Al合金の使用量を大幅に削減することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明をRH真空脱ガス処理に適用したときの実施様態形を示す断面図であり、(a)は筒状部材を溶融金属に浸漬させた後の図、(b)は筒状部材を溶融金属に浸漬させる前の部分図である。
【図2】本発明をRH真空脱ガス処理に適用したときの実施様態形を示す断面図である。
【図3】本発明をRH真空脱ガス処理に適用したときの実施様態形を示す断面図であり、遮断物により外気の進入を防止している例である。
【符号の説明】
【0078】
1 レーザー照射用ランス
2 レーザー
3 保護ガス
4 先端開口部
5 ミラー
6 レーザー発振器
7 分光器
8 筒状部材
9 溶融金属に溶解可能な物質
10 ガス進入防止具
11 取鍋
12 浸漬管
13 真空槽
14 排気孔
21 溶融金属
22 浮遊物(スラグ)
23 溶融金属表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発光分析法を用いて表層部に浮遊物を有する溶融金属の成分分析を行うに際し、レーザー照射用ランスを介してレーザーを溶融金属へ照射すると共に、レーザー照射用ランス先端部から表層部に浮遊物を有する溶融金属に保護ガスを吹きつけて、少なくともレーザー照射部の浮遊物を連続的または間欠的に排除した状態で、成分分析を行うことを特徴とする溶融金属の成分分析方法。
【請求項2】
両端が開口している筒状部材と、その底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材で覆われて構成された浮遊物低減装置を、少なくともレーザーを照射する位置の溶融金属に浸漬させて、該筒状部材の底部側の溶融金属に溶解可能な部材が溶解して除去され、溶融金属を筒状部材内に流入させて、浮遊物厚みを低減することを特徴とする請求項1記載の溶融金属の成分分析方法。
【請求項3】
両端が開口している筒状部材と、その底部側の開口部が取り外し可能な部材で覆われて構成された浮遊物低減装置を、少なくともレーザーを照射する位置の溶融金属に浸漬させた後、該筒状部材の底部側の取り外し可能な部材を取り外すことにより、溶融金属を筒状部材内に流入させて、浮遊物厚みを低減することを特徴とする請求項1記載の溶融金属の成分分析方法。
【請求項4】
保護ガスが、アルゴン、窒素、ヘリウムの1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融金属の成分分析方法。
【請求項5】
保護ガスと溶融金属との衝突位置付近における酸素濃度を10容量%以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶融金属の成分分析方法。
【請求項6】
ランス先端から溶融金属までの保護ガス流路の区間について、その一部または全部の区間の周囲に保護ガス流路を囲む遮蔽物を用いることを特徴とする請求項5に記載の溶融金属の成分分析方法。
【請求項7】
表層部に浮遊物を有する溶融金属へレーザーを照射するレーザー照射装置と、レーザー照射用ランスと、分光器とを備えた溶融金属の成分分析装置であって、該ランスへ保護ガスを導入する機能を有し、レーザー照射用ランス先端部から溶融金属表面に保護ガスを吹きつけることによって溶融金属の表層部の浮遊物厚みを低減可能としたことを特徴とする溶融金属の成分分析装置。
【請求項8】
表層部に浮遊物を有する溶融金属へレーザーを照射するレーザー照射装置と、レーザー照射用ランスと、選択的励起レーザ照射装置と、光量検出器とを備えた溶融金属の成分分析装置であって、該ランスへ保護ガスを導入する機能を有し、レーザー照射用ランス先端部から溶融金属表面に保護ガスを吹きつけることによって溶融金属の表層部の浮遊物厚みを低減可能としたことを特徴とする溶融金属の成分分析装置。
【請求項9】
さらに、両端が開口している筒状部材と、その底部側の開口部が溶融金属に溶解可能な部材または取り外し可能な部材のいずれかで覆われて構成された浮遊物低減装置を有することを特徴とする請求項7または8に記載の溶融金属の成分分析装置。
【請求項10】
ランス先端から溶融金属までの保護ガス流路の区間について、その一部または全部の区間の周囲に保護ガス流路を囲む遮蔽物が設置されたことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の溶融金属の成分分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−316050(P2007−316050A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285989(P2006−285989)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】