説明

溶融金属出湯口用閉塞材

【課題】本発明の目的は、従来よりも溶剤添加量を低減することが可能なフェノール樹脂を使用した高耐用の溶融金属出湯口用閉塞材を提供することにある。
【解決手段】本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と記載する)による数平均分子量が400未満のノボラック型フェノール樹脂70質量%超え90質量%以下と、溶剤10質量%以上30質量%未満から構成され、60℃における粘度が1〜3Pa・秒であるバインダーと、耐火骨材から構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属出湯口用閉塞材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融金属の出湯口を閉塞するための閉塞材としては、例えば、粘土を含む耐火原料と金属等の焼結助剤にタール、フェノール樹脂などの有機バインダーを配合してなる組成物が使用されていた。溶融金属出湯口用閉塞材に要求される一般的な特性としては、(1)圧入機による充填性が良好なこと;(2)高温下での結合強度が大きく、耐溶銑滓性に優れていること;(3)開孔作業性が良いこと;(4)環境保全の面から黒煙の発生や発塵が少ないこと等である。しかしながら、タール系の閉塞材は、充填後の硬化が緩慢であるため、充分な初期強度を確保することが難しく、かつバインダーの揮発も緩慢であるため出湯開始時の発煙・発塵が多く、安定した出湯あるいは環境保全の点で満足できるものではない。また、フェノール樹脂などの樹脂バインダーを用いた閉塞材においても、熱可塑性樹脂のみを用いた場合はタール系閉塞材と同様の特性となり、充分なものではなかった。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、粒径が1mm以上である耐火原料を25〜45重量%(質量%)、粒径が0.075mm以下である耐火原料を25〜40重量%(質量%)含有した耐火原料配合物に、レゾール型フェノール樹脂(R)とノボラック型フェノール樹脂(N)と軟化点が250〜400℃のコールタールピッチ(C)とからなり、重量(質量)比でR/(R+N)=0.15〜0.40、C/(R+N+C)=0.1〜0.3のバインダーを10〜20重量%(質量%)の割合で含有させたことを特徴とする出湯口閉塞材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、残留フェノール量を1重量%(質量%)以下まで低減した、GPCによる数平均分子量が400〜1000のノボラック型フェノール樹脂(A)を含有することを特徴とする高炉用閉塞材(請求項1);更に、耐火性骨材(B)を含有した高炉用閉塞材(請求項3)が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−349383号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開2004−299961号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような出湯口閉塞材においては、レゾール型フェノール樹脂は、それ自体が熱硬化性であるため、長期保存には不向きであり、出湯口閉塞材に使用する場合、経時変化が大きいため、製造後日数が経過したものは閉塞時に充填不良を生じ易くなる。従って、充填後の早強特性が必要である特別な場合を除き、レゾール型フェノール樹脂の使用は好ましくない。
【0007】
また、閉塞材の性能に与えるバインダーの影響の1つに揮発成分量があり、揮発成分量を極力削減することが望ましい。揮発成分量が多いと、揮発後の気孔率が高まり、強度低下及び耐食性の低下を招く。そのためには溶剤量を低減させる必要があり、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と記載する)による数平均分子量の低いノボラック型フェノール樹脂を使用することが溶剤量低減には有効である。これは、GPCによる数平均分子量が高いと、粘性が高まり、閉塞材として必要な充填性を確保するためには、粘性を調整するために多量の溶剤が必要となる。この溶剤は。閉塞材使用時には揮発成分としてガス化するものであり、閉塞材の特性を低下させるために極力削減することが好ましい。特許文献2に記載されているようなGPCによる数平均分子量が400〜1000のノボラック型フェノール樹脂では、30質量%を超えるような多量の溶剤の添加が必要となり、好ましくない。
【0008】
従って、本発明の目的は、従来よりも溶剤添加量を低減することが可能なフェノール樹脂を使用した高耐用の溶融金属出湯口用閉塞材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、溶剤添加量を低減することができるGPCによる数平均分子量が400未満のノボラック型フェノール樹脂を使用することにより、ヘキサミンなどの硬化剤を使用しなくてもカーボンボンドが強化され、高耐用を得ることができ、かつ従来のフェノール樹脂を使用した閉塞材よりも加熱による硬化が遅いことにより、急加熱時に亀裂の発生を抑制させることができ、強固な熱間組織を形成されることができる溶融金属出湯口用閉塞材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、GPCによる数平均分子量が400未満のノボラック型フェノール樹脂70質量%超え90質量%以下と、溶剤10質量%以上30質量%未満から構成され、60℃における粘度が1〜3Pa・秒であるバインダーと、耐火骨材から構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、溶剤がエチレングリコールであることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、バインダーの配合量が、耐火骨材に対して外掛で10〜20質量%の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、バインダー中の溶剤の配合量を30質量%未満に低減するために、GPCによる数平均分子量が400未満のノボラック型フェノール樹脂をバインダーの樹脂成分として使用することにより、揮発成分のガス化による組織崩壊を少なくすることができ、耐食性、耐摩耗性を向上させることができ、出銑時間を延長することができるという効果を奏する。また、急加熱時の亀裂の発生を抑制することができ、亀裂への溶銑、スラグの差し込みによる横穴の発生を抑制でき、開孔作業の負担を大幅に軽減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、バインダーとして使用されるフェノール樹脂のGPCによる数平均分子量が400未満であるノボラック型フェノール樹脂70質量%超え90質量%以下と溶剤10質量%以上30質量%未満より構成され、60℃における粘度が1〜3Pa・秒の範囲内にあるものを使用するところに特徴を有する。このようなバインダーを使用することにより、良好な混練性及び充填作業性を溶融金属出湯口用閉塞材に付与することができる。
【0015】
ノボラック型フェノール樹脂のGPCによる数平均分子量が400以上となると、溶融金属出湯口用閉塞材の充填性の確保あるいは製造時の分散性を確保するための粘度を調整するため溶剤を多量に使用する必要がある。そのため、著しく強度が低下し、溶融金属出湯口用閉塞材としての耐食性、耐摩耗性が低下するために好ましくない。また、バインダーの60℃における粘度が1Pa・秒より小さいと、溶融金属出湯口用閉塞材中の耐火骨材を保持するための接着力が弱まり、また、溶融金属出湯口用閉塞材自体の可塑性が低下するために好ましくない。一方、バインダーの60℃における粘度が3Pa・秒より大きい場合には、混練時に均一な混練物を得ることが困難となり、また、実炉で溶融金属出湯口用閉塞材をマッドガンで充填する際に押出抵抗が大きくなり過ぎるために好ましくない。
【0016】
バインダーの60℃における粘度を規定するのは、高炉出銑孔にて使用する際の使用温度が60〜80℃であり、60℃で充填作業性が確保可能な場合は、60℃以上の条件においても充填作業は可能であることによる。よって、60℃での粘度を1〜3Pa・秒に調整するに際し、溶剤添加量を低減させるためには、ノボラック型フェノール樹脂のGPCによる数平均分子量を小さくすることが必要となり、400未満とすることが望ましく、好ましくは200〜350、最も好ましくは250〜320の範囲内である。GPCによる数平均分子量が400以上であると、60℃における粘度を3Pa・秒以下にするためには、30質量%を超える溶剤添加量が必要となり、溶剤添加量の増加により溶融金属出湯口用閉塞材の耐用性が低下するために好ましくない。
【0017】
また、本発明の溶融金属出湯口用閉塞材に使用可能な溶剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、ポリエーテルグリコール等のグリコール類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メトシキブタノール等のエーテル類などを挙げることができ、中でも、エチレングリコールが好ましい。なお、ノボラック型フェノール樹脂と溶剤の混合割合は、ノボラック型フェノール樹脂70質量%超え90質量%未満、好ましくは70〜85質量%、更に好ましくは70〜80質量%、溶剤10質量%以上30質量%未満、好ましくは15質量%以上30質量%未満、更に好ましくは20質量%以上30質量%未満の範囲内である。なお、溶剤の添加量が30質量%以上となると、急加熱時の亀裂の発生が顕著となり、溶融金属出湯口用閉塞材の耐用性が低下することがあるために好ましくなく、また、該添加量が10質量%未満では、バインダーの60℃における粘度を1〜3Pa・秒の範囲内とすることができないために好ましくない。
【0018】
なお、レゾール型フェノール樹脂は、加熱による硬化が著しく、待機中にマッドガン中で溶融金属出湯口用閉塞材が硬化することがあるために併用することは好ましくない。
【0019】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、上述のような構成を有するバインダーの配合量は、耐火骨材に対して外掛で10〜20質量%、好ましくは15〜19質量%の範囲内である。ここで、バインダーの配合量が20質量%を超えると、揮発分が増加するため溶融金属出湯口用閉塞材を加熱後、気孔率が大きくなり、耐用性が劣化するため好ましくなく、また、バインダーの配合量が10質量%未満であると、充分なすべり性を得ることができないため好ましくない。なお、耐火骨材としては、例えば、アルミナ原料、シリカ原料、炭化珪素原料、窒化珪素原料、カーボン原料、粘土原料等の一般的な耐火原料や、ムライト、スピネル、ジルコニア、ジルコン、マグネシア、各種金属等を使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の溶融金属出湯口用閉塞材を更に説明する。
実施例
以下の表1に記載する配合割合にて、原料を配合し、保温装置付きミキサーにて60℃で30分間混練することにより本発明品及び比較品の溶融金属出湯口用閉塞材を得た。
なお、本発明品及び比較品に使用したバインダーA〜Eは、以下の通り:
バインダーA:GPCによる数平均分子量300、溶剤(エチレングリコール)配合量2 3質量%、60℃における粘度=2.5Pa・秒
バインダーB:GPCによる数平均分子量350、溶剤(エチレングリコール)配合量2 5質量%、60℃における粘度=2Pa・秒
バインダーC:GPCによる数平均分子量350、溶剤(エチレングリコール)配合量3 5質量%、60℃における粘度=1Pa・秒
バインダーD:GPCによる数平均分子量500、溶剤(エチレングリコール)配合量5 0質量%、60℃における粘度=1Pa・秒
バインダーE:GPCによる数平均分子量500、溶剤(エチレングリコール)配合量3 0質量%、60℃における粘度=12Pa・秒
【0021】
【表1】

【0022】
表1中、圧縮強さ及び見掛気孔率は、成形圧5MPaで40×40×160mmに成形し、1350℃で3時間還元焼成した試験片について測定したものである。
耐食性試験は、成形圧5MPaで40×40×160mmに成形し、1000℃で3時間還元焼成したものを試験片とし、高周波誘導炉により、銑鉄と高炉スラグを侵食剤として使用し、1550℃で5時間試験を行った後、侵食寸法を測定し、比較品1で得られた試験片の侵食寸法を100とした時の侵食寸法を溶損指数としたものである。なお、溶損指数が小さい程、耐食性が良いことを示す。
急加熱試験は、急加熱時の亀裂の有無を評価するものであり、成形圧5MPaで、60mmφ×200mmに成形した試験片を1550℃の溶銑中に3分間浸漬した後、目視により亀裂の発生状況を評価したものである。○印は、亀裂が少ないを、×印は、亀裂が多いをそれぞれ示す。
【0023】
本発明品1は、上記バインダーAを添加した溶融金属出湯口用閉塞材で、本発明品2は、上記バインダーBを添加した溶融金属出湯口用閉塞材である。本発明品1及び2は、いずれも圧縮強さが30MPaを超えており、充分な強度特性を有している。また、急加熱試験における亀裂の発生も少なく、実炉においても充分な耐用性を有する溶融金属出湯口用閉塞材である。
これに対して、比較品1は、溶剤配合量が35質量%の上記バインダーCを添加した溶融金属出湯口用閉塞材であり、本発明品と比較して見掛気孔率が高く、圧縮強さは低く、急加熱試験において亀裂が多数発生した。
比較品2は、GPCによる数平均分子量が500で、溶剤配合量が50質量%の上記バインダーDを添加した溶融金属出湯口用閉塞材であり、比較品1よりも更に圧縮強さが低く、急加熱試験において亀裂が多数発生した。
比較品3は、GPCによる数平均分子量が500で、溶剤配合量が30質量%の上記バインダーEを添加した溶融金属出湯口用閉塞材であり、比較品2よりも更に圧縮強さが低く、急加熱試験において亀裂が多数発生した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、高炉出銑口閉塞材等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィーによる数平均分子量が400未満のノボラック型フェノール樹脂70質量%超え90質量%以下と、溶剤10質量%以上30質量%未満から構成され、60℃における粘度が1〜3Pa・秒であるバインダーと、耐火骨材から構成されることを特徴とする溶融金属出湯口用閉塞材。
【請求項2】
溶剤は、エチレングリコールである、請求項1記載の溶融金属出湯口用閉塞材。
【請求項3】
バインダーの配合量は、耐火骨材に対して外掛で10〜20質量%の範囲内である、請求項1または2記載の溶融金属出湯口用閉塞材。