説明

溶解性に劣る薬物のためのエマルジョンビヒクル

【課題】安価であり、非刺激的であるか、またはそれ自体が栄養素であって対症的でさえあり、加熱または濾過により最終的に無菌化することが可能であり、管理された保存条件の下で少なくとも1年間安定であり、広範な水不溶性薬物および溶解性に劣る薬物を含む能力があり、かつ実質的にエタノールを含まないエマルジョンビヒクルを提供すること。
【解決手段】α−トコフェロール、1種類以上の界面活性剤、水相、および治療薬を含み、エマルジョンまたはミセル溶液の形態にある医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、1997年1月7日出願の米国仮出願第60/034,188号及び1997年6月6日出願の米国仮出願第60/048,840号に基づく非仮出願である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
数百の医学的に有用な化合物が毎年発見されているが、これらの薬物の臨床使用は、それらをヒト体内のそれらの治療上の標的に搬送する薬物送達ビヒクルが開発される場合にのみ可能である。この問題は、それらの治療上の標的又は投与量への到達に静脈注射を必要とするものの、水不溶性であるか、または水溶性に劣る薬物にとって特に重要である。このような疎水性化合物については直接注射は不可能であるか、もしくは非常に危険を伴うものである可能性があり、溶血、静脈炎、過敏症、器官不全および/または死に到ることがある。このような化合物を、薬学者は、“親油性”、“疎水性”またはそれらの最も困難な形態である“両親媒性”と呼んでいる。
【0003】
これらの範疇の治療用物質の幾つかの例は、イブプロフェン、ジアゼパム、グリセオフルビン、シクロスポリン、コルチゾン、プロロイキン、エトポシドおよびパクリタキセルである。Kagkadis, KAら (1996) PDA J Pharm Sci Tech 50(5):317-323; Dardel, O.1976, Anaesth Scand 20:221-24. Sweetana, SおよびMJU Akers (1996) PDA J Pharm SciTech 50(5):330-342。
【0004】
化学療法剤または抗癌剤の投与には特に問題がある。低溶解度抗癌剤は可溶化することが困難であり、治療上有用な濃度で供給することが困難である。他方、水溶性抗癌剤は一般に癌細胞および非癌細胞の両者によって取り込まれ、それにより非特異性を示す。
【0005】
このような薬剤の水溶性および投与の快適性を改善する試みでは、癌化学療法の2つの根本的な問題:1)非特異的毒性および2)非特異的機構による血流からの急速なクリアランスは解決されておらず、悪化すらしている可能性がある。現在利用可能な化学療法の大部分を形成する細胞毒素の場合、これらの2つの問題は明らかに関連する。治療薬が非癌細胞によって取り込まれると、癌の治療に利用可能なままの薬物の量が減少し、かつ、より重要なことには、その薬物を摂取した正常細胞が死ぬ。
【0006】
癌の治療において有効であるためには、化学療法剤が罹患組織(1つもしくは複数)全体にわたって高濃度で持続的に存在し、その結果癌細胞に取り込まれることが可能ではあるものの、正常細胞が修復の域を超えて傷害を受けるほど高い濃度ではないものでなければならない。明らかに水溶性分子はこのように投与することができるが、それはゆっくりとした、継続的な注入および監視によるもののみであり、大きな困難を伴い、経費がかさみ、かつ不便であるという側面がある。
【0007】
癌治療薬、特に細胞毒素を投与するより有効な方法は、その薬物が溶解する油の分散液の形態でのものである。これらの油性粒子は電気的に中性に作製され、それらが血漿タンパク質と相互作用せず、かつ細網内皮系(RES)によって捕獲されることがなく、それどころか数時間、数日、あるいは数週間ですら組織または血液中で本来のままであるように被覆される。ほとんどの場合、癌の部位に注入された粒子がそれを取りまくリンパ節にも分布することが望ましい。Nakamoto,Yら (1975) Chem Pharm Bull 23(10):2232-2238。Takahashi, Tら (1977) Tohoku J ExpMed 123:235-246。多くの場合、血液への直接注入が選り抜きの投与経路である。より好ましくは、静脈注射に続いて、血液由来の粒子が癌細胞自身によって優先的に捕獲されて摂取される。化学療法剤を送達するための粒子状エマルジョンのさらなる利点は、エマルジョンに用いられる界面活性剤の多剤耐性を克服する広範な特性である。
【0008】
水溶液として処方することができない薬物に対しては、典型的にはエマルジョンが最も対費用効果が高く、かつ投与する上で扱いやすいが、それらを静脈注射によって投与することができるように無菌かつ内毒素非含有とする上で深刻な問題がある。医用エマルジョンに典型的に用いられる油にはトリグリセリドの集団からのケン化可能な油、例えば、大豆油、胡麻油、綿実油、紅花油等が含まれる。Hansrani, PKら, (1983) J Parenter Sci Technol 37:145-150。1種類以上の界面活性剤がエマルジョンを安定化するために用いられ、エマルジョンをより生体適合性にし、安定にし、かつ毒性を低下させるために賦形剤が添加される。卵黄または大豆に由来するレシチンは通常用いられる界面活性剤である。無菌製造は、製造に先立つ全ての成分の完全な滅菌とそれに続く製造の全ての段階での完全な無菌技術によって達成することができる。しかしながら、衛生的な製造の後に、加熱または濾過のいずれかにより最終的に滅菌することで、製造の容易さおよび無菌性の確かさが改善される。残念なことに、全てのエマルジョンが加熱または濾過処理に適するわけではない。
【0009】
エマルジョンのサイズおよび均一性によって安定性が影響を受けることが示されている。好ましいエマルジョンは、200ナノメーター以下の平均サイズを有するサブミクロン粒子の懸濁液からなる。このサイズ範囲での安定な分散は容易に達成されるものではないが、血流中をより長期間循環することが期待されるという利点を有する。さらに、安定な分散は細網内皮系による非特異的な食作用を受けることが少ない。その結果、薬物がその治療上の標的により到達するものと考えられる。このように、好ましい薬物エマルジョンは標的細胞または器官によって積極的に取り込まれ、かつRESの標的とならないように設計される。
【0010】
エマルジョンにおけるビタミンEの使用は公知である。エマルジョンにおいて少量の[例えば1%未満、RT Lyons. Pharm Res 13(9):S-226,(1996)“Formulation development of an injectable oil-in-water emulsioncontaining the lipophilic antioxidants K-tocopherol and P-carotene”]ビタミンEを酸化防止剤として用いる数百の例に加えて、最初の原始的な注射可能なビタミンEエマルジョンそれ自体が、Hidiroglouにより、ヒツジにおける食餌の補足ならびにビタミンEおよびその誘導体の薬物動力学に関する研究のために作製された。HidiroglouMおよびKarpinski K. (1988) Brit J Nutrit 59:509-518。
【0011】
マウスに対しては、ビタミンEの注射可能な形態がKatoおよびその共同研究者によって調製された。Kato Y.ら (1993) Chem Pharm Bull41(3):599-604。Tween 80、Brij 58およびHCO−60を用いてミセル溶液を処方した。イソプロパノールを共溶媒として用いた後、真空蒸発により除去した:次に、残留油ガラス状物を、渦攪拌しながらミセル懸濁液として水中にとった。また、ビタミンEを大豆ホスファチジルコリン(レシチン)および大豆油を用いて溶解することによってもエマルジョンを調製した。水を添加し、超音波処理することによりエマルジョンを調製した。
【0012】
1983年に、E−Ferol、ビタミンEエマルジョンが新生児のビタミンEの補足および治療に導入された。AladeSLら (1986) Pediatrics 77(4):593-597。数ヶ月のうちに30人を超える乳児がこの製品を摂取した結果として死亡し、この製品はFDAの命令により即座に回収された。25mg/mLのビタミンEを乳化するためにE-Ferolにおいて用いられた界面活性剤混合物は9%Tween 80および1%Tween 20からなるものであった。最終的に、これらの界面活性剤がこの不幸な死の原因であったと考えられている。この実験は改善された製剤の必要性ならびに適切な生体適合性界面活性剤の選択および非経口性エマルジョンにおけるそれらの濃度の慎重な監視の重要性を示している。
【0013】
低溶解度化合物を可溶化する代わりの手段は、非水性環境、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ジメチルスルホキシドまたはトリアセチンにおける直接可溶化である。PCT出願WO95/11039における例では、エタノールおよび免疫抑制剤分子シクロスポリンとの組み合わせでのビタミンEおよびビタミンE誘導体TPGSの使用が記載されている。アルコール含有溶液は注意を払えば投与することができるが、典型的には、これらの溶液の大量瞬時注射に関連する痛み、血管の刺激および毒性を回避するため点滴により投与される。
【0014】
非水性溶媒および可溶化剤、例えば、アルコール(エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール等)中の医薬製剤に関する問題は、これらの溶媒がそれらの容器から毒性物質、例えば、可塑剤を抽出する能力に関係する。例えば、抗癌剤パクリタキセルの現在市販されている製剤は、ヒドロキシル化ヒマシ油およびエタノールの混合物からなり、通常用いられる静脈注入管およびバッグからジ−(2−エチルヘキシル)−フタレートのような可塑剤を抽出する。これらの可塑剤に対する有害反応、例えば、呼吸困難が報告されており、余計な費用および時間をかけて特別な注入システムを用いる必要がある。Waughら(1991) Am J Hosp Pharmacists 48:1520。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これらの問題を考慮すると、理想的なエマルジョンビヒクルは安価であり、非刺激的であるか、またはそれ自体が栄養素であって対症的でさえあり、加熱または濾過により最終的に無菌化することが可能であり、管理された保存条件の下で少なくとも1年間安定であり、広範な水不溶性薬物および溶解性に劣る薬物を含む能力があり、かつ実質的にエタノールを含まないものであることがわかる。親油性であって油に溶解する薬物に加えて、脂質および水中における溶解性に劣る薬物を安定化し、かつエマルジョンの形態でそれを担持するビヒクルも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明により、例えば、以下が提供される。
(1) α−トコフェロール、
1種類以上の界面活性剤、
水相、および
治療薬
を含み、エマルジョンまたはミセル溶液の形態にある医薬組成物。
(2) 前記界面活性剤がα−トコフェロール誘導体である項目1の組成物。
(3) 前記ビタミンE誘導体がα−トコフェロールおよびポリエチレングリコールのエステルまたはエーテルである項目2の組成物。
(4) 前記ビタミンE誘導体がTPGSである項目2の組成物。
(5) α−トコフェロールのTPGSに対する比が約1:1ないし約10:1w/wである項目4の組成物。
(6) 更に第2の界面活性剤を含み、該第2の界面活性剤が少なくとも10のHLBを有する項目5の組成物。
(7) 前記第2の界面活性剤がアニオン性、カチオン性、非イオン性および両イオン性界面活性剤からなる群より選択される項目6の組成物。
(8) 前記第2の界面活性剤がポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール非イオン性ブロック共重合体、アスコルビン酸−6−パルミテート、ステアリルアミンおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される項目7の組成物。
(9) 前記第2の界面活性剤がアスコルビン酸−6−パルミテートである項目8の組成物。
(10) 前記第2の界面活性剤が下記構造を有する項目8の組成物。
【0017】
OH(OCH2CH2a(OCH2CH2CH2b(OCH2CH2aH
(ここで、aは101であり、bは56である)
(11) 前記治療薬が化学療法剤である項目1の組成物。
(12) 前記化学療法剤がタキソイド分子である項目11の組成物。
(13) 前記タキソイド分子がパクリタキセルである項目12の組成物。
(14) 前記エマルジョンの粒径が10ないし500nmである項目1の組成物。
(15) α−トコフェロール、
1種類以上の界面活性剤、および
治療薬
を含み、自己乳化型薬物送達系の形態にあり、かつ実質的にエタノールを含まない医薬組成物。
(16) 前記治療薬が化学療法剤である項目15の組成物。
(17) 前記化学療法剤がタキソイド分子である項目6の組成物。
(18) 前記タキソイド分子がパクリタキセルである項目7の組成物。
(19) 前記界面活性剤がビタミンE誘導体である項目15の組成物。
(20) 前記ビタミンE誘導体がビタミンEおよびポリエチレングリコールのエステルまたはエーテルである項目19の組成物。
(21) 前記ビタミンE誘導体がTPGSである項目19の組成物。
(22) α−トコフェロールのTPGSに対する比が約1:1ないし約10:1w/wである項目21の組成物。
(23) 前記自己乳化型薬物送達系の粒径が約10ないし約500nmである項目15の組成物。
(24) エマルジョンの製造方法であって、
a)治療薬をエタノールに溶解して治療薬溶液を形成し;
b)α−トコフェロールを該治療薬溶液に添加してα−トコフェロール治療薬溶液を形成し;
c)該エタノールを該α−トコフェロール治療薬溶液から除去してそこに含まれるエタノール濃度を0.3%未満に減少させ;
d)該実質的にエタノールを含まない治療薬溶液を界面活性剤と配合してプレエマルジョンを形成し;および
e)該プレエマルジョンを均質化してエマルジョンを形成する、
ことを包含する方法。
【0018】
発明の要約
これらの必要性を満たすため、本発明は、α−トコフェロール、界面活性剤もしくは界面活性剤の混合物を含み、水相を伴ったり伴わなかったりし、かつ治療薬を含む医薬組成物であって、エマルジョン、ミセル溶液または自己乳化型薬物送達系の形態にある医薬組成物に向けられている。好ましい形態において、この溶液は実質的にエタノールを含まない。
【0019】
この医薬組成物は、アニオン性、非イオン性、カチオン性および両イオン性界面活性剤を含む様々な両親媒性分子を添加することにより安定化することができる。好ましくは、これらの分子はPEG化界面活性剤および最適にPEG化されたα−トコフェロールである。
【0020】
両親媒性分子には、さらに、アスコルビン酸−6−パルミテート;ステアリルアミン;ショ糖脂肪酸エステル、様々なビタミンE誘導体およびフッ素含有界面活性剤、例えばZonylブランドのシリーズ、およびポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール非イオン性ブロック共重合体のような界面活性剤が含まれる。
【0021】
このエマルジョンの治療薬は化学療法剤、好ましくはタキソイド類似体、より好ましくはパクリタキセルであり得る。
【0022】
本発明のエマルジョンは、エマルジョンまたはミセル溶液の形態である場合、水性媒体を含むことができる。この媒体は、エマルジョンを安定化し、または製剤を生体適合性とするのを補助するために、様々な添加物を含むことができる。
【0023】
本発明の医薬組成物は、典型的には、治療薬をエタノールに溶解して治療薬溶液を形成することにより形成する。その後、α−トコフェロールをこの治療薬溶液に添加してα−トコフェロールおよび治療薬の溶液を形成する。次に、エタノールを除去して実質的にエタノールを含まないα−トコフェロールおよび治療薬の溶液を形成する。この実質的にエタノールを含まないα−トコフェロールおよび治療薬の溶液を、水相と共に混合し、または水相なしで界面活性剤を配合してプレエマルジョンを形成する。IV送達においては、このプレエマルジョンを次に均質化して微細エマルジョンを形成する。経口送達においては、このプレエマルジョンを、典型的には、ゼラチンカプセルに封入する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の完全な理解を確かなものとするため、以下の定義を示す。
【0025】
α−トコフェロール:α−トコフェロール、別名ビタミンEは以下の化学構造(スキームI)を有する有機分子である。
【0026】
【化1】

主溶媒としてのその使用に加えて、α−トコフェロールおよびその誘導体は治療薬として有用である。
【0027】
界面活性剤:化学的プロセスによって製造され、または天然資源もしくはプロセスから精製される両親媒性分子の表面活性基。これらはアニオン性、カチオン性、非イオン性、および両イオン性であり得る。典型的な界面活性剤は、Emulsions: Theory and Practice, Paul Becher, Robert E. KriegerPublishing, Malabar, Florida, 1965;Pharmaceutical Dosage Forms: DispersedSystems Vol.I, Martin M. Rigear, Surfactantsおよび本発明の譲受人、Sonus Pharmaceuticalsに譲渡されている米国特許第5,595,723号に記載されている。これらの参考文献の全ては参照により組み入れる。
【0028】
TPGS:TPGS、すなわちPEG化ビタミンEは、ポリエチレングリコールサブユニットがコハク酸ジエステルによりビタミンE分子の環ヒドロキシルに結合するビタミンE誘導体である。TPGSはコハク酸D−α−トコフェロールポリエチレングリコール1000(MW=530)の略語である。TPGSはスキームIIの構造を有する非イオン性界面活性剤(HLB=16−18)である。
【0029】
【化2】

様々な化学的部分のエステルおよびエーテル結合を含むビタミンE TPGSの様々な化学的誘導体がビタミンE TPGSの定義に含まれる。
【0030】
ポリエチレングリコール:ポリエチレングリコール(PEG)はエチレングリコールの親水性重合形態であり、化学構造(CH2−CH2−O−)の反復単位からなる。
【0031】
AUC:AUCは血漿濃度−時間の下側の面積であり、薬物動力学において薬物吸収および排除のパーセンテージを定量するのに通常用いられるものである。高AUCは、一般に、その薬物が標的組織または器官にうまく到達することを示す。
【0032】
PoloxamerまたはPluronicは、下記一般構造を有するエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの合成ブロック共重合体である。
【0033】
OH(OCH2CH2a(OCH2CH2CH2b(OCH2CH2aH
aおよびbの値に基づく以下の変種をBASFPerformance Chemicals(Parsippany, New Jersey)から商品名Pluronicで購入することができ、これらはPoloxamer108、188、217、237、238、288、338、407、101、105、122、123、124、181、182、183、184、212、231、282、331、401、402、185、215、234、235、284、333、334、335、および403のCTFA名で命名された界面活性剤の群からなる。最も一般的に用いられるpoloxamer124、188、237、338および407については、aおよびbの値はそれぞれ12/20、79/28、64/37、141/44および101/56である。
【0034】
SolutolHS−15はBASF(Parsippany、NJ)によって製造されるポリエチレングリコール660ヒドロキシステアレートである。遊離ポリエチレングリコールおよびモノエステルを別にすると、ジエステルを検出することもできる。製造者によると、SolutolHS−15の典型的なロットは約30%の遊離ポリエチレングリコールおよび70%のポリエチレングリコールエステルを含む。
【0035】
他の界面活性剤:本発明において有用な他の界面活性剤にはアスコルビン酸−6−パルミテート(Roche Vitamins, Nutley NJ)、ステアリルアミン、およびショ糖脂肪酸エステル(MitsubishiChemicals)が含まれる。あつらえの界面活性剤には極性の親水性頭部および疎水性尾部を有する化合物、例えば、環ヒドロキシルに結合するペプチド結合ポリグルタメートを含むビタミンE誘導体およびPEG化植物ステロールが含まれる。
【0036】
親水性・疎水性バランス:界面活性剤の指標を示すのに用いられる経験式。その値は1−45で変化し、非イオン性界面活性剤の場合には約1−20である。一般には、親油性界面活性剤についてはHLBは10未満であり、親水性のものについてはHLBは10を上回る。
【0037】
生体適合性:過度の毒性または生理学的もしくは薬理学的効果を示すことなく、生きている生物の体内もしくは体表面において許容し得る様式で機能を発揮することができること。
【0038】
実質的にエタノールを含まない:エタノール濃度が約1.0%(w/v)エタノール未満である組成物。
【0039】
エマルジョン:液滴の形態の2種類の非混和性液体のコロイド状分散液であって、その液滴の直径は一般に0.1ないし3.0ミクロンであり、かつ分散相および連続相の屈折率が一致しない限り典型的には光学的に不透明である。このような系は、一般には用途または関連参照系によって定義される有限の安定性を有し、これは両親媒性分子または粘度増強剤を添加することにより高めることができる。
【0040】
マイクロエマルジョン:界面活性剤分子の界面膜によって安定化された、2種類の非混和性液体、例えば油および水の、熱力学的に安定で等方的に透明な分散液。マイクロエマルジョンは200nm未満、一般には10−50nmの平均液滴径を有する。水が存在しない状態で、油(1種類もしくは複数種類)および非イオン性界面活性剤(1種類もしくは複数種類)の混合液は透明かつ等方性の溶液を形成し、これは自己乳化型薬物送達系(SEDDS)として知られ、親油性薬物の溶解および経口吸収の改善に用いられて成功している。
【0041】
水性媒体:水含有液体であって、これは製薬上許容し得る添加物、例えば、酸性化剤、アルカリ化剤、緩衝剤、キレート剤、錯化剤および可溶化剤、酸化防止剤および抗菌性保存剤、湿潤剤、懸濁剤および/または粘度調整剤、張性および湿潤性もしくは他の生体適合性物質を含むことができる。
【0042】
治療薬:生物学的活性を有し、油相に可溶であり、かつ水相よりもむしろ油相に優先的に溶解することを確実にするために少なくとも2のオクタノール−緩衝液分配計数(Log P)を有する、天然もしくは合成のあらゆる化合物。これにはペプチド、非ペプチドおよびヌクレオチドが含まれる。水溶性分子の脂質結合体/プロドラッグが治療薬の範囲内にある。
【0043】
化学療法剤:癌の1つ以上の形態に対して有効であるあらゆる天然もしくは合成分子、特には、僅かにもしくは完全に親油性であるか、または親油性になるように修飾することが可能な分子。この定義には、それらの作用機構により細胞傷害性である分子(抗癌剤)、免疫系を刺激するもの(免疫刺激剤)および血管形成のモジュレーターが含まれる。いずれの場合においても、その結果は癌細胞の成長速度の低下である。
【0044】
化学療法剤にはまとめてタキソイド(taxoid)、タキシン(taxine)、タキサン(taxane)と呼ばれるタキソール(パクリタキセル)および関連分子が含まれる。パクリタキセルの構造を以下の図(スキームIII)に示す。
【0045】
【化3】

癌細胞の成長を低下させるのに有効であり、かつ油(脂質相)への分配が示され得るような基本環構造(タキソイド核)への様々な修飾および結合が“タキソイド”の定義に含まれ、これらは当業者に公知の有機化学技術で構築することができる。タキソイド核の構造をスキームIVに示す。
【0046】
【化4】

化学療法剤にはポドフィロトキシンならびにそれらの誘導体および類似体が含まれる。これらの分子の核環構造を以下の図(スキームV)に示す。
【0047】
【化5】

本発明において有用な、他の重要なクラスの化学療法剤は、その基本環構造が以下の図に示されるカンプトテシンであるが、以下に示される分子(スキームVI)の有効性を保持し、かつその親油性を保存するこの基本構造のあらゆる誘導体および修飾物が含まれる。
【0048】
【化6】

本発明において有用な、他の好ましいクラスの化学療法剤は親油性アントラサイクリンであり、その基本環構造を以下の図(スキームVII)に示す。
【0049】
【化7】

スキームVIIの適切な親油性修飾には環ヒドロキシル基または糖アミノ基での置換が含まれる。
【0050】
他の重要なクラスの化学療法剤は親油性である化合物、又は当業者に公知の分子化学合成修飾により、例えば、無作為配列化学および分子モデリングにより親油性にすることができる化合物であり、以下のリストから選び出される:タキソテール、アモナファイド(Amonafide)、イリュージンS(Illudin S)、6−ヒドロキシメチルアシルフルベンブリオスタチン1(6-hydroxymethylacylfulveneBryostatin 1)、26−スクシニルブリオスタチン1、パルミトイルリゾキシン(Palmitoyl Rhizoxin)、DUP941、マイトマイシンB、マイトマイシンC、ペンクロメジン(Penclomedine)、インターフェロンα2b、血管形成阻害化合物、シスプラチン疎水性錯体、例えば、2−ヒドラジノ−4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾールと塩化白金および5−ヒドラジノ−3,4−ジヒドロ−2H−ピロールと塩化白金、ビタミンA、ビタミンEおよびその誘導体、特にはコハク酸トコフェロール。
【0051】
本発明において有用な他の化合物には、1,3−ビス(2−クロロエチル)−1−ニトロスウレア(“カルムスチン”または“BCNU”)、5−フルオロウラシル、ドキソルビシン(“アドリアマイシン”)、エピルビシン、アクラルビシン、ビスアントレン(Bisantrene)(ビス(2−イミダゾレン−2−イルヒドラゾン)−9,10−アントラセンジカルボキサルデヒド、ミトキサントロン、メトトレキセート、エダトレキセート(edatrexate)、ムラミルトリペプチド、ムラミルジペプチド、リポ多糖、9−b−d−アラビノフラノシルアデニン(“ビダラビン”)およびその2−フルオロ誘導体、レスベラトロール(resveratrol)、レチノイン酸およびレチノール、カロテノイド、ならびにタモキシフェンが含まれる。
【0052】
本発明の適用において有用な他の化合物には、パルミトイルリゾキシン、DUP941、マイトマイシンB、マイトマイシンC、ペンクロメジン、インターフェロンα2b、デカルバジン、ロニダミン(Lonidamine)、ピロキサントロン(Piroxantrone)、アントラピラゾール、エトポシド、カンプトテシン、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、カンプトテシン11(“イリノテカン”)、トポテカン(Topotecan)、ブレオマイシン、ビンカアルカロイドおよびそれらの類似体[ビンクリスチン、ビノレルビン(Vinorelbine)、ビンデシン、ビントリポール(Vintripol)、ビンキサルチン(Vinxaltine)、アンシタビン]、6−アミノクリセン(6−aminochrysene)、およびナベルビン(navelbine)が含まれる。
【0053】
本発明の適用において有用な他の化合物はタキソールの模倣体、エレウテロビン(eleutherobins)、サルコジクチイン(sarcodictyins)、ジスコダーモライド(discodermolides)およびエポチオロン(epothiolones)である。
【0054】
これらの定義を考慮して、本発明は、実質的にエタノール溶媒を含まないエマルジョン、ミセル溶液または自己乳化型薬物送達系の形態である医薬組成物に関する。
【0055】
本発明の組成物を含む治療薬は、最初は、エタノールに可溶化することができる。しかしながら、実質的にエタノールを含まない組成物を形成するためエタノールは除去する。エタノール濃度は1%(w/v)未満、好ましくは0.5%未満、最も好ましくは0.3%未満である。治療薬はメタノール、プロパノール、クロロホルム、イソプロパノール、ブタノールおよびペンタノールに可溶化することもできる。これらの溶媒も使用前に除去する。
【0056】
本発明の組成物はα−トコフェロールを治療薬の担体として含み、これは血管内、経口、筋肉内、皮膚および皮下経路により動物またはヒトに投与することができる。具体的には、これらのエマルジョンはとりわけ以下の経路のいずれかにより投与することができる:腹腔内(intraabdominal)、動脈内、関節内、嚢内、頚椎内、頭蓋内、管内、硬膜内、病変内、小室内、腰椎内、壁内、眼内、術中、頭頂骨内(intraparietal)、腹膜内(intraperitoneal)、胸膜腔内、肺内、脊髄内、胸腔内、気管内、中耳内、子宮内、および室内。本発明のエマルジョンは、親油性化合物を肺送達するために当該技術分野において公知である適切なエアロゾル噴霧剤を用いて、噴霧することができる。
【0057】
第1の態様において、本発明は、水不溶性治療薬、水溶性に劣る治療薬、水溶性に劣るように修飾されている水溶性治療薬またはそれらの混合物を含むエマルジョンの疎水性分散相としてのα−トコフェロールの使用に関する。ビタミンEとも呼ばれるα−トコフェロールは典型的な脂質油ではない。これは、大部分の脂質油、特にトリグリセリドよりも高い極性を有し、ケン化することができない。これには、事実上、水中での溶解性はない。
【0058】
第2の態様において、本発明は自己乳化型系の形態にあるα−トコフェロールエマルジョンであり、この系は必要により水不溶性薬物(または水溶性に劣るもしくは水溶性に劣るように修飾されている水溶性薬物またはそれらの混合物)の経口投与に用いられる。この実施形態においては、界面活性剤および薬物もしくは薬物混合物を含む油相を柔らかいもしくは硬いゼラチンカプセルに封入する。40乃至60℃の範囲の融点を有する適切な凝固剤、例えば高分子量ポリエチレングリコール(MW>1000)、およびグリセリド、例えば商品名Gellucires(GattefoseCorp. Saint Priest、フランス)で入手可能なもの、を添加して、その製剤を高温で硬いゼラチンカプセルに充填することができる。室温での平衡状態では半固体製剤が形成される。胃および十二指腸でゼラチンが溶解すると、油が放出され、2−5ミクロンの平均液滴径を有する微細エマルジョンが自然に形成される。次に、このエマルジョンが腸の微絨毛によって取り込まれ、血流中に放出される。
【0059】
第3の態様において、本発明はα−トコフェロールを含むマイクロエマルジョンを包含する。マイクロエマルジョンとは、そのエマルジョン懸濁液が、その中に分散された油/薬物の微小凝集体のサイズが非常に小さいために、本質的に透明で、恒久的に安定であるような、エマルジョンのサブクラスを指す。
【0060】
本発明の第4の態様においては、PEG化ビタミンE(TPGS)が主要界面活性剤としてビタミンEのエマルジョンにおいて用いられる。PEG化ビタミンEは主要界面活性剤、安定化剤およびビタミンEのエマルジョンの補助溶媒としても用いられる。ポリエチレングリコール(PEG)も本発明のエマルジョンにおける二次的溶媒として有用である。
【0061】
本発明のエマルジョンのα−トコフェロール濃度は約2乃至約10%w/vであり得る。α−トコフェロールのTPGSに対する比は、最適には、約1:1乃至10:1(w/w)である。
【0062】
本発明のエマルジョンは、界面活性剤、例えば、アスコルビン酸-6-パルミテート;ステアリルアミン;ショ糖脂肪酸エステル、およびニコチン酸α−トコフェロール、リン酸トコフェロールを含む様々なビタミンE誘導体、ならびにフッ素含有界面活性剤、例えばZonylブランドシリーズ、およびポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコール非イオン性ブロック共重合体を含む非イオン性合成界面活性剤混合物をさらに含むことができる。
【0063】
本発明のエマルジョンは水性媒体を含むことができる。水相は約300mOsmの重量モル浸透圧濃度を有し、塩化カリウムもしくはナトリウム、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールアルブミン、ポリペプ(polypep)およびそれらの混合物を含むことができる。この媒体は、エマルジョンを安定化し、または製剤を生体適合性とするのを補助するために、様々な添加物を含むこともできる。許容し得る添加物には、酸性化剤、アルカリ化剤、抗菌性保存剤、酸化防止剤、緩衝剤、キレート剤、懸濁剤および/または増粘剤、および張性剤が含まれる。好ましくは、pH、張性を制御する薬剤、および粘度を増加させる薬剤を含む。最適には、粘度をも増加させる薬剤、例えば、ソルビトールまたはショ糖で少なくとも250mOsmの張性を達成する。
【0064】
静脈内注射用の本発明のエマルジョンは、10乃至500nm、好ましくは10乃至200nm、最も好ましくは10乃至100nmの粒径を有する。静脈内エマルジョンについては、脾臓および肝臓がRES(網内細胞系)を介してサイズが500mnを上回る粒子を排除する。
【0065】
本発明の好ましい形態にはパクリタキセル、子宮癌および他の癌腫の治療において用いられる水に殆ど溶けない細胞毒素が含まれる。本発明のエマルジョン組成物は、20mg/mlまでの濃度のパクリタキセル(これは、処方箋で現在利用可能であるものの4倍にあたる)および生体適合性界面活性剤を含有するビタミンEの溶液を、エマルジョンの微小液滴が0.2ミクロン未満であり、かつ最終的に濾過によって無菌化できるように含む。
【0066】
本発明のさらなる実施形態は癌腫の治療方法であって、PEG化ビタミンEを含んでいてもいてなくてもよいビタミンEエマルジョン中のパクリタキセルを、毎日または2日毎に1回、数週間の治療過程にわたって静脈注射による非経口投与により大量瞬時投与することを包含する方法である。このような方法は乳癌、肺癌、皮膚癌および子宮癌の治療に用いることができる。
【0067】
本発明の一般的な原理は、以下の非限定的な例を参照することによってより十分に理解することができる。
【実施例】
【0068】
実施例1
α−トコフェロールへのパクリタキセルの溶解
α−トコフェロールはSigma Chemical Company(St Louis, MO)から、フィトールから調製された純度95%の合成dl−α−トコフェロールの形態で入手した。この油は琥珀色であり、非常に粘性であった。パクリタキセルはHauserChemical Research(Boulder, CO)から購入し、HPLCで99.9%の純度であった。パクリタキセル200mgを6mLの乾燥無水エタノール(SpectrumChemical Manufacturing Corp、Gardenia CA)に溶解し、1gmのα−トコフェロールに添加した。次に、エタノールを、真空により42℃で、残渣が一定の重量になるまで除去した。別々の研究により、エタノール含量が0.3%(w/v)未満であることが示された。
【0069】
得られた溶液は透明な琥珀色で、非常に粘性であり、α−トコフェロール中のパクリタキセルの名目上の濃度は200mg/gm(w/w)であった。より高濃度のパクリタキセル(400mg/gm、w/wまで)をα−トコフェロールに可溶化することができる。
【0070】
実施例2
α−トコフェロールエマルジョンを調製するのに用いられるアニオン性界面活性剤
実施例1に記載される通りに調製したα−トコフェロール10gm中に2gmのパクリタキセルを、パルミチン酸アスコルビルをトリエタノールアミン塩として用いて、以下の方法により乳化した。20mMのアスコルビン酸からなる溶液を、トリエタノールアミンを遊離塩基として用いてpH6.8に緩衝し、2×緩衝液を形成した。この2×緩衝液50mLをWaringブレンダーに入れた。0.5gmのアスコルビン酸-6-パルミテート(RocheVitamins and Fine Chemicals、Nutley NJ)、アニオン界面活性剤、を添加し、その溶液を高速で2分間、アルゴンの下40℃でブレンドした。次に、パクリタキセルを含有するα−トコフェロールを、界面活性剤および緩衝液を収容するこのブレンダーに添加した。アルゴンの下、約1分後に粗製乳状プレエマルジョンが得られるまで、40℃で混合を継続した。次いで注射用水を添加し、最終容積を100mLとした。
【0071】
このプレエマルジョンを、Microfluidizer Model 110Y(Microfluidics Inc、Newton MA)の供給容器に移した。そのユニットを浴に浸漬して約60℃の処理温度を均質化の間維持し、使用に先立ってアルゴンでフラッシュした。プライミングの後、連続再循環で10分間、相互作用ヘッド全体にわたって約18kpsiの圧力勾配で、エマルジョンをホモジナイザーに通した。流速は約300mL/分であったが、これは約25回ホモジナイザーを通過したことを示す。
【0072】
得られたα−トコフェロールビヒクル中のパクリタキセルエマルジョンをアルゴンの下で琥珀色のバイアルに詰め、7℃で冷蔵し、および25℃で保存した。粒子径測定および化学分析のため、不連続の間隔でサンプルを採取した。
【0073】
NicompModel 370 Submicron Particle Sizer(Particle Sizing Systems Inc、Santa Barbara CA)で測定したデータにより、このエマルジョンが280nmの平均粒径を有することが示された。
【0074】
実施例3
PEG化ビタミンE(TPGS)の使用
α−トコフェロール、PEG化ビタミンE(TPGS、ビタミンEポリオキシエチレングリコール−1000-スクシネート、Eastman Chemical Co.、KingsportTNから入手)、および水の三相図を構築した。まず、TPGSを42℃で溶融し、α−トコフェロールと、TPGSを1乃至100%として残りをα−トコフェロールとする様々な割合で重力により混合させた。混合物はすべての濃度で混和性であった。次に、水を各混合物に、水の濃度がゼロから97.5%まで段階的に増加するように添加した。各段階で、混合物の相の挙動を観察した。適当に、ボルテックスおよび音波処理により混合を行い、混合物を加熱または遠心してその相組成を評価した。
【0075】
非経口投与に適する二相o/wエマルジョンの広範な領域が、80%を上回る水濃度で見出された。形成されたエマルジョンは、非イオン性界面活性剤で安定化された分散α−トコフェロール微粒子を含む乳白色の自由流動液体であった。この領域でも、薬物担体として潜在的に適するマイクロエマルジョンも約1:1を上回るTPGS対油比で観察された。より少ない水含量では、透明ゲル(逆エマルジョン)を含む広範な領域が注目された。これらの2つの領域(高および低水含量)を分離するのは、不透明な石鹸様液晶を含んでなる領域である。
【0076】
α−トコフェロールと界面活性剤との組み合わせ、例えば、TPGSと非イオン性、アニオン性もしくはカチオン性共界面活性剤(例えば、ステアリン酸グルタミル、アスコルビン酸パルミテートもしくはプルロニックF−68(PluronicF-68))、または薬物との相図を同様の方法で準備することができる。
【0077】
実施例4
パクリタキセルの静脈内送達のためのα−トコフェロールエマルジョン
以下の組成の製剤を調製した:
パクリタキセル 1.0gm%
α−トコフェロール 3.0gm%
TPGS 2.0gm%
アスコルビン酸-6-パルミテート 0.25gm%
ソルビトール 5.0gm%
トリエタノールアミン pH6.8まで
水 全量 100mL。
【0078】
調製方法は以下の通りであった:合成α−トコフェロール(Roche Vitamines、Nutley NJ)、パクリタキセル(Hauser、Boulder CO)、アスコルビン酸-6-パルミテート(AldrichChemical Co、Milwaukee WI)およびTPGSを容量10の無水未変性エタノール(Spectrum Quality Products、GardeniaCA)に、40−45℃に加熱しながら溶解した。次に、エタノールを真空で、残量が0.3重量%以下となるまで除去した。
【0079】
生体適合性オスモライトおよび緩衝液を含む予め暖めた水溶液を穏やかに攪拌しながら添加したところ、白色の乳液が直ちに形成された。この混合物を、40−45℃で継続的に暖めながら10分間穏やかに回転させることによりさらに改善した。その後、約pH7のこの予備混合物を以下に記載される通りにさらに乳化した。
【0080】
40−45℃の予備混合物を、AvestinC5ホモジナイザー(Avestin、オタワ、カナダ)において26Kpsiで12分間、44℃で均質化した。得られた混合物は約200nmの平均サイズを有するα−トコフェロールの微粒子を含んでいた。トリエタノールアミン(SpectrumQuality Products)のアルカリ性1M溶液でさらにpHを調整した。
【0081】
乳化の早期段階でのTPGSのゲル化を回避するため、すべての操作は約40℃を上回る温度で行い、混合物を収容するすべての容器にカバーをすることにより溶液が冷気に晒されることを回避するように注意を払った。第2に、一般には、TPGSの2%未満を予備乳化の前にα−トコフェロール油に溶解し、残余のTPGSはプレエマルジョンを調製する前にまず水性緩衝液に溶解するべきである。この溶液は2%を上回るTPGS濃度でゲル化する。
【0082】
次に、このエマルジョンの物理的安定性を、複数のバイアルを4℃および25℃で保存することにより試験した。数ヶ月にわたり、粒径測定のためにバイアルを周期的に抜き取った。Nicomp Model370(Particle Sizing Systems、Santa Barbara CA)で決定した平均粒径を、2種類の保存温度について、図1に示す。粒径分布は双峰性であった。
【0083】
実施例5
α−トコフェロールエマルジョン中のパクリタキセルの化学的安定性
乳化の後、実施例4の製剤をパクリタキセルについてPhenospherCNカラム(5ミクロン、150×4.6mm)で分析した。移動相はメタノール/水勾配からなり、流速1.0mL/分であった。230nmに設定されたUV検出器をパクリタキセルの検出および定量に用いた。単一のピークが検出され(図2)、その保持時間および質量スペクトルグラムはHauserChemical(Boulder CO)から入手したもとの参照パクリタキセルと一致した。
【0084】
実施例4のエマルジョンの化学的安定性を保存の間HPLCで調べた。図3のデータは、保存温度に関わりなく、少なくとも3ヶ月の期間パクリタキセルがエマルジョン中で安定のままであることを示す。まとめると、図2および3のデータは、4℃で保存した場合に少なくとも3ヶ月の期間、薬物の効力およびエマルジョンの安定性がうまく保持されることを示す。
【0085】
実施例6
パクリタキセルエマルジョン製剤QWA
以下の組成を有する、静脈内薬物送達用のパクリタキセル10mg/mlのエマルジョンを実施例4に記載される通りに調製した。
【0086】
パクリタキセル 1.0gm%
α−トコフェロール 3.0gm%
TPGS 1.5gm%
アスコルビン酸-6-パルミテート 0.25gm%
ソルビトール 4.0gm%
トリエタノールアミン pH6.8まで
水 全量 100mL。
【0087】
実施例7
パクリタキセルエマルジョン製剤QWB
以下の組成を有する、静脈内薬物送達用のパクリタキセル10mg/mlの第2のエマルジョンを実施例4に記載される通りに調製した。
【0088】
パクリタキセル 1.0gm%
α−トコフェロール 3.0gm%
TPGS 1.5gm%
SolutolHS−15 1.0gm%
ソルビトール 4.0gm%
トリエタノールアミン pH6.8まで
水 全量 100mL
Solutol HS−15はBASFCorp、Mount Olive NJの製品である。
【0089】
実施例8
10mg/mLパクリタキセルエマルジョン製剤QWC
パクリタキセル10mg/mlの第3のエマルジョン製剤を、以下の通りに、Poloxamer407(BASF Corp、Parsippany NJ)を共界面活性剤として用いて調製した。
【0090】
パクリタキセル 1.0gm%
α−トコフェロール 6.0gm%
TPGS 3.0gm%
Poloxamer407 1.0gm%
ソルビトール 4.0gm%
トリエタノールアミン pH6.8まで
注射用水 全量 100mL。
【0091】
この例においては、1.0gmのPoloxamer 407および1.0gmのパクリタキセルを6.0gmのα−トコフェロールに、10容量のエタノールを用いて、穏やかに加熱しながら溶解した。次に、エタノールを真空下で除去した。これとは別に、3.0gmのTPGSおよび4.0gmのソルビトールを最終体積90mLの注射用水に溶解することにより緩衝水溶液を調製した。油および水溶液の両方を45℃に暖め、超音波で混合してプレエマルジョンを作製した。均質化の前に、真空を用いて過剰空気をプレエマルジョンから除去した。
【0092】
均質化は、AvestinC5において既述の通りに行った。均質化バルブ全体にわたる圧力差は25kpsiであり、供給物の温度は42−45℃であった。ホモジナイザーから排出される生成物の温度が50℃を超えないように、冷却装置を用いた。均質化の間、50mL/分の流速を得た。再循環モードで約20回通過させた後、エマルジョンはより半透明になった。均質化を20分間継続した。サンプルを収集し、前述の通りにバイアル内に密封した。パクリタキセルを静脈内送達するための微細α−トコフェロールエマルジョンを得た。このエマルジョンの平均粒径は77nmであった。0.22ミクロンDuraporeフィルター(MilliporeCorp、Bedford MA)に通す0.22μ滅菌濾過に続いて、エマルジョンをバイアルに充填し、静脈注射に用いるまで4℃で保存した。
【0093】
実施例9
5mg/mLパクリタキセルエマルジョン製剤QWC
パクリタキセルのさらなるエマルジョンを、実施例8に記載される通りに調製したが、薬物は10mg/mlではなく5mg/mlを組み込んだ。このエマルジョンの組成は以下の通りである:
パクリタキセル 0.5gm%
α−トコフェロール 6.0gm%
TPGS 3.0gm%
Poloxamer407 1.0gm%
ソルビトール 4.0gm%
トリエタノールアミン pH6.8まで
注射用水 全量 100mL。
【0094】
実施例8に記載される通りの均質化の後、平均粒径が52nmである、α−トコフェロールおよびパクリタキセルの幾らか半透明のエマルジョンを得た。0.22ミクロンDuraporeフィルター(MilliporeCorp、Bedford MA)に通す滅菌濾過に続いて、エマルジョンをバイアルに充填し、静脈注射に用いるまで4℃で保存した。濾過による薬物の損失は1%未満であった。
【0095】
実施例10
パクリタキセル製剤QWD
パクリタキセルを静脈内投与するためのα−トコフェロールの第5のエマルジョンを以下の通りに調製した:
パクリタキセル 0.5gm%
α−トコフェロール 6.0gm%
TPGS 3.0gm%
Poloxamer407 1.5gm%
ポリエチレングリコール200 0.7gm%
ソルビトール 4.0gm%
トリエタノールアミン pH6.8まで
注射用水 全量 100mL。
【0096】
RocheVitamins(Nutley、NJ)から入手した合成α−トコフェロールUSP−FCCをこの製剤において用いた。ポリエチレングリコール200(PEG−200)はSigmaChemical Co.から入手した。
【0097】
均質化の後、平均粒径が60nmの、幾らか半透明のエマルジョンを得た。0.22ミクロンDuraporeフィルター(Millipore Corp、BedfordMA)に通す0.22μ滅菌濾過に続いて、エマルジョンをバイアルに充填し、静脈注射に用いるまで4℃で保存した。濾過による薬物の損失は1%未満であった。
【0098】
実施例11
TPGSへのパクリタキセルの溶解およびミセル溶液の調製
我々はTPGS中のパクリタキセルの良好な溶解度、TPGS 1.0gm当たり約100mgの薬物、を観察した。パクリタキセルを含むTPGSのミセル溶液を以下の通りに調製した。TPGS中のパクリタキセルの原液を、90mgのパクリタキセルを1.0gmのTPGSに45℃でエタノールを用いて溶解し、次にこのエタノールを真空下で除去することにより作製した。その後、そのパクリタキセル原液をさらなるTPGSで希釈してTPGS中のパクリタキセルを0.1、1、5、10、25、50、75および90mg/mLの濃度で得ることにより連続希釈液を調製した。新しい試験管を用いて、各々の濃度のTPGS中のパクリタキセル100mgを0.9mLの水に溶解した。すべての試験管をボルテックスおよび超音波により45℃で混合した。0.01、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、7.5および9.0mg/mLの最終パクリタキセル濃度に相当する透明ミセル水溶液を得た。
【0099】
NicompModel 370レーザー粒径測定器(Particle Sizing Systems、Santa Barbara CA)をこれらの溶液の検査に用いた。およそ10nmの粒径が得られ、これはTPGSおよびパクリタキセルのミセルの存在と一致する。
【0100】
2.5mg/mLまでのパクリタキセルを含むTPGS中のパクリタキセルのミセル溶液は少なくとも24時間安定であり、これに対して5.0、7.5および9.0mg/mLでのものは不安定で、薬物の結晶が急速かつ不可逆的に形成された。これらの観察は、エマルジョン粒子中にα−トコフェロールに富む領域が存在する場合にのみパクリタキセルが可溶化されたままであることを意味する。したがって、高濃度のパクリタキセルを可溶化することができるエマルジョンを生成するためには、TPGSに対するα−トコフェロールの最適比が必要である。
【0101】
適正な張性およびpHに調整すれば、ミセル溶液は、AUCが小さくなることは予想されるが、癌患者にパクリタキセルをゆっくりとIV点滴するのに有用である。
【0102】
α−トコフェロールエマルジョンにおけるTPGSの有用性は幾つかの望ましい特徴の相乗作用である。第1に、おそらくはα−トコフェロールがその分子構造に疎水性部分を形成するため、それ自体がパクリタキセルに対して親和性である。第2に、α−トコフェロールとの水中でのTPGSの界面張力は約10ダイン/cmであり、これは、特に共界面活性剤と共に用いられる場合、遊離α−トコフェロールを乳化するのに十分なものである。第3に、TPGSの様なポリオキシエチル化界面活性剤は、当該技術分野において公知のように、注射可能な粒子の“ステルス・コート(stealthcoat)”としての十分に確立された、優れた特性を有し、これは肝臓および脾臓におけるそれらの粒子の捕獲を劇的に減少させることによるものである。しかしながら、α−トコフェロールエマルジョンの界面活性剤としてのTPGSの予期せざる独特の発見は、3つの望ましい特徴のすべてが単一の分子に見出されることである。TPGSのさらなる利点は、油および溶媒、例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール、を含む混合液中に安定な自己乳化型系を形成する事実であり、α−トコフェロールと共に経口薬物送達に用いた場合の相乗作用が示唆される。
【0103】
適正な張性およびpHに調整すれば、ミセル溶液は、AUCが小さくなることは予想されるが、癌患者にパクリタキセルをゆっくりとIV点滴投与するのに有用である。
【0104】
実施例12
20mg/mLパクリタキセルエマルジョン製剤
α−トコフェロール中に20mg/mLのパクリタキセルを含む粗製エマルジョンを、5%α−トコフェロールおよび5%TPGSを用いて、実施例4に記載される方法により、単に濃度を増加させることによって得た。単に、臨床的に有用な静脈内エマルジョンにさらなる増加は不必要であるという理由から、より高い濃度を試験する試みは行わなかった。
【0105】
実施例13
α−トコフェロールエマルジョンにおける他のPEG界面活性剤の使用
様々な他のPEG化界面活性剤、例えば、TritonX−100、PEG 25ステアリン酸プロピレングリコール、Brij 35(Sigma Chemical Co)、Myrj 45、52および100、Tween80(Spectrum Quality Products)、PEG 25トリオレイン酸グリセリル(Goldschmidt Chemical Corp、HopewellVA)がα−トコフェロールの乳化において有用である。
【0106】
しかしながら、他のPEG化界面活性剤での実験はα−トコフェロールエマルジョン中のパクリタキセルを納得のいくように安定化することができなかった。TPGSの独自の有用性を示すため、3種類のエマルジョンを、TPGSの代わりにTween80およびMyrj 52を別々のエマルジョンにおける主要界面活性剤として用いることを除いて、実施例9に記載される通りに調製した。これらの2種類の界面活性剤は、Tween80およびMyrj 52がTPGSと本質的に等しいHLB値を有し、かつ相応に良好なα−トコフェロールのエマルジョンを形成することから選択した。しかしながら、5mg/mLのパクリタキセルを製剤に含めた場合、薬物の結晶化がプレエマルジョンを調製した後に非常に迅速に認められ、ならびにTween80およびMyrj 52の処理エマルジョンは、パクリタキセルの結晶と一致する数ミクロンまでの長さの棒状粒子を含む、粗いものであると特徴付けられた。薬物の損失が1%未満で0.22ミクロンフィルターを容易に通過するTPGSエマルジョンとは異なり、TweenおよびMyrjエマルジョンは、この結晶性薬物材料の存在のため、濾過することができなかった。
【0107】
TPGSでのα−トコフェロールパクリタキセルエマルジョンの予期せざる改善に対しては、可能性のある説明が幾つか存在する。この薬物は、約100mg/mLまでの、TPGS中での良好な溶解度を有する。これは、パクリタキセルベンジル側鎖とTPGS分子内のα−トコフェロールフェノール環の平面構造との親和力である可能性が最も高く、これは薬物と担体との複合体を安定化する。加えて、α−トコフェロールとPEG尾部との間のコハク酸リンカーは、試験した他のPEG化界面活性剤と構造が区別されるこの分子の新規特徴である。
【0108】
実施例14
Poloxamerベースのα−トコフェロールエマルジョン
α−トコフェロール 6.0gm%
Poloxamer407 2.5gm%
アスコルビル酸パルミテート 0.3gm%
ソルビトール 6.0gm%
トリエタノールアミン pH7.4まで
水 全量 100mL。
【0109】
α−トコフェロールエマルジョンを、Poloxamer 407(BASF)を主要界面活性剤として用いて調製した。白色乳状予備混合物を、C5ホモジナイザー(Avestin、オタワ カナダ)において25Kpsiで10分間連続的に再循環させ、供給温度を45℃、排出生成物の冷却装置ループを15℃に設定することで均質化した。微細な滅菌の濾過可能な、α−トコフェロール微粒子のエマルジョンが得られた。しかしながら、この製剤をパクリタキセルと共に作製すると、冷蔵庫内で一晩保存した後にパクリタキセルの沈殿が認められ、やはりTPGSの主要界面活性剤としての優れた有用性を暗に示している。
【0110】
実施例15
凍結乾燥エマルジョン製剤
MaltrinM100(Grain Processing Corporation、Muscatine IA)を2×ストック水溶液として実施例14のエマルジョンに添加した。次に、一定分量をシェルフリーザー(shellfreezer)で凍結し、真空下で凍結乾燥した。水で戻すことにより、微細エマルジョンが回復した。
【0111】
凍結乾燥製剤は、凍結乾燥調製品の無限の貯蔵寿命が好ましい場合に有用である。他の糖類、例えば、マンニトール、アルブミンまたはPolyPep(Sigma Chemical、St.Louis、MO)を含む凍結乾燥可能な製剤も調製することができる。
【0112】
実施例16
α−トコフェロールエマルジョンからのパクリタキセルのin vitro放出
薬物送達ビヒクルの望ましい特徴の1つは組み込まれた薬物の徐放をもたらすことであり、これは薬物動力学および効力の改善とかなり頻繁に相関する特徴である。特に、長期間循環するパクリタキセルのエマルジョンは体内の癌部位への薬物の送達を改善することが可能である。我々は、驚くべきことに、本発明のエマルジョンが、現時点で唯一のFDA認可のパクリタキセル製剤[Taxol(登録商標)、BristolMyers Squibb(BMS)、Princeton NJ]と比較した場合、パクリタキセルの徐放をもたらすことを見出している。6mg/mL(QWA)および7mg/mL(QWB)のパクリタキセル濃度を有するエマルジョンを調製した。比較のため、Taxolはエタノール:cremophoreEL 1:1(v/v)に溶解した6mg/mlのパクリタキセルを含む。37℃での異なる製剤からリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液へのパクリタキセルのinvitro放出を、パクリタキセルが自由に透過する透析膜(10キロダルトンのMWカットオフ)を用いて監視した。透析前後のサンプルにおける薬物の定量はHPLCにより行った。一定時間にわたって放出されたパクリタキセルの放出パーセントおよび濃度の両者の観点から薬物放出プロフィールを作成した。図4のデータからわかるように、このエマルジョンから24時間にわたって透析されたパクリタキセルは5%未満であり、これに対して、市販のBMS製剤からは約12%が透析バッグの外部で回収された。これは、このエマルジョンからの薬物放出が市販の溶液に対して有意に遅かったことを示す。
【0113】
実施例17
パクリタキセルを含むα−トコフェロールエマルジョンの生体適合性
急性一回用量毒性研究を行った。各々20−25gmのマウスを購入し、認可された動物施設で順化させた。マウスの群(n=3)に、実施例6に記載される通りに調製した、α−トコフェロールエマルジョン中に30〜90mg/kgのパクリタキセルを含む製剤を投与した。すべての注射は尾の静脈に大量瞬時投与することにより静脈内に投与した。
【0114】
すべての注射は静脈内への強制的な大量瞬時投与により行ったが、いかなる投与量でも、90mg/kgの場合ですら、死亡または即時毒性は観察されなかった。体重についての結果を表1に示す。体重の減少は最も高い群で17%であったが、すべての群が、90mg/kgの場合ですら、注射後の10日間で体重は回復または増加した。
【0115】
ビヒクルの毒性研究も行った。薬物を含まないエマルジョンを投与した動物は急速に成長し、生理食塩水を投与した動物または注射しなかった動物よりも体重の増加が僅かに多かった。これは、この製剤のビタミンおよびカロリー含量のためであった。
【0116】
90mg/kgを上回るパクリタキセルの最大耐容量(MTD)(表1)が、副作用を認めることなく観察された。これは報告されている最良の文献値の2倍を上回るものであり、この報告ではより少ない用量で死亡が観察されていた。FDA認可BMS製剤であるTaxolは10mg/kgの大量瞬時静脈内投与用量でマウスの死を引き起こし、これは我々の手で再現した知見である。ラットにおいては、BMSTaxolは我々が試験したすべての希釈および投与計画で一様に致死的であった。対照的に、実施例6の組成物に対してはラットは十分耐性であり、この組成物はRhone−PoulencRorerから市販されている低毒性パクリタキセル類似体であるタキソテール(Taxotere)よりもさらに改善されている。
【0117】
この高い薬物耐性の可能性のある説明の1つとして、実施例16のin vitro放出データから示唆されるように、このエマルジョンが薬物の徐放性の貯蔵剤として働くことが挙げられる。
【0118】
表1
パクリタキセルエマルジョンで処置したマウスの平均体重変化
【0119】
【表1】

実施例18
パクリタキセルエマルジョンの効力評価
実施例6のパクリタキセルエマルジョンをヌードマウスにおける段階的なB16メラノーマ腫瘍に対する効力についても評価し、そのデータを表2に示す。この場合にも市販製品BMSTaxolを参照製剤として用いた。腫瘍細胞を皮下投与し、腫瘍投与後第4日目の尾の静脈注射により、指示される投薬スケジュールで治療を開始した。効力は寿命の増加パーセントとして表した(%ILS)。
【0120】
表2のデータから以下の結論を引き出すことができる:a)約10%の寿命の増加がBMSTaxolを10mg/kg Q2D×4で投与することにより得られた、b)パクリタキセルのα−トコフェロールエマルジョンを、より高いMTDによって可能となった用量レベルである30、40または50mg/kg Q2D×4で投与することにより%ILS値が30−50%に改善された、c)エマルジョンを30、50および70mg/kg Q4D×3で投与したときに良好な用量応答が観察され、70mg/kgで約80%のILSが観察された、ならびにd)第4日目に1回だけ90mg/kgを投与した場合でさえ、ILSは約36%であった。これらのデータは、パクリタキセルの効力を実質的に改善する本発明のエマルジョンの潜在能力を明瞭に示す。
【0121】
実施例19
パクリタキセルエマルジョンの効力評価
実施例6、7および8のエマルジョン(それぞれ、QWA、QWBおよびQWC)をマウスにおけるB16メラノーマに対する効力について比較した;再び、BMSTaxolを参照製剤として用いた。本質的に実施例18と同一の方法を用いた。この研究からのデータを表3にまとめる。効力はa)腫瘍成長阻害パーセント(%T/C、ここでTおよびCはそれぞれ処置および対照動物を表す);b)腫瘍成長遅延値(T−C)、ならびにc)T−C値を3.32×腫瘍倍増時間で除した比として定義される細胞死の対数として表した。この特定の腫瘍モデルに対する後者のパラメータは1.75日と算出された。表3の結果から分かるように、効力のすべての測定:腫瘍成長阻害、腫瘍成長遅延値および細胞死の対数は、特にこれらのエマルジョンを70mg/kgで4日毎に投与した場合に、BMSTaxolを上回るα−トコフェロールエマルジョンの薬物送達ビヒクルとしての優れた効力を示す。実施例16において説明されるように、この効力の増加は改善された薬物生体適合性および/または徐放性の結果であるものと考えられる。
【0122】
表2
QWAおよびBMSTaxolで処置したB16腫瘍を有するマウスの生存
【0123】
【表2】

aSEM=平均の標準誤差
b%ILS=寿命の増加%=[(T−C)/C]×100、ここで:
T=処置したものの平均生存
C=対照の平均生存
NCI規格によると、50%を上回るILS値は有意の抗腫瘍活性を示す。
【0124】
表3
早期段階B16メラノーマに対する3種類のパクリタキセルエマルジョン
およびBMSTaxolの比較
【0125】
【表3】

腫瘍倍増時間は1.75日と算出された。
%T/C=腫瘍成長阻害(第15日)=(処理したものの腫瘍重量のメジアン/対照の腫瘍重量のメジアン)×100
T−C=腫瘍成長遅延値=処置群(T)および対照群(C)の腫瘍が所定の大きさ(通常750−1000mg)に到達する時間のメジアン
細胞死の対数=(T−C値)/(3.32×腫瘍倍増時間)。
【0126】
実施例20
α−トコフェロール/Tagat TO混合物の自己乳化
α−トコフェロール2.0gmおよびTagat TO(Goldschmidt Chemical Corp、Hopewell VA)800mgを一緒に溶解した。この油状混合物約80mgを試験管に移した後、水を添加した。手で穏やかに攪拌することで濃厚な乳状エマルジョンが直ちに生じ、これは、水性媒体に露出されると界面活性剤−油混合物が自発的にエマルジョンを形成する、薬物送達系として提唱される“自己乳化型系”に一致する。
【0127】
実施例21
パクリタキセルを含む自己乳化型製剤
実施例1に記載される方法により、パクリタキセル50mg/mlをα−トコフェロール中に調製した。TagatTO 20%(w/w)を添加した。得られた混合物は透明で、粘性で、琥珀色であった。この油状混合物100mgを試験管に移した。ボルテックス混合しながら1mLの水を添加することで微細エマルジョンが生じた。
【0128】
実施例22
パクリタキセルの自己乳化型製剤
実施例1に記載される方法により、パクリタキセル50mg/mlをα−トコフェロール中に調製した。真空下でエタノールを除去した後、重量基準で20%のTPGSおよび10%のポリオキシエチレングリコール200(SigmaChemical Co)を添加した。次に、この油状混合物100mgに37℃で20mLの脱イオン水を添加することによりこの系の自己乳化型能力を実証した。穏やかに混合することで白色の希薄エマルジョンが形成され、これは2ミクロンの平均サイズおよびその90%が10ミクロン未満である累積分布を有することがMalvernMastersizer(Malvern Instruments、Worcester MA)で実証された微細エマルジョン粒子からなるものであった。
【0129】
実施例23
α−トコフェロール中のエトポシド(etoposide)エマルジョン製剤
エトポシド4mg(SigmaChemical Co)を以下の界面活性剤−油混合物に溶解した:
エトポシド 4mg
α−トコフェロール 300mg
TPGS 50mg
Poloxamer407 50mg
エタノールを用い、穏やかに暖めることで、薬物を含有した油の透明な琥珀色の溶液を形成した。その後、エタノールを真空下で除去した。
【0130】
4%のソルビトールおよび100mgのTPGSを含む4.5mLの水を45℃で超音波処理しながら添加することによりプレエマルジョンを形成した。Emulsiflex1000(Avestin、オタワ カナダ)において処理することにより粒径をさらに減少させた。Emulsiflex 1000の本体に一対の5mLシリンジを装着し、使用前に装置全体を45℃に加熱した。その後、5mLのエマルジョンを手で約10分これに通した。α−トコフェロールビヒクル中のエトポシドの、自由流動する事実上のエマルジョンが生じた。
【0131】
上記実施例の方法を適用することにより、可溶化形態のエトポシド含有α−トコフェロールを経口剤形としても使用できることを指摘しておく。
【0132】
実施例24
α−トコフェロールへのイブプロフェンまたはグリセオフルビンの溶解
イブプロフェンは鎮痛剤であり、この薬物が胃を刺激する危険性がある場合に、必要であれば、注射により投与することができる。以下のα−トコフェロール中のイブプロフェンの溶液を静脈内投与のために乳化することができる。
【0133】
結晶質のイブプロフェン(Sigma Chemicals)12mgを溶媒なしでα−トコフェロール120mgに、穏やかに加熱することにより溶解した。得られたビタミンE中のイブプロフェンの10%溶液は実施例4、6、7、8または22に記載される方法により乳化することができる。
【0134】
抗真菌性化合物グリセオフルビン12mgをまず3mLの無水エタノールに溶解し、次いでα−トコフェロール180mgを添加して、エタノールを真空下で穏やかに加熱しながら除去した。得られたα−トコフェロール中のグリセオフルビンの溶液は透明であり、実施例4、6、7、8または22に記載される方法により乳化することができる。
【0135】
実施例25
ビタミンEスクシネートエマルジョン製剤
ビタミンEスクシネートはリンパ腫および白血病の治療ならびに癌の化学予防のための治療薬であることが示唆されている。以下は、α−トコフェロール中のビタミンEスクシネートの組成および乳化方法である。ショ糖エステルS1170はMitsubishiKagaku Foods Corp、東京 日本の製品である。遊離酸としてのビタミンEスクシネートは、白色がかった粉末としてICN Biomedicals、Aurora、OHから入手した。プルロニクス(pluronics)およびTPGSのような他の界面活性剤をα−トコフェロールおよびコハク酸α−トコフェロールと共に含むエマルジョンは、治療薬を含んだり含まなかったりしながら同様の方法で調製することができる。
【0136】
α−トコフェロール8gmおよびビタミンEスクシネート0.8gmを一緒に丸底フラスコ内でエタノールに溶解した。溶媒を除去した後、100mLの緩衝水溶液を添加した。このアルカリ性緩衝液は2%グリセロール、10mMトリエタノールアミン、および0.5gm%ショ糖エステルS1170からなる。2分間混合した後、このプレエマルジョンをAvestinModel C−5ホモジナイザーに移し、均質化を58℃の処理供給温度で約12分間継続した。相互作用ヘッド全体にわたる圧力差は25〜26Kpsiであった。均質化の間pHを注意深く監視し、必要に応じてpH7.0に調整した。この処理の間、酸素を排除することに注意を払った。微細な白色エマルジョンが生じた。
【0137】
実施例26
エステル中のα−トコフェロール濃度
市販のエステル:酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、リン酸トコフェロール、およびTPGS中のα−トコフェロールの濃度は供給元によって提供されたものか、またはHPLCによって決定されたものであった。これらの溶液中の遊離α−トコフェロールの濃度は1.0%未満、一般には0.5%未満である。
【0138】
実施例27
レスベラトロールエマルジョン製剤
レスベラトロール(Resveratrol)は、最初にブドウの皮の抽出物として発見された癌化学予防薬である。これは補助食品として提唱されている。
【0139】
レスベラトロールはSigma Chemical Coから入手した。これはエタノールにはうまく溶解しないが、10mgのレスベラトロール、100mgのα−トコフェロール、100mgのTPGSおよびエタノールを添加すると透明溶液が迅速に形成された。エタノールを除去すると透明な琥珀色の油が残った。
【0140】
このレスベラトロールの油状溶液は、先行する例の様々な方法により、経口送達のための自己乳化型系として処方することができる。
【0141】
実施例28
ムラミルジペプチド製剤
ムラミルジペプチドは放線菌から誘導され、ムラミルペプチド、ミコール酸およびリポ多糖類のクラスを代表する強力な免疫賦活剤である。これらは、例えば、癌を標的としてそれを除去するように免疫系を刺激することにより、癌の治療に使用される。さらに最近では、合成類似体であるムロクタシン(muroctasin)が細菌壁抽出物の非特異的副作用を減少させることが提示されている。
【0142】
N−アセチルムラミル−6−O−ステロイル−1−アラニル−d−イソグルタミンをSigmaChemical Co.から購入し、10mgを100mgのα−トコフェロールおよび80mgのTPGSに溶解した。エタノールを共溶媒として用いてこのジペプチドの溶解を補助したが、エタノールは真空下で蒸発により除去し、それによりα−トコフェロールおよび界面活性剤中の透明溶液が残った。
【0143】
この薬物の油溶液は、先行する例の様々な方法により、非経口投与用に乳化することができる。
【0144】
実施例29
アルコール含有エマルジョン
PCT WO95/11039の教示をパクリタキセルの経口投与に適用する試みにおいて、以下の製剤を作製した。
【0145】
パクリタキセル 0.125gm
α−トコフェロール 0.325gm
TPGS 0.425gm
エタノール 0.125gm。
【0146】
前述のように、パクリタキセルをエタノールと共にα−トコフェロールおよびTPGSに溶解し、次いでエタノールを真空下で除去した。乾燥重量で、残留エタノールは3mg(0.3%w/w)未満であった。次に、新鮮な無水エタノール0.125gmをこの製剤に添加した。混合した後、この製剤のゼラチンカプセルの場合の経口投与への適合性を、以下の実験によりシミュレートした。この自由流動油の一定分量100mgを37℃で20mLの水に添加し、ボルテックスミキサーで穏やかに混合した。微細エマルジョンが生じた。しかしながら、20分後に、顕微鏡検査で多数のロゼット状結晶の成長が明らかとなり、これはパクリタキセル沈殿物の特徴であった。十二指腸に侵入すると多量の薬物が結晶の形態となり、その物理形態のために取り込みが妨げられるため、この製剤はパクリタキセルの経口投与には適さないものと結論付けられた。我々は、過剰のエタノールが、α−トコフェロールに対するTPGSの高い割合と共に、この製剤からの観察された薬物の結晶化の原因であるものと推測する。
【0147】
実施例30
アルコール含有α−トコフェロールエマルジョン
PCT WO95/11039の教示をパクリタキセルの静脈内投与に適用する試みにおいて、以下の製剤を作製した。
【0148】
パクリタキセル 0.050gm
α−トコフェロール 0.100gm
レシチン 0.200gm
エタノール 0.100gm
ブタノール 0.500gm。
【0149】
前述のように、パクリタキセルをエタノールと共にα−トコフェロールおよびTPGSに溶解し、次いでエタノールを真空下で除去した。乾燥重量で、残留エタノールは2mg(0.5%w/w)未満であった。次に、新鮮な無水エタノール0.100gmおよびn−ブタノール0.500gmをこの製剤に添加した。透明な油が生じた。この注射用濃縮液を、標準的な医薬実務による混合物および生理食塩水の投与において、生体適合性について試験した。この油約200mgを20mLの生理食塩水に滴下し、混合した。不溶性物質の大きな薄片が直ちに生じ、最大量の物質が試験管壁に厚い堆積を形成した。この混合物はいかなる経路によっても非経口投与には明らかに不適切であり、我々は、この製剤に含まれる薬物が何であるかに関わらずこのようになるものと推測する。試行錯誤の結果、我々は、レシチンが、その低いHLB(約4)のため、α−トコフェロールの界面活性剤としては好ましくない選択であることを学んでいる。ここに記載される、非経口投与に適する微細エマルジョンの他の成功している例は、すべて高HLBの界面活性剤を用いて作製した。これらの界面活性剤にはTPGS(HLB約17)、Poloxamer407(HLB約22)およびTagat TO(HLB約14.0)が含まれる。一般には、α−トコフェロールの乳化は、HLB>10、好ましくは12を上回る主要界面活性剤で最良に行われることを見出した。レシチンは、共界面活性剤としては用いることができるものの、このクラスにはない。比較すると、トリグリセリドの典型的なo/wエマルジョンはHLBが7ないし12の界面活性剤で作製され、これはα−トコフェロールエマルジョンがα−トコフェロールの極性および極度の疎水性のために独特のクラスであることを示し、これらはα−トコフェロール中での親油性および僅かに極性親油性の薬物の溶解性にも有利な因子である。Emulsions:Theory and Practice, 2nd Ed. p.248 (1985)を参照。
【図面の簡単な説明】
【0150】
本発明は図面を参照することによってより理解される。
【図1A】図1Aは7℃での経時のパクリタキセルエマルジョン(QWA)の粒径を示す。
【図1B】図1Bは25℃での経時のパクリタキセルエマルジョン(QWA)の粒径を示す。
【図2】図2は、実施例5に記載されるエマルジョン中のパクリタキセルの完全性(integrity)を示すHPLCクロマトグラムである。
【図3A】図3Aは4℃での経時のパクリタキセルエマルジョン(QWA)のパクリタキセル濃度を示す。
【図3B】図3Bは25℃での経時のパクリタキセルエマルジョン(QWA)のパクリタキセル濃度を示す。
【図4】図4は3種類の異なるエマルジョンから経時的に放出されるパクリタキセルのパーセンテージを示す。記号●は、BristolMyers Squibbから購入可能なエマルジョンから経時的に放出されるパクリタキセルのパーセンテージを表す。記号▲は、実施例6に記載される、6mg/mlのパクリタキセルを含む本発明のエマルジョン(QWA)から経時的に放出されるパクリタキセルのパーセンテージを表す。記号◇は、実施例7に記載される、7mg/mlのパクリタキセルを含む本発明のエマルジョン(QWB)から経時的に放出されるパクリタキセルのパーセンテージを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載されるような溶解性に劣る薬物のためのエマルジョンビヒクル。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−332157(P2007−332157A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219025(P2007−219025)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【分割の表示】特願平10−531006の分割
【原出願日】平成10年1月6日(1998.1.6)
【出願人】(307033040)ソーナス ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】