説明

溶銑の精錬方法

【課題】多量のスクラップを使用する際にも、炉口からの黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩を最小限に抑制することができる溶銑の精錬方法を提供する。
【解決手段】可燃物を含むスクラップSと溶銑を装入して精錬する転炉1、2または溶銑予備処理炉の装入部に設置された装入フード3、4と、炉周フード6、7、出鋼フード8、9等のその他のフード10とを共通の集塵機13に接続する。各フードのダンパー14は常時は個別に開閉制御されるが、溶銑とスクラップSとの接触による発塵作業時には、工場内集塵系を集中管理して発塵作業が行われる転炉1の装入フード3を除くその他のフードの吸引風量を最小限に抑え、装入フード3の吸引風量を最大化する。これにより炉口からの黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩を最小限に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉または溶銑予備処理炉による溶銑の精錬方法に関するものであり、特に溶銑との接触により多量の発塵及びフレーム発生を伴うスクラップを使用した場合の溶銑の精錬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車スクラップ等の金属スクラップの有効利用を図るため、回収されたスクラップを製鋼工場の転炉または溶銑予備処理炉において高温溶銑の熱及び精錬反応熱で溶解して、鉄源として再利用する方法が実施されている。この場合、スクラップを先に炉内に装入してから溶銑を注入する方法と、溶銑の入った炉内にスクラップを装入する方法とがある。しかしスクラップが自動車スクラップのように樹脂やオイル等の可燃物を含むものである場合には、何れの方法を採っても溶銑と接触する際に多量の黒煙、粉塵、フレーム等が発生し、炉口から周辺に漏洩することが避けられない。
【0003】
そこで特許文献1に示されるように、炉口上部から散水、ミスト噴霧、不活性ガス噴射等を行うことにより、黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩を抑制するとともに、炉の装入部の上方に設置された装入フードのダンパーを全開としてこれらを吸引しているが、なお一部の黒煙や粉塵が周囲に漏洩することがあった。このため、一度に使用できるスクラップ量を少量としなければならず、スクラップ処理能力を十分に高めることができなかった。
【特許文献1】特開2005‐89792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、多量のスクラップを使用する際にも、炉口からの黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩を最小限に抑制することができる溶銑の精錬方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
本発明者はこの課題を解決するための手段を様々な角度から検討した結果、炉の装入部の上方に設置された装入フードの吸引風量を増加させることが有効であると考えた。しかし転炉または溶銑予備処理炉のある工場内には、炉周フード、出鋼フード等の多くの集塵フードが設置されており、共通の集塵機に接続されている。またそれぞれの集塵フードのダンパー開度はそれぞれの工程における発塵状況に応じて自動制御されている。このため共通の集塵機をフル稼働させても、その吸引風量は各集塵フードに分散されるため、装入フードの吸引風量には限界があった。
【0006】
なお、共通の集塵機自体を大型化することも考えられるが、装入フードの吸引風量を増加させたい時間が全操業時間に占める比率は小さく、ほとんどの時間帯では大型集塵機の能力が過剰となってしまうため、費用効率の点から好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の背景のもとに完成されたものであって、可燃物を含むスクラップと溶銑を装入して精錬する転炉または溶銑予備処理炉の装入部に設置された装入フードと、常時は個々に自動制御されるその他のフードとを共通の集塵機に接続しておき、溶銑とスクラップとの接触による粉塵及びフレーム発生時には、工場内集塵系を集中管理して装入フードを除くその他のフードの吸引風量を最小限に抑えることにより、装入フードの吸引風量を最大化することを特徴とすることを特徴とするものである。なお、溶銑とスクラップとの接触による黒煙、粉塵、フレーム等の発生時に、炉口上部から散水、ミスト噴霧、不活性ガス噴射の少なくとも一つを行うことにより、黒煙や粉塵、フレームの漏洩を抑制することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶銑とスクラップとの接触による粉塵及びフレーム発生時には、工場内集塵系を集中管理して装入フードを除くその他のフードの吸引風量を最小限に抑えることにより、装入フードの吸引風量を最大化するので、共通の集塵機自体を大型化することなく、炉口からの黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩を最小限に抑制することができる。このため一度に溶融処理できるスクラップ量を増加させることができる。なお、この間はその他のフードの吸引風量が最小限に抑えられるが、全操業時間に占める比率は小さいため、操業上の問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を示す。
図1において、1と2は運転時期をずらせて交互に出鋼される一対の転炉であって、各転炉1の炉口の上方にはそれぞれ装入フード3、4が設けられている。左側の転炉1の内部には自動車スクラップのような可燃物を含むスクラップSが先に装入されており、溶銑鍋5により溶銑を装入する状態が示されている。また右側の転炉2はその後の吹錬中である。前記したように可燃物を含むスクラップと高温の溶銑が接触する転炉1の炉口からは多量の黒煙、粉塵、フレーム等が噴出するため、装入フード3でこれらを吸引している。このほか吹錬中の転炉2の炉口からも多少の発塵があるため、転炉2の炉周フード6により吸引している。なお本実施形態ではスクラップSの溶融に転炉1、2を使用しているが、溶銑予備処理炉であっても同様である。また溶銑を先に転炉1内に装入しておき、後からスクラップSを投入してもよい。
【0010】
上記した装入フード3、4とは別に、炉周フード6、7、出鋼フード8、9をはじめ工場内の各設備に対応して多数の集塵用のフード10が配置されている。これらの各フードは、吸引配管11により吸引ブロワ12を備えた共通の集塵機13に接続されている。共通の集塵機13は例えばバグフィルタであり、必ずしも1機である必要はなく、吸引配管11の他端側にも配置することもできる。なお各フードには開度調整用のダンパー14が設けられている。
【0011】
装入フード3、4は、可燃物を含むスクラップSが装入されている転炉内に溶銑を装入するか、溶銑が装入されている転炉内にスクラップSを投入する場合のような、溶銑とスクラップとの接触による発塵作業を行う際には全開される。またその他の各フードも、常時は個々に開度を自動制御されている。このように各フードの開度はそれぞれ個別に制御されていたため、図1の状態において装入フード3のダンパーを全開にしてもその吸引風量に限界があることは、前述の通りである。
【0012】
しかし本発明では図1に示したような工場内集塵系を集中管理し、溶銑とスクラップとの接触による発塵作業が行われるとき以外は、炉周フード6、7、出鋼フード8、9を含む多数の集塵用のフード10を個々に自動制御により開閉するが、発塵作業が行われるときにはその転炉1の装入フード3を除くその他のフードの吸引風量を最小限に抑える。ここで最小限とは必ずしも全閉に限定されず、必要最小限の吸引風量を確保できる程度に半開することも含む。例えば図1の状態においては、吹錬中の転炉2の炉周フード7のみはダンパーを半開としておく必要があるが、その他は全閉とすることができる。
【0013】
このように発塵作業が行われる転炉1の装入フード3以外のフードの吸引風量を最小限に抑えることにより、共通の集塵機13の吸引能力を装入フード3が専有できるようになり、装入フード3の吸引風量を最大化することができる。この結果、共通の集塵機13の能力を従来どおりとしたままで、発塵作業が行われている転炉1の炉口からの黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩を最小限に抑制することができる。
【0014】
例えば図1に示される工場内集塵系において、共通の集塵機13の吸引能力が9000Nm/分であった場合、従来は装入フード3または4の吸引風量の最大値は3500Nm/分であったが、本発明により6000Nm/分にまで向上させることが可能となり、黒煙、粉塵、フレーム等の漏洩をほとんどゼロとすることができた。
【0015】
なお、図2に示されるように装入フード3、4の部分に散水ヘッダー15等を設置しておき、溶銑とスクラップとの接触による発塵作業時に、炉口上部から炉口に向けて散水、ミスト噴霧、不活性ガス噴射の少なくとも一つを行うことが好ましい。これにより、黒煙やフレームを冷却してガスボリュームを減少させ、装入フード3、4からの吸引を助けることができるうえ、水膜やガスカーテンを形成して外部への粉塵の漏洩を抑制することができる。このように本発明と従来から行われていた散水等を組み合せることによって、より確実な粉塵漏洩抑制効果を得ることができる。
【0016】
なお、上記した工場内集塵系の制御は転炉1、2の運転に合わせて自動的に行われるが、散水ヘッダー15からの散水等については、溶銑鍋5を操作するクレーンの運転室に制御機器を設置しておき、クレーンのオペレータが溶銑鍋5の操作タイミングと合わせて行えるようにしておくことが好ましい。
【実施例】
【0017】
要領が200トンの転炉の内部に予め自動車スクラップ1トンを装入しておき、約1500℃の溶銑を注入して溶融させた。従来法によるときは溶銑の注入と同時に多量の黒煙・粉塵やフレームが炉口から噴出し、転炉の上方に位置するクレーンの主ビーム付近の雰囲気温度は1000℃近くまで上昇した。しかし本発明により装入フードの吸引風量を従来の3500Nm/分から6000Nm/分に増加させると、黒煙・粉塵・フレームの噴出量は大幅に減少し、クレーンの主ビーム付近の雰囲気温度は660℃にまで低下した。さらに図2のように散水ノズルから冷却水を窒素ガスとともに噴射させると黒煙・粉塵・フレームの噴出は目視できない程度まで減少し、クレーンの主ビーム付近の雰囲気温度は410℃となった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を示す配管系統図である。
【図2】請求項2の発明の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 転炉
2 転炉
3 装入フード
4 装入フード
5 溶銑鍋
6 炉周フード
7 炉周フード
8 出鋼フード
9 出鋼フード
10 その他の集塵用のフード
11 吸引配管
12 吸引ブロワ
13 集塵機
14 開度調整用のダンパー
15 散水ヘッダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃物を含むスクラップと溶銑を装入して精錬する転炉または溶銑予備処理炉の装入部に設置された装入フードと、常時は個々に自動制御されるその他のフードとを共通の集塵機に接続しておき、溶銑とスクラップとの接触による粉塵及びフレーム発生時には、工場内集塵系を集中管理して装入フードを除くその他のフードの吸引風量を最小限に抑えることにより、装入フードの吸引風量を最大化することを特徴とする溶銑の精錬方法。
【請求項2】
溶銑とスクラップとの接触による粉塵及びフレーム発生時に、炉口上部から散水、ミスト噴霧、不活性ガス噴射の少なくとも一つを行うことにより、黒煙や粉塵の漏洩を抑制することを特徴とする請求項1記載の溶銑の精錬方法。

【図1】
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【図2】
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