説明

溶銑の脱硫方法

【課題】 使用済み耐火物、特にMgOまたはAl23を含有し、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、回転するインペラーによって溶銑とCaO系脱硫剤とを攪拌して溶銑を脱硫処理する溶銑の脱硫処理における精錬剤として有効活用する。
【解決手段】 本発明に係る溶銑の脱硫方法は、製鉄所で発生し、30mm以下の粒径に予め破砕・調製された、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、該使用済み耐火物とCaO系脱硫剤6との合計添加量に対して5〜30質量%の範囲内となるように溶銑3に添加し、添加したCaO系脱硫剤及び使用済み耐火物を、回転するインペラー4によって溶銑と攪拌混合して溶銑を脱硫処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgOまたはAl23を含有し、SiO2を含有しない使用済み耐火物を精錬剤としてCaO系脱硫剤とともに溶銑に添加し、溶銑を脱硫する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼の高付加価値化や鉄鋼材料の使用用途拡大などに伴う材料特性向上の観点から、硫黄含有量の少ない低硫鋼製造の要求が増加しており、このような要求に対応するために、溶銑段階での効率的な脱硫処理技術が必要となっている。従来から、溶銑の脱硫処理は、安価であることからCaO(石灰)系脱硫剤を用いることが一般的であり、溶銑中に浸漬させたランスからCaO系脱硫剤をインジェクションして脱硫する方法、或いは、容器に収容された溶銑にインペラー(「攪拌羽根」とも呼ぶ)を浸漬させ、回転するインペラーによって上置き添加したCaO系脱硫剤を溶銑と攪拌して脱硫する方法が広く行われている。
【0003】
ところで、製銑−製鋼工程においては、高温の溶銑及び溶鋼を取り扱うため、多くの耐火物が使用されている。耐火物の使用される温度域及び共存するスラグの組成などの使用条件によって複数種類の耐火物が用いられるが、多くの耐火物はMgOまたはAl23を含む。一般的に、定形耐火物は、高温で焼成され、不定形耐火物に比べて強度が高いが、施工された耐火物は、定形耐火物及び不定形耐火物ともに、或る程度の使用期間が経過すると新品と交換されて寿命を迎える。特に、高い生産性を求められる昨今では、耐火物は計画的に交換されるために、使用済み耐火物の発生量が増加している。
【0004】
使用済みの定形耐火物は、サイズが100〜500mmと大きく且つ強度が高いために、粉砕して耐火物原料に再使用するには多大なエネルギー及びコストを要する。また、使用済みの不定形耐火物は、使用済みの定形耐火物に比べると容易に粉砕できるが、使用済みの不定形耐火物には、スラグや地金が混入することから、耐火物原料に再使用することは困難である。そのために、使用済み耐火物は、定形耐火物及び不定形耐火物ともに産業廃棄物として処理することが一般的である。使用済み耐火物を産業廃棄物として処理することは、多くの処理コストを要するのみならず、省資源の観点からも望ましくなく、従って、製鉄所で発生した使用済み耐火物を再利用する方法が多数提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、溶鋼製錬炉もしくは溶鋼を受ける容器に内張りされ、MgOを組成とする耐火物を解体したときに生ずる屑を粉砕機にて20mm以下の粒径に粉砕し、MgOを主成分とした耐火物を内張りした溶鋼製錬炉もしくは溶鋼を受ける容器にドロマイトないし軽焼ドロマイトの代替物として投入する技術が開示され、特許文献2には、マグネシア系廃煉瓦を分別回収し、破砕し、得られたマグネシア系廃煉瓦粉塊を、電気炉に投入し、溶鋼の電気炉精錬における造滓材として用いる技術が開示され、また、特許文献3には、MgO質煉瓦、MgO−C質煉瓦、MgO−Cr23質煉瓦の内の1種以上の使用済み耐火物を回収し、回収した耐火物を破砕して所定のサイズ以下とした破砕品を、圧縮空気とともに輸送管を介して溶融金属容器内に向けて吹き飛ばし、該容器内に残留させたスラグの上に使用済み耐火物の破砕品を投入し、当該スラグと共に使用済み耐火物の破砕品を固着させる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3は、何れも使用済み耐火物に含有されるMgOを利用してスラグ組成をMgO飽和とすることで、MgO系耐火物からなる内張り耐火物(「ワーク耐火物」とも呼ぶ)の溶損を防止することが目的であり、使用済み耐火物を精錬剤として積極的に利用する技術ではない。
【0007】
特許文献4には、製鉄所で発生する使用済み耐火物を回収して組成別に分別し、各組成別に粉砕し分級した後、組成、粒径に基づいて、一部は該製鉄所内でそのまま原材料と混合して耐火物を製造するとともに該製造した耐火物を該製鉄所内で使用し、他の一部は該製鉄所内でそのまま製鉄精錬用副原料として使用し、残余の実質全部は土木材料として製鉄所内外に払い出すことを特徴とする製鉄所で発生する使用済み耐火物の再利用方法が開示されている。
【0008】
特許文献4は、使用済み耐火物を製鉄所内で製鉄精錬用副原料として使用するとしているが、具体的な使用方法としては、使用済み耐火物中のMgOを、特許文献1〜3と同様にスラグ中のMgO濃度調整用のドロマイトの代替として使用する方法と、使用済み耐火物中のCr23を溶銑の脱炭精錬によって還元して金属クロムの代替として使用する方法の2つを開示するだけであり、特許文献4も、使用済み耐火物を精錬剤として積極的に利用する技術ではない。
【0009】
また、特許文献5には、粒径1mm以下の耐火物粉の質量割合が50%以上である、粒径10mm未満の耐火物屑に対して質量割合で15%以上の水を均一混合させ、得られた混合物をスラグ鍋内のスラグに投入してスラグを鎮静させる技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献5は、使用済み耐火物をスラグ中に投入することで、その衝撃によってスラグ中の気泡を物理的に破壊してスラグを鎮静させる技術であり、この技術も使用済み耐火物を精錬剤として積極的に利用する技術ではない。また、特許文献5は、使用済み耐火物のなかでも特に発生量の多いMgO系耐火物は適用できないとしており、使用済み耐火物の半数以上は利用することができず、使用済み耐火物の利用方法としては十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−116617号公報
【特許文献2】特開平11−335718号公報
【特許文献3】特開2005−188798号公報
【特許文献4】特開2005−58835号公報
【特許文献5】特開2008−174775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、使用済み耐火物、特にMgOまたはAl23を含有し、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、回転するインペラーによって溶銑とCaO系脱硫剤とを攪拌して溶銑を脱硫処理する溶銑の脱硫処理における精錬剤として有効活用することのできる、溶銑の脱硫方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 製鉄所で発生し、30mm以下の粒径に予め破砕・調製された、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、該使用済み耐火物とCaO系脱硫剤との合計添加量に対して5〜30質量%の範囲内となるように溶銑に添加し、添加したCaO系脱硫剤及び使用済み耐火物を、回転するインペラーによって溶銑と攪拌混合して溶銑を脱硫処理することを特徴とする、溶銑の脱硫方法。
(2) CaO系脱硫剤と使用済み耐火物とを合計した添加物中におけるAl23質量とMgO質量との比(Al23/MgO)が0.5〜3.0の範囲内になるように、使用するCaO系脱硫剤の組成に応じて、用いる使用済み耐火物の種類を選択することを特徴とする、上記(1)に記載の溶銑の脱硫方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、30mm以下の粒径に予め破砕・調製された、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、使用済み耐火物とCaO系脱硫剤との合計添加量に対して5〜30質量%の範囲内となるように溶銑に添加し、添加したCaO系脱硫剤及び使用済み耐火物を、回転するインペラーによって溶銑と攪拌混合して溶銑を脱硫処理するので、MgOはCaOと同様に塩基性酸化物でありCaOに比べると弱いが脱硫能を有することからMgOによる脱硫反応が起こり、一方、Al23は、脱硫能を有さないが、CaOの融点降下作用を有することからCaOによる脱硫反応を促進させ、その結果、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を脱硫反応における精錬剤として有効活用することが実現できるのみならず、使用済み耐火物の配合比率に応じてCaO系脱硫剤の使用量を低減でき、少ないCaO系脱硫剤の使用量で従来と同等の脱硫処理が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施する機械攪拌式脱硫装置の概要図である。
【図2】脱硫率に及ぼす使用済み耐火物の粒度の影響を示す図である。
【図3】脱硫率に及ぼす使用済み耐火物の配合比率の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。本発明者らは、産業廃棄物となる使用済み耐火物を積極的に精錬剤として利用することを目的として、回転するインペラーによって容器内の溶銑を攪拌し、脱硫剤と溶銑とを攪拌・混合して溶銑を脱硫する脱硫処理において、組成の異なる使用済み耐火物を添加し、脱硫反応に及ぼす影響を調査する試験を実施した。尚、インペラーによって容器内の溶銑を攪拌し、脱硫剤と溶銑とを攪拌・混合して溶銑を脱硫する脱硫方法を「機械攪拌式脱硫方法」と呼び、その装置を「機械攪拌式脱硫装置」と呼んでいる。
【0017】
図1に、試験で使用した機械攪拌式脱硫装置の概要を示す。図1に示すように、機械攪拌式脱硫装置は、台車1に積載された、溶銑鍋などの容器2に収容される溶銑3に浸漬・埋没し、旋回して溶銑3を攪拌するための耐火物製のインペラー4を備えており、このインペラー4は、昇降装置(図示せず)によってほぼ鉛直方向に昇降し、且つ、回転装置(図示せず)によって軸4aを回転軸として旋回するようになっている。また、機械攪拌式脱硫装置には、ホッパー(図示せず)に収容されたCaO系脱硫剤6及び予め破砕され、粒度調製された使用済み耐火物(図示せず)を容器2に収容された溶銑3の浴面に上置き添加するための投入シュート5が設置されている。更に、容器2の上方位置には、容器2を覆うための集塵フード(図示せず)が備えられ、この集塵フードに取り付けられた排気ダクト(図示せず)を介して処理中の排ガスやダストが集塵機(図示せず)に吸引されるようになっている。
【0018】
この機械攪拌式脱硫装置を用い、溶銑鍋内の300トンの溶銑3を脱硫した。使用した脱硫剤は、最大粒径が100μm以下のCaO系脱硫剤(80質量%CaO−20質量%Al23)であり、このCaO系脱硫剤6とともに所定量の使用済み耐火物を、インペラー4によって所定の速度で旋回攪拌されている溶銑浴面に投入シュート5から上置き添加し、脱硫処理を行った。CaO系脱硫剤6の添加量は1500kg(溶銑トンあたり5kg)を基準とし、使用済み耐火物を併用する場合には、CaO系脱硫剤6と使用済み脱硫剤との合計添加量が1500kg(溶銑トンあたり5kg)になるように、それぞれの添加量を調整した。表1に脱硫処理条件を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
使用済み耐火物としては、MgO−C煉瓦、MgO−Al23煉瓦、ZrO2−SiO2煉瓦、Al23−C煉瓦、Al23−SiO2煉瓦を用いた。これらは何れも定形耐火物(「成形煉瓦」ともいう)である。分別回収したこれらの使用済み耐火物を破砕機で破砕し、篩分器により最大粒径10mmの破砕品を回収し、この10mm以下の破砕品を脱硫試験に供した。
【0021】
脱硫試験は、CaO系脱硫剤の添加量を1200kg、破砕した使用済み耐火物の添加量を300kgの一定条件とし、脱硫反応に及ぼす使用済み耐火物の組成の影響を調査した。具体的には、使用済み耐火物を添加しない試験での脱硫率を基準とし、これに対する使用済み耐火物を添加した場合の脱硫率の変化から、脱硫反応に及ぼす使用済み耐火物の組成の影響を把握した。尚、脱硫率は、脱硫処理前の溶銑中硫黄濃度と脱硫処理後の溶銑中硫黄濃度との差を、脱硫処理前の溶銑中硫黄濃度に対して百分率で表示した値である。表2に脱硫試験条件及び試験結果を示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示すように、ZrO2−SiO2煉瓦を添加した試験4及びAl23−SiO2煉瓦を添加した試験6を除き、MgO−C煉瓦を添加した試験2、MgO−Al23煉瓦を添加した試験3及びAl23−C煉瓦を添加した試験5の全てで、使用済み耐火物を添加していない試験1に比べて脱硫率が向上することが認められた。また、その他の組成の耐火物についても同様の試験を行った結果、MgOまたはAl23を主成分とし、SiO2を含有しない耐火物の場合には、同様に脱硫率が向上することが認められた。
【0024】
これは、以下の理由による。即ち、MgOは、CaOと同様に塩基性酸化物であり、CaOに比べると弱いが脱硫能を有し、MgOによる脱硫反応が起こる。また、Al23は両性酸化物であり、脱硫能を有さないが、CaOの融点降下作用を有することからCaOの滓化が促進されてCaOによる脱硫反応を促進させる効果がある。一方、SiO2は酸性酸化物であり、脱硫能を有さない上に、2CaO・SiO2などのCaOとの化合物を形成し、脱硫に寄与するCaOを減少させ、CaOの脱硫能を低下させる。
【0025】
この実験によって、脱硫反応の促進に寄与する耐火物組成を確認することができたが、使用済み耐火物の粒度が大きくなると、反応性が低下することから、精錬剤として機能する粒度条件を見極める必要がある。また、使用済み耐火物単体では必要な脱硫能力はなく、使用済み耐火物の多量添加は脱硫スラグ発生量の増加を招くことになり、従って、使用済み耐火物の配合比率の適正範囲を見極める必要がある。
【0026】
そこで、脱硫率に及ぼす使用済み耐火物の粒度の影響を調査した。使用済みのMgO−Al23煉瓦を破砕し、篩分器によって、粒径を、10mm以下、10mm超え30mm以下、30mm超え50mm以下、50mm超えの4水準に分級し、これらをそれぞれCaO系脱硫剤に20質量%の配合比率(配合比率=(使用済み耐火物質量)×100/(使用済み耐火物質量+CaO系脱硫剤質量))で混合し、混合物の添加量を1500kg(溶銑トンあたり5kg)として、図1及び表1に示す機械攪拌式脱硫装置で脱硫試験を実施した。調査結果を図2に示す。
【0027】
図2に示すように、脱硫率は、混合した使用済みのMgO−Al23煉瓦の粒径が10mm以下の場合には90%、粒径が10mm超え30mm以下の場合には88%であり、一方、粒径が30mm超え50mm以下の場合には70%、粒径が50mm超えの場合には68%であり、使用済み耐火物を混合しない場合の脱硫率が80%であることから、使用済み耐火物を30mm以下に破砕することで、使用済み耐火物を添加する効果が発現することが確認できた。逆に、粒径が30mm超えの使用済み耐火物は脱硫反応促進に効果がないことも確認できた。
【0028】
更に、脱硫率に及ぼす使用済み耐火物の配合比率の影響を調査した。10mm以下に調製した使用済みMgO−Al23煉瓦を、配合比率を0〜50質量%の範囲で変化させ、CaO系脱硫剤と使用済みMgO−Al23煉瓦との合計添加量を1500kg(溶銑トンあたり5kg)として、図1及び表1に示す機械攪拌式脱硫装置で脱硫試験を実施した。調査結果を図3に示す。
【0029】
図3に示すように、10mm以下に調製したMgO−Al23煉瓦の配合比率が5〜30質量%の範囲で、脱硫率は80%を超え、MgO−Al23煉瓦を添加しない場合よりも脱硫率が高くなることが確認できた。配合比率が5質量%未満では、配合する効果が少なく、一方、配合比率が30質量%を超えると、使用済み煉瓦自体の脱硫能が低いことから脱硫率が低下する。
【0030】
本発明は、これらの検討結果に基づくものであり、本発明に係る溶銑の脱硫方法は、製鉄所で発生し、30mm以下の粒径に予め破砕・調製された、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、該使用済み耐火物とCaO系脱硫剤との合計添加量に対して5〜30質量%の範囲内となるように溶銑に添加し、添加したCaO系脱硫剤及び使用済み耐火物を、回転するインペラーによって溶銑と攪拌混合して溶銑を脱硫処理することを特徴とする。
【0031】
主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない耐火物としては、MgO系耐火物、MgO−C系耐火物、MgO−CaO系耐火物、MgO−Al23系耐火物、Al23系耐火物、Al23−C系耐火物、MgO−Cr23系耐火物などが挙げられるが、耐火物原料は微量のSiO2を含有することもあり、従って、本発明において、SiO2を含有しない耐火物とは、微量のSiO2を含有する耐火物であっても構わず、具体的にはSiO2の含有量が1.0質量%以下の耐火物を、SiO2を含有しない耐火物と定義する。これらは、定形耐火物であっても、また、不定形耐火物であってもどちらでも構わない。
【0032】
また、本発明において、CaO系脱硫剤と使用済み耐火物との合計の添加量は、溶銑トンあたり4.0kg以上とすることが好ましい。これ未満の場合には、脱硫剤として機能するスラグ量が少なくなり、つまりスラグのサルファイドキャパシティーが小さくなって効率的な脱硫反応が得られない。
【0033】
また、本発明において、効率的な脱硫反応を行うためには、CaO系脱硫剤と使用済み耐火物とを合計した添加物中におけるAl23質量とMgO質量との比(Al23/MgO)が0.5〜3.0の範囲内になるように、使用するCaO系脱硫剤の組成に応じて、用いる使用済み耐火物の種類を選択することが好ましい。これは、前記比(Al23/MgO)が0.5未満ではAl23によるCaOの融点効果作用が少なくなり、一方、比(Al23/MgO)が3.0を超えるとMgO質量が相対的に少なくなり、MgOによる脱硫反応が起こらなくなるからである。
【0034】
溶銑の脱硫処理にあたり、CaO系脱硫剤と所定の粒径に調製した使用済み耐火物とを予め混合し、混合したものを添加しても、また、それぞれを独立してホッパーに収容し、それぞれを所定量だけ切り出して添加するようにしてもよい。また、CaO系脱硫剤としては、CaO−20質量%Al23に限るものではなく、CaO単体であっても、また、CaF2を5〜10質量%含有するCaO−CaF2系脱硫剤であっても構わない。更に、CaO系脱硫剤の添加方法は、投入シュート5を介して溶銑に上置き添加する方法に限るものではなく、上吹きランスから窒素ガスなどを搬送用ガスとして溶銑に吹き付けて添加する方法でも構わない。使用済み耐火物も吹き付け添加可能な程度に粉砕した場合には、上吹きランスから窒素ガスなどを搬送用ガスとして溶銑に吹き付けて添加しても構わない。また更に、溶銑に金属Al、Alドロスなどの還元剤を投入し、溶銑を還元しながら脱硫処理しても構わない。
【0035】
このような構成の本発明によれば、使用済み耐火物中のMgOによる脱硫反応が起こる、或いは、使用済み耐火物中のAl23によるCaOの融点降下作用によってCaOによる脱硫反応が促進され、その結果、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を脱硫反応における精錬剤として有効活用することが実現できるのみならず、使用済み耐火物の配合比率に応じてCaO系脱硫剤の使用量を低減でき、少ないCaO系脱硫剤の使用量で従来と同等の脱硫処理が実現される。
【実施例1】
【0036】
図1に示す機械攪拌式脱硫装置を用いて、表1に示す処理条件で溶銑の脱硫処理を行う際に、表3に示す条件1〜7の7種類の操業条件でそれぞれ100ヒートの脱硫処理を行い、それぞれの脱硫率を求めた。表3に、脱硫率の平均値を併せて示す。尚、表3の備考欄には、本発明の範囲の条件は本発明例と表示し、その他は比較例と表示している。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示すように、使用済み耐火物を添加していない条件1に対して、本発明例である条件7では、脱硫率が大幅に向上し、効率的な脱硫処理が実現された。それに対して、条件2〜6は、使用済み耐火物を添加しているにも拘わらず、添加条件が適切でなく、何れも脱硫率は条件1よりも低下した。
【0039】
このように、本発明を適用することにより、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を脱硫反応における精錬剤として有効活用することが実現できるのみならず、使用済み耐火物の配合比率に応じてCaO系脱硫剤の使用量を低減でき、少ないCaO系脱硫剤の使用量で従来と同等の脱硫処理が実現されることが確認できた。
【実施例2】
【0040】
主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない種々の種類の使用済み耐火物をCaO−Al23系脱硫剤(CaO:90質量%、Al23:10質量%)に配合し、図1に示す機械攪拌式脱硫装置を用いて溶銑の脱硫処理を行った。試験では、CaO−Al23系脱硫剤の添加量を960kg(3.2kg/溶銑トン)、使用済み耐火物の添加量を240kg(0.8kg/溶銑トン)の一定値とし、使用済み耐火物の種類を変更することにより、CaO−Al23系脱硫剤と使用済み耐火物とを合計した添加物中におけるAl23質量とMgO質量との比(Al23/MgO)を0.40〜13.00の範囲で10水準(条件8〜条件17)に変化させ、前記比(Al23/MgO)と脱硫率との関係を調査した。使用した使用済み耐火物は10mm以下に破砕したものであり、CaO−Al23系脱硫剤との合計添加量に対する使用済み耐火物の配合比率は20質量%である。表4に操業条件を示す。
【0041】
【表4】

【0042】
また、表5に、使用済み耐火物における比(Al23/MgO)及びCaO−Al23系脱硫剤と使用済み耐火物との合計の添加物中における比(Al23/MgO)、並びに脱硫処理における溶銑の脱硫率を示す。
【0043】
【表5】

【0044】
表5に示すように、本発明の範囲内であっても、脱硫率に差が見られ、CaO−Al23系脱硫剤と使用済み耐火物との合計の添加物中における比(Al23/MgO)が0.5〜3.0の範囲では、脱硫率が高くなることが確認できた。これは、比(Al23/MgO)が0.5未満ではAl23によるCaOの融点効果作用が少なくなり、一方、比(Al23/MgO)が3.0を超えるとMgO質量が相対的に少なくなり、MgOによる脱硫反応が起こらなくなるものと考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 台車
2 容器
3 溶銑
4 インペラー
5 投入シュート
6 CaO系脱硫剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄所で発生し、30mm以下の粒径に予め破砕・調製された、主成分をMgOまたはAl23とし、SiO2を含有しない使用済み耐火物を、該使用済み耐火物とCaO系脱硫剤との合計添加量に対して5〜30質量%の範囲内となるように溶銑に添加し、添加したCaO系脱硫剤及び使用済み耐火物を、回転するインペラーによって溶銑と攪拌混合して溶銑を脱硫処理することを特徴とする、溶銑の脱硫方法。
【請求項2】
CaO系脱硫剤と使用済み耐火物とを合計した添加物中におけるAl23質量とMgO質量との比(Al23/MgO)が0.5〜3.0の範囲内になるように、使用するCaO系脱硫剤の組成に応じて、用いる使用済み耐火物の種類を選択することを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱硫方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−26028(P2012−26028A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94641(P2011−94641)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】