説明

溶銑の脱硫精錬剤および溶銑脱硫方法

【課題】環境に与える悪影響が少なく、生成スラグの再利用が可能で作業性の良好な溶銑の脱硫精錬剤と、溶銑脱硫方法を提案する。
【解決手段】アルカリ土類金属系脱硫剤に、KOおよびKClの混合物をそれぞれの含有量が5.0mass%以上である滓化促進剤を添加したものからなる溶銑の脱硫精錬剤と、この脱硫精錬剤を用いて溶銑の脱硫を行なう方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑脱硫を行なうために用いられる脱硫精錬剤およびその脱硫精錬剤を用いて溶銑の脱硫を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼精錬に先立つ溶銑の段階においては、一般に、その溶銑中に含まれる硫黄分を取り除く脱硫処理を行なうのが普通である。この脱硫処理は、溶銑に脱硫精錬剤を添加して、溶銑中のSをスラグ相に移行させるための方法である。例えば、この脱硫処理時に用いられる脱硫精錬剤としては、Ca化合物(CaO、CaCなど)やアルカリ化合物(NaCO、NaClなど)を含むものが代表的である。これらの脱硫精錬剤において、例えば、CaO含有脱硫精錬剤にはさらに、スラグの溶融を促して脱硫速度を向上させるために、スラグ粘度を低下させる作用をもつ滓化促進剤が添加されるのが普通である。その滓化促進剤としては、アルカリ土類金属のハロゲン化物であるCaFなどである。しかし、このCaFに含まれるFについては環境への悪影響が問題視されているため、そのFを含まない滓化促進剤の開発が強く求められていた。
【0003】
このような背景の下で、従来、種々の改良品が提案されている。例えば、特許文献1には、脱硫剤であるCaOを主成分とし、融剤(滓化促進剤)としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物を添加してなる脱硫精錬剤が開示されている。この従来技術では、脱硫精錬剤に含まれる融剤(滓化促進剤)に用い得る物質として、KClやNaClなどを挙げている。また、特許文献2には、滓化促進剤としてKOの使用が可能であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−209812号公報
【特許文献2】特開昭55−94411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、環境にやさしい脱硫精錬剤として、今日、Fを含まない脱硫精錬剤が脚光を浴びている。この点について、発明者らは、上記脱硫精錬剤の滓化促進剤として、カリウム、即ち、KClやKO利用の可能性について検討を行なった。しかし、KClを使用するとスラグ中のCl濃度が上昇し、発生したスラグのセメント原料としての利用が困難になるという問題があった。また、KOについては、KO自体が高価で、使用時に気化しやすく発煙しやすいので作業環境を悪くするという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、環境に与える悪影響が少なく、再利用に当たっての障害もなく、作業性の良好な溶銑の脱硫精錬剤とそれの有利な製造方法とを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術が抱えている上述した課題を克服できると共に、上記目的を確実に達成できる手段について鋭意研究を重ねた結果、発明者らは、以下に説明するような新規の脱硫精錬剤およびそれの製造方法を開発した。
【0008】
発明者らはまず、脱硫剤に加えるべき滓化促進剤として、K化合物、とくにKClとKOとに着目し、これらの化合物の脱硫特性について調査した。その結果、KClとKOとはこれらを混合物の形にして用いると、それぞれを単体で使用するときの問題点が軽減できる一方、脱硫作用についてはむしろ向上させることができることがわかった。併せて、KClとKOとの混合物としては、パーム椰子灰を使用することが望ましいことも見い出した。即ち、本発明は脱硫剤に添加すべき前記滓化促進剤として、パーム椰子灰を用いることが好ましいことを見い出し、本発明を開発するに到ったのである。
【0009】
即ち、本発明は、アルカリ土類金属系脱硫剤に、KOおよびKClの混合物をそれぞれの含有量が5.0mass%以上である滓化促進剤を添加したものからなる溶銑の脱硫精錬剤である。
【0010】
なお、本発明に係る脱硫精錬剤おいて、
(1)前記アルカリ土類金属系脱硫剤がCaOであること、
(2)前記滓化促進剤がパーム椰子灰であること、
(3)前記滓化促進剤は、肥料用パーム椰子灰を用いるとき、主にKClからなる水溶性加里を10〜50mass%、主にKOからなるく溶性加里を10〜50mass%含有するものであること、
(4)粒径が1mm以上の大きさに調整されたものであること、
が、より好ましい解決手段を提供できるものと考えられる。
【0011】
また、本発明は、溶銑保持容器内溶銑中に、上記の脱硫精錬剤を添加して溶銑の脱硫を行なうことを特徴とする溶銑脱硫方法を提案する。即ち、本発明は、上記の脱硫精錬剤、例えば、アルカリ土類金属系脱硫剤に、KOおよびKClの混合物をそれぞれの含有量が5.0mass%以上である滓化促進剤を添加したものからなる溶銑の脱硫精錬剤を用いて溶銑の脱硫を行なう方法である。
【発明の効果】
【0012】
前述のように構成される本発明によれば、新規な脱硫精錬剤、とくに本発明に特有の滓化促進剤を提供するができると共に、従来は肥料としてしか利用できていなかったパーム椰子の焼却灰(以下、単に「パーム灰」という)をより付加価値の高い製鉄原料として活用することができる他、さらには使用後に生成するスラグを無害なセメント原料の一部として再利用することができるようになり、低コスト、省資源化に対して大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】パーム椰子灰のX線回折測定の結果を示す回折図である。
【図2】各種の滓化促進剤を用いて行なった脱硫試験結果についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、脱硫精錬剤のうち、特に脱硫剤の融剤としての役目を担う滓化促進剤に関しての新規な提案である。その滓化促進剤として、本発明ではKClとKOを混合物の形態のものを用いる点に特徴がある。
【0015】
本発明によれば、脱硫剤に加える滓化促進剤として、KClとKOとを混合物の形態にしたものを用いることにより、それぞれの化合物自体(塩化物、酸化物)が抱えている問題点を相互に補完し合うように作用させることができる。即ち、それぞれの化合物がもつ欠点を緩和するように働き、それ故に、カリウムの総添加量を無理なく増やすことができ、大きな滓化促進効果を上げることができる。なお、発明者らの研究によると、このKClとKOが共存することによる効果を得るためには、それぞれの含有量を5.0mass%以上とすることが好ましい。その理由は、それぞれの含有量が5.0mass%未満では、十分な効果を発揮することができないからである。より好ましくは、KCl、KOとも8.0〜50mass%とする。また、その合計量(KCl+KO)では、20〜70mass%の範囲が上記と同様の理由で好適とされる。このような滓化促進剤を、脱硫剤全体に対して1〜20mass%添加することが好ましい。脱硫剤は、主としてCaO系脱硫剤となる。
【0016】
さて、発明者らの最近の研究成果によると、前記滓化促進剤として着目されているK化合物について、上述したように、KClとKO混合物としては、パーム灰を用いることが好適であることを突き止めている。このパーム灰とは、パーム椰子の廃棄物を焼却して灰にしたものであり、その構成成分中には多量のKClとKOを含んでいることが特徴である。従って、このパーム灰を用いれば、KClとKOの混合物を工業的にわざわざ調製することなしに、本発明に適合する脱硫剤の滓化促進剤として利用できる。
【0017】
なお、このパーム灰は、従来、肥料として用いられることが一般的であったが、より付加価値の高い材料として活用できるようになると共に、使用後にあってはセメント原料の一部として再利用することができるようになるという点で、省資源化への寄与効果も大きい。図1は、パーム灰のX線回折分析結果を示すものであるが、この図1にあるように、KClおよびKOのピークが観測されている。また、表1にはパーム灰の成分についての定量分析結果を、そして、表2にそれの特性について示した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
上述したように、前記パーム灰というのは、一般に、肥料として用いられることが多い。そこで本発明でもまた、肥料の分析方法に基づいた性状の特定を行なった。例えば、肥料の分析方法の例としては、独立行政法人農林水産消費安全技術センターHP収載の方法「肥料試験法(2010)」などがよく知られており、この方法により、Kの存在形態を分析すると、水溶性加里として測定されるものは水溶性のカリウム塩が主であり、KClなどが含まれる。また、く溶性加里はクエン酸水溶液により抽出されるカリウムであり、水に溶けて塩基性を示すKO等が含まれる。表3にパーム灰を原料とした登録肥料の保証成分を示す。
【0021】
この表3に示すように、前記滓化促進剤は、肥料用パーム灰を用いるときに、主にKClからなる水溶性加里を10〜50mass%、好ましくは20〜30mass%、主にKOからなるく溶性加里を10〜50mass%、好ましくは24〜35mass%の組成を有するものを用いるようにする。
【0022】
このように、水溶性加里およびく溶性加里のそれぞれの含有量を10〜50mass%に限定する理由は、KClおよびKOとして、それぞれの含有量を5.0mass%以上とすることと同じであり、含有量が少ないと十分な効果を発揮しないためである。
【0023】
【表3】

【0024】
このような組成、特性を有するパーム灰は、低融点の物質であることからスラグの滓化に効果があり、脱硫精錬剤用の滓化促進剤として有効である。特に、この滓化促進剤は、脱硫剤(CaO)に添加する形で使用されるが、CaO粒子の凝集を防止する作用もある。この滓化促進剤の脱硫剤への添加の方法は、溶銑へのCaOの添加と同時に添加してもよいし、CaOと事前に混合しておき、その混合物を溶銑に添加するようにしてもよい。
【0025】
次に、CaO系などの脱硫剤にパーム灰を添加してなる前記脱硫精錬剤を使って、溶銑の脱硫処理を行なう方法について説明する。即ち、前述した構成よりなる脱硫精錬剤を、機械的攪拌法(KR法)に従う脱硫プロセスに適用する場合には、次のような処理を行なう。まず、溶銑を脱硫容器に受銑したのち、その溶銑中に撹拌用プロペラを浸漬し、Ca系化合物脱硫剤と前記滓化促進剤(KCl、KOを予混合した物)を溶銑中に投入するか、KCl、KOを溶銑中に同時に投入し、しばらく撹拌した後に、スラグを除いて脱硫された溶銑を得て、これを次工程に送る。
【0026】
なお、脱硫精錬剤を構成している脱硫剤と滓化促進剤とは粒度の細かいものの方がスラグの滓化および反応促進の観点から好ましい。しかし、その粒度があまりに細かすぎると発煙の問題を生じさせて好ましくない。従って、本発明に適合する滓化促進剤の大きさは、1mm以上の大きさに粒度調製したものを用いることが好ましい。その粒度調製は、粉砕制御、篩い分け、擬似粒子の形成、成形処理などによって調整することができるが、CaO系脱硫剤の粗粒に該滓化促進剤の粉を付着させて擬似粒子化したものであってもよい。なお、KCl、KOの混合成形体による場合、発塵や発煙をよく抑えることができると共に、溶銑への添加の際には速やかに崩壊してスラグの粘度低下に寄与し、溶銑との混合を促進して脱硫速度の向上に寄与するような成形物にすることが好ましい。
【実施例】
【0027】
高炉から出銑されたS濃度150〜300ppmの溶銑を、KR方式の脱硫容器に受け、その溶銑中に撹拌用プロペラを浸漬し、次いで、容器内溶銑中に所定量の滓化促進剤(蛍石もしくはパーム灰)を3mass%〜10mass%含み、残部がCaO(脱硫剤)を主体とするものからなる脱硫精錬剤を、溶銑トンあたり4〜8Kg/t添加した。その後、13〜15分間撹拌を行なった結果、溶銑のS濃度は20ppm以下にまで低下させることができた。この時の脱硫反応の反応速度定数の測定結果を図2に示す。ここでSoは脱硫前S濃度、Sfは脱硫後S濃度、tは攪拌時間である。図2より、脱硫剤(CaO)中に10mass%のパーム灰(滓化促進剤)を添加することにより、蛍石を3mass%添加した従来品と同等以上の脱硫速度が得られていることがわかる。参考までに、滓化促進剤を用いずにCaOのみで脱硫した場合の結果もあわせて示したが、パーム灰の添加によりFを用いない条件においても高い脱硫速度が得られることがわかる。なお、パーム灰の添加量を5.0mass%とした場合には蛍石を3mass%添加した場合とほぼ同じ脱硫速度となった。
【0028】
上述したように、脱硫剤(CaO)にパーム灰を10mass%以下加えることによって、脱硫速度向上の効果が得られるが、同じK量をKClのみで添加しようとすると、スラグ中のCl量が増加する問題があり好ましくない。また、KOのみを添加した場合には、脱硫時の発煙が多くなってしまうという問題があったが、これら両者(KCl+KO)を含むパーム灰を使用した場合には、このような問題は発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の技術は、前述の例ではCaO系化合物について主に説明したが、脱硫剤としては他に、NaCOのようなNa系化合物への適用も可能であり、またCa系化合物についてもCaOの他、CaCやCaCNを用いる場合にも適用が可能である。また、本発明は、例示した機械的攪拌法による脱硫処理だけでなく、取鍋置き注ぎ法やインジェクション法による脱硫処理法にも当然適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属系脱硫剤に、KOおよびKClの混合物をそれぞれの含有量が5.0mass%以上である滓化促進剤を添加したものからなる溶銑の脱硫精錬剤である。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属系脱硫剤がCaOであることを特徴とする請求項1に記載の溶銑の脱硫精錬剤。
【請求項3】
前記滓化促進剤がパーム椰子灰であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶銑の脱硫精錬剤。
【請求項4】
前記滓化促進剤は、肥料用パーム椰子灰を用いるとき、主にKClからなる水溶性加里を10〜50mass%、主にKOからなるく溶性加里を10〜50mass%含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の溶銑の脱硫精錬剤。
【請求項5】
粒径が1mm以上の大きさに調整されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の溶銑の脱硫精錬剤。
【請求項6】
溶銑保持容器内溶銑中に、上記の脱硫精錬剤を添加して溶銑の脱硫を行なうことを特徴とする溶銑脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53354(P2013−53354A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193085(P2011−193085)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(598098467)株式会社 メッツコーポレーション (10)
【Fターム(参考)】