説明

溶鋼処理設備のワイヤー供給装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、溶鋼加熱精練設備等の溶鋼処理設備において、溶鋼鍋内の溶鋼にCa等のワイヤーを添加するためのワイヤー供給装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】前記溶鋼処理設備において、溶鋼鍋の成分の均一性と溶鋼鍋の側壁耐火物の保護のため、Ca等のワイヤーは溶鋼鍋の中心に供給し溶鋼に添加する必要がある。前記ワイヤーは、ドラムに巻かれており、その断面形状が長方形で、薄肉方向に曲り易いが、幅方向に曲り難い性質があるため、通常は上下方向に曲がり易い方向で使用する必要があり、したがって、ワイヤーのガイドパイプは横方向に曲げて設置することができない。
【0003】従来、ワイヤー供給装置は、溶鋼鍋と添加装置が平面的に一直線で結べかつ途中に障害物がない位置に配設すると共に、ガイドパイプを一直線に通して設け、ガイドパイプ先端と溶鋼鍋内の溶鋼面との間隔を1m以下にして、ワイヤーに曲がりの変化があっても溶鋼鍋のほゞ中心に供給できるようにしている。なお、ガイドパイプの途中に、移動するランス、電極等があり、ワイヤー供給中には干渉しないが、溶鋼処理時或いは溶鋼鍋補修時に移動して干渉する場合は、ガイドパイプの干渉する部分を、移動して干渉しないようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来技術では困難と思われていた設備へも、溶鋼鍋の移動時間の短縮、建設コスト低減のため、既設設備を利用してワイヤー添加を行なうニーズが増えている。例えば、溶鋼加熱精練設備において、現在使用している電極孔或いはランス孔を利用して、作業デッキ上から該デッキ下にある溶鋼鍋にワイヤーを供給する要求がある。
【0005】しかし、従来技術では、電極或いはランス孔とワイヤー供給用開口が、同じ開口となるので、該開口部にワイヤー供給用の固定ガイドパイプを取付けると、電極或いはランスが地金付き等で太くなると、これらと前記ガイドパイプが干渉して、操業ができなくなるという問題がある。また、前記ガイドパイプ先端がデッキ上に位置するのに対して、溶鋼鍋がデッキ下であるから、前記ガイドパイプ先端と溶鋼鍋内の溶鋼面との距離が 2〜2.5mと大きくなる。
【0006】前記ワイヤーガイドパイプの先端と溶鋼面との距離が 1m(設計許容値) を超えた場合、ワイヤーをその巻取ドラムから巻き戻したときの曲がりの変化の影響が大きくなり、溶鋼鍋の中心に向かってワイヤーを安定的に供給できず、溶鋼へのワイヤー添加が不可能になるという問題がある。なお、前記ワイヤーが溶鋼鍋の側壁に接触すると、溶鋼鍋内壁に設けたレンガが溶損し、溶鋼鍋の側壁に穴明きを引き起こし、非常に危険である。
【0007】本発明は、上述のような実状に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、作業デッキ上から電極孔或いはランス孔を利用して、電極或いはランス等と干渉することなくワイヤーを溶鋼鍋内の適正位置に供給することができる溶鋼処理設備のワイヤー供給装置を提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。即ち、本発明は、溶鋼鍋内の溶鋼にワイヤーを添加するための溶鋼処理設備のワイヤー供給装置であって、作業デッキ上に竪軸心回りに回転可能に設けた旋回フレームと、該フレームに設けられたワイヤーガイドパイプ昇降機構と、該昇降機構により昇降する可動ワイヤーガイドパイプと、前記旋回フレームの回転駆動手段とからなり、前記可動ワイヤーガイドパイプを上昇位置において溶鋼鍋のランス孔又は電極孔の直上とこれらの孔以外の待機位置との間を往復動可能にしたことを特徴としている。
【0009】
【作用】本発明によれば、電極或いはランスによる溶鋼処理中又は補修時には、可動ワイヤーガイドパイプをその昇降機構により上昇させた状態で、電極或いはランスに干渉しない待機位置に、旋回フレームを旋回移動させる。ワイヤーを溶鋼に添加する時には、電極或いはランスを待機位置に移動し、旋回フレームを旋回させて可動ワイヤーガイドパイプの下端を溶鋼鍋のランス孔又は電極孔の直上に位置させ、可動ワイヤーガイドパイプをその昇降機構により下降させて、溶鋼鍋内に溶鋼面との距離が1m以下となるように可動ワイヤーガイドパイプ下端を位置させた後、ワイヤーを巻き戻して前記パイプ下端から溶鋼中に供給し添加する。
【0010】そして、ワイヤーの添加処理が完了すると、前記昇降機構により可動ワイヤーガイドパイプを作業デッキ上の上昇位置とした後、旋回フレームをその回転駆動手段により待機位置に旋回させて待機させることによって、電極或いはランスとの干渉を回避する。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づき説明する。図面において、1は本発明のワイヤー供給装置で、溶鋼加熱精練設備の作業デッキ2 上に設けられ、該デッキ2 の下側に溶鋼鍋3 が配設されており、作業デッキ2 には溶鋼鍋3 の電極孔4 およびランス孔5 の直上に位置して夫々開口6,7 が設けられている。なお、8 は電極、9 は溶鋼面、10はランスである。
【0012】ワイヤー供給装置1 は、作業デッキ2 上に軸受台11を介して回転自在に立設された旋回軸12と、該旋回軸12に基端13A が固着された旋回フレーム13と、該フレーム13の先端に若干後方傾斜状に設けられた支持ガイドフレーム14と、該ガイドフレーム14に設けられたワイヤーガイドパイプ昇降機構15と、該昇降機構15により昇降する可動ワイヤーガイドパイプ16と、下半部が支持ガイドフレーム14内に挿入されると共に旋回フレーム13に取付けられた旋回ワイヤーガイドパイプ17および旋回フレーム回転駆動手段18等により主構成されている。
【0013】前記旋回軸12の上端12A は、上部デッキ19を貫通して軸受20により回転自在に軸支され、旋回駆動レバー21の一端が固着され、前記上部デッキ19上に設置された電動シリンダからなる前記駆動手段18のロッド端18A が前記レバー21の外端に連結されている。そして、上部デッキ19上には、ワイヤーWを巻取ドラム (図示省略) から巻戻すアンコイラー、ワイヤー繰り出し用ピンチローラ22、固定ワイヤーガイドパイプ23が設けられている。
【0014】前記旋回フレーム13の先端部13B は、前記作業デッキ2 に設けたランス孔5 の直上近傍にまで延出され、該先端部13B に前記支持ガイドフレーム14が、上端を後方 (基端13A 側) に若干傾斜させて固着されており、旋回フレーム13上に固着された旋回ワイヤーガイドパイプ17の上端に中空ガイドコーン17A が固定され、該コーン17A の中心がワイヤー供給時に前記上部デッキ19上の前記ガイドパイプ23の中心と一致するようになっている。
【0015】前記支持ガイドフレーム14は、図3〜図5に示すように、2本一対の長尺の溝形鋼材14A を間隔をもって連結部材14B により上下端および中間において連結し、溝形鋼材14A の対向内側面に断面長方形のガイドレール14C を全長にわたって固着したものであり、両溝形鋼材14A の上下部に前記旋回フレーム13の前端が連結され、かつ、その下端が作業デッキ2 に干渉しない高さに位置している。
【0016】前記ワイヤーガイドパイプ昇降機構15は、可動ワイヤーガイドパイプ16を固定した上下一対のパイプ昇降台車24と、前記支持フレーム14の後面上下端に軸受25を介して回転自在に軸支された上下部回転軸26,27 と、上下部回転軸26,27 に固着された伝動チエンホイル28,29 と、上部回転軸26に固着された従動チエンホイル30と、前記伝動チエンホイル28,29 間に巻掛けられた無端状伝動チエン31と、旋回フレーム13上部に載設されたサイクロ減速機付駆動モータ32と、モータ出力軸に固着された駆動チエンホイル33と、該ホイル33と前記従動チエンホイル30間に巻掛けられた無端状チエン34とから成っている。
【0017】前記パイプ昇降台車24は、可動ワイヤーガイドパイプ16を両側から解放可能に挟着保持する台車本体24A と、該本体24A に回転自在に装着された前記両ガイドレール14C の対向面に接触転動するガイドローラ24B と、前記両ガイドレール14C の両側面に接触転動するガイドローラ24C とからなり、前記台車本体24A に固着された連結金物35を介して、前記伝動チエン31が連結されている。
【0018】なお、前記台車24のうち上側の台車本体24A の外側面には、図3に示すようにストライカー36が設けられ、前記支持ガイドフレーム14の上下部に取付けた上下限用リミットスイッチ37,38 を、前記ストライカー36が作動させることにより、前記モータ32が停止されるようになっている。前記可動ワイヤーガイドパイプ16は、固定ワイヤーガイドパイプ23が挿通する太さとされ、上部パイプ16A と下部パイプ16B に接続分離可能に分割され、上部パイプ16A の上端に中空ガイドコーン16C が設けられており、下部パイプ16B の交換および上下部パイプ16A,16B の交換が可能になっている。そして、中空ガイドコーン16C には、前記パイプ昇降台車24が下降限に位置しているとき、旋回ワイヤーガイドパイプ17の下端部が挿入している。
【0019】また、前記可動ワイヤーガイドパイプ16の長さは、パイプ昇降台車24即ち該下部パイプ16B の下端が、溶鋼鍋3 内の溶鋼面9 から1m以下の距離に位置するように設定されており、しかも、前記ガイドパイプ16の上昇限において、該パイプ16下端が支持ガイドフレーム14下端と略一致するようにパイプ昇降台車24のストロークSが設定されている。なお、前記旋回フレーム13および前記ガイドパイプ16とランス10等との既設設備の相互動作に対し、電気的な条件 (インターロック) を設け、設備の干渉を防止し、遠隔自動運転を可能にしている。
【0020】上記実施例において、図1〜図4は、ワイヤー添加処理時の状態を示しており、可動ワイヤーガイドパイプ16の下端が溶鋼鍋3 内の溶鋼面9 から1m以下の距離に位置し、アンコイラーからワイヤー繰り出し用ピンチローラ22により繰り出されたワイヤーWが、固定および旋回ワイヤーガイドパイプ23,17 から可動ワイヤーガイドパイプ16内を通って、溶鋼鍋3 内の適正な位置に供給され、所定の速度で連続的に溶鋼Mに添加される。
【0021】この時、ランス10は図2に示す待機位置にあり、本発明ワイヤー供給装置1 がランスに干渉することはない。このようにして、既設設備のランス孔5 およびその上方の開口7 を利用してワイヤー添加処理を自動的に行なうことができる。そして、可動ワイヤーガイドパイプ16に地金 (溶鋼) が付着したり熱によって曲がり等が生じた場合は、該ガイドパイプ16又は下部パイプ16B さらには、可動ワイヤーガイドパイプ16とその昇降台車24共にセットで容易に交換可能である。
【0022】ワイヤー添加処理が完了すると、ワイヤーWの繰り出し用ピンチローラ22およびアンコイラーを逆回転させて、ワイヤーWを巻き取ってその先端を上部デッキ19上の固定ワイヤーガイドパイプ23内に引き戻すと共に、前記モータ32を運転して昇降台車24を上昇させ、上昇限でリミットスイッチ37の作動により前記モータ32が自動停止する。
【0023】昇降台車24が上昇限に達すると、可動ワイヤーガイドパイプ16の下端が作業デッキ2 と干渉しない位置になるので、旋回フレーム回転駆動手段18により、旋回フレーム13を旋回させて図2に2点鎖線で示す待機位置に移動させる。このようにして、ランス孔5 およびその上方の開口とこれらの直上に障害物がなくなるので、該開口7 およびランス孔5 にランス10を挿通して、溶鋼鍋3 内にランス10を挿入して、ランス10による溶鋼加熱精練処理を行なうことができる。このとき、電極8 による処理も同時に行ないうること勿論である。
【0024】そこで、ワイヤー添加処理を行なう場合は、ランス10を上昇させて図2に示す待機位置に移動させた後、前記回転駆動手段18により旋回フレーム13を、図2に2点鎖線で示す待機位置から図2に実線で示す添加処理位置に旋回させる。続いて、前記モータ32の運転を開始して、昇降台車24を下降させる。昇降台車24が下降限に達すると、ストライカー36が下限用リミットスイッチ38を作動させ、前記モータ32が自動停止し、可動ワイヤーガイドパイプ16が開口7 およびランス孔5 から溶鋼鍋3 内の溶鋼面9 上1m以下の適正位置に達する。この状態において、ワイヤーWをその繰り出し用ピンチローラ22により繰り出し、旋回および可動ワイヤーガイドパイプ17,16 内を通して、溶鋼M中に安定したワイヤー添加ができる。
【0025】上記実施例においては、ランス孔5 およびその上方の開口7 を利用しているが、電極孔4 およびその上方の開口6 を利用するワイヤー供給装置とすることができること当然である。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば、旋回フレーム13と支持ガイドフレーム14を一体化でき、また昇降台車24も1台としたり、ガイドローラ以外の昇降体とすることができ、さらに、昇降駆動をシリンダ装置等により行なうなど、適宜設計変更可能である。
【0026】
【発明の効果】本発明は、上述のように、溶鋼鍋内の溶鋼にワイヤーを添加するための溶鋼処理設備のワイヤー供給装置であって、作業デッキ上に竪軸心回りに回転可能に設けた旋回フレームと、該フレームに設けられたワイヤーガイドパイプ昇降機構と、該昇降機構により昇降する可動ワイヤーガイドパイプと、前記旋回フレームの回転駆動手段とからなり、前記可動ワイヤーガイドパイプを上昇位置において溶鋼鍋のランス孔又は電極孔の直上とこれらの孔以外の待機位置との間を往復動可能にしたことを特徴とするものであるから、作業デッキ上から電極孔或いはランス孔を利用して、電極或いはランスと干渉することなくワイヤーを溶鋼鍋内の適正位置に供給し、安定したワイヤー添加を行なうことができ、ワイヤー添加設備の建設コストの低減および溶鋼鍋の移動時間の短縮を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す一部破断正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】同実施例におけるワイヤーガイドパイプ昇降機構の詳細を示す一部破断正面図である。
【図4】図3の右側面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【符号の説明】
1 ワイヤー供給装置
2 作業デッキ
3 溶鋼鍋
4 電極孔
5 ランス孔
12 旋回軸
13 旋回フレーム
15 ワイヤーガイドパイプ昇降機構
16 可動ワイヤーガイドパイプ
18 旋回フレーム回転駆動手段
M 溶鋼
W ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶鋼鍋内の溶鋼にワイヤーを添加するための溶鋼処理設備のワイヤー供給装置であって、作業デッキ上に竪軸心回りに回転可能に設けた旋回フレームと、該フレームに設けられたワイヤーガイドパイプ昇降機構と、該昇降機構により昇降する可動ワイヤーガイドパイプと、前記旋回フレームの回転駆動手段とからなり、前記可動ワイヤーガイドパイプを上昇位置において溶鋼鍋のランス孔又は電極孔の直上とこれらの孔以外の待機位置との間を往復動可能にしたことを特徴とする溶鋼処理設備のワイヤー供給装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3088882号(P3088882)
【登録日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【発行日】平成12年9月18日(2000.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−260001
【出願日】平成5年10月18日(1993.10.18)
【公開番号】特開平7−112240
【公開日】平成7年5月2日(1995.5.2)
【審査請求日】平成10年9月17日(1998.9.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−162161(JP,A)
【文献】実開 昭55−96150(JP,U)