説明

滅菌装置及び滅菌システム

【課題】滅菌装置(10)の過酸化水素蒸気発生器(31)により発生した過酸化水素濃度を正確に測定できるようにして、滅菌システム(1)における滅菌性能の安定化を図る。
【解決手段】過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度を検出する上流側温湿度センサ(31a)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気の温度と湿度を検出する下流側温湿度センサ(31b)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の温度と湿度に基づいて、下流側の空気中の過酸化水素濃度を判定する濃度判定部(52)とを設け、濃度判定部(52)で過酸化水素蒸気の濃度を所定値に保ちながら滅菌運転を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気が流れる過酸化水素発生流路中に過酸化水素蒸気発生器を備えた滅菌装置と、該滅菌装置により処理室へ過酸化水素蒸気を供給して室内を滅菌する滅菌システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の滅菌システムとしては、密閉可能な処理室(例えば医薬品製造室)に、該処理室の気体を吸引する真空ポンプが設けられた気体吸引通路と、過酸化水素蒸気を発生させる過酸化水素蒸気発生器が設けられた過酸化水素供給通路と、処理室内に無菌空気を供給する空気供給通路と、処理室内の気体を循環させながら触媒で過酸化水素を分解する気体循環通路とが接続されたシステムがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1の滅菌システムでは、まず真空ポンプを起動して処理室を真空状態にした後、過酸化水素を処理室内に供給して滅菌処理を行う。次に、空気供給通路から処理室に無菌空気を導入し、過酸化水素を処理室内に分散させる。そして、真空ポンプによる吸引工程、過酸化水素の供給工程、及び無菌空気の導入工程を数回繰り返して処理室の滅菌が終了すると、処理室から過酸化水素を除去する工程を行う。この過酸化水素除去工程では、気体循環通路の触媒により過酸化水素を分解しながら処理室の気体を循環させる。こうすることにより、処理室内の過酸化水素濃度を下げるようにしている。
【0004】
ところで、滅菌運転中には、通常、処理室内は一定の過酸化水素濃度に維持される。このため、処理室内には、過酸化水素濃度を検出するセンサが設けられる。このセンサとしては、例えば、近赤外線分光分析により濃度測定を行うものがある(例えば、特許文献2参照)。また、その他にも、高分子膜で過酸化水素を吸収させて過酸化水素量を測定することで濃度測定を行うものもある。
【特許文献1】特開平10−328276号公報
【特許文献2】特開平8−334460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、処理室内の過酸化水素濃度を検出するために用いられている従来のセンサ類は、測定条件(通過風量など)や設置条件(設置方法や設置位置など)の影響が大きく、同じ濃度であっても異なるセンサを用いると検出値が異なることがあった。つまり、従来のセンサでは、正確な過酸化水素濃度を判定することが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、滅菌装置の過酸化水素蒸気発生器により発生した過酸化水素濃度を正確に測定できるようにして、滅菌システムにおける滅菌性能の安定化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、空気が流れる過酸化水素発生流路(33)中に過酸化水素蒸気発生器(31)を備えた滅菌装置を前提としている。
【0008】
そして、この滅菌装置は、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度を検出する上流側温湿度検出手段(31a)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気の温度と湿度を検出する下流側温湿度検出手段(31b)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の温度と湿度に基づいて、下流側の空気中の過酸化水素濃度を判定する濃度判定手段(52)とを備えていることを特徴としている。
【0009】
この第1の発明では、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度に対する下流側の空気の温度と湿度の変化量に基づいて、濃度判定手段(52)により、過酸化水素蒸気発生器(31)の直後の過酸化水素濃度を判定できる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、濃度判定手段(52)が、過酸化水素発生流路(33)における過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における単位時間当たりの通過水分量から下流側での水分増加量を算出し、その水分増加量に、過酸化水素蒸気発生器(31)に用いられている過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度に基づいて、水に対する質量比を積算して空気中の過酸化水素量を求め、該過酸化水素量と通過風量とから過酸化水素濃度を算出する濃度算出部(52a)を備えていることを特徴としている。
【0011】
この第2の発明では、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側のそれぞれの通過水分量から下流側での水分増加量を求め、その水分増加量と、過酸化水素蒸気発生器(31)で用いている過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度とに基づいて、過酸化水素発生流路(33)における過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側における空気中の過酸化水素濃度を算出できる。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、上流側温湿度検出手段(31a)と下流側温湿度検出手段(31b)が、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における空気の相対湿度を測定する相対湿度計と、該空気の乾球温度を測定する乾球温度計とにより構成されていることを特徴としている。
【0013】
この第3の発明では、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の両方で、相対湿度と乾球温度が測定され、それらの値に基づいて算出される過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側での水分の増加量と、過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度とに基づいて、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気中の過酸化水素濃度を算出できる。
【0014】
第4の発明は、第1または第2の発明において、上流側温湿度検出手段(31a)と下流側温湿度検出手段(31b)が、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における空気の乾球温度を測定する乾球温度計と、該空気の湿球温度を測定する湿球温度計とにより構成されていることを特徴としている。
【0015】
この第4の発明では、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の両方で、乾球温度と湿球温度が測定され、それらの値に基づいて算出される過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側での水分の増加量と、過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度とに基づいて、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気中の過酸化水素濃度を算出できる。
【0016】
第5の発明は、処理室(2)に対して給気と排気が可能な給排気機構(60)と、過酸化水素蒸気発生器(31)を備えて該処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌装置(30)とを備えた滅菌システムを前提としている。
【0017】
そして、この滅菌システムは、滅菌装置(30)が請求項1から4のいずれか1に記載の滅菌装置により構成され、上記過酸化水素蒸気発生器(31)から処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌運転中に、上記滅菌装置(30)の濃度判定手段(52)により空気中の過酸化水素濃度を所定値に維持する制御を行う制御手段(50)を備えていることを特徴としている。
【0018】
この第5の発明では、給排気機構(60)を制御することにより処理室(2)に対して給気と排気を行いながら、滅菌装置(30)の過酸化水素蒸気発生器(31)から処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌運転中に、濃度判定手段(52)により空気中の過酸化水素濃度を所定値に維持する制御が行われる。
【0019】
第6の発明は、第5の発明において、給排気機構(60)が、温度と湿度を調整した空気を処理室(2)へ供給する空調装置を備えていることを特徴としている。
【0020】
この第6の発明では、処理室(2)の空調を行いながら滅菌処理を行うことができる。ここで、過酸化水素を用いた滅菌処理では、低湿度の空気の方が高湿度の空気よりも滅菌効果が高くなる。そこで、この発明では、処理室(2)内を低湿度に維持しておくことにより、滅菌効果が高いレベルで安定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度を検出する上流側温湿度検出手段(31a)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気の温度と湿度を検出する下流側温湿度検出手段(31b)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の温度と湿度に基づいて、下流側の空気中の過酸化水素濃度を判定する濃度判定手段(52)とを設けたことにより、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度に対する下流側の空気の温度と湿度の変化量に基づいて、過酸化水素蒸気発生器(31)の直後で過酸化水素濃度を判定できる。したがって、濃度の判定値に対する測定条件や設置条件の影響は少なく、判定した過酸化水素濃度は従来よりも正確である。そのため、処理室(2)へ供給する過酸化水素蒸気を上記濃度に基づいて制御して滅菌運転を行うことにより、滅菌性能のばらつきも防止できる。
【0022】
上記第2の発明によれば、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側のそれぞれの通過水分量から下流側での水分増加量を求め、その水分増加量と、過酸化水素蒸気発生器(31)で用いている過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度とに基づいて、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の過酸化水素濃度を算出できる。過酸化水素濃度は、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の水分増加量のうち、過酸化水素水溶液における水と過酸化水素の比率から求められるため、算出値は正確である。
【0023】
上記第3の発明によれば、上流側温湿度検出手段(31a)と下流側温湿度検出手段(31b)として、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における空気の相対湿度を測定する相対湿度計と、該空気の乾球温度を測定する乾球温度計とを用いているので、簡単な構成で過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気中の過酸化水素濃度を確実に測定できる。
【0024】
上記第4の発明によれば、上流側温湿度検出手段(31a)と下流側温湿度検出手段(31b)として、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における空気の乾球温度を測定する乾球温度計と、該空気の湿球温度を測定する湿球温度計とを用いているので、簡単な構成で過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気中の過酸化水素濃度を確実に測定できる。
【0025】
上記第5の発明によれば、給排気機構(60)を制御することにより処理室(2)に対して給気と排気を行いながら、滅菌装置(30)の過酸化水素蒸気発生器(31)から処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌運転中に、濃度判定手段(52)により過酸化水素濃度を所定値に維持する制御が行われる。したがって、滅菌システムにおける滅菌運転中の処理室(2)の過酸化水素濃度を安定させることが可能となる。
【0026】
上記第6の発明によれば、給排気機構(60)として、温度と湿度を調整した空気を処理室(2)へ供給する空調装置を設けたことにより、処理室(2)の空調を行いながら滅菌処理を行うことができる。そして、過酸化水素を用いた滅菌処理では、低湿度の空気の方が高湿度の空気よりも滅菌効果が高くなるため、処理室(2)内を低湿度に維持しておくことにより、滅菌効果を高いレベルで安定させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
−全体の構成−
この実施形態は、医薬品等の製造室を処理室として、該処理室内の空調と滅菌処理とを行う滅菌システムに関するものである。この実施形態では、1室の処理室(2)に対して滅菌システム(1)が構成されている。この実施形態の配管系統図である図1に示すように、この滅菌システム(1)は、空調系統側回路(10)と滅菌系統側回路(滅菌装置)(30)とを備えている。
【0029】
この滅菌システム(1)の空調系統側回路(10)は、処理室(2)の入口に接続された給気通路(11)と、処理室(2)の出口に接続された還気通路(12)及び排気通路(28)とを備えている。給気通路(11)から処理室(2)への空気の入口と、処理室(2)から還気通路(12)及び排気通路(28)への出口には、フィルタ機構としてHEPAフィルタ(high efficiency particulate air filter)(14)が設けられている。
【0030】
給気通路(11)と排気通路(28)(還気通路(12))との間には、処理室(2)内の空気を排気通路(28)(還気通路(12))から給気通路(11)へ戻すための戻し通路(15)が接続されている。そして、給気通路(11)の一部と還気通路(12)(排気通路(28))の一部と戻し通路(15)とにより、処理室(2)の空気が循環する空調側循環通路(16)が構成されている。なお、戻し通路(15)と給気通路(11)の合流箇所には、仮想線で示すようにミキシングチャンバ(19)を設けてもよい。排気通路(28)(還気通路(12))には、戻し通路(15)との接続部の上流側に循環ファン(18)が設けられている。
【0031】
−詳細な構成−
<空調系統側回路>
給気通路(11)には、除湿器として構成された外気処理空調機(13)と、空気の温度調節のみを行う顕熱空調機(17)とが設けられている。外気処理空調機(13)及び顕熱空調機(17)は、空調装置を構成している。
【0032】
上記外気処理空調機(13)は、ケーシング内が隔壁(13a)により第1通路(13b)と第2通路(13c)に分離されており、空気中の水分を吸脱着可能な吸着剤を担持したハニカム状の吸着ロータ(13d)が、上記隔壁(13a)に沿って設けられた回転軸(図示せず)を中心として回転可能に設けられている。第1通路(13b)には、上流側から順に、外気取り入れ口(13e)、第1冷却コイル(13f)、上記吸着ロータ(13d)、ファン(13j)、及び給気口(13k)が設けられている。第2通路(13c)には、外気取り入れ口(13e)、第2加熱コイル(13m)、吸着ロータ(13d)、及び排気口(13n)が設けられている。排気口(13n)は、図示しない排気ファンに接続されている。
【0033】
第1通路(13b)では、第1冷却コイル(13f)により冷却された外気(第1空気)中の水分が吸着ロータ(13d)に吸着され、該第1空気が減湿される。第1空気はその後に給気口(13k)より吹き出される。吸着ロータ(13d)は連続的または断続的に回転しており、水分を吸着した部分がやがて第2通路(13c)内へ移動する。第2通路(13c)では、外気(第2空気)が第2加熱コイル(13m)で加熱されてから吸着ロータ(13d)を通過することにより、該吸着ロータ(13d)が再生される。吸着ロータ(13d)の再生された部分は、さらに回転して第1通路(13b)側へ移動することにより、再び第1空気を減湿することができるようになる。
【0034】
なお、この外気処理空調機(13)では、外気取り入れ口(13e)と排気口(13n)とにそれぞれダクトが接続されており、外気取り入れ口(13e)側のダクトに中性能フィルタ(20)が設けられている。
【0035】
上記顕熱空調機(17)は、上流側から順に、空気流入口(17a)、冷却コイル(17b)、電気ヒータ(17e)、ファン(17c)、及び空気流出口(17d)を有している。この顕熱空調機(17)と外気処理空調機(13)と間には、中性能フィルタ(20)が設けられている。また、上記戻し通路(15)は、給気通路(11)における外気処理空調機(13)と中性能フィルタ(20)との間に接続されている。
【0036】
空調系統側回路(10)には、3つの空調ガス切換バルブ(56)が設けられている。具体的に、給気通路(11)における顕熱空調機(17)と処理室(2)との間には、第1空調ガス切換バルブ(56a)が設けられている。排気通路(28)における処理室(2)と循環ファン(18)との間には、第2空調ガス切換バルブ(56b)が設けられている。排気通路(28)における戻し通路(15)との接続部の下流側には、第3空調ガス切換バルブ(56c)が設けられている。
【0037】
<滅菌系統側回路>
滅菌系統側回路(30)は、主流路(34)と、過酸化水素発生流路(33)と、過酸化水素分解流路(35)と、循環側通路(37)と、排気側通路(54)とを備えている。主流路(34)は、一端が給気通路(11)において第1空調ガス切換バルブ(56a)の下流に接続され、他端が還気通路(12)(排気通路(28))において第2空調ガス切換バルブ(56b)の上流に接続されている。給気通路(11)の一部と還気通路(12)の一部と主流路(34)とにより、処理室(2)の空気が循環する滅菌側循環通路(32)が構成されている。
【0038】
主流路(34)には、滅菌側空調機(53)が設けられている。滅菌側空調機(53)は、上記顕熱空調機(17)と同じ構成で、顕熱空調機(17)よりも処理風量が小さい空調機である。滅菌側空調機(53)は、上流側から順に、空気流入口(53a)、冷却コイル(53b)、電気ヒータ(53e)、ファン(53c)、及び空気流出口(53d)を有している。なお、この滅菌側空調機(53)は、その処理風量が顕熱空調機(17)よりも小さいが、顕熱空調機(17)以上であってもよい。
【0039】
主流路(34)の滅菌側空調機(53)の上流部分には、上流側から順に過酸化水素分解流路(35)と循環側通路(37)と過酸化水素発生流路(33)とが接続されている。循環側通路(37)は、過酸化水素分解流路(35)から分岐している。すなわち、過酸化水素分解流路(35)及び循環側通路(37)からなる部分は、主流路(34)に対して並列になっている。
【0040】
過酸化水素発生流路(33)は、滅菌ガス発生機(58)が設けられ、主流路(34)とは逆端が大気開放されている。滅菌ガス発生機(58)は、除湿器(57)と過酸化水素蒸気発生器(31)とを備えている。除湿器(57)は、室外から取り込んだ空気を除湿する。過酸化水素蒸気発生器(31)は、過酸化水素の水溶液を霧化等することにより過酸化水素蒸気を発生させる。なお、本実施形態では35%の過酸化水素水溶液が用いられている。除湿器(57)で空気を除湿するのは、低湿度の空気の方が過酸化水素が蒸発しやすいためである。この実施形態では、主流路(34)側の風量と過酸化水素発生流路(33)側の風量の比率が、10:1程度になるように定められている。
【0041】
過酸化水素発生流路(33)には、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度を検出する上流側温湿度センサ(上流側温湿度検出手段)(31a)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気の温度と湿度を検出する下流側温湿度センサ(下流側温湿度検出手段)(31b)とが設けられている。上流側温湿度センサ(31a)と下流側温湿度センサ(31b)は、それぞれ、過酸化水素蒸気発生器の上流側と下流側における空気の相対湿度を測定する相対湿度計と、該空気の乾球温度を測定する乾球温度計とにより構成されている。なお、その代わりに、上流側温湿度センサ(31a)と下流側温湿度センサ(31b)には、過酸化水素蒸気発生器の上流側と下流側における空気の乾球温度を測定する乾球温度計と、該空気の湿球温度を測定する湿球温度計とを用いてもよい。
【0042】
過酸化水素分解流路(35)は、主流路(34)側から過酸化水素分解器(36)であるPt触媒と排気ファン(55)とが設けられている。この過酸化水素分解流路(35)は、主流路(34)とは逆端が循環側通路(37)と排気側通路(54)とに分岐している。排気側通路(54)は、過酸化水素分解流路(35)とは逆端が大気開放され、途中に排気調節ダンパ(29)が設けられている。
【0043】
滅菌系統側回路(30)には、6つの滅菌ガス切換バルブ(45)が設けられている。具体的に、主流路(34)における過酸化水素分解流路(35)の接続部の上流側には、第1滅菌ガス切換バルブ(45a)が設けられている。過酸化水素分解流路(35)における過酸化水素分解器(36)の上流側には、第2滅菌ガス切換バルブ(45b)が設けられている。主流路(34)における過酸化水素分解流路(35)の接続部と循環側通路(37)の接続部との間には、第3滅菌ガス切換バルブ(45c)が設けられている。循環側通路(37)には、第4滅菌ガス切換バルブ(45d)が設けられている。過酸化水素発生流路(33)における滅菌ガス発生機(58)の下流側には、第5滅菌ガス切換バルブ(45e)が設けられている。主流路(34)における滅菌側空調機(53)の下流側には、第6滅菌ガス切換バルブ(45f)が設けられている。
【0044】
<給排気機構及び過酸化水素供給機構>
この滅菌システム(1)において、滅菌運転時に処理室(2)に対して給気と排気を行う給排気機構(60)は、処理室(2)に空気を供給する空気供給通路(62)(過酸化水素発生流路(33)及び主流路(34)における処理室(2)への入口側)に設けられた給気装置(61)と、処理室(2)の圧力を検出する圧力センサ(圧力検知手段)(63)と、処理室(2)から空気を排出する空気排出通路(64)に設けられた排気装置(65)とを備えている。
【0045】
給気装置(61)は、過酸化水素発生流路(33)に設けられた滅菌ガス発生機(58)と、主流路(34)に設けられた滅菌側空調機(53)とを備えている。滅菌ガス発生機(58)は、過酸化水素蒸気発生器(31)を含む過酸化水素供給機構(70)を構成している。滅菌側空調機(53)にはファン(53c)の吐出圧力を調整する給気圧力調整機構(67)が設けられている。上記ファン(53c)はインバータ制御のファンであり、給気圧力調整機構(67)は、上記ファン(53c)と、図示していないがその吐出側に設けられている圧力センサ及びその検出値に基づいてファンモータの回転数を制御する制御器とから構成されている。
【0046】
排気装置(65)は、主流路(34)に設けられた第1滅菌ガス切換バルブ(45a)と、過酸化水素分解流路(35)に設けられた第2滅菌ガス切換バルブ(45b)及び過酸化水素分解器(36)と、排気側通路(54)に設けられた排気ファン(55)とを備えている。第1滅菌ガス切換バルブ(45a)と第2滅菌ガス切換バルブ(45b)は開閉機構(66)を構成している。
【0047】
−運転制御−
次に、この滅菌システム(1)の運転制御と具体的な運転動作に関して説明する。
【0048】
この滅菌システム(1)は、空調系統側回路(10)と滅菌系統側回路(30)の運転制御を行うコントローラ(制御手段)(50)を備えている。このコントローラ(50)は、準備運転と、滅菌運転と、希釈運転(第1希釈運転及び第2希釈運転)と、定常運転とを行うように構成されている。
【0049】
また、上記コントローラ(50)は、上記過酸化水素供給機構(70)から処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌運転中に、処理室(2)内の圧力センサ(62a,62b,62c)の検出値に基づいて、開閉機構(66)を調節することにより、処理室(2)からの空気の排出量を制御する排気コントローラ(排気制御装置)(51)を含んでいる。そして、この排気コントローラ(51)は、給排気機構(60)による処理室(2)への給気量が処理室(2)からの排気量よりも多くなる制御を行い、処理室(2)内を大気圧(処理室(2)の外の気圧)に対して微陽圧に維持するように(ゲージ圧が約20Pa以下、好ましくは約5〜10Paになるように)構成されている。
【0050】
また、上記コントローラ(50)は、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の温度と湿度に基づいて、下流側の空気中の過酸化水素濃度を判定する濃度判定部(濃度判定手段)(52)を備えている。濃度判定部(52)は、過酸化水素発生流路(33)における過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における単位時間当たりの通過水分量から下流側での水分増加量を算出し、その水分増加量に、過酸化水素蒸気発生器(31)に用いられている過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度に基づいて、水に対する質量比を積算して過酸化水素量を求め(例えば35%の過酸化水素水溶液である場合は、65/35を積算することになるが、より具体的にはH2OとH22の分子量の比を加味して計算するとよい)、該過酸化水素量と通過風量とから過酸化水素濃度を算出する濃度算出部(52a)を備えている。
【0051】
<準備運転>
準備運転は、滅菌ガス発生機(58)を停止した状態で、処理室(2)の湿度が目標湿度になるように外気処理空調機(13)によって処理室(2)の湿度を低下させる工程であり、外気導入量を後述の定常運転時の状態の約1/2とし、処理室(2)内を低湿にする運転である。準備運転では、処理室(2)の目標湿度が相対湿度で20%以上で30%以下の所定値に設定される。なお、目標湿度は20%以上で30%以下の範囲に限定されるものではなく、例えば10%以上で50%以下の範囲であればよい。また、準備運転では、滅菌に備えて医薬品等の製造機器の開放と建具類の簡単な目張りが行われる。この準備運転の空気の流れを図2に示す。
【0052】
このとき、空調系統側回路(10)の各バルブ(56a,56b,56c)は開いた状態となる。一方、滅菌系統側回路(30)の各バルブ(45a,45b,45c,45d,45e,45f)は閉じた状態となる。
【0053】
この状態で、外気処理空調機(13)、顕熱空調機(17)、及び循環ファン(18)を運転すると、外気処理空調機(13)で除湿された空気が顕熱空調機(17)を通過して温度調節され、その温度調節された低湿の空気が入口側のHEPAフィルタ(14)を介して処理室(2)に供給される。
【0054】
処理室(2)の空気は、出口側のHEPAフィルタ(14)を通って流出して、循環ファン(18)により排気通路(28)を流通し、その一部が給気通路(11)へ戻って顕熱空調機(17)へ送られ、残りが排気通路(28)の出口から排気される。準備運転は、処理室(2)内の室温が25℃、相対湿度が所定値(例えば30%)になるまで行われる。なお、処理室(2)内には、温度と湿度を検出するため、温度センサと湿度センサが設けられている。
【0055】
<滅菌運転>
準備運転が完了すると、空調系統側回路(10)から処理室(2)への空気の供給を停止させるために、空調装置を構成する外気処理空調機(13)及び顕熱空調機(17)と循環ファン(18)とを停止し、バルブの設定を切り換えて滅菌運転に移行する。滅菌運転は、滅菌ガス発生機(58)から処理室(2)へ過酸化水素を供給することによって、処理室(2)内の過酸化水素の濃度を所定濃度(例えば500ppm)にして、その濃度の状態を所定時間に亘って維持する工程であり、同時に滅菌側空調機(53)を用いて処理室(2)を微陽圧に維持する制御も行う。
【0056】
この滅菌運転では、滅菌ガス発生機(58)の運転制御が、処理室(2)内の過酸化水素の濃度が所定濃度に到達するまでの調整モードと、所定濃度を維持するための滅菌モードとに分けられており、各モードにおいて処理室(2)への過酸化水素の供給量が調節される。この滅菌運転時の空気の流れを図3に示す。このとき、空調系統側回路(10)の各バルブ(56a,56b,56c)は閉じた状態にする。一方、滅菌系統側回路(30)の各バルブは、第4滅菌ガス切換バルブ(45d)以外は開いた状態にする。
【0057】
この状態で、滅菌ガス発生機(58)、滅菌側空調機(53)、及び排気ファン(55)を運転すると、室外から取り込まれた空気が滅菌ガス発生機(58)へ送り込まれる。滅菌ガス発生機(58)へ流入した空気は、除湿器(57)で除湿された後に過酸化水素蒸気発生器(31)で過酸化酸素蒸気を付与される。そして、所定量の過酸化水素蒸気を含む空気(滅菌ガス)は、主流路(34)の空気と合流し、滅菌側空調機(53)で温度調節されるとともに給気圧力調整機構(67)で圧力が調整されて、入口側のHEPAフィルタ(14)を通って処理室(2)に供給される。上述したように、主流路(34)を流れる風量と過酸化水素発生流路(33)を流れる風量の比率は、約10:1に設定されている。こうすることにより、過酸化水素を空気中で十分に拡散させ、ひいては処理室(2)内で均一に拡散させる効果を得ることができる。
【0058】
処理室(2)内の滅菌ガスは出口側のHEPAフィルタ(14)を通って流出し、排気通路(28)から滅菌側循環通路(32)を構成する主流路(34)に流入する。主流路(34)に流入した滅菌ガスは、一部がそのまま主流路(34)を流れて滅菌側空調機(53)を通過した後に処理室(2)へ供給され、残りが過酸化水素分解流路(35)へ流入する。過酸化水素分解流路(35)へ流入した滅菌ガスは、過酸化水素分解器(36)で滅菌ガス中の過酸化水素が分解された後に排気ファン(55)によって排気側通路(54)の出口から室外へ排出される。
【0059】
排気側通路(54)から滅菌側循環通路(32)の空気を排気するのは、主流路(34)からの滅菌ガスの流入に伴う処理室(2)の室内圧力をコントロールするためである。排気側通路(54)から室外へ排出される空気の量、すなわち過酸化水素分解流路(35)の滅菌ガスの流量は、処理室(2)内に設けられた圧力センサ(63)の計測値に基づいて第1滅菌ガス切換バルブ(45a)と第2滅菌ガス切換バルブ(45b)の開度を制御することにより行われるが、その際、処理室(2)への給気量が処理室(2)からの排気量よりも多くなる制御を行う。このことにより、室内が大気圧に対して陽圧(微陽圧)に維持される。
【0060】
この滅菌運転中の過酸化水素蒸気の供給量は、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の過酸化水素蒸気の濃度を濃度判定部(52)で判定しながら、コントローラ(50)により機器が制御され、処理室(2)内の過酸化水素濃度が設定値になるように調節される。
【0061】
<希釈運転>
滅菌運転の完了後、処理室(2)内の過酸化水素の濃度は所定濃度の約500ppmになっている。この高濃度の状態では、処理室(2)内の滅菌ガスを過酸化水素分解器(36)に通過させて過酸化水素を分解しても、過酸化水素が大量であるために、室外へ排出可能なレベルにまで過酸化水素の濃度を低下させて放出することができない。そこで、処理室(2)内の過酸化水素の濃度が所定値(例えば10ppm)以下になるまでは、処理室(2)と過酸化水素分解器(36)との間で空気を循環させてその空気中の過酸化水素を過酸化水素分解器(36)で分解する第1希釈運転(循環動作)を行う(図4)。その後、外気処理空調機(13)及び顕熱空調機(17)を運転させてHEPAフィルタ(14)で処理をした無菌空気を処理室(2)へ供給しながら、その処理室(2)内の空気を室外へ排出する第2希釈運転(排気動作)を行う(図5)。なお、滅菌ガスの過酸化水素の濃度が10ppm(第1希釈運転の終了時点の濃度)ではそのまま室外へ排出できないが、10ppm以下になっていれば滅菌ガス中の過酸化水素を過酸化水素分解器(36)で分解することで室外へ排出可能なレベルにまで過酸化水素の濃度を低下させることができる。
【0062】
(第1希釈運転)
第1希釈運転では、滅菌ガス発生機(58)を停止して、滅菌側空調機(53)を運転させる。この第1希釈運転時の空気の流れを図4に示す。
【0063】
このとき、空調系統側回路(10)の設定は基本的に滅菌運転時と同じであり、外気処理空調機(13)、顕熱空調機(17)、及び循環ファン(18)は停止しており、各バルブ(56a,56b,56c)は閉じた状態にする。一方、滅菌系統側回路(30)の各バルブは、第3滅菌ガス切換バルブ(45c)及び第5滅菌ガス切換バルブ(45e)以外は開いた状態にし、排気調節ダンパ(29)は閉じておく。
【0064】
この状態で、滅菌側空調機(53)及び排気ファン(55)を運転すると、処理室(2)と過酸化水素分解器(36)との間で空気が循環する際にその空気中の過酸化水素が過酸化水素分解器(36)で分解される。第1希釈運転は、過酸化水素濃度が所定値(10ppm)以下になるまで行われる。
【0065】
なお、第1希釈運転時に処理室(2)の圧力が低下した場合には、滅菌ガス発生機(58)を停止した状態で第5滅菌ガス切換バルブ(45e)を開いて過酸化水素発生流路(33)から外気を導入して、処理室(2)内を所定圧力(例えばゲージ圧で数10Pa)に維持する操作を行う。
【0066】
(第2希釈運転)
第2希釈運転は、外気処理空調機(13)から入口側のHEPAフィルタ(14)を介して空気を処理室(2)に供給しながら過酸化水素の濃度が所定値(10ppm)よりもさらに低い値(1ppm)以下になるまで排気を行う換気工程である(図5)。
【0067】
このとき、滅菌ガス発生機(58)及び循環ファン(18)は停止させたままにしておく。空調系統側回路(10)の各バルブは、第1空調ガス切換バルブ(56a)のみを開いた状態にする。一方、滅菌系統側回路(30)の各バルブは、第1滅菌ガス切換バルブ(45a)及び第2滅菌ガス切換バルブ(45b)を開いた状態にし、排気調節ダンパ(29)も開いた状態にする。また、排気ファン(55)を運転させる。
【0068】
この状態で、外気処理空調機(13)、顕熱空調機(17)、及び排気ファン(55)を運転すると、外気処理空調機(13)と顕熱空調機(17)で温度と湿度が調節され、入口側のHEPAフィルタ(14)で浄化された無菌空気が処理室(2)に供給され、処理室(2)内で滅菌ガスと均一に混合する。希釈された滅菌ガスは、出口側のHEPAフィルタ(14)を通って処理室(2)から流出する。この滅菌ガスは、排気通路(28)から滅菌系統側回路(30)の主流路(34)を経て過酸化水素分解流路(35)に流入する。過酸化水素分解流路(35)に流入した滅菌ガスは、その滅菌ガス中の過酸化水素が過酸化水素分解器(36)で分解され、排気側通路(54)の出口から室外へ排出される。
【0069】
この第2希釈運転では、第1希釈運転とは異なり、過酸化水素分解器(36)を通過した空気を処理室(2)へ戻さないので、第1希釈運転に比べて短時間で処理室(2)内の過酸化水素の濃度を下げることが可能である。また、処理室(2)への空気の供給が、空調装置を構成する外気処理空調機(13)及び顕熱空調機(17)を用いて行われている。これらの空調装置(13,17)は、滅菌側空調機(53)よりも大風量の空気を供給可能な装置として構成されているので、単位時間当たりの処理室(2)の空気の入れ換え量が第1希釈運転よりも多くなる。この点においても、第1希釈運転に比べて短時間で処理室(2)内の過酸化水素の濃度を下げることが可能である。
【0070】
第2希釈運転では、処理室(2)の過酸化水素濃度が約1ppm以下になるまで行われる。その際、室内圧力を建屋漏気上の対策により、定常値よりも低い圧力(例えばゲージ圧で約15Pa)に保持するために、第1滅菌ガス切換バルブ(45a)及び第2滅菌ガス切換バルブ(45b)のそれぞれの開度を調節する。
【0071】
また、第1希釈運転から第2希釈運転への移行時には、室圧の急激な変化を避けるため、外気処理空調機(13)、顕熱空調機(17)及び排気ファン(55)をスロースタートし、安定した移行を行うとよい。
【0072】
<定常運転>
定常運転は、外気処理空調機(13)により処理した外気を取り入れながら処理室(2)内の換気及び室圧保持のためにその処理室(2)内の空気を室外へ排出する工程である。この定常運転の空気の流れを図6に示す。第2希釈運転と空気の流れはほぼ同じであるが、処理室(2)内の空気を排気側通路(54)ではなく排気通路(28)から排出する点で異なっている。
【0073】
このとき、空調系統側回路(10)の各バルブ(56a,56b,56c)は開いた状態にする。一方、滅菌系統側回路(30)の各バルブ(45a,45b,45c,45d,45e,45f)や排気調節ダンパ(29)は閉じた状態にする。また、排気ファン(55)を停止させ、循環ファン(18)を運転させる。
【0074】
この状態で、外気処理空調機(13)、顕熱空調機(17)、及び循環ファン(18)を運転すると、外気処理空調機(13)と顕熱空調機(17)で温度と湿度が調節され、入口側のHEPAフィルタ(14)で浄化された無菌空気が処理室(2)に供給される。処理室(2)の無菌空気は、出口側のHEPAフィルタ(14)を通って処理室(2)から流出する。この無菌空気は、大部分が第3空調ガス切換バルブ(56c)を通って排気通路(28)の出口から排出され、一部が戻り通路(15)から給気通路(11)へ戻され、さらに顕熱空調機(17)へと流れていく。定常運転では、処理室(2)の温度と湿度が設定値に維持されるとともに、無菌状態が維持される。
【0075】
−実施形態の効果−
この実施形態においては、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度に対する下流側の空気の温度と湿度の変化量に基づいて、過酸化水素蒸気発生器(31)の直後で過酸化水素濃度を判定できる。特に、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側のそれぞれの通過水分量から下流側での水分増加量を求め、その水分増加量と、過酸化水素蒸気発生器(31)で用いている過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度とに基づいて、空気中の過酸化水素濃度を算出でき、算出した空気中の過酸化水素濃度は、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の水分増加量のうち、過酸化水素水溶液における水と過酸化水素の比率から求められるため、算出値は正確である。したがって、処理室(2)へ供給する過酸化水素蒸気を上記濃度に基づいて制御して滅菌運転を行うことにより、滅菌性能のばらつきを防止できる。
【0076】
また、給排気機構(60)として空調装置を制御することにより処理室(2)に対して給気と排気を行いながら、滅菌装置(30)の過酸化水素蒸気発生器(31)から処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌運転中に、濃度判定手段(52)により過酸化水素濃度を所定値に維持する制御が行われる。したがって、滅菌運転中の処理室(2)の温度や湿度を安定させることが可能となる。特に、過酸化水素を用いた滅菌処理では、低湿度の方が滅菌効果が高くなるのに対して、本実施形態では処理室(2)内を低湿度に維持しておくことが可能であるため、滅菌効果を高いレベルで安定させることが可能となる。
【0077】
−実施形態の変形例1−
実施形態の変形例1について説明する。図7に示すように、この変形例1の滅菌システム(1)は、外気処理空調機(13)を経由して滅菌ガス発生機(58)に外気が取り込まれるように構成されている。
【0078】
具体的に、給気通路(11)と滅菌ガス発生機(58)とを接続する外気導入通路(59)が設けられている。外気導入通路(59)は、給気通路(11)の戻し通路(15)との接続部と外気処理空調機(13)との間において給気通路(11)から分岐している。滅菌運転において、第5滅菌ガス切換バルブ(45e)を開いて第1空調ガス切換バルブ(56a)を閉じた状態にすると、外気処理空調機(13)で除湿された空気が滅菌ガス発生機(58)に流入する。
【0079】
この変形例においても、滅菌運転中に、処理室(2)への過酸化水素蒸気の供給量を、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の過酸化水素蒸気の濃度を濃度判定部(52)で判定しながら、コントローラ(50)により機器を制御して、処理室(2)内の過酸化水素濃度が所定値になるように調節する点は上記実施形態と同じである。
【0080】
−実施形態の変形例2−
実施形態の変形例2について説明する。図8に示すように、この変形例2の滅菌システム(1)では、滅菌系統側回路(30)の主流路(34)が、空調系統側回路(10)の給気通路(11)及び排気通路(28)ではなく直接処理室(2)に接続されている。
【0081】
この変形例においても、滅菌運転中に、処理室(2)への過酸化水素蒸気の供給量を、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の過酸化水素蒸気の濃度を濃度判定部(52)で判定しながら、コントローラ(50)により機器を制御して、処理室(2)内の過酸化水素濃度が所定値になるように調節する点は上記実施形態と同じである。
【0082】
−実施形態の変形例3−
実施形態の変形例3について説明する。この変形例3では、図示していないが、滅菌システム(1)が複数の処理室(2)に対して構成されている。この場合、給気通路(11)や排気通路(28)から分岐して各処理室(2)に接続される経路には、それぞれダンパ(23,24,25)、定風量装置(22)を設ける。これにより、各処理室(2)の滅菌処理を個別に実行することが可能になる。滅菌処理が行われていない処理室(2)へは、定常運転によって外気処理空調機(13)及び顕熱空調機(17)で空調された空気が流入するようにダンパ(23,24,25)、定風量装置(22)を調節する。
【0083】
この変形例においても、滅菌運転中に、処理室(2)への過酸化水素蒸気の供給量を、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の過酸化水素蒸気の濃度を濃度判定部(52)で判定しながら、コントローラ(50)により機器を制御して、処理室(2)内の過酸化水素濃度が所定値になるように調節する点は上記実施形態と同じである。
【0084】
−実施形態の変形例4−
実施形態の変形例4について説明する。図9に示すように、この変形例4では、空調系統側回路(10)が設けられておらず、処理室(2)の空調処理と滅菌処理を滅菌系統側回路(30)のみで実行するように構成されている。
【0085】
この滅菌システム(1)では、準備運転において、滅菌ガス発生機(58)が過酸化水素蒸気発生器(31)を停止させて除湿器(57)のみを運転させるように制御される。これにより、室外から取り込まれて滅菌ガス発生機(58)で除湿された空気が、滅菌側空調機(53)で温度調節されて処理室(2)へ流入し、処理室(2)が目標湿度に調節される。
【0086】
この変形例においても、滅菌運転中に、処理室(2)への過酸化水素蒸気の供給量を、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の過酸化水素蒸気の濃度を濃度判定部(52)で判定しながら、コントローラ(50)により機器を制御して、処理室(2)内の過酸化水素濃度が所定値になるように調節する点は上記実施形態と同じである。
【0087】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0088】
例えば、上記実施形態では、滅菌運転を滅菌ガス中の過酸化水素濃度が約500ppmになる高濃度の運転にしているが、滅菌をする度に必ずしも高濃度の滅菌運転をしなくてもよく、製造室を使用しない夜間などに短時間で処理するときには、準備運転、5〜10ppm程度の低濃度の滅菌運転、及び処理室(2)の換気を行う第2希釈運転を行うようにして、第1希釈運転を省略するようにしてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、上流側温湿度センサ(31a)と下流側温湿度センサ(31b)として、相対湿度計と乾球温度計とを用いる例と、乾球温度計と湿球温度計とを用いる例について説明したが、過酸化水素発生器(31)の上流側と下流側で温度と湿度が検出できる限り、測定手段は適宜変更してもよいし、上流側と下流側で同じ測定手段を用いる必要もない。例えば、測定パターンは、過酸化水素発生器(31)の上流側と下流側において、乾球温度と絶対湿度を測定するパターン、乾球温度と露点温度を測定するパターン、絶対湿度と相対湿度を測定するパターン、湿球温度と相対湿度を測定するパターンなどから適宜選択してもよい。
【0090】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明は、処理室を過酸化水素で滅菌処理する滅菌システムについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施形態に係る滅菌システムの配管系統図である。
【図2】図1の滅菌システムにおいて準備運転の動作を示す図である。
【図3】図1の滅菌システムにおいて滅菌運転の動作を示す図である。
【図4】図1の滅菌システムにおいて第1希釈運転の動作を示す図である。
【図5】図1の滅菌システムにおいて第2希釈運転の動作を示す図である。
【図6】図1の滅菌システムにおいて定常運転の動作を示す図である。
【図7】本発明の実施形態の変形例1に係る滅菌システムの配管系統図である。
【図8】本発明の実施形態の変形例2に係る滅菌システムの配管系統図である。
【図9】本発明の実施形態の変形例4に係る滅菌システムの配管系統図である。
【符号の説明】
【0093】
1 滅菌システム
2 処理室
10 空調系統側回路
30 滅菌系統側回路(滅菌装置)
31 過酸化水素蒸気発生器
31a 上流側温湿度センサ(上流側温湿度検出手段)
31b 下流側温湿度センサ(下流側温湿度検出手段)
33 過酸化水素発生流路
50 コントローラ(制御手段)
52 濃度判定部(濃度判定手段)
52a 濃度算出部(濃度算出部)
60 給排気機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が流れる過酸化水素発生流路(33)中に過酸化水素蒸気発生器(31)を備えた滅菌装置であって、
過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側の空気の温度と湿度を検出する上流側温湿度検出手段(31a)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の下流側の空気の温度と湿度を検出する下流側温湿度検出手段(31b)と、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側の温度と湿度に基づいて、下流側の空気中の過酸化水素濃度を判定する濃度判定手段(52)とを備えていることを特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
請求項1において、
濃度判定手段(52)は、過酸化水素発生流路(33)における過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における単位時間当たりの通過水分量から下流側での水分増加量を算出し、その水分増加量に、過酸化水素蒸気発生器(31)に用いられている過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度に基づいて、水に対する質量比を積算して空気中の過酸化水素量を求め、該過酸化水素量と通過風量とから過酸化水素濃度を算出する濃度算出部(52a)を備えていることを特徴とする滅菌装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
上流側温湿度検出手段(31a)と下流側温湿度検出手段(31b)は、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における空気の相対湿度を測定する相対湿度計と、該空気の乾球温度を測定する乾球温度計とにより構成されていることを特徴とする滅菌装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
上流側温湿度検出手段(31a)と下流側温湿度検出手段(31b)は、過酸化水素蒸気発生器(31)の上流側と下流側における空気の乾球温度を測定する乾球温度計と、該空気の湿球温度を測定する湿球温度計とにより構成されていることを特徴とする滅菌装置。
【請求項5】
処理室(2)に対して給気と排気が可能な給排気機構(60)と、過酸化水素蒸気発生器(31)を備えて該処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌装置(30)とを備えた滅菌システムであって、
滅菌装置(30)が請求項1から4のいずれか1に記載の滅菌装置により構成され、
上記過酸化水素蒸気発生器(31)から処理室(2)へ過酸化水素蒸気を供給する滅菌運転中に、上記滅菌装置(30)の濃度判定手段(52)により空気中の過酸化水素濃度を所定値に維持する制御を行う制御手段(50)を備えていることを特徴とする滅菌システム。
【請求項6】
請求項5において、
給排気機構(60)は、温度と湿度を調整した空気を処理室(2)へ供給する空調装置を備えていることを特徴とする滅菌システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−202628(P2007−202628A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21931(P2006−21931)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】