説明

滅菌装置

【課題】 いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかの追及を容易にすることである。
【解決手段】 処理槽2と、被滅菌物を滅菌する滅菌手段と、滅菌データ出力手段と、滅菌手段を制御して滅菌作業を繰り返して行うとともに、滅菌データ出力手段から滅菌データを出力する制御を行う制御手段27とを備える滅菌装置であって、操作者名を入力する入力手段25と、制御手段27は、滅菌作業毎に操作者名の入力を促す入力要求処理と、入力手段25から入力された操作者名を、いつ、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかについての滅菌作業毎の滅菌データと関連付けて記憶する記憶処理と、滅菌データ出力手段から滅菌作業毎の滅菌データに操作者名を付加して出力する出力処理とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、滅菌記録の管理が可能で、滅菌についてのトレーサビリティ(追跡可能性)の良好な滅菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の滅菌装置において、被滅菌物を収容する処理槽と、被滅菌物を滅菌する滅菌手段と、被滅菌物を滅菌する滅菌作業の滅菌データを出力する滅菌データ出力手段と、前記滅菌手段を制御して被滅菌物を滅菌するとともに、前記滅菌データ出力手段から滅菌データを出力する制御を行う制御手段とを備えるものは、例えば特許文献1にて知られている。
【0003】
一般に、病院で使用される滅菌装置においては、医療器械器具の滅菌不良が発生すると、院内感染が発生する虞がある。院内感染が発生した時、使用した医療器械器具の滅菌不良を疑い、回収(リコール)を行う。この時、いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行い、滅菌の良否を判定したかに基づいて回収範囲が決められる。また、感染症患者が発見された時に、この患者に使用された器具についても他に感染が広がる虞がないかについてリスクマネージメントを行うにあたり、いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行い、滅菌の良否を判定したかを確認しなければならない。
【0004】
こうした必要性に対応するために、滅菌データのトレーサビリティを高めるべく、従来の滅菌装置においては、記録された滅菌データに後から操作者名を記入あるいは入力することが行われている。しかしながら、従来の滅菌装置では、繰り返し行われる滅菌作業毎に操作者が変わることがあるので、滅菌作業の終了後に滅菌データを印刷したり表示したりする際には、各滅菌作業と操作者との関連付け作業が必要となっていた。
【0005】
【特許文献1】特開2008−200126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、各滅菌作業の滅菌データと操作者名とを簡易かつ確実に関連付けることにより、いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかの追及を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被滅菌物を収容する処理槽と、被滅菌物を滅菌する滅菌手段と、被滅菌物を滅菌する滅菌作業の滅菌データを出力する滅菌データ出力手段と、前記滅菌手段を制御して前記滅菌作業を繰り返して行うとともに、前記滅菌データ出力手段から滅菌データを出力する制御を行う制御手段とを備える滅菌装置であって、操作者名を入力する入力手段と、前記制御手段は、前記滅菌作業毎に操作者名の入力を促す入力要求処理と、前記入力手段から入力された操作者名を、いつ、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかについての前記滅菌作業毎の滅菌データと関連付けて記憶する記憶処理と、前記滅菌データ出力手段から前記滅菌作業毎の滅菌データに前記操作者名を付加して出力する出力処理とを行うことを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、繰り返し行われる滅菌作業毎に操作者名が滅菌データに確実に関連付けて記憶され、滅菌データ出力時には、滅菌作業毎に操作者名が滅菌デー
タに確実に付加されて出力されるので、いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかの追及が容易になる。また、こうしたトレーサビリティによって、滅菌不良の原因を追究でき、操作者の操作ミス,不十分な確認,確認ミスなどの人為的ミスの判断もできるようになり、管理者が操作者の再教育の必要性を容易に判断できるという効果を奏する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記各滅菌作業を開始する作業開始スイッチを備え、前記制御手段は、前記入力要求処理を前記作業開始スイッチの操作時に行い、操作者名の入力が完了すると前記各滅菌作業を開始することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明による効果に加えて、滅菌作業開始時に確実に操作者名が入力されるので、滅菌作業終了時に操作者名を入力するものと比較して、操作者が滅菌作業を開始した人と別人となることを防止できるという効果を奏する。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2において、予め操作者を登録する登録手段を備え、前記制御手段は、前記入力要求処理に対して前記入力手段から入力された操作者名が前記登録手段に登録された操作者であることを確認した場合にのみ、操作者名の入力を受け付けることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の発明による効果に加えて、登録されていない操作者による滅菌作業の開始を防止して、信頼性の高い滅菌作業を行うことができ、滅菌管理の信頼性を高めることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、各滅菌作業の滅菌データと操作者名とを簡易に関連付けることができ、いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかの追及を容易にするとともに、操作者の再教育の必要性を容易に判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。
この発明の実施の形態の滅菌装置は、被滅菌物を収容する処理槽と、被滅菌物を滅菌する滅菌手段と、被滅菌物を滅菌する滅菌作業の滅菌データを出力する滅菌データ出力手段と、前記滅菌手段を制御して前記滅菌作業を繰り返して行うとともに、前記滅菌データ出力手段から滅菌データを出力する制御を行う制御手段とを備えている。そして、操作者名を入力する入力手段を備え、前記制御手段は、滅菌作業毎に操作者名の入力を促す入力要求処理と、前記入力手段から入力された操作者名を前記滅菌作業毎の滅菌データと関連付けて記憶する記憶処理と、前記滅菌データ出力手段から前記滅菌作業毎の滅菌データに前記操作者名を付加して出力する出力処理とを行う。この実施の形態においては、これらの構成要素に加えて、前記滅菌作業毎に滅菌作業の滅菌条件を設定する滅菌条件設定手段を備えることができる。
【0015】
ここで、滅菌作業は、滅菌運転または滅菌処理と言い換えることができ、滅菌データは、滅菌記録,運転データまたは滅菌運転データと言い換えることができる。そして、滅菌データは、いつ、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかについてのデータであり、具体的には、滅菌装置が複数台設置されている場合におけるどの装置かの情報,滅菌作業開始前に設定される滅菌条件,運転モードの種類を含む設定データと、設定された滅菌条件および運転モードに基づき実行された滅菌作業による各種運転データ(滅菌作業の開始時刻および終了時刻,処理槽内圧力,温度等)とを含む。また、出力処理とは、前記滅菌装置本体に備える表示手段および/または印刷手段への出力のみならず、前記滅
菌装置に接続された外部装置(管理装置と称することができる。)への出力や前記滅菌装置または前記外部装置に備える可搬式の記憶媒体への出力を含んでいる。よって、前記滅菌データ出力手段とは、この出力処理を行う手段を意味する。前記外部装置は、双方向通信可能に有線で接続されているものだけではなく、無線やインターネット網で接続されるものを含む。
【0016】
この実施の形態においては、被滅菌物を前記処理槽内へ収容し、前記滅菌手段により被滅菌物を滅菌する滅菌作業(滅菌運転と称することができる。)を行い、滅菌作業が終了すると被滅菌物を前記処理槽から取り出す。この実施の形態の滅菌装置においては、こうした滅菌作業が繰り返し行われる。前記制御手段は、この各滅菌作業毎に前記入力処理要求により操作者名の入力を促し、操作者は、操作者名を入力する。すると、前記制御手段は、入力された操作者名と各滅菌作業の滅菌データとを関連付けて、前記制御手段内または外に設けた記憶手段に記憶する。滅菌データの出力の要求があると、前記制御手段は、前記出力処理により、滅菌作業毎の滅菌データに前記操作者名を付加して出力する。出力されたデータ(出力データ)は、最終的には、前記滅菌装置,前記外部装置またはこれらの付属装置において印刷または表示される。入力する操作者名は、識別記号(ID)に限定されず,本名,指紋,顔とすることができる。そして,入力手段は、キー入力によるものに限定されず,バーコードによるもの,識別記号または本名を記憶したカードによるもの,指紋認識によるもの,顔認識によるものとすることができる。
【0017】
こうして、滅菌データ出力時には、滅菌作業毎に操作者名が滅菌データに確実に付加されて出力される。その結果、ある滅菌作業において滅菌不良が発生した際には、当該滅菌作業滅菌データとともに、操作者名が分かるので、いつ、誰が、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかの追及が容易になる。また、教育を施した操作者である場合には、場合によっては操作者の再教育が必要かどうかの判断材料となる。
【0018】
この実施の形態においては、好ましくは、前記各滅菌作業の開始を指示する作業開始スイッチ(ボタンと称することができる。)を備え、前記制御手段は、前記入力要求処理を前記作業開始スイッチの操作時に行い、操作者名の入力が完了すると前記各滅菌作業を開始するように構成する。
【0019】
こうした好ましい構成を採用すれば、作業開始スイッチを操作する滅菌作業開始時に確実に操作者名が入力されることになる。この操作者は、前記各滅菌作業の滅菌条件を入力する操作者と異なる場合もあるが、異なったとしても滅菌条件を確認したり、運転モードを変更したりすることができる者であり、滅菌装置操作に対してそれなりの責任を有している。この実施の形態においては、操作者名の入力要求と操作者名の入力を滅菌作業開始時に代えて滅菌作業終了時に行うように構成することも可能である。そうした場合、滅菌データに関連付けられるべき操作者が滅菌作業を開始した人と別人となる虞があるが、好ましい実施の形態によれば、滅菌データに関連付けられるべき滅菌作業を開始した人を操作者として入力することができる。
【0020】
この実施の形態においては、さらに好ましくは、予め操作者を登録する登録手段を備え、前記制御手段は、前記入力要求処理において前記入力手段から入力された操作者名が前記登録手段に登録された操作者であることを確認した場合にのみ、操作者名の入力を受け付けるように構成する。
【0021】
このさらに好ましい構成を採用すれば、前記入力要求に対して入力できる操作者は、滅菌装置の管理者により前記登録手段を用いて予め登録される。登録対象となる操作者は、管理者が予め教育するなどして滅菌および滅菌装置の知識を有しており、滅菌作業を行う滅菌を操作して安全な滅菌作業を実行し得ると認めた者である。登録されていない操作者
は、操作者名の入力が受け付けられず、滅菌作業を開始することができない。よって、信頼性の無い未登録操作者による滅菌作業の開始を防止して、信頼性の高い滅菌作業を実現でき、滅菌管理の信頼性を高めることができる。
【0022】
ここで、この実施の形態の構成要素を説明する。前記処理槽は、被滅菌物が収容されて滅菌処理される密閉可能な中空容器であり、扉を介して被滅菌物が出し入れされる。処理槽に二つの扉を設けて、処理槽内に被滅菌物を入れるための搬入扉と、滅菌処理後に被滅菌物を取り出すための搬出扉とを個別に設けてもよい。被滅菌物は、特に問わないが、典型的には手術に使用する医療用機械器具である。
【0023】
処理槽には、被滅菌物を滅菌処理するための各種滅菌手段が備えられる。この滅菌手段は、特に問わないが、たとえば蒸気を滅菌で行う蒸気滅菌手段とすることができる。この場合、滅菌装置は、蒸気滅菌装置として構成される。
【0024】
前記処理槽には、ユーザにより操作される操作パネル(操作部と称することができる。)を備える。ユーザは、滅菌装置の管理者と滅菌装置の操作者を含むが、管理者が操作者を兼ねることもある。前記操作パネルは、ユーザとの間で各種データ(滅菌装置の滅菌条件,操作者1Dおよびパスワード,運転開始の指示信号等)の入出力を行う装置である。操作パネルは、滅菌装置自体に付設するのが好ましい。典型的には、処理槽の扉の脇において、処理槽の壁面に設けられる。本実施形態の操作パネルは、タッチスクリーンと、各種操作ボタンとを備える。タッチスクリーンは、ディスプレイの表面にタッチパネルを配置して構成される。ディスプレイとしては、典型的には液晶ディスプレイが用いられる。タッチスクリーンは、ディスプレイ上に各種表示を行うと共に、表示ボタンが押されるとタッチパネルにてそれを検知し、適宜画面表示を変えながら、各種の設定または操作を可能とする。
【0025】
前記制御手段は、CPUと記憶手段と入出力装置とを含んで構成され、前記記憶手段に予め記憶した制御手順に基づき、前記滅菌手段および前記操作パネルを制御して、前記入力要求処理,前記記憶処理,前記出力処理などの一連の処理を実行する。前記記憶手段は、前記制御手段に付属または接続した可搬性記憶媒体(記憶メディア)とすることができる。
【0026】
この制御手段には、滅菌データを取得するために前記処理槽に設けた各種センサが接続され、検出した信号が入力されるように構成されている。
【0027】
前記入力要求処理においては、滅菌作業を開始する操作者名の入力を促す表示を前記操作パネルにて行う。この表示を見た操作者は、操作者名を入力する。この入力要求処理は、前述の如く、好ましくは作業開始スイッチを操作したしたときに行うようにし、さらに好ましくは、管理者が登録した操作者のみ入力を受け付け、入力した操作者名が登録済みの者である場合に、滅菌作業を開始し、以後の前記記憶処理および前記出力処理を行うように構成する。
【0028】
前記記憶処理においては、前記記憶手段に、いつ、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかについての滅菌作業毎の滅菌データが操作者名と関連付けて保存される。前記滅菌データには、高温滅菌,標準滅菌などの運転モード、運転日時、滅菌工程中の処理槽内の温度や圧力や時間などの内、所望の情報を含めることができる。
【0029】
前記出力処理により、前記記憶手段に保存された滅菌データおよび操作者名は、前記操作パネルにて閲覧可能なように表示させることができる。具体的には、タッチスクリーンが操作されることで、前記出力手段により、所望の滅菌作業毎の滅菌データが操作者名を
含んだ出力データとして前記記憶手段から出力されて、表示手段としてのディスプレイに表示される。滅菌作業毎の滅菌データが操作者名を含んだ出力データは、滅菌装置に印刷手段を設けて、これに出力するように構成することができる。また、同出力データは、外部装置において、印刷および/または表示して、閲覧や管理を可能に構成することができる。
【0030】
この発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、前記外部装置を含めたものを滅菌装置として捉えて、前記記憶処理および前記出力処理を外部装置で行うように構成できる。
【0031】
また、前記実施の形態につぎの構成を付加することができる。すなわち、滅菌作業完了時、前記操作パネルには、滅菌インジケータの結果入力を促す出力をなし、これに対して、ユーザは、滅菌インジケータの結果情報を、操作パネルを操作して入力し、入力された結果情報は、滅菌データの一部として、滅菌作業毎に前記記憶手段に保存するように構成する。この場合、結果情報に入力した操作者名を付加して入力することができる。前記滅菌インジケータは、化学的インジケータ(CI
),生物学的インジケータ(BI),ボウィー・ディックテスト用インジケータ(BD)を含む。そして、滅菌インジケータの結果情報を入力するために、運転モードとして、滅菌運転またはボウィー・ディックテストを選択して実行可能に構成できる。
【0032】
さらに、トレーサビリティの確立のためには、滅菌処理される被滅菌物ごとに固有の識別情報を、滅菌データと対応づけて管理するのが好ましい。たとえば、被滅菌物に、ICタグ、バーコード、刻印などを施しておき、それによる識別情報を滅菌運転ごとに保存する。但し、複数の物品がたとえばパック詰めされて処理槽内に搬入される場合、識別情報はパックごとに付してもよい。すなわち、この場合、被滅菌物は、一パックを単位として考えることになる。
【0033】
そして、ある被滅菌物の滅菌データを確認したい場合には、その被滅菌物の識別情報に基づき、その被滅菌物が滅菌処理された際の滅菌データを操作者名とともに出力すればよい。これにより、たとえば、各被滅菌物が、いつ、どの滅菌装置で、誰により滅菌されたのかが確認できる。また、滅菌データに滅菌インジケータの結果情報を含ませておけば、滅菌結果の確認ができる。さらに、運転データに滅菌工程中の処理槽内の温度や圧力などの情報を含ませておけば、どのような環境下で滅菌がなされたのかが確認できる。
【実施例】
【0034】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明の滅菌装置の一実施例を示す概略構成図であり、図2は、同実施例の要部制御手順を示すフローチャート図であり、図3から図9は、同実施例の異なる表示画面を説明する模式図であり、図10は、外部装置による印刷結果を説明する図である。
【0035】
(実施例の構成)
同実施例の滅菌器(この発明の滅菌装置に相当する。)1は、被滅菌物(図示省略)を収容した処理槽2内に蒸気を供給して、被滅菌物の滅菌を図る蒸気滅菌器である。
【0036】
同実施例の処理槽2には、その前後または左右の側壁に、それぞれ扉(図示省略)が設けられている。一方の扉は、処理槽2内に被滅菌物を入れるための搬入扉(図示省略)とされ、他方の扉は、滅菌処理後に被滅菌物を処理槽2外に取り出すための搬出扉(図示省略)とされる。
【0037】
同実施例の滅菌器1は、内槽3と外槽4との二重構造の中空容器を備え、内槽3にて処
理槽2が構成される。つまり、被滅菌物は、内槽3内に収容されて滅菌処理を図られる。処理槽2(内槽3)には、この発明の滅菌手段の一部を構成する第一給蒸管路5、排蒸管路6、排気管路7、第一排水管路8および給気管路9が接続されている。第一給蒸管路5は、処理槽2内へ蒸気を供給する管路であり、第一給蒸弁10を備える。排蒸管路6は、処理槽2内の気体を外部へ排出する管路であり、排蒸弁11を備える。排気管路7は、処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する管路であり、排気弁12と真空ポンプ13とを備える。第一排水管路8は、蒸気の凝縮水を処理槽2外へ排出する管路であり、第一スチームトラップ14を備える。給気管路9は、減圧下の処理槽2内へ外気を供給して復圧する管路であり、給気弁15とフィルタ16とを備える。
【0038】
一方、外槽4には、第二給蒸管路17と第二排水管路18とが接続されている。第二給蒸管路17は、外槽4内へ蒸気を供給する管路であり、第二給蒸弁19を備える。第二排水管路18は、蒸気の凝縮水を外槽4外へ排出する管路であり、第二スチームトラップ20を備える。
【0039】
また、滅菌器1は、処理槽2内の温度を検出する温度センサ21、処理槽2内の圧力を検出する第一圧力センサ22、外槽4内の圧力を検出する第二圧力センサ23の他、各種の入出力を行うための操作パネル24を備える。この操作パネル24は、タッチスクリーン25と、各種操作スイッチ26a,26b,…とを備える。操作スイッチ26aは、この発明の作業開始スイッチとして機能する。タッチスクリーン25は、液晶ディスプレイの表面にタッチパネルを配置して構成される。タッチスクリーン25は、ディスプレイ上に各種表示を行うと共に、表示スイッチが押される(タッチされる)とタッチパネルにてそれを検知し、適宜画面表示を変えながら、各種の設定または操作を可能とする。
【0040】
さらに、滅菌器1には、制御部27が備えられる。この制御部27は、操作パネル24の設定や操作に基づき、制御手順により滅菌器1を制御する。この制御手順は、図2に示すように、滅菌作業毎に操作者名の入力を促す入力要求処理と、入力された操作者名を各滅菌作業毎の滅菌データと関連付けて記憶する記憶処理と、各滅菌作業毎の滅菌データに前記操作者名を付加して出力する出力処理とを含んで構成される。具体的には、第一給蒸弁10および第二給蒸弁19、排蒸弁11、排気弁12および真空ポンプ13、給気弁15、温度センサ21、第一圧力センサ22および第二圧力センサ23、タッチスクリーン25および各操作スイッチ26は、制御部27に接続されており、制御部27により制御される。
【0041】
タッチスクリーン25の表示画面のデータや、滅菌器1の制御手順などは、情報記憶部28に保存されている。また、この実施例の滅菌器1は、滅菌データを操作者名と関連付けて保存するが、そのための保存場所として、滅菌データ記憶部29を備える。この滅菌データ記憶部29は、前記情報記憶部28としてもよく、CF(CompactFlash)カードとすることができる。
【0042】
制御部27には、信号線30を介して外部装置31が接続されている。この外部装置31は、たとえば病院内管理システムを構成する院内管理装置であり、典型的にはパソコン(パーソナルコンピュータ)から構成される。この外部装置31が制御部27に対して滅菌データの出力要求操作を行ったとき、制御部27が各滅菌作業毎の滅菌データを操作者名を付加して外部装置31に対して出力する。外部装置31は、受信したデータを外部装置31に備える図示省略の印刷手段により印刷するとともに、図示省略の表示器に表示するように構成している。
【0043】
(実施例の動作)
つぎにこの実施例の動作を主として図面に基づき説明する。この実施例の滅菌器1を用
いて被滅菌物の滅菌を図ろうとするには、まず、搬入扉を開けて処理槽2内に被滅菌物を収容する。
【0044】
そして、図2の処理ステップS1(以下、処理ステップSNを単にSNと称する。)において、操作パネル24を操作して運転モードや設定値(滅菌条件)などを設定する。設定画面は、図3で示され、運転モードとしては、たとえば、高温滅菌,標準滅菌,液体滅菌,乾燥運転,フリー滅菌1などの内、いずれかが選択可能とされている。また、設定値としては、運転モードが標準滅菌または高温滅菌の場合、滅菌工程中の目標温度(たとえば135℃)および保持時間(たとえば5分)の他、必要に応じて予熱時間および乾燥時間などが設定される。
【0045】
さらに、滅菌器1の管理者が、滅菌器1の操作を許可する操作者(オペレータ)を登録するには、図3の画面において操作部「オペレータ登録」をタッチする。すると、図4の管理者のパスワードの入力を促すパスワード入力画面が表示される。そして、この画面でパスワードの入力部(□の枠部)を押すと図7に示すようなテンキーが表示され(図4では図示省略)、管理者のパスワードを入力する。このパスワードが予めメンテナンス画面(図示省略)にて登録されたパスワードと一致すると、図5に示すように、登録したい操作者のID,パスワード,名前の入力画面が表示される。この実施例1では固定の番号であるので、この入力画面で登録したい操作者のパスワード,名前を入力する。
【0046】
図3、図4で、操作部「運転画面」をタッチすると、「運転画面」(図示省略)が表示される。この「運転画面」は、運転状態を表示するとともに、図3の「設定変更選択画面」と「運転モード選択画面」(図示省略)との選択を可能とするものである。
【0047】
このようにして各種設定を行った後、操作者が操作スイッチ26aを操作して、滅菌作業の開始を指示する。すると、図2のS2において、YESが判定され、S3へ移行して、図6に示す操作者名入力要求の画面を表示して操作者名入力を促す。操作者がオペレータ番号入力部(□の枠部)およびパスワード入力部(□の枠部)をタッチすると、図7のようにテンキーが表示され、この画面でオペレータ番号(識別記号でこの発明の操作者名に該当する。)と管理者によって付与された操作者のパスワードを入力する。図6で操作部「キャンセル」を押すと、滅菌作業(滅菌運転)がキャンセルされる。
【0048】
オペレータ番号とパスワードの入力が終わると、S4において、操作者名がS1にて登録されたものと一致するかどうかを判定し、一致している場合は、図8のオペレータ確認が終了したことを表示するとともに、滅菌作業(運転)を開始する場合のガイド表示を行う。この滅菌作業を開始する場合は、操作部「確認」をタッチすることで、S4の判定がYESとなり、S5へ移行して、滅菌作業が開始される。滅菌作業を行わない場合は、操作部「キャンセル」を押す。
【0049】
S4にて、オペレータ番号とパスワードとの一致が確認できない場合は、図9のID番号とパスワードとの確認を促す画面を表示する。図9の表示後、所定時間を経過すると、図6の画面に戻り、再度オペレータ番号とパスワードとを入力する。
【0050】
運転モードが標準滅菌または高温滅菌の場合(つまり滅菌運転の場合)には、滅菌作業は、前処理工程、滅菌工程、後処理工程が順次に実行される。
【0051】
前処理工程では、処理槽2内の空気排除や予熱が図られる。空気排除のためには、給気弁15や排蒸弁11を閉じた状態で、排気弁12を開けて真空ポンプ13を作動させて、排気管路7を介して処理槽2内の気体を外部へ吸引排出すればよい。この際、第一給蒸弁10を開けて、蒸気で空気を追い出しながら、処理槽2内の空気排除を図ってもよい。空
気排除後には、排気弁12を閉じると共に、真空ポンプ13を停止する。一方、予熱のためには、第二給蒸弁19を開いて、外槽4内(内槽3と外槽4との間の空間)に蒸気を供給すればよい。
【0052】
滅菌工程では、第一給蒸弁10を開いて、処理槽2内に蒸気を供給する。第一給蒸弁10を制御することで、処理槽2内の圧力ひいては温度を調整することができる。滅菌工程中、第二給蒸弁19を開ければ、内槽3の加熱を図ることができる。このようにして、処理槽2内で被滅菌物の滅菌処理を図った後、排蒸弁11を開けて処理槽2内から蒸気や凝縮水を排出する。
【0053】
後処理工程では、滅菌処理後の被滅菌物の乾燥が図られる。具体的には、処理槽2内を密閉した状態で、排気弁12を開けて真空ポンプ13を作動させ、排気管路7を介して処理槽2内の気体を外部へ吸引排出すればよい。このようにして被滅菌物の乾燥を図った後、排気弁12を閉じると共に真空ポンプ13を停止した状態で、給気弁15を開いて処理槽2内を大気圧まで復圧する。
【0054】
S6にて、滅菌作業の終了が判定されると、S7へ移行して、前記記憶処理が行われる。この記憶処理においては、前記滅菌データ記憶部29に、滅菌作業毎の滅菌データが操作者名と関連付けて保存される。
【0055】
滅菌データとしては、図10に示すように、滅菌装置データA,設定値データB,運転データCが含まれている。滅菌装置データAは、装置名称,装置機番,装置型式を含でいる。設定値データBは、各種設定データとしての温度,予熱タイマ,パージタイマ,滅菌タイマ等のタイマ設定時間を含んでいる。
【0056】
運転データCは、運転日(年月日)、同日の運転回数(その滅菌器においてその日の何回目の運転なのかで、図10では図示省略)、運転モード、運転開始時刻、運転完了時刻、滅菌工程中の最高温度および最低温度、滅菌工程中の最大圧力および最小圧力、滅菌保持時間、運転結果、および滅菌インジケータの結果情報が含まれる。ここで、滅菌保持時間とは、滅菌工程中に滅菌設定温度を上回っている状態の時間積算値である。また、運転結果としては、最後まで正常に運転が完了(後処理工程まで完了)した場合の「正常終了」、異常はないが途中で停止(後処理工程をせずに終了)した場合の「途中終了」、滅菌工程は終了したが異常で停止した場合の「異常終了」のいずれかが自動で設定される。また、運転データCには、図10のEに示すように、第一圧力センサ22,第二圧力センサ23および温度センサ21の時間的変化をグラフ表示可能なようなデータを含んでいる。
【0057】
外部装置31にて滅菌データの出力要求操作を行うと、制御部27は、S8にてYESを判定し、S9にて滅菌データ記憶部29に記憶した各滅菌作業の滅菌データに操作者名を付加した出力データを外部装置31に対して出力する。外部装置31においては、受信した出力データを外部装置31に備える図示省略の印刷手段により図10に示すような形態で印刷する。
【0058】
こうして印刷されたデータには、図10に示すように、滅菌装置データA,設定値データB,運転データC,操作者名D,運転データのグラフEを含んでいる。符号Fは、外部装置31において、滅菌データの出力要求を行う者が入力するデータである。図10の運転データの最後尾にある「BD結果」,「CI結果」,「BI結果」は、それぞれ、ボウィー・ディックテスト用インジケータ,化学的インジケータ,生物学的インジケータの結果情報を記入する欄であり、この実施例1では、手書きにて記入するようにしているが、特開2008−200126号公報(特許文献1)のように、装置の入力を要求に対して操作者が入力した結果が出力されるように構成することができる。
【0059】
また、出力データは、図示省略の表示器に表示される。この表示の形態は、図10と同様のものとするが、画面の広さの関係で簡略的に表示したり、省略可能なデータを省略して表図する。出力データは外部装置31の要求により出力するのではなく、各滅菌作業が終了する毎に出力するように構成できる。
【0060】
この実施例によれば、操作者名の入力要求が作業開始スイッチ16aの操作時とともに行われ、操作者名が入力されるので、滅菌作業終了時に行うものと比較して、滅菌データに関連付けられるべき操作者である滅菌作業を開始した人と別人となることを防止できる。結果として、滅菌データのトレーサビリティを高めることができる。また、こうしたトレーサビリティによって、滅菌不良の原因を追究することにより、操作者の操作ミス,不十分な確認,確認ミスなどの人為的ミスの判断もできるようになる。その結果、管理者は、操作者の再教育の必要性を容易に判断でき、再教育を実施することができる。
【0061】
また、この実施例によれば、管理者により予め操作者を登録しておき、操作者名の入力要求があり、操作者名を入力するときに、入力された操作者名が登録された操作者である場合にのみ、操作者名の入力を受付るように構成している。その結果、信頼性の無い未登録操作者による滅菌作業の開始を防止して、信頼性の高い滅菌作業を実現でき、滅菌管理の信頼性を高めることができる。
【0062】
この発明は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。前記実施例では、前記記憶処理および出力処理を滅菌器1にて行っているが、外部装置31において行うこともできる。また、作業開始スイッチをタッチスクリーン25と別に設けたスイッチ16aとしているが、タッチスクリーン25に形成したスイッチとすることができる。また、外部装置31にて滅菌データを印刷または表示するように構成しているが、滅菌器1本体または付属の装置において、滅菌データの印刷および/または表示を行うように構成することができる。また、図2から図9に示した画面例は、一例であり、適宜変更可能である。また、滅菌データの印刷および/または表示の形態は、図10に限らずに種々変更可能である。さらに、被滅菌物を滅菌処理するための構造や運転方法などは、前記実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の滅菌器の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】同実施例の要部制御手順を示すフローチャート図である。
【図3】同実施例の一表示画面を説明する模式図である。
【図4】同実施例の異なる表示画面を説明する模式図である。
【図5】同実施例の異なる表示画面を説明する模式図である。
【図6】同実施例の異なる表示画面を説明する模式図である。
【図7】同実施例の異なる表示画面を説明する模式図である。
【図8】同実施例の異なる表示画面を説明する模式図である。
【図9】同実施例の異なる表示画面を説明する模式図である。
【図10】外部装置による印刷結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0064】
1 滅菌器(滅菌装置)
2 処理槽
16a 作業開始スイッチ
24 操作パネル
25 タッチスクリーン
29 滅菌データ記憶手段(記憶手段)
27 制御部(制御手段)
31 外部装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被滅菌物を収容する処理槽と、被滅菌物を滅菌する滅菌手段と、被滅菌物を滅菌する滅菌作業の滅菌データを出力する滅菌データ出力手段と、前記滅菌手段を制御して前記滅菌作業を繰り返して行うとともに、前記滅菌データ出力手段から滅菌データを出力する制御を行う制御手段とを備える滅菌装置であって、
操作者名を入力する入力手段と、
前記制御手段は、前記滅菌作業毎に操作者名の入力を促す入力要求処理と、前記入力手段から入力された操作者名を、いつ、どの装置で、どのような条件で、滅菌処理を行ったかについての前記滅菌作業毎の滅菌データと関連付けて記憶する記憶処理と、前記滅菌データ出力手段から前記滅菌作業毎の滅菌データに前記操作者名を付加して出力する出力処理とを行うことを特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
前記各滅菌作業を開始する作業開始スイッチを備え、
前記制御手段は、前記入力要求処理を前記作業開始スイッチの操作時に行い、操作者名の入力が完了すると前記各滅菌作業を開始することを特徴とする請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
予め操作者を登録する登録手段を備え、
前記制御手段は、前記入力要求処理に対して前記入力手段から入力された操作者名が前記登録手段に登録された操作者であることを確認した場合にのみ、操作者名の入力を受け付けることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の滅菌装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−119491(P2010−119491A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294475(P2008−294475)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.COMPACTFLASH
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】