説明

滑動シールドジャッキスプレッダーシュー

【課題】曲率半径の小さい急カーブのトンネル掘削において、シールド掘削機に設置されたシールドジャッキの推力をセグメントに伝達する際に、セグメントの端部を破損させることのないシールドジャッキスプレッダーシューを提供する。
【解決手段】 滑動シュー24は、摩擦係数の小さい2枚の板状の滑動材24a、24bと、この滑動材24a、24bを重合する重合装置26とを備え、一方の滑動材24aがスプレッダー22に固着される。急カーブを掘進する際に、スプレッダー22に固着される一方の滑動材24aとセグメント16に当接される他方の滑動材24bとが互いに滑ることにより、推進力がセグメント16の前端面25の面内方向へ作用しないために、セグメント16端部にクラック、ひび割れ等が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲率半径の小さい急カーブのトンネル掘削に適したシールド掘削機のシールドジャッキスプレッダーシューに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、曲率半径の小さい急カーブのトンネルをシールド掘削機にて掘進する際に、シールドジャッキの軸芯とセグメントの前端面の中心とのずれが大きくなり、シールドジャッキの押圧面がセグメントの前端面の端部に当接し、セグメントの端部に大きな負荷が作用してセグメントの端部を破損させるという問題点があった。
【0003】
そこで、シールドジャッキにシールドジャッキスプレッダー(以下、スプレッダーとする)及びシールドジャッキスプレッダーシュー(以下、シューとする)の中間材を設けてシールドジャッキによる推力をできるだけセグメントの前端面の中心に伝達する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、シューとセグメントの前端面との間にセグメントの厚さ寸法より狭い幅の当て板をセグメントの厚み方向ほぼ中央部に配置する方法が開示されている。この方法では、シールドジャッキによる推力を当て板を介してセグメントの前端面の厚み方向ほぼ中央部に作用させる。
【0005】
また、特許文献2には、スプレッダーにシューを挿設するための取付穴を、シールドジャッキの軸芯からの距離が異なるように複数箇所設け、シールドジャッキの軸芯とセグメントのずれに応じた位置の取付穴にシューを挿設することにより、シューの設置位置をシールド掘削機の半径方向に適宜変更する方法が開示されている。この方法では、例えば、直線又は僅かなカーブのトンネルを掘進する場合は、シールドジャッキの軸芯に対して外径側の取付穴にシューを挿設し、シューにてセグメントの前端面を押圧してシールド掘削機を前進させ、急カーブのトンネルを掘進する場合は、シールドジャッキの軸芯とセグメントのずれに応じた内径側の取付穴にシューを挿設し、シールドジャッキによる推力をシューにてセグメントの前端面の厚み方向ほぼ中央部に作用させる。
【0006】
さらに、特許文献3には、スプレッダーにシューを取り付けるための取付ボスを、シールドジャッキの軸芯からの距離が異なるように複数個設け、シールドジャッキの軸芯とセグメントのずれに応じて、スプレッダーを回転させて取付ボスの位置を内径側に適宜変更する方法が開示されている。この方法では、例えば、大径のトンネルを掘進する場合は、取付ボスがシールドジャッキの軸芯に対して外径側に位置するようスプレッダーを設置し、取付ボスにシューを取り付け、シューにてセグメントの前端面を押圧してシールド掘削機を前進させ、小径のトンネルを掘進する場合は、シールドジャッキの軸芯とセグメントのずれに応じた他の取付ボスが内径側に位置するようスプレッダーを回転させ、取付ボスにシューを取り付け、シールドジャッキによる推力をシューにてセグメントの前端面の厚み方向ほぼ中央部に作用させる。
【特許文献1】特開平7−301091号公報
【特許文献2】実開平4−130391号公報
【特許文献3】特許3326132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、シールドジャッキを伸張する際は必ずシューとセグメントの前端面との間に当て板を設置する作業が生じ、この作業には多くの手間と時間がかかるという問題点があった。また、この当て板は摩擦係数が大きくシューが当て板に対して滑らないために、スプレッダーの傾き又はシールドジャッキのロッド部の撓みによる前端面の面内方向の負荷がセグメントの端部に作用してセグメントの端部が破損するという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されている方法では、シューの取り付け位置を変更するためにシューを取り外す際に、シューをスプレッダーに固定しているピンがピン穴にかじってピンが抜けず、ピンを抜く作業に時間がかかるという問題点があった。また、シールド掘削機のすべてのシューの取り付け位置を変更しなければならず、シールドジャッキの数だけシューの脱着作業が生じ、この作業に多くの手間と時間がかかるという問題点があった。
【0009】
また、特許文献3に記載されている方法では、シューの取り付け位置を変更するためにスプレッダーを回転させる際に、シールドジャッキをシールドフレームから取り外さなければならず、シールド掘削機のすべてのシールドジャッキの脱着作業が生じ、この作業に多くの手間と時間がかかるという問題点があった。また、シールドジャッキは重量物であるために、脱着作業の際はシールドジャッキを支持する設備が必要であり、シールドフレーム内に脱着用設備の設置スペースを確保することが困難であるという問題点があった。
【0010】
そして、特許文献2及び3に記載されている方法では、シールドジャッキの軸芯からシューの取付穴又は取付ボスまでの距離がそれぞれ決められているために、必ずしもシューの当接位置がセグメントの好適な位置とならずに、推力がセグメントの端部に作用してセグメントの端部が破損するという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、曲率半径の小さい急カーブのトンネル掘削において、シールド掘削機に設置されたシールドジャッキの推力をセグメントに伝達する際に、セグメントの端部を破損させることのないシールドジャッキスプレッダーシューを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明の滑動シールドジャッキスプレッダーシューは、シールド掘削機に設置されたシールドジャッキの推力をセグメントに伝達するためのシールドジャッキスプレッダーの端面に配設されるシールドジャッキスプレッダーシューであって、互いに重なり合う複数の板状の滑動材と、該複数の滑動材を、それらが重なり合った状態で互いに滑動可能に保持する重合装置とを備え、何れか一方の端部側の滑動材が前記シールドジャッキスプレッダーに固定されていることを特徴とする(第1の発明)。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記重合装置は、弾性体の弾性力により複数の前記滑動材を互いに重なり合った状態で互いに滑動可能にすることを特徴とする。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記重合装置は、互いに隣接する滑動材を挟持するように配設される板状のゴムからなることを特徴とする。
【0015】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、前記重合装置は、一端が前記一方の端部側の滑動材を介してシールドジャッキスプレッダーに接続され、他端が他方の端部側の滑動材に接続されるばねからなることを特徴とする。
【0016】
第5の発明は、第1〜4の何れかの発明において、前記滑動材は、低摩擦材であるポリテトラフルオロエチレン、超高分子ポリエチレン等のプラスチック又はオイルレスメタル等の金属からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による滑動シールドジャッキスプレッダーシュー(以下、滑動シューとする)は、摩擦係数の小さい複数の板状の滑動材が互いに重なり合っており、セグメントの前端面が滑動シューに対して好適な当接位置にない場合であっても隣接する滑動材同士が滑ることにより、セグメントの前端面の面内方向へはシールドジャッキの推進力が作用しないために、セグメント端部の破損を防止することができる。
【0018】
また、滑動シューは、何れか一方の端部側の滑動材がジャッキスプレッダーに固着され、残りの滑動材は板状のゴム、ばね等の弾性体の弾性力により互いに隣接する滑動材に重なり合った状態で保持されることにより、シールドジャッキを伸張して滑動シューをセグメントに当接する際も、シールドジャッキを伸張する操作をおこなうだけでよく、滑動シューを人間が設置する等の手間がかからないために作業効率が良い。
【0019】
さらに、摩擦係数の小さい板状の滑動材を複数枚重ね合わせることにより、シールドジャッキの軸芯とセグメントの前端面の中心とのずれが大きくなってもセグメントの前端面に滑動シューが当接することができ、かつ、シールドジャッキを収縮した際の滑動シューをコンパクトにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る滑動シューの好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の第一実施形態に係るシールド掘削機の鉛直断面図であり、図2は、本実施形態に係る滑動シューを備えたシールドジャッキをシールド掘削機に設置した状態を示す図である。図1に示すように、曲率半径の小さい急カーブを掘削するための中折れ機構を備えるシールド掘削機10は、急カーブを掘進する際に、シールドジャッキ12とスキンプレート14内面とが接触しないようにシールドジャッキ12がスキンプレート14内面よりシールド掘削機10の半径方向内側に配設されるが、セグメント16はスキンプレート14内面に沿って組み立てられる。そこで、図2に示すように、シールドジャッキ12のロッド頭部18をシールド掘削機10の半径方向外側に張り出した形状にして偏心させ、この張り出した端部に取り付けられた球面継手20を介してスプレッダー22を連結し、このスプレッダー22のセグメント16側端面に滑動シュー24を固着している。係る構成によれば、スプレッダー22が球面継手20に対して回転することにより滑動シュー24がセグメント16の前端面25に平行に当接する。
【0022】
図3は、本実施形態に係る滑動シューをシールドジャッキに取り付けた状態を示し、図4は、本実施形態に係る滑動シューの斜視図である。
図3に示すように、滑動シュー24は、摩擦係数の小さい2枚の板状の滑動材24a、24bと、この滑動材24a、24bを重ね合わせた状態で互いに滑動可能に保持する重合装置26とを備え、一方の滑動材24aがスプレッダー22に固着される。
滑動材24a、24bは、本実施形態においては、例えば、厚さは10mm〜20mm程度で、材質はポリテトラフルオロエチレンからなるプラスチックを用いる。
【0023】
図4に示すように、重合装置26は、2枚の滑動材24a、24bを挟持するように滑動材24a、24bの周方向両端部にそれぞれ貼付される板状のゴム28からなり、スプレッダー22に固着されていない他方の滑動材24bが脱落することを防止する。ゴム28は、一方の滑動材24aに対して他方の滑動材24bが5mm〜10mm程度の範囲で滑動可能となるように材質、厚さ等を選択する。
【0024】
急カーブを掘進する際に、例えば、トンネルの曲率半径が小さくなる内側において、シールドジャッキ12の軸芯とセグメント16の中心とのずれが大きくなるが、スプレッダー22に固着される一方の滑動材24aとセグメント16に当接される他方の滑動材24bとが互いに滑ることにより、推進力がセグメント16の前端面25の面内方向に作用することを防止する。したがって、セグメント16端部にクラック、ひび割れ等が生じない。
【0025】
また、一方の滑動材24aがスプレッダー22に固着され、他方の滑動材24bが板状のゴム28の弾性力により滑動材24aに重なり合った状態に保持されることにより、シールドジャッキ12を伸張して滑動シュー24をセグメント16に当接する際に、シールドジャッキ12を伸張する操作をおこなうだけでよく、滑動シュー34を人間が設置する等の手間がかからないために作業効率が良い。
【0026】
次に、本発明における重合装置の異なる実施形態を示す。下記に示す説明において、第一実施形態と同様の技術を用いたものと対応する部分には同一の符号を付して、説明を省略する。
【0027】
図5は、本発明の第二実施形態に係る滑動シューをスプレッダーに取り付けた状態を示し、図6は、本実施形態に係る滑動シュー及びスプレッダーの断面図である。
【0028】
図5に示すように、滑動シュー34は、摩擦係数の小さい2枚の板状の滑動材34a、34bと、この滑動材34a、34bを重合する重合装置36とを備え、一方の滑動材34aがスプレッダー22に固着される。
滑動材34a、34bは、本実施形態においては、例えば、厚さは10mm〜20mm程度で、材質はオイルレスメタルを用いる。
【0029】
図6に示すように、重合装置36は、一端が、一方の滑動材34aに設けられる開口部38を介してジャッキスプレッダーの内部に接続され、他端が、他方の滑動材34bの端面に固着されるとともに、開口部38に挿通可能なストッパー部40に接続されるばね42からなり、スプレッダー22に固着されていない他方の滑動材34bが脱落することを防止する。本実施形態において、例えば、ばね42は4本使用し、一方の滑動材34aに対して他方の滑動材34bが5mm〜10mm程度の範囲で滑動可能となるように材質、長さ等を選択する。
【0030】
なお、本実施形態においては、重合装置36として4台のばね42を用いたが、4台に限定されるものではなく、滑動材34a、34bの重量等に応じて使用するばね42の本数は適宜変更する。
【0031】
本実施形態においても、上述した第一実施形態と同様に、急カーブを掘進する際に、スプレッダー22に固着される一方の滑動材34aとセグメント16に当接される他方の滑動材34bとが互いに滑ることにより、推進力がセグメント16の前端面25の面内方向に作用しないために、セグメント16端部にクラック、ひび割れ等が生じない。
【0032】
また、一方の滑動材34aがスプレッダー22に固着され、他方の滑動材34bがばねの弾性力により一方の滑動材34aに重合されていることにより、シールドジャッキ12を伸張して滑動シュー34をセグメント16に当接する際に、シールドジャッキ12を伸張する操作をおこなうだけでよく、滑動シュー34を人間が設置する等の手間がかからないために作業効率が良い。
【0033】
なお、上述したそれぞれの実施形態において説明したポリテトラフルオロエチレン、オイルレスメタルは他の実施形態においても使用することが可能である。また、上述した実施形態において、低摩擦材としてポリテトラフルオロエチレン、超高分子ポリエチレン等のプラスチック、オイルレスメタル等の金属について説明したが、この材質に限定されるものではなく、低摩擦材であれば他の材質を用いてもよい。さらに、上述したすべての実施形態において、低摩擦材として同一材質のものを重合する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、異なる材質同士でも摩擦係数が小さくなるものであればよい。そして、上述したすべての実施形態において、2枚の滑動材を用いる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、3枚以上の滑動材を用いてもよい。その場合は、最もスプレッダー側(一方の端部側)の滑動材をスプレッダーに固定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第一実施形態に係るシールド掘削機の鉛直断面図である。
【図2】本実施形態に係る滑動シューを備えたシールドジャッキをシールド掘削機に設置した状態を示す図である。
【図3】本実施形態に係る滑動シューをシールドジャッキに取り付けた状態を示す図である。
【図4】本実施形態に係る滑動シューの斜視図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る滑動シューをスプレッダーに取り付けた状態を示す図である。
【図6】本実施形態に係る滑動シュー及びスプレッダーの鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10 シールド掘削機
12 シールドジャッキ
14 スキンプレート
16 セグメント
18 ロッド頭部
20 球面継手
22 シールドジャッキスプレッダー
24、34 滑動シールドジャッキスプレッダーシュー
24a、24b、34a、34b 滑動材
25 セグメントの前端面
26、36 重合装置
28 ゴム
38 開口部
40 ストッパー部
42 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機に設置されたシールドジャッキの推力をセグメントに伝達するためのシールドジャッキスプレッダーの端面に配設されるシールドジャッキスプレッダーシューであって、
互いに重なり合う複数の板状の滑動材と、該複数の滑動材を、それらが重なり合った状態で互いに滑動可能に保持する重合装置とを備え、何れか一方の端部側の滑動材が前記シールドジャッキスプレッダーに固定されていることを特徴とする滑動シールドジャッキスプレッダーシュー。
【請求項2】
前記重合装置は、弾性体の弾性力により複数の前記滑動材を互いに重なり合った状態で互いに滑動可能に保持することを特徴とする請求項1に記載の滑動シールドジャッキスプレッダーシュー。
【請求項3】
前記重合装置は、互いに隣接する滑動材を挟持するように配設される板状のゴムからなることを特徴とする請求項2に記載の滑動シールドジャッキスプレッダーシュー。
【請求項4】
前記重合装置は、一端が前記一方の端部側の滑動材を介してシールドジャッキスプレッダーに接続され、他端が他方の端部側の滑動材に接続されるばねからなることを特徴とする請求項2に記載の滑動シールドジャッキスプレッダーシュー。
【請求項5】
前記滑動材は、低摩擦材であるポリテトラフルオロエチレン、超高分子ポリエチレン等のプラスチック又はオイルレスメタル等の金属からなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の滑動シールドジャッキスプレッダーシュー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−241785(P2006−241785A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57470(P2005−57470)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】