説明

滴下原液調製装置

【課題】本発明の課題は、気泡を含まない滴下原液をアンモニア水中に供給することのできる滴下原液調製装置を提供することである。
【解決手段】 前記課題を解決するための本発明の手段としては、滴下原液調製槽と、前記滴下原液調製槽内を攪拌可能な攪拌手段と、前記滴下原液調製槽内を減圧にする真空ポンプとを備えることを特徴とする滴下原液調製装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滴下原液調製装置に関し、さらに詳しくは、気泡を含まない滴下原液をアンモニア水中に供給することのできる滴下原液調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1〜5によると、高温ガス炉用燃料は、一般的に以下のような工程を経て製造される。まず、酸化ウランの粉末を硝酸に溶かして、硝酸ウラニル原液とする。次に、この硝酸ウラニル原液に純水及び増粘剤等を添加し、攪拌して滴下原液とする。調製された滴下原液は、所定の温度に冷却され、粘度を調製した後、細径の滴下ノズルを用いてアンモニア水溶液に滴下される。
【0003】
このアンモニア水溶液に滴下された液滴は、アンモニア水溶液表面に達するまでの間に、アンモニアガスを吹きかけられる。このアンモニアガスによって、液滴表面がゲル化され、これにより、アンモニア水溶液表面到達時における変形が防止される。アンモニア水溶液中における硝酸ウラニルは、アンモニアと十分に反応し、重ウラン酸アンモニウム粒子(以下、「ADU粒子」と略する場合がある。)となる。
【0004】
このADU粒子は、洗浄、乾燥された後、大気中で焙焼され、三酸化ウラン粒子となる。さらに、三酸化ウラン粒子は、還元及び焼結されることにより、高密度のセラミックス状の二酸化ウラン粒子となる。この二酸化ウラン粒子をふるい分け、すなわち分級して、所定の粒子径を有する燃料核微粒子を得る。
【0005】
以上のようにして得られた燃料核微粒子の表面に、低密度炭素層、高密度炭素層、SiC層および高密度炭素層を、この順に被覆して、被覆燃料粒子を得る。
【0006】
【非特許文献1】S.Kato ”Fabrication of HTTR First Loading fuel”,IAEA-TECDOC-1210,187 (2001)
【非特許文献2】N.Kitamura ”Present status of initial core fuel fabrication for the HTTR” IAEA−TECDOC−988,373(1997)
【非特許文献3】林 君夫、”高温工学試験研究炉の設計方針、製作性及び総合的健全性評価”JAERI−M 89−162(1989)
【非特許文献4】湊 和生、”高温ガス炉燃料製造の高度技術の開発”JAERI−Reseach 98−070(1998)
【非特許文献5】長谷川正義、三島良績 監修「原子炉材料ハンドブック」昭和52年10月31日発行 221−247頁、日刊工業新聞社
【0007】
しかし、滴下原液を調製する際に攪拌操作をすると、滴下原液中に気泡が含まれてしまうことがある。しかも、滴下原液は、増粘剤を含有しているので、粘度が高くなっている。従って、滴下原液中に気泡が含まれてしまうと、その気泡を除去することは困難である。このように気泡を含んだ滴下原液をアンモニア水中に滴下すると、図2に示す様に内部に気泡22を有する重ウラン酸アンモニウム粒子21が形成されてしまうという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題を解決するため、気泡を含まない滴下原液をアンモニア水中に供給することのできる滴下原液調製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明の手段として、
請求項1は、滴下原液調製槽と、前記滴下原液調製槽内を攪拌可能な攪拌手段と、前記滴下原液調製槽内を減圧にする真空ポンプとを備えることを特徴とする滴下原液調製装置であり、
請求項2は、前記滴下原液調製槽内の圧力が、0.133〜1.33Paである前記請求項1に記載の滴下原液調製装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、滴下原液調製槽内部を減圧にするような真空ポンプを備えることによって、攪拌手段により発生した気泡を滴下原液中から取り除くことにより、気泡を含まない滴下原液をアンモニア水中に滴下することができる。そして、内部に気泡を有しない重ウラン酸アンモニウム粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1を参照しながら本発明の滴下原液調製装置について述べる。なお、本発明における滴下原液調製装置は、図1に示される滴下原液調製装置に限られることはなく、適宜設計変更等をしてもよい。
【0012】
図1に示される滴下原液調製装置1は、滴下原液調製槽2と、攪拌機3と、ガス排出路4と、真空ポンプ5と、滴下原液供給路6とを備えて成る。
【0013】
前記滴下原液調製槽2は、調製された滴下原液を貯留する槽である。本発明における滴下原液調製槽で扱われる滴下原液は、酸化ウランと硝酸とを混合して得られる硝酸ウラニル原液に水溶性ポリマーを添加し、次いで純水を添加することにより粘度を調節して調製される。
【0014】
前記酸化ウランとしては、二酸化ウラン、三酸化ウランまたは八酸化三ウラン等を挙げることができ、特に八酸化三ウランが好ましい。
【0015】
前記硝酸ウラニル原液の調製の際には、ウランと硝酸とのモル比(硝酸のモル数/ウランのモル数)が2.1〜2.6になるように、酸化ウランと硝酸とを混合するのが好ましく、特に前記モル比が2.3〜2.5になるように、酸化ウランと硝酸とを混合するのが好ましい。前記モル比が2.1よりも小さいと、酸化ウランが完全に溶解せず、硝酸ウラニル原液中に残渣として残ることがある。また、前記モル比が2.6よりも大きいと、硝酸の使用量および反応後の廃液処理のための中和剤の使用量が多くなってしまい、その結果、硝酸ウラニルの製造コストが高くなり、ひいては、重ウラン酸アンモニウム粒子の製造コストが高くなってしまうことがある。
【0016】
前記水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略する。)、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリエチレンオキシド等の合成ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びエチルセルロース等のセルロース系ポリマー、可溶性でんぷん、及びカルボキシメチルでんぷん等のでんぷん系ポリマー、デキストリン、及びガラクタン等の水溶性天然高分子等を挙げることができる。これら各種の水溶性ポリマーは、その一種を単独で使用されても、また、それらの二種以上が併用されていても良い。これらの中でも、水溶性ポリマーとして前記合成ポリマーが好ましく、特にポリビニルアルコールが好ましい。前記水溶性ポリマーの添加量としては、滴下原液全体の15〜20体積%であるのが好ましい。
【0017】
前記純水の添加量としては、15℃における滴下原液の粘度が4.0×10−2〜6.5×10−2Pa・sになるような量であるのが好ましい。
【0018】
前記滴下原液調製槽2としては耐熱性、耐腐食性の槽であれば、その容積およびその形状については特に制限はなく、例えば、円筒状の槽を挙げることができる。
【0019】
攪拌機3は、前記滴下原液調製槽2内を攪拌可能であればよい。前記攪拌機3としては、滴下原液中の気泡を上方向に移行させるような攪拌翼3Aを有する装置であれば特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
【0020】
前記攪拌機3の回転数としては、30〜250rpmであるのが好ましい。前記回転数が30rpmよりも少ないと、滴下原液中から気泡を除去する時間が長くなり、その結果、重ウラン酸アンモニウム粒子の製造効率が悪くなることがある。前記回転数が250rpmよりも多いと、真空ポンプ5の吸引によって除去される気泡の量よりも、攪拌することに伴って滴下原液中に取り込まれる気泡の量が多くなってしまうことがある。
【0021】
前記ガス排出路4は、前記滴下原液調製槽2の上部に設けられ、滴下原液中の気泡が滴下原液調製槽2内の上部空間に移行して溜まったガスを前記滴下原液調製槽2外に案内する排出路である。
【0022】
前記ガス排出路4の形状および材質については、特に制限はないが、耐腐食性の排出路であるのが好ましい。このガス排出路4には、前記滴下原液調製槽2内を減圧にし、前記滴下原液調製槽2内上部のガスを滴下原液調製槽2外へ排出する真空ポンプ5が介装される。前記真空ポンプ5としては、例えば、ロータリーポンプ、クライオポンプ、ドライポンプまたはブースターポンプ等を挙げることができる。
【0023】
前記真空ポンプ5により減圧された滴下原液調製槽2内の圧力としては、滴下原液中に存在する気泡を確実に除去することができる限り制限はないが、特に0.133〜1.33Paであるのが好ましい。前記圧力が、1.33Paよりも高いと、滴下原液中に存在する気泡を除去するのに時間がかかり、効率的に気泡を除去することができないことがあり、前記圧力が0.133Paよりも低いと、水分等の揮発が生じ、滴下原液の濃度及び粘度が変化してしまうということがある。
【0024】
前記真空ポンプ5により吸引されたガスは、ガス排出路4を通り、ガス排出路4に設けられたガス浄化装置(図示せず)を通って大気中に放出される。
【0025】
前記ガス浄化装置(図示せず)は、ガス中に含まれる有害物質を除去することができれば、特に制限はなく、酸やアルカリ水溶液に有害物質を吸収させる吸収装置または活性炭を内部に装填し、活性炭に有害物質を吸着させる活性炭吸着装置等を挙げることができる。特に、有機化合物も効率的に除去することができる活性炭吸着装置が好ましい。
【0026】
前記滴下原液供給路6は、前記滴下原液調製槽2の下部に設けられ、前記滴下原液調製槽2内で気泡が取り除かれた滴下原液を、滴下原液供給路6の他端に設けられた滴下ノズル(図示せず)に案内する供給路である。この滴下原液供給路6には、開閉弁が設けられ、開閉弁の開閉操作により、気泡が除去された滴下原液を滴下ノズルへ供給する。
【0027】
具体的には、滴下原液から気泡を除去している間は、開閉弁を閉じたままにしておき、滴下原液から気泡を除去した後に、閉じられている開放弁を開けて、滴下原液を滴下ノズルへ供給する。
【0028】
滴下原液調製槽2内で気泡が取り除かれた滴下原液は、前記滴下原液調製槽2に接続する滴下原液供給路6を通って、滴下原液供給路6の他端に設けられた滴下ノズル(図示せず)から反応槽(図示せず)に貯留されたアンモニア水中に滴下される。
【0029】
以上のように本発明の滴下原液調製装置で気泡が除去された滴下原液を反応槽内のアンモニア水に滴下すると、内部に気泡を含まない重ウラン酸アンモニウム粒子が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の滴下原液調製装置の一例を示す図である。
【図2】図2は、内部に気泡を有する重ウラン酸アンモニウム粒子の概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 滴下原液調製装置
2 滴下原液調製槽
3 攪拌機
3A 攪拌翼
4 ガス排出路
5 真空ポンプ
6 滴下原液供給路
21 重ウラン酸アンモニウム粒子
22 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滴下原液調製槽と、前記滴下原液調製槽内を攪拌可能な攪拌手段と、前記滴下原液調製槽内を減圧にする真空ポンプとを備えることを特徴とする滴下原液調製装置。
【請求項2】
前記滴下原液調製槽内の圧力が、0.133〜1.33Paである前記請求項1に記載の滴下原液調製装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−224069(P2006−224069A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44544(P2005−44544)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)
【Fターム(参考)】