漁礁
【課題】海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供する。
【解決手段】本発明に係る漁礁では、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成した。また、廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したことにも特徴を有する。また、前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したことにも特徴を有する。
【解決手段】本発明に係る漁礁では、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成した。また、廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したことにも特徴を有する。また、前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したことにも特徴を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に沈降させて海中生物の成育の場とする漁礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工的に形成した漁礁(以下、単に「漁礁」という。)としては、材料として金属素材を用いるものが知られている。
【0003】
このような漁礁の一例として、金属製の鋼管を方形状に互い違いに積層して、周側面と上下方向に魚の遊泳空間を形成して漁礁として機能するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
これは、従来の多孔形成のコンクリートブロックを積層したものに比較して、金属腐食はあるものの、藻が漁礁表面に付着しやすく、集魚効果を良好にするという利点がある。
【0005】
他方、コンクリートブロックよりなる漁礁は、表面にアルカリ分のセメント材料が滲出して海草や藻の成長を阻害し、経時的に集魚効果が低下するという欠点がある。
【0006】
また、他の漁礁の例として、金属を含めた各種材料の廃棄物で漁礁を構成するものが知られている(特許文献2参照。)。この特許文献2に記載の漁礁の場合においては、金属廃棄物を破砕細断してバインダーと混合して一定形状に成形硬化するものであり、特に金属特有の鉄イオンの溶出を利用して集魚し、繁殖効率を向上するというものであり、基本的に前出の特許文献1に記載されている漁礁と同様の金属利用漁礁の技術的特徴を使用したものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−140522号公報
【特許文献2】特開平08−131016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの先行文献に記載の金属利用の漁礁においては、金属部材で一定の定型的形状を形成するための作業が煩雑であり、特に漁礁形状が定型的になるため、漁礁の環境に変化をもたらし得ない欠点があると共に、細断金属片をバインダーで固めて任意の形状にするものにあっては、固型化した金属片を漁礁形状に構築するための作業が再度必要になり煩雑性がある。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る本発明では、漁礁において、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成した。
【0011】
また、請求項2に係る本発明では、請求項1に記載の漁礁において、廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したことに特徴を有する。
【0012】
また、請求項3に係る本発明では、請求項2に記載の漁礁において、枠体は、L字鋼の一辺に相当する縁板に廃材鋼板の端縁が嵌入固定されるためのスリットを一定間隔を保持して並列して形成したことに特徴を有する。
【0013】
また、請求項4に係る本発明では、請求項1に記載の漁礁において、前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したことに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によれば、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成したため、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供することができる。
【0015】
また、請求項2に係る本発明によれば、廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したため、スリットが形成された所定の位置に廃材鋼板を容易に配置することができる。
【0016】
また、請求項3に係る本発明によれば、枠体は、L字鋼の一辺に相当する縁板に廃材鋼板の端縁が嵌入固定されるためのスリットを一定間隔を保持して並列して形成したため、比較的容易な構成でありながら、廃材鋼板同士の間隔を確実に保持することができる。
【0017】
また、請求項4に係る本発明によれば、前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したため、比較的容易な構成でありながら、廃材鋼板同士の間隔を確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の漁礁に用いる漁礁フレームと、漁礁フレームに装着する廃材鋼板を示す説明図である。
【図2】漁礁フレームの構成を示す説明図である。
【図3】廃材鋼板を装着した漁礁フレームの端面説明図及び一部拡大図である。
【図4】漁礁フレームに挿入した廃材鋼板の端部の係止方法を示す説明図である。
【図5】他の実施形態に係る漁礁の全体構成を示した説明図である。
【図6】廃材鋼板の加工方法を示した説明図である。
【図7】漁礁構成体の構成を示した説明図である。
【図8】漁礁構成体の構成を示した説明図である。
【図9】漁礁構成体の連結状態を示した説明図である。
【図10】海底に配置した漁礁を示した説明図である。
【図11】海底における漁礁の状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の漁礁Mに用いる漁礁フレームAと、漁礁フレームAに装着する廃材鋼板aを示す説明図であり、図2は漁礁フレームAの構成を示す説明図であり、図3は、廃材鋼板aを装着した漁礁フレームAの端面説明図及び一部拡大図を示すものであり、図4は漁礁フレームAに挿入した廃材鋼板aの端部の係止方法を示す説明図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の漁礁Mは、断面L字状の鋼材1を立方形枠状に組み立てた漁礁フレームAと、漁礁フレームAに縦方向に複数枚一定間隔を保持して重畳した廃材鋼板aとより構成されている。
【0021】
漁礁フレームAは、断面L字状の鋼材1を一個の漁礁Mにつき12本(鋼材1−1〜鋼材1−12)を使用する。
【0022】
具体的には、図2に示すように、鋼材1−1,1−2,1−3,1−4の4本は、立方形状の漁礁Mの長方状の側枠を形成し、その側枠の前開口部3と後開口部4とに、略正方形の各辺となる鋼材1−5,1−6,1−7,1−8及び鋼材1−9,1−10,1−11,1−12を組み立てることにより、12本の鋼材1が四角箱形状の稜線を形作る漁礁フレームAが完成する。なお、図2では、各鋼材1の連結状態の理解を容易とするために、鋼材1−8を透視した状態で二点鎖線で示している。
【0023】
すなわち、側枠を形成する4本の断面L字状の鋼材1−1,1−2,1−3,1−4は、互いにL字状部分が対向する状態で略方形状の四隅に配置され、前開口部3を形成する4本の断面L字状の鋼材1−5,1−6,1−7,1−8のうち、上側の鋼材1−5は、L字部分の一辺が、側枠における鋼材中上側にて左右に配置された鋼材1−1,1−2のL字部分の一辺に重複して連設させるとともに、下側の鋼材1−6は、L字部分の一辺が側枠における鋼材中下側にて左右に配置されたの鋼材1−3,1−4のL字部分の一辺に重複して連設させている。
【0024】
また、前開口部3から後開口部4を臨む視点で左側に配置された鋼材1−7は、L字部分の一辺が側枠における鋼材中、左側にて上下に配置された鋼材1−1,1−3のL字状部分の一辺に重複して連設させるとともに、右側に配置された鋼材1−8は、L字部分の一辺が、側枠における鋼材中右側にて上下に配置された鋼材1−2,1−4のL字状部分の一辺に重複して連設させている。
【0025】
同様に、後開口部を形成する4本の断面L字状の鋼材1−9,1−10,1−11,1−12にも、側枠を構成する各鋼材1−1,1−2,1−3,1−4をL字状の一辺同士を重複して連設する。これら各鋼材1は、ボルト等の連結部材や、溶接等によって連設した状態で固定される。
【0026】
このようにして形成することにより、漁礁Mの主骨格たる漁礁フレームAが構築される。
【0027】
しかも、漁礁Mの前開口部3と後開口部4とにそれぞれ配設された上下側の鋼材1−5,1−6及び鋼材1−9,1−10は、一定間隔で鋼材端縁を切欠することにより形成されたスリット2がぞれぞれ多数備えられている。
【0028】
このスリット2は、上下側の鋼材1−5,1−6及び鋼材1−9,1−10では互いに対向した位置にあり、しかも、スリットの幅員は少なくとも後述する廃材鋼板aの厚みよりやや大きく形成している。なお、本実施形態では、スリット2の深さJは、約5cmとしている。
【0029】
次に、漁礁フレームAのスリット2に嵌着して該漁礁フレームAに組立装着する廃材鋼板aについて述べる。
【0030】
図1にも示したように、廃材鋼板aは、大きさが漁礁フレームAの前開口部3及び後開口部4の上下高さより少なくとも小さい縦の長さとしており、横の長さは漁礁フレームA前後長さよりも少なくとも大きな長さとしている。
【0031】
しかも、廃材鋼板aは、メタル板が抜去された後の穴(以下、「抜き穴9」という。)を有する廃材としている。すなわち、元々の状態は方形鋼板であるが、プレス加工(打ち抜き加工)や溶断加工が行われてメタル板が取り去られたことで、各種形状の抜き穴9が多数形成された鋼板を廃材鋼板aとして用いることとしている。
【0032】
この廃材鋼板aの厚みは、打抜き加工前の方形鋼板の状態で、打ち抜き加工が可能な厚みとしている。特に、本実施形態における廃材鋼板aは、3〜10mm程度の厚みのものを使用している。
【0033】
廃材鋼板aに形成された抜き穴9の形状は、特に限定されるものではない。したがって、それぞれ異なった目的の為に、異なる形状でプレス加工(打ち抜き加工)や溶断加工が行われた廃材であっても、廃材鋼板aとして使用することができる。このような抜き穴9を備えた廃材鋼板aを用いることで、漁礁Mに定着した海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができる。より好ましくは、隣り合う廃材鋼板aは、抜き穴9の形状が異なるようにする。これにより、更に生育環境に多様性を付与することができる。
【0034】
ところで、漁礁フレームAには、この廃材鋼板aが複数枚挿入配置されるのであるが、それぞれの廃材鋼板aの抜き穴9の大きさをある程度揃えることで、集魚したい魚を選択することもできる。
【0035】
すなわち、稚魚の育成を目的として漁礁Mを形成するのであれば、漁礁フレームAに挿入する廃材鋼板aの抜き穴9の大きさを、稚魚は通過可能で成魚は通過困難な大きさに揃えることで、稚魚を成魚による捕食から守ることができ、主に稚魚が集まる漁礁Mとすることができる。
【0036】
そして、漁礁Mを形成するに際しては、図1に示すように、廃材鋼板aを漁礁フレームA内に前開口部3から後開口部4へ向けて挿入し、配置する。
【0037】
この際、廃材鋼板aは、鋼材1−5,1−6,1−9,1−10に形成された、それぞれ対向するスリット2に端縁を嵌入させて挿入することで、漁礁フレームA内に複数挿入された廃材鋼板aが一定間隔に互いに重畳した状態で配置される(図3参照。)。このように、廃材鋼板aは、スリット2に沿って挿入するため、廃材鋼板aを所定の位置に所定の間隔で容易に配置することができる。また、廃材鋼板aの端縁が嵌入固定されるためのスリット2を一定間隔を保持して並列して形成したため、比較的容易な構成でありながら、廃材鋼板a同士の間隔を確実に保持することができる。なお、図3は、前開口部3側から見た漁礁Mを示している。
【0038】
また、各鋼材1−5,1−6,1−9,1−10に形成する複数のスリット2の形成間隔は、A−A断面図に示すように、各廃材鋼板a同士が一定の間隔Kを保つ間隔としている。この間隔Kの長さは、集魚したい魚に合わせて適宜調整することが可能であり、例えば、5cm〜20cmとすることができる。
【0039】
間隔Kをこのような長さとすることにより、漁礁Mに稚魚や小型の魚を集めることができるとともに、これらの比較的小さな魚が大型の魚に捕食されてしまうことを防止することができる。換言すれば、稚魚や幼魚の育成を目的とした漁礁Mとすることができる。
【0040】
また、図3のA−A断面図及びB−B断面図にも示すように、各廃材鋼板aの端部は、スリット2が形成された鋼材1−5,1−6,1−9,1−10よりも外方に突出させた状態で配設している。なお、以下の説明において、この廃材鋼板aの突出した部分を突出部5という。
【0041】
このように、各廃材鋼板aを、鋼材1−5,1−6,1−9,1−10よりも外方に突出させているため、漁礁Mを海中に沈降配置した際に、廃材鋼板aが潮流を受けた場合であっても、廃材鋼板aが漁礁フレームAから脱落してしまうことを防止することができる。
【0042】
なお、鋼材1−5,1−6,1−9,1−10よりも外方に突出させた突出部5の長さLは、特に限定されるものではないが、脱落を防止するためには、例えば、5〜10cm程度とするのが望ましい。
【0043】
また、それぞれの廃材鋼板aの突出部5には、同突出部5の上端部近傍に形成された上部係止孔6aと、下端部近傍に形成された下部係止孔6bとが穿設されている。これらの上部係止孔6a及び下部係止孔6bは、後述のワイヤ7と組み合わせて抜け止め構造を構成するものである。抜け止め構造は、廃材鋼板aの漁礁フレームAからの脱落を防止するためのものである。なお、以下の説明において、上部係止孔6a及び下部係止孔6bとを総称して係止孔6ともいう。
【0044】
具体的には、上部係止孔6aは、図3のB−B断面図にも示すように、廃材鋼板aの突出部5の上辺位置から、スリット2が形成された鋼材1−5の端縁の下端位置までの範囲内に穿設されている。また、下部係止孔6bは、突出部5の下辺位置から、鋼材1−6の端縁の上端位置までの範囲内に穿設されている。
【0045】
同様に、後開口部4側に突出した各廃材鋼板aの突出部5にも、上部係止孔6a及び下部係止孔6bが形成されている。
【0046】
そして、図4に示すように、各廃材鋼板aに穿設された係止孔6にワイヤ7を挿通することにより、抜け止め構造を形成している。なお、図4において、前開口部3の各上部係止孔6aは、既に抜け止め構造が形成された後の状態を示しており、各下部係止孔6bは、ワイヤ7を挿通している途中の状態を示している。
【0047】
また、前開口部3の上部係止孔6aに挿通されたワイヤ7を見ると分かるように、その挿通されたワイヤ7端部は、結び目などにより係止孔6の径よりも太径とした係止部8を形成している。
【0048】
これにより、ワイヤ7もまた、係止孔6から脱落するのを防止でき、廃材鋼板aが漁礁フレームAより脱落してしまうことをより確実に防止することができる。
【0049】
上述してきたように、本実施形態に係る漁礁Mは、漁礁フレームAに複数枚の廃材鋼板aを挿入して係止するだけで比較的簡単に組立を行うことができる。
【0050】
このようにして形成された漁礁Mは、海底に沈降させて、海洋生物の生育や繁殖の場として機能することとなる。
【0051】
次に、他の実施形態に係る漁礁M2の構成について説明する。他の実施形態に係る漁礁M2は、図5に示すように、漁礁構成体Tを複数連結させた構造を有している。なお、以下の説明では、前述の漁礁Mと同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する場合がある。
【0052】
漁礁構成体Tは、廃材鋼板aの周縁に矩形板状の補助板11を配設して構成した板状体12と、同板状体12の四隅にそれぞれ配設された脚部13とで構成している。以下、漁礁M2の構造について、製造手順を追いながら説明する。
【0053】
図6は漁礁M2に使用する廃材鋼板aの加工方法を示した説明図である。図6(a)に示すように、漁礁M2に使用する廃材鋼板aは、他の用途を目的としてプレス加工(打ち抜き加工)や溶断加工が施されており、既に抜き穴9が形成された状態にある。ここで使用する廃材鋼板aは、長尺の第一側辺14,14と短尺の第二側辺15,15を有する矩形状の廃材となった鋼板を使用する。ここでは、第一側辺14,14の長さは5/3X(例えば、5/3X=200cm)、第二側辺15,15の長さはY(例えば、Y=120cm)、厚さは6mmのものを一例として使用する。
【0054】
次に、図6(b)に示すように、この廃材鋼板aを適当な大きさに切断する。ここでは、図6(a)に破線で示す位置で切断し、第一側辺14,14の長さをX、第二側辺15,15の長さをYとしている。XとYの長さは、同じ長さであっても良く、また異なっていても良いが、漁礁M2を構成するために複数枚の廃材鋼板aを使用することから、これらの廃材鋼板aがいずれも略同じ大きさに整形できる寸法とするのが望ましい。
【0055】
次に、図7(a)に示すように、整形した廃材鋼板aの第一側辺14,14部分に一部重複させた状態で、長さXよりもやや短い長尺辺を有する補助板11(以下、補助板11aという。)を配設する。ここで使用する補助板11aは、長尺辺の長さがX−2d(例えば、d=5〜10cm)、短尺辺の長さが3E(例えば、E=3〜10cm)の寸法を有するものを使用している。
【0056】
補助板11aの廃材鋼板aへの配設は、第一側辺14の中間点(1/2X)と、補助板11aの長尺辺の中間点(1/2(x−2d))とを一致させ(図8参照)、かつ、補助板11aの短尺辺の長さEだけ重ねた状態で配置する。
【0057】
次に、図7(b)に示すように、整形した廃材鋼板aの第二側辺15,15部分に一部重複させた状態で、長さYよりもやや長い長尺辺を有する補助板11(以下、補助板11bという。)を配設する。補助板11bは、長尺辺の長さがY+4E、短尺辺の長さがd+2Eの寸法を有するものを使用している(図8参照)。
【0058】
補助板11bの廃材鋼板aへの配設は、第二側辺15の中間点(1/2Y)と、補助板11aの長尺辺の中間点(1/2(Y+4E))とを一致させ、かつ、補助板11aの短尺辺の長さdだけ重ねた状態で配置する。
【0059】
そして、図8(a)に示すように、それぞれ配置した各補助板11を廃材鋼板aに固定する。補助板11の廃材鋼板aへの固定は、強固に固定可能な方法であれば良いが、好ましくは溶接による固定である。また、各補助板11間もそれぞれ互いに固定する。
【0060】
このようにして、補助板11によるフランジ部16を備えた板状体12が形成される。このフランジ部16は、板状体12の周回りに一様に廃材鋼板aより2Eだけ突出して形成されている。また、上述のように各補助板11を廃材鋼板aに配置することにより、図8(a)に示すように、一部分断された抜き穴9’が存在している辺(ここでは、図中右側の第二側辺15)があっても、十分な強度を有するフランジ部16を構成することができる。本実施形態に係る漁礁M2では、廃材鋼板aを切断することで一部分断された抜き穴9’が形成されたが、もともと一部分断された抜き穴9’が存在する廃材鋼板aを用いて漁礁M2を形成することも可能である。
【0061】
次に、板状体12に脚部13の取付を行う。脚部13は、短尺で正方形状の断面を有する廃材鋼管を使用している。具体的には、高さG及び幅Fが20cm、長さが2Eの廃材鋼管を一例として使用している。
【0062】
脚部13の上面及び下面にはそれぞれ少なくとも2つ以上(本実施形態では2つずつ)のボルト穴17が所定の間隔で形成されている(図7(b)参照。)。また、前述のフランジ部16の四隅にも、脚部13に形成されたボルト穴17と対応する位置にボルト穴18が形成されている。
【0063】
また、図7(b)及び図8に示すように、一つの脚部13の上面に形成されたボルト穴17に対応する、フランジ部16に複数形成されたボルト穴18は、少なくとも1つ以上が補助板11aに形成され、残りの少なくとも1つ以上が補助板11bに形成されている。
【0064】
したがって、対応するボルト穴17とボルト穴18とにボルト20を挿通し、後述の漁礁構成体Tの連結に際しナット21を螺合させることで、脚部13は、板状体12のフランジ部16に補助板11aと補助板11bとに跨った状態で固定されることとなり、フランジ部16の強度をさらに向上させることができる。
【0065】
このようにして板状体12(フランジ部16)の四隅に脚部13をボルト20及びナット21により固定することで、漁礁構成体Tが形成される。
【0066】
次に、形成した漁礁構成体Tを複数連結して漁礁M2を形成する。具体的には、図9に示すように、漁礁構成体Tの各脚部13の下面に形成されているボルト穴17に、他の漁礁構成体Tの上面に突出したボルト20をそれぞれ挿通させ、ナット21で固定する。
【0067】
これを所定回数繰り返すことにより、漁礁M2が形成される。なお、漁礁構成体Tの連結数は特に限定されるものではないが、少なくとも板状体12の各辺のうち、いずれか長い方の辺よりも長くなるように連結するのが良い。また、好ましくは、隣り合う廃材鋼板aは、抜き穴9の形状が異なるようにする。これにより、更に生育環境に多様性を付与することができる。
【0068】
上述したように、本実施形態に係る漁礁M2は、廃材鋼板aにフランジ部16と脚部13とを設けて漁礁構成体Tを形成し、これを複数連結するというシンプルな構造であるため、比較的容易に漁礁M2を構築することができる。
【0069】
このようにして形成した漁礁M2は、前述の漁礁Mと同様、海中に沈降させて海底Pに配置し、海洋生物の生育や繁殖の場として機能することとなる。
【0070】
具体的には、漁礁Mや漁礁M2を単独で海底Pに配置したり、図10に示すように、比較的なだらかな海底Pに群を成して配置する。複数の漁礁Mや漁礁M2を所定間隔(例えば、数十メートル)を開けて群を成して配置した際には、海洋生物を効果的に定着させることができ、育成や繁殖を効率的に行うことができる。なお、図10では、海底Pに漁礁M2を複数配置した状態を代表例として示しているが、漁礁Mのみや、漁礁Mと漁礁M2とを混在させたり、その他の種類の漁礁とともに配置して使用しても良い。
【0071】
海底に配置された漁礁Mや漁礁M2は、図11に示すように、魚23等多くの海洋生物の成育の場となり、海洋環境の改善や海洋資源の保全に寄与することができる。
【0072】
また、漁礁Mや漁礁M2からは、鉄イオンが徐放されるため、海草類の繁茂を助長することができ、稚魚や小型の魚類の格好の隠れ家を提供することができて、海洋資源の枯渇防止に役立てることができる。
【0073】
特に、廃材鋼板aや、鋼材1、漁礁構成体T等を構成する金属素材を、海水により腐食されやすい素材とすることにより、鉄イオンをより多く放出させることができるため、海草類の繁茂をさらに促進させることができる。すなわち、廃材鋼板aや、鋼材1、漁礁構成体T等を構成する金属素材を構成する金属素材は、海中において腐食し易い方が好ましい。このような金属素材としては、鉄を主要な構成成分とする金属を挙げることができ、例えば炭素鋼が好適である。
【0074】
また、本実施形態に係る漁礁Mや漁礁M2は、上述した金属素材によって形成される廃材鋼板aを、所定間隔を保持しながら複数枚重畳した構成としている。
【0075】
したがって、廃材鋼板aや、鋼材1、漁礁構成体T等の各金属材の海水に接触する面積が非常に大きく、海草類が極めて繁茂し易い環境を提供することができる。
【0076】
また、上述の漁礁Mや漁礁M2によれば、廃材鋼板面に向かって流れる海流を減衰させて、漁礁内部を穏やかな環境とすることができ、稚魚や幼魚など遊泳能力が低い海中生物であっても留まりやすい漁礁とすることができる。
【0077】
また、廃材鋼板aを用いて形成していることから、様々な形状の抜き穴9が海洋生物の遊泳空間に存在することとなるため、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができる。
【0078】
上述してきたように、本発明に係る漁礁は、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成したため、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供することができる。
【0079】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0080】
1 鋼材
2 スリット
9 抜き穴
11 補助板
12 板状体
13 脚部
16 フランジ部
A 漁礁フレーム
a 廃材鋼板
M 漁礁
M2 漁礁
T 漁礁構成体
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に沈降させて海中生物の成育の場とする漁礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工的に形成した漁礁(以下、単に「漁礁」という。)としては、材料として金属素材を用いるものが知られている。
【0003】
このような漁礁の一例として、金属製の鋼管を方形状に互い違いに積層して、周側面と上下方向に魚の遊泳空間を形成して漁礁として機能するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
これは、従来の多孔形成のコンクリートブロックを積層したものに比較して、金属腐食はあるものの、藻が漁礁表面に付着しやすく、集魚効果を良好にするという利点がある。
【0005】
他方、コンクリートブロックよりなる漁礁は、表面にアルカリ分のセメント材料が滲出して海草や藻の成長を阻害し、経時的に集魚効果が低下するという欠点がある。
【0006】
また、他の漁礁の例として、金属を含めた各種材料の廃棄物で漁礁を構成するものが知られている(特許文献2参照。)。この特許文献2に記載の漁礁の場合においては、金属廃棄物を破砕細断してバインダーと混合して一定形状に成形硬化するものであり、特に金属特有の鉄イオンの溶出を利用して集魚し、繁殖効率を向上するというものであり、基本的に前出の特許文献1に記載されている漁礁と同様の金属利用漁礁の技術的特徴を使用したものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−140522号公報
【特許文献2】特開平08−131016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの先行文献に記載の金属利用の漁礁においては、金属部材で一定の定型的形状を形成するための作業が煩雑であり、特に漁礁形状が定型的になるため、漁礁の環境に変化をもたらし得ない欠点があると共に、細断金属片をバインダーで固めて任意の形状にするものにあっては、固型化した金属片を漁礁形状に構築するための作業が再度必要になり煩雑性がある。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る本発明では、漁礁において、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成した。
【0011】
また、請求項2に係る本発明では、請求項1に記載の漁礁において、廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したことに特徴を有する。
【0012】
また、請求項3に係る本発明では、請求項2に記載の漁礁において、枠体は、L字鋼の一辺に相当する縁板に廃材鋼板の端縁が嵌入固定されるためのスリットを一定間隔を保持して並列して形成したことに特徴を有する。
【0013】
また、請求項4に係る本発明では、請求項1に記載の漁礁において、前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したことに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によれば、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成したため、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供することができる。
【0015】
また、請求項2に係る本発明によれば、廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したため、スリットが形成された所定の位置に廃材鋼板を容易に配置することができる。
【0016】
また、請求項3に係る本発明によれば、枠体は、L字鋼の一辺に相当する縁板に廃材鋼板の端縁が嵌入固定されるためのスリットを一定間隔を保持して並列して形成したため、比較的容易な構成でありながら、廃材鋼板同士の間隔を確実に保持することができる。
【0017】
また、請求項4に係る本発明によれば、前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したため、比較的容易な構成でありながら、廃材鋼板同士の間隔を確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の漁礁に用いる漁礁フレームと、漁礁フレームに装着する廃材鋼板を示す説明図である。
【図2】漁礁フレームの構成を示す説明図である。
【図3】廃材鋼板を装着した漁礁フレームの端面説明図及び一部拡大図である。
【図4】漁礁フレームに挿入した廃材鋼板の端部の係止方法を示す説明図である。
【図5】他の実施形態に係る漁礁の全体構成を示した説明図である。
【図6】廃材鋼板の加工方法を示した説明図である。
【図7】漁礁構成体の構成を示した説明図である。
【図8】漁礁構成体の構成を示した説明図である。
【図9】漁礁構成体の連結状態を示した説明図である。
【図10】海底に配置した漁礁を示した説明図である。
【図11】海底における漁礁の状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の漁礁Mに用いる漁礁フレームAと、漁礁フレームAに装着する廃材鋼板aを示す説明図であり、図2は漁礁フレームAの構成を示す説明図であり、図3は、廃材鋼板aを装着した漁礁フレームAの端面説明図及び一部拡大図を示すものであり、図4は漁礁フレームAに挿入した廃材鋼板aの端部の係止方法を示す説明図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の漁礁Mは、断面L字状の鋼材1を立方形枠状に組み立てた漁礁フレームAと、漁礁フレームAに縦方向に複数枚一定間隔を保持して重畳した廃材鋼板aとより構成されている。
【0021】
漁礁フレームAは、断面L字状の鋼材1を一個の漁礁Mにつき12本(鋼材1−1〜鋼材1−12)を使用する。
【0022】
具体的には、図2に示すように、鋼材1−1,1−2,1−3,1−4の4本は、立方形状の漁礁Mの長方状の側枠を形成し、その側枠の前開口部3と後開口部4とに、略正方形の各辺となる鋼材1−5,1−6,1−7,1−8及び鋼材1−9,1−10,1−11,1−12を組み立てることにより、12本の鋼材1が四角箱形状の稜線を形作る漁礁フレームAが完成する。なお、図2では、各鋼材1の連結状態の理解を容易とするために、鋼材1−8を透視した状態で二点鎖線で示している。
【0023】
すなわち、側枠を形成する4本の断面L字状の鋼材1−1,1−2,1−3,1−4は、互いにL字状部分が対向する状態で略方形状の四隅に配置され、前開口部3を形成する4本の断面L字状の鋼材1−5,1−6,1−7,1−8のうち、上側の鋼材1−5は、L字部分の一辺が、側枠における鋼材中上側にて左右に配置された鋼材1−1,1−2のL字部分の一辺に重複して連設させるとともに、下側の鋼材1−6は、L字部分の一辺が側枠における鋼材中下側にて左右に配置されたの鋼材1−3,1−4のL字部分の一辺に重複して連設させている。
【0024】
また、前開口部3から後開口部4を臨む視点で左側に配置された鋼材1−7は、L字部分の一辺が側枠における鋼材中、左側にて上下に配置された鋼材1−1,1−3のL字状部分の一辺に重複して連設させるとともに、右側に配置された鋼材1−8は、L字部分の一辺が、側枠における鋼材中右側にて上下に配置された鋼材1−2,1−4のL字状部分の一辺に重複して連設させている。
【0025】
同様に、後開口部を形成する4本の断面L字状の鋼材1−9,1−10,1−11,1−12にも、側枠を構成する各鋼材1−1,1−2,1−3,1−4をL字状の一辺同士を重複して連設する。これら各鋼材1は、ボルト等の連結部材や、溶接等によって連設した状態で固定される。
【0026】
このようにして形成することにより、漁礁Mの主骨格たる漁礁フレームAが構築される。
【0027】
しかも、漁礁Mの前開口部3と後開口部4とにそれぞれ配設された上下側の鋼材1−5,1−6及び鋼材1−9,1−10は、一定間隔で鋼材端縁を切欠することにより形成されたスリット2がぞれぞれ多数備えられている。
【0028】
このスリット2は、上下側の鋼材1−5,1−6及び鋼材1−9,1−10では互いに対向した位置にあり、しかも、スリットの幅員は少なくとも後述する廃材鋼板aの厚みよりやや大きく形成している。なお、本実施形態では、スリット2の深さJは、約5cmとしている。
【0029】
次に、漁礁フレームAのスリット2に嵌着して該漁礁フレームAに組立装着する廃材鋼板aについて述べる。
【0030】
図1にも示したように、廃材鋼板aは、大きさが漁礁フレームAの前開口部3及び後開口部4の上下高さより少なくとも小さい縦の長さとしており、横の長さは漁礁フレームA前後長さよりも少なくとも大きな長さとしている。
【0031】
しかも、廃材鋼板aは、メタル板が抜去された後の穴(以下、「抜き穴9」という。)を有する廃材としている。すなわち、元々の状態は方形鋼板であるが、プレス加工(打ち抜き加工)や溶断加工が行われてメタル板が取り去られたことで、各種形状の抜き穴9が多数形成された鋼板を廃材鋼板aとして用いることとしている。
【0032】
この廃材鋼板aの厚みは、打抜き加工前の方形鋼板の状態で、打ち抜き加工が可能な厚みとしている。特に、本実施形態における廃材鋼板aは、3〜10mm程度の厚みのものを使用している。
【0033】
廃材鋼板aに形成された抜き穴9の形状は、特に限定されるものではない。したがって、それぞれ異なった目的の為に、異なる形状でプレス加工(打ち抜き加工)や溶断加工が行われた廃材であっても、廃材鋼板aとして使用することができる。このような抜き穴9を備えた廃材鋼板aを用いることで、漁礁Mに定着した海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができる。より好ましくは、隣り合う廃材鋼板aは、抜き穴9の形状が異なるようにする。これにより、更に生育環境に多様性を付与することができる。
【0034】
ところで、漁礁フレームAには、この廃材鋼板aが複数枚挿入配置されるのであるが、それぞれの廃材鋼板aの抜き穴9の大きさをある程度揃えることで、集魚したい魚を選択することもできる。
【0035】
すなわち、稚魚の育成を目的として漁礁Mを形成するのであれば、漁礁フレームAに挿入する廃材鋼板aの抜き穴9の大きさを、稚魚は通過可能で成魚は通過困難な大きさに揃えることで、稚魚を成魚による捕食から守ることができ、主に稚魚が集まる漁礁Mとすることができる。
【0036】
そして、漁礁Mを形成するに際しては、図1に示すように、廃材鋼板aを漁礁フレームA内に前開口部3から後開口部4へ向けて挿入し、配置する。
【0037】
この際、廃材鋼板aは、鋼材1−5,1−6,1−9,1−10に形成された、それぞれ対向するスリット2に端縁を嵌入させて挿入することで、漁礁フレームA内に複数挿入された廃材鋼板aが一定間隔に互いに重畳した状態で配置される(図3参照。)。このように、廃材鋼板aは、スリット2に沿って挿入するため、廃材鋼板aを所定の位置に所定の間隔で容易に配置することができる。また、廃材鋼板aの端縁が嵌入固定されるためのスリット2を一定間隔を保持して並列して形成したため、比較的容易な構成でありながら、廃材鋼板a同士の間隔を確実に保持することができる。なお、図3は、前開口部3側から見た漁礁Mを示している。
【0038】
また、各鋼材1−5,1−6,1−9,1−10に形成する複数のスリット2の形成間隔は、A−A断面図に示すように、各廃材鋼板a同士が一定の間隔Kを保つ間隔としている。この間隔Kの長さは、集魚したい魚に合わせて適宜調整することが可能であり、例えば、5cm〜20cmとすることができる。
【0039】
間隔Kをこのような長さとすることにより、漁礁Mに稚魚や小型の魚を集めることができるとともに、これらの比較的小さな魚が大型の魚に捕食されてしまうことを防止することができる。換言すれば、稚魚や幼魚の育成を目的とした漁礁Mとすることができる。
【0040】
また、図3のA−A断面図及びB−B断面図にも示すように、各廃材鋼板aの端部は、スリット2が形成された鋼材1−5,1−6,1−9,1−10よりも外方に突出させた状態で配設している。なお、以下の説明において、この廃材鋼板aの突出した部分を突出部5という。
【0041】
このように、各廃材鋼板aを、鋼材1−5,1−6,1−9,1−10よりも外方に突出させているため、漁礁Mを海中に沈降配置した際に、廃材鋼板aが潮流を受けた場合であっても、廃材鋼板aが漁礁フレームAから脱落してしまうことを防止することができる。
【0042】
なお、鋼材1−5,1−6,1−9,1−10よりも外方に突出させた突出部5の長さLは、特に限定されるものではないが、脱落を防止するためには、例えば、5〜10cm程度とするのが望ましい。
【0043】
また、それぞれの廃材鋼板aの突出部5には、同突出部5の上端部近傍に形成された上部係止孔6aと、下端部近傍に形成された下部係止孔6bとが穿設されている。これらの上部係止孔6a及び下部係止孔6bは、後述のワイヤ7と組み合わせて抜け止め構造を構成するものである。抜け止め構造は、廃材鋼板aの漁礁フレームAからの脱落を防止するためのものである。なお、以下の説明において、上部係止孔6a及び下部係止孔6bとを総称して係止孔6ともいう。
【0044】
具体的には、上部係止孔6aは、図3のB−B断面図にも示すように、廃材鋼板aの突出部5の上辺位置から、スリット2が形成された鋼材1−5の端縁の下端位置までの範囲内に穿設されている。また、下部係止孔6bは、突出部5の下辺位置から、鋼材1−6の端縁の上端位置までの範囲内に穿設されている。
【0045】
同様に、後開口部4側に突出した各廃材鋼板aの突出部5にも、上部係止孔6a及び下部係止孔6bが形成されている。
【0046】
そして、図4に示すように、各廃材鋼板aに穿設された係止孔6にワイヤ7を挿通することにより、抜け止め構造を形成している。なお、図4において、前開口部3の各上部係止孔6aは、既に抜け止め構造が形成された後の状態を示しており、各下部係止孔6bは、ワイヤ7を挿通している途中の状態を示している。
【0047】
また、前開口部3の上部係止孔6aに挿通されたワイヤ7を見ると分かるように、その挿通されたワイヤ7端部は、結び目などにより係止孔6の径よりも太径とした係止部8を形成している。
【0048】
これにより、ワイヤ7もまた、係止孔6から脱落するのを防止でき、廃材鋼板aが漁礁フレームAより脱落してしまうことをより確実に防止することができる。
【0049】
上述してきたように、本実施形態に係る漁礁Mは、漁礁フレームAに複数枚の廃材鋼板aを挿入して係止するだけで比較的簡単に組立を行うことができる。
【0050】
このようにして形成された漁礁Mは、海底に沈降させて、海洋生物の生育や繁殖の場として機能することとなる。
【0051】
次に、他の実施形態に係る漁礁M2の構成について説明する。他の実施形態に係る漁礁M2は、図5に示すように、漁礁構成体Tを複数連結させた構造を有している。なお、以下の説明では、前述の漁礁Mと同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する場合がある。
【0052】
漁礁構成体Tは、廃材鋼板aの周縁に矩形板状の補助板11を配設して構成した板状体12と、同板状体12の四隅にそれぞれ配設された脚部13とで構成している。以下、漁礁M2の構造について、製造手順を追いながら説明する。
【0053】
図6は漁礁M2に使用する廃材鋼板aの加工方法を示した説明図である。図6(a)に示すように、漁礁M2に使用する廃材鋼板aは、他の用途を目的としてプレス加工(打ち抜き加工)や溶断加工が施されており、既に抜き穴9が形成された状態にある。ここで使用する廃材鋼板aは、長尺の第一側辺14,14と短尺の第二側辺15,15を有する矩形状の廃材となった鋼板を使用する。ここでは、第一側辺14,14の長さは5/3X(例えば、5/3X=200cm)、第二側辺15,15の長さはY(例えば、Y=120cm)、厚さは6mmのものを一例として使用する。
【0054】
次に、図6(b)に示すように、この廃材鋼板aを適当な大きさに切断する。ここでは、図6(a)に破線で示す位置で切断し、第一側辺14,14の長さをX、第二側辺15,15の長さをYとしている。XとYの長さは、同じ長さであっても良く、また異なっていても良いが、漁礁M2を構成するために複数枚の廃材鋼板aを使用することから、これらの廃材鋼板aがいずれも略同じ大きさに整形できる寸法とするのが望ましい。
【0055】
次に、図7(a)に示すように、整形した廃材鋼板aの第一側辺14,14部分に一部重複させた状態で、長さXよりもやや短い長尺辺を有する補助板11(以下、補助板11aという。)を配設する。ここで使用する補助板11aは、長尺辺の長さがX−2d(例えば、d=5〜10cm)、短尺辺の長さが3E(例えば、E=3〜10cm)の寸法を有するものを使用している。
【0056】
補助板11aの廃材鋼板aへの配設は、第一側辺14の中間点(1/2X)と、補助板11aの長尺辺の中間点(1/2(x−2d))とを一致させ(図8参照)、かつ、補助板11aの短尺辺の長さEだけ重ねた状態で配置する。
【0057】
次に、図7(b)に示すように、整形した廃材鋼板aの第二側辺15,15部分に一部重複させた状態で、長さYよりもやや長い長尺辺を有する補助板11(以下、補助板11bという。)を配設する。補助板11bは、長尺辺の長さがY+4E、短尺辺の長さがd+2Eの寸法を有するものを使用している(図8参照)。
【0058】
補助板11bの廃材鋼板aへの配設は、第二側辺15の中間点(1/2Y)と、補助板11aの長尺辺の中間点(1/2(Y+4E))とを一致させ、かつ、補助板11aの短尺辺の長さdだけ重ねた状態で配置する。
【0059】
そして、図8(a)に示すように、それぞれ配置した各補助板11を廃材鋼板aに固定する。補助板11の廃材鋼板aへの固定は、強固に固定可能な方法であれば良いが、好ましくは溶接による固定である。また、各補助板11間もそれぞれ互いに固定する。
【0060】
このようにして、補助板11によるフランジ部16を備えた板状体12が形成される。このフランジ部16は、板状体12の周回りに一様に廃材鋼板aより2Eだけ突出して形成されている。また、上述のように各補助板11を廃材鋼板aに配置することにより、図8(a)に示すように、一部分断された抜き穴9’が存在している辺(ここでは、図中右側の第二側辺15)があっても、十分な強度を有するフランジ部16を構成することができる。本実施形態に係る漁礁M2では、廃材鋼板aを切断することで一部分断された抜き穴9’が形成されたが、もともと一部分断された抜き穴9’が存在する廃材鋼板aを用いて漁礁M2を形成することも可能である。
【0061】
次に、板状体12に脚部13の取付を行う。脚部13は、短尺で正方形状の断面を有する廃材鋼管を使用している。具体的には、高さG及び幅Fが20cm、長さが2Eの廃材鋼管を一例として使用している。
【0062】
脚部13の上面及び下面にはそれぞれ少なくとも2つ以上(本実施形態では2つずつ)のボルト穴17が所定の間隔で形成されている(図7(b)参照。)。また、前述のフランジ部16の四隅にも、脚部13に形成されたボルト穴17と対応する位置にボルト穴18が形成されている。
【0063】
また、図7(b)及び図8に示すように、一つの脚部13の上面に形成されたボルト穴17に対応する、フランジ部16に複数形成されたボルト穴18は、少なくとも1つ以上が補助板11aに形成され、残りの少なくとも1つ以上が補助板11bに形成されている。
【0064】
したがって、対応するボルト穴17とボルト穴18とにボルト20を挿通し、後述の漁礁構成体Tの連結に際しナット21を螺合させることで、脚部13は、板状体12のフランジ部16に補助板11aと補助板11bとに跨った状態で固定されることとなり、フランジ部16の強度をさらに向上させることができる。
【0065】
このようにして板状体12(フランジ部16)の四隅に脚部13をボルト20及びナット21により固定することで、漁礁構成体Tが形成される。
【0066】
次に、形成した漁礁構成体Tを複数連結して漁礁M2を形成する。具体的には、図9に示すように、漁礁構成体Tの各脚部13の下面に形成されているボルト穴17に、他の漁礁構成体Tの上面に突出したボルト20をそれぞれ挿通させ、ナット21で固定する。
【0067】
これを所定回数繰り返すことにより、漁礁M2が形成される。なお、漁礁構成体Tの連結数は特に限定されるものではないが、少なくとも板状体12の各辺のうち、いずれか長い方の辺よりも長くなるように連結するのが良い。また、好ましくは、隣り合う廃材鋼板aは、抜き穴9の形状が異なるようにする。これにより、更に生育環境に多様性を付与することができる。
【0068】
上述したように、本実施形態に係る漁礁M2は、廃材鋼板aにフランジ部16と脚部13とを設けて漁礁構成体Tを形成し、これを複数連結するというシンプルな構造であるため、比較的容易に漁礁M2を構築することができる。
【0069】
このようにして形成した漁礁M2は、前述の漁礁Mと同様、海中に沈降させて海底Pに配置し、海洋生物の生育や繁殖の場として機能することとなる。
【0070】
具体的には、漁礁Mや漁礁M2を単独で海底Pに配置したり、図10に示すように、比較的なだらかな海底Pに群を成して配置する。複数の漁礁Mや漁礁M2を所定間隔(例えば、数十メートル)を開けて群を成して配置した際には、海洋生物を効果的に定着させることができ、育成や繁殖を効率的に行うことができる。なお、図10では、海底Pに漁礁M2を複数配置した状態を代表例として示しているが、漁礁Mのみや、漁礁Mと漁礁M2とを混在させたり、その他の種類の漁礁とともに配置して使用しても良い。
【0071】
海底に配置された漁礁Mや漁礁M2は、図11に示すように、魚23等多くの海洋生物の成育の場となり、海洋環境の改善や海洋資源の保全に寄与することができる。
【0072】
また、漁礁Mや漁礁M2からは、鉄イオンが徐放されるため、海草類の繁茂を助長することができ、稚魚や小型の魚類の格好の隠れ家を提供することができて、海洋資源の枯渇防止に役立てることができる。
【0073】
特に、廃材鋼板aや、鋼材1、漁礁構成体T等を構成する金属素材を、海水により腐食されやすい素材とすることにより、鉄イオンをより多く放出させることができるため、海草類の繁茂をさらに促進させることができる。すなわち、廃材鋼板aや、鋼材1、漁礁構成体T等を構成する金属素材を構成する金属素材は、海中において腐食し易い方が好ましい。このような金属素材としては、鉄を主要な構成成分とする金属を挙げることができ、例えば炭素鋼が好適である。
【0074】
また、本実施形態に係る漁礁Mや漁礁M2は、上述した金属素材によって形成される廃材鋼板aを、所定間隔を保持しながら複数枚重畳した構成としている。
【0075】
したがって、廃材鋼板aや、鋼材1、漁礁構成体T等の各金属材の海水に接触する面積が非常に大きく、海草類が極めて繁茂し易い環境を提供することができる。
【0076】
また、上述の漁礁Mや漁礁M2によれば、廃材鋼板面に向かって流れる海流を減衰させて、漁礁内部を穏やかな環境とすることができ、稚魚や幼魚など遊泳能力が低い海中生物であっても留まりやすい漁礁とすることができる。
【0077】
また、廃材鋼板aを用いて形成していることから、様々な形状の抜き穴9が海洋生物の遊泳空間に存在することとなるため、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができる。
【0078】
上述してきたように、本発明に係る漁礁は、他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成したため、海中生物の成育環境に多様性をもたらすことができ、しかも、比較的容易に構築することのできる漁礁を提供することができる。
【0079】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0080】
1 鋼材
2 スリット
9 抜き穴
11 補助板
12 板状体
13 脚部
16 フランジ部
A 漁礁フレーム
a 廃材鋼板
M 漁礁
M2 漁礁
T 漁礁構成体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成した漁礁。
【請求項2】
廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したことを特徴とする請求項1に記載の漁礁。
【請求項3】
枠体は、L字鋼の一辺に相当する縁板に廃材鋼板の端縁が嵌入固定されるためのスリットを一定間隔を保持して並列して形成したことを特徴とする請求項2に記載の漁礁。
【請求項4】
前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の漁礁。
【請求項1】
他用途に用いるために方形鋼板にプレス加工又は溶断加工を施して一定の所定形状のメタル板を抜去し、その後の廃材鋼板を所定枚数一定の間隔を保持して互いに重畳させて構成した漁礁。
【請求項2】
廃材鋼板を一定間隔に互いに重畳させるために枠体のスリットに廃材鋼板の端縁を嵌入したことを特徴とする請求項1に記載の漁礁。
【請求項3】
枠体は、L字鋼の一辺に相当する縁板に廃材鋼板の端縁が嵌入固定されるためのスリットを一定間隔を保持して並列して形成したことを特徴とする請求項2に記載の漁礁。
【請求項4】
前記廃材鋼板の周縁に補助板を配設してフランジ部を形成するとともに、同フランジ部に脚部を配設して漁礁構成体を構成し、この漁礁構成体を複数連結することにより、前記脚部で前記廃材鋼板の間隔を保持しながら互いに重畳させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の漁礁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−161277(P2012−161277A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23927(P2011−23927)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(511033737)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(511033737)
【Fターム(参考)】
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