説明

漁船

【課題】NGHを燃料として使用し、且つNGHの分解によって得られる水を有効活用することが可能な漁船を提供する。
【解決手段】漁船10は、NGHタンク11と、NGHタンク11より供給されるNGHを燃料ガスと水に分解するNGH分解装置12と、NGH分解装置12で生成された燃料ガスによって駆動される主機関としてのガスエンジン14と、NGH分解装置12で生成されたNGH分解水を冷媒として用いる冷蔵船庫18と、冷蔵船庫18を通過したNGH分解水を船内の生活用水として貯水するための貯水タンク22とを備えている。NGH分解装置12で副次的に生成されたNGH分解水は、バッファタンク17を介して船庫18に供給され、船庫18内を冷却する冷却水として用いられる。NGH分解水は十分に冷たいため、船庫18内の温度を低温に保つことができ、船庫18内に保蔵される魚体の鮮度を保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁船に関し、特に、天然ガスハイドレート(NGH:Natural Gas Hydrate)を燃料として使用する漁船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大型漁船の主機関には船内設置のディーゼル機関が採用されており、その燃料には重油が使用されている。また、小型漁船の場合にはガソリン機関が採用されているものもある。しかし、いずれの漁船も、航行中はCO、NOx、SOxといった大気汚染物質が排出されるため、それを抑制するための制御や設備投資(低速運行、高効率機関や低排ガスエンジンの採用等)が必要となる。そこで、地球環境への配慮から燃料として天然ガスエネルギーが注目されている。
【0003】
天然ガスエネルギーとしては、液化天然ガス(LNG)がよく知られているが、LNGは−162℃の極低温下で製造・貯蔵されるため、取り扱いが非常に難しいという問題を有している。また、タンクの温度上昇によりLNGが少しずつ蒸発してボイルオフガスが多量に発生するという問題がある。特に、漁船が2〜3日動かないような場合には、タンク内部の圧力が非常に高くなるため、ボイラーで燃焼するなどしてボイルオフガスを取り除く必要があり、燃料を必要外に消費することによりコストが増加するという問題がある。
【0004】
そのため、最近は、新たな天然ガスエネルギーとしてNGHが注目されている(非特許文献1参照)。NGHは、メタン、エタン、プロパンなどを主成分とする天然ガスの分子(ゲスト)が水分子のクラスタ中に取り込まれた包接水和物であり、−20℃の大気圧環境下で約170倍のガスを包蔵することができるため、製造、輸送、貯蔵、ガス化というシステム全体面でLNGよりも有利な点が多い。また、NGHはガソリンなどに比べて二酸化炭素や大気汚染物質の排出量が少ないことから、クリーンエネルギーとしても注目されている。
【非特許文献1】三井造船株式会社、"天然ガスハイドレート(NGH)−三井造船"、[online]、[平成18年11月21日検索]、インターネット<URL:http://www.mes.co.jp/mes_technology/ngh.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
漁船の燃料として上述のNGHを採用する場合、NGHが−20℃という比較的制御しやすい温度環境下で貯蔵・保管されることから、LNGのような問題はなく、燃料の取り扱いが比較的容易である。さらに、衝突等によりNGHが海上に流出したとしても、NGHが燃料ガスと水に分解するだけであるため、環境への影響はほとんどない。
【0006】
しかし、NGHの分解によって天然ガスのほか、多量の水が副次的に生成される。水の生成率はNGHに対する体積比で約80%であることから、かなり多量の水が生成されることになる。燃料は主として漁船の航行中に消費され、燃料の消費に伴ってそのような多量の水が生成されるため、漁船においてこの水を有効活用する新たな工夫が望まれている。
【0007】
また、多くの漁船は漁獲物を保蔵するための船庫を備えており、漁場で捕獲された魚体は船庫内に保蔵され、帰港時には水揚げされて市場へ出荷される。しかし、例えば5トン以下の沿岸漁業用の小型漁船の場合、冷蔵・冷凍機能のない単なる保冷構造の船庫が多く採用されており、船庫内にたくさんの製氷を詰め込んで低温を維持しなければならないという問題がある。また、大型船舶の場合、大型で高性能な冷蔵船庫が採用されているため、そのための広い設置空間が必要であり、冷蔵船庫を駆動するための独立した発電機構やそのための燃料が必要になるという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、NGHを燃料として使用し、且つNGHの分解によって得られる水を有効活用することが可能な漁船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、NGHが貯蔵されたNGHタンクと、前記NGHタンクより供給されるNGHを分解して燃料ガスとNGH分解水を生成するNGH分解装置と、前記燃料ガスによって駆動される主機関と、船内に設けられた船庫と、前記NGH分解水を用いて前記船庫内を冷却する冷却機構とを備えることを特徴とする漁船によって達成される。
【0010】
本発明によれば、簡易な構成でありながら十分に実用的な冷蔵船庫を実現することができ、魚体の鮮度を十分に保つことができる。また、本実施形態によれば、航行中において随時生成されるNGH分解水を冷蔵船庫の冷却水として使用することから、NGHの副生成物である水を有効活用することができる。
【0011】
本発明においては、前記冷却機構は、前記船庫の周囲又は内部に設けられた配管であり、前記NGH分解水が前記配管内を流れることが好ましい。これによれば、船庫の冷却機構を簡易な構成により実現することができる。
【0012】
本発明においては、前記船庫において前記冷却水として使用された前記NGH分解水を貯水する貯水タンクとを備え、前記貯水タンク内の前記NGH分解水を生活用水として供給することが好ましい。これによれば、NGHの副生成物である水をさらに有効活用することができる。特に、生活用水のための大型の貯水タンクが不要であるのはもちろんのこと、多量の真水をいろいろな場面で使用することが可能となり、船内での生活面の向上を図ることができるだけでなく、いままで海水を使用していた船内設備を真水の使用に変えることでその寿命向上を図ることができる。
【0013】
本発明の漁船は、前記船庫内を冷却する電気式冷却機構をさらに備えることが好ましい。これによれば、NGH分解水による冷熱を有効活用しながら、冷却能力のさらなる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、NGHを燃料として使用し、且つNGHの分解によって得られる水を有効活用した漁船を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る漁船の構成を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、この漁船10は、NGHが貯蔵されたNGHタンク11と、NGHタンク11より供給されるNGHを燃料ガスと水に分解するNGH分解装置12と、NGH分解装置12で生成された燃料ガスを一時的に蓄えるバッファタンク13と、燃料ガスによって駆動される主機関としてのガスエンジン14と、ガスエンジン14の動力によって回転するスクリュー15と、船内のガス設備16とを備えている。漁船10はまた、NGH分解装置12で生成された水(以下、NGH分解水という)を一時的に蓄えるバッファタンク17と、NGH分解水を冷媒として用いる冷蔵船庫18と、ガスエンジン14の一次冷却水を海水との熱交換により冷却するための熱交換器20と、冷蔵船庫18を通過したNGH分解水を船内の生活用水として貯水するための貯水タンク22とを備えている。
【0018】
図2は、NGH分解装置12の構成を示す模式図である。
【0019】
図2に示すように、NGH分解装置12は、NGHタンク11から供給されるペレット状のNGH(NGHペレット)100を分解するためのNGH分解槽101と、NGH分解用の温水をNGH分解槽101内のNGHペレット100の上方から噴霧するノズル102とを備えている。NGH分解用の温水としては、特に限定されるものではないが、温水器で加熱されたNGH分解水を循環して使用してもよく、海水との熱交換によって温度上昇したNGH分解水を用いてもよい。また、後述のガスエンジン14との間の熱交換によって温度上昇したNGH分解水を用いてもよい。NGHペレット100に温水を噴霧することにより、NGHペレット100は溶解し、燃料ガスと水が生成される。このとき得られる水は冷水であり、水温は−5〜10℃と常温よりも十分に低い。NGH分解槽101の内部にはネット103が設けられており、このネット103によりNGH分解槽101内のNGHペレット100とNGH分解水104とが上下に分離される。NGH分解槽101内で発生した燃料ガスはNGH分解槽101の上方に設けられたガス排出口101aから取り出され、NGH分解槽101内で発生した水104はNGH分解槽101の下方に設けられた排水口101bから取り出される。
【0020】
NGH分解装置12で生成された燃料ガスは、図1に示すように、バッファタンク13を介してガスエンジン14に供給され、ガスエンジン14の駆動燃料として使用される他、ガスキッチン等の漁船内のガス設備16にも供給される。
【0021】
一方、NGH分解装置12で副次的に生成されたNGH分解水は、バッファタンク17を介して冷蔵船庫18に供給され、冷蔵船庫18内を冷却する冷却水として用いられる。NGH分解水は十分に冷たいため、冷蔵船庫18内の温度を低温に保つことができ、冷蔵船庫18内に保蔵される魚体の鮮度を保つことができる。特に、燃料を消費する漁船の航行中、つまり漁業中においてNGH分解水が多量に生成されることから、このNGH分解水を冷蔵船庫の冷却水として利用することにより、NGH分解水の有効活用を図ることができ、簡易な構成でありながら十分に実用的な冷蔵船庫を実現することができる。
【0022】
冷蔵船庫18を通過したNGH分解水は、生活用水として貯水タンク22に蓄えられる。この貯水タンク22は、航行中に必要な全ての生活用水を蓄えておく従来の貯水タンクほど大型である必要はなく、その大きさはNGH分解装置12からのNGH分解水の供給量と消費量とを比較して決定すればよい。その後、貯水タンク22内の水は生活用水として適宜取り出される。具体的には、浄水器23を介して飲料水として供給され、或いは、トイレ、風呂、洗濯、船内の清掃等に使用される。
【0023】
図3は、冷蔵船庫が設けられた船体底部の外観構成の一例を示す模式図である。
【0024】
図3に示すように、船体30の中央部には船室31が設けられており、船室31よりも船首寄りの船内には冷蔵船庫18が設けられている。冷蔵船庫18は、デッキ32上に取出口18aを有しており、魚体はここから出し入れされる。NGH分解装置12によって生成された燃料ガスはガスエンジン14に供給され、これと同時に生成されたNGH分解水は冷蔵船庫18の底部を蛇行する配管18bを通って貯水タンク22に送られる。なお、配管18bは底部のみならず側部に設けられてもよく、冷蔵船庫18の内部に設けられてもよい。また、配管18bの本数も特に限定されない。これにより、冷蔵船庫18は冷やされ、冷蔵船庫18内の魚体の鮮度が保たれる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、NGH分解装置12より得られる燃料ガスをガスエンジン14の燃料とし、NGH分解装置12より得られるNGH分解水を冷蔵船庫の冷却水として使用することから、簡易な構成でありながら十分に実用的な冷蔵船庫を実現することができ、魚体の鮮度を十分に保つことができる。また、本実施形態によれば、航行中において随時生成されるNGH分解水を冷蔵船庫の冷却水として使用することから、NGHの副生成物である水を有効活用することができる。さらに、本実施形態おいては、冷蔵船庫の冷却水として使用した後のNGH分解水を漁船内の生活用水として使用することから、大型の貯水タンクが不要であるのはもちろんのこと、多量の真水をいろいろな場面で使用することが可能となり、船内での生活面の向上を図ることができるだけでなく、例えばトイレの洗浄水のような、いままで海水を使用していた船内設備を真水の使用に変えることで船内設備の寿命向上を図ることができる。
【0026】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る漁船の構成を示す模式図である。
【0027】
図4に示すように、この漁船40の特徴は、冷蔵船庫18が、NGH分解水によって冷却するNGH冷却機構と、発電機19からの電力によって冷却される電気式冷却機構の両方を備えている点にある。その他の構成については、第1の実施形態と略同様であるため、詳細な説明を省略する。以上の構成を有する漁船40においては、通常、NGH分解水を用いて冷蔵船庫18内を冷却する。そして、NGH分解水が不足した場合やNGH分解水と併用してさらに庫内を低温にしたい場合に、電気式冷却機構を稼働させる。或いは、通常はNGH冷却機構と電気式冷却機構を併用し、必要に応じて電気式冷却機構を停止してもよい。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、冷蔵船庫においてNGH冷却機構と電気式冷却機構を併用することから、冷蔵船庫の冷却能力の向上を図ることができ、両者を適切なタイミングで使用することで、冷却効率の向上、燃料の節約を図ることができる。
【0029】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、これらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0030】
例えば、上記実施形態においては、漁船の主機関としてガスエンジン14を用いているが、ガスタービンを使用することも可能である。ガスタービンにおいても、そのニ次冷却水としてNGH分解水や海水を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る漁船の構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図2は、NGH分解装置12の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、冷蔵船庫が設けられた船体底部の外観構成の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態に係る漁船の構成を概略的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0032】
10 漁船
11 NGHタンク
12 NGH分解装置
13 バッファタンク
14 ガスエンジン
15 スクリュー
16 ガス設備
17 バッファタンク
18 冷蔵船庫
18a 取出口
18b 配管
19 発電機
20 熱交換器
22 貯水タンク
23 浄水器
30 船体
31 船室
32 デッキ
40 漁船
100 NGHペレット
101a ガス排出口
101b 排水口
101 NGH分解槽
102 ノズル
103 ネット
104 NGH分解水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NGHが貯蔵されたNGHタンクと、
前記NGHタンクより供給されるNGHを分解して燃料ガスとNGH分解水を生成するNGH分解装置と、
前記燃料ガスによって駆動される主機関と、
船内に設けられた船庫と、
前記NGH分解水を用いて前記船庫内を冷却する冷却機構とを備えることを特徴とする漁船。
【請求項2】
前記冷却機構は、前記船庫の周囲又は内部に設けられた配管であり、前記NGH分解水が前記配管内を流れることを特徴とする請求項1に記載の漁船。
【請求項3】
前記船庫において前記冷却水として使用された前記NGH分解水を貯水する貯水タンクとを備え、前記貯水タンク内の前記NGH分解水を生活用水として供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の漁船。
【請求項4】
前記船庫内を冷却する電気式冷却機構をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の漁船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−126828(P2008−126828A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313940(P2006−313940)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(595095629)中電環境テクノス株式会社 (44)