説明

漂砂流動解析システム及び漂砂流動解析方法

【課題】 サンプル砂の散布場所に制限がなく、簡易且つ正確に漂砂流動解析を行える漂砂流動解析システム及び漂砂流動解析方法を提供する。
【解決手段】 海、河または池等における所定地点の水中に人工砂を散布し、散布された人工砂の流動範囲を所定面積毎に区分したメッシュ毎に水底から人工砂を含む土砂を採取し、採取した土砂の中から人工砂を回収する。回収した人工砂は、リーダにより識別情報が読み出され、読み出された識別情報は解析装置に送られ、解析装置34で漂砂の流れの方向、流速、滞留時間等の流動解析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海、河または池等の水中における漂砂の流動を解析するための漂砂流動解析システム及び漂砂流動解析方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
海、河または池等の水中の砂の動き即ち漂砂に関するデータは、護岸や防波堤等の構造物の計画、設計及び施工等の基礎資料としてきわめて重要である。このため従来では、調査海域の砂を採取し、この砂に蛍光塗料を塗布して蛍光サンプル砂とし、この蛍光サンプル砂を移動基点としたい定点に定量散布し、定点周辺にメッシュ状に設けた調査点において時間経過とともに蛍光サンプル砂を回収して計数し、移動基点からの砂の移動状況について解析を行う方法が採用されていた。
【0003】
また、下記特許文献1には、複数の地点から採取したサンプル砂にX線を照射し、サンプル砂を構成する元素の中から選定した5元素に対してそれぞれの元素毎に発生する固有の測定量を測定し、この測定量をそれぞれの採取地点間で相互に比較して砂の移動方向を判定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平7−286869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術においては、海浜の無い港湾等でサンプル砂を確保することが困難であり、また海浜があってもサンプル砂の確保に時間がかかるという問題があった。
【0005】
また、蛍光サンプル砂に使用できる色の数は通常5〜6色であり、散布できる地点の数を多くできない上、複数回散布する場合に、各回の散布毎の蛍光サンプル砂を区別することが困難であり、回収した蛍光サンプル砂の計数も不正確になるという問題もあった。
【0006】
さらに、サンプル砂にX線を照射する作業は現在制限されており、簡易な漂砂流動解析ができないという問題もある。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、サンプル砂の散布場所に制限がなく、簡易且つ正確に漂砂流動解析を行える漂砂流動解析システム及び漂砂流動解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、漂砂流動解析システムであって、所定の識別情報を発生する識別情報発生手段を含み、海、河または池等の水中に散布される人工砂と、海、河または池等の水底から採取され、前記人工砂が含まれる土砂の中から前記人工砂を選別し回収する回収手段と、前記回収された人工砂に含まれる識別情報発生手段が発生する識別情報を検出する識別情報検出手段と、前記検出された識別情報に基づいて、漂砂の移動方向を解析する解析手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
ここで、上記識別情報発生手段が発生する識別情報には、人工砂の散布日時、散布場所及び固体識別番号を含むのが好適である。また、上記識別情報発生手段はICタグにより構成されているのが好適である。
【0010】
また、上記人工砂は、散布場所の水底に存在する自然砂と同程度の大きさ及び重量であるのが好適である。
【0011】
また、上記解析手段は、漂砂の流動範囲を所定の面積に区分したメッシュ毎に回収された人工砂の散布日時、散布場所及び固体識別番号に基づいて漂砂の移動方向を解析するのが好適である。
【0012】
また、本発明は、漂砂流動解析方法であって、所定の識別情報を発生する識別情報発生手段を含む人工砂を、海、河または池等の水中に散布し、海、河または池等の水底から採取され、前記人工砂が含まれる土砂の中から前記人工砂を選別して回収し、前記回収された人工砂に含まれる識別情報発生手段が発生する識別情報を検出し、前記検出された識別情報に基づいて、漂砂の移動方向を解析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サンプル砂として所定の識別情報を発生する識別情報発生手段を含む人工砂を使用することにより、サンプル砂の散布場所に制限がなく、簡易且つ正確に漂砂流動解析を行える漂砂流動解析システム及び漂砂流動解析方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0015】
図1には、本発明にかかる漂砂流動解析システムに使用される人工砂の構成図が示される。図1において、人工砂10は、所定の識別情報を発生する識別情報発生装置12を含んでいる。この識別情報発生装置12としては、例えばICタグ(RFID)等を使用することができる。ICタグは識別情報を記憶しており、外部の適宜な通信装置(リーダ)と通信を行って、該通信装置に上記識別情報を送信する。これにより、適宜なリーダにより、簡易に識別情報を読み出すことができる。上記識別情報としては、例えば人工砂10を海、河または池等における所定地点の水中に散布した日時である散布日時、上記人工砂10の散布場所を表すグループ番号及び各人工砂10の固体識別番号等の情報を含む。また、人工砂10は、金属体14も含んでいる。この金属体14は、例えば鉄等の磁石にひきつけられる物質で構成される。以上に述べた識別情報発生装置12及び金属体14は、被覆体16により被覆され、防水される。この被覆体16は、例えば生分解性プラスチック等で構成するのが自然環境への負荷低減の観点から好適である。
【0016】
上記人工砂10の大きさは、散布地点における自然砂と同程度の大きさにすればよいが、例えば最長部の長さを5mm以下とするのがよく、特に1mm以下とするのがよい。また、人工砂10の重量も、散布地点における自然砂の重量と同程度にすればよい。なお、本実施形態では、人工砂10を球形として表現しているが、必ずしも球形である必要はない。散布地点における自然砂と同程度の大きさ及び重量であれば、自然砂に類する様々な形状にて構成することが可能である。
【0017】
以上に述べた人工砂10は、工場で大量生産が可能であるので、サンプル砂の確保を容易にすることができる。また、識別情報に散布場所を表すグループ番号を含むので、散布場所の識別が容易であり、散布できる地点の数に上限がない。また、識別情報に固体識別番号が含まれるので、同一地点で複数回散布を行っても、各回の散布毎の人工砂10を容易に区別することができる。
【0018】
本実施形態にかかる漂砂流動解析システムでは、上記人工砂10を海、河または池等における所望の地点の水中に散布し、漂砂の流動範囲すなわち散布された人工砂10が水の流れにより流動する範囲を所定の面積に区分したメッシュ毎に人工砂10を回収してその識別情報を検出する。図2に、土砂の採取装置の構成例を示す。
【0019】
図2において、各メッシュ毎の水底に存在する土砂18を吸引管20及びポンプ22により吸引して採取する。この土砂18には人工砂10が含まれている。このように、人工砂10を含む土砂18をポンプ22等により吸引して採取するので、水深の深い場所でも安全且つ容易に土砂18を採取することができる。なお、人工砂10の散布位置あるいは各メッシュ毎の採取位置は、例えばGPS衛星信号に基づいて算出した、散布に使用する機器あるいは採取装置の位置情報を用いて決定するのが好適である。
【0020】
図2の採取装置により採取された土砂18は篩24、26にかけられ、土砂18に含まれる大粒径粒子18a及び小粒径粒子18bが篩分けられて篩26の上に人工砂10及びこれとほぼ同粒径の土砂18が残る。
【0021】
図3には、人工砂10の選別手段の構成例が示される。図3において、選別用板28の上に、上記篩26の上に残った土砂18と人工砂10とを乗せ、選別用板28の下から磁石30を接近させて人工砂10を土砂18から分離し選別する。人工砂10には、図1で説明した通り、金属体14が含まれているので、磁石30により土砂18から分離することができる。これにより、人工砂10が回収できる。
【0022】
以上に述べた人工砂10の採取装置及び選別手段により本発明にかかる回収手段が構成される。
【0023】
図4には、人工砂10の識別情報を検出するための識別情報検出装置の構成例が示される。図4において、上記選別手段により選別、回収された人工砂10は、矢印A方向に転がされつつリーダ32の下を通過する。リーダ32では、人工砂10に含まれる識別情報発生装置12としてのICタグから所定の識別情報を読み取り、散布日時及びグループ番号毎に計数する。このように、リーダ32によりICタグから所定の識別情報を読み取ることにより、人工砂10の計数等を正確に行うことができる。なお、後述する解析装置34に読み取った識別情報を送り、解析装置34で人工砂10の計数を行ってもよい。
【0024】
識別情報検出装置により読み取られた識別情報は、パーソナルコンピュータ等で構成される解析装置34に送られる。解析装置34では、各メッシュ毎に回収された人工砂10の識別情報に含まれる散布日時、グループ番号及び固体識別番号に基づいて漂砂の移動方向を解析する。
【0025】
具体的には、各メッシュにおける人工砂10のグループ別(散布場所別)採取率、混合比を算出し、水の流動すなわち漂砂の流れの方向、流速、滞留時間等を解析する。ここで、グループ別採取率とは、グループ番号で表される各散布地点において散布された人工砂10の数に対する、各メッシュ毎に回収された同じグループの(同じ散布地点から散布された)人工砂10の数の割合をいう。また、混合比とは、各メッシュ毎に回収された、各グループ番号を有する人工砂10の混合割合をいう。
【0026】
次に、漂砂の流れの方向は、同じグループ番号を有する人工砂10が回収されたメッシュ同士を最短距離で結ぶことにより、漂砂の移動経路の方向を推定して求める。また、流速は、上記漂砂の流れの方向を求める際に、当該人工砂10の散布場所から回収されたメッシュまでの移動距離も求めておき、散布日時から回収日時までの時間経過で移動距離を除算することにより人工砂10の平均移動速度として求める。この場合、例えばある散布場所から遠距離にあるメッシュにおいて、当該散布場所を表すグループ番号を有する人工砂10の混合比が高い場合には、当該散布場所からそのメッシュまでの流速が高いと判断される。さらに、滞留時間は、同じメッシュにおいて採取された人工砂10のグループ間の混合比が安定している時間から推定する。
【0027】
図5には、以上に述べた本発明にかかる漂砂流動解析システムを使用した漂砂流動解析方法の工程図が示される。図5において、まず海、河または池等における所定地点の水中に人工砂10を散布する(S1)。
【0028】
散布された人工砂10は、水の流れに従い流動して行くので、その流動範囲すなわち漂砂の流動範囲を上述したメッシュに区分し、所定時間経過後、各メッシュ毎に水底から人工砂10を含む土砂を採取する。この採取には、例えば図2で述べたポンプ22等を使用する(S2)。
【0029】
次に、図3で述べた磁石等を使用して、S2で採取した土砂の中から人工砂10を回収する。この人工砂10の回収は、上記メッシュ毎に行う(S3)。
【0030】
上記回収した人工砂10は、図4で述べたリーダ32により識別情報が読み出される(S4)。読み出された識別情報は解析装置34に送られ、解析装置34が上述した手順により漂砂の流れの方向、流速、滞留時間等の流動解析を行う(S5)。
【0031】
図6(a)、(b)、(c)には、本発明にかかる漂砂流動解析システムによる解析結果の例が示される。図6(a)に示されたNo.1、No.2、No.3、No.4は、人工砂10の識別情報発生装置12に記憶されたグループ番号の例であり、それぞれ4個所の散布場所St1、St2、St3、St4を表している。また、時期を変えて複数回散布する場合には、合わせて散布日時を記憶させることも可能である。図6(a)、(b)、(c)において、図の上方が海の沖側(潮上)あるいは河川の上流側(川上)に、下方が海の浜側(潮下)あるいは河川の下流側(川下)に相当しており、人工砂10の散布は潮上あるいは川上から行う。上記散布場所から散布された人工砂10は、漂砂の流動範囲36内に流動し、分散される。この漂砂の流動範囲36は、上述した所定の面積のメッシュ38に区分されている。なお、図6(a)、(b)、(c)においては、各散布場所から散布される人工砂10を、これを表す図形を異ならせて区別している。
【0032】
上記4個所の散布場所から対応するグループ番号を有する人工砂10を所定数散布すると、散布から2時間後には、図6(a)に示されるように人工砂10が流動し、分布する。この分布は、各メッシュ38から人工砂10を回収し、人工砂10の有するグループ番号毎に計数することにより求めることができる。
【0033】
この後さらに2時間経過(散布から4時間経過)したときの人工砂10の分布状況が図6(b)に示される。この分布状況も、図6(a)の場合と同様に求められる。
【0034】
以上に述べた図6(a)、(b)の人工砂10の分布状況に基づき、解析装置34が漂砂の流れの方向、流速、滞留時間等を解析した結果が図6(c)に示される。図6(c)では、実線40で示される流れが最も速い流速の流れであり、一点鎖線42で示される流れが中程度の流速の流れであり、破線44で示される流れが最も遅い流速の流れである。これらの線分は、図6(a)、(b)を含む複数回の解析結果を基に、同一グループ番号に対するグループ別採取率の高いメッシュ間を結び、これらメッシュ間における流速の大きさに応じて線種別を変えてベクトル表示したものである。
【0035】
このように、本発明によれば、漂砂の流動範囲36内の流れを簡易且つ正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明にかかる漂砂流動解析システムに使用される人工砂の構成図である。
【図2】土砂の採取装置の構成例を示す図である。
【図3】人工砂の選別手段の構成例を示す図である。
【図4】人工砂の識別情報を検出するための識別情報検出装置の構成例を示す図である。
【図5】本発明にかかる漂砂流動解析方法の工程図である。
【図6】本発明にかかる漂砂流動解析システムによる解析結果の例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 人工砂、12 識別情報発生装置、14 金属体、16 被覆体、18 土砂、20 吸引管、22 ポンプ、24,26 篩、28 選別用板、30 磁石、32 リーダ、34 解析装置、36 漂砂の流動範囲、38 メッシュ、40 実線、42 一点鎖線、44 破線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の識別情報を発生する識別情報発生手段を含み、海、河または池等の水中に散布される人工砂と、
海、河または池等の水底から採取され、前記人工砂が含まれる土砂の中から前記人工砂を選別し回収する回収手段と、
前記回収された人工砂に含まれる識別情報発生手段が発生する識別情報を検出する識別情報検出手段と、
前記検出された識別情報に基づいて、漂砂の移動方向を解析する解析手段と、
を備えることを特徴とする漂砂流動解析システム。
【請求項2】
請求項1記載の漂砂流動解析システムにおいて、前記識別情報発生手段が発生する識別情報には、人工砂の散布日時、散布場所及び固体識別番号を含むことを特徴とする漂砂流動解析システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の漂砂流動解析システムにおいて、前記識別情報発生手段はICタグにより構成されていることを特徴とする漂砂流動解析システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の漂砂流動解析システムにおいて、前記人工砂は、散布場所の水底に存在する自然砂と同程度の大きさ及び重量であることを特徴とする漂砂流動解析システム。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項記載の漂砂流動解析システムにおいて、前記解析手段は、漂砂の流動範囲を所定の面積に区分したメッシュ毎に回収された人工砂の散布日時、散布場所及び固体識別番号に基づいて漂砂の移動方向を解析することを特徴とする漂砂流動解析システム。
【請求項6】
所定の識別情報を発生する識別情報発生手段を含む人工砂を、海、河または池等の水中に散布し、
海、河または池等の水底から採取され、前記人工砂が含まれる土砂の中から前記人工砂を選別して回収し、
前記回収された人工砂に含まれる識別情報発生手段が発生する識別情報を検出し、
前記検出された識別情報に基づいて、漂砂の移動方向を解析することを特徴とする漂砂流動解析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−194768(P2006−194768A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7625(P2005−7625)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】