説明

漆喰用組成物

【課題】 特殊な技能を必要とすることなしに、吸湿性やCO2吸収性等に優れ、しかも高い耐久性を備えた漆喰壁を、安価に且つ簡単に形成できるようにする。
【解決手段】 水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸及びポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方とから成り、水と混練して使用する漆喰用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木建築分野、環境対策分野等に於いて使用する漆喰用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所謂漆喰は、長い歴史を有する建材の一つであり、建物の内壁材等として古くから利用されて来た。また、漆喰には調湿性、消臭性、及び抗菌性等の作用が存在するうえ、その硬化に際しては二酸化炭素(CO2)を吸収するため、所謂大気中の二酸化炭素を削減すると云う効用がある。
【0003】
而して、漆喰は、周知の如く、石灰石(CaCO3)の焼成物である生石灰(CaO)を水和処理して形成した消石灰(Ca(OH)2)に、海草から煮出した糊成分(海草糊)等を混合したものであり、この消石灰を主体とする漆喰用組成物に水を加えて混練したペースト状の混練物を、基材上に塗布若しくは塗り付けすることにより漆喰壁等が形成されている。
また、前記ペースト状漆喰用組成物の主成分である消石灰(Ca(OH)2)が、大気中のCO2と所謂炭酸化反応(Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O)を起こすことにより、漆喰用組成物が硬化する。
【0004】
しかし、この硬化後の漆喰用組成物に亀裂が生じるのを防止したり、或いは接着性を高めて基材から剥離するのを防止するためには、単に前記海草から煮出した糊成分を水酸化カルシウムの結合剤として添加するだけでなく、ペースト状の漆喰組成物の形成や組成物の基材への塗り付け作業に、特殊な技能若しくは技術を必要とする。
【0005】
また、漆喰の優れた特性であるCO2や湿気、有害ガス等の吸収作用を有効に利用するためには、前記漆喰用組成物が安価にしかも簡単に入手できると共に、何人もが簡単にペースト状漆喰組成物を所望の厚さに塗り付け或いは塗布することができ、しかも亀裂や剥離が容易に生じないようにする必要がある。
【0006】
しかし、従前の漆喰用組成物には、前述の通り、基材への固着力が相対的に低くて剥離や亀裂が生じ易いと言う問題が残されているうえ、海草糊を必要とするため漆喰材のコスト引下げを図り難いと云う問題がある。また、従前の漆喰用組成物には、混練した漆喰用ペーストの塗り付け等に特殊な技能を要すると云う問題がある。
【0007】
一方、従前の漆喰用組成物における上記の如き問題を解決するものとして、水と消石灰の混合物にポリマ成分(又はアクリル樹脂)と酸化チタンを混入することにより、所謂水性塗料を塗布する感覚でもって漆喰壁特有の質感を有する薄壁面を簡単に、しかも安価に形成できるようにした漆喰用組成物が開発されている(特許3083519号、特許3094227号等)。
【0008】
しかし、上記各特許発明に係る漆喰用組成物は、比較的薄い塗膜の形成でもって従前の漆喰壁等が有する特有の質感や美感を得ようとするものであるが、現実には従前の漆喰壁に近い質感を持った壁面を得ることが困難なだけでなく、形成された壁面にCO2の吸収や湿気及び有害ガスの吸収等の作用が殆ど期待できないと云う問題がある。
【0009】
【特許文献1】特許第3083519号
【特許文献2】特許第3094227号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は従前の漆喰用組成物に於ける上述の如き問題、即ち、(イ)従前の天然海草等の糊成分を用いた漆喰用組成物にあっては、漆喰用ペーストの形成や漆喰用ペーストの塗布又は塗り込みに特殊な技能を必要とし、漆喰壁の形成コストの引下げが困難なうえ、何人もが簡単且つ容易に漆喰壁を形成することが出来ないこと、及び(ロ)天然海草の糊成分を用いない漆喰用組成物にあっては、形成した漆喰壁面が質感に劣ると共に、壁面そのものにCO2吸収や湿気吸収等の機能が殆ど無く、従前の漆喰壁面が有する有効な諸作用が得られないこと等の問題を解決せんとするものであり、天然海草の糊成分に替えてポリグルタミン酸及び又はポリグルタミン酸架橋物等を混合することにより、耐亀裂性や硬化性、固着性に優れ且つ何人もが容易に使用(塗り付け)できるようにした漆喰用組成物を提供することを、発明の主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸及びポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方とから成ることを発明の基本構成とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸及びポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方と、コレーゲンペプチド及び又はゼラチンとから成ることを発明の基本構成とするものである。
【0013】
請求項3の発明は、水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸架橋物と、コラーゲンペプチド及び又はゼラチンと、水とを混練してペースト状にしたことを発明の基本構成とするものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、ポリグルタミン酸架橋物を0.4〜1.8wt%、コラーゲンペプチドを7.3〜9.0wt%及び水酸化カルシウムを36〜46wt%含有し、残部を水としたことを発明の基本構成とするものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項3の発明において、ポリグルタミン酸架橋物を0.45〜0.55wt%、コラーゲンペプチドを8〜10wt%及び水酸化カルシウムを40〜50wt%含有し、残部を水としたことを発明の基本構成とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、消石灰に、適宜量の流動性と湿潤性と粘着性と結合性とを付与する特性を具備したポリグルタミン酸及び又はポリグルタミン酸架橋物と、適宜量の粘着性及び結合性を付与する特性を備えた天然コラーゲンペプチドとを混合することにより、漆喰用組成物を形成すると共に、これに適宜量の水を加えて混練することにより、漆喰用ペーストを形成するようにしている。その結果、漆喰壁の耐剥離性及び耐亀裂性が大幅に向上すると共に、ペーストの流動性が比較的高いために特別な技術を必要とすることなしに壁面等へ容易に塗り込みすることができる。また、塗布後は比較的短い乾燥硬化時間でもって硬化し、質感に優れた漆喰壁面を容易に形成することが出来る。
【0017】
また、本発明の漆喰用組成物は、前述の通り流動性と固着性に優れているため、通常の塗料と同様に薄い塗膜の形成も可能となり、従前の化学物質より成る合成樹脂性塗料に代えて、室内用のより安全な塗料として利用することができるうえ、家具や装飾品等へ塗布することにより、所謂漆喰オブジェクトの形成も可能となる。
【0018】
更に、本発明に係る漆喰用組成物により形成した漆喰壁面は、漆喰の優れた性質である二酸化炭素の吸収、湿気の吸収及び有害ガスの吸収などの諸性質を十分に利用することができるため、環境改善等にも寄与することが可能となる。
【0019】
加えて、基材外表で硬化した漆喰用組成物の皮膜は、その硬化前から基材外表面に付着していた物質を基材外表面へ押え込む作用をする。その結果、例えば、アスベスト材が塗布された建材等へ当該漆喰用組成物の溶液を散布してアスベスト材に浸透させ、アスベスト材そのものを固化させることにより、その飛散が完全に防止されることになる。また、例えば、表面に塗布されたアスベストを剥離除去した建築廃材等へ当該漆喰用組成物の溶液を散布し、その外表面に漆喰用組成物の皮膜を形成してこれを硬化させることにより、剥離時に外表面に残ったアスベスト材が完全に廃材外表面へ押え込まれることになり、廃材運搬時に飛散して人に害を及ぼすことが皆無となる。
【0020】
また、本発明の漆喰用組成物における混合物質であるポリグルタミン酸及びその架橋物、天然コラーゲンペプチド及びゼラチンは、元来自然食品に含まれている物質であるため、漆喰組成物の安全性が低下することはない。
【0021】
本発明は上述の通り、従前の海草糊を用いた漆喰に優るとも劣ることの無い優れた実用的効用を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る漆喰用組成物の形成の第1実施形態を示すものであり、先ず通常の消石灰(Ca(OH)2)から成る主剤Aに所定量のポリグルタミン酸PGA−HMとポリグルタミン酸架橋物PGA−CLの何れか一方又は両方を混入し、これを混合する。次に、当該混合物(漆喰用組成物)Gに所定量の水Wを加えて混練し、ペースト状の漆喰用組成物Goを形成して、これを基材の外表面へ塗り付け或いは塗布する。
【0023】
尚、図1の第1実施形態では、漆喰用組成物(混練物)Gの形成に際して、消石灰Aにポリグルタミン酸PGA−HMとポリグルタミン酸架橋物PGA−LCの何れか一方又は両方を加えるようにしているが、第2実施形態ではこれと同時に、更に所定量の天然コラーゲンペプチド及び又はゼラチンKを添架混合して、漆喰用組成物Gを形成する。
【0024】
尚、前記漆喰用組成物の主剤である消石灰A(Ca(OH)2)は公知のものであるため、ここではその説明を省略する。
また、前記ポリグルタミン酸PGA−HMは、図2に示すように、グルタミン酸分子の2つのカルボキシル基のうちのγ位のカルボキシル基とアミノ基がアミド結合によってつながってできたポリマーであり、グルタミン酸を原料として枯草菌(Bacillus subtilis)を初めとするBacillus属の微生物によって合成される。
【0025】
前記ポリグルタミン酸架橋物PGA−CLは、図2の如き構造を有するγ−ポリグルタミン酸と呼ばれるグルタミン酸が直鎖状に重合してできた分子量が数千から数百万の天然の高分子化合物の水溶液に、γ線照射等によりPGA−HM分子間で架橋反応を起こし、より大きな分子量の高分子としたものであって、分子量が数千万の網目構造を持つ分子であると想定されている。
尚、ポリグルタミン酸架橋物PGA−CLそのものは、図3の如き構造を有している。また、ポリグルタミン酸PGA−HMの全てが架橋物に変換されているとは限らないので、この中には出発原料であるポリグルタミン酸PGA−HMが若干含まれている場合がある。
このポリグルタミン酸架橋物PGA−CLは、ポリグルタミン酸PGA−HMに比べて非常に高い保水性を持っていて、後者が自分自身の重さの約0.5倍の水を保持することができるのに対して、架橋反応の条件にもよるが、ポリグルタミン酸架橋物PGA−CLは自身の重さの2000倍前後の水を保持する能力をもつものである。
【0026】
前記コラーゲンペプチドは、化粧品等に使用される物質の一部として周知のものであるが、本発明においては魚や動物などから抽出された天然のコラーゲンペプチドが使用されている。尚、本実施形態ではコラーゲンペプチドを使用しているが、これと同時又はこれに替えてゼラチンを使用するようにしても良い。
【0027】
前記ポリグルタミン酸PGA−HMやポリグルタミン酸架橋物PGA−LC及びコラーゲンペプチドKは、主に漆喰用組成物Gの硬化性や耐水性、安定性や湿潤性を支配する機能を果しており、その混合率を変えることにより、硬化時間や硬化物(漆喰)の安定性及び機械的強度、耐久性(亀裂・ひび割れ)等が大きく変化することになる。
【0028】
尚、ポリグルタミン酸架橋物PGA−CLやコラーゲンペプチドKが漆喰用組成物Gの硬化性やその耐久性等に及ぼす機構は、未だ未解明である。しかし、天然海草の糊成分と同様に、漆喰の主成物である水酸化カルシウム(消石灰)の結合剤の作用を果していることは容易に推認できるところである。
【実施例1】
【0029】
予め定めた量のポリグルタミン酸架橋物PGA−CL及び又はポリグルタミン酸PGA−HMとコラーゲンペプチドKと消石灰Aとから成る漆喰用組成物Gと、水Wとを槽内へ入れて十分に混練し、このペースト状の混練した漆喰用組成物Goを約1m2の石こうボードの表面に、厚さ約1cmに塗布したあと、固化(硬化)の状態及び固化(硬化)後の耐久性(耐水性、安定性及び亀裂(ひび割れ)の発生状況)等を調査した。表1はその調査結果をまとめたものである。
【0030】
【表1】

【0031】
また、表2は、前記表1の試料NO6に記載のペースト状の漆喰用組成物Go1kg中に含まれる各成分の重量と、ペースト状漆喰組成物Go1m3により塗布可能な塗布面積と塗布厚さとの関係を示すものである。
【0032】
【表2】

【0033】
表1からも明らかなように、ポリグルタミン架橋物PGA−CLを使用した場合には、資料No6及び資料No7の混合比のものが、硬化性や強度等の点で漆喰壁等の材料として最も望ましいことが判った。
【0034】
また、ポリグルタミン架橋物PGA−CLを用いた場合には、一般的にペースト状の漆喰用組成物Goの粘度が低いほど、塗布後に水との分離が起こり易くなり、また、ペースト状の組成物Go自体の固化(硬化)が遅くなる。
更に、硬化後の組成物の表面のキメが粗くなる傾向があるものの、硬化後の耐久性は一般的に高くなる。特に、ペースト状の組成物Goの粘性が高いほど、その耐久性が高くなることが判った。
【0035】
これに対して、ポリグルタミン酸PGA−HMを混入した場合には、硬化後の組成物の外表面は極めてキメの細かいものになる。
また、水分を多く含有せしめたペースト状の組成物Goの場合ほど、硬化後の組成物が脆くなり、ひび割れ(亀裂)が生じ易くなる。
更に、耐水性は良好であるものの、水を掛けた状態下で摩擦するともろくなり、機械的な強度に若干欠けることになる。
【0036】
尚、コラーゲンペプチドKを加えることにより、ペースト状の組成物Goの硬化性能は向上するが、その含有量が10%を越えると、硬化後の組成物の耐久性が低下する傾向にある。
また、硬化後の組成物の耐火性についても検討をしたが、従前の漆喰壁の比較して略同等の耐温度及び耐炎性を有していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、所謂建設資材の一種である漆喰材としてだけでなく、アスベストの飛散防止材やアスベストの固定・固化材、耐火物材、土壌の固化材、家具用塗装材、美術工芸分野における表面処理材等としても広く利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る漆喰用組成物の形成並びに方法の説明図である。
【図2】本発明で使用するポリグルタミン酸PGA−HMの構造図である。
【図3】本発明で使用するポリグルタミン酸架橋物PGA−LCの構造図である。
【符号の説明】
【0039】
A 消石灰(Ca(OH)2
W 水
PGA−HM ポリグルタミン酸
PGA−CL ポリグルタミン酸架橋物
K コラーゲンペプチド及び又はゼラチン
G 漆喰用組成物
Go ペースト状の漆喰用組成物(混練物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸及びポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方とから成り、水と混練して使用する漆喰用組成物。
【請求項2】
水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸及びポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方と、コラーゲンペプチド及び又はゼラチンとから成り、水と混練して使用する漆喰用組成物。
【請求項3】
水酸化カルシウムと、ポリグルタミン酸架橋物と、コラーゲンペプチド及び又はゼラチンと、水とを混練して成るペースト状の漆喰用組成物。
【請求項4】
ポリグルタミン酸架橋物を0.4〜1.8wt%、コラーゲンペプチドを7.3〜9.0wt%及び水酸化カルシウムを36〜46wt%含有し、残部を水とした請求項3に記載のペースト状の漆喰用組成物。
【請求項5】
ポリグルタミン酸架橋物を0.45〜0.55wt%、コラーゲンペプチドを8〜10wt%及び水酸化カルシウムを40〜50wt%含有し、残部を水とした請求項3に記載のペースト状の漆喰用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63203(P2008−63203A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244993(P2006−244993)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(502426452)日本ポリグル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】