説明

漏洩同軸ケーブル

【課題】外被の外側からのスロット部の位置の確認が可能で、コネクタの取付作業が容易であり、かつ、紫外線による外被の劣化のないLCXを提供する。
【解決手段】中心導体2と、中心導体2を被覆した絶縁体3と、絶縁体3の外側を覆う外部導体4と外部導体4を被覆した外被5とが同軸構造となされ、外部導体4に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部6がスロット列をなして形成された漏洩同軸ケーブルであって、外被5は、漏洩同軸ケーブルの中心軸回りの90°以内の角度範囲であってスロット列の位置を含む漏洩同軸ケーブルの長さ方向に沿った確認領域7のみが、可視光線、または、X線に対して、透明、または、半透明の樹脂材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部導体上に電磁波送受信用の開孔(スロット部)を有する漏洩同軸ケーブルに関し、特に、コネクタを開孔(スロット部)を避けて取付けることが容易な漏洩同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
漏洩同軸ケーブル(以下、「LCX」という。)は、新幹線沿いに布設されて列車と地上との無線連絡のために使用されたり、あるいは、地下鉄構内や地下街に布設されて地上との消防無線や警察無線の連絡用に使用されている。
【0003】
図6は、前記LCXの一部破断斜視図である。すなわち、LCX1は、図6に示すように、内部導体102、絶縁体103、外部導体104及び外被(シース)105を備えて同軸状に構成されている。外部導体104には、同導体104内の電磁エネルギーを外部に漏洩させるために、周期的なスロット部101が設けられている。すなわち、外部導体104には、ケーブル軸に対して一定周期毎に、一周期当たり複数の長孔状のスロット部101が設けられている。各スロット部101は、ケーブル軸に対して所定の角度を持って傾斜されている。
【0004】
LCX1は、外部導体104にスロット部101をケーブル長手方向に連続的に設けることにより、これらスロット部101から電波を漏洩させ、長手方向に連続的に放射される電波の重ね合わせを利用して、外部との通信を行なっている。
【0005】
このようなLCX1の端末部分同士の接続、または、LCX1と外部機器との接続には、特許文献1に記載されているように、同軸ケーブル用のコネクタが使用される。このコネクタは、外部導体104を外方側から金属部材によって締め付けることによって、LCX1の端末部分に取付けられる。このコネクタをLCX1に取付けるときには、スロット部101の位置を避けて取付ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−272391号公報
【特許文献2】特許第3948670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のようなLCX1において、外被105は、黒色のポリエチレン(以下、PEという。)や黒色のポリ塩化ビニル(以下、PVCという。)などからなるので、スロット部101の位置を外側から確認することはできない。
【0008】
そのため、LCX1の端末部分にコネクタを取付けるには、まず、LCX1の端末部分の長さ数十mm程度の部分を切断して切断部を解体し、外部導体104を観察して、スロット部101の位置を確認する。そして、スロット部101が存在しない場合には、さらに数十10mm程度の端末部分を切断して解体し、スロット部の位置を探す。それでもスロット部101が見つからない場合には、何回も同じ作業を繰返す必要があるので、コネクタ取付作業には長時間を要し、作業コストの上昇を招いている。
【0009】
スロット部101の間隔は、伝送する電磁波の波長の概略半分である。すなわち、伝送する電磁波の周波数(使用周波数)が2.4GHzである場合には、以下の式(1)より、スロット部101の間隔は、41mm程度である。
【0010】
半波長=C/(2・f・√εr)≒41mm 式(1)
(ただし、Cは真空中の光速3.00×10(m/s)、fは使用周波数2.4GHz、εrは絶縁体103(ポリエチレン)の比誘電率2.3である)。
【0011】
また、地上デジタルテレビ放送の再送信用のLCXでは、使用周波数が600MHz程度なので、スロット部101の間隔は、165mm程度と広くなる。すなわち、使用周波数が低いLCXでは、スロット部101の位置を確認することがより困難となり、コネクタの取付作業には、さらに手間がかかる。
【0012】
スロット部101の位置を避けてコネクタを取付けることが容易となるLCXとして、特許文献2に記載されているように、外被105を透明、または、半透明の樹脂材料により形成し、外部からスロット部101の位置を目視で確認できるようにしたものが提案されている。このLCXにおいては、コネクタを取付ける前に、外被105の外側から、目視によりスロット部101の位置を確認し、スロット部101を避けた位置でLCXを切断し、その端末部分にコネクタを取り付けることができる。
【0013】
しかし、透明性の高いポリエチレンなどの樹脂材料は、紫外線による劣化を生ずるので、このLCXは、使用場所が直射日光の当たらない屋内や天井裏に限定される。このLCXを直射日光の当たる場所で使用する場合には、外被105をなす樹脂材料に、紫外線劣化防止剤を添加する必要がある。
【0014】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであり、その目的は、外被の外側からのスロット部の位置の確認が可能で、コネクタの取付作業が容易であり、かつ、紫外線による外被の劣化のないLCXを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係るLCXは、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0016】
〔構成1〕
中心導体と中心導体を被覆した絶縁体と絶縁体の外側を覆う外部導体と外部導体を被覆した外被とが同軸構造となされ外部導体に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部がスロット列をなして形成された漏洩同軸ケーブルであって、外被は、漏洩同軸ケーブルの中心軸回りの90°以内の角度範囲であってスロット列の位置を含む漏洩同軸ケーブルの長さ方向に沿った領域のみが、可視光線、または、X線に対して、透明、または、半透明の樹脂材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
〔構成2〕
スロット部とスロット部との間の外部導体の表面、または、裏面に、スロット部の位置を示す数字、または、記号が印刷されていることを特徴とするものである。
【0018】
〔構成3〕
スロット部とスロット部との間の外部導体に、スロット部の位置を示す長孔が形成され、この長孔は、長手方向を漏洩同軸ケーブルの長さ方向とし、長さが使用波長の数10分の1以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
構成1を有する本発明に係るLCXにおいては、外被は、漏洩同軸ケーブルの中心軸回りの90°以内の角度範囲であってスロット列の位置を含む漏洩同軸ケーブルの長さ方向に沿った領域のみが、可視光線、または、X線に対して、透明、または、半透明の樹脂材料により形成されているので、目視、または、X線カメラにより、外被の外側からのスロット部の位置向の確認が容易であり、コネクタの取付作業が容易である。また、外被は、透明、または、半透明の樹脂材料により形成された領域以外の領域は、耐環境性に優れた黒色のPEや黒色のPVCにより形成することができるので、対紫外線等の耐環境特性に優れたものとして構成できる。
【0020】
構成2を有する本発明に係るLCXにおいては、スロット部とスロット部との間の外部導体の表面、または、裏面に、スロット部の位置を示す数字、または、記号が印刷されているので、スロット部の位置が簡単、かつ、明確にわかるので、コネクタ取付位置を短時間で正確に決めることができ、コネクタの取付作業が容易である。
【0021】
構成3を有する本発明に係るLCXにおいては、スロット部とスロット部との間の外部導体に、スロット部の位置を示す長孔が形成され、この長孔は、長手方向を漏洩同軸ケーブルの長さ方向とし、長さが使用波長の数10分の1以下であるので、スロット部の位置が簡単、かつ、明確にわかるので、コネクタ取付位置を短時間で正確に決めることができ、コネクタの取付作業が容易である。
【0022】
すなわち、本発明は、外被の外側からのスロット部の位置の確認が可能で、コネクタの取付作業が容易であり、かつ、紫外線による外被の劣化のないLCXを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るLCXの構成を示す一部破断斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図及び横断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図である。
【図6】従来のLCXの構成を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0025】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るLCXの構成を示す一部破断斜視図である。
【0026】
本発明に係るLCX1は、図1に示すように、中心導体2と、この中心導体2を被覆した絶縁体3と、この絶縁体3の外側を覆う外部導体4とが同軸構造となされ、外部導体4が外被(シース)5により被覆されて構成されている。
【0027】
外部導体4には、導体内部の電磁エネルギーを外部に漏洩させるために、複数の長孔状のスロット部6が設けられている。これらスロット部6は、ケーブル軸円周方向の一定の位置(すなわち一定の角位置)において、ケーブル軸に沿う列(スロット列)をなして形成されている。各スロット部6は、ケーブル軸に対して所定傾斜角を持って傾斜している。各スロット部6は、ケーブル軸に対して周期的に設けられ、各周期には、例えば前記傾斜角が相互に異なる複数のスロット部6が設けられている。
【0028】
外部導体4の表面において、スロット部6が列(スロット列)をなして形成された面をスロット面と言い、LCXは、スロット面の法線方向がLCX全長で、一定方向を向くように延線することが望ましい。
【0029】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図及び横断面図である。
【0030】
この実施形態のLCX1においては、図1及び図2中の(a)(b)に示すように、外被5は、LCX1の中心軸回りの90°以内の角度範囲であってスロット列の位置を含む確認領域7のみが、可視光線、または、X線に対して、透明、または、半透明の樹脂材料により形成されている。この確認領域7は、LCX1の長さ方向に沿って形成されている。すなわち、外被5のうちスロット部6直上となる領域は、透明、または、半透明の樹脂材料により形成され、確認領域7となっている。確認領域7は、スロット列の中心に対して、LCX1の中心軸回りの±45°以内の角度範囲とすることが好ましい。
【0031】
確認領域7は、外被5の一部を、透明、または、半透明の樹脂材料により押出し成形等によって形成することによって設けることができる。確認領域7をなす透明、または、半透明の樹脂材料は、PE、または、PVCなどであって、着色材や紫外線劣化防止剤などを含まないか、または、極微量の紫外線劣化防止剤を含むものである。外被5のうち確認領域7以外の領域は、黒色のPE、または、黒色のPVCで形成することが好ましい。
【0032】
このLCX1においては、外被5の外側から、確認領域7を透して、スロット部6の位置を確認することができる。そのため、このLCX1においては、正確にスロット部6を避けてコネクタを取付けることが容易であり、コネクタ取付作業を短時間で完了することが可能である。このLCX1において、確認領域7は外被5の一部分をなすだけであるので、紫外線が照射する屋外で使用することも可能である。
【0033】
また、このLCX1においては、確認領域7と、外被5の確認領域7以外の領域との外観上のコントラストが強く、0.5m〜数m離れても、確認領域7の位置、すなわち、スロット列の位置を容易に判別することができる。
【0034】
LCXの送受信特性は、スロット面の法線方向に指向性が強く、電磁波の送受信を行いたい方向にスロット面を向ける必要がある。LCXを布設する際には、確認領域7の位置を確認することにより、スロット面を目的とする方向としながら布設することによって、LCXからの電磁波の送受信を効率良く行うことができる。
【0035】
なお、外被5の全体を透明、または、半透明の材料により構成すると、LCXから数十cm離れた位置からは、外被5の表面での反射によりスロット部6の確認は難しいので、スロット面を所定の方向に向けて布設することは困難となる。
【0036】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の第2の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図である。
【0037】
この実施形態においては、図3中の(a)に示すように、スロット部6とスロット部6との間の外部導体4の表面、または、裏面に、スロット部6の位置を示す数字9が印字されている。
【0038】
数字9は、等間隔の位置に印字することが好ましい。この数字9の番号と間隔とは、予め決定しておき、既知のものとしておく。すると、確認領域7を透して、または、外被5の一部を解体して、外部導体4上に印字された数字9を確認することにより、スロット部6の位置を容易、かつ、正確に把握することができる。
【0039】
なお、確認領域7を設けない場合であっても、外被5の一部を解体すれば、外部導体4上に印字された数字9を確認することができる。
【0040】
また、図3中の(b)に示すように、数字9に代えて、1個から複数の記号(黒丸)11を印字してもよい。
【0041】
〔第3の実施形態〕
図4は、本発明の第3の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図である。
【0042】
この実施形態においては、図4に示すように、スロット部6とスロット部6との間の外部導体4に、スロット部6の位置を示す長孔13が形成されている。
【0043】
この長孔13は、長手方向をLCX1の長さ方向とし、長さが使用波長の数10分の1以下となっている。この長孔13は、等間隔の位置に形成することが好ましい。この長孔13の数は、一のスロット部6から次のスロット部6に向かって、順次、LCX1の周方向に増えてゆくようになっている。すなわち、一のスロット部6から所定の距離の箇所に、1個の長孔13aが形成され、この長孔13aから所定の距離の箇所に、2個の長孔13b,13bがLCX1の周方向に配列されて形成され、これら長孔13b,13bから所定の距離の箇所に、3個の長孔13c,13c,13cがLCX1の周方向に配列されて形成され、以下、順次長孔の数が増えてゆき、次のスロット部6に至るようになっている。
【0044】
長孔13の数と間隔とは、予め決定しておき、既知のものとしておく。すると、確認領域7を透して、または、外被5の一部を解体して、外部導体4に形成された長孔13を確認することにより、スロット部6の位置を容易、かつ、正確に把握することができる。
【0045】
なお、確認領域7を設けない場合であっても、外被5の一部を解体すれば、外部導体4に形成された長孔13を確認することができる。
【0046】
LCX1において、外部導体4の表面には、LCX1の長さ方向に電流が流れる。長孔13は、長手方向をLCX1の長さ方向としているので、LCX1内部の電磁界を乱さない。また、長孔13は、長さが使用波長の数10分の1以下となっているので、不要放射が十分に抑制され、外部ヘの放射電磁波が発生することもない。
【0047】
〔第4の実施形態〕
図5は、本発明の第4の実施形態に係るLCXの構成を示す側面図である。
【0048】
このLCX1において、確認領域7は、可視光を透過させない材料によって形成してもよいが、X線は透過させる材料、例えば、PEやPVCなどの合成樹脂材料により形成されている。
【0049】
この場合、LCX1の端末部にコネクタを取付けるときには、X線を用いてスロット部6の位置を確認することにより、スロット部6がない位置を迅速に特定して、この位置ででLCX1を切断して、コネクタを取付けることができる。
【0050】
すなわち、図5に示すように、X線源201からX線を放射してLCX1を透過させ、この透過X線をX線カメラ203により撮像して、透視画像を得る。X線カメラ203からの出力信号を、制御装置205を介して、表示装置207により表示する。この表示画像において、スロット部6は、このスロット部6の周囲の金属からなる外部導体4よりも明るく映し出されるので、スロット部6の位置を迅速、かつ、正確に判別することができる。
【0051】
このようにしてスロット部6の位置を求めておき、外被5の外表面にスロット部6の位置を示すマーキングをしておく。そして、このマーキングを基準にして、スロット部6がない位置にコネクタ取付け位置を決定し、このコネクタ取付け位置においてLCX1を切断して、コネクタを取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、外部導体上に電磁波送受信用の開孔(スロット部)を有する漏洩同軸ケーブルに適用され、特に、コネクタを開孔(スロット部)を避けて取付けることが容易な漏洩同軸ケーブルに適用される。
【符号の説明】
【0053】
1 LCX
2 中心導体
3 絶縁体
4 外部導体
5 外被(シース)
6 スロット部
7 確認領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、この中心導体を被覆した絶縁体と、この絶縁体の外側を覆う外部導体と、この外部導体を被覆した外被とが同軸構造となされ、前記外部導体に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部がスロット列をなして形成された漏洩同軸ケーブルであって、
前記外被は、漏洩同軸ケーブルの中心軸回りの90°以内の角度範囲であって前記スロット列の位置を含む漏洩同軸ケーブルの長さ方向に沿った領域のみが、可視光線、または、X線に対して、透明、または、半透明の樹脂材料により形成されている
ことを特徴とする漏洩同軸ケーブル。
【請求項2】
スロット部とスロット部との間の外部導体の表面、または、裏面に、スロット部の位置を示す数字、または、記号が印刷されている
ことを特徴とする請求項1記載の漏洩同軸ケーブル。
【請求項3】
スロット部とスロット部との間の外部導体に、スロット部の位置を示す長孔が形成され、この長孔は、長手方向を漏洩同軸ケーブルの長さ方向とし、長さが使用波長の数10分の1以下である
ことを特徴とする請求項1記載の漏洩同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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