説明

漏洩同軸ケーブル

【課題】 電波の利用が必要でない空間への電波の放射を簡易かつ確実に抑えることにより減衰量の増大を抑制して、電波を有効に利用する。
【解決手段】 漏洩同軸ケーブル10は、中心導体12と、この中心導体12の上に絶縁体14を介して設けられたスロット18A、18B付きの外部導体16と、この外部導体16の上に設けられた内部被覆24の上にスロット18A、18Bを覆うように配置された遮蔽体20と、この遮蔽体20の上に設けられた外部被覆26とから成っている。この遮蔽体20は、電波を放射する長さ部分Lのみが切り開かれている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、移動体の無線通信システム、無線制御システム等に用いられる漏洩同軸ケーブルの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、移動体の無線通信システム等に用いられる漏洩同軸ケーブルは、図7に示すように、中心導体12と、この中心導体12の上に絶縁体14を介して設けられ電波を外部に放射するスロット18付の外部導体16と、この外部導体16の上に設けられた外部被覆26とを備えている。この漏洩同軸ケーブル10においては、図7に示すように、外部導体16のスロット18は、特定方向に向けて形成され、このスロット18の位置によって、漏洩同軸ケーブル10の断面内で電波をある程度の指向性を持たせて放射して、安定した無線通信を実現しようとしている。
【0003】しかし、布設された漏洩同軸ケーブルの全長のうち、電波の利用が必要でない区間においても電波を放射することは、無駄であり、漏洩同軸ケーブルの減衰量が大きくなる問題がある。このように、電波の利用が必要ではない空間へ電波を放射することは、電波の有効利用の面から好ましくない。
【0004】そこで、漏洩同軸ケーブルの外部導体のスロット部分に超電導体を設けて、電波の漏洩を防止し、必要な箇所でのみ移動体に取付けられた超電導磁石により常電導状態として、不必要な放射を抑制する手段も提供されている(特開平2−66086号公報参照)。この従来技術によれば、開放された空間においても、電波の不必要な放射を抑制することができるが、電波を受信するためには、受信側のアンテナ等にこの超電導状態を破壊する超電導磁石等の手段を設ける必要があるため、電波の受信設備が複雑となり、また、エレベーター等の移動体と異なり、トラック等のような移動体にあっては、漏洩同軸ケーブルに対して常に一定の間隔を保って移動するとは限らないため、移動体に取付けられた超電導磁石等の磁界の影響が及ばずに、電波を安定して受信することができない場合が生ずるおそれがある。
【0005】なお、電波を利用する区間が離れている場合には、電波の利用が必要でない区間においては一般の遮蔽型同軸ケーブルを布設し、必要な区間でのみ漏洩同軸ケーブルを布設して、両者を中継することも考えられるが、この場合、コネクタ等による接続箇所が増えることにより、長期信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上記の問題点を解決するため、電波の利用が必要でない空間への電波の放射を簡易かつ確実に抑えることにより減衰量の増大を抑制して、電波を有効に利用することができる漏洩同軸ケーブルを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するための手段として、中心導体と、この中心導体の上に絶縁体を介して設けられたスロット付の外部導体とを備えた漏洩同軸ケーブルにおいて、外部導体のスロットを覆うように設けられた遮蔽体を更に備え、この遮蔽体は、電波を放射する長さ部分のみが切り開かれていることを特徴とする漏洩同軸ケーブルを提供するものである。
【0008】このように、電波の利用が必要でない区間において、スロットを覆うように遮蔽体を設けると、特にスロットからの電波の不必要な輻射が充分に抑制され、漏洩同軸ケーブルが通常の遮蔽型同軸ケーブルと同様の働きをして漏洩による減衰量の増大を抑制することができる一方、電波の放射が必要な区間においてのみ遮蔽体が切り開かれていて、この部分から電波が放射されるため、電波を有効に利用することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に述べると、図1乃至図3は本発明に係る漏洩同軸ケーブル10を示し、この漏洩同軸ケーブル10は、中心導体12と、この中心導体12の上に絶縁体14を介して設けられた外部導体16とを備えている。
【0010】中心導体12は、銅線やアルミニウム線等の適宜の導体から成り、また絶縁体14は、ポリエチレンやフッ素樹脂等の安定した絶縁性と成形性とを有する絶縁物から成っている。この絶縁体14は、中心導体の全長に被覆して形成されている。
【0011】外部導体16には、図1に示すように、スロット群18が設けられ、このスロット群18は、図示の実施の形態では、傾斜が反対方向に向いている所謂ハ字型に配置された複数のスロット18A、18Bから成っている。これらのスロット郡18は、漏洩同軸ケーブル10の全長にわたって、電波の放射が必要な箇所において、又は所定の間隔をあけて適宜設けられている。外部導体16に設けられたスロット群18によって輻射される電波は、漏洩同軸ケーブル10の断面内においてある程度の指向性を持って放射される。従って、漏洩同軸ケーブル10は、通常、このスロット群18が電波を受信すべき移動体のアンテナ(図示せず)に向くように布設される。なお、スロット18A、18Bは、必要に応じて、図1に示す所謂ハ字型以外の配置としてもよいことは勿論である。
【0012】本発明の漏洩同軸ケーブル10は、図1及び図2に示すように、外部導体16のスロット18A、18Bを覆うように設けられた遮蔽体20を更に備えている。この遮蔽体20は、図1乃至図3に示すように、漏洩同軸ケーブル10の全長のうち、電波を放射する長さ部分L(図1参照)のみが切り開かれ、それ以外の部分においてスロット18A、18Bを覆っている。
【0013】このため、スロット18A、18Bからの電波の不必要な放射が充分に抑制され、漏洩同軸ケーブル10の全長のうち電波の利用が必要でない区間においては、漏洩同軸ケーブル10が通常の遮蔽型の同軸ケーブルと同様の働きをして漏洩による減衰量の増大を抑制することができる一方、電波の利用が必要な区間においてのみ遮蔽体20が切り開かれた部分22から電波が放射されるため、電波を有効に利用することができる。
【0014】この場合、特に、電波の利用が必要な区間(すなわち、電波を放射する長さ部分L:図1参照)が離れている場合にも、1本の漏洩同軸ケーブル10の布設で対応することができ、布設に手間をかけることなく簡易に電波の有効利用を実現することができると共に、コネクタ等による接続を要しないため、長期信頼性も確保することができる。また、従来技術と異なり、漏洩同軸ケーブル10自体が、電波の不必要な放射を抑制する遮蔽体20を備えているため、トンネル等の壁面を有する場所は勿論のこと、開放された空間においても電波を確実に有効利用することができる点で有利である。更に、例えば、トラック等のように常に漏洩同軸ケーブル10と一定の間隔を保って移動するとは限らない移動体に対しても電波を確実に受信させつつ、また、移動体に超電導磁石等の複雑な設備を設けることなく、電波の有効利用を簡易に図ることができる点で有益である。
【0015】この遮蔽体20は、図1乃至図3に示す実施の形態では、特に図2に示すように、スロット18A、18Bを含む外部導体16の全周を覆うように設けられて、漏洩同軸ケーブル10の円周全方向への電波の不必要な放射を抑制している。従って、特に、漏洩同軸ケーブル10の断面径が、電波の波長に比べて小さいため、漏洩同軸ケーブル10の円周全方向に電波が放射される傾向がある漏洩同軸ケーブル10にあっても、電波の不必要な放射を確実に抑制することができる。なお、この場合、遮蔽体20は、スロット18A、18Bからの電波の輻射自体を確実に抑制することができる程度にスロット18A、18Bを覆うように、外部導体16からできるだけ間隔をあけないで形成する。
【0016】また、遮蔽体20は、図1乃至図3に示すように、外部導体16の上に設けられた内部被覆24の上に形成することが望ましい。この内部被覆24は、遮蔽体20が切り開かれた部分22において、中心導体12や外部導体16が外部に直接露出することがないように、これらを外的環境から保護する役割を有する。なお、このように内部被覆24を設けても、この内部被覆24は、通常、多くの電波の輻射を許容する程度に外部導体16と遮蔽体20との間の間隔をあけるような厚みは有しないため、スロット18A、18Bは遮蔽体20により充分に覆われ、電波の輻射自体の抑制には影響はなく問題ない。
【0017】遮蔽体20は、例えば、金属から形成することができ、この金属としては、電波を遮蔽する金属であれば特に種類を問わず用いることができる。具体的には、銅やアルミニウム等から形成することができる。遮蔽体20は、図示の実施の形態では、漏洩同軸ケーブル10の可撓性等をある程度考慮して、銅テープやアルミニウムテープ等を内部被覆24の上に巻付けることにより形成されるが、勿論これに限定されるものではなく、例えば縦添え等の他の適宜な方法により形成することもできる。なお、この遮蔽体20の上には、図1及び図2に示すように、外部被覆26が設けられ、この外部被覆26は電波の利用が必要でない区間(遮蔽体20が切り開かれた部分22以外の部分)において、漏洩同軸ケーブル10を外的環境から保護する。
【0018】なお、遮蔽体20は、カッター等の適宜な手段により、電波を放射する長さ部分L(図1参照)を切除することにより切り開かれる。また、図示の実施の形態では、図1及び図3に示すように、遮蔽体20と共に外部被覆26をも切り開いたが、外部被覆26は、必ずしも切り開く必要はない。すなわち、遮蔽体20を形成して、電波を放射する長さ部分L(図1参照)を切り開いた後に、外部被覆26を漏洩同軸ケーブル10の全長にわたって設けてもよい。この場合には、遮蔽体20が切り開かれた部分22においても、この外部被覆26により外部導体16等が保護されるため、上述した内部被覆24は必ずしも設ける必要はない。このことは、以下に述べる他の実施の形態ついても同様である。
【0019】次に、本発明の他の実施の形態について、図4乃至図6を参照しながら説明する。まず、図1乃至図3に示す実施の形態においては、電波の利用が必要でない区間において、遮蔽体20は、スロット18A、18Bを含む外部導体16の全周を覆うように形成したが、スロット18A、18Bからの電波の輻射が充分に抑制されれば、減衰量も大きな影響を受けないと考えられる。従って、遮蔽体20は、少なくとも、スロット18A、18Bを覆っていれば、外部導体16からの不必要な電波の輻射を効率的に抑制することができるため問題はなく、図4に示すように、スロット18A、18Bに対応する部分以外の部分が符号28で示すように開いていてもよい。
【0020】一方、電波を放射する長さ部分L(図1参照)において、図1乃至図3に示す実施の形態では、遮蔽体20をスロット18A、18Bに対応して開口するように切り開いたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、遮蔽体20は、図5及び図6に示すように、外部導体16の全周にわたって切り開かれていてもよい。これによっても、電波の利用が必要な区間においてのみ電波を有効に放射することができる。なお、この場合、図5では、電波の放射が必要でない区間においては、外部導体16の全周が遮蔽体20により覆われているのが示されているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、上述した図4に示す電波の放射が必要でない区間においてスロット18A、18B部分のみが遮蔽体20により覆われている実施の形態における遮蔽体20が切り開かれた部分22において、遮蔽体20を外部導体16の全周にわたって切り開いてもよい。
【0021】これらの図4に示す実施の形態、また図5及び図6に示す実施の形態は、例えば、漏洩同軸ケーブル10の断面径が、電波の波長に比べて著しく小さくはなく、漏洩同軸ケーブル10の断面がある程度の遮蔽効果を発揮することができる場合等にも、広く用いることができる。
【0022】なお、本発明の漏洩同軸ケーブル10は、移動体の種類を問わず、トラックやエレベーター等の様々な移動体の無線通信システム、無線制御システムに用いることができる。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、上記のように、電波の利用が必要でない区間において、少なくともスロットを覆うように遮蔽体を設けているため、スロットからの電波の不必要な放射が充分に抑制され、漏洩同軸ケーブルが通常の遮蔽型同軸ケーブルと同様の働きをして漏洩による減衰量の増大を抑制することができる一方、電波の利用が必要な区間においてのみ遮蔽体が切り開かれた部分から電波が放射されるので、電波を有効に利用することができる実益がある。
【0024】特に、本発明によれば、電波を利用が必要な区間(すなわち、電波を放射する長さ部分)が離れている場合にも、1本の漏洩同軸ケーブルの布設で対応することができ、布設に手間をかけることなく簡易に電波の有効利用を実現することができる上に、コネクタ等による接続を要しないため、長期信頼性も確保することができる実益がある。また、従来技術に比べ、漏洩同軸ケーブル自体が、電波の不必要な放射を抑制する遮蔽体を備えているため、トンネル等の壁面を有する場所は勿論のこと、開放された空間においても電波を確実に有効利用することができる点で有利である。更に、例えば、トラック等のように常に漏洩同軸ケーブルと一定の間隔を保って移動するとは限らない移動体に対しても電波を確実に受信させつつ、また、移動体に超電導磁石等の複雑な設備を設けることなく、電波の有効利用を簡易に図ることができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る漏洩同軸ケーブルの概略斜視図である。
【図2】図1のA−A線における漏洩同軸ケーブルの断面図である。
【図3】図1のB−B線における漏洩同軸ケーブルの断面図である。
【図4】本発明に係る漏洩同軸ケーブルの他の実施の形態の断面図である。
【図5】本発明に係る漏洩同軸ケーブルの更に他の実施の形態の概略斜視図である。
【図6】図5のA−A線における漏洩同軸ケーブルの断面図である。
【図7】従来の一般的な漏洩同軸ケーブルの概略斜視図である。
【符号の説明】
10 漏洩同軸ケーブル
12 中心導体
14 絶縁体
16 外部導体
18 スロット群
18A、18B スロット
20 遮蔽体
20a 開口
22 遮蔽体が切り開かれた部分
24 内部被覆
26 外部被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】 中心導体と前記中心導体の上に絶縁体を介して設けられたスロット付の外部導体とを備えた漏洩同軸ケーブルにおいて、前記外部導体の少なくとも前記スロットを覆うように設けられた遮蔽体を更に備え、前記遮蔽体は、電波を放射する長さ部分のみが切り開かれていることを特徴とする漏洩同軸ケーブル。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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