説明

漏洩探知における雑音除去方法

【課題】 漏洩探知をする際において、作業時間や場所にかかわらず、漏洩音以外の外来雑音を効果的に除去することができる雑音除去方法を提供する。
【解決手段】 地面又は壁面に設置した振動センサ1による漏洩音及び外来雑音が混在した信号を高速フーリエ変換して周波数成分から成る信号S1に変換する。周波数成分の中で最も大きいパワーを有する周波数成分の出現頻度をカウントして、所定時間内における出現頻度が最大となった周波数成分の当該周波数を漏洩音の中心周波数Fと判定する。中心周波数Fを基準として通過周波数k×Fを選定し、中心周波数F及び各通過周波数k×Fについて所定の帯域幅Wを設定したフィルタXを作成する。周波数成分から成る出力信号S1をこのフィルタXに掛けて、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2を生成する。合成信号S2を高速逆フーリエ変換して外来雑音を除去した漏洩音のみから成る出力信号に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道管、ガス管等の埋設管からの水、ガス等の漏洩の有無を地面や壁面等において探知する際に、自動車、歩行者等の交通騒音、深夜営業する店舗、自動販売機等の生活騒音等の雑音を効果的に除去する雑音除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道管、ガス管等の埋設管からの水、ガス等の漏洩の有無を地面や壁面等において探知する際に、水、ガス等の漏洩音以外の雑音を除去する方法として、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等を使用する方法が知られている。
ここで、バンドパスフィルタとは、特定範囲の周波数の信号のみを通過させ、それ以外の周波数の信号は減衰させるもの、ローパスフィルタとは、特定周波数以下の周波数の信号のみを通過させ、それ以外の周波数の信号は減衰させるもの、ハイパスフィルタとは、特定周波数以上の周波数の信号のみを通過させ、それ以外の周波数の信号は減衰させるものである。
【0003】
又、多数の振動センサを水道管等が埋設された地面や壁面等に設置し、それら振動センサの出力信号を比較して雑音を除去する方法、特許文献1に記載されるように雑音を除去する方法等も知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−230879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、バンドパスフィルタ等を使用する方法は、特定周波数帯域の信号を通過させ、それ以外の周波数帯域の信号を減衰させるものであるから、自動車、歩行者等の交通騒音のような突発的で、全周波数帯域に影響を及ぼす雑音は、どの周波数において発生しているか特定することができず、効果的に除去することができなかった。深夜営業する店舗、自動販売機等の生活騒音も、同様に、効果的に除去することができなかった。
【0006】
又、多数の振動センサを設置し、出力信号を比較する方法は、多数の振動センサを使用するためにシステム規模が大きくなり、作業人員及び時間もかかるため、作業員一人で実施するのは困難であった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術における問題点を解決するべく為されたものであって、その目的とするところは、埋設管からの水、ガス等の漏洩の有無を探知する際に、漏洩探知作業をする時間や場所にかかわらず、水、ガス等の漏洩音を確実に抽出するために、漏洩音以外の交通騒音、生活騒音等の雑音を効果的に除去することができる雑音除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の漏洩探知における雑音除去方法は、漏洩音及び外来雑音が混在した信号を周波数成分から成る信号S1に変換し、周波数成分の中で最も大きいパワーを有する周波数成分の出現頻度をカウントして、所定時間内における出現頻度が最大となった周波数成分における当該周波数を漏洩音の中心周波数Fと判定し、得られた中心周波数Fについて所定の帯域幅を設定したフィルタを作成し、周波数成分から成る出力信号S1をこのフィルタに掛けて、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2を生成し、外来雑音を除去した出力信号に変換することを特徴とする。
【0009】
ここで、漏洩音及び外来雑音が混在した信号は、地面又は壁面に設置した振動センサによって出力されるようにしてもよい。
【0010】
又、得られた中心周波数Fを基準として通過周波数k×Fを選定し、中心周波数F及び各通過周波数k×Fについて所定の帯域幅を設定したフィルタを作成し、周波数成分から成る出力信号S1をこのフィルタに掛けて、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2を生成するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の漏洩探知における雑音除去方法について、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明の漏洩探知における雑音除去方法を示す説明図、図2は、本発明の雑音除去方法を水道管の漏水探知について実施した場合における説明図である。
【0012】
本発明の漏洩探知における雑音除去方法は、漏洩音及び外来雑音を補足する振動捕捉手段と、振動捕捉手段による出力信号から外来雑音を除去して漏洩音のみを抽出する漏洩音抽出手段と、を設けることによって実施される。
【0013】
図2に示すように、漏洩音及び外来雑音を補足する振動捕捉手段としては、地面又は壁面に設置される振動センサ1等を採用することができる。
【0014】
振動捕捉手段による出力信号から外来雑音を除去して漏洩音のみを抽出する漏洩音抽出手段としては、振動捕捉手段による出力信号を高速フーリエ変換して周波数成分に変換する高速フーリエ変換処理部3と、出力信号の周波数成分の中で最も大きいパワーを有する周波数成分の当該周波数を漏洩音の中心周波数とする中心周波数判定部4と、この中心周波数に適宜係数を掛けて通過させる周波数成分を決定するフィルタ作成部5と、周波数成分から成る出力信号を作成したフィルタに掛けて漏洩音を抽出する漏洩音抽出処理部6と、通過した周波数成分から成る出力信号を高速逆フーリエ変換して出力信号に変換する高速逆フーリエ変換処理部7と、から成る漏洩探知装置2を構成する。
【0015】
本発明の漏洩探知における雑音除去方法では、先ず、図1に示すように、振動センサ1等の振動捕捉手段によって捕捉された漏洩音及び外来雑音が混在した信号は、高速フーリエ変換処理部3によって高速フーリエ変換され、周波数成分から成る信号S1に変換される。そして、周波数成分から成る信号S1は、中心周波数判定部4へと送信される。
【0016】
中心周波数判定部4は、出力信号を高速フーリエ変換する毎に、周波数成分の中で最も大きいパワーを有する周波数成分を検索し、その周波数成分の出現頻度をカウントして、所定時間内において出現頻度が最大となった周波数成分の当該周波数を漏洩音の中心周波数Fと判定する。
【0017】
水道管、ガス管等の埋設管からの水、ガス等の漏洩音は定常的に発生しているものであるのに対し、自動車、歩行者等の交通騒音、深夜営業する店舗、自動販売機等の生活騒音等の外来雑音は非定常的に発生するものであるから、最も大きいパワーを有する周波数成分の出現頻度をカウントすれば、所定時間内において出現頻度が最大となる周波数成分の当該周波数を漏洩音の中心周波数と判定することができる。
【0018】
フィルタ作成部5は、得られた中心周波数Fを基準とし、中心周波数Fに適宜係数kを掛けて通過周波数k×Fを選定し、中心周波数F及び各通過周波数k×Fに対して、所定の帯域幅Wを設定してフィルタXを作成する。
【0019】
漏洩音の周波数成分は、通常、中心周波数Fに適宜係数kを掛けた周波数Fnにおいて極大値を示すことが経験的に知られていることから、中心周波数Fに適宜係数kを掛けて通過周波数k×Fを選定し、フィルタを作成するものである。
図1には、k1=0.4、k2=1.4、k3=2.0に設定して作成したフィルタXを示した。
【0020】
漏洩音抽出処理部6は、周波数成分から成る出力信号S1を、上記の如く作成したフィルタXに掛けて、中心周波数F及び各通過周波数k×F以外の周波数成分を減衰させ、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2を生成する。
【0021】
そして、選択された周波数成分から成る合成信号S2は、高速逆フーリエ変換処理部7によって高速逆フーリエ変換され、外来雑音が減衰された漏洩音のみから成る出力信号に変換される。
【実施例1】
【0022】
次に、本発明の雑音除去方法を水道管の漏水探知について実施した場合を、図2を参照して説明する。
【0023】
本実施例においては、水道管11が埋設された地面に振動センサ1を設置し、振動センサ1の出力コードを漏洩探知装置2に接続し、漏洩探知装置2にヘッドフォン8の入力コードを接続した。
【0024】
水道管11には漏水点11aが存在し、漏水点11aにおいて発生する漏水音は、地中を伝播して振動センサ1によって捕捉される。
又、地上において往来する自動車、歩行者等の交通騒音も、地中を伝播して振動センサ1によって捕捉される。
【0025】
そして、振動センサ1によって捕捉された漏水音及び交通騒音は、電気信号として漏洩探知装置2に入力される。
【0026】
漏洩探知装置2は、上記の如く、高速フーリエ変換処理部3、中心周波数判定部4、フィルタ作成部5、漏洩音抽出処理部6及び高速逆フーリエ変換処理部7から構成される。
よって、振動センサ1による出力信号は、高速フーリエ変換処理部3によって周波数成分から成る信号S1に変換され、中心周波数判定部4へと送信される。
【0027】
中心周波数判定部4によって、周波数成分の中で最も大きいパワーを有する周波数成分の出現頻度がカウントされ、所定時間内において出現頻度が最大となった周波数成分の当該周波数が漏洩音の中心周波数Fと判定され、フィルタ作成部5によって、得られた中心周波数Fを基準として通過周波数k×Fが選定され、中心周波数F及び各通過周波数k×Fについて所定の帯域幅Wを設定したフィルタXが作成される。
【0028】
次に、漏洩音抽出処理部6によって、周波数成分から成る出力信号S1はフィルタXに掛けられて、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2が生成され、高速逆フーリエ変換処理部7へと送信され、外来雑音成分が減衰された合成信号が生成される。
【0029】
振動センサ1の出力信号波形図及びスペクトログラムは、図3に示す通りであり、本発明の雑音除去方法を適用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムは、図5に示す通りであった。
【0030】
一方、漏洩探知装置2に代えてバンドパスフィルタを使用して、同様に、振動センサ1による出力信号から雑音を除去するようにした。
その結果得た出力信号波形図及びスペクトログラムは、図4に示す通りであった。
【0031】
図4と図5を対比してみれば、本発明の漏洩探知における雑音除去方法によっても、バンドパスフィルタを使用した方法によっても、外来雑音と漏洩音とのパワー差は約17dBであり、本発明の漏洩探知における雑音除去方法は、バンドパスフィルタを使用した方法と同程度の雑音低減効果があることが分かる。
【0032】
しかし、雑音除去の本質的効果は、SNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)の大小によって決定される。すなわち、雑音低減効果は同程度であっても、信号(漏洩音)を確実に捕捉しているか否かによって、雑音除去の本質的効果の程度は判断され、SNRが高いほど雑音除去の本質的効果は高いと言える。
【0033】
漏水現場Aにおける、振動センサ1の出力信号波形図及びスペクトログラムを図6(A)に、バンドパスフィルタを使用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムを図7(A)に、本発明の雑音除去方法を適用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムを図8(A)に示した。
又、漏水現場Bにおける、振動センサ1の出力信号波形図及びスペクトログラムを図6(B)に、バンドパスフィルタを使用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムを図7(B)に、本発明の雑音除去方法を適用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムを図8(B)に示した。
ここで、印▲は漏水現場Aにおける漏水音の中心周波数、印△は漏水現場Bにおける漏水音の中心周波数を指示している。
【0034】
図7(B)と図8(B)を対比してみれば、漏水現場Aにおけると同設定にしてバンドパスフィルタを使用した場合には、漏水現場Bにおいて漏水音を確実に捕捉することができないのに対して、本発明の雑音除去方法を適用した場合には、漏水現場Bにおいても漏水音を確実に捕捉することができることが分かる。
【0035】
よって、ヘッドフォン8からは外来雑音が除去された漏水音のみから成る信号が出力されるから、作業者は容易かつ確実に、水道管11における漏水点11aを探知することができる。
【0036】
以上のように、本発明の漏洩探知における雑音除去方法によれば、埋設管からの水、ガス等の漏洩の有無を探知する際に、漏洩音以外の交通騒音、生活騒音等の外来雑音を効果的に除去することができるから、漏洩探知作業をする時間や場所にかかわらず、水、ガス等の漏洩音を確実に抽出して、埋設管における漏洩点を容易かつ確実に探知することができる。
【0037】
又、本発明の雑音除去方法によれば、外来雑音の有無に係わらず、漏洩音の中心周波数を判定できるから、バンドパスフィルタを使用する場合のように、漏洩現場毎に通過周波数帯域を設定する必要はなく、よって、通過周波数帯域を不適切に設定して、漏洩音を捕捉できないという危険性を回避することができる。
【0038】
さらに、本発明の雑音除去方法によれば、中心周波数Fに適宜係数kを掛けて通過周波数k×Fを選定し、フィルタを作成するから、バンドパスフィルタを使用する場合のように、一定周波数帯域のみのスペクトルではなく、実際の漏洩音に近いスペクトルを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の漏洩探知における雑音除去方法を示す説明図である。
【図2】本発明の漏洩探知における雑音除去方法を水道管の漏水探知について実施した場合における説明図である。
【図3】地面に設置した振動センサの出力信号波形図及びスペクトログラムである。
【図4】バンドパスフィルタを使用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムである。
【図5】本発明の雑音除去方法を適用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムである。
【図6】地面に設置した振動センサの出力信号を示す出力信号波形図及びスペクトログラムであって、(A)は漏水現場Aにおけるもの、(B)は漏水現場Bにおけるものである。
【図7】バンドパスフィルタを使用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムであって、(A)は漏水現場Aにおけるもの、(B)は漏水現場Bにおけるものである。
【図8】本発明の雑音除去方法を適用して雑音除去した後の出力信号波形図及びスペクトログラムであって、(A)は漏水現場Aにおけるもの、(B)は漏水現場Bにおけるものである。
【符号の説明】
【0040】
1 振動センサ
2 漏洩探知装置
3 高速フーリエ変換処理部
4 中心周波数判定部
5 フィルタ作成部
6 漏洩音抽出処理部
7 高速逆フーリエ変換処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漏洩音及び外来雑音が混在した信号を周波数成分から成る信号S1に変換し、周波数成分の中で最も大きいパワーを有する周波数成分の出現頻度をカウントして、所定時間内における出現頻度が最大となった周波数成分における当該周波数を漏洩音の中心周波数Fと判定し、得られた中心周波数Fについて所定の帯域幅を設定したフィルタを作成し、周波数成分から成る出力信号S1をこのフィルタに掛けて、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2を生成し、外来雑音を除去した出力信号に変換することを特徴とする漏洩探知における雑音除去方法。
【請求項2】
漏洩音及び外来雑音が混在した信号は、地面又は壁面に設置した振動センサによって出力されることを特徴とする請求項1に記載の漏洩探知における雑音除去方法。
【請求項3】
得られた中心周波数Fを基準として通過周波数k×Fを選定し、中心周波数F及び各通過周波数k×Fについて所定の帯域幅を設定したフィルタを作成し、周波数成分から成る出力信号S1をこのフィルタに掛けて、漏洩音の周波数成分を通過させた合成信号S2を生成することを特長とする請求項1又は2に記載の漏洩探知における雑音除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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