説明

潤滑剤組成物

【課題】第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物において、耐光性を発揮させることの容易な潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】潤滑剤組成物には、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種の基油、及び第三リン酸カルシウムが含有されている。潤滑剤組成物には、さらにフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物が含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有する潤滑剤組成物は、例えば耐熱性等に優れることが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平05−093193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有する潤滑剤組成物は、耐熱性等に優れるといった利点があるものの、配合する添加剤の種類によっては、例えば太陽光が照射された際に変色し易いという問題がある。こうした変色は、仮に潤滑剤組成物としての潤滑性能は維持されていたとしても、外観上の品質を低下するものであり、加えて潤滑剤組成物が例えば摺動部位周辺の塗装面に付着した状態で放置されると、塗装面の変色を招くことにもなり得る。
【0004】
本発明は、第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物において、耐光性が発揮される構成を見出すことでなされたものである。本発明の目的は、第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物において、耐光性を発揮させることの容易な潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の潤滑剤組成物は、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種の基油、及び第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物において、フェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物を含有することを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の潤滑剤組成物において、前記基油が、合成油であり、前記有機化合物が、前記フェノール系化合物からなる第1の成分と、前記ベンゾトリアゾール系化合物、前記ベンゾフェノン系化合物、及び前記ヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種からなる第2の成分とを含むことを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤組成物において、前記フェノール系化合物が、3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステルであることを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物において、前記有機化合物の含有量が0.1〜10質量%であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有させた場合において、耐光性を発揮させることの容易な潤滑剤組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の潤滑剤組成物を具体化した実施形態を詳細に説明する。本実施形態における潤滑剤組成物には、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種の基油と、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムとが含有されている。この潤滑剤組成物には、耐光性を高めるために、フェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物が含有されている。
【0011】
基油は、潤滑剤組成物に求められるちょう度等の物性に応じて、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種を適宜選択することができる。基油の動粘度は、例えば100℃において2〜40mm/sの範囲であることが好ましい。
【0012】
鉱油は、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分をさらに精製して得られる。その精製手段としては、例えば溶剤精製、水素化精製、脱ろう、水素化分解等が挙げられる。鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が挙げられる。具体的には、API(American Petroleum Institute:米国石油協会)の規定する基油カテゴリーにおいてグループ1、グループ2及びグループ3に属する鉱油から選ばれる少なくとも一種を使用することができる。
【0013】
合成油の具体例としては、ポリオレフィン油、合成エステル油、合成エーテル油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油等が挙げられる。ポリオレフィン油としては、各種オレフィンの重合物、又は、その重合物の水素化物が挙げられる。ポリオレフィン油を構成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、及び炭素数5以上のα−オレフィンが挙げられる。
【0014】
合成エステル油としては、例えばヒンダードエステル油(ポリオールエステル油)、二塩基酸のジエステル油、ポリオキシアルキレングリコールエステル油等が挙げられる。ヒンダードエステル油は、多価アルコールと脂肪酸とのエステルである。ヒンダードエステル油を形成する多価アルコールの具体例としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。ヒンダードエステルを形成する脂肪酸の具体例としては、炭素数7〜18の飽和又は不飽和脂肪酸、オレイン酸等が挙げられる。二塩基酸のジエステル油は、脂肪族二塩基酸と1価のアルコールとのエステルである。二塩基酸のジエステル油を形成する脂肪族二塩基酸の具体例としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカノ2酸、フタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。二塩基酸のジエステル油を形成する1価のアルコールの具体例としては、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコール、トリデシルアルコール等が挙げられる。こうした二塩基酸のジエステル油の具体例としては、ジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルアジペート(DOA)等が挙げられる。ポリオキシアルキレングリコールエステルの具体例としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0015】
合成エーテル油としては、例えばポリオキシアルキレングリコールエーテル油、ポリフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油等が挙げられる。
上記鉱油及び合成油の中でも、耐光性をさらに高めることができるという観点から、基油にはポリオレフィン油が含まれることが好ましく、ポリαオレフィン油が含まれることがより好ましい。
【0016】
潤滑剤組成物中における上記基油の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
第三リン酸カルシウムとしては、Ca(POを使用することができる。また、〔Ca(PO・Ca(OH)で表されるヒドロキシアパタイトの化学構造を有している化合物が好適に使用される。
【0017】
潤滑剤組成物における第三リン酸カルシウムの含有量は、潤滑剤組成物の用途に適したちょう度となるように適宜調整することができる。潤滑剤組成物中における第三リン酸カルシウムの含有量は、好ましくは2〜68質量%、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは8〜55質量%である。潤滑剤組成物中における第三リン酸カルシウムの含有量が2〜68質量%である場合、ちょう度を調整することが容易となる。
【0018】
次に、潤滑剤組成物に含有される有機化合物について説明する。
フェノール系化合物としては、例えば3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステル、2−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−アルキルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−アルコキシフェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメルカプトオクチルアセテート、アルキル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,2´−メチレンビス(4−アルキル−6−t−ブチルフェノール)、ビスフェノール、ポリフェノール、p−t−ブチルフェノール−ホルムアルデヒド縮合物及びp−t−ブチルフェノール−アセトアルデヒド縮合物が挙げられる。
【0019】
2,6−ジ−t−ブチル−4−アルキルフェノールとしては、例えば2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール及び2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール等が挙げられる。
【0020】
2,6−ジ−t−ブチル−4−アルコキシフェノールとしては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール及び2,6−ジ−t−ブチル−4−エトキシフェノールが挙げられる。
【0021】
アルキル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとしては、例えばn−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−ブチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート及び2´−エチルヘキシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。
【0022】
2,2´−メチレンビス(4−アルキル−6−t−ブチルフェノール)としては、例えば2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)及び2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)が挙げられる。
【0023】
ビスフェノールとしては、例えば4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4´−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2−(ジ−p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−シクロヘキシリデンビス(2,6−t−ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、2,2´−チオ−[ジエチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4´−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)及び2,2´−チオビス(4,6−ジ−t−ブチルレゾルシノール)が挙げられる。
【0024】
ポリフェノールとしては、例えばテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス−[3,3´−ビス(4´−ヒドロキシ−3´−t−ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、2−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル−4−(2″,4″−ジ−t−ブチル−3″−ヒドロキシフェニル)メチル−6−t−ブチルフェノール及び2,6−ビス(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルベンジル)−4−メチルフェノールが挙げられる。
【0025】
フェノール系化合物は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。フェノール系化合物の中でも、3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステルが好ましい。
【0026】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチル−5´−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert−ブチル−5´−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−3´−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5´−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパノール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンエタノール、3−(5−メチル−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1−メチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパノール、及び1,1−ビス−[2−ヒドロキシ−3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(2−ヒドロキシエチル)−フェニル]メタンが挙げられる。
【0027】
ベンゾトリアゾール系化合物は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン及び1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノン)−ブタンが挙げられる。
【0028】
ベンゾトリアゾール系化合物は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
ヒンダードアミン系化合物としては、例えば3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−メチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジノールとトリデカノールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとトリデカノールとの縮合物、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β´,β´−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、及び1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β´,β´−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物が挙げられる。
【0029】
ヒンダードアミン系化合物は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
潤滑剤組成物には、フェノール系化合物からなる第1の成分と、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種からなる第2の成分とが含まれることが好ましい。第1の成分であるフェノール系化合物は、上記基油としての合成油、及び増ちょう剤としての第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物に含有されることで、同潤滑剤組成物の酸化を抑制する。こうした潤滑剤組成物に第2の成分を含有させることで、同潤滑剤組成物の耐光性をより高めることができる。
【0030】
潤滑剤組成物中における有機化合物の含有量は、潤滑剤組成物全体を100質量%としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜10質量%である。潤滑剤組成物中における有機化合物の含有量が0.1〜10質量%の場合、優れた耐光性を発揮させることが容易であり、かつ耐光性以外の物性に対して有機化合物が影響することを極力抑制することができる。
【0031】
潤滑剤組成物には、その耐水性を高めるという観点から界面活性剤を含有させることが好ましい。潤滑剤組成物の耐水性は、界面活性剤の有する親水基が水を吸着する作用により高められる。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤に分類される。界面活性剤は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
【0032】
界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤、より好ましくは脂肪酸エステル系界面活性剤である。脂肪酸エステル系界面活性剤は、上記有機化合物の含有による作用効果を阻害し難い傾向にある。
【0033】
脂肪酸エステル系界面活性剤としては、上記基油及び第三リン酸カルシウムに対する親和性が得られ易いという観点から、好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種、より好ましくはソルビタン脂肪酸エステルである。
【0034】
脂肪酸エステル系界面活性剤の脂肪酸としては、炭素数が12〜22の飽和脂肪酸又は同じく炭素数が12〜22の不飽和脂肪酸が好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸及びオレイン酸のモノ・ジグリセライド等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えばソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソレビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート等が挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えばショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0035】
潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.2〜18質量%、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量が18質量%未満の場合、ちょう度の調整が容易となるとともに経済的に有利である。また、潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量は、上記第三リン酸カルシウム100質量部に対して好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、さらに好ましくは5〜20質量部である。潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量が第三リン酸カルシウム100質量部に対して1〜40質量部の場合、ちょう度の調整が容易であり、かつ、経済的に有利である。
【0036】
潤滑剤組成物には、必要に応じて防錆剤、極圧剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤、抗菌剤、上記有機化合物以外の添加剤等を本実施形態の作用効果を阻害しない範囲で含有させることができる。
【0037】
なお、潤滑剤組成物中には、同組成物の耐光性を維持するという観点から、ヒンダードアミン系化合物以外の有機アミン系化合物を含有させないことが好ましい。有機アミン系化合物としては、例えばナフチルアミン系化合物、フェニレンジアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物及びフェノチアジン系化合物が挙げられる。
【0038】
潤滑剤組成物は、上記基油、第三リン酸カルシウム、及び有機化合物を常法にしたがって混合することにより調製することができる。潤滑剤組成物を調製する際には、適宜加熱してもよい。また、潤滑剤組成物を調製する際には、第三リン酸カルシウムを効率的に分散させるという観点から、例えばロールミル等を用いて混捏することが好適である。このように構成された潤滑剤組成物は半固体状をなし、例えば軸受等の摺動部位を有する各種機械に使用される。
【0039】
ここで、潤滑剤組成物は、例えば太陽光が照射された際に褐変することがある。こうした褐変は、仮に潤滑剤組成物としての潤滑性能は維持されていたとしても、外観上の品質を低下するものであり、加えて潤滑剤組成物が例えば摺動部位周辺の塗装面に付着した状態で放置されると、その塗装面の変色を招くことにもなり得る。このような褐変及びそれに基づく不具合は、各種添加剤の影響を受け易い。特に、第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物においては、各種添加剤の影響を受け易いおそれがある。この点、本実施形態の潤滑剤組成物は、上記有機化合物を含有している。このため、上記基油及び第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物の耐光性を発揮させることができるようになる。
【0040】
本実施形態の潤滑剤組成物は、上記構成により耐光性が発揮させるため、特に屋外において設置又は使用される各種機械の潤滑剤として好適に使用することができる。屋外用途としては、例えば自動車、土木建設機械、チェンソー、屋外風車、太陽電池の可動部位、船外機、農業機械(トラクター、田植機、耕うん機、コンバイン等)、鉄道分野(分岐器、鉄道車両の可動部等)等が挙げられる。なお、本実施形態の潤滑剤組成物は屋外の使用に限らず、屋内であっても、例えば紫外線殺菌装置、半導体製造設備等の潤滑剤として好適に使用することができる。
【0041】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の潤滑剤組成物には、フェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物が含有されている。この構成によれば、耐光性を発揮させることができる。従って、本実施形態の潤滑剤組成物では、例えば太陽光の照射に伴って同組成物が褐変するという不具合が抑制されるため、同組成物の外観上の品質が維持されるようになる。また、潤滑剤組成物が例えば摺動部位周辺の塗装面に付着した状態で放置された場合であっても、組成物の褐変に基づいて塗装面が変色するという不具合を抑制することができる。
【0042】
(2)潤滑剤組成物の酸化が進行した場合、例えばちょう度等の物性が変化するおそれがある。この点、第1の成分であるフェノール系化合物が、基油としての合成油、及び増ちょう剤としての第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物に含有されることで、同潤滑剤組成物の酸化が抑制される。従って、潤滑剤組成物の酸化に基づいて生じる不具合を抑制することができる。さらに、こうした潤滑剤組成物に第2の成分を含有させることで、同潤滑剤組成物の耐光性をさらに高めることができる。
【0043】
(3)潤滑剤組成物には、フェノール系化合物として、3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステルが含有されることが好ましい。この場合、潤滑剤組成物の酸化を抑制し、かつ、耐光性を発揮させることができるようになる。
【0044】
(4)潤滑剤組成物における有機化合物の含有量は、0.1〜10質量%であることが好ましい。このように構成した場合、優れた耐光性を得ることが容易であり、かつ耐光性以外の物性に対して有機化合物が影響することを極力抑制することができる。
【0045】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・前記ヒンダードアミン系化合物以外の有機アミン系化合物を含有しない潤滑剤組成物。
【0046】
・前記有機アミン系化合物が、ナフチルアミン系化合物、フェニレンジアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物及びフェノチアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物である潤滑剤組成物。
【実施例】
【0047】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜4)
基油、第三リン酸カルシウム、有機化合物等を試作釜に投入し、同試作釜にて100℃まで加熱するとともに撹拌した後、三本ロールミルにて混捏することで、潤滑剤組成物を調製した。表1には、潤滑剤組成物に含まれる各成分の含有量を質量%で示している。表1に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
【0048】
鉱油は、パラフィン系鉱油の溶剤精製基油であり、その性状は次のとおりである。40℃における動粘度は472.6mm/sであり、100℃における動粘度は31.24mm/sであり、粘度指数は96であり、流動点は−15℃である。
【0049】
第三リン酸カルシウムは、〔Ca(PO・Ca(OH)で表されるヒドロキシアパタイトの化学構造を有するものである。
フェノール系化合物は、ヒンダードフェノール化合物3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステル(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガノックスL135)である。
【0050】
ベンゾトリアゾール系化合物は、2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(株式会社ADEKA製、商品名:アデカスタブLA−32)である。
ベンゾフェノン系化合物は、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン(株式会社ADEKA製、商品名:アデカスタブ1413)である。
【0051】
ヒンダードアミン系化合物は、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(株式会社ADEKA製、商品名:アデカスタブLA−52)である。
【0052】
界面活性剤は、ソルビタントリオレエートである。
(比較例1及び2)
比較例1及び2においては、表1に示される組成に変更した以外は、各実施例と同様にして潤滑剤組成物を調製した。
【0053】
(実施例5〜7)
実施例5〜7においては、表2に示される組成に変更した以外は、実施例1〜4と同様にして潤滑剤組成物を調製した。表2には、潤滑剤組成物に含まれる各成分の含有量を質量%で示している。なお、表2中の合成油は、ポリαオレフィン油(PAO40)であり、その性状は次の通りである。40℃における動粘度は400mm/sであり、100℃における動粘度は400mm/sであり、粘度指数は152であり、流動点は−39℃である。
【0054】
表2に示される有機化合物及び界面活性剤の詳細は、実施例1〜4に記載したものと同じである。
<組成物及び塗装面の変色試験>
鋼板にアクリル焼付き塗装を施した塗装板を準備した。その塗装板の塗装面上に各例の潤滑剤組成物を直径約8mm、厚さ2mmの円板状をなすように載置した。塗装面上の組成物に対して人工太陽照明灯(セリック社製、形式:SXL−5004V4S形)を用いて人工太陽光を7日間照射した。なお、自然太陽光の照度は、1日の平均において約30,000ルクスである。上記人工太陽照明灯から照射される人工太陽光の照度は30,000ルクスを超えるとともに、同人工太陽光の分光分布は、自然太陽光の分光分布に極めて近いものである。
【0055】
このようにして人工太陽光を照射した後に、組成物の変色度合いについて、以下の評価基準に従って4段階で評価した。
(評価基準)
変色はほとんど確認されない:評価“3”
僅かに変色が認められる:評価“2”
変色が認められる:評価“1”
強い変色(黒変)が認められる:評価“0”
次に、上記変色試験を行った組成物を脱脂綿で完全に拭き取って除去した後、塗装面の変色度合いについて上記評価基準に従って4段階で評価した。
【0056】
各例の組成物及び塗装面の評価結果を各表に併記する。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

表1及び表2の結果から明らかなように、各実施例では組成物及び塗装面のいずれについても、変色試験の結果は“2”又は“3”である。これに対して、比較例1及び2では、各実施例と同様に第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有する潤滑剤組成物であるものの、組成物の変色試験の結果は“0”であった。こうした結果から、各実施例の潤滑剤組成物では耐光性が発揮されることがわかる。
【0059】
また、実施例5〜7においては、フェノール系化合物からなる第1の成分と、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種からなる第2の成分とを含んでいる。これら実施例5〜7の潤滑剤組成物は、塗装面の変色を抑制する作用効果に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種の基油、及び第三リン酸カルシウムを含有する潤滑剤組成物において、フェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及びヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物を含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記基油が、合成油であり、前記有機化合物が、前記フェノール系化合物からなる第1の成分と、前記ベンゾトリアゾール系化合物、前記ベンゾフェノン系化合物、及び前記ヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも一種からなる第2の成分とを含むことを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記フェノール系化合物が、3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記有機化合物の含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2010−24383(P2010−24383A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188818(P2008−188818)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】