説明

潤滑油回路を有する外燃機関

【課題】熱再生式エリクソンサイクル外燃焼機関を提供する。作動流体を等温圧縮や等温膨張にすることで出力が増大し効率も改善される実用的で簡易な方法が求められている。
【解決手段】膨張機2から吐出された高圧の作動流体中に混在する潤滑油を分離器3で分離し外部に設ける大気や市水等低温度の冷熱で冷却後圧縮工程中の容積空間にまた、エンジン排熱や燃焼熱等中高温度熱で加熱後膨張工程中の容積空間にそれぞれ圧力差で注入させ前者では作動流体自体を冷却し略等温圧縮をまた後者では作動流体を加熱し略等温膨張を得る。圧縮機1及び膨張機2をマルチベーン式とする場合は潤滑油を供給する通路はそれぞれローターおよび内部のベーンとシリンダーの相対位置関係が圧縮工程及び膨張行程時のみ連通するような構造をフランジとローター相互に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は理論的に熱機関として最高効率が期待できるカルノーサイクルと等価な熱再生式エリクソンサイクル外燃機関を実現させることを目指すものである。そのためには主要構成機構である圧縮機及び膨張機を容積型回転式(ロータリー式)とし、内部に封入される窒素やヘリウム等の気体状態の作動流体(作動ガス)をそれぞれ圧縮は低温度下で等温圧縮加圧、膨張は高温度下で等温膨張減圧し、圧縮後の低温の作動流体は熱再生器で膨張後の高温の作動流体と互いに顕熱交換し前者は後者により予熱されてから外部熱源により加熱器で加熱されたのち膨張機に供給され、後者は逆に前者により予冷されてから冷却器で冷却されたのち圧縮機に供給されることが必要である。本発明にかかわる熱機関はその条件に近づけるよう特に潤滑油回路を効果的に活用することを目指す。この結果本方式外燃機関により高効率、燃料や排熱等熱源の多様性、静粛性、排気の清浄性、高速性、小型軽量性、簡易構造性等の多くの特性を有する熱機関が得られ、省エネルギー性や対環境調和性等を必要とするエネルギー機器応用分野全般に広く貢献でき新技術分野を開拓することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
熱再生式エリクソンサイクル外燃機関は同様の外燃機関の一種であるスターリングサイクルを中心に従来主流の内燃機関では得にくい前述のような優れた特性を期待され実用化が望まれてきた。しかしこれまでスターリング機関は往復動型が主に開発され、外部との熱の授受や内部の熱交換、高圧作動流体やドライ潤滑の使用など技術的困難度が高く高速化も制限されるため機構全体が複雑でかつ重くなる傾向にあった。このため耐久性や応答性にも改良の余地が多くかつコスト的にも高くつきやすく、普及しにくかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のスターリング等熱再生式外燃機関概念の主流であった往復動型ピストン式は作動流体が往復動するため、主にメッシュ状の再生熱交換器(熱再生器)内の熱交換速度および作動流体の流体抵抗の制限から毎分1500回転程度の回転速度がほぼ限界であった。この結果、比出力増大のため機構部本体は内封する作動流体の高圧化や発電機の多極化により大型化、大重量化の傾向にあった。また、これを回避する案の一つとして従来の主流であった往復動型ピストン式でなく作動流体が循環型のピストン式のスターリングサイクル機関の検討もなされているがまったく新規の構造の構築が必要であり実現は困難であった。圧縮部と膨張部をそれぞれ容積型回転動式機構とし作動流体が循環し熱再生器の組み合わせを用いた外燃機関を構成し、前述の課題を解決し実用化を促進することは高速回転化して小型化に好適であるが、通常容積型回転動式圧縮機、容積型回転動式膨張機ではともにそれぞれほぼ断熱圧縮、断熱膨張となるため熱力学的にはブレイトンサイクルに近くなり十分な効率を得られないためあまり検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は前記のブレイトンサイクルの圧縮、膨張をいずれも断熱でなく等温変化とする熱再生式エリクソンサイクル方式の熱機関とするため、駆動機構の主体である容積型回転動式圧縮機、及び容積型回転動式膨張機をそれぞれ冷却及び加熱しながら圧縮及び膨張させて可能な限り等温変化とならしめ実現しようとするものである。この目的のため該熱機関の作動流体とともに内封される潤滑油を用いる。すなわち圧縮機から吐出された作動流体から分離器で潤滑油を分離しこれをさらに冷却し低温にして該圧縮機に、また別途これを分岐させて加熱し高温にして該膨張機にそれぞれ供給しそれぞれの作動流体と混合させることにより直接的に該作動流体を該圧縮機の圧縮工程では低温に保ちながら等温圧縮状態に、また該膨張機の膨張行程では高温に保ちながら等温膨張に近づけようとする。ここに潤滑油がそれぞれ該圧縮機、及び該膨張機に供給されるよう該分離器内の潤滑油は該圧縮機の吐出作動流体の高圧を用いて加圧され、該圧縮機には作動流体が供給される低圧の吸入口もしくは近傍の供給口へ、また該膨張機には該作動流体が供給される高圧の吸入口と低圧の吐出口の中間の適切な位置に設けられる中間圧力の供給口へいずれも圧力差で適宜注入されるような潤滑油循環回路を設ける。なお、本発明は主なる用途として民生用小型主力(1から100kW級)を想定しており、高温側加熱用熱源には燃料電池、内燃機関等の排熱あるいは太陽熱、バイオ燃料もしくは通常燃料等から得られる100から300℃のいわゆる中高温熱を、低温側冷却用熱源(冷熱源)には大気や市水から得られる10から50℃の低温熱を用いる。このため外燃機関の作動流体は主に前述の使用温度範囲で常に気体(ガス)状態であるヘリウム、窒素、アルゴンや水素あるいは二酸化炭素を、また潤滑油には耐熱性のあるシリコーン系や鉱物油系のものを熱交換特性および作動流体とのなじみ特性を考慮して選定し用いられる。
【発明の効果】
【0005】
本発明は前述のような手段を用いることにより従来の各種課題を解決できる。具体的には本案の根幹をなす圧縮機構の構造はマルチベーン式、スクロール式、ローリングピストン式等既に冷凍空調用圧縮機では通称「容積型回転式圧縮機」として普及している容積変化型の機構と共通基盤を有し、膨張機構の構造も基本的にはこの圧縮機構と類似の構成で作動を逆転させた構造で得られる。いずれの方式もその簡易性に基づく生産性の良さや低コスト化が期待できる。特に本発明において技術基盤とするエリクソンサイクルでは圧縮機構そのものは冷凍空調用で実績のあるものとほぼ同様で、これに前述の冷却機構が加えられ等温化することで得られる。膨張機構は原則的に圧縮機構の吸入口および吐出口がそれぞれ逆に作動して吐出口および吸入口となるようにし、圧縮機構の吐出口の吐出弁(バルブ)は除去し高圧の作動流体が圧縮の逆工程を経ることで膨張行程を生じさせこれに加熱機構を付与して等温化するようにして「容積型回転式膨張機」として得られる。前述の機構以外の熱交換器や制御機器等も従来の製造技術を基本に構成されシステム化も比較的容易に可能となる。
【0006】
以上により得られる熱再生式エリクソンサイクル型外燃機関は、圧縮および膨張機構の機能をそれぞれ同期調整させることにより所望の軸動力を自在に取り出すことが可能となり、たとえば圧縮機側の駆動は電動機(モーター)で駆動し、膨張機側の軸出力をポンプ等被駆動体あるいは発電機の駆動に用い両者の回転力を適宜制御装置で制御することにより正味軸出力が駆動用軸動力や発電力として得られる。この結果、内燃機関では得にくい静粛性、高効率性や排気の清浄性等の特性が向上するのはもとより、高温側加熱用熱源には前述のように多様な中高温熱を有効利用することにより対環境性に優れた熱機関や発電機が実現できる。具体的な用途例として、まず工事、撮影等の作業現場、露天の店、レジャー用等で静粛性を希求される発電用途が、次に比出力が大きく取れ燃料の補給で稼動が継続できかつ駆動の開始および停止時間の短さなどが求められるロボット、ゴルフカート等車両の駆動源に、そして通常の内燃機関、スターリングエンジン、ガスタービン等の熱機関あるいは高温型燃料電池などの高温駆動機関の廃熱や工場等の高温廃熱等を高温熱源として発電力や駆動力を得てシステム全体の総合効率を向上させるいわゆる熱のカスケード利用等が上げられる。車両の排熱によるオルタネータ駆動やポンプ類の駆動等では燃費の改善が期待される。また、定置型用途でシステムの排熱をさらに利用して給湯などに用いればコージェネ設備として活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は既述のごとく、主に容積型回転式圧縮機構、それを駆動する電動機、加熱用熱交換器(加熱器)、容積型回転式膨張機構、それによる動力取り出し機構もしくは発電機、冷却用熱交換器(冷却器)、及び熱再生器ならびに制御機構等に加えて該圧縮機及び該膨張機にそれぞれ冷却及び加熱効果を与えて等温圧縮及び等温膨張に近づけるように潤滑油を注入する潤滑油回路より構成して熱再生式エリクソンサイクル方式の熱機関を実現しようとする。この機構を用いて内封された作動流体に圧縮、膨張あるいは相互の熱交換、外部からの加熱あるいは冷却を行ってその圧力、温度等の状態を、循環的に変化させ軸出力を発生させる。ここに、該圧縮機構、該膨張機構はそれぞれ別々でも共通軸を有する一軸方式でもよいが、前者では圧縮、膨張両機構間の一回転あたりの吐出、吸入容積の設定に応じて相互回転数が最適になるよう電動機、発電機を電気的に、もしくは歯車や無段変速機構等で機械的に個別に制御する。後者では電動機と発電機は一体化して簡易化できかつフライホイール効果も得られる利点があるが、あらかじめ両機構の一回転あたりの吐出、吸入容積を最適に設定しておくことが必要で、場合により能力制御の必要性や負荷変動あるは温度、圧力が外的要因で変動することが予測される際は別途制御弁や他の制御機構が必要となる。なお、前者では各駆動機構は別々の容器に格納してもひとつの容器にまとめて格納してもよいが、後者では出力軸を共通とするため同一の容器に格納すると便利である。この際、駆動機構以外の各種熱交換器はそれぞれ容器の外部に設け、冷却器の低温の熱は該圧縮機構及びこれに供給される潤滑油を冷却して等温圧縮を、加熱器の高温の熱は該膨張機構及びこれに供給される潤滑油を加熱して等温膨張を生成できるように、あらかじめそれぞれの機構、特にシリンダー部に伝熱可能なような構造を設定し、あわせてそれぞれを格納する容器内部も同様に冷却、加熱可能なように作動流体の流れを設定する。
【0008】
容積型回転式圧縮もしくは既述のように膨張各機構の構造はマルチベーン式、スクロール式、ローリングピストン式等可能であるが等温変化の圧縮もしくは膨張行程の実現にはマルチベーンが対応しやすい。シリンダー及びフランジにそれぞれ冷却もしくは加熱機構を設けやすいだけでなく、冷却もしくは加熱された潤滑油が複数のベーンとともに駆動軸1回転当たり同回数作動流体と接しやすくかつ膨張機では最適の中間圧力のところから供給できる構造とできるためである。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の実施例を図1の基本構造及びシステム図、図2のマルチベーン式圧縮機の平断面及びシステム図、図3のマルチベーン式圧縮機及びマルチベーン式膨張機の側断面の共用図ならびに図4のマルチベーン式膨張機の平断面図に基づいて説明する。図2及び図4は図3のCC−CC断面に沿ったもので、図3は図2及び図4のC−C断面に沿ったものである。本システムは大きく分けて圧縮機(1)、膨張機(2)、分離器(3)、熱再生器(4)、加熱器(5)、冷却器(6)からなる駆動機構による熱サイクル系と、圧縮機(1)を駆動する電動機(8)、膨張機(2)の出力を発電力として取り出す場合の発電機及(9)び軸(7)からなる出力制御系から形成される。なお、図1では軸(7)は圧縮機(1)と膨張機(2)の共通軸として示したがそれぞれの機構に圧縮機軸(71)、膨張機軸(72)のように個別に設けても作動原理は同様である。熱サイクル系は同図の二重線のようにそれぞれ接続されその内部には潤滑油を含んだ作動流体(図示せず)が適宜密閉封入され、該サイクルが稼働中は同図の二重線矢印の方向に流れる。また前述の潤滑油は圧縮機(1)で圧縮され高圧になって吐出される作動流体が分離器(3)に供給されここで作動流体から分離され該高圧に圧送されて2方に分岐し一方は潤滑油冷却器(34)で低温に冷却されてから圧縮機(1)の低圧側から圧縮工程にはいり、他方は潤滑油加熱器(36)で中高温に加熱されてから膨張機(2)の作動流体が供給される高圧側と吐出される低圧側の途中に設けられる中間圧力の膨張行程にはいる潤滑油回路系(一部は作動流体と混合流として流れる)を構成する。この主たる流れを太線の矢印で示す。
【0010】
本実施例で圧縮機(1)は主に圧縮機シリンダー(15)、圧縮機ローター(13)、圧縮機ベーン(14)(複数)、第1フランジ(101)および第2フランジ(102)から構成される。圧縮機シリンダー(15)の平断面形状は円形の中空筒状を基本とし、その側面に低圧の作動流体の入る圧縮機吸入口(11)、圧縮された高圧の作動流体が排出される圧縮機吐出口(12)が設けられる。圧縮機ローター(13)はその平断面形状が円形の中実円筒状でその直径は圧縮機シリンダー(15)の直径より適宜小さく、その軸心方向に該圧縮機シリンダー(15)の軸心方向厚さとほぼ同じながら内に収まる厚みを有し、外部両端に圧縮機軸(71)を有している。圧縮機シリンダー(15)と圧縮機ローター(13)は図2ではそれぞれA−AおよびB−Bの中心線、図3ではそれぞれAA−AAおよびBB−BBの軸心線で表されるが、図2のC−C対称線の上部でほぼ接するほどの最小隙間で、かつその反対側の同図下部で最大隙間となるよう、互いに適宜偏心して設けられる。この圧縮機ローター(13)には複数(本例では4個)の圧縮機ベーンミゾ(16)が圧縮機軸(71)と平行な平面上に放射状にほぼ等間隔を置いて設けられ、この内部に同数の圧縮機ベーン(14)が勘合するよう配設される。圧縮機ベーン(14)は基本的にそれぞれ矩形の同一形状で、圧縮機ベーンミゾ(16)内部に収納されながらで勘合して摺動でき、圧縮機ローター(13)の回転とともに圧縮機ベーンミゾ(16)に入る深さが変化する。圧縮機ベーン(14)の圧縮機ローターミゾ(16)内での圧縮機軸(71)側を背部、逆の圧縮機シリンダー(15)の側壁面側を先端部と呼ぶとき、背部には常に圧縮機ローターミゾ(16)の空間が存在するよう設けられ、ここには後述する潤滑油が供給可能となっている。また、圧縮機ベーン(14)の先端部は圧縮機シリンダー(15)の側壁面側と接触かつ摺動容易なように適宜曲線の形状(図2では省略)に成形される。
【0011】
圧縮機第1フランジ(101)はその平滑な側部端面を圧縮機シリンダー(15)の側部端面と密接し、圧縮機第2フランジ(102)も同様その側部端面を圧縮機シリンダー(15)の側部端面とそれぞれ密接するように設けられた圧縮機ローターの軸(71)がそれぞれの第1軸受(51)および第2軸受(52)で保持される圧縮機ローター(13)が図2の矢印のように回転(時計回り)する時、中央縦線C−Cの左半分は圧縮機ベーン(14)、圧縮機シリンダー(15)、圧縮機ローター(13)及び圧縮機第1フランジ(101)と圧縮機第2フランジ(102)で構成される各空間容積は最大から最小まで縮小変化する圧縮行程となる。反対に残りの右空間は空間容積が増大する吸入工程となる。ここに圧縮機第1フランジ(101)にはその側部端面に圧縮機潤滑油供給ミゾ(17)が穿設され、圧縮機(1)の組立て時図2の仮想破線で示すように圧縮機ローター(13)の圧縮行程側(同図の左半分)の圧縮機ベーンミゾ(16)背部に継続的に連結して潤滑油を供給するような略円弧形状に設けられる。図3はその側断面を示し適宜な深さの圧縮機潤滑油供給ミゾ(17)に圧縮機潤滑油供給口(20)が連結されここに別途予め冷却された潤滑油が供給される。圧縮行程の位置に圧縮機ベーン(14)がある時のみ圧縮機ベーンミゾ(16)に圧縮機潤滑油供給ミゾ(17)が重なり両者が連通して潤滑油が供給されるよう自動的に制御される。なお、この潤滑油は本来本圧縮機を用いる本体システムの作動流体と併せ予め封入され本圧縮機の駆動部の潤滑及びシールに供されるが、本発明では圧縮工程中の作動流体を冷却するためにも用いる。なお、既述のように圧縮された作動流体は所定の高圧に達して圧縮機吐出弁(18)を通って圧縮機吐出口(12)から潤滑油も含みながら吐出され圧縮機本体外に設けられた潤滑油分離器(3)にはいる。同分離器(3)内では器内底部に潤滑油が分離されて滞留し上部に作動流体が高圧で存在する。この作動流体は該分離器(3)の作動流体吐出口(32)から吐出され後述のように本体システムに向かい、潤滑油は潤滑油吐出口(31)から潤滑油冷却器(34)に入る。このため潤滑油は常に高圧の作動流体に背後から加圧され、より低圧の圧縮工程の空間に浸入することが可能となる。潤滑油は潤滑油冷却器(34)内で空冷、水冷もしくは冷凍回路等で所定の温度まで冷却され、また必要に応じて設けられる潤滑油調整器1(33)でその流量、圧力等を所定の量に調整されて圧縮機潤滑油供給口(10)に供給される。この後潤滑油は既述のように圧縮機潤滑油供給ミゾ(17)を圧縮機シリンダー(15)の内壁面に押し付けて圧縮工程の気密作用を確保しつつ圧縮機ベーンミゾ(16)と内部の圧縮機ベーン(14)の隙間から容積空間に流入する。上記隙間は一般的に約100マイクロメートルで作動流体の圧縮に支障ないよう設定されるが必要に応じて圧縮機ベーンミゾ(16)または内部の圧縮機ベーン(14)に細い流路を設けてもよい。これにより低温の潤滑油が駆動用のポンプ無しに常に作動流体の差圧で圧縮行程中の容積空間内の作動流体に注入され冷却を続けるので、作動流体は通常の断熱圧縮であれば得る内部エネルギーの増加により温度上昇が生じるのを防止できより等温圧縮に近づく。
【0012】
また、膨張機(2)の機構は図4に平断面図を図3に側断面図を示す。ここに膨張機(2)の側断面は圧縮機(1)の側断面と構造が類似のため図3を共用して説明し部品番号を同図内で〔 〕内に示す。膨張機(2)は主に膨張機シリンダー(25)、膨張機ローター(23)、膨張機ベーン(24)(複数)及び図3の断面図の膨張機第1フランジ(201)及び対の(102)膨張機フランジ2(202)で容積空間が複数形成され膨張行程時はここに高圧の作動流体が供給され膨張拡大し低圧になることで出力が発生し膨張機ローター(23)と一体の膨張機軸(72)を小矢印の方向(反時計方向)に回転駆動する。膨張機(2)の基本構造及び作動は[0010]項及び[0011]項とほとんど類似であり、シリンダー(25)の平断面形状は円形の中空筒状を基本とし、その側面もしくはフランジに高圧の作動流体の入る膨張機吸入口(21)、膨張した低圧の作動流体が排出される膨張機吐出口(22)が設けられる。膨張機ローター(23)はその平断面形状が円形の中実円筒状でその直径は膨張機シリンダー(25)の直径より適宜小さく、その軸心方向に該膨張機シリンダー(25)の軸心方向厚さとほぼ同じながら内に収まる厚みを有し、外部両端に膨張機軸(72)を有している。膨張機シリンダー(25)と膨張機ローター(23)は図4ではそれぞれA−AおよびB−Bの中心線、図3ではそれぞれAA−AAおよびBB−BBの軸心線で表されるが、図4のC−C対称線の上部でほぼ接するほどの最小隙間で、かつその反対側の同図下部で最大隙間となるよう、互いに適宜偏心して設けられる。膨張機シリンダー(25)内で膨張機ローター(23)が回転動する際の、膨張機ベーン(24)(複数)の挙動は(1)圧縮機での挙動と類似である。
【0013】
膨張機(2)においても圧縮機(1)から吐出された作動流体から分離器(3)で分離された潤滑油は潤滑油加熱器(36)で加熱され膨張機潤滑油供給口(20)から膨張機潤滑油供給ミゾ(27)に送られ、さらにこれと連接する膨張機ローター(23)内の膨張機ベーンミゾ(26)にはいりここに収納されている膨張機ベーン(24)をその背後より膨張機シリンダー(25)の内壁に押し出し圧接させつつ膨張機ベーン(24)と膨張機ベーンミゾ(27)の隙間を通って膨張行程中の容積空間に入り込む。この時膨張機潤滑油供給ミゾ(27)は膨張行程において、その容積空間が供給される作動流体の最大圧力より膨張が進行して少し低下した中間圧力から膨張が終了し低圧に達するまでの位置においてのみ膨張機ベーンミゾ(26)と連接するような形状、位置に設けられる。これにより中高温の潤滑油が駆動用のポンプ無しに常に作動流体の差圧で膨張行程中の容積空間内の作動流体に注入され加熱を続けるので作動流体は、通常の断熱膨張であれば失う内部エネルギーの減少により温度低下が生じるのを防止でき、より等温膨張に近づく。このあと潤滑油は作動流体とともに膨張機吐出口(22)から吐出され熱再生器(4)及び冷却器(6)を経て(11)圧縮機吸入口(11)から(1)圧縮機に入る。
【0014】
また、作動流体は[0011]項で述べたように作動流体吐出口(32)から吐出されたのち熱再生器(4)、加熱器(5)を経て膨張機吸入口(21)に至る。ここに低温高圧の該作動流体は熱再生器(4)で膨張機吐出口(22)から吐出された中高温低圧の作動流体と顕熱交換して加熱(予熱)されるとともにこの相手の作動流体を冷却(予冷)しそれぞれ後工程の加熱及び冷却の必要熱量を節約し熱機関の効率向上に寄与する。ここに熱再生器(4)には上記低温高圧の作動流体と中高温低圧の作動流体が互いに混じりあわないよう隔絶するとともに顕熱交換は良く行われるような構造が求められ、一般的にはプレート型熱交換器や2重管熱交換器を互いの流れが対抗流となるようにして用いる。
【0015】
また、潤滑油の分離器(3)は太い流路や広い空間で構成し作動流体の通過速度を低下させて吐出された作動流体から潤滑油を分離しやすいようにする。場合により内部に衝突板や金網を設け分離性能させる。この結果分離器(3)の下部に分離された潤滑油が貯留しこれを選択的に潤滑油吐出口(31)から上部の高圧作動流体の圧力で吐出させる。潤滑油が圧縮機(1)及び(2)膨張機(2)に前述のように圧力差で供給される際のそれぞれの最適流量を調整するために毛細管、ニードル弁、オリフィス等の固定流路抵抗を各々設けてもよいが、広範な運転条件に対応させるために潤滑油調節器1(33)及び潤滑油調節器2(35)を設けると良い。これらの調節装置は手動もしくは自動とし後者では圧縮機(1)や膨張機(2)内の各部圧力や温度により最適値を得る制御装置(図示せず)により電磁電動弁を駆動し所定の状態を得る。
【0016】
以上の熱および潤滑油のサイクルにより略等温圧縮に要する駆動動力よりも略等温膨張で得られる出力が大きくなると正味出力が発生し、これを軸出力あるいは膨張機(2)の膨張機軸(72)に結合される発電機(9)で取り出す熱機関が構成できる。すでに[0004]項で示したように熱機関としての高温側加熱用熱源には燃料電池、内燃機関等の排熱あるいは太陽熱、バイオ燃料もしくは通常燃料等から得られる中高温熱を、低温側冷却用熱源(冷熱源)には大気や市水から得られる低温熱(冷熱)を用いるが、これらは作動流体にだけではなく潤滑油にも併せて用いられる。したがって実際の機構では冷却器(6)と潤滑油冷却器(34)ならびに加熱器(5)と潤滑油加熱器(36)はそれぞれ近接して一体的に設けると便利である。また、圧縮機(1)は始動時圧縮機軸(71)に結合される電動機(8)で駆動され正味軸出力が発生すると通電されなくなるが軸(7)が圧縮機軸(71)と膨張機軸(72)のようにそれぞれ別体でなく共通軸とされる場合は電動機(8)と発電機(9)は電動発電機として両者兼用の機能を持たせた物で代用できる。
【0017】
本実施例では容積型回転式圧縮機と同膨張機の組み合わせの代表的な例としてマルチベーン型のうち、シリンダーが円形でローターが偏心して構成されるものを用いたが、これ以外に楕円形状のシリンダーと中心に円形ローターが設けられる型式でも同様に応用可能である。これ以外にも容積型回転式はスクロール式、ローリングピストン式、スイングピストン式やバンケル式等多様で圧縮機だけでなくそれぞれを膨張機に転用し適宜組み合わせ基本的な熱サイクルを得ることは可能である。また、既に述べた圧縮、膨張両機構を同軸で共用する方式は共通の容器に収納することも可能でシステムのコンパクト化が図れ、取り扱いや製造に便利であるが、容器の内部では両機構周囲の温度、圧力ともに異なるため内部には軸部を貫通させた隔壁を設けることが必要となる。
【特許文献】特願2008−146265
【実用新案文献】
実用新案登録3154518
【実用新案文献】
実願2009−未決定(整理番号9008)
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上説明したように、本発明によればまったく新しい概念の「熱再生式エリクソンサイクル外燃機関」を比較的簡単な構造で実用性の高い高性能な「容積型回転式機構で構築可能となり冒頭で述べたごとく多くの技術分野への活用が可能となる。特に本発明の回転構造は小型軽量で量産性に富むため容積型の特性を活かした約100kW級程度以下の小型発電機用途が有望と推測される。また、数百ワット級以下のいわゆるマイクロ発電機としても小型動力機器用のみならず通信情報機器や車両用の充電等補助機器としての用途も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】基本構造及びシステム図
【図2】マルチベーン式圧縮機の平断面基本構造及びシステム図
【図3】マルチベーン式圧縮機及びマルチベーン式膨張機の共用側断面図
【図4】マルチベーン式膨張機の平断面基本構造及びシステム図
【符号の説明】
【0020】
(1)圧縮機 (2)膨張機 (3)分離器 (4)熱再生器
(5)加熱器 (6)冷却器 (7)軸 (71)圧縮機軸
(72)膨張機軸 (8)電動機 (9)発電機 (10)圧縮機潤滑油供給口
(11)圧縮機吸入口 (12)圧縮機吐出口 (13)圧縮機ローター
(14)圧縮機ベーン (15)圧縮機シリンダー (16)圧縮機ベーンミゾ
(17)圧縮機潤滑油供給ミゾ (18)圧縮機吐出弁
(20)膨張機潤滑油供給口 (21)膨張機吸入口 (22)膨張機吐出口
(23)膨張機ローター (24)膨張機ベーン (25)膨張機シリンダー
(26)膨張機ベーンミゾ (27)膨張機潤滑油供給ミゾ
(31)潤滑油吐出口 (32)作動流体吐出口 (33)潤滑油調節器1
(34)潤滑油冷却器 (35)潤滑油調節器2 (36)潤滑油加熱器
(51)第1軸受 (52)第2軸受 (101)圧縮機第1フランジ
(102)圧縮機第2フランジ2 (201)膨張機第1フランジ
(202)膨張機第2フランジ2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積式回転型圧縮機と容積式回転型膨張機の駆動機構及び加熱器、冷却器と熱再生器等熱交換器を主たる構成要素とし内封される作動流体に順次圧縮、熱再生器での予備加熱、外部熱源からの入熱による加熱、膨張、熱再生器での予備冷却及び外部への熱放出による冷却の各工程をさせて出力を発生させる熱機関において、該圧縮機から吐出される作動流体から内部に混在している潤滑油を分離器で分離し、該潤滑油を該圧縮機で生成される作動流体の高圧を用いて加圧し、一方は外部熱源で加熱後圧縮機の低圧である吸入口側に設けられる潤滑油供給口を通し圧縮機の圧縮工程中の容積空間内に、また分岐したもう一方は外部への放熱冷却後膨張機の高圧である吸入口と低圧である吐出口の中間近傍位置に設けられる中間圧力である潤滑油供給口を通して膨張機の膨張行程中の容積空間内にそれぞれ供給、注入し、該圧縮機で作動流体を冷却して略等温圧縮にまた該膨張機で作動流体を加熱して略等温膨張にそれぞれ作用させ併せて両駆動機構の潤滑作用もする潤滑油回路を有する外燃機関。
【請求項2】
請求項1で述べる潤滑油回路を有する外燃機関から熱再生器を除外して成る潤滑油回路を有する外燃機関
【請求項3】
請求項1及び請求項2で述べる潤滑油回路を有する外燃機関において圧縮機から吐出される作動流体中から分離された潤滑油を圧縮機及び膨張機に供給するそれぞれの供給流量及び供給圧力を調節する調節弁が設けられる潤滑油回路を有する外燃機関。
【請求項4】
請求項1及び請求項2で述べる潤滑油回路を有する外燃機関において請求項3で述べる潤滑油回路が所定の作動をするよう圧縮機及び膨張機各駆動機構内の潤滑油量、潤滑油循環量、作動流体圧力及び温度等を検知し制御回路で各駆動機構用の電動電磁式調節弁の作動を制御するよう構成される潤滑油回路を有する外燃機関。
【請求項5】
請求項1で述べる潤滑油回路を有する外燃機関において、その圧縮機を円ないし楕円状断面を有する中空筒状シリンダーと、その内部にシリンダーの軸方向と平行な軸を中心に回転可能な円筒形状のローター、及びその軸と平行な平面に放射状方向に設けられる複数のベーンミゾ内部に勘合して同方向に密接して摺動するよう設けられる同数の矩形ベーン、及び該ローターの軸受を有し該シリンダーの軸方向と直角方向の両端部平面に設けられる2個のフランジで該ローター及び該ベーンの両端面をはさんで密接内包する形態と構造の要素で構成し、該ローターが回転する時、これの外側表面と該ベーン及びその先端部が内接する該シリンダー内側円筒壁面及びこれらを内包する両フランジ壁面で構成される容積空間が該シリンダーの回転とともに縮小する圧縮行程時にのみ、該ベーンと該ベーンミゾの隙間もしくは通路をとおして予め該圧縮機外で冷却され該圧縮機で生成された高圧作動流体に加圧された潤滑油が該ベーンミゾの該ベーン背面から該ベーン先端方向に圧送され該容積空間に流入して該容積空間及び作動流体を冷却し併せて該ベーン先端部が該シリンダー内接円部に圧接するよう該ベーン先端部の反対側の背面部が存する該ベーンミゾに該圧縮機に供給される潤滑油が導かれる潤滑油供給ミゾを該フランジの所定位置に所定形状で設け該ローター内の該ベーンミゾと連接して該潤滑油の供給が可能となるよう構成して成る潤滑油回路を有する外燃機関。
【請求項6】
請求項1で述べる潤滑油回路を有する外燃機関において、その膨張機を円ないし楕円状断面を有する中空筒状シリンダーと、その内部にシリンダーの軸方向と平行な軸を中心に回転可能な円筒形状のローター、及びその軸と平行な平面に放射状方向に設けられる複数のベーンミゾ内部に勘合して同方向に密接して摺動するよう設けられる同数の矩形ベーン、及び該ローターの軸受を有し該シリンダーの軸方向と直角方向の両端部平面に設けられる2個のフランジで該ローター及び該ベーンの両端面をはさんで密接内包する形態と構造の要素で構成し、該ローターが回転する時、これの外側表面と該ベーン及びその先端部が内接する該シリンダー内側円筒壁面及びこれらを内包する両フランジ壁面で構成される容積空間が該シリンダーの回転とともに拡大する膨張行程時にのみ、該ベーンと該ベーンミゾの隙間もしくは通路をとおして予め該膨張機外で加熱され該外燃機関の圧縮機で生成された高圧作動流体に加圧された潤滑油が該ベーンミゾの該ベーン背面から該ベーン先端方向に押され該高圧より低い中間圧力の該容積空間に差圧により流入して該容積空間及び作動流体を冷却し併せて該ベーン先端部が該シリンダー内接円部に圧接するよう該ベーン先端部の反対側の背面部が存する該ベーンミゾに該膨張機に供給される潤滑油が導かれる潤滑油供給ミゾを該フランジの所定位置に所定形状で設け該ローター内の該ベーンミゾと連接して該潤滑油の供給が可能となるよう構成して成る潤滑油回路を有する外燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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