説明

潤滑油組成物およびその製造方法

【課題】油中でも凝集・沈澱しにくく、モリブデン酸塩が微粒子で分散状態を維持できる潤滑油組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基油とモリブデン酸塩とを含有する潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物は、界面活性剤を添加した上記基油中で、上記モリブデン酸塩を湿式粉砕して得られ、上記界面活性剤の配合割合は潤滑油組成物全体に対して 0.05 重量%〜5 重量%であり、上記モリブデン酸塩の最大粒子径が 10μm 以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン酸塩を分散させた潤滑油組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、潤滑性能を向上させるために、潤滑油には様々な目的で各種添加剤が添加されている。耐焼付き性を向上させるためには硫黄系添加剤が配合されていたり、摩擦摩耗特性を向上させるために、有機モリブデン等が配合されていることもある。
本発明者は、耐摩耗性を向上させる効果の高い添加剤としてモリブデン酸のアルカリ金属塩を確認している(特願2005―136827)。モリブデン酸塩は鉱油等の非水系潤滑油に不溶で、一般的に平均粒子径 200μm 程度の粉体で市販されている。各種性能向上の目的で非水系潤滑油中にモリブデン酸塩を添加した場合、モリブデン酸塩は潤滑油の撹拌により油中に分散されるが、一度撹拌を停止してしまうと、分散されていたモリブデン酸塩は徐々に沈澱し、オイルバス底部に溜まってしまい潤滑部には供給されにくい。また、粒子径が大きいと、摺動部に入り込みにくく、その効果が発揮されにくいという欠点があった。
【0003】
また、潤滑油と、平均粒径が 0.1μm 以下の超微粒子とからなり、前記超微粒子が前記潤滑油に対して 0.05 重量%〜15 重量%の割合で添加されてなる潤滑剤が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、微粒子を潤滑剤に添加しただけでは微粒子同士が潤滑剤中で凝集しやすくなり、一次粒子径が小さくても二次粒子径が大きくなる。よって潤滑材内での微粒子の分散状態が悪くなるという欠点がある。また、モリブデン酸は潮解性があるので、気相で微粒子化させても、保存・運搬中に空気中の水分により粒子同士が結合し、結果として粒子径が大きくなってしまい満足できる結果が得られない。
【0004】
また、基油と界面活性剤と水とにより形成された油中水滴型エマルジョンを反応場として基油中に微粒子を微分散させた潤滑剤が知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法では製造過程が複雑になりコスト高になる、水やアルカリ/酸触媒が残ると潤滑性や防錆性などの潤滑剤としての特性に影響する等の懸念がある。
【特許文献1】特開平7−118683号公報
【特許文献2】特開2005−23202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、油中でも凝集・沈澱しにくく、モリブデン酸塩が微粒子で分散状態を維持できる潤滑油組成物およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の潤滑油組成物は、基油とモリブデン酸塩とを含有する潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物は、界面活性剤を添加した上記基油中で、上記モリブデン酸塩を湿式粉砕して得られることを特微とする。
また、上記界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤から選ばれた少なくとも一つの界面活性剤であることを特徴とする。
【0007】
上記界面活性剤の配合割合は、潤滑油組成物全体に対して 0.05 重量%〜5 重量%であることを特徴とする。
【0008】
上記潤滑油組成物中のモリブデン酸塩は、最大粒子径が 10μm 以下であることを特徴とする。なお最大粒子径は、得られたモリブデン酸塩分散潤滑油を脱脂して、粉砕されたモリブデン酸塩粒子の長辺を電子顕微鏡で 1000 倍の倍率にて、5 視野観察し、最も大きいものを最大粒子径とした。
【0009】
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、基油とモリブデン酸塩とを含有する潤滑油組成物の製造方法であって、上記モリブデン酸塩を界面活性剤の存在下で上記基油中で湿式粉砕し分散させることを特微とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、界面活性剤を添加した上記基油中で、上記モリブデン酸塩を湿式粉砕して得られるので、モリブデン酸塩が微粒子で分散された状態で得られる。よって、該潤滑油組成物を希釈して潤滑油とする場合、または、他の潤滑油に添加剤として配合する場合等において、モリブデン酸塩がこれらの潤滑油中で凝集・沈殿しにくく微粒子で分散された状態を維持できる。この結果、摩擦摩耗特性を向上させる等のモリブデン酸塩の特性を有効に利用できる。
【0011】
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、界面活性剤の存在下でモリブデン酸塩を基油中で湿式粉砕し分散させる方法であるので、粉砕されたモリブデン酸塩が凝集することがなく微粒子で分散された状態の潤滑油組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
油中でも凝集・沈澱しにくく、モリブデン酸塩が微粒子で分散状態を維持できる潤滑油組成物を提供すべく、種々の潤滑油組成物を鋭意検討した結果、分散剤として界面活性剤の存在下でモリブデン酸塩を基油中で粉砕し、分散させた潤滑油組成物は油中でも凝集・沈澱しにくく、モリブデン酸塩が微粒子で分散状態を維持できる優れた分散性を示すことを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
本発明において界面活性剤を用いる効果については、基油中で粉砕されたモリブデン酸塩の微粒子を界面活性剤で包み込み、基油中で分散させることができることである。その結果、本来基油に対して親和性のないモリブデン酸塩の微粒子が界面活性剤で包み込まれて基油に対する親和性が向上するため、基油中で分散状態をより維持しやすくなり、沈澱によりモリブデン酸塩添加の効果が減少することを防止できる。
【0014】
界面活性剤は一つの分子内に親水基と親油基という性質の異なる官能基を持つ。界面活性剤はその構造から、親水基が電離してイオンになるイオン性界面活性剤とイオン化しない非イオン性界面活性剤とに分けることができる。イオン性界面活性剤はさらに電離したイオンの性質によってマイナスイオンに電離する陰イオン性界面活性剤、プラスイオンに電離する陽イオン性界面活性剤、系のpHによってマイナスにもプラスにも電離する両性界面活性剤に細かく分類される。
本発明において使用する界面活性剤としては、モリブデン酸塩と親和性のよい陰イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤の中から選ばれた少なくとも一つの界面活性剤であることが好ましい。
【0015】
陰イオン性界面活性剤の例としては脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、アシルグルタミン酸塩、イミダゾリン系化合物、ポリカルボン酸型高分子、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0016】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレングリセリド等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
界面活性剤の併用には微粉化されたモリブデン酸塩が基油中で凝集することを防ぐことによって、モリブデン酸塩の分散状態を良好にし、かつモリブデン酸塩が二次粒子として大きくなることを防ぐ効果がある。
【0017】
本発明の潤滑油組成物中に占める界面活性剤の配合割合は 0.05 重量%〜5 重量%であることが好ましい。0.05 重量%未満では微粉化されたモリブデン酸塩を基油中に分散させる界面活性剤の量が不足し、モリブデン酸塩微粒子の凝集や二次粒子径の増大が生じる。5 重量%をこえると微粉化されたモリブデン酸塩を基油中に分散させる効果が頭打ちになりコスト的に不利になる。
【0018】
本発明ではモリブデン酸塩を分散させた潤滑油組成物の製造に湿式粉砕法を採用している。固体/粉体の一般的な粉砕方法としては、乾式と湿式とがある。乾式粉砕法とは、ドライな粉・粒体を気相や真空中で粉砕する方法である。湿式粉砕法とは、液相中で粉体(粒子)を粉砕する方法である。乾式粉砕法では、粒子径分布がシャープになり分級機能を持つという利点があるが、基油などの液相に粒子が分散しにくいという欠点がある。
本発明に用いる湿式粉砕法では液相(ここでは基油)中で、液相に対して親和性のない粉体(ここではモリブデン酸塩)を界面活性剤の存在下で粉砕するため、粉砕された粉体は界面活性剤に包み込まれて液相に対する親和性が向上し、結果としてモリブデン酸塩の分散性が向上し凝集や沈澱が生じにくくなる。
【0019】
本発明においてモリブデン酸塩を粉砕させる手段は、湿式粉砕が可能な手段であればよい。湿式粉砕が可能であれば一般的な粉砕機を使用することができる。例えばボールミル、ロッドミル、遊星ミル、アトマイザーミル、ビーズミル、乳鉢、三段ロールミル、コロイドミル、コーンミル、オートフォーミル、アルティマイザー、ホモジナイザーなどを挙げることができる。また、これらを組み合わせた粉砕機でもよい。
本発明の潤滑油組成物中のモリブデン酸塩は、最大粒子径が 10μm 以下となるように上記各手段により粉砕することが好ましい。潤滑油組成物中におけるモリブデン酸塩の最大粒子径が10μmをこえる場合は、界面活性剤の存在下で湿式粉砕しても沈殿しやすくなるためである。
【0020】
本発明に用いるモリブデン酸塩は金属塩であることが望ましく、該金属塩はアルカリ金属塩であることがさらに望ましい。
本発明に使用できるモリブデン酸のアルカリ金属塩は、代表的なものとしてモリブデン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸リチウムなどが挙げられる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物中に占めるモリブデン酸塩の配合量は、0.1 重量%〜60 重量%であることが好ましく、0.1 重量%〜50 重量%であることがさらに好ましい。0.1 重量%未満であると粉砕物(モリブデン酸塩)の量が少なくなるため、粉砕しにくくなるだけでなく粉砕時間が長くなり実用的でない。また、60 重量%をこえるとモリブデン酸塩を微分散させた潤滑油組成物がペースト状から固体状になり流動性を失い、粉砕や分散が困難になる。
また、モリブデン酸塩濃度が低い潤滑油組成物を製造する際には、先にモリブデン酸塩濃度が高い潤滑油組成物を作製し、それを希釈して所望の濃度に調整する方法を採用することができる。
【0022】
本発明の潤滑油組成物に用いる基油としては、一般的に使用されている基油であれば特に制限なく使用できる。例えば、ナフテン系、パラフィン系、流動パラフィン、水素化脱ろう油などの鉱油、ポリアルキレングリコールなどのポリグリコール油、アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテルなどのエーテル系合成油、ジエステル油、ポリオールエステル油などのエステル系合成油、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサンなどのシリコーン油、GTL基油、ポリ−α−オレフィン油等の炭化水素系合成油、フッ素油等、また、これらの混合油が挙げられる。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、その優れた性能を高めるため、必要に応じて公知の添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステル等の錆止め剤、硫化油脂、硫化オレフィンに代表される硫黄系化合物、チオフォスフェート、チオフォスファイトに代表される硫黄−リン系化合物、トリクレジルフォスフェートに代表されるリン系化合物等の極圧剤、金属スルフォネート、金属フォスフェート等の清浄分散剤、有機モリブデン等の摩擦低減剤、ワックス系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸、アミン、油脂類等の油性剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等が挙げられる。これらを単独または 2 種類以上組合せて添加できる。
【実施例】
【0024】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1〜実施例4および比較例1、比較例2
基油中で、モリブデン酸塩と、界面活性剤とを表1に示す配合割合にて調整した。これらを乳鉢にて 72 時間粉砕させ、ペースト状のモリブデン酸塩分散潤滑油を得た。
【0025】
実施例5および実施例6
基油中で、モリブデン酸塩と、界面活性剤とを表1に示す配合割合にて調整した。これらをアトマイザーミルにて 72 時間粉砕させ、ペースト状のモリブデン酸塩分散潤滑油を得た。
【0026】
比較例3
予めジェットミルにてモリブデン酸塩を粉砕し、粒子径 4μm に調整した。調整したモリブデン酸塩と界面活性剤とを基油中で、表1に示した配合割合にて調整・混合し、モリブデン酸塩分散潤滑油を得た。
【0027】
これらのモリブデン酸塩分散潤滑油について、以下の評価を行ない分散性や粒子径を比較した。
<最大粒子径>
得られたモリブデン酸塩分散潤滑油を脱脂して、粉砕されたモリブデン酸塩粒子の長辺を電子顕微鏡で 1000 倍の倍率にて、5 視野観察し、最も大きいものを最大粒子径として表1に併記した。
<分散度評価>
作製したモリブデン酸塩分散潤滑油をモリブデン酸塩濃度が 1 重量%になるように同種の基油で希釈した。希釈した基油を充分に撹拌した後、静置させた。24 時間後に基油内のモリブデン酸塩の分散状態を確認し、基油全体がモリブデン酸塩により白濁している状態が観察されたものを分散性に優れていると評価して「○」を、白濁状態が観察されないものを分散性に劣ると評価して「×」を、それぞれ表1に併記した。
<総合評価>
最大粒子径が 10μm 以下であり、かつ分散度評価が「○」であったものを分散性に優れていると総合評価して「◎」を、それ以外のものを分散性に劣ると総合評価して「×」を、それぞれ表1に併記した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、各実施例は最大粒子径が 10μm 以下であり、かつ分散性に優れ、比較例は分散性に劣っていた。また、界面活性剤の存在下で湿式粉砕しなかった比較例3ではモリブデン酸塩の分散性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の潤滑油組成物は、油中でも凝集・沈澱しにくく、モリブデン酸塩が微粒子で分散状態を維持できるので、撹拌されず静置状態で使用される潤滑剤等として、また、潤滑剤およびグリース組成物中のモリブデン酸塩の分散を改良するための添加剤等として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油とモリブデン酸塩とを含有する潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物は、界面活性剤を添加した前記基油中で、前記モリブデン酸塩を湿式粉砕して得られることを特微とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤から選ばれた少なくとも一つの界面活性剤であることを特徴とする請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤の配合割合は、潤滑油組成物全体に対して 0.05 重量%〜5 重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油組成物中のモリブデン酸塩は、最大粒子径が 10μm 以下であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
基油とモリブデン酸塩とを含有する潤滑油組成物の製造方法であって、前記モリブデン酸塩を界面活性剤の存在下で前記基油中で湿式粉砕し分散させることを特微とする潤滑油組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−177064(P2007−177064A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376490(P2005−376490)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】