説明

潤滑油組成物

【課題】エステル系基油などの含酸素有機化合物を基油とした潤滑油組成物において、酸化防止能力を高めることを目的とする。
【解決手段】比誘電率(25℃)が2.5以上の基油を90重量%以上、アミン系酸化防止剤を0.01〜5重量%含有し、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1重量%以下である潤滑油組成物。基油が、ジエステル及び/又はポリオールエステルを主成分とすることが、また、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及びトリアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種類を0.01〜2重量%含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比誘電率が高い基油、特にはエステル系基油などの含酸素有機化合物を基油として用い、酸化安定性が向上した潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、酸素の存在と熱のため酸化劣化する。これにより、目的の性能が発揮できないこともある。近年、潤滑油の使用環境がより厳しくなっており、これまでにも増して酸化安定性が必要となっている。潤滑油には、目的に合わせて、種々の酸化防止剤が添加され、複数種の酸化防止剤が併用されることも多い。酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、硫黄含有化合物、有機リン化合物などが知られている。一般的には、フェノール系、アミン系酸化防止剤は単体で使用するよりも併用した方が良いという相乗効果が知られている。
【0003】
【非特許文献1】渡辺 亨;「酸化防止剤の機能と用途」 潤滑経済 ‘03 2月号 (2003) 6−13頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
比誘電率が高い基油、特にはエステル系基油などの含酸素有機化合物を基油とした場合には、酸化防止が十分できない。本発明は、このような基油を用いた場合にも十分な酸化防止が可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による潤滑油組成物は、比誘電率(25℃)が2.5以上の基油を95重量%以上、アミン系酸化防止剤を0.01〜5重量%含有し、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1重量%以下である。基油が、ジエステル及び/又はポリオールエステルを主成分とすることが、また、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及びトリアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種類を0.01〜2重量%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明者は、ジエステル、ポリオールエステルなどを基油とした場合には、酸化防止剤として、アミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤を同時に用いることで、アミン系酸化防止剤のみを用いる場合よりも酸化防止能力が低下することを見出した。この場合、フェノール系酸化防止剤を用いることなく、アミン系酸化防止剤のみを用いることで優れた耐酸化性能が得られる。また、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及び/又はトリアゾール化合物をアミン系酸化防止剤と併用することで、さらに耐酸化性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
〔基油〕 本発明の基油は、比誘電率(25℃)が2.5以上であり、2.7〜10、特には2.9〜8.0が好ましい。基油の動粘度(40℃)は、2〜300cSt、特には3〜200cSt、さらには4〜100cStが好ましい。基油の粘度指数は、0〜250、特には20〜200、さらには40〜180が好ましい。潤滑油組成物中の基油の含有量は、90重量%以上、特には95〜99.9重量%が好ましい。
【0008】
基油を構成する化合物としては、酸素を含む有機化合物、特には酸素、炭素、水素のみから構成される化合物を主成分とすることが好ましい。主成分として好ましい化合物は、エステルまたはエーテル結合を含む化合物で、特に複数のエステル結合を含む化合物、特にはジエステル、ポリオールエステルなどエステル結合を2〜4有するものが好ましい。これら主成分となる化合物が基油中に占める割合は、50%重量%以上、特には80重量%以上、さらには90重量%以上が好ましい。
【0009】
〔ジエステル〕 本発明の基油に用いられるジエステルは、ジカルボン酸と1価アルコールをエステル化して得られた化合物である。ジカルボン酸としては、脂肪族二塩基酸が、特には炭素数6〜12の直鎖又は分枝の脂肪族二塩基酸が好ましい。例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカ二酸などが挙げられる。また、1価アルコールとしては、脂肪族1価アルコール、特には炭素数6〜18の直鎖又は分枝の脂肪族1価アルコールが好ましい。例えば、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びこれらの直鎖のアルコールに対応する分枝のアルコールが挙げられる。
【0010】
好ましいジエステルとしては、ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルスベレート、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート(DOS)、メチル・アセチルリシノレート(MAR−N)などが挙げられる。ジエステルは全酸価0.1mgKOH/g以下、好ましくは0.05mgKOH/g以下、また、水酸基価10mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下の精製度を有することが好ましい。
【0011】
〔ポリオールエステル〕 本発明の基油に用いられるポリオールエステルは、1価カルボン酸と多価アルコールをエステル化して得られた化合物である。1価カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸が、特には炭素数4〜18の直鎖又は分枝の脂肪族カルボン酸が好ましい。例えば、酪酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びこれらの直鎖の酸に対応する分枝の酸が挙げられる。また、多価アルコールとしては、脂肪族多価アルコール、特には炭素数4〜18の直鎖又は分枝の脂肪族多価アルコールが好ましい。例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ブチルエチルプロパンジオールなどの他、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどポリアルキレングリコールが挙げられる。ポリオールエステルは全酸価0.1mgKOH/g以下、好ましくは0.05mgKOH/g以下、及び水酸基価10mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下の精製度を有することが好ましい。
【0012】
〔アミン系酸化防止剤〕 本発明で用いるアミン系酸化防止剤としては、(1)モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン系、(2)4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン系、(3)テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン系、(4)α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン系を挙げることができる。ジ(アルキルフェニル)アミン化合物またはアルキルフェニルナフチルアミン化合物、特にアルキル基の炭素数が4〜24、特には6〜18の化合物が好ましく用いられる。
【0013】
これらの化合物を一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの化合物の合計の添加量は、0.01〜5重量%、特には0.02〜3重量%、さらには0.05〜2重量%が好ましい。
【0014】
〔フェノール系酸化防止剤〕 フェノール系酸化防止剤は、ラジカルトラップ能を有するフェノール系化合物(フェノール基を有する有機化合物)である。例えば2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3
−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−イソプロピリデンビスフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5
−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ビス(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルベンジル)−4
−メチルフェノール、ビス[2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−t−ブチルベンジル)−4−メチル−6−t−ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を挙げることができる。
【0015】
これらの化合物は実質的に添加されていないことが必要であり、含有量としては、0.1重量%以下、特には0.03重量%以下、さらには0.01重量%以下が好ましい。
【0016】
〔他の添加剤〕 酸化安定性を向上するためには、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及びトリアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種類を0.01〜2重量%、特には0.02〜1重量%含有することが好ましい。また、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及びトリアゾール化合物の3種類を添加することが特に好ましい。
【0017】
〔エポキシ化合物〕 エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物であり、炭素数4〜60、特には炭素数5〜25のものが好ましい。エポキシ化合物は、化合物の単独又は2種以上を併用してもよく、0.01〜2重量%、特には0.02〜1重量%含有することが好ましい。
【0018】
具体的にはブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類や、アジピン酸グリシジルエステル、2−エチルヘキサン酸グリシジルエステル、イソノナン酸グリシジルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル類や、エポキシ化ステアリン酸メチル等のエポキシ化脂肪酸モノエステル類や、エポキシ化大豆油などのエポキシ化植物油が挙げられる。好ましいエポキシ化合物は、次の一般式化1、化2で示されるグリシジルエーテルまたは化3で示されるグリシジルエステルであり、特にはグリシジルエステルが好ましい。
【0019】
【化1】



【0020】
式中R1は水素原子あるいは炭素数1から24までの直鎖あるいは分岐のアルキル基、または炭素数1から24までのアルキルフェニル基を示す。
【0021】
【化2】



【0022】
式中R2は炭素数1から18までの直鎖、あるいは分岐のアルキレン基を示す。
【0023】
【化3】

【0024】
式中R3は炭素数1から24までの直鎖あるいは分岐のアルキル基、または炭素数1から24までのアルキルフェニル基を示す。
【0025】
〔カルボジイミド化合物〕 カルボジイミド化合物は、R‘−N=C=N−R“の一般式で表される。ここで、R’、R”は炭素数1〜18の炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。R’、R”は炭素数7〜14のアルキル置換フェニル基が好ましい。具体的な例としては、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1,3−ジ−t−ブチル−カルボジイミド、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3−ジ−p−トリルカルボジイミド、1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドなどである。好ましくは、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1,3−ジ−p−トリルカルボジイミド、1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドである。カルボジイミド化合物は化合物の単独又は2種以上を併用してもよく、0.01〜2重量%、特には0.02〜1重量%含有することが好ましい。
【0026】
〔トリアゾール化合物〕 トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾールおよびベンゾトリアゾール誘導体を用いることができる。次の一般式化4で示される化合物を用いることが好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
式中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、Rは、水素原子、もしくは窒素原子及び/又は酸素原子を含有する炭素数O〜20の基を示す。
【0029】
トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール誘導体が好ましく、さらに、Rが窒素原子を含有する炭素数5〜20の基であることが好ましい。トリアゾール化合物は化合物の単独又は2種以上を併用してもよく、0.01〜2重量%、特には0.02〜1重量%含有することが好ましい。
【0030】
具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、1−(N,N−ビス−(2−エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール等があげられる。
【0031】
〔他の成分〕 必要に応じて、清浄分散剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、無灰系分散剤、金属不活性剤、金属系清浄剤、油性剤、界面活性剤、消泡剤、摩擦調整剤、防錆剤、腐食防止剤等の各種添加剤を用途に応じて配合することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を説明するが、本実施例により本発明が限定的に解釈されるものではない。
なお、本実施例では比誘電率(25℃)はJIS C2101に、動粘度及び粘度指数はJIS K2283に、回転ボンベ式酸化安定度(RBOT)はJIS K2514に、全酸価はJISK2501に、また、水酸基価はJIS
K0070によって測定した。
【0033】
基油は、ジオクチルセバケート(DOS)、ネオペンチルグリコールとカプリン酸のエステル(NPG-1)、ペンタエリスリトールとヘプタン酸のエステル(PE-1)及びポリアルファオレフィン(PAO)を用いた。それぞれの特性を、表1にまとめた。
【0034】


【表1】

【0035】
添加剤としては、
DPA:アミン系酸化防止剤である4,4’−ジオクチルジフェニルアミン。
PANA:アミン系酸化防止剤である4−オクチルフェニルナフチルアミン。
Phe:フェノール系酸化防止剤であるIrganox L135(チバスペシャリティケミカルズ製)。
エポキシ化合物:ネオデカン酸グリシジルエステル
カルボジイミド:1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド
BTA誘導体:Irgamet 39(チバスペシャリティケミカルズ製)
を用いた。
【0036】
基油に添加剤を表1に示した配合量(重量%)で配合して、実施例1〜7、比較例1〜9の供試油を調製した。これらについて、回転ボンベ式酸化安定度(RBOT)により、酸化安定性を評価した結果を表2に合わせて示す。
【0037】


【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明者は、ジエステル、ポリオールエステルなどを基油とした場合には、フェノール系酸化防止剤を用いることなく、アミン系酸化防止剤のみを用いることで優れた耐酸化性能が得られる。また、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及び/又はトリアゾール化合物をアミン系酸化防止剤と併用することで、さらに耐酸化性能がさらに向上する。これにより、本発明による潤滑油組成物は、長期間安定に使用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比誘電率(25℃)が2.5以上の基油を95重量%以上、アミン系酸化防止剤を0.01〜5重量%含有し、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1重量%以下である潤滑油組成物。
【請求項2】
基油が、ジエステル及び/又はポリオールエステルを主成分とする請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及びトリアゾール化合物から選ばれる少なくとも1種類を0.01〜2重量%含有する請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
アミン系酸化防止剤を0.05〜2重量%含有し、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2007−131825(P2007−131825A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364385(P2005−364385)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】