説明

潤滑油組成物

【課題】内燃エンジンの運転の際に消費される燃料の量を低減するさらなる手段の提供。
【解決手段】(A)多割合の潤滑粘度の油;及び(B)少割合の添加剤成分としての油溶性又は油分散性の-CO(CH2)COOH部分を有する4-オキソブタン酸であって、前記-CO(CH2)COOH部分が、(i)OR1基へ結合し(式中、R1は、10個〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。);又は(ii)10個〜30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロカルビル基で置換される芳香族基であるX基へ結合し;又は(iii)NR23基へ結合する(式中、R2及びR3の1つ又は両方は、10個〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R2及びR3の1つは水素原子であってもよいが、両方が水素原子ではない。)、前記4-オキソブタン酸又はその塩、を含む自動推進体用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動推進体用(automotive)潤滑油組成物、よりとりわけ、ピストンエンジン、特にガソリン(スパーク点火)及びディーゼル(圧縮点火)エンジンのクランクケース潤滑化における使用に適切な組成物(そのような組成物は、クランクケース潤滑剤と称される);及び摩擦改良(friction modification)における添加剤の使用に関する。本発明は、自動推進体(automotive)潤滑化における摩擦改良剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフト潤滑剤は、エンジンのクランクシャフト下にオイルサンプがあり、循環油が戻されるエンジン内における一般的潤滑化のために使用される油である。種々の目的のためにクランクケース潤滑剤中に添加剤を含ませることがよく知られている。摩擦低減剤としても称される摩擦改良剤は、摩擦係数を低減することにより作動し、それにより燃料経済を改良する境界添加剤(boundary additive)であってもよい。摩擦改良剤としてのグリセロールモノエステルの使用は、当業界において、例えば、US-A-4,495,088; US-A-4,683,069; EP-A-0 092 946; 及び WO-A-01/72933 に記載されている。グリセロールモノエステル摩擦改良剤は、商業的に使用されてきており、かつ現在も使用されている。
【0003】
GB-A-2 106 106 は、運転中のエンジンを少割合の式R1(COOR4)mを有する少なくとも1つのエステルを含む潤滑組成物で潤滑化することによる内燃エンジンの燃料消費量の低減を記載する。
(式中、R1は、アセチレン不飽和の存在しない脂肪族炭化水素基盤のラジカルであって、約10個〜約35個の炭素原子を含み、その少なくとも8個の炭素原子が直鎖構造中に存在し;
各々のR4は、独立して水素又は約18個までの炭素原子を含むアルキル又はアルケニルラジカルであり、少なくとも1つのR4はアルキル又はアルケニルであり;かつ、
mは、2〜5の整数である。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
潤滑剤の配合者は、内燃エンジンの運転の際に消費される燃料の量を低減するさらなる手段を常に追求している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要約)
本発明により、驚くべきことに、本願明細書におけるデータにより証明されるように、ブタン酸又はその塩を採用することにより、グリセロールエステル添加剤を超える摩擦の緩和における改良がなされる。
【0006】
第1の側面において、本発明は、
(A)多割合の潤滑粘度の油;及び
(B)少割合の油溶性又は油分散性添加剤成分としての-CO(CH2)2COOH部分を有する4-オキソブタン酸であって、前記-CO(CH2)2COOH部分が、
(i)OR1基へ結合して半酸半エステルを提供し(式中、R1は、10個〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。);又は
(ii)X基へ結合してケト酸を提供し(式中、Xは、10個〜30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロカルビル基で置換される芳香族基である。);又は
(iii)NR23基へ結合して半酸半アミドを提供する(式中、R2及びR3の1つ又は両方は、10個〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R2及びR3の1つは水素原子であってもよいが、両方が水素原子ではない。)、前記4-オキソブタン酸又はその塩、
を含む又はそれらを混合することにより製造される自動推進体用潤滑油組成物を包含する。
【0007】
第2の側面において、本発明は、内燃エンジンを潤滑化する方法であって、(a)本発明の第1の側面の組成物をそのクランク室に提供すること、及び(b)当該エンジンを運転すること、を含む、前記方法を提供する。
第3の側面において、本発明は、内燃エンジンの潤滑化に際して潤滑油組成物の摩擦改良特性を高めるための、潤滑油組成物中の添加剤成分としての本発明の第1の側面において定義されるとおりの油溶性又は油分散性の4-オキソブタン酸又はその塩の使用を提供する。
【0008】
本明細書において使用される場合、次の言葉及び表現は、以下の意味を有する。
“有効成分”又は“(a.i.)”は、希釈剤又は溶剤ではない添加剤物質を指す。
“含む”又はいずれの類似する言葉は、記載した特徴、ステップ、整数又は成分の存在を明記するが、1つ以上の他の特徴、ステップ、整数、成分又はこれらのグループの存在又は追加を除外しない。“〜からなる”又は“本質的に〜からなる”又は類似する表現は“含む”又は類似する言葉の範囲内に包含されていてもよく、“本質的に〜からなる”は、それが適用される組成物の当該特性に実質的に作用しない物質の包含を許容する。
【0009】
“ヒドロカルビル”は、水素原子及び炭素原子を含む化合物の化学基であって、炭素原子によって直接的に化合物の残部へ結合される当該化学基を意味する。当該基は炭素及び水素以外の原子(“ヘテロ原子”)を1つ以上含んでいてもよいが、それらが当該基の本質的なヒドロカルビルの性質に影響しないことを条件とする。
“多割合(major amount)”は、組成物の50質量%を超えることを意味する。
“少割合(minor amount)”は、組成物の50質量%未満であることを意味する。
【0010】
また、使用される種々の必須であり、最適でありかつ通例の成分が配合、保管又は使用の状況下で反応してもよく、本発明がまた、いずれのそのような反応の結果として入手可能な生成物又は獲得される生成物をも提供することが理解される。
さらに、当然のことながら、本明細書に記載されるいずれの上限量及び下限量、範囲の限定及び割合の限定は独立して組み合わされてもよい。
(発明の詳細な説明)
本発明の各々の側面及び全ての側面に関連する本発明の特徴を、必要に応じて、以下のとおり、より詳細に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(潤滑粘度の油(A))
潤滑粘度の油(時々、“ベースストック(base stock)”又は“基油”と称される)は、例えば、最終的な潤滑剤(又は潤滑剤組成物)を製造するために、添加剤及び考えられる他の油が混和される潤滑剤の主要な液体成分である。
【0012】
基油は、濃縮物の製造のため及びそれから潤滑油組成物を製造するために有用であり、天然潤滑油(植物油、動物油又は鉱油)及び合成潤滑油並びにこれらの混合物から選択されてもよい。軽留出鉱油からガスエンジン油、鉱物潤滑油、自動推進体用油及び大型車両用ディーゼル油のような重質潤滑油までの粘度範囲であってもよい。一般に、油の粘度は、100℃で2〜30 mm2s-1、特に5〜20 mm2s-1の範囲である。
天然油としては、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液体石油及びパラフィン系、ナフテン系及び混合パラフィン-ナフテン系タイプの水素化精製、溶媒処理鉱物潤滑油などが挙げられる。石炭又は頁岩に由来する潤滑粘度の油もまた、有用な基油である。
【0013】
合成潤滑油としては、重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン))などの炭化水素油、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン)、ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール)及びアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体などが挙げられる。
【0014】
他の適切な種類の合成潤滑油には、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルが含まれる。これらのエステルの具体的な例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル及び1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸との反応によって形成される複合エステルなどが挙げられる。
また、合成油として有用なエステルとしては、C5-C12モノカルボン酸と多価アルコールから製造されるもの、及びネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールのような多価アルコールエーテルなどが挙げられる。
【0015】
未精製、精製及び再精製油は、本発明の組成物で使用できる。未精製油は、さらに精製処理をしないで、天然又は合成源から直接得られるものである。例えば、乾留操作(retorting operations)から直接得られる頁岩油、蒸留から直接得られる石油又はエステル化プロセスから直接得られ、さらに処理しないで使用されるエステル油は未精製油である。精製油は、1つ以上の特性を改良するために、1つ以上の精製ステップでさらに処理されることを除いて、未精製油と同様である。多くのそのような精製技術、例えば蒸留、溶媒抽出、酸又は塩基抽出、ろ過及び浸出(percolation)は、当業者に知られている。再精製油は、すでにサービスで使用されている、精製油に適用される精製油を得るために使用される方法と同様の方法によって得られる。そのような再精製油は、また再生油又は再加工油として知られており、しばしば使用した添加剤及び油分解生成物の承認のための技術によってさらに処理される。
【0016】
基油の他の例は、合成灯軽油(gas-to-liquid)(“GTL”)基油である。すなわち、当該基油は、フィッシャー‐トロプシュ触媒を用いてH2及びCOを含む合成ガスから製造されるフィッシャー‐トロプシュ合成炭化水素に由来する油であってもよい。これらの炭化水素は、典型的には基油として有用であるためにさらに処理されることを必要とする。例えば、当業界で知られる方法によって、水素化異性化(hydroisomerized);水素化分解及び水素化異性化;脱ろう;又は水素化異性化及び脱ろうしてもよい。
【0017】
基油は、API EOLCS 1509の定義に従ってグループIからVに分類してもよい。
潤滑粘度の油を用いて濃縮物を製造する際には、濃縮物形成量(例えば、40〜60質量%のような30〜70質量%)で存在し、例えば、10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは20〜70質量%のような1〜90質量%で上記の成分(B)である添加剤又は1つ以上の共添加剤と組み合わされる成分Bである添加剤の有効成分を含有する濃縮物を与える。濃縮物中で使用される潤滑粘度の油は、適切な油性の、典型的には、炭化水素キャリア流体(例えば、鉱物潤滑油又は他の適切な溶剤)である。脂肪族炭化水素、ナフテン炭化水素及び芳香族炭化水素と同様に本明細書に記載されるような潤滑粘度の油もまた、濃縮物用の適切なキャリア流体の例である。
【0018】
濃縮物は、それらの使用前に添加剤を処理する都合のよい手段を提供し、潤滑油組成物における添加剤の溶解又は分散を促進する。1つ以上の種類の添加剤(時々、“添加剤成分”と称する)を含む潤滑油組成物を製造する際には、各々の添加剤を、各々、濃縮物の形態で、別々に組み入れてもよい。しかしながら、多くの場合、下記に記載されるような1つ以上の共添加剤を含むいわゆる添加剤“パッケージ”(また、“アドパック(adpack)”とも称する)を単一の濃縮物中に提供することが好都合である。
【0019】
本発明において、多割合で提供される潤滑粘度の油は、少割合の少なくとも1つの添加剤と組み合わされ、必要であれば、明細書の下記に記載されるような1つ以上の共添加剤と組み合わされ、潤滑油組成物を構成する。この製造は、添加剤を直接的に当該油へ加えることにより又は添加剤をその濃縮物の形態で加えて当該添加剤を分散させる又は溶解することによって達成してもよい。添加剤は、当業者に知られるいずれの方法により、他の添加剤を加える前、加えるのと同時又は加えた後のいずれかによって当該油へ加えてもよい。
【0020】
本明細書で用いられる“油溶性”若しくは“油分散性”という用語又は類似する用語は、当該化合物又は添加剤があらゆる割合で当該油中に溶解性である、溶解可能である、混和性である又は懸濁され得ることを必ずしも表すわけではない。しかしながら、これらは例えば、当該化合物又は添加剤が、当該油が採用される環境においてそれらの意図される効果を発揮するのに十分な程度まで油中に溶解性であるか又は安定的に分散性であることを意味する。さらに、他の添加剤のさらなる混合はまた、必要なら、特定の添加剤のより高いレベルの混合を許容してもよい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物は、当該組成物をそこへ加えることにより、機械的なエンジン部品を潤滑化するために、とりわけ、例えば、スパーク点火又は圧縮点火の2ストローク又は4ストロークの往復エンジンのような内燃エンジンにおいて、用いてもよい。好ましくは、当該組成物は、クランクケース潤滑剤である。
本発明の潤滑油組成物(及びまた、濃縮物)は、油性のキャリアとの混合の前後で化学的に同一物のままであってもよい又は同一物のままでなくてもよい定義される成分を含む。本発明は、混合前又は混合後又は混合前及び混合後の両方で定義される成分を含む組成物を包含する。
潤滑油組成物を製造するために濃縮物が用いられる際には、それらは例えば、当該濃縮物の質量の1割合につき、潤滑粘度の油の質量で3割合〜100割合、例えば、5割合〜40割合で希釈してもよい。
【0022】
(添加剤成分(B))
これは、記載されるとおり、4-オキソブタン酸又はその塩であり、当該酸が-CO(CH2)2COOH部分を含むように、その番号2及び3の炭素原子は各々非置換である、すなわち、それらは各々2つの水素原子を有しており、メチレン基の一部である。いかなる理論にも束縛されることなく、当該部分中のメチレン基が当該部分中の3つのO原子に表面でのより優れた鉄への結合能を与え、それによって、当該部分が分子の一部である、当該分子の摩擦改良特性を向上させると考えられている。
【0023】
成分(B)は、金属を含有しそれにより灰形成性の物質とは対照的に、燃焼により灰を実質的に全く形成しない非金属性有機物質であるという意味で“無灰”であってもよい。添加剤成分へ油溶性又は油分散性を与えるために、成分Bは、本明細書で(i)、(ii)及び(iii)の各々において定義されるように、適切なヒドロカルビル基を有する。
(i)において、4-オキソブタン酸(B)は、半酸−半エステルである。ヒドロカルビル基R1は油溶性を与え、直鎖又は分鎖、好ましくは直鎖であって、好ましくは12個〜20個
の炭素原子を有する。ヒドロカルビル基R1は、アルケニル又はアルキル、好ましくはアルケニルであってもよく、その際には好ましくは1つの二重結合のみ有する。(i)の例として、基R1がCH3(CH2)7CH=CH(CH2)8である、すなわち、基R1がオレイルである場合には、R1OCO(CH2)2COOHが言及されてもよい。
【0024】
US-A-4 096 077 (077) は、コハク酸及びアルコールの少なくとも1つの半酸半エステルを含む潤滑油組成物を記載する。077 は、それらの摩耗防止剤としてのそれらの使用を記載するが、ベンゾトリアゾール、C1-C20のアルキル置換型ベンゾトリアゾール及び無水マレイン酸の半酸半エステルとの組み合わせについては記載していない。
添加剤成分(B)が(i)又は(iii)である際には、本発明の組成物は好ましくは、(a)無水マレイン酸の半酸半エステル及び(b)ベンゾトリアゾール又はC1−C20アルキル置換型ベンゾトリアゾール、のどちらか一方又は両方を含まない。
【0025】
(ii)において、(B)は、4-ケトカルボン酸である。当該ケト基は、12個〜20個の炭素原子を有するアルキル基のような、ヒドロカルビルに次々に置換されるアリール又はフェニル基のような芳香族基へ結合されて油溶性又は油分散性を与える。そのようなケト化合物は、アルキル置換型ベンゼンを無水コハク酸でアシル化することによって都合良く製造してもよい。
(iii)において、(B)は、例えば、ヒドロカルビル基がアルキル基であって、12個〜20個の炭素原子を有する長鎖アルキルアミンとコハク酸を反応させることによって得られるような半酸半モノアミドである。
4-オキソブタン酸の例として、カルボン酸基をピリジンのヒドロカルビル誘導体と反応させることによって形成される塩又はカルボン酸基をジ-n-ブチルアミン若しくはトリ-n-ブチルアミンと反応させることによって形成される塩が言及されてもよい。
【0026】
(共添加剤)
本発明の組成物中の共添加剤として、酸素原子若しくは窒素原子又は両方を含む極性ヘッド基(polar head group)を有するもののような(B)とは異なる他の有機摩擦改良剤が言及されてもよい。それらは、有機の無灰(無金属)摩擦改良剤として言及されてもよく、グリセロールモノオレアートのようなエステル基盤又はアミド基盤(アミンの(aminic))であってもよい。また、無機の摩擦改良剤、すなわち、金属含有摩擦改良剤が言及されてもよい。無機の摩擦改良剤が提供される際には、二核モリブデン化合物又は三核モリブデン化合物のような有機モリブデン化合物が好ましく、0.1〜2質量%の範囲の濃度で存在してもよく又はモリブデン原子の質量で少なくとも10ppm、例えば50〜2,000ppmで提供してもよい。
【0027】
好ましくは、モリブデン化合物のモリブデンは、当該潤滑油組成物の全重量を基盤として10〜1,500ppm、例えば、20〜1,000ppm、より好ましくは30〜750ppmの量で存在する。いくつかの適用に関して、モリブデンは、500ppmを超える量で存在する。
他の共添加剤を代表的な有効量と共に、下記にリストアップする。リストアップされる全ての値を、質量%有効成分として提示する。
【0028】
添加剤 質量% 質量%
(広い) (好ましい)
無灰分散剤 0.1 - 20 1 - 8
金属清浄剤 0.1 - 15 0.2 - 9
腐食防止剤 0 - 5 0 - 1.5
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属 0 - 10 0 - 4
酸化防止剤 0 - 5 0.01 - 3
流動点降下剤 0.01 - 5 0.01 - 1.5
消泡剤 0 - 5 0.001 - 0.15
補助摩耗防止剤 0 - 5 0 - 2
粘度改良剤 (1) 0 - 6 0.01 - 4
鉱物基油又は合成基油 バランス バランス
【0029】
(1)の粘度改良剤は、マルチグレードの油においてのみ用いられる。
概してそれらを混和することによって又は基油へ各々の添加剤を混合することによって製造される最終的な潤滑油組成物は、5〜25質量%、好ましくは5〜18質量%、概して7〜15質量%の当該濃縮物を含んでいてもよく、残りは潤滑粘度の油である。
上述される共添加剤を、より詳細に以下のとおり明確にする;当業界で知られるとおり、いくつかの添加剤は複数の効果を提供することができ、例えば、1つの添加剤が分散剤として及び酸化防止剤として機能してもよい。
【0030】
分散剤は、その主要な機能が固体及び液体の混成を懸濁状態に保持し、それによってそれらを不動態化し、エンジン堆積物を低減すると共にスラッジ堆積を低減する添加剤である。例えば、分散剤は、潤滑剤の使用の間の酸化に起因する油不溶性物質を懸濁状態で維持し、それによってエンジンの金属部品上へのスラッジ凝集及び沈降又は堆積を抑制する。
分散剤は通常、上述のとおり“無灰”であり、金属を含有しそれにより灰形成性の物質とは対照的に、燃焼により灰を実質的に全く形成しない非金属性有機物質である。それらは、極性ヘッドを有する長い炭化水素鎖を含み、当該極性は、例えばO原子、P原子又はN原子を含むことに起因する。当該炭化水素は、油溶性を与える親油基であり、例えば、40個〜500個の炭素原子を有する。従って、無灰分散剤は、油溶性のポリマー骨格を含んでいてもよい。
好ましい種類のオレフィンポリマーは、ポリブテン、特にC4レファイナリーストリーム(refinery stream)の重合によって製造してもよいポリイソブテン(PIB)又はポリ-n-ブテンである。
【0031】
分散剤の例としては、長鎖の炭化水素置換型カルボン酸の誘導体が挙げられ、例えば、高分子量の炭化水素置換型コハク酸である。分散剤の注目すべきグループ(group)は、例えば、上記の酸(又は誘導体)を窒素含有化合物と反応させることにより、有利にポリエチレンポリアミンのようなポリアルキレンポリアミンにより、製造される炭化水素置換型スクシンイミドである。US-A-3,202,678;-3,154,560;-3,172,892;-3,024,195;-3,024,237、-3,219,666;及び -3,216,936;並びに BE-A-66,875 に記載されるようなポリアルキレンポリアミンのアルケニル無水コハク酸との反応生成物がとりわけ好ましく、それらの特性を改良するためにボラート化(US-A-3,087,936 及び -3,254,025 に記載されるとおり)、フッ素化及びオキシラート化のような後処理をしてもよい。例えば、ボラート化は、アシル窒素含有分散剤を酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ素酸及びホウ素酸のエステルから選択されるホウ素化合物で処理することにより達成してもよい。
【0032】
清浄剤は、エンジン内のピストン堆積物、例えば高温ワニス及びラッカー堆積物の形成を低減する添加剤であり;それは、通常、酸中和特性を有し、微細固形物を懸濁状態で保持することが可能である。ほとんどの清浄剤は、酸性有機化合物の金属塩である金属“石鹸”を基盤とする。
清浄剤は、一般に、長い疎水性尾を有する極性ヘッドを含み、当該極性ヘッドは、酸性有機化合物の金属塩を含む。当該塩は、実質的に化学量論量の金属を含んでいてもよく、その際には、それらは、通常、正塩又は中性塩として記載され、典型的には、0〜80の全塩基価又はTBN(ASTM D2896 により測定され得るような)を有するであろう。多量の金属塩基は、過剰な金属化合物、例えば酸化物又は水素化物を酸性ガス、例えば二酸化炭素と反応させることにより含ませることができる。得られる過塩基化清浄剤は、中和清浄剤を、金属塩基(例えばカルボナート)ミセルの外層として含む。そのような過塩基化清浄剤は、150又はそれより高い、典型的には250〜500又はそれより高いTBNを有していてもよい。
【0033】
使用してもよい清浄剤としては、金属、特にはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの、油溶性の中性及び過塩基化スルホナート、フェナート、硫化フェナート、チオホスホナート、サリチラート及びナフテネート及び他の油溶性カルボキシラートが挙げられる。一般に最も使用される金属は、カルシウム及びマグネシウムであり、それらは両方共に、潤滑剤中に使用される清浄剤中に存在していてもよく、また、カルシウム及び/又はマグネシウムのナトリウムとの混合物であってもよい。特に好都合な金属清浄剤は、50〜450のTBNを有する中性及び過塩基化カルシウムスルホナート及び硫化フェナートである。
【0034】
酸化防止剤は、酸化抑制剤と称されることがあり;それらは、組成物の酸化に対する抵抗性を上昇させ、ペルオキシドと組み合せて及びペルオキシドを分解することにより又は酸化触媒を不活性化することによりそれを変性させて無毒とすることにより、機能してもよい。酸化的劣化は、潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニス様堆積物により及び粘度上昇により証明され得る。
それらは、ラジカルスカベンジャー(例えば立体障害フェノール、第2級芳香族アミン及び有機銅塩);ヒドロペルオキシド分解剤(例えば有機硫黄添加剤及び有機リン添加剤);及び多機能剤(例えば耐摩耗添加剤としても機能してもよいジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛及び摩擦改良剤及び耐摩耗添加剤として機能してもよい有機モリブデン化合物)として分類されてもよい。
適切な酸化防止剤の例は、銅含有酸化防止剤、硫黄含有酸化防止剤、芳香族アミン含有酸化防止剤、ヒンダードフェノール性酸化防止剤、ジチオリン酸塩誘導体、金属チオカルバマート及びモリブデン含有化合物より選択される。
【0035】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩はしばしば、耐摩耗及び酸化防止剤として使用される。当該金属は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、錫、亜鉛、モリブデン、マンガン、ニッケル又は銅であってもよい。亜鉛塩は、例えば、潤滑油組成物の全質量を基盤として0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%の量の潤滑油中において一般に最も使用される。それらは既知の技術に従って、最初に、通常、1以上のアルコール又はフェノールをP25と反応させることによりジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次いで形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより製造してもよい。例えば、ジチオリン酸は、第1級及び第2級アルコールの混合物を反応させることにより製造することができる。あるいはまた、一方の酸のヒドロカルビル基が完全に性質上第2級であり、他方の酸のヒドロカルビル基が完全に性質上第1級である複合的なジチオリン酸を製造することができる。亜鉛塩を製造するために、いずれの塩基性又は中性亜鉛化合物を使用することができるが、オキシド、ヒドロキシド及びカルボナートが最も一般的に採用される。商業的添加剤はしばしば、中和反応における過剰の塩基性亜鉛化合物の使用に起因して、過剰の亜鉛を含む。
【0036】
耐摩耗剤は、摩擦及び過剰摩耗を低減し、通常、例えば包含される表面上にポリスルフィドフィルムを堆積することが可能な、硫黄若しくはリン又はその両方を含有する化合物を基盤とする。注目すべきは、ジヒドロカルビルジチオリン酸塩、例えば本明細書において議論されるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)である。
無灰の耐摩耗剤の例としては、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、硫化脂肪酸エステル、及びジチオカルバマート誘導体が挙げられる。
【0037】
錆抑制剤及び腐食抑制剤は、錆及び/又は腐食から表面を保護する働きをする。錆抑制剤としては、非イオン性ポリオキシアルキレン多価アルコール及びそれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール及びアニオン性アルキルスルホン酸が挙げられる。
流動点降下剤は、潤滑油流動性改良剤としても知られるが、当該油が流れる又は注入可能である最低温度を低下させる。そのような添加剤は、よく知られている。これらの添加剤の典型例は、C8−C18ジアルキルフマラート(fumerate)/ビニルアセタートコポリマー及びポリアルキルメタクリラートである。
ポリシロキサンタイプの添加剤、例えばシリコーン油又はポリジメチルシロキサンは、泡制御(foam control)を提供し得る。
【0038】
少量の解乳化成分を使用してもよい。好ましい解乳化成分は、EP-A-330,522に記載されている。それは、ビスエポキシドを多価アルコールと反応させることにより得られる付加物とアルキレンオキシドを反応させることにより得られる。当該解乳化剤は、0.1質量%活性成分を越えないレベルで使用するべきである。0.001〜0.05質量%活性成分の処理割合が好都合である。
粘度改良剤(又は粘度指数改良剤)は、高温作業性及び低温作業性を潤滑油に付与する。分散剤としても機能する粘度改良剤もまた知られており、無灰分散剤に関して上述したとおりに製造してもよい。一般に、これらの分散剤粘度改良剤は、その後、例えばアルコール又はアミンで誘導体化される官能化ポリマー(例えば、活性モノマー、例えば無水マレイン酸で後グラフト化(post graft)されるエチレン−プロピレンの共重合体(interpolymer))である。
潤滑剤は、従来の粘度改良剤を伴って又は伴わずに、また、分散剤粘度改良剤を伴って又は伴わずに配合してもよい。粘度改良剤としての使用に適切な化合物は、一般に、ポリエステルを含む高分子量炭化水素ポリマーである。油溶性粘度改良ポリマーは、一般に、10,000〜1,000,000、好ましくは20,000〜500,000の質量平均分子量を有し、これらは、ゲル透過クロマトグラフィーにより又は光散乱により測定してもよい。
【実施例】
【0039】
本発明を、特許請求の範囲を制限することを目的としない以下の実施例において詳しく記載する。
当該実施例において、以下の添加剤成分を、本発明の実施例として用いた:
B1:4-ステアリルベンゾイルプロパン酸(SBP)の形態の4-オキソブタン酸;並びに
B2:当業界で知られる参照例として用いられるコハク酸モノ-オレイル(MOS);及びモノ-オレイン酸グリセロール摩擦改良剤(GMO)。
【0040】
成分B1を、文献の手順(P. Nuhn et al; Pharmazie 53, 12, 825, 1998)に従って無水コハク酸でのステアリルベンゼンのアシル化によって合成した。従って、三塩化アルミニウムを、5℃でニトロベンゼン中のステアリルベンゼン及び無水コハク酸の混合物へ加えた。一晩静置した後、当該混合物を氷上に注ぎ、水で洗浄した。有機層から溶媒を蒸発させて、望ましい純度で生成物(SBP)を得た。3つのバッチ(batch)で総量230gの生成物を製造した。
【0041】
成分B2を、0.5モルの無水コハク酸を0.5モルのオレイルアルコールと反応させることによって製造した。当該反応物質を、窒素ブランケット下において、120℃で6時間、コンデンサーを備えた500mLフラスコ中で頭上の攪拌機により混合した。結果として生じたコハク酸モノ-オレイルを、さらに精製することなく用いた。
同じ基油を用いて、上記の添加剤成分の各々を、組成物中へ混和して本発明の実施例及び参照実施例を提供した。当該組成物の内容物を、“試験及び結果”という表題で下記に示す。
【0042】
(試験及び結果)
高周波往復リグ(HFRR)を使用して、上記の組成物の各々の摩擦係数を評価した。本発明の実施例を、実施例1及び2として識別し、対応する参照例を実施例1'及び2'として識別した。
【0043】
実験1
採用したHFRR試験プロトコルは、以下の通りであった。
【表1】

【0044】
得られた結果は、以下の通りであった。
【表2】

【0045】
当該実験において、各々の油組成物は、0.2質量%の上記の表中の添加剤の有効成分を含んでいた。当該組成物は、上記の表で示される添加剤の同一性の点以外は全く同じであった。
摩擦測定の係数は、100℃で60分後に得られた平均値であった。
【0046】
実験2
採用したHFRR試験プロトコルは、以下の通りであった。
【表3】

【0047】
得られた結果は、以下の通りであった。
【表4】

【0048】
当該実験において、各々の油組成物は、0.2質量%の上記の表中の添加剤の有効成分を含んでいた。当該組成物は、上記の表で示される添加剤の同一性の点以外は全く同じであった。
摩擦測定の係数は、指示された温度の各々で30分後に得られた平均値であった。
上記の結果は、本発明の組成物(実施例1及び2)が全ての場合において、対応する参照組成物(実施例1'及び2')よりもより良い(すなわち、より小さい)摩擦係数を生じさせたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多割合の潤滑粘度の油;及び
(B)少割合の油溶性又は油分散性添加剤成分としての-CO(CH2)2COOH部分を有する4-オキソブタン酸であって、前記-CO(CH2)2COOH部分が、
(i)OR1基へ結合して半酸半エステルを提供し(式中、R1は、10個〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である。);又は
(ii)X基へ結合してケト酸を提供し(式中、Xは、10個〜30個の炭素原子を有する少なくとも1つのヒドロカルビル基で置換される芳香族基である。);又は
(iii)NR23基へ結合して半酸半アミドを提供する(式中、R2及びR3の1つ又は両方は、10個〜30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R2及びR3の1つは水素原子であってもよいが、両方が水素原子ではない。)、前記4-オキソブタン酸又はその塩、
を含む又はそれらを混合することにより製造される自動推進体用潤滑油組成物。
【請求項2】
1基、R2基及びR3基並びにX基中のヒドロカルビル基の各々が12個〜20個の炭素原子を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記4-オキソブタン酸が式R1OCO(CH2)2COOHを有する(式中、R1はCH3(CH2)7CH=CH(CH2)8基のようなアルケニル基である。)、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記4-オキソブタン酸が式R1OCO(CH2)2COOH又は式R23NCO(CH2)2COOHを有する場合に、(a)無水マレイン酸の半酸半エステル;及び(b)ベンゾトリアゾール又はC1-C20のアルキル置換型ベンゾトリアゾール、のどちらかを含まない又は両方共に含まない、請求項4記載の組成物。
【請求項5】
前記4-オキソブタン酸が式XCO(CH2)COOHを有する(式中、Xは、ステアリル置換型フェニル基である。)、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項6】
前記添加剤成分(B)が金属を含まない、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
無灰分散剤、金属清浄剤、腐食防止剤、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩、酸化防止剤、流動点降下剤、摩擦改良剤、消泡剤及び粘度改良剤から選択される、(B)とは異なる1つ以上の共添加剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
内燃エンジンを潤滑化する方法であって、(a)請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物をそのクランク室に提供すること、及び(b)前記エンジンを運転すること、を含む、前記方法。
【請求項9】
内燃エンジンの潤滑化に際して潤滑油組成物の摩擦改良特性を高めるための、前記潤滑油組成物中の添加剤成分としての請求項1〜6のいずれか1項記載の4-オキソブタン酸又はその塩の使用。

【公開番号】特開2008−127578(P2008−127578A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−329314(P2007−329314)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】