説明

潤滑油組成物

【課題】流動点を低く維持しつつ、低温時の動粘度が低い潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】第1の基油と第2の基油を含み、流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45mm/s以下である潤滑油組成物であって、第1の基油は、流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45〜60mm/sのエステル系合成油であり、第2の基油は、流動点が−15℃〜−25℃で0℃の動粘度が10〜20mm/sのエステル系合成油であることを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動点が低くかつ低温時の動粘度が低い潤滑油組成物に関する。さらに詳細には、低温使用時の流動性や低トルク性が必要とされる流体軸受油又は含浸軸受油として好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、AV機器、車載機器等の使用環境は、高温から低温まで幅広い温度範囲にわたっているが、近年、寒冷地での使用も考慮されるようになり、−40℃での動作保証が必要不可欠になっている。
したがって、ハードディスクドライブに搭載された流体軸受や含浸軸受に使用される潤滑油においても、流動点が低くかつ低温時の動粘度が低いといった性能が要求される。
具体的には、−40℃での動作保証の観点から流動点は−60℃以下であることが望ましく、また、低温時の粘度増加による軸受トルクの増加は、消費電力の増大につながるため、動粘度は0℃で45mm2/s以下であることが望ましい。
【0003】
上記要求性能を満足する潤滑油としては、低温性に優れるジエステルが挙げられる。例えば、アジピン酸と2−エチルヘキシルアルコールのジエステルであるDOAは、流動点が−60℃以下と低く、0℃の動粘度も45mm2/s以下と低い事から上記要求性能を満足する。しかし、近年、環境ホルモンの疑いのある物質としてリストアップされているため、潤滑油への使用は困難である。
他のジエステル油としては、アゼライン酸やセバシン酸と2−エチルヘキシルアルコールとのジエステルであるDOZやDOSも挙げられるが、どちらも流動点は−60℃以下と低く優れるものの、0℃の動粘度がDOAよりも高く上記要求性能を満足しない。
また、セバシン酸とブチルアルコールのジエステルであるDBSやアジピン酸とイソブチルアルコールのジエステルであるDIBAといった低分子量のジエステルも挙げられるが、どちらも0℃の動粘度はDOAよりも低く優れるものの、−20℃前後で結晶化してしまい上記要求性能を満足しない。
【0004】
以上のように、ジエステル単体で流動点と動粘度の両性能を満足することは非常に困難である。そこで、2種類のエステルを混合する事で流動点を改善した例も報告されている。例えば、特許文献1では、低温の動粘度が低いポリオールエステルとDBSやDIBAを特定の比率で混合することにより、流動点を−40℃代まで改善している。しかし、−40℃での長期使用を考慮した場合、経時で結晶の析出等が懸念され、動作保証の観点から上記要求性能を十分に満足しているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−67957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、流動点を低く維持しつつ、低温時の動粘度が低い潤滑油組成物を提供することである。
上記潤滑油組成物を基油とした流体軸受油又は含浸軸受油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に対し、流動点の低いエステル系合成油と低温時の動粘度が低いエステル系合成油を混合する事により、これを改善した。本発明は以下に示す潤滑油組成物を提供するものである。
1.第1の基油と第2の基油を含み、流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45mm2/s以下である潤滑油組成物であって、第1の基油は、流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45〜60mm2/sのエステル系合成油であり、第2の基油は、流動点が−15℃〜−25℃で0℃の動粘度が10〜20mm2/sのエステル系合成油であることを特徴とする潤滑油組成物。
2.第1の基油が、アゼライン酸ジオクチル、または、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとn−オクチル酸のジエステルであることを特徴とする上記1記載の潤滑油組成物。
3.第2の基油が、アジピン酸ジイソブチルであることを特徴とする上記1又は2記載の潤滑油組成物。
4.第2の基油の配合割合が、第1の基油と第2の基油の合計量に対して、1.0〜50.0質量%であることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載の潤滑油組成物を基油とした流体軸受油又は含浸軸受油。
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、流動点が低く、かつ、低温時の動粘度が低い。従って、流体軸受油や含浸軸受油の基油として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の潤滑油組成物には、流動点や低温での安定性を向上させるため、第1の基油として流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45〜60mm2/sのエステル系合成油が使用されている。
第1の基油の例としては、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジオクチルといったジカルボン酸とアルコールのジエステルや2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとn−オクチル酸のジエステルといったジアルコールとカルボン酸のジエステル等が挙げられる。また、これらのジエステルは、2種以上を適宜配合して使用することも可能である。
【0010】
本発明の潤滑油組成物には、低温での動粘度を下げるため、第2の基油として流動点が−15℃〜−25℃で0℃の動粘度が10〜20mm2/sのエステル系合成油が使用されている。
第2の基油の例としては、アジピン酸ジイソブチルが挙げられる。
第2の基油の配合割合は、第1の基油と第2の基油の合計量に対して。好ましくは1.0〜50.0質量%、さらに好ましくは5.0〜50.0質量%、最も好ましくは10.0〜30.0質量%である。
第2の基油の配合割合が1.0質量%未満では、動粘度の十分な低下が認められない傾向があり、混合割合が50質量%を超えると流動点や低温安定性が悪化する傾向がある。
【0011】
本発明の潤滑油組成物には、摩耗防止剤、極圧剤、油性剤、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、消泡剤等必要に応じて全ての添加剤が使用可能である。また、これらの添加剤は、1種又は2種以上の添加剤を適宜配合することも可能である。
実施例1−6及び比較例1−10
表1及び表2に示す成分を含む潤滑油組成物を調製した。
第1の基油(流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45〜60mm2/sのエステル系合成油)
エステル系合成油A:アゼライン酸ジオクチル
エステル系合成油B:2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとn−オクチル酸のジエステル
第2の基油(流動点が−15℃〜−25℃で0℃の動粘度が10〜20mm2/sのエステル系合成油)
エステル系合成油C:アジピン酸ジイソブチル
比較例の基油
エステル系合成油D:セバシン酸ジブチル
【0012】
<試験方法>
[動粘度測定]
試験方法:JIS K 2283に準ずる。
[流動点測定]
試験方法:JIS K 2269に準ずる。
[低温安定性試験]
試験温度:−30℃、−40℃
試験時間:500h
試験方法:20mlのサンプルビンに試料を5g量り採り、規定温度の恒温槽内に規定時間静置する。静置後、結晶の析出の有無を目視により確認する。
結果を表1及び表2に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
<エステル系合成油Aに対する効果>
エステル系合成油A(第1の基油)に、エステル系合成油C(第2の基油)を混合した実施例1〜3は、エステル系合成油A単体である比較例1に比べ、低温の動粘度の改善が認められる。
エステル系合成油A(第1の基油)に、エステル系合成油D(比較例の基油)を混合した比較例4〜6は、エステル系合成油A単体である比較例1に比べ、低温の動粘度の改善が認められる。
実施例1〜3と比較例4〜6とを比べると、エステル系合成油Cは、エステル系合成油Aの流動点及び低温安定性を維持しつつ、低温の動粘度が改善しているのに対し、エステル系合成油Dは、低温の動粘度は改善するものの、エステル系合成油Aよりも流動点及び低温安定性の悪化が認められ、改善効果はエステル系合成油Cの方が優れる。
【0016】
<エステル系合成油Bに対する効果>
エステル系合成油B(第1の基油)に、エステル系合成油C(第2の基油)を混合した実施例4〜6は、エステル系合成油A単体である比較例7に比べ、低温の動粘度の改善が認められる。
エステル系合成油Bに、エステル系合成油D(比較例の基油)を混合した比較例8〜10は、エステル系合成油A単体である比較例7に比べ、低温の動粘度の改善が認められる。
実施例4〜6と比較例8〜10とを比較すると、エステル系合成油Cは、エステル系合成油Bの流動点及び低温安定性を維持しつつ、低温の動粘度が改善しているのに対し、エステル系合成油Dは、低温の動粘度は改善するものの、エステル系合成油Bよりも流動点及び低温安定性の悪化が認められ、改善効果はエステル系合成油Cの方が優れる。
【0017】
以上より、流動点が−60℃以下で、0℃の動粘度が45〜60mm2/sのエステル系合成油A又はB(第1の基油)と、流動点が−15℃〜−25℃で、0℃の動粘度が10〜20mm2/sのエステル系合成油C(第2の基油)とを混合することにより、流動点が−60℃以下と優れかつ0℃の動粘度が45mm2/s以下と低い値を示す潤滑油組成物が達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基油と第2の基油を含み、流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45mm2/s以下である潤滑油組成物であって、第1の基油は、流動点が−60℃以下で0℃の動粘度が45〜60mm2/sのエステル系合成油であり、第2の基油は、流動点が−15℃〜−25℃で0℃の動粘度が10〜20mm2/sのエステル系合成油であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
第1の基油が、アゼライン酸ジオクチル、または、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとn−オクチル酸のジエステルであることを特徴とする請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
第2の基油が、アジピン酸ジイソブチルであることを特徴とする請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
第2の基油の配合割合が、第1の基油と第2の基油の合計量に対して、1.0〜50.0質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の潤滑油組成物を基油とした流体軸受油又は含浸軸受油。

【公開番号】特開2010−275471(P2010−275471A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130720(P2009−130720)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】