説明

潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法

【課題】大がかりな測定装置を用いることなく、潤滑空間における所定の部位間でのグリース移動量を測定できるようにすることである。
【解決手段】等速ジョイントの潤滑空間のマウス底部A、トラック部Bおよびブーツ内部Cの各部位に充填されるグリースを異なる色に着色し、これらの異なる色に着色したグリースの混合率によって変化する色を、予め混合率を変えたサンプルに対応させて表色系で数値化して、この数値化された数値と予め求めた表色系の数値と混合率との相関関係とから、所定の部位に存在するグリースの他の各部位に充填されたグリースとの混合率を求めることにより、大がかりな測定装置を用いることなく、潤滑空間における所定の部位間でのグリース移動量を測定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントや転がり軸受等の潤滑空間における所定の部位間でのグリースの移動量を測定する潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントや転がり軸受等の一つに連なった潤滑空間の各部位に充填されるグリースは、これらの運転に伴って各部位間を移動する。このグリースの所定の部位間での移動量を把握することは、潤滑空間での潤滑の適正化やグリースの流動特性の改善等のために重要な課題である。
【0003】
このような課題への取り組みとしては、等速ジョイントの潤滑空間を対象として、その各部位に充填されるグリースを、異なる金属成分を含み異なる色の着色剤で着色し、等速ジョイントの運転後に、各部位に存在するグリースを採取して、採取した各グリースに含まれる金属成分の量を金属成分トレーサで定量分析することにより、他の部位に充填されたグリースとの混合率を求め、所定の部位間でのグリースの移動量を測定する方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】Mitsuhiro Kakizaki et al.“Flow Observation of Lubricating Greases in Constant Velocity Joints”NLGI SPOKESMAN,Vol.67,No.1,(April 2003),p.20〜26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載されたグリース移動量の測定方法は、金属成分を定量分析するために、金属成分トレーサとしてEPMA(X線マイクロアナライザ)等の大がかりな測定装置を必要とする問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、大がかりな測定装置を用いることなく、潤滑空間における所定の部位間でのグリース移動量を測定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、一つに連なった潤滑空間の各部位に充填されるグリースの所定の部位間での移動量を測定する潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法において、前記潤滑空間の各部位に充填されるグリースを異なる色に着色し、これらの異なる色に着色したグリースの混合率によって変化する色を、予め前記混合率を変えたサンプルに対応させて表色系で数値化して、この数値化された表色系の数値と混合率との相関関係を求めておき、前記グリースの移動による混合で色が変わった所定の部位に存在するグリースの色を前記表色系で数値化して、この数値化された数値と前記予め求めた表色系の数値と混合率との相関関係とから、前記所定の部位に存在するグリースの他の各部位に充填されたグリースとの混合率を求め、前記グリースの所定の部位間での移動量を測定する方法を採用した。
【0008】
すなわち、各部位に充填されるグリースを異なる色に着色し、これらの異なる色に着色したグリースの混合率によって変化する色を、予め混合率を変えたサンプルに対応させて表色系でサンプル数値化して、この数値化された表色系の数値と混合率との相関関係を求めておき、グリースの移動による混合で色が変わった所定の部位に存在するグリースの色を表色系で数値化して、この数値化された数値と予め求めた表色系の数値と混合率との相関関係とから、所定の部位に存在するグリースの他の各部位に充填されたグリースとの混合率を求めることにより、大がかりな測定装置を用いることなく、潤滑空間における所定の部位間でのグリース移動量を測定できるようにした。
【0009】
前記グリースを異なる色に着色する着色剤としては、有機または無機の顔料や染料を用いることができる。有機顔料としてはアゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等を用いることができ、無機顔料としてはチタン白、黄鉛、カドミウム顔料、弁柄等を用いることができる。また、染料としては、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、硫化染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、ピラゾロン染料、スチルベン染料、キサンテン染料、アリザニン染料、アクリジン染料、キノンイミン染料、チアゾール染料、メチン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料等を用いることができる。
【0010】
また、前記表色系としては、公知のL*a*b*表色系、ハンターLab表色系、XYZ(Yxy)表色系、マンセル表色系、L*C*h*表色系等を用いることができ、これらの表色系で表現される明度や色相等の色の属性を測定する方法としては、刺激値直読方法や分光側色方法を採用することができる。
【0011】
上述したグリース移動量の測定方法は、等速ジョイントの外輪とブーツで覆われた潤滑空間に充填されたグリースの移動量の測定に好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法は、潤滑空間の各部位に充填されるグリースを異なる色に着色し、これらの異なる色に着色したグリースの混合率によって変化する色を、予め混合率を変えたサンプルに対応させて表色系で数値化して、この数値化された数値と予め求めた表色系の数値と混合率との相関関係とから、所定の部位に存在するグリースの他の各部位に充填されたグリースとの混合率を求めるようにしたので、大がかりな測定装置を用いることなく、潤滑空間における所定の部位間でのグリース移動量を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係る潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法を適用した等速ジョイントを示す。この等速ジョイントは、ステム部1aが設けられて一端が閉塞された外輪1の開口端側に、内輪2が外嵌された軸3を挿入し、これらの外輪1と内輪2の間にボール4を介在させて、外輪1の開口端と軸3との間をブーツ5で覆ったものであり、外輪1とブーツ5で覆われた一つに連なった潤滑空間の各部位にグリースが充填される。なお、ブーツ5は複数の山形が連なる蛇腹状とされ、軸3側の1番目の山部が第1山部5aとなっている。
【0014】
前記潤滑空間のうち、外輪1の閉塞されたマウス底部Aに青色に着色したグリースを、ボール4を介在させた外輪1と内輪2の間のトラック部Bに赤色に着色したグリースを、およびブーツ内部Cに黄色に着色したグリースを充填した。なお、青色と赤色の着色にはアゾ染料を用い、黄色の着色には着色剤を用いずに、グリースに元から添加された有機モリブデンの色をそのまま利用した。
【0015】
前記等速ジョイントを、作動角0〜35°、回転数100rpm、トルク5Nmの運転条件で2時間運転し、運転終了後に潤滑空間のトラック部Bに存在するグリースbと、ブーツ5の第1山部5aのブーツ内部Cに存在するグリースcとを採取し、採取された各グリースb、cの色を刺激値直読方法で測定し、それぞれL*a*b*表色系を用いて数値化した。
【0016】
前記L*a*b*表色系は、図2に示すように、色をL*軸、a*軸およびb*軸の3次元座標(L*,a*,b*)で数値化するものであり、L*は明度に相当する数値を表し、a*とb*は、その組み合わせによって色相と彩度に相当する数値を表す。ちなみに、図2の3次元座標にプロットした各色の数値は、青色100%の色が(L*,a*,b*)=(36.1,−5.2,−19.6)、赤色100%の色が(L*,a*,b*)=(37.6,37.8,13.5)、黄色100%の色が(L*,a*,b*)=(63.9,−1.2,24.6)である。また、刺激値直読方法は、それぞれ赤、緑、青の波長域に大きな感度を持つ3つのセンサを用いて色の属性を測定し、直接「3刺激値」と呼ばれるXYZ表色系の(X,Y,Z)の数値を求めるものであり、この刺激値直読方法で求めた数値(X,Y,Z)を公知の変換式でL*a*b*表色系の数値(L*,a*,b*)に変換した。
【0017】
前記運転終了後に採取した各グリースb、cの色の属性を刺激値直読方法で測定して、L*a*b*表色系で数値化した値は、トラック部Bに存在したグリースbの色が(L*,a*,b*)=(37.4,10.0,−3.5)、ブーツ5の第1山部5aのブーツ内部Cに存在したグリースcの色が(L*,a*,b*)=(39.9,10.0,−2.2)であった。これらの数値化した数値と、予め青、赤、黄色の3色のグリースの混合率を変えたサンプルに対応させてL*a*b*表色系でサンプル数値化して求めた数値と混合率との相関関係とから、各グリースb、cの混合率を求めた結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示した各グリースb、cの混合率より、トラック部Bには、マウス底部Aから20質量%と、ブーツ内部Cから59質量%のグリースが移動し、ブーツ5の第1山部5aのブーツ内部Cには、それぞれマウス底部Aとトラック部Bから16質量%ずつのグリースが移動していることがわかる。
【0020】
上述した実施形態では、等速ジョイントの潤滑空間におけるグリース移動量を測定したが、本発明に係るグリース移動量の測定方法は、転がり軸受等の他の潤滑空間におけるグリース移動量も測定することができる。また、グリースの色の数値化に用いる表色系や色の属性の測定方法も、実施形態のL*a*b*表色系や刺激値直読方法に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るグリース移動量の測定方法を適用した等速ジョイントを示す縦断面図
【図2】色の数値化に用いたL*a*b*表色系を示す3次元座標
【符号の説明】
【0022】
1 外輪
1a ステム部
2 内輪
3 軸
4 ボール
5 ブーツ
5a 第1山部
A マウス底部
B トラック部
C ブーツ内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つに連なった潤滑空間の各部位に充填されるグリースの所定の部位間での移動量を測定する潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法において、前記潤滑空間の各部位に充填されるグリースを異なる色に着色し、これらの異なる色に着色したグリースの混合率によって変化する色を、予め前記混合率を変えたサンプルに対応させて表色系で数値化して、この数値化された表色系の数値と混合率との相関関係を求めておき、前記グリースの移動による混合で色が変わった所定の部位に存在するグリースの色を前記表色系で数値化して、この数値化された数値と前記予め求めた表色系の数値と混合率との相関関係とから、前記所定の部位に存在するグリースの他の各部位に充填されたグリースとの混合率を求め、前記グリースの所定の部位間での移動量を測定するようにしたことを特徴とする潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法。
【請求項2】
前記一つに連なった潤滑空間が、等速ジョイントの外輪とブーツで覆われた潤滑空間である請求項1に記載の潤滑空間におけるグリース移動量の測定方法。

【図1】
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【図2】
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