説明

澱粉改質剤および澱粉含有食品

【課題】フラワーペースト、ソース、スープなどに例示される澱粉を含有する食品の粘性や食感等を改良するために当該食品に添加される澱粉改質剤、並びに、適当なボディ感があるにも関わらず、良好な口溶け、滑らかな食感等が付与された澱粉含有食品を提供する。
【解決手段】構成脂肪酸として炭素数22の飽和脂肪酸を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分として含有する澱粉改質剤であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが7以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有食品の粘性や食感などを改良するために当該食品に添加される澱粉改質剤に関する。さらに、適当なボディ感があるにも関わらず、良好な口溶け、滑らかな食感等が付与された澱粉含有食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
澱粉を水中に分散して加熱すると不可逆的に膨潤し、糊化する。糊化澱粉は増粘性、ゲル化性、保水性などを示し、フラワーペースト、ソース、スープなど澱粉を含有する食品の質感の発現に非常に重要な役割を果たす。しかし、膨潤した澱粉は極めてもろく、崩壊しがちであり、これが、粘性や保形性の低下を生じさせるだけでなく、のり状感や糸引性の要因となり食感の低下を引き起こす。
【0003】
澱粉を改質する方法の一つに、乳化剤を添加することが公知であり、乳化剤は、澱粉表面に疎水性の複合体皮膜を形成させ、その崩壊を抑制することが知られている。乳化剤の澱粉への作用は、従来、飽和モノグリセリドが最も強いとされているが(非特許文献1)、この複合体は、一般に100℃付近で解離するため、レトルト加熱等の過酷な条件下では、やはり粘性や保形性が低下したり、のり状感や糸引性を生じてなめらかさが失われたりする。特に、機械的な剪断や極端なpH条件は、この崩壊を早めがちである。
【0004】
近年、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを有効成分とする澱粉質含有食品用品質改良剤組成物及び油脂組成物(特許文献1)に例示されるように、澱粉含有食品の物性並びに食感を改良できる乳化剤が新たに提案されている。また、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を添加することを特徴とするルー(特許文献2)など、乳化剤の添加効果を高める利用方法が提案されている。しかし、これらの方法も十分に効果的であるとは言い難い。
【0005】
さらに、澱粉含有食品への乳化剤の利用技術として、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、および蛋白質を含有することを特徴とする水中油型のカスタードクリーム用乳化油脂組成物(特許文献3)、リゾレシチンとグリセリン脂肪酸エステルを配合することを特徴とする耐凍結性カスタードクリームの製造法(特許文献4)などが開示されているが、これらは、カスタードクリームを冷凍保存し、解凍した場合の品質や食感の劣化を抑制する技術であって、本発明の技術内容とは異なる。
【0006】
【非特許文献1】日高徹著;食品用乳化剤,幸書房(1987),p112−116
【特許文献1】特開平9−285259号公報
【特許文献2】特開2003−219844号公報
【特許文献3】特開平10−084875号公報
【特許文献4】特開2000−050806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、澱粉含有食品の粘性や食感などを改良するために当該食品に添加される澱粉改質剤に関する。さらに、適当なボディ感があるにも関わらず、良好な口溶け、滑らかな食感等が付与された澱粉含有食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルが澱粉粒子の崩壊を抑制する効果に優れ、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを適量有して糊化させた澱粉並びに澱粉含有食品は100℃以上の加熱や撹拌条件下でも澱粉の粒構造が崩壊し難いと言う特徴を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、フラワーペースト等の澱粉含有食品に対して物性改良並びに食感改良効果を示す澱粉改質剤であって、構成脂肪酸として炭素数22の飽和脂肪酸を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分として含有し、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが7以上であることを特徴とする澱粉改質剤。そして、前記澱粉改質剤を含有してなる澱粉含有食品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、澱粉含有食品の粘性や食感などを改良することができる澱粉改質剤が提供される。本発明の澱粉改質剤を用いることで、適当なボディ感があるにも関わらず、良好な口溶け、滑らかな食感等が付与された澱粉含有食品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施形態に基づき以下に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0012】
本発明の澱粉改質剤は、構成脂肪酸として炭素数22の飽和脂肪酸を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分として含有する。このポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する全ての脂肪酸の総モル量を1とした場合、炭素数22の飽和脂肪酸のモル比率は、好ましくは0.3以上である。このようなモル比率であると、高温、撹拌条件下でも澱粉改質効果が顕著に発揮される。
【0013】
構成脂肪酸中に炭素数22の飽和脂肪酸を必須の脂肪酸として含有していれば、他の脂肪酸が一種又は二種以上含まれていてもよい。他の脂肪酸としては、特に限定されないが、炭素数8〜22の脂肪酸および不飽和脂肪酸であるとよい。炭素数が8〜22の飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸が例示される。一方、炭素数8〜22の不飽和脂肪酸としては、デセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸が例示される。
【0014】
さらに、本発明の澱粉改質剤に含まれるポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは7以上である。ここでHLBは、1分子中における水酸基(親水性)と脂肪酸残基(疎水性)とのバランスにより決定されるものであり、Griffinの経験式から算出されるものであり、次式(式1)により求められる。
(式1)HLB=20(1−SV/NV)
SV:エステルのケン化価
NV:脂肪酸の中和価
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、特に限定されないが、平均重合度が2〜20であれば良く、平均重合度が3〜20であるとより好ましい。ここで平均重合度(n)は、末端分析法による水酸基価から算出される値であり、詳しくは、次式(式2)及び(式3)から平均重合度(n)が算出される。
(式2)分子量=74n+18
(式3)水酸基価=56110(n+2)/分子量
前記(式3)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0016】
澱粉改質剤には、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの他に、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤およびキサンタンガム、ペクチン、大豆多糖類等の安定剤から選択される一種または二種以上を含有しても良く、物性や食感を調整する目的などで用いることができる。
【0017】
澱粉改質剤の使用量は、澱粉の含有率、撹拌や加熱といった調製条件などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、好ましくは0.05〜2.0重量%、さらに好ましくは0.1〜1.0重量%である。0.05重量%未満では本発明の目的とする効果が期待できず、2.0重量%より多いと機能的メリットに対するコスト高が許容されない場合がある。
【0018】
澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、サゴ澱粉などの市販の澱粉いずれもが使用でき、用途や目的等に併せて選択できる。また、天然の澱粉だけでなく、風味や食感等に及ぼす影響が許容される範囲で、化工澱粉のような化学的、物理的修飾、酵素処理等をした澱粉を組合せて使用してもよい。
【0019】
本実施形態における澱粉含有食品は、澱粉を含有する食品であれば特に限定されるものではないが、フラワーペースト、カスタードクリーム等のクリーム類、ホワイトソース、カレールー、ドレッシング等の調味液、スープ類、プリン等のデザート類等を指し、商品形態は、常温流通品、チルド流通品、冷凍食品のいずれであってもよい。また、それぞれ従来の製造方法に従い製造することが可能である。
【0020】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
下記配合の原料を均質化し、得られた乳化液を撹拌条件下、100℃以上で加熱、殺菌し、フラワーペーストを調製した。澱粉改質剤には、デカグリセリンベヘン酸エステル(構成脂肪酸中におけるベヘン酸のモル比率:0.9、HLB9)を用いた。

コーンスターチ 6.0重量%
グラニュー糖 12.0重量%
脱脂粉乳 7.0重量%
油脂 15.0重量%
澱粉改質剤 0.5重量%
水 59.5重量%
【0022】
<実施例2>
澱粉改質剤に、ヘキサステアリン酸ベヘン酸エステル(構成脂肪酸中におけるベヘン酸のモル比率:0.6、HLB8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0023】
<実施例3>
澱粉改質剤に、テトラグリセリンオレイン酸ベヘン酸エステル(構成脂肪酸中におけるベヘン酸のモル比率:0.4、HLB7)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0024】
<実施例4>
澱粉改質剤に、ヘキサグリセリンステアリン酸ベヘン酸エステル(構成脂肪酸中におけるベヘン酸のモル比率:0.2、HLB10)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0025】
<比較例1>
澱粉改質剤に、デカグリセリンベヘン酸エステル(構成脂肪酸中におけるベヘン酸のモル比率:0.9、HLB4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0026】
<比較例2>
澱粉改質剤に、テトラグリセリンラウリン酸エステル(HLB8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0027】
<比較例3>
澱粉改質剤に、ステアリン酸モノグリセリド(HLB4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0028】
<比較例4>
澱粉改質剤に、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB15)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフラワーペーストを調製した。
【0029】
実施例1〜4、比較例1〜4で調製したフラワーペーストについて顕微鏡により澱粉粒の観察を行い。さらに、10人のパネラーにより食感の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

※1<糊化状態>
○:澱粉粒が残存
△:澱粉粒が断片化
×:澱粉粒が完全に崩壊
※2<食感>
◎:糊状感やざらつき感がなく、非常に滑らかである
○:糊状感やざらつき感が少なく、滑らかである
△:糊状感がやや強く、滑らかさが不足する
×:糊状感が強く、滑らかさがない
【0031】
実施例1〜4のフラワーペーストは糊状感やざらつき感、粉っぽさがなく非常に滑らかであるのに加えて、しっかりとした食べごたえのある食感が感じられた。また、保存後の状態も良く調製時の状態を維持することができた。対して、比較例1〜4のフラワーペーストは糊状感が強くねっとりとした食感で、こしのない状態となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸として炭素数22の飽和脂肪酸を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分として含有し、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが7以上であることを特徴とする澱粉改質剤。
【請求項2】
請求項1に記載の澱粉改質剤を含有してなる澱粉含有食品。

【公開番号】特開2010−136695(P2010−136695A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317414(P2008−317414)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】