説明

濃度測定装置

【課題】測定精度を向上し得る濃度測定装置を提案する。
【解決手段】複数の発光ダイオードと、当該発光ダイオードから照射され、人体を透過する光の透過率を算出する透過率算出手段と、透過率算出手段により算出される透過率を用いて、複数の物質の単位光路長あたりの濃度を算出する濃度算出手段とを有する。基準とすべき発光ダイオードは、透過率の変動幅が他の発光ダイオードに比べて大きく現れる波長を中心波長とし、該中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は、他の発光ダイオードに比べて狭く設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は濃度測定装置に関し、例えばヘモグロビン濃度を測定する場合に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被験部位に対して所定帯域の光を照射し、該被験部位から反射した光を分析することによって、生体の特定成分の濃度を非侵襲的に測定する装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この装置では、測定対象である生体成分によって吸収される波長の光を照射する第1の光源と、該測定対象である生体成分に吸収されず測定対象よりも生体中に多い成分量をもつ成分に吸収される波長の光を照射する第2の光源とが用意される。
【0004】
そして、第1の光源に対応する波長の散乱光強度と、第2の光源に対応する波長の散乱光強度と、それらに対応する生体成分濃度との重回帰分析法によって、測定対象である生体成分濃度が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−273819公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで上記第1及び第2の光源は、小型化等の観点ではレーザーに比べてLED(Light Emitting Diode)が望ましい。しかしながらLEDを適用した場合、該LEDから照射される光の強度は中心波長においてピークを示すが、該中心波長に近い波長もある一定の強度を呈する。つまり、LEDから照射される光の波長は、単一波長ではなく、ある程度の波長幅を有する。
【0007】
したがって、測定対象である生体成分以外の成分における吸収特性も反映され、測定対象である生体成分濃度の信頼性が乏しくなる。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、測定精度を向上し得る濃度測定装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明は、濃度測定装置であって、互いに異なる中心波長となる光を照射する複数の発光ダイオードと、発光ダイオードから照射され人体を透過する光の透過率を算出する透過率算出手段と、透過率算出手段により算出される透過率を用いて、複数の物質の単位光路長あたりの濃度を算出する濃度算出手段とを有する。
基準とすべき発光ダイオードは、透過率の変動幅が他の発光ダイオードに比べて大きく現れる波長を中心波長とし、該中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は、他の発光ダイオードに比べて狭く設定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、互いに異なる中心波長となる光を照射する複数のダイオードが用いられるため、人体内を通過する光の吸収スペクトルを離散的にとった透過率が得られる。したがって、単に、測定物質が吸収ピークを示す波長の光の透過率を得る場合に比べて、複数の単位光路長あたりの濃度を正確に算出することが可能となる。
また本発明では、複数のダイオードのうち、基準とすべき発光ダイオードが照射する光の中心波長は、透過率の変動幅が他の発光ダイオードに比べて大きく現れる波長とされ、該中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は、他の発光ダイオードに比べて狭く設定される。
したがって、複数の物質が反映する透過率を高い分解能で得ることができ、この結果、測定物質の単位光路長あたりの濃度を正確に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】濃度測定装置の構成を示す概略図である。
【図2】人体表皮での反射の説明に供する概略図である。
【図3】測定部の構成を示す概略図である。
【図4】吸光係数算出モードでのCPUの機能的構成を示す概略図である。
【図5】色サンプル例を示す写真である。
【図6】吸光係数算出モードでの演算結果処理の推移の説明に供するグラフである。
【図7】濃度測定モードでのCPUの機能的構成を示す概略図である。
【図8】濃度測定モードでの演算結果処理の推移の説明に供するグラフである。
【図9】濃度表示画面例を示す概略図である。
【図10】LEDの波長特性の説明に供する概略図である。
【図11】人体表皮の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図12】照射光の波長幅に応じた測定値の誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.濃度測定装置の構成]
[1−2.測定部の構成]
[1−3.吸光係数算出モード]
[1−4.濃度測定モード]
[1−5.測定精度向上対策]
[1−6.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0013】
<1.実施の形態>
[1−1.濃度測定装置の構成]
図1において、本一実施の形態による濃度測定装置1を示す。この濃度測定装置1は、照射部10、受光部20及び測定部30によって構成される。
【0014】
照射部10には、互いに異なる波長を中心波長とする光を照射する5つの発光ダイオード(以下、これをLEDとも呼ぶ)が光源として含まれる。照射部10は、これら光源から照射される光を、照射面IFに対して斜めとなる入射方向から照射する。
【0015】
この実施の形態では、濃度を測定すべき物質の1つとして糖化ヘモグロビンが選択される。この糖化ヘモグロビンと、その他のヘモグロビン(酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビン)との吸光係数の差異を顕著に示す波長が、580[nm]又はその近傍の数波長にあることが本発明者らにより確認された。したがって、照射部10における5つのLEDのなかの1つのLEDの中心波長は580[nm]とされ、他のLEDの中心波長は580[nm]の前後である500[nm] ,540[nm] ,620[nm] ,660[nm]とされる。
【0016】
可視域の光を照射面IFに対して斜めから照射した場合、図2に示すように、人体表面を入射して表皮(扁平上皮)の基底層と真皮層との界面で正反射し、該人体表皮(基底層と人体表面との間)を透過して人体表面から出射する。
【0017】
受光部20は、この基底層と真皮層との界面から人体表面を透過する光(以下、これを表皮透過光とも呼ぶ)を受光し、当該受光結果を測定部30に送出する。
【0018】
測定部30ではランベルト・ベールの法則が用いられる。ランベルト・ベールの法則は、吸光度をAとし、単位光路長あたりの濃度[mol/L・cm](以下、単位長濃度と呼ぶ)をclとし、モル吸光係数(以下、単に吸光係数と呼ぶ)をεとすると、次式
【0019】
A=ε・cl ……(1)
【0020】
として表される。
【0021】
吸光度Aは、透過率をtとすると、次式
【0022】
A=log(1/t) ……(2)
【0023】
のように透過率tの常用対数で表すことができるので、(1)式と(2)式から、次式
【0024】
log(1/t)=ε・cl ……(3)
【0025】
の関係が成立する。
【0026】
測定部30は、物質の吸光係数を算出するモード(以下、これを吸光係数算出モードとも呼ぶ)と、物質の濃度を測定するモード(以下、これを濃度測定モードとも呼ぶ)とを有する。
【0027】
測定部30は、吸光係数算出モードを実行した場合、(3)式を用いて物質の吸光係数を算出し、該吸光係数を登録するようになっている。
【0028】
一方、測定部30は、濃度測定モードを実行した場合、吸光係数算出モードで算出した吸光係数と、(3)式とを用いて、糖化ヘモグロビンを含む複数の物質の濃度を算出する。そして測定部30は、これら濃度を記憶し、当該濃度の推移を必要に応じて提示するようになっている。
【0029】
[1−2.測定部の構成]
測定部30は、図3に示すように、制御を司るCPU(Central Processing Unit)41に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0030】
具体的にはROM(Read Only Memory)42、CPU41のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)43、ユーザの操作に応じた命令を入力する操作入力部44、インターフェイス部45、表示部46及び記憶部47がバス48を介して接続される。
【0031】
ROM42には、吸光係数算出モードを実行するためのプログラム(以下、これを係数算出プログラムとも呼ぶ)と、濃度測定モードを実行するためのプログラム(以下、これを濃度測定プログラムとも呼ぶ)が格納される。インターフェイス部45は、専用伝送路を介して照射部10及び受光部20と接続され、有線又は無線の伝送路を介して他の装置と接続可能とされる。
【0032】
表示部46には、液晶ディスプレイ又はEL(Electro Luminescence)ディスプレイ等が適用される。また記憶部47には、HD(Hard Disk)に代表される磁気ディスクもしくは半導体メモリ又は光ディスク等が適用される。USB(Universal Serial Bus)メモリやCF(Compact Flash)メモリ等のようにリムーバブルメモリ(可搬型メモリ)が適用されてもよい。
【0033】
CPU41は、ROM42に格納される複数のプログラムのうち、操作入力部44から与えられる命令に対応するプログラムをRAM43に展開し、該展開したプログラムにしたがってインターフェイス部45、表示部46又は記憶部47を適宜制御する。
【0034】
[1−3.吸光係数算出モード]
CPU41は、操作入力部44から吸光係数を算出すべき命令に対応する係数算出プログラムをRAM43に展開した場合、図4に示すように、物質決定部51、駆動制御部52、反射率算出部53、単位長濃度差取得部54及び吸光係数算出部55として機能する。
【0035】
物質決定部51は、予め設定され又は操作入力部44から測定対象として指定される物質を、吸光係数を算出すべき物質として決定する。吸光係数を算出すべき物質として、この実施の形態では、3種のヘモグロビン(酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビン)が測定対象として指定され、メラニンが設定される。
【0036】
駆動制御部52は、照射部10に対して5つのLEDを所定の照射期間ごとに順次するよう駆動させ、受光部20に対して該照射期間に受光される光をデータとして取得するよう駆動させる。
【0037】
反射率算出部53は、吸光係数を算出すべきとして決定した物質に対応付けられる色サンプル(以下、対象色サンプルとも呼ぶ)と、該色サンプルの基準となる色サンプル(以下、基準色サンプルとも呼ぶ)における反射率を算出する。
【0038】
基準色サンプル及び対象色サンプルは、例えば図5に示すように、色と、物質の名称や番号等の識別子との対照表として用意される。対象色サンプルは、吸光係数を算出すべき物質の単位長濃度を、基準色サンプルに対して差をもたせたときに呈する色のサンプルとされる。
【0039】
なお、以下では、酸化ヘモグロビンと基準色サンプルとの間の単位長濃度差に対応する対象色サンプルはOxyHb色サンプルと呼び、還元ヘモグロビンと基準色サンプルとの間の単位長濃度差に対応する対象色サンプルはHb色サンプルと呼ぶ。また、糖化ヘモグロビンと基準色サンプルとの間の単位長濃度差に対応する対象色サンプルはHbA1c色サンプルと呼び、メラニンと基準色サンプルとの間の単位長濃度差に対応する対象色サンプルはメラニン色サンプルと呼ぶ。
【0040】
ここで、反射率の具体的な取得手法を一例として挙げる。第1段階として、反射率算出部53は、基準色サンプル,OxyHb色サンプル,Hb色サンプル,HbA1c色サンプル,メラニン色サンプルのうち取得対象とすべき色サンプルを決定する。
【0041】
第2段階として、反射率算出部53は、照射部10の照射面IFに対して取得対象の色サンプルを配すべきことを例えば表示部46等を用いて通知し、受光部20での受光結果の取得を開始する。
【0042】
第3段階として、反射率算出部53は、照射光量に対する受光量の比(色サンプルの反射率)を、LEDの照射期間を単位として算出する(図6(A))。
【0043】
このようにして基準色サンプル,OxyHb色サンプル,Hb色サンプル,HbA1c色サンプル,メラニン色サンプルにおけるすべてのスペクトルが取得されるまで、第1段階から第3段階の処理が行われる。ちなみに図7では、便宜上、メラニン色サンプルの一部については略している。
【0044】
単位長濃度取得部54は、物質決定部51で決定された物質に対応付けられる色サンプル(OxyHb色サンプル,Hb色サンプル,HbA1c色サンプル,メラニン色サンプル)における基準色サンプルとの間の単位長濃度差を取得する。
【0045】
基準色サンプルとの間の単位長濃度差は、(3)式の右辺における「cl」に相当する。当該単位長濃度差の具体的な取得手法には、例えば、操作入力部44から、物質決定部51で決定された物質に対応付けられる色サンプルにおける基準色サンプルとの間の単位長濃度差を入力させる手法がある。
【0046】
別例として、物質と単位長濃度差の対照データベースを保持するサーバーにアクセスし、物質決定部51で決定された物質に対応付けられる色サンプルにおける基準色サンプルとの間の単位長濃度差をダウンロードする手法がある。
【0047】
また、記憶部47に対して物質と単位長濃度差の対照データベースを記憶させ、該記憶部47から、物質決定部51で決定された物質に対応付けられる色サンプルにおける基準色サンプルとの間の単位長濃度差を読み出す手法がある。
【0048】
ただし、基準色サンプルとの間の単位長濃度差の取得手法はこれら例示した手法に限定されるものではなく、該例示した手法以外の手法を幅広く採用することができる。
【0049】
吸光係数算出部55は、吸光係数を算出すべきとして決定した物質に対応付けられる全ての色サンプルの反射率が取得され、当該色サンプルにおける基準色サンプルとの間の単位長濃度差が取得された場合、これらを用いて吸光係数を算出する。
【0050】
ここで、吸光係数の具体的な算出手法を一例として挙げる。第1段階として、吸光係数算出部55は、5つの波長(照射部10における5つのLEDの中心波長)における反射率それぞれの逆数の対数を算出する(図6(B))。この反射率の逆数の対数は、(3)式の左辺における「log(1/t)」に相当する。
【0051】
第2段階として、吸光係数算出部55は、基準色サンプルにおける5つの波長に対する反射率の逆数の対数と、OxyHb色サンプル、Hb色サンプル、HbA1c色サンプル及びメラニン色サンプルにおける5つの波長に対する反射率の逆数の対数との差を算出する(図6(C))。
【0052】
第3段階として、吸光係数算出部55は、当該差と、単位長濃度取得部54で取得された基準色サンプルとの間の単位長濃度差とを(3)式に代入し演算する。この結果、図6(D)に示すように、物質決定部51で決定された酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビン,メラニンの吸光係数が算出される。
【0053】
吸光係数算出部55は、酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビン,メラニンの吸光係数を算出した場合、これら吸光係数を記憶部47に登録し記録する。
【0054】
[1−4.濃度測定モード]
一方、CPU41は、操作入力部44から濃度を測定すべき命令に対応する濃度測定プログラムをRAM43に展開した場合、図7に示すように、駆動制御部52、透過率取得部61、吸光係数読出部62、表皮透過特性分析部63、濃度算出部64及びグラフ提示部65として機能する。
【0055】
駆動制御部52は、上述したように、照射部10に対して5つのLEDを所定の照射期間ごとに順次するよう駆動させ、受光部20に対して該照射期間に受光される光をデータとして取得するよう駆動させる。
【0056】
透過率取得部61は、照射部10の照射面IFに配される人体表皮(基底層と人体表面との間の層)を透過する光(図2参照)の透過率を取得する。
【0057】
ここで、透過率の具体的な取得手法を一例として挙げる。第1段階として、透過率取得部61は、照射部10の照射面IFに対して生体部位を配すべきことを例えば表示部46等を用いて通知し、受光部20での受光結果の取得が開始される。照射面IFに配すべき生体部位は、この実施の形態では指の指腹面とされる。
【0058】
受光部20には、照射部10における各LEDに対応する表皮透過光が、当該LEDの照射期間ごとに入射する。
【0059】
第2段階として、透過率取得部61は、照射光量に対する受光量の比(表皮透過光率)を、LEDの照射期間を単位として算出する(図8(A))。
【0060】
吸光係数読出部62は、吸光係数算出モードにより登録されたメラニン,還元ヘモグロビン,酸化ヘモグロビン,糖化ヘモグロビンの吸光係数を記憶部47から読み出す(図8(B)〜(E))。
【0061】
表皮透過特性分析部63は、透過光率算出部61によって取得された表皮透過光率と、吸光係数読出部62によって読み出された吸光係数とを用いて、吸光係数算出モードにおいて吸光係数が算出された物質の単位長濃度と、基底層と真皮層との界面での反射率とを算出する。
【0062】
人体表皮では、測定対象として指定される3種のヘモグロビンの単位長濃度よりも大きい単位長濃度となるメラニンが介在する。また人体表皮では、照射部10から照射される可視光は基底層と真皮層との界面に至るまでに反射してしまうものである。具体的には、図2に示したように、人体表面での反射や、人体表皮での乱反射がある。このため、表皮透過光(基底層と真皮層との界面を正反射して人体表皮を透過する光)には、基底層と真皮層との界面での反射率(以下、これを人体内界面反射率とも呼ぶ)が大きく関与する。
【0063】
したがって、表皮透過特性分析部63では、測定対象として指定される3種のヘモグロビンの単位長濃度のほかに、該ヘモグロビンの単位長濃度よりも大きいメラニンの単位長濃度と、基底層と真皮層との界面での反射率とが算出対象とされる。
【0064】
具体的には、人体表皮の吸光度をLogSとし、メラニンの単位長吸光係数をMnとし、還元ヘモグロビンの単位長吸光係数をHbとし、酸化ヘモグロビンの単位長吸光係数をHbO2とし、糖化ヘモグロビンの単位長吸光係数をHbA1cとし、人体内界面反射率をDとすると、(3)式は、次式
【0065】
Mn・ε1+Hb・ε2+HbO2・ε3+HbA1c・ε4+D
=−LogS……(4)
【0066】
となる。
【0067】
したがって、表皮透過特性分析部63は、(4)式に対して、透過光率算出部61によって取得された表皮透過光率と、吸光係数読出部62によって読み出された吸光係数とを波長ごとに代入し、図8(F)に示すように、5元連立方程式を生成する。
【0068】
そして表皮透過特性分析部63は、この5元連立方程式を解くことで、吸光係数算出モードにおいて吸光係数が算出された物質の単位長濃度と、基底層と真皮層との界面での反射率とを算出するようになっている。
【0069】
ちなみに図8(F)に示す5元連立方程式では、メラニンの単位長吸光係数Mnは1.47E−5[mol/L・cm]、還元ヘモグロビンの単位長吸光係数Hbは1.47E−5[mol/L・cm]となる。また、酸化ヘモグロビンの単位長吸光係数HbO2は2.52E−5[mol/L・cm]、糖化ヘモグロビンの単位長吸光係数HbA1cは0.18E−5[mol/L・cm]、人体内界面反射率Dは0.3となる。
【0070】
濃度算出部64は、表皮透過特性分析部63によって算出される物質の単位長濃度を用いて、吸光係数算出モードにおいて算出対象として決定される物質(メラニン,酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビン)の濃度を算出する。
【0071】
具体的には、メラニンの単位長濃度と、例えば人体における基底層と人体表面との距離の中間の平均とを用いて、当該メラニンの濃度が算出される。
【0072】
一方、3種のヘモグロビンの単位長濃度と、例えば人体における基底層と人体表面との間の距離の平均とを用いて、当該ヘモグロビンの濃度が算出される。ちなみに、人体表皮ではヘモグロビンを包含する毛細血管が基底層の近傍にあり、該基底層は人体表面からおおよそ一定である。
【0073】
濃度算出部64は、メラニン,酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビンの濃度をそれぞれ算出した場合、これら濃度を、算出した時点の日時と対応付けて記憶部47に記憶する。
【0074】
グラフ提示部65は、濃度算出部64によって濃度が算出された場合、又は操作入力部44から濃度を提示すべき命令があった場合、記憶部47に記憶される濃度と、該濃度に対応付けられる日付とを用いて例えば図9(A)〜(D)に示す表示画面を表示部46に表示する。
【0075】
この表示画面には、縦軸を画面中央において濃度とし横軸を日時とするグラフ(以下、これを濃度推移グラフと呼ぶ)PGFが種別ごとに表示され、当該濃度推移グラフPGFには、正常とすべき範囲の上限と下限とが示されるとともに、濃度の動向がプロットされる。
【0076】
また、濃度における全体の動向状態に対するコメントCMが濃度推移グラフPGFの直上に付され、該濃度の動向を示すプロットが正常とすべき範囲を上回っている又は下回っている場合には、そのプロット位置に対して異常であることを示す警告マークWMが付される。
【0077】
このようにグラフ提示部65は、生体表皮における複数の物質に対する濃度の動向を対応する正常範囲と併せて濃度推移グラフPGFとして表示し、かつ正常範囲外のプロット位置に警告マークWMを付すとともに、全体の動向状態をコメントCMとして付す。
【0078】
従って、ユーザは、濃度推移グラフPGF、警告マークWM及びコメントCMから自身の生体表皮に含まれる物質濃度の変化、良悪、測定頻度等を一見して直感的に把握することができる。
【0079】
[1−5.測定精度向上対策]
この実施の形態では、測定物質である3種のヘモグロビン(糖化ヘモグロビン,酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン)に対する単位長濃度を正確に得るための対策が、照射部10におけるLEDに対して講じられている。
【0080】
具体的には、糖化ヘモグロビンとその他のヘモグロビンとの吸光係数の差異を顕著に示す波長(580[nm]又はその近傍の数波長)を中心波長とするLEDに対する、該中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離(以下、これを波長幅とも呼ぶ)W(図10)が、他のLEDに比べて狭く設定される。
【0081】
より具体的には、580[nm]を中心波長とするLEDに対する波長幅Wが10[nm]以下とされ、他のLEDに対する波長幅Wが20−40[nm]とされる。
【0082】
ところで、人体の基底層と真皮層との界面から人体表面を透過する可視光(表皮透過光)の吸収スペクトルは、図11に示すように、他の波長域に比べて急峻に変化する波長域ARとなり、該波長域には、糖化ヘモグロビンとその他のヘモグロビンとの吸光係数の差異を顕著に示す波長(580[nm]又はその近傍の数波長)が含まれる。
【0083】
したがって、中心波長をピークとする波長幅が広い光がLEDから照射されると、該光には糖化ヘモグロビン以外の物質の吸収特性も反映され、この結果、測定部30での測定誤差が生じる。
【0084】
しかも、糖化ヘモグロビンは、酸化ヘモグロビン又は還元ヘモグロビンに比べて血中における含有量が少ないことが知られている。具体的には、ヘモグロビンのおおむね4〜5[%]である。よって、測定部30での糖化ヘモグロビンに対する測定誤差は他の物質に比べて大きくなる。
【0085】
ここで、実験結果として、LEDから照射される光の波長幅に応じた測定値の誤差を下記に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
これら表から明らかなように、580[nm]を中心波長とするLEDにおける波長幅が10[nm]から20[nm]に広がると、糖化ヘモグロビンの単位長濃度のみならず、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの単位長濃度までもが大幅に変動する。殊に、血中における糖化ヘモグロビンの含有量が酸化ヘモグロビン又は還元ヘモグロビンに比べて少ないこともあり、該糖化ヘモグロビンの単位長濃度は、10[nm]から20[nm]に広がると測定不能となる。
【0089】
これに対し、580[nm]以外の波長(500[nm],540[nm],620[nm],660[nm])を中心波長とするLEDにおける波長幅が10[nm]から20[nm]に広がっても、各種ヘモグロビンの単位長濃度の変動幅は比較的小さくおおむね同等となる。
【0090】
このように、糖化ヘモグロビンの吸収特性を示す波長を中心波長とするLEDにおける波長幅Wを、他のLEDに比べて狭く設定することで、3種のヘモグロビン(糖化ヘモグロビン,酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン)の単位長濃度が正確に測定可能となる。
【0091】
[1−6.効果等]
以上の構成において、濃度測定装置1は、5つのLEDから、互いに異なる中心波長となる光を順次照射する。そして濃度測定装置1は、これら光の表皮透過率をそれぞれ算出し(図8(A))、該表皮透過率を用いて、複数の物質の単位長濃度を算出する(図8(F))。
【0092】
この濃度測定装置1では、5つのLEDが用いられるため、人体内を通過する光の吸収スペクトルを離散的にとった透過率が得られる。したがって濃度測定装置1は、単に、測定物質が吸収ピークを示す波長の光の透過率を得る場合に比べて、複数の物質の単位長濃度を正確に算出することができる。
【0093】
5つのLEDのなかで基準となるLEDの中心波長は、図11に示したように、可視光の吸収スペクトルにおいて他の波長域に比べて急峻に変化する波長域ARに含まれる。またこの中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は、図10に示したように、他のLEDに比べて狭く設定される。
【0094】
したがって濃度測定装置1は、表1及び表2からも分かるように、人体表皮におけるヘモグロビンの分解能を高めることができ、この結果、測定物質の単位長濃度をより正確に算出することができる。
【0095】
なお、この実施の形態における単位長濃度の算出対象の1つとして糖化ヘモグロビンが採用される。図11に示した波長域ARでの変化には糖化ヘモグロビンの吸収特性が関与し、その他のヘモグロビンとの吸光係数の差異を顕著に示す波長が580[nm] 又はその近傍の数波長であることが、本発明者らにより確認されている。
【0096】
この580[nm]を中心波長とするLEDが基準のLEDとされるため、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンに比べて血中における含有量がおおむね4〜5[%]となる糖化ヘモグロビンを鋭敏に捉えることができる。
【0097】
ところで、濃度測定装置1は、測定物質の単位長濃度と、人体表皮において測定対象の含有量程度以上となる物質の単位長濃度と、可視光が人体内において正反射する界面とを解として連立方程式を生成し、測定物質の単位長濃度を算出するようになっている。
【0098】
具体的には、ユーザの表皮透過光のスペクトルと、3種のヘモグロビン及びそれらヘモグロビンの単位長濃度と同程度以上となるメラニンのモル吸光係数とを用いて、解とすべき数に対応する波長ごとに、ランベルト・ベールの法則に適合する(図9(G))。
【0099】
測定対象として指定される3種のヘモグロビンの単位長濃度を解として連立方程式が生成するのではなく、当該測定対象に他の要素も加えた連立方程式が生成される。具体的には、測定対象の単位長濃度のみならず、人体表皮での測定対象の含有量程度以上となるメラニンの単位長濃度と、人体表皮を透過する光として大きく関与する人体内界面反射率(基底層と真皮層との界面での反射率)とが算出対象とされる。
【0100】
したがって測定部30は、人体表皮での測定対象の単位長濃度をより一段と正確に算出することができる。
【0101】
糖化ヘモグロビンは、上述したように、一般に酸化ヘモグロビン又は還元ヘモグロビンに比べて血中における含有量が少ない。具体的には、ヘモグロビンのおおむね4〜5[%]である。
【0102】
図11に示したように、可視光の吸収スペクトルにおいて他の波長域に比べて急峻に変化する波長域ARが存在するが、この変化には主に糖化ヘモグロビンの吸収特性が関与し、その中心波長は580[nm]となる。
【0103】
したがって、測定対象に他の要素も加えて連立方程式を生成しても、580[nm]を基準とする吸収スペクトルに反映される波長から離れるほど、算出すべき糖化ヘモグロビンの単位長濃度の正確性が低減することになる。
【0104】
しかしながらこの実施の形態では、着目すべき波長(連立方程式に適合すべき各値の波長)は、580[nm]を基準としてその前後の波長が選択されるため、糖化ヘモグロビンの吸収特性を最も鋭敏に捉えることができ、この結果、単位長濃度を正確に算出できる。
【0105】
またこの測定部30は、測定物質と、人体表皮での測定対象の含有量程度以上となる物質に対応する色サンプルでの反射率から、連立方程式で用いるべき測定物質及びその含有量程度以上となる物質のモル吸光係数を算出する。
【0106】
したがってこの測定部30は、人体表皮中の単位長濃度が算出可能となる測定物質と、その含有量程度以上となる物質との種類を、色サンプルから簡易に増やすことができる。
【0107】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では5つのLEDが採用された。しかしながらLEDの数は5つに限定されるものではない。互いに異なる中心波長となる光を照射する2以上のLEDであればいくつでもよい。
【0108】
上述の実施の形態では、入射光量に対する、人体内の界面で反射し人体表面から出射する光量の比が算出対象された。しかしながら、入射光量に対する、入射面に正対する面から出射する光量の比が算出対象とされてもよい。つまり、人体内を反射する光を用いて人体表皮透過率を算出する形態に代えて、人体を透過する光を用いて人体表皮透過率を算出する形態が採用されてもよいということである。ただし、この形態が採用される場合、(4)式における人体内界面反射率Dは省略される。
【0109】
上述の実施の形態では、基準とすべき発光ダイオードの中心波長が580[nm]とされた。しかしながらこの波長に限定されるものではない。例えば、入射面又は人体内界面と、出射面との間において糖化ヘモグロビンよりも含有量が少ない物質(例えばビリルビン)等を測定物質の1つとする場合、該ビリルビンとその他ヘモグロビンとの吸光係数の差異を顕著に示す波長となり、他の測定物質の吸収ピークも現れる波長とすることができる。
【0110】
要は、透過率の変動幅が他の発光ダイオードに比べて大きく現れる波長を中心波長とするLEDが基準とすべきLEDとされればよい。
【0111】
上述の実施の形態では、測定すべきとして指定される測定物質が3種のヘモグロビン(酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビン)とされた。しかしながら測定物質の種類はヘモグロビンに限定されるものではない。例えばコラーゲンやビリルビン等のように、人体内の様々な成分を測定物質とすることができる。
【0112】
ちなみに、3種のヘモグロビンのすべてを測定物質とすることが必須の条件となるものではない。例えば、糖化ヘモグロビンのみを測定対象とした場合、該糖化ヘモグロビンの人体表皮での含有量程度以上となる物質として、酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,メラニンが設定される。別例として、還元ヘモグロビン,糖化ヘモグロビンを測定対象とした場合、該糖化ヘモグロビンの人体表皮での含有量程度以上となる物質として、酸化ヘモグロビン,メラニンが設定される。
【0113】
要は、LEDから照射される光の人体内での光路において、測定対象として指定される物質での含有量程度以上となる物質を加えるようにすれば、人体内の様々な成分を測定物質とすることができる。
【0114】
なお、測定対象として指定される物質での含有量程度以上となる物質は、上述の実施の形態では予め設定された。しかしながら、測定対象として指定される測定物質の種類に応じて、当該層での測定物質の含有量程度以上となる物質の数と、種類と、着目すべき波長の全部又は一部を決定するようにしてもよい。
【0115】
例えば、LEDから照射される光の波長と、該波長の光が人体内で正反射する界面と人体表面との層と、該層での物質の含有量と、該層での物質の吸収特性とをデータベースとして記憶部47に保持しておく。このようにすれば、測定対象として指定される測定物質の種類に応じて、当該層での測定物質の含有量程度以上となる物質の数と種類と着目すべき波長の全部又は一部を決定することができる。したがって、測定対象として指定される物質での含有量程度以上となる物質が確実に選択されることになる結果、該対象として指定される物質の単位長濃度の測定精度を向上することができる。
【0116】
上述の実施の形態では、照射部10が照射する光の波長域が可視光域とされた。しかしながら照射すべき光の波長域は可視光域に限定されるものではない。近赤外光域(780[nm]〜3[μm])が適用されてもよい。
【0117】
近赤外光域を適用した場合、当該近赤外光は主に人体表皮を透過し、真皮と脂肪層との界面で反射して人体表面から出射する。また近赤外光は、真皮に介在する血管に含まれるヘモグロビンに特に吸収される性質を有する。したがって、ヘモグロビンの単位長濃度をより一段と正確に取得可能となる。
【0118】
なお、(4)式における人体内界面反射率Dは、既に述べたように真皮と脂肪層との界面での反射率となる。また真皮には、コラーゲンが多く含まれ、パッチニ小体等の受容体や脂肪細胞の細胞成分が含まれるので、当該コラーゲン又は脂肪の吸光係数及び単位長濃度も含めて算出することも可能である。
【0119】
上述の実施の形態では、単位長濃度から濃度が算出され、該濃度の動向が必要に応じて提示されたが、濃度を算出することが必須の条件となるものではない。すなわち、単位長濃度自体を記憶部47に記憶し、該単位長濃度の動向を提示するようにしてもよい。
【0120】
上述の実施の形態では、吸光係数算出モードと、濃度測定モードとを実行する濃度測定装置1が適用された。しかしながら、吸光係数算出モードだけを実行する濃度測定装置と、濃度測定モードだけを実行する濃度測定装置とを、ローカルエリアネットワークやインターネット等の有線又は無線の通信媒体を通じて接続可能とするシステムが適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、遺伝子実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1……濃度測定装置、10……照射部、20……受光部、30……測定部、41……CPU、42……ROM、43……RAM、44……操作入力部、45……インターフェイス部、46……表示部、47……記憶部、51……物質決定部、52……駆動制御部、53……反射率算出部、54……単位長濃度差取得部、55……吸光係数算出部、61……透過率取得部、62……吸光係数読出部、63……表皮透過特性分析部、64……濃度算出部、65……グラフ提示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる中心波長となる光を照射する複数の発光ダイオードと、
上記発光ダイオードから照射され人体を透過する光の透過率を算出する透過率算出手段と、
上記透過率算出手段により算出される透過率を用いて、複数の物質の単位光路長あたりの濃度を算出する濃度算出手段と
を有し、
上記基準とすべき発光ダイオードは、他の発光ダイオードに比べて透過率の変動幅が大きく現れる波長を中心波長とし、
該中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は、上記他の発光ダイオードに比べて狭く設定される
濃度測定装置。
【請求項2】
上記中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は10[nm]以下とされる
請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項3】
他のダイオードの中心波長における強度の半値となる波長間の直線距離は20[nm]以上とされる
請求項2に記載の濃度測定装置。
【請求項4】
基準とすべき発光ダイオードの中心波長は、
上記人体表面に対して斜めから入射する光が人体内において正反射する界面と、人体表面との間の層における吸収スペクトルのうち、他の波長域に比べて変動幅が大きい波長域に含まれる
請求項2に記載の濃度測定装置。
【請求項5】
上記吸収スペクトルは、可視光域の吸収スペクトルである
請求項4に記載の濃度測定装置。
【請求項6】
基準とすべき発光ダイオードが照射する光の中心波長は、糖化ヘモグロビンが、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの吸光係数との差異を示す幅が他の波長に比べて大きい波長とされる
請求項4に記載の濃度測定装置。
【請求項7】
基準とすべき発光ダイオードが照射する光の中心波長は、580[nm]又はその近傍の波長とされる
請求項2に記載の濃度測定装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−153964(P2011−153964A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16540(P2010−16540)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】