説明

濃縮液抽出方法

【課題】簡便かつ効率的に水溶液の凍結濃縮をおこなう技術を提供すること。
【解決手段】上面部分が開口し、上面部分より小さな底面部と側周面部とからなる切頭錐形状の容器に水溶液を入れ、容器の上面部分を被覆体で覆って冷凍庫に静置する凍結濃縮方法であって、底面部が側周面部と同様に冷気に曝されるようにし、被覆体ないし液面上部の空気層の熱伝導を容器より小さくすることにより、水溶液の中央部分から上部にかけて溶液濃度を高めて凍結させ、かつ、当該領域の凍結遅延による圧力開放によって容器の変形を招来しないようにしたことを特徴とする凍結濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結濃縮法に関し、特に、冷凍庫と冷蔵庫さえあれば効率的に濃縮液ないし濃縮液の氷を得ることができる凍結濃縮法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液を濃縮する方法として、蒸発法や凍結濃縮法などが知られている。蒸発法のように加熱をする方法では、高濃度濃縮が可能となるが、成分が変質し風味が異なってしまう場合がある。一方、凍結濃縮法は、このような変質を招来せず、濃縮液が高品質であるという利点がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004―351383
【特許文献2】再公表2003−072216
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、凍結濃縮法は、他の濃縮法と比較してコストが高い傾向にあり、導入が進んでいないという実情がある。カニ蒲鉾の製造業者を例に挙げると、自身では、カニの身を使う必要がなく、より本物に近い風味を出すために、カニエキスを添加すればよい。このため、工場内にわざわざカニの加工区を設けたりせず、カニ加工業者から濃縮液を購入する場合がほとんどである。一方、カニ加工業者では、カニ自体のボイルや半調理といった加工が主たる業務であり、通常であれば廃棄してしまう大量のゆで汁に対して濃縮液製造のために専用の設備を導入しづらいという背景がある。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、簡便かつ効率的に水溶液濃縮をおこなう技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の凍結濃縮方法は、上面部分が開口し、上面部分より小さな底面部と側周面部とからなる切頭錐形状の容器に水溶液を入れ、容器の上面部分を被覆体で覆って底面部が側周面部と同様に冷気に曝されるようにし、被覆体ないし液面上部の空気層の熱伝導を容器より小さくすることにより、水溶液の中央部分から上部にかけて溶液濃度を高めて凍結させ、かつ、当該領域の凍結遅延による圧力開放によって容器の変形を招来しないようにしたことを特徴とする。
【0007】
すなわち、請求項1に係る発明は、水溶液を底面部および側周面部から凍らせ、溶質が容器の中央部分より上部に追いつめられる結果、中央より上によった所に濃度の高い氷を作出可能となる。従って、氷のまま提供する場合には、濃度が高くなった部分を上からくり抜けばよく、液体を提供する場合には、請求項2以降に開示するように、容器をひっくり返して解凍するだけで、濃縮液が順次したたり落ちてくる。また、容器形状を錐形とすることで体積膨張に伴う圧力を効果的に開放することができ凍結しても容器の破損を防ぐことができる。従って、樹脂製の容器などの素材選択の自由度を大きくすることができ、被覆体との熱伝導の差(すなわち凍結時間と融解時間)を自由に調整可能となる。同時に、液面中央部分が氷結膨張により原液より濃度の高い氷となって盛り上がって凍結するため、くり抜く場合にあってはその作業性を向上させる。また、したたらせる場合にあっては、容器の形状が切頭錐形であるため、解凍初期に氷が抜け落ち、氷結晶間への空気流入その他の微細間隙の圧力開放が促進され濃縮液のしみ出しを促進し、濃縮固体部分の融解効率を向上させることができる。同時に、当該容器をすぐに次のサイクルに用いることができ作業性が向上する。なお、容器形状が切頭錐形であるため、容器に多少の変形があったとしても解凍初期に容易に氷が抜け落ちる結果、この点でも作業性が向上するといえる。なお、請求項1に係る発明は、雰囲気温度や設備に特に依存しないため、一般的な凍結庫を用いることができ汎用性に優れる。
【0008】
なお、上面部分より小さな底面部とは、錐体の軸に垂直な二つの面のうち小さい方を底面部とするという意味である。被覆体の形状は特に限定されないが、密閉できるふたであっても、被せるだけの板であってもよく、厚みや素材は、効率的に濃縮液部分を中央に追いやれるものであれば特に限定されない。なお、容器の素材としては樹脂、被覆体の素材としては段ボールを用いると、安価で操作性のよい作業が可能となる。
【0009】
また、請求項2に記載の凍結濃縮方法は、請求項1に記載の凍結濃縮方法において、底面部の径の長さより、底面から液面までの高さが長くなるように水溶液を入れることを特徴とする。
【0010】
すなわち、請求項2に係る発明は、容器をひっくり返して融解する際に、最下部から液面までの高さが大きくなるため、毛管力より重力がまさり氷結晶間隙の濃縮液がしたたり落ちやすくなり、濃縮液を効率的に抽出できる。
【0011】
また、請求項3に記載の凍結濃縮方法は、請求項1または2に記載の凍結濃縮方法において、容器の容量を15リットル以下にしたことを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項3に係る発明は、容器の搬入搬出やひっくり返しといった作業を人力で可能となる。なお、容器の容量は、好ましくは10リットル以下、更に好ましくは8リットル以下である。この程度であれば、女性でも作業が可能となり、コンベア等の新規設備導入が不要となる。また、氷が重量物でなくなるため作業の安全性が確保される。
【0013】
また、請求項4に記載の凍結濃縮方法は、請求項1、2または3に記載の凍結濃縮方法において、容器をバケツとしたことを特徴とする。
【0014】
すなわち、請求項4に係る発明は、作業性を高める。例えばカニのゆで汁を冷凍庫に入れて凍結濃縮する際には、両手にバケツを持って移動することができる。
【0015】
また、請求項5に記載の濃縮液抽出方法は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の凍結濃縮方法により凍結させた水溶液の入った容器をひっくり返し、雰囲気温度を6℃以下凝固点以上として解凍し、濃縮液を得ることを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項5に係る発明は、食品加工場その他の現場における現実的な作業性を確保しながら、効率的に濃縮液を抽出可能となる。好ましい温度帯はBrix濃度が2〜3%であるときには、6℃以下3℃以上である。日本酒や日本酒と同程度のアルコール飲料、高濃度水溶液の場合は、凝固点が低いため、−5℃程度で融解することが好ましい。
【0017】
また、請求項6に記載の濃縮液抽出方法は、請求項5に記載の濃縮液抽出方法において、5倍濃縮液を当初水溶液重量の10%以上得ることを特徴とする。
【0018】
すなわち、請求項6に係る発明は、食品加工場その他の現場における現実的な作業性を確保しながら、理想抽出量の50%以上の抽出を可能とする。
【0019】
また、請求項7に記載の濃縮液抽出方法は、請求項5または6に記載の濃縮液抽出方法において、水溶液がBrix2%〜3%のカニのゆで汁であることを特徴とする。
【0020】
すなわち、請求項7に係る発明は、カニのゆで汁の濃縮液を効率的に抽出でき、従来の蒸発法によるカニエキスと比較して良好な風味のカニエキスを得ることができる。
【0021】
また、請求項8に記載の濃縮液抽出方法は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の凍結濃縮方法により水溶液を凍結させるにあたり、目標濃度が所定の濃度以下である場合には、容器周囲の温度若しくは流速を調整することにより、または、容器周囲の温度と水溶液の中心温度の差を調整することにより、水溶液の中央部分から上部の領域の凍結が完全でない状態で凍結濃縮を終了し、次いで、水溶液の入った容器をひっくり返して解凍し、凍結時間および融解時間を短縮して濃縮液を得ることを特徴とする。
【0022】
すなわち、請求項8に係る発明は、冷凍解凍に必要なエネルギーに無駄が生じないようにしつつ、効率的な濃縮液抽出が可能となる。
【0023】
また、請求項9に記載の濃縮液抽出方法は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の凍結濃縮方法により水溶液を凍結させるにあたり、水溶液の中央部分から上部の領域の温度が凝固点よりも所定温度低い状態で凍結濃縮を終了し、次いで、水溶液の入った容器をひっくり返し、雰囲気温度を6℃以下凝固点以上として解凍し、凍結時間および融解時間を短縮して濃縮液を得ることを特徴とする。
【0024】
すなわち、請求項9の発明は、業務用の冷凍庫の設定温度を変更することなく、すなわち、既存の冷凍庫の空きスペースを利用して、中心温度が凝固点温度より数℃低い時点で凍結を終了させる(冷凍庫から取り出す)ことにより、融解時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡便かつ効率的に水溶液濃縮をおこなうことができる。特に、食品加工場(一次産品加工場)では、冷凍庫と冷蔵庫を保有している場合がほとんどであり、そのような既存の設備を有効利用することにより、簡便且つ効率的に水溶液濃縮をおこなうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態および実施例では、カニのゆで汁を濃縮する場合について説明する。
【0027】
カニ加工場では、水揚げされたカニを98℃の温水でゆで、その後、殻と身の分離、更には、必要に応じて半調理または冷凍食品へ加工する。ここで、ゆで工程では、カゴやコンベヤにカニをのせ、移動させながら順次湯船の中をくぐらせていくことによりカニをボイルする。湯(ゆで汁)は、ある程度時間がたつと、濃度が平衡化し、通常Brix(可溶性固形分)%で、2%〜3%となる。
【0028】
カニのゆで汁の場合、ゆで汁のままの濃度では、嵩も多く使い勝手が悪いため、取引されてもせいぜい3円/kgである。またストレートで用いる場合、ゆで汁を冷却するまでの間に30℃〜40℃の菌の増加し易い温度帯に長く放置されてしまうことが多いことから菌数の管理が難しい。しかしながら、5倍〜7倍に濃縮すると、単価が相対比で10倍以上跳ね上がり、例えば6倍濃縮液であれば、500円/kg程度で取引される。
【0029】
一方、カニの身そのものに比べると、たとえ濃縮されていても常に安定的な需要があるわけではないため、カニ加工場では新たに設備投資をおこない、また、人件費を払うことができない。加えて、濃度は、納入先の指定がある場合が通常であるので、冷凍融解による場合であっても、細かな制御や監視が必要となる。
【0030】
本発明は、これらの難点を打開すべく、本願発明者が鋭意検討してなしえた凍結濃縮法である。濃縮率には、凍結工程、融解工程のいずれもが関係することが従来より知られていたが、本発明は、加工場の現場で現実的かつ作業性のよい方法を提供するものである。
【0031】
まず、8リットル入りの上部が広くなっている通常の形状のポリバケツに6リットルのカニのゆで汁を入れ、−30℃の業務用冷凍庫に保管した。一昼夜経過後、ゆで汁は完全に固化していたが、上面から凍ったため、底に近い所に濃度の高い氷ができ、また氷が膨張しバケツの底が変形してヒビが入った。バケツをひっくり返しても中身(氷)が落ちないので、常温雰囲気下にバケツを持っていったところ、しばらくして氷が抜け落ちたが、濃度の高い部分が上に位置しているので、融解に伴う濃縮液の抽出効率は極めて悪かった。
【0032】
そこで、網でできた棚を設けてバケツを静置し、上面には、段ボールのふたを被せたところ、側面と底面から凍り始め、最後は表面中央に盛り上がって濃度の高い氷ができることと共にバケツの変形も生じていないことを確認した。また、段ボールの厚みをかえることにより、完全凍結までの時間を調整できることも確認した。得られた濃縮液を分析したところ、Brix10.0%で水分91.3%、塩分、2.9%であった。また、従来の蒸発法による濃縮液に比して、穏やかな風味でオリや劣化臭もなかった。これを、原液と同等に希釈したところ、風味やアミノ酸パターンに変化がなく、濃縮液は極めて高品質であることが確認できた。
【0033】
続いて、雰囲気温度を各種変えた業務用冷蔵庫中で、網でできた棚の上でバケツを含むいくつかの容器をひっくり返し、下に融解液を受けるバットをおき、融解の様子を観察したところ、濃度の高い部分が下に位置しているため、底の深いバケツの方が底の浅いバケツより、濃縮率が高いことを確認した。このとき、経験的に、底の径より底から液面までの氷の高さが長いものの方がより効率的に濃縮されていることを確認した。また、円柱状の容器は切頭錐形容器に比べて氷の剥離に時間がかかり非効率的であることを確認した。
【0034】
以下に、上記の知見をふまえて、バケツ(切頭錐形容器)による凍結融解方法の有効性を見極めるべく、条件を異ならせた濃縮方法の実験例を説明する。
【実施例1】
【0035】
ベニズワイガニを水でボイルし、ゆで汁10kg(濃度Brix2.7%、塩分0.66%)を、縦55cm×横33cm×高さ7cmの容器に入れ、−30℃の凍結庫で一晩かけて場所に関係なく溶質が略均一化した氷を作って、以下の3つの条件で氷を設置し室内(21℃〜25℃)で解凍し1時間ごとに融解液重量とBrix(%)を計測した。
(1)網の上に一番大きな面を下に寝かせて解凍
(2)縦方向が鉛直方向になるように氷を立てて解凍
(3)氷の角が下にくるように斜めに立てて解凍
【0036】
1時間ごとの濃縮倍率と原液重量に対する融解液重量の割合を図1に示した。条件(2)(3)は、(1)に比べ融解量が2倍であり濃縮効率が向上していることが確認できた。また、初期ほど濃度が高い液が解凍されることが分かる。また、2倍濃縮に達する時間を見ると、条件(1)より、条件(2)(3)の方が早い。以上より、氷を立てて高低差がある方が、濃縮効率が高く融解速度も向上させることが可能であることが確認できた。
【実施例2】
【0037】
ベニズワイガニゆで汁(Brix2.1%〜Brix2.5%)を実験例1と同じ容器に10kg(厚み5.5cm)、8kg(厚み4.4cm)、6.5kg(厚み3.6cm)、5kg(厚み2.8cm)入れ、同じ条件で凍結した。これを立てて設置し冷蔵庫内(0℃〜2℃)で解凍し15時間後の融解液重量とBrix(%)を測定した。複数回の実験結果を図2に示す。15時間後の融解量と濃度には大きくバラつきがあるものの、濃度曲線は、厚みにかかわらず略一定の曲線状にあり、かつ、実施例1の室温融解と異なり、濃縮効率が著しく上昇していることが分かる。
【0038】
以上実施例1および2より、濃縮効率は、氷の底面積に対する高さが高い方がよく、融解温度は低い方がよいことが確認できた。
【実施例3】
【0039】
次に、融解時の上部の密閉と開放について検討した。直径9cm、高さ150cmのパイプ形状の容器の先端に開放弁を設けた容器にゆで汁(Brix2.6%)7.8リットルを封入し、凍結後に上下反対にしてバルブを開けたものと閉じたもので、融解液の重量と濃度を計測した。図示は省略するが、5倍濃縮の時点でバルブが開いている場合の融解率は9.9%、閉じている場合は8.9%であった。このことより、容器をひっくり返したときに、容器から氷が離れやすくするようなバケツ形状(切頭錐形)であることが好ましいことが確認できた。
【実施例4】
【0040】
次に、予備解凍について検討した。8リットル容量のポリバケツにゆで汁(Brix約2.4%)を約3.6リットル入れ、凍結後に、3.0℃で39時間融解させるにあたり、予備解凍なし、予備解凍常温30分、予備解凍常温60分として融解量と濃度を測定した。同様に、3.5℃で15時間融解させるにあたり、予備解凍なし、予備解凍常温30分として融解量と濃度を測定した。結果を図3に示す。予備解凍をおこなうと時間当たりの融解量が増加するが、濃縮効率の低下が見られなかった。また39時間解凍した場合にはいずれも溶質の96%を回収することができた。実施例2も加味すると設定温度が0℃〜3.5℃と低い場合には、各種の他の条件にかかわらず同一の曲線上に結果が乗り、また、予備融解した場合には抽出量が多くなることが確認できた。なお、以降においては、この曲線を基準曲線と適宜称することとする。
【実施例5】
【0041】
次に、実施例4の結果から、氷の中心温度が融解速度に影響するのではないかと推測し、中心温度が−1.1℃、−2.4℃、−3.9℃、−7.2℃、−30.1℃となった時点で凍結を終了し、融解開始の2時間後から8時間後まで2時間ごと、−30.1℃、−3.9℃、−2.4℃のものについては24時間後の融解量と濃度を測定した。−1.1℃、−7.2℃、−30.1℃のものは2.5℃の雰囲気温度で解凍し、−2.4℃、−3.9℃のものは5.5℃の雰囲気温度で解凍を行った。その結果を図4に示す。
【0042】
中心温度が−30.1℃に達し、完全に凍った氷を除いて、いずれも上記各例と異なった融解パターンを示し、各2時間で解凍開始2時間までの融解量が最も多い。その後、初期に得られた融解液、未凍結液よりも濃い融解液が氷からしみ出し、全体の融解液の濃度が上昇した後、濃度をあまり低下させることなく融解がすすみ、その後、基準曲線の融解量、濃度に到達する。
【0043】
この基準曲線上に到達するのに必要な時間は、完全に凍らせたものに比べて早く、更に中心温度が高いものの方がより早くなっている。基準曲線に到達した後はこの曲線に沿って融解していく。
【0044】
以上から、目的の濃度と融解量によっては、必要以上に氷の温度を冷却することなく、また予備解凍も不要で、時間を短縮でき、かつ、投入エネルギーを少なくできることが確認できた。
【0045】
また、濃縮されたカニゆで汁Brix12%(約5倍濃縮)の凝固点は−3.0℃である。中心温度が−3.9℃に達して凍結工程を終了させた氷は、図に示したように5倍濃縮は実現しない。一方、中心温度が−7.2℃に達して凍結工程を終了させた氷は5倍濃縮が可能である。このことから、得ようとする濃縮液の凝固点より所定温度(数℃のオーダー)低い時点で凍結を終了し、解凍を開始すると濃縮作業の効率化を図ることができることが分かる。
【0046】
また水溶液から清浄な水や懸濁固形分を取り出すときには、凝固点より中心温度が−1℃〜−2℃低下した時点で凍結を終了し、解凍を始めると良い。例えば図示は省略するが、切頭円錐形のバケツに12リットルのカニゆで汁(Brix2.6%)を−1.2℃の中心温度に到達後、5.5℃で24時間解凍すると、約2.3倍濃縮液が原料重量に対し40%得られ、94%の溶質を回収でき、反対に、微量に溶質が残存するもののBrix0.1%の氷を原料重量に対し60%得ることができる。
【実施例6】
【0047】
カニゆで汁を同じ8リットル容量のポリバケツに6リットル入れて−30℃の冷凍庫で完全に凍らせたものと、中心温度が−7.4℃となった時点で凍結を終了させたものを、5.5℃の冷蔵庫で15時間解凍した。また、同様に、中心温度が−5.8℃、−11.2℃の時点で凍結を終了したものとそうでないもの(中心温度−29.7℃)を3.5℃に設定した冷蔵庫で15時間解凍した。結果を図5に示す。
【0048】
図示したように、いずれも、実施例4の基準曲線と同等以上の結果となる。中心温度−11.2℃(解凍温度3.5℃)と中心温度−30.1℃(解凍温度5.5℃)のものは、5倍濃縮で当初重量の10%以上の収量を確保しており、室温放置のものと比べて著しく高効率であることも確認できる。一方、中心温度が高い場合(−5.8℃,−7.4℃)は、解凍温度に関係なく、同じ解凍時間(15時間)であっても、基準曲線を下回ることなく、融解量が増加する。従って、中心温度が高い場合には、解凍時間をより短くして高濃度の濃縮液を得ることができ、解凍時間の短縮化や、バケツ1つあたりの水溶液の注入量をより多くすることが可能となり、作業性や生産量の向上を図ることが可能になる。すなわち、解凍時間(凍結時間)、濃縮倍率、溶解量は、基準曲線上で、適宜作業者が決定できることが確認できた。
【0049】
また、特に、15時間後であると、カニ加工場で終業時刻前に、前日までに凍らせておいたバケツをひっくり返す作業だけをしておけば、翌朝の操業開始時には、利益率の高い濃度の濃縮液を収量よく回収できている状態となっている。なお、6℃程度以下であれば、融解曲線は、基準曲線より上に結果がくるので、中心温度と融解時の雰囲気温度を調整すれば、所望の濃縮液を所望の時間経過後に得ることができることとなる。中心温度は、バケツの熱伝導率と、ふたをする段ボールの厚み、容器に被せるシート、容器の形状、容器の注入量などで調整可能であるので、極めて簡便に効率の高い濃縮液抽出方法を提供できることが確認できた。また、8リットル容量のバケツであれば、女性でも両手に2つ掲げて安全に運搬できる重さであるので、本方法は、冷蔵庫と冷凍庫が通常備わっている一次産品の加工工場であれば、容易に導入可能であり、余剰の凍冷蔵能力を有効活用できる。
【0050】
以上の実施例を検討するにあたり、経験的に、氷の重さは1kg以上あると良好に融解が進行することが確認できた。また、より濃縮率を高めるには、濃縮液を再度同様の方法にて凍結融解してもよい。このときは、低い濃縮率を繰り返した方が途中の流出が少なく、最終的な濃度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
ゆで汁など水溶液に沈殿性物質があり、それを抽出したい場合は、容器を縦長にして凍らせ、反転して融解する際に、下部からは濃縮液を、上部は氷を切り取るなどして、沈殿性物質を回収することができる。
また本発明は食品産業、環境産業、医薬品産業、および化学産業などに応用することができる。
なお、近年では、環境調和が必要であるため、水溶液中の溶質をできるだけ拡散させない工場運営が必要となっている。本発明によれば、既存の冷凍庫を用いるだけで、水と濃縮液とを分離可能であるため、例えばカニのゆで汁の場合には、中心温度を−2℃〜−1℃で凍結を終了させ解凍すれば完全に凍らせたものに比べて解凍時間が半分以上短縮して、凍結も必要以上に冷却する必要がなく、短時間で、水分抽出(氷による分離)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】室温融解における、氷の高さと濃縮倍率との関係を示した融解曲線である。
【図2】0℃近辺の各種条件下における15時間融解後の濃縮倍率と融解量との結果を示した図である。
【図3】予備融解と濃縮倍率と融解量との関係を示した図である。
【図4】バケツを用いた6℃以下の融解であって、中心温度と、濃縮倍率と融解量のパターンの関係を示した図である。
【図5】バケツを用いた6℃以下の融解であって、15時間解凍したときの中心温度と、濃縮倍率と融解量の関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面部分が開口し、上面部分より小さな底面部と側周面部とからなる切頭錐形状の容器に水溶液を入れ、容器の上面部分を被覆体で覆って底面部が側周面部と同様に冷気に曝されるようにし、被覆体ないし液面上部の空気層の熱伝導を容器より小さくすることにより、水溶液の中央部分から上部にかけて溶液濃度を高めて凍結させ、かつ、当該領域の凍結遅延による圧力開放によって容器の変形を招来しないようにしたことを特徴とする凍結濃縮方法。
【請求項2】
底面部の径の長さより、底面から液面までの高さが長くなるように水溶液を入れることを特徴とする請求項1に記載の凍結濃縮方法。
【請求項3】
容器の容量を15リットル以下にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の凍結濃縮方法。
【請求項4】
容器をバケツとしたことを特徴とする請求項1、2または3に記載の凍結濃縮方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の凍結濃縮方法により凍結させた水溶液の入った容器をひっくり返し、雰囲気温度を6℃以下凝固点以上として解凍し、濃縮液を得ることを特徴とする濃縮液抽出方法。
【請求項6】
5倍濃縮液を当初水溶液重量の10%以上得ることを特徴とする請求項5に記載の濃縮液抽出方法。
【請求項7】
水溶液がBrix2%〜3%のカニのゆで汁であることを特徴とする請求項5または6に記載の濃縮液抽出方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の凍結濃縮方法により水溶液を凍結させるにあたり、目標濃度が所定の濃度以下である場合には、容器周囲の温度若しくは流速を調整することにより、または、容器周囲の温度と水溶液の中心温度の差を調整することにより、水溶液の中央部分から上部の領域の凍結が完全でない状態で凍結濃縮を終了し、次いで、水溶液の入った容器をひっくり返して解凍し、凍結時間および融解時間を短縮して濃縮液を得ることを特徴とする濃縮液抽出方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の凍結濃縮方法により水溶液を凍結させるにあたり、水溶液の中央部分から上部の領域の温度が凝固点よりも所定温度低い状態で凍結濃縮を終了し、次いで、水溶液の入った容器をひっくり返し、雰囲気温度を6℃以下凝固点以上として解凍し、凍結時間および融解時間を短縮して濃縮液を得ることを特徴とする濃縮液抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188486(P2008−188486A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22664(P2007−22664)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【特許番号】特許第4081514号(P4081514)
【特許公報発行日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(507036212)日本海冷凍魚株式会社 (2)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】