説明

濾水性を向上させる方法及びセルロース系成形物

【課題】ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液を脱水してセルロース系成形物を作成するに際し、例えば、成形物がシートであった場合、その地合い(セルロースの分布の均一性)に悪影響を及ぼすことなく、比較的簡便な方法で濾水性を向上させることである。更に、ミクロフィブリル化セルロースの表面に適度な疎水性を付与することにより、得られた成形物の疎水性、耐水性を向上させることにある。
【解決手段】ミクロフィブリル化セルロースの水性分散液に、カチオン性粒子(A)を、対セルロース固形分で0.1〜40質量%添加する工程を含むことを特徴とするミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性を向上させる方法及びこの濾水性を向上させる方法を用いてろ過することにより得られるミクロフィブリル化セルロースを含むセルロース系成形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロース水性分散液の濾水性を向上させる方法、及びこの方法を用いて得られたセルロース系成形物に関する。本発明により、セルロース系成形物中に存在するミクロフィブリル化セルロースの分布の均一性に悪影響を及ぼすことなく、また、そのセルロース系成形物がシートである場合はそのシートの地合いに悪影響を及ぼすことなく、比較的簡便な方法で濾水性を向上させることができる。また、得られたセルロース系成形物はカチオン粒子を添加しない未処理の成形物よりも疎水性や耐水性に優れるため、従来よりも幅広い分野で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスを低減すること、及び化石原料の使用量を削減することの観点から、再生可能な天然系原料、特に、自然界に豊富に存在するセルロース系の原料へ関心が集まっている。
【0003】
この中でもパルプ等を機械的又は化学的処理することにより得られるミクロフィブリル化セルロースは、得られた複合体が軽く、高強度であるとの優れた特長を有するので、非常に注目されている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特許第3641690号公報(特開2003−201695号公報)
【0004】
ミクロフィブリル化セルロースは通常、水を含む溶媒にミクロフィブリル化セルロースを分散して成る分散液の形態で供給されることが多い。ミクロフィブリル化セルロースの成形体を得るには、このミクロフィブリル化セルロースを含有する前記分散液をまず脱水することが必要になる。ミクロフィブリル化セルロースはパルプよりも平均繊維長が短く、また、平均繊維径も数マイクロメーター以下と非常に細い。このため、目の粗いメッシュ、若しくワイヤー、又はフィルター等の濾過材を用いて脱水しようとする場合、ミクロフィブリル化セルロースは前記濾過材に殆ど残らず、前記濾過材を通過してしまう。この為、ミクロフィブリル化セルロースを含有する水性分散液を脱水する場合は、より目の細かい濾過材を用いる必要がある。しかし、目の細かな前記濾過材を用いると、ミクロフィブリルによる、いわゆる「目詰め効果」により、今度は脱水に非常に時間とエネルギーとを要することになってしまう。
【0005】
例えば製紙産業では、繊維や添加薬品の歩留まりを維持しつつパルプスラリーの濾水性を向上させることで、抄速の向上による生産性の向上や、乾燥に要するエネルギー消費量の削減を図る取り組みが多くされている。
【0006】
この中でも、分子量が1000万を越える超高分子量のカチオン性の高分子を含有する濾水性向上剤、又は、超高分子量のカチオン性高分子とアニオン性の微粒子、若しくは高分子とを含有する濾水性向上剤をパルプスラリーに添加することにより、パルプを凝集させることで濾水性の向上を図る技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献2】特開平09−078488号公報
【0007】
これらの濾水性向上剤をそのままミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性向上に用いた場合、ミクロフィブリル化セルロースは通常のパルプよりも表面積が大きいので、前記濾水性向上剤を通常の添加率で添加するのでは十分な濾水性向上効果が奏されない。また、これら濾水性向上剤の添加率を更に上げると、ミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性は向上するものの、脱水後に得られる成形物中のセルロース分布が不均一となり、又はその成形物がシートである場合にはそのシートの地合いが悪くなり、しかも高添加率で添加された濾水性向上剤が前記成形物の強度等の物性に多大な悪影響を及ぼしてしまう。この為、脱水後に形成された成形物におけるミクロフィブリル化セルロースの分布に悪影響を及ぼすことなく、濾水性を向上させることのできる濾水性向上方法又は濾水性向上剤の開発が生産性向上の観点から非常に重要である。
【0008】
一方で、ミクロフィブリル化セルロースは親水性が非常に高いので、ミクロフィブリル化セルロースそれ自身で形成された成形物、及び他の樹脂とミクロフィブリル化セルロースとを複合させて得られる複合物の耐水性、及び/又は疎水性の向上が大きな課題となっている。これらの課題を解決する方法として、例えば、特許文献3では、ミクロフィブリル化セルロースに無水酢酸等のカルボン酸無水物を反応させ、ミクロフィブリル化セルロースの表面に存在する水酸基の25%以上をエステル化する方法が開示されている。しかし、この方法では、脱水性については記述がなく、また反応に時間がかかることや、無水酢酸を反応させた場合には酢酸という副生成物の生成等の課題がある。
【特許文献3】特表平11−513425号公報
【0009】
また、例えば特許文献4には、ミクロフィブリル化セルロースの表面に存在する水酸基とイソシアネートまたはシラン系のカップリング剤とを反応させることによりセルロース表面をエーテル化する方法が開示されている。しかし、この方法では、反応させる前に、溶媒置換を繰り返すこと等によりミクロフィブリル化セルロースから水を完全に除いた後に、このミクロフィブリル化セルロースにイソシアネート等を反応させる必要があり、生産性の面で改善の必要がある。
【特許文献4】特許第3548120号公報(特表2002−524618号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液を脱水し、セルロース系成形物を作製するに際し、例えば、このセルロース系成形物がシートである場合、その地合い、換言するとミクロフィブリル化セルロースの分布の均一性に悪影響を及ぼすことなく、前記水性分散液の濾水性を向上させる比較的簡便な方法を提供することである。更に、ミクロフィブリル化セルロースの表面に適度な疎水性を付与することにより、疎水性、及び耐水性を向上させたセルロース系組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する為の手段としては、
(1)ミクロフィブリル化セルロースの水性分散液に、カチオン性粒子(A)を、対セルロース固形分で0.1〜40質量%添加する工程を含むことを特徴とするミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性を向上させる方法、
(2)カチオン性粒子(A)が、下記(i)〜(iii)の何れか少なくとも1種類を含むことを特徴とする前記(1)に記載の方法、
(i)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られる脂肪酸アミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物
(ii)ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、及び無水コハク酸系化合物の少なくとも1種をカチオン性分散剤により分散させたもの
(iii)少なくとも、構造単位としてカチオンモノマー単位、及び疎水モノマー単位を含有するカチオン性重合体、
(3)カチオン性粒子(A)が平均粒子径900nm以下のナノ微粒子であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の方法、
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の工程を経て得られる水性分散液を脱水することにより得られるミクロフィブリル化セルロースを含むセルロース系成形物、
(5)坪量22〜25g/m、密度0.4〜0.7g/cmのセルロース系シートを作製したときのシートのステキヒトサイズ度が1.5秒以上までセルロース表面が疎水化されていることを特徴とする前記(4)に記載のセルロース系成形物、
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液を脱水し、セルロース系成形物を作製するに際し、例えば、このセルロース系成形物がシートである場合、その地合い、換言するとセルロースの分布の均一性に悪影響を及ぼすことなく、前記水性分散液の濾水性を向上させる比較的簡便な方法を提供することができる。したがって、本発明の方法によると、カチオン性粒子(A)を使用しない場合と比較して短時間で、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液の脱水を行うことができるので、セルロース系成形物の生産性の向上や脱水に要するエネルギーの削減を図ることができる。
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースの表面に適度な疎水性を付与することにより、疎水性、及び耐水性を向上させたセルロース系成形物を提供することができる。したがって、本発明によると、得られたセルロース系成形物中のミクロフィブリル化セルロースの分布、セルロース系成形物がシートであるときにはシートの地合いが優れることや、疎水性、耐水性が向上しているので、耐水性が要求される用途にも応用できる等、従来よりも幅広い用途でこのセルロース系成形物を使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースを含有する水性分散液にカチオン性粒子(A)を、好適には平均粒子径が20μm以下のカチオン性粒子(A)を、特に好適には平均粒子径が900nm以下のカチオン性粒子(A)を、対セルロース固形分で0.1〜40質量%添加する工程を含むミクロフィブリル化セルロース水性分散液の濾水性を向上させる方法である。
【0014】
本発明におけるミクロフィブリル化セルロースの種類は特に制限はなく、例えば、木材、綿花、竹、麻、及びケナフ等の植物由来のパルプ、ホヤなどの動物由来及び植物由来の天然繊維、古紙等のセルロースを含有する繊維製品を機械的処理することにより得ることができる。
更にいうと、本発明におけるミクロフィブリル化セルロースは、例えば、植物繊維であるパルプ繊維の長手方向に高圧ホモジナイザー処理等の機械処理を施して強力な剪断力を付加することにより調製することができる。このようなミクロフィブリル化セルロースとしては、繊維の太さが1〜0.01μm程度のものが好ましい。ミクロフィブリル化セルロースは、その長さにつき特に限定されず、通常の植物繊維セルロースが有するのと同等の長さでもよい。このようなミクロフィブリル化セルロースは、例えば、ダイセル化学工業(株)製のセリッシュ(登録商標)などとして容易に入手することができる。
また、本発明で用いられるミクロフィブリル化セルロースとしては、アニオン性に帯電したアニオン性ミクロフィブリル化セルロースを好適例として挙げることができる。
セルロースの表面電荷は、コロイド滴定法やゼータ電位法などの公知の方法を用いて測定することができる。
【0015】
機械的処理方法としては、セルロースを含む繊維、又はパルプをミクロフィブリル化できれば特に制限はなくホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、振動ミル、ホモミキサー、リファイナー、グラインダー、遊星ミル処理等、公知の方法を利用することができる。
【0016】
本発明に用いるカチオン性粒子(A)は、平均粒子径が20μm以下であるカチオン性を示す粒子であればよい。カチオン性粒子(A)は、対セルロース固形分で0.1〜40質量%の割合で、アニオン性ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液に添加することにより、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液の濾水性を向上でき、しかもミクロフィブリル化セルロースの表面に疎水性を付与することができる。このようなカチオン性粒子としては、(a)カチオン性基を持つ界面活性剤又は両親媒性高分子により疎水性化合物を乳化・分散させて得たカチオン性粒子、及び、(b)分子内にカチオン性基と疎水性部分との両方を持つ両親媒性化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、目的に応じて複数の粒子を併用しても良い。
本発明の方法によると、先ず、アニオン性に帯電しているミクロフィブリル化セルロースに添加されたカチオン性粒子(A)が水性分散液中で接触することにより、ミクロフィブリル化セルロースの表面にカチオン性粒子(A)が定着する。カチオン性粒子(A)がもともと備えていた疎水性部分によりミクロフィブリル化セルロースが疎水性を有するに至る。これに伴い、ミクロフィブリル化セルロースの保水性が低下するために、濾水性が向上するとともに、得られたセルロース系成形物の耐水性が向上する。
【0017】
前記の疎水性化合物としては、ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、無水コハク酸系化合物、オレフィン系誘導体、石油樹脂誘導体、及びスチレン若しくはアルキル(メタ)アクリレート等の重合物などが挙げられる。この中でも特に、ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、無水コハク酸系化合物が、少ない添加率でミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性を向上させ、しかも得られたセルロース系成形物に効率的に疎水性を付与するといった点で、好ましい。
【0018】
前記の分子内にカチオン性基と疎水性部分との両方を持つ両親媒性化合物としては、(1)脂肪酸例えば炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は脂肪酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られる脂肪酸アミド系化合物、又は、テレフタル酸及びアジピン酸等のように分子内に疎水部分を持つ多価カルボン酸と多価アミンとの縮合により得られるポリアミドアミン化合物と塩酸、硫酸等の無機酸、若しくは酢酸、クエン酸等の有機酸との塩、前記脂肪酸アミド系化合物若しくはポリアミドアミン化合物とエピハロヒドリンとの反応物、及び、構成単位として少なくともカチオンモノマー単位と疎水モノマー単位とを含む重合体等が挙げられる。これらの化合物それ自身で粒子を形成していても良いし、低分子界面活性剤又は高分子界面活性剤により分散媒中に分散された粒子であっても良い。
【0019】
本発明におけるカチオン性粒子(A)として、また、ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、及び無水コハク酸系化合物の少なくとも1種をカチオン性分散剤により分散させたものを好適例として挙げることができる。
本発明における前記ケテンダイマー系化合物の好適例として、下記一般式(1)で示される化合物を挙げることができる。
【0020】
【化1】

前記一般式(1)中、R及びRはそれぞれ炭素数8〜30の同一又は異なる炭化水素基を示し、例えばデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基等のアルキル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基等の置換フェニル基、ノニルシクロヘキシル基等のアルキル置換シクロアルキル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等が例示できる。これらのケテンダイマー系化合物は1種又は2種以上混合して用いられる。
【0021】
本発明における脂肪酸アミド系化合物の好適例として、炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物を挙げることができる。これらのモノカルボン酸は直鎖でも良いし、分岐鎖を有していても良く、また飽和脂肪酸でも良いし、不飽和脂肪酸の何れでも良い。
【0022】
本発明におけるロジン系化合物の好適例として、ガムロジン、トール油ロジン、及びウッドロジン等のアビエチン酸を主成分とするロジン類、並びにその強化物、並びにロジンとグリセリン、トリメチロールエタン、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレグリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びネオペンチルグリコール等のアルコールとの脱水反応により生成するロジンエステル類が挙げられる。これらは1種又は2種以上混合して用いられる。
【0023】
本発明における無水コハク酸系化合物の好適例として、オレフィンに無水マレイン酸を付加させた化合物を挙げることができる。例えば、炭素数16〜18のα−オレフィン、又はその内部異性化物と無水マレイン酸との反応物、並びに、プロピレンテトラマー、及びブチレントリマーの無水マレイン酸付加物等が挙げられる。具体的にはヘキサデシルコハク酸無水物、オクタデシルコハク酸無水物等のアルキルコハク酸無水物、ヘキサデセニルコハク酸無水物、オクタデセニルコハク酸無水物等などのアルケニルコハク酸無水物が挙げられる。これらは1種単独で使用することができ、又は2種以上を混合して用いることができる。
カチオン性分散剤としては、ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、無水コハク酸系化合物を乳化分散できれば、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができ、例えば、カチオン性基を有する界面活性剤、カチオン性基を有する澱粉、カチオン性基を有する合成高分子を挙げることができる。
【0024】
本発明におけるカチオン性粒子(A)として、また、少なくとも、構造単位としてカチオンモノマー単位、及び疎水モノマー単位を含有するカチオン性重合体を好適例として挙げることができる。
前記カチオン性重合体は、少なくともジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びこれらのエピハロヒドリン四級化物、ジアリルアミン、並びにジメチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオンモノマー単位と、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、及びベンジルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、並びにアクリロニトリル等の疎水モノマー単位とを含む。カチオンモノマー単位と疎水モノマー単位とを含むカチオン性重合体は、必要に応じて(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の親水性モノマー単位を含んでいても構わない。
【0025】
これらのモノマーの重合方法は、得られた重合体がある程度水分散性を示し、粒子径が20μm以下となるのであれば、公知の重合法を用いて製造することができる。
【0026】
更に、カチオンモノマー単位と疎水モノマー単位とを含む前記カチオン性重合体は、必要に応じて、塩酸、硫酸等の無機酸、又は酢酸、クエン酸等の有機酸と反応させることにより生成する塩として使用することもできるし、ベンジルクロライド、ブチレンオキサイド、エピクロロヒドリン等の4級化剤を反応させることにより4級化して用いることもできる。
これらのカチオンモノマー単位と疎水モノマー単位とを含むカチオン性重合体は1種又は2種以上混合して用いられる。これらの中でも構造単位として、少なくともスチレン及び(メタ)アクリレートと(メタ)アクリレートの4級化物とを含むカチオン性重合体が特に好ましい。
【0027】
ミクロフィブリル化セルロースはパルプ繊維よりも平均繊維長が短く、また平均繊維径も小さい。この為、ミクロフィブリル化セルロースの単位質量あたりの表面積は、パルプ繊維の単位質量あたりの表面積と比較して非常に大きい。したがって、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液を効率よく脱水をし、得られたセルロース系成形物の表面を効率良く疎水化させる為に添加するカチオン性粒子(A)は、その平均粒子径が大きくとも20μmであるのが好ましく、特にはその平均粒子径が大きくとも900nmであるのが好ましい。カチオン性粒子(A)の平均粒子径が20μmを超えると、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液を効率よく脱水することができなくなることあり、また、セルロース系成形物の表面を効率良く疎水化させることができなくなることがある。この観点から、カチオン粒子の粒子径は10nm〜20μm、より好ましくは10nm〜900nmであることが好ましい。
【0028】
ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液へのカチオン性粒子(A)の添加方法は、十分に混合できれば特に制限はない。また、ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液に、必要に応じ、クラフトパルプ、サーモメカニカルパルプ等のパルプ繊維、新聞古紙、段ボール古紙、雑誌古紙、脱墨古紙等の古紙繊維、ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の合成繊維を混合しても構わない。
【0029】
カチオン性粒子(A)は、ミクロフィブリル化セルロースが本来有する高強度である、或いは軽量である等の特性を失わない範囲でミクロフィブリル化セルロースの種類や得られたセルロース系成形物の用途に応じて添加率は適宜変更されるが、ミクロフィブリル化セルロースの固形分に対し0.1質量%〜40質量%、好ましくは1〜20質量%添加される。
【0030】
また、本発明においては効果を妨げない範囲でカチオン性粒子(A)に、アニオン性化合物(B)を併用しても構わない。アニオン性化合物(B)としては、アニオン性分散剤を用いて、ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、無水コハク酸系化合物などを分散して得たアニオン性粒子、アクリル酸とアクリルアミドとの共重合体のように、少なくともカルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基等のアニオン性を含有するアニオン性重合体が挙げられる。
【0031】
ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液におけるミクロフィブリル化セルロースの濃度は、特に制限はないが、濃度が低すぎると含有される水の量が多くなり、脱水に要する時間、及びエネルギーが多く必要となるので、好ましくない。また、ミクロフィブリル化セルロースの濃度が高すぎると、流動性が劣るので、作業性が悪化したり、ミクロフィブリル化セルロースを脱水して得たセルロース系成形物中のセルロースの分布(シートの場合は、地合い)が不均一となったりする問題が生じる場合がある。これらの観点から、当該分散液におけるミクロフィブリル化セルロースの濃度としては0.01〜20質量%、より好ましくは、0.1〜5質量%が好ましい。
【0032】
ミクロフィブリル化セルロースを含む水性分散液からの脱水方法としては、脱水できれば特に制限はないが、通常は生産性の観点からワイヤーやメッシュ等の濾過材を用いたろ過にて脱水されることが好ましく、必要に応じて加圧・圧縮しても良いし、減圧条件にてろ過しても構わない。減圧下で濾過材を用いて本発明における方法を実施する場合、その濾過材は通常、孔径が45μm以下の粗さを有する。
【0033】
この発明における工程を経て得られた水性分散液を脱水して得られる脱水後のセルロース系成形物は乾燥される。セルロース系成形物の乾燥方法は、セルロース系成形物の全体が均一に乾燥するのであれば特に制限はない。例えば、ドラムドライヤー等の様に加熱した金属と接することにより乾燥することもできるし、温風乾燥、熱風乾燥や、減圧乾燥、真空乾燥等の手法により乾燥することもできる。
【0034】
本発明により得られたセルロース系成形物は、高強度であることに加え、疎水性、耐水性が優れるので、様々な用途に使用できると共に、フェノール樹脂、塩ビ系樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の種々の樹脂と複合化させて使用することもできる。
【0035】
セルロース系成形物としては、例えば、電気機器部材、家具用部材、自動車用部材、並びに包装材料及び容器等の生活用品等が挙げられる。セルロース系成形物の形状も、目的に応じて任意に選択することができる。
【0036】
前記のセルロース系成形物は、坪量22〜25g/m、密度0.4〜0.7g/cmのシートに作製したときのシートのステキヒトサイズ度が1.5秒以上までセルロース表面が疎水化されていることが好ましく、さらに、ステキヒトサイズ度が2.0秒以上であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<製造例1> アルケニルコハク酸無水物の水分散液
この製造例は、本発明におけるカチオン性粒子(A)の一例であるカチオン性粒子(A4)を製造する例である。アルケニルコハク酸無水物(星光PMC株式会社製、製品名「AS1533」)2.5gにカチオン性分散剤として5質量%濃度のカチオン化澱粉(日本NSC製 製品名「Cato304」)糊化液200gを混合し、家庭用ミキサーにて4分間攪拌した後、イオン交換水で1質量%濃度に調整し、カチオン性粒子(A4)を含有する水分散液を得た。このカチオン性粒子(A4)の平均粒子径は0.36μmであった。この平均粒子径は、後述する装置により測定された値である。以下における平均粒子径は、前記と同様にして測定された値である。
【0039】
<製造例2> アルケニルコハク酸無水物の水分散液
この製造例は、本発明におけるカチオン性粒子(A)の一例であるカチオン性粒子(A5)を製造する例である。製造例1においてミキサー攪拌の時間を30秒にした以外は、製造例1と同様にしてカチオン性粒子(A5)の水分散液を得た。このカチオン性粒子(A5)の平均粒子径は0.91μmであった。
【0040】
<実施例1>(ミクロフィブリル化セルロースの水性分散液からの濾水、及びセルロース系成形物の作製)
植物繊維を原料として超高圧ホモジナイザー処理による強力な機械的せん断力を加えて製造された、つまり機械的処理して製造されたミクロフィブリル化セルロースであるセリッシュKY100G(ダイセル工業株式会社製)の0.1質量%水性分散液500gにアルキルケテンダイマーのカチオン性水溶性エマルションであるAD1604(星光PMC株式会社製 固形分30質量% 平均粒子径0.78μm カチオン性分散剤:カチオン化澱粉)(以下において、カチオン性粒子(A1)の水分散液と略称することがある。)を、このAD1604中の固形分つまりカチオン性粒子(A1)がセルロース固形分に対して10質量%(対セルロース固形分)となるように添加し、300rpmで1分間攪拌した後、ろ紙(5A アドバンテック東洋株式会社製)を用いて減圧脱水してセリッシュのウェットシートを作製した。なお、この実施例1で採用されたカチオン系粒子(A1)は、カチオン化澱粉をカチオン性分散剤として用いて、アルキルケテンダイマーを水中に乳化分散してなる粒子である。
なお、セリッシュをイオン交換水で0.5質量%に分散させて得たセリッシュ分散液のイオン性をスペクトリス(株)製のSZP06(流動電位法によるゼータ電位計)で測定したところ、その測定値は、−80mVでアニオン性を示した。
【0041】
前記ウェットシートの作製において、脱水開始からウェットウェブが形成されるまでの時間を「濾水時間」として計測した。作製したウェットシートをドラムドライヤーにて乾燥温度を110℃に80秒間維持する条件で乾燥することにより、坪量が25g/m、密度が0.58g/cmであるミクロフィブリル化セルロースのシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0042】
<実施例2>
実施例1においてカチオン性粒子(A1)の水分散液の代わりに、構造単位としてスチレン及びジメチルアミノエチルメタクリレートのエピクロロヒドリン4級化物を含むカチオン性重合体を含有するCS1700(星光PMC株式会社製 固形分25質量% 平均粒子径0.1μm以下)(以下において、これをカチオン性粒子(A2)の水分散液と略称することがある。)を、このCS1700中の固形分つまりカチオン性粒子(A2)がセルロース固形分に対して10質量%(対セルロース固形分)となるように添加した以外は実施例1と同様にして坪量が23g/m、密度が0.58g/cmであるミクロフィブリル化セルロースシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0043】
<実施例3>
実施例1においてカチオン性粒子(A1)の水分散液の代わりに、脂肪酸アミド系化合物とエピクロロヒドリンとの反応物の水分散液(星光PMC株式会社製、製品名「PT8104」、固形分20質量% 平均粒子径0.40μm)(以下において、これをカチオン性粒子(A3)の水分散液と略称することがある。)を、この水分散液中の固形分つまりカチオン性粒子(A3)がセルロース固形分に対して10質量%(対セルロース固形分)となるように添加した以外は実施例1と同様にして坪量が24g/m、密度が0.46g/cmであるミクロフィブリル化セルロースシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0044】
<実施例4〜5>
実施例1においてカチオン性粒子(A2)の水分散液の代わりに、製造例1で製造したカチオン性粒子(A4)の水分散液、又は製造例2で製造したカチオン性粒子(A5)の水分散液を、これらの水分散液中の固形分つまりカチオン性粒子(A4)又はカチオン性粒子(A5)がセルロース固形分に対して10質量%(対セルロース固形分)となるように添加した以外は実施例1と同様にして坪量が25g/m、密度が0.60/cmであるミクロフィブリル化セルロースシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0045】
<実施例6>
実施例1においてカチオン性粒子(A1)の水分散液の代わりに、ジメチルジアルキル(アルキル基の炭素数が12と13の混合物)アンモニウムクロライド(以下において、これをカチオン性粒子(A6)と略称することがある。)を、このカチオン性粒子(A6)がセルロース固形分に対して10質量%(対セルロース固形分)となるように添加した以外は実施例1と同様にして坪量が23g/m、密度が0.48g/cmであるミクロフィブリル化セルロースシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0046】
<実施例7>
実施例1においてカチオン性粒子(A1)の水分散液の代わりに、カチオン性分散剤としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いてロジン系化合物を分散させたカチオン性ロジンエマルション(固形分36質量%。平均粒子径1.6μm)(以下において、これをカチオン性粒子(A7)の水分散液と略称することがある。)を、この水分散液中の固形分つまりカチオン性粒子(A7)がセルロース固形分に対して10質量%(対セルロース固形分)となるように添加した以外は実施例1と同様にして坪量が25g/m、密度が0.54g/cmであるミクロフィブリル化セルロースシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0047】
<比較例1>
実施例1において、カチオン性粒子(A1)の水分散液を使用しない以外は実施例1と同様に、坪量が24g/m及び密度が0.68g/cmであるセリッシュシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0048】
<比較例2>
実施例1においてカチオン性粒子(A1)の水分散液の代わりに、カチオン性ポリアクリルアミド(星光PMC株式会社製、製品名「RD7153」)の水分散液を、この水分散液中の固形分がセルロース固形分に対して0.2質量%(対セルロース固形分)となるように、添加した以外は実施例1と同様に坪量が23g/m、密度が0.66g/cmであるセリッシュシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。
【0049】
<比較例3>
実施例1においてカチオン性粒子(A1)を0.09質量%(対セルロース固形分)となるように添加した以外は実施例1と同様に坪量が23g/m、密度が0.57g/cmであるセリッシュシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表1に示す。なお、本比較例はカチオン性粒子が対セルロース固形分の添加量が本発明で規定するよりも0.1質量%少ない例である。
【0050】
【表1】

【0051】
評価
<カチオン添加剤の粒子径>
LA−910(堀場製作所製)を用いて測定し、得られた体積基準のメジアン径を「平均粒子径」とした。
<濾水時間>
脱水開始時から、脱水によりジャー上の水がろ過されて、ウェットウェブが形成されるまで(ろ過されていない水による反射がなくなるまで)の時間を計測し、これを濾水時間とした。
<シートの地合い>
目視にて、下記のように評価した。
○・・・良い(繊維が均一に分布している)。△・・・やや悪い(繊維が分布にややムラがある)。
×・・・悪い(繊維が明らかに不均一に分布している)。
<ミクロフィブリル化セルロースの疎水性(ステキヒトサイズ度)>
JIS P 8122 紙のステキヒトサイズ度試験方法に準じて行った。
【0052】
<実施例8>(ミクロフィブリル化セルロースとBKPの混合成形物)
BKP(広葉樹対針葉樹のパルプ比が9対1である混合パルプ)をパルプ濃度2.4%まで希釈後、ナイアガラビーターを用いてカナディアン・スタンダード・フリーネス400まで叩解し、更に0.1%まで更に希釈した。このBKP分散液250g、及びミクロフィブリル化セルロースであるセリッシュKY100G(ダイセル工業株式会社製)の0.1%水懸濁液250gを混合し、BKPとミクロフィブリル化セルロースとの混合懸濁液を調製した。このセルロース懸濁液に低融点アルキルケテンダイマーのカチオン性水溶性エマルションであるAD1624(星光PMC株式会社製 固形分25% 平均粒子径0.70μm カチオン性分散剤:カチオン化澱粉)(以下において、これをカチオン性粒子(A8)の水分散液と略称することがある。)を、このAD1624中の固形分つまりカチオン性粒子(A8)がセルロース固形分に対して10質量%(対セリッシュ固形分)となるように添加し、300rpmで1分間攪拌した後、ろ紙(5A アドバンテック東洋株式会社製)を用いて減圧脱水してセリッシュのウェットシートを作製した。得られたウェットシートを実施例1と同様にして乾燥することにより坪量25g/m及び密度0.51g/cmであるミクロフィブリル化セルロースシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表2に示す。
【0053】
<比較例4>
実施例8において、低融点アルキルケテンダイマーを使用しない以外は実施例8と同様にセリッシュシートを得た。濾水時間及びシートの評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
かくして、本発明のミクロフィブリル化セルロース水性分散液の濾水性向上方法は、生産に要する時間、乾燥に要するエネルギー等を削減することによりのミクロフィブリル化セルロース系成形物の生産性を向上させるだけでなく、セルロース系成形物の耐水性の低さを向上させることができるので、この方法で得られたセルロース系成形物を従来と比較して幅広い用途に応用することが可能となる。また、ミクロフィブリル化セルロースは、木材、ケナフ、綿花等の天然素材を主な原料とするため、これらの原料を利用することにより、化石原料への過度の依存を抑制することにもつながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロフィブリル化セルロースの水性分散液に、カチオン性粒子(A)を、対セルロース固形分で0.1〜40質量%添加する工程を含むことを特徴とするミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性を向上させる方法。
【請求項2】
カチオン性粒子(A)が、下記(1)〜(3)の何れか少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
(1)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られる脂肪酸アミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物
(2)ケテンダイマー系化合物、脂肪酸アミド系化合物、ロジン系化合物、及び無水コハク酸系化合物の少なくとも1種をカチオン性分散剤により分散させたもの
(3)少なくとも、構造単位としてカチオンモノマー単位、及び疎水モノマー単位を含有するカチオン性重合体。
【請求項3】
カチオン性粒子(A)が平均粒子径900nm以下のナノ微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の工程を経て得られる水性分散液を脱水することにより得られるミクロフィブリル化セルロースを含むセルロース系成形物。
【請求項5】
坪量22〜25g/m、密度0.4〜0.7g/cmのセルロース系シートを作製したときのシートのステキヒトサイズ度が1.5秒以上までセルロース表面が疎水化されていることを特徴とする請求項4記載のセルロース系成形物。

【公開番号】特開2009−96834(P2009−96834A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267259(P2007−267259)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】