説明

濾過チップおよび濾過装置

【課題】マイクロリットルレベルといった小スケールの濾過対象液であっても、その濾過対象液中に存在する僅かな数の細胞をロスすることなく回収したり、濾過対象液の濃縮率を向上させたりすることが出来る、濾過チップおよび濾過装置を提供する。
【解決手段】濾過チップ14は、内径寸法が0.01〜6mm、外径寸法が0.1〜10mmの管状を呈し、一方の開口部分が装置本体12の先端開口部分に接続され、他方の開口部分が装置本体12から外部に突出した流通管体22,30と、平均径が0.01〜10μmの細孔を有する多孔質膜によって形成された袋状の部材であり、その内部空間が流通管体の他方の開口部分を介して流通管体の内孔に連通する濾過膜24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過対象液を濾過する濾過チップおよびその濾過チップを備えた濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、濾過対象液を濾過する濾過装置の一種として、平板状の多孔質体からなる濾過膜を備えたものが知られている(例:特許文献1、特許文献2、参照)。この特許文献1に記載の濾過装置の場合、筒状チューブの一端、または内部に設けられた平板状の濾過膜で、筒状チューブの内部にある濾過対象液を吐出したり、筒状チューブの外部にある濾過対象液を内部に吸引したりすることで、濾過対象液を濾過している。
【0003】
あるいは、特許文献2の濾過装置の場合、円錐状のカップの一端に濾過膜を設け、カップ内部にある濾過対象液を遠心力にて濾過を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−271314号公報
【特許文献2】特表2002−528093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等に記載の従来の濾過装置においては、濾過対象液を送液装置(ポンプ)などによって吐出または吸引した際に、濾過対象液の圧力が濾過膜に対して垂直にかかるため、濾過膜の細孔に目詰まりが生じやすく、このような目詰まりを放置すると濾過膜にかかる圧力が過大になる傾向にある。
【0006】
また、特許文献2に記載の濾過装置の場合にも、遠心力で膜方向に対して垂直に力がかかるため、濾過膜の細孔に目詰まりが生じやすい。なお、この目詰まりから逃れるために、遠心力に対して膜を平行に配置した濾過装置も存在するが、基本的には1枚ないし、2枚の平膜構造のため処理量あたりの膜面積は最大限でなく、また極微量処理に対応する構造を作製することは難しい。
【0007】
目詰まりや過大な圧力が生じた場合の問題点として、例えば、高分子量の成分と低分子量の成分が混在する濾過対象液から低分子量成分を除去して、高分子量成分を高濃度で回収したいような場合に、上述の濾過装置を用いると、高分子量成分が過大な圧力を受けることで、濾過膜に強く押し付けられて潰れてしまったり濾過膜に強固に付着して濾過膜からの分離ができなくなったりすることがあり、その結果、所期の高分子量成分を回収することが困難、もしくは収率が悪くなるという問題があった。
【0008】
特に、生体分子の解析を行う際には、上記のような高分子量成分として、生体から採取される細胞などを濾過対象液中から抽出したいことがある。
より詳しく説明すると、近年、少量(例えば、1〜数十個程度)の細胞を用いた生体分子の解析が行われている。このような解析を行う理由は、例えば、1個体の1臓器について何か病気を伴う症状が出た場合、1臓器を形成する数億個以上の細胞のすべてが同じ機能とは言えず、健康な細胞、問題のある細胞などによって機能が異なるはずであるから、このような機能の違いをダイナミックに見るためには機能を平均化せず、1個ずつ等の少量の細胞を対象に、機能を比較することが重要になるからである。
【0009】
あるいは、発生や再生医療の分野でも分化初期の段階で、個々の細胞内での遺伝子発現を見ることは極めて重要になっている。この際、顕微鏡観察下やセルソータを用いて形態的な違いなどから選別され回収された同じ機能を持つと思われる1〜数十個の細胞をロスすることなく、培地や溶液を取り除き解析用の溶液に置換しなければならない。
【0010】
しかし、上述のような従来の濾過装置では、すでに説明した通り、抽出したい細胞が過大な圧力を受ける状況になりやすいので、細胞を押し潰すことなく抽出することが難しいのである。
【0011】
また、近年、分析機器の高感度化により、極少量(例えば1〜10μl)のサンプルで分析を行うことが可能となってきた。しかし、分析の前処理の段階で最終的に回収可能なサンプルの最小ボリュームは、分析に必要なボリュームの数倍から数百倍に及ぶ場合が多い。
【0012】
そのため、実際に分析を行う際には、用意したサンプルボリュームの極わずかを使用するのみとなっているが、このような多量のサンプルを濃縮してより少量にすることが可能になれば、分析サンプルの濃度が上がり、分析機器の検出感度が向上されると考えられる。
【0013】
しかしながら、従来の濾過装置では、濾過膜の細孔に目詰まりが生じやすいため、上記のようなサンプルを十分に濃縮する前の段階で濾過膜が適正に機能しなくなることや、構造上デッドボリューム(濾過装置に残って回収できない量)が減らせないなどの問題があり、濾過対象液の濃縮率を容易には上げることが出来ない、という問題があった。
【0014】
本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、マイクロリットルレベルといった小スケールの濾過対象液であっても、その濾過対象液中に存在する僅かな数の細胞をロスすることなく回収したり、濾過対象液の濃縮率を向上させたりすることが出来る、濾過チップおよび濾過装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するために為された請求項1に記載の発明は、先端開口部分を介して濾過対象液を内部から外部に吐出し又は外部から内部に吸引する装置本体を備えた濾過装置において、該装置本体の先端開口部分に取り付けられて、該濾過対象液を濾過する濾過チップであって、内径寸法が0.01〜6mm、外径寸法が0.1〜10mmの管状を呈し、一方の開口部分が前記装置本体の先端開口部分に接続され、他方の開口部分が、該装置本体から外部に突出した流通管体と、平均径が0.01〜10μmの細孔を有する多孔質膜によって形成された袋状の部材であり、その内部空間が前記流通管体の前記他方の開口部分を介して該流通管体の内孔に連通する濾過膜とを備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明の濾過チップを用いて濾過対象液を濾過するには、例えば、装置本体の内部に濾過対象液が入れられて、装置本体が濾過対象液を内部から外部に吐出させることにより、濾過対象液が、装置本体の先端開口部分から流通管体を通じて濾過膜に導かれ、濾過膜において濾過される。
【0017】
あるいは、濾過対象液を濾過する別の一例として、例えば、装置本体の外部に濾過対象液が設置されて、該濾過対象液に濾過膜を浸し、装置本体が濾過対象液を吸引することにより、濾過対象液が濾過膜で濾過される。
【0018】
また、本発明の濾過チップでは、濾過膜が袋状の部材により構成されていることから、平板形状の濾過膜に比して表面積が大きくなるので、細孔の数が多くなる。これにより、本濾過チップでは、装置本体が濾過対象液を吐出又は吸引する際に、平板形状の濾過膜に比して、濾過膜の細孔が濾過対象液によって著しい目詰まり状態になることが抑えられ、濾過膜にかかる圧力の負担を軽減することが出来る。
【0019】
それ故、本発明の濾過チップによれば、濾過膜において濾過対象液を濾過する際に、細胞等の回収対象物が潰れたり、濾過膜に強固に付着して濾過膜から分離し難くなったりすることが防止されて、濾過対象液から回収対象物を大きくロスすることなく回収することが出来る。
【0020】
しかも、本発明の流通管体が内径寸法0.01〜6mmの小径の管体とされていることにより、流通管体の内孔を通る濾過対象液の流量が制限されて、少量の濾過対象液の濾過にも容易に対応可能となる。
【0021】
従って、本発明の濾過チップによれば、上述のように濾過膜の目詰まりが抑制されることで、例えば、マイクロレベルリットルといった小スケールの濾過対象液であっても、濾過対象液の濃縮率を向上させることが出来る。
【0022】
また、本発明の濾過チップにおいては、例えば、請求項2に記載されているように、前記濾過膜は、中空糸膜からなり、該中空糸膜の一方の開口端部が前記流通管体に嵌め着けられると共に、該中空糸膜の他方の開口端部が塞がれている構成を採用しても良い。これにより、多孔質膜からなる袋状の濾過膜が、簡単な構成で実現される。
【0023】
また、本発明の濾過チップにおいては、例えば、請求項3に記載されているように、前記流通管体は、光透過性を有する構成を採用しても良い。これにより、流通管体の内部にある濾過対象液が、流通管体の外部から視認可能とされて、流通管体内にある濾過対象液の量を目視で確認できる。また、例えば、流通管体を複数回使用して交換する場合に、流通管体における濾過対象物の目詰まり状態等を容易に確認出来ることから、流通管体の交換時期を容易に判断出来る。
【0024】
また、本発明の濾過チップにおいては、例えば、請求項4に記載されているように、前記流通管体は、室温にて5MPa以下の圧力に耐える耐圧性能を有する構成を採用しても良い。
【0025】
これにより、濾過対象液の濾過に際して、流通管体の不規則な変形が生じ難くなることから、その不規則な変形により流通管体の内径寸法が局所的に小さくされることに起因して、流通管体内が濾過対象物で目詰まりを生じる等の不具合が防止される。
【0026】
さらに、上述の課題を解決するために為された請求項5に記載の発明は、先端開口部分を介して濾過対象液を内部から外部に吐出し又は外部から内部に吸引する装置本体と、該装置本体の先端開口部分に取り付けられて、該濾過対象液を濾過する濾過チップとを備えた濾過装置であって、前記濾過チップは、内径寸法が0.01〜6mm、外径寸法が0.1〜10mmの管状を呈し、一方の開口部分が前記装置本体の先端開口部分に接続され、他方の開口部分が、該装置本体から外部に突出した流通管体と、平均径が0.01〜10μmの細孔を有する多孔質膜によって形成された袋状の部材であり、その内部空間が前記流通管体の前記他方の開口部分を介して該流通管体の内孔に連通する濾過膜と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明の濾過装置においては、上述した本発明の濾過チップを備えていることから、マイクロリットルレベルといった小スケールの濾過対象液であっても、その濾過対象液中に存在する僅かな数の細胞をロスすることなく回収したり、濾過対象液の濃縮率を向上させたりすることが出来る。
【0028】
また、本発明の濾過装置においては、例えば請求項6に記載されているように、前記装置本体は、内部から外部に向かって突出する円筒状部を備え、該円筒状部の内孔の先端部分によって前記装置本体の先端開口部分が構成され、前記流通管体は、前記濾過膜が取り付けられる他方の開口部分側から前記装置本体の先端開口部分に接続される一方の開口部分側に向かって次第に拡径するテーパ筒状部を備えており、前記円筒状部の外径寸法は、該テーパ筒状部の最小外径寸法より大きくされ、且つ該テーパ筒状部の最大外径寸法よりも小さくされる構成を採用しても良い。
【0029】
これにより、装置本体の円筒状部を流通管体のテーパ筒状部に差し入れて固定することができて、濾過チップ(流通管体)における装置本体の先端開口部分への取り付けが、簡単な構成で実現される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態としての濾過装置の斜視図。
【図2】図1の濾過装置の一部を構成する濾過チップを拡大して示す斜視図。
【図3】図1の濾過装置を用いた実験に際して使用される実験器具の斜視図。
【図4】本発明の第2実施形態としての濾過装置の斜視図。
【図5】図4の濾過装置の一部を構成する濾過チップを拡大して示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1実施形態の構成説明]
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1には、本発明の第1実施形態としての濾過装置10が示されている。この濾過装置10は、装置本体12と濾過チップ14とを含んで構成されている。
【0032】
装置本体12としては、例えば、本出願人が先に出願した特開2008−151777号公報に示されるピペット装置と略同様な構成が好適に採用されることから、その詳細な説明を省略するが、略有底円筒状のハウジング本体16と、ハウジング本体16の略中心軸上に沿ってハウジング本体16に収容される細長の円筒形状のピペット(図示せず)と、ハウジング本体16の先端開口部分に取り付けられて、ピペットと連結されるスクリュー式コネクタ18と、ハウジング本体16に収容されて、ピペットにおけるスクリュー式コネクタ18が接続された端部と反対側の端部に接続されるポンプ部材(図示せず)と、ポンプ部材と制御信号線20を介して電気的に接続されて、ポンプ部材を吸引又は吐出駆動するマイクロコンピュータからなる制御装置(図示せず)とを含んで構成されている。
【0033】
濾過チップ14は、図2にも拡大して示されるように、第一流通管22と中空糸膜24を含んで構成されている。
第一流通管22は、全体として略円筒形状を有している。また、第一流通管22の材料には、ホウ珪酸ガラスや石英ガラス、ポリプロピレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が採用されるが、特に、後述する濾過対象液が第一流通管22の内部を流動していることが外部から視認可能な光透過性を有し、且つ強度を有することを考慮すると、石英ガラスが好適に採用される。また、第一流通管22は、5MPa以下の圧力に耐える耐圧性能を有する。
【0034】
また、本実施形態では、第一流通管22の一方の開口側端部に、軸方向内方から外方に向かって次第に拡径するテーパ筒状部26が形成されている。テーパ筒状部26の最大内径寸法:d1は、0.06〜3.0mmとされていると共に、テーパ筒状部26の最小内径寸法:d2(換言すると、第一流通管22のストレート状部28の内径寸法)は、0.04〜1.8mmとされている。
【0035】
また、第一流通管22のストレート状部28の外径寸法:D1(換言すると、第一流通管22のテーパ筒状部26の最小外径寸法)は、0.08〜3.4mmとされている。
中空糸膜24は、中空の糸状を有する多孔質の膜体からなり、膜の平均径は0.01μm〜10μmとされている。中空糸膜24の材料は、溶液の極性により使い分けを行い、親水性の場合はポリスルフォン樹脂やセルロース樹脂が適し、ほかにポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂やポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂なども用いられる。疎水性の場合はシリコン樹脂やフッ素樹脂などが用いられる。
【0036】
中空糸膜24は、中空の糸状の膜体の一方の開口部分が第一流通管22のストレート状部28の開口部側の外周部分に対して径方向外方から嵌め着けられることにより、ストレート状部28の開口部分を流体密に閉塞している。
【0037】
なお、中空糸膜24は、第一流通管22に弾性的に嵌め着けられていても良いが、本実施形態では、中空糸膜24と第一流通管22との重ね合わせ面が、エポキシ系やウレタン系、シリコン系等の接着剤を介して相互に固着されている。接着剤の選択は試料の溶液極性やpHに依存する。
【0038】
さらに、中空糸膜24における中空の糸状の膜体の他方の開口部分が、熱溶着により流体密に閉塞されている。これにより、中空糸膜24は、第一流通管22のストレート状部28の開口部分から外方に膨らむような袋状を呈している。
【0039】
また、濾過チップ14は、第二流通管30を備えている。第二流通管30は、円筒形状を有していると共に、表面の略全体がポリイミドでコーティングされたヒューズドシリカガラスからなるキャピラリーチューブ(毛細管)により構成されている。第二流通管30の一方の端部が、装置本体12のスクリュー式コネクタ18にねじ着けられて、装置本体12のピペットに接続されている一方、第二流通管30の他方の端部が、ハウジング本体16から外部に突出している。
【0040】
なお、本実施形態では、第二流通管30の内径寸法:d3が0.01〜0.6mmとされていると共に、第二流通管30の外径寸法:D2が0.1〜0.8mmとされており、外径寸法:D2に対する内径寸法:d3の比が0.2〜0.5とされている。
【0041】
この第二流通管30の一方の端部が第一流通管22のテーパ筒状部26に差し込まれて固定されていることにより、第一流通管22と第二流通管30が連結されて、第一及び第二流通管22,30と中空糸膜24からなる濾過チップ14が構成されている。
【0042】
また、第二流通管30の他方の端部が装置本体12のスクリュー式コネクタ18にねじ着けられて、装置本体12のピペットに接続されている。
なお、第一流通管22や第二流通管30には、必要に応じて目盛を振り、目視にて濾過対象液の分量を量るようにしても良い。
[第1実施形態を用いて濾過対象液を濾過する使用例の説明]
「A:濾過対象液から細胞や高分子等の濾過物を回収する場合」
(1)第二流通管30が装置本体12に接続され、且つ第一流通管22と接続されていない状態で、第二流通管30の内空に、装置本体12のポンプ部材の吸引力を用いて濾過対象液を吸引する。
【0043】
なお、濾過対象液には、細胞とバクテリアが混合する溶液や、所定の高分子と低分子が混合する溶液の他、回収を目的とする濾過物が液体に溶解していない液体等、中空糸膜24にて濾過することが可能な各種の液体が採用される。
(2)第二流通管30の先端部を第一流通管22のテーパ筒状部26に差し込んで押し付けることにより、第一及び第二流通管22,30の各開口部分をシールする。
(3)装置本体12のポンプ部材の吐出力を用いて第二流通管30内の濾過対象液を第一流通管22を介して中空糸膜24側に送る。濾過対象液と中空糸膜24の間に存在した空気は、中空糸膜24の細孔を通じて抜け、その後、液中に存在する中空糸膜24の孔径より小さい物質が膜の外側に排出され、孔径より大きな物質(細胞なども含む)は中空糸膜24の内側に残る。
(4)濾過対象液を吐出したのち、装置本体12のポンプ部材を吸引に切り替えると、中空糸膜24の中に残った微量の液体とともに、細胞や高分子等も第二流通管30まで戻す。
(5)第一流通管22を第二流通管30から取り外す。この取り外しにおいては、図3に示されるような取り外し器具32が好適に採用される。
【0044】
取り外し器具32は、上方に開口する有底筒状の基台部34と、基台部34に固定されて、基台部34の開口部分36の上方に位置する二又形状の取り外し部38とを備えている。
【0045】
この取り外し部38の二又形状の開口部分40に対して、横方向から第二流通管30を差し込み、濾過チップ14ごと装置本体12を上方に引き上げる際に、第一流通管22のテーパ筒状部26が取り外し部38に引っ掛かることによって、第二流通管30を第一流通管22から引き抜くことができる。第一流通管22は基台部34の開口部分36を通じて、基台部34に捕集される。
(6)装置本体12のポンプ部材を吐出に切り替え、第二流通管30内にある微量の液体や細胞、分子等の濾過物を分析用容器等の目的の位置に吐き出す。
「B:濾過対象液から細胞内の物質を回収する場合」
(1)Aの(1)〜(3)と同様な作業をする。
(2)濾過対象液を吐出したのち、中空糸膜24の部分を細胞溶解液に浸し、装置本体12のポンプ部材を吸引に切り替えると、中空糸膜24の中に残った細胞を溶解することが出来る。その後、細胞溶解液から中空糸膜24を引き上げ、ポンプ部材を吐出に切り替え、中空糸膜24内で細胞を溶解してなる濾過物を、分析用容器等に吐き出す。
「C:微量血液から血漿成分のみを回収する場合」
(1)Aの(2)と同様な作業をする。
(2)中空糸膜24を血液に浸し、微量ピペットまたはポンプを吸引にすることにより血液中の血球細胞は吸い込まず、血漿成分のみを吸い込む。
(3)中空糸膜24を血液から引き上げて、第二流通管30の内空まで血漿成分の吸引を行ったことを視認した後、Aの(5)と同様に、取り外し器具32を用いて第一流通管22を取り外し、装置本体12のポンプ部材を吐き出しに切り替え、第二流通管30内にある濾過物としての血漿成分を、分析用容器等に吐き出す。
「D:濾過対象液を濃縮する場合」
(1)濾過対象液中の分析したい物質が吸着する吸着剤(微小ビーズ)を数個から1000個程度濾過対象液に添加し、濾過対象液が吸着する溶液環境を作る。吸着剤には、ODS(オクタデシルシリカ)ビーズを主とした逆相クロマトグラフィー樹脂ビーズ、イオン交換クロマトグラフィー樹脂ビーズ、アフィニティークロマトグラフィー樹脂ビーズ等が採用される。
(2)分析対象物質が吸着した吸着剤を濾過対象液ごと第二流通管30の内空に、装置本体12のポンプ部材の吸引力を用いて吸引する。
(3)第二流通管30の先端部を第一流通管22のテーパ筒状部26に差込んで押し付けることにより、第一及び第二流通管22,30の各開口部分をシールする。
(4)ポンプ部材の吐出力を用いて先ほど吸い込んだ濾過対象液を中空糸膜24側に送る。その後、濾過対象液中に存在する物質において中空糸膜24の孔径より小さい物質が中空糸膜24の外側に排出され、孔径より大きな物質、この場合主に吸着剤(微小ビーズ)が中空糸膜24の内側に残る。排出された小さい物質が、分析対象の場合は分析用容器等に吐き出す。分析対象でなければ吐き出さなくて良い。
(5)濾過対象液を吐出したのち、中空糸膜24の部分を吸着剤から分析対象物質が離れる溶出液に浸し、装置本体12のポンプ部材を吸引に切り替え、極少量(1〜10μl)の溶出液を吸引すると、中空糸膜24の中に存在する吸着剤から分析対象物質を溶出し、濾過対象液を濃縮することが出来る。その後、溶出液から中空糸膜24を引き上げ、ポンプ部材を吐出に切り替え、濃縮した濾過対象液を分析用容器等に吐き出す。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の濾過装置10によれば、濾過膜として袋状の中空糸膜24を備えていることから、平板形状の濾過膜に比して表面積が大きくなるので、細孔の数が多くなる。これにより、この濾過装置10では、装置本体が濾過対象液を吐出又は吸引する際に、平板形状の濾過膜に比して、濾過膜の細孔が濾過対象液によって著しい目詰まり状態になることが抑えられ、濾過膜にかかる圧力の負担を軽減することが出来る。
【0047】
しかも、第一流通管22や第二流通管30が小径の管体とされていることにより、第一及び第二流通管22,30の内孔を通る濾過対象液の流量が制限されて、少量の濾過対象液の濾過にも容易に対応可能となる。
【0048】
それ故、本実施形態の濾過装置10によれば、上述のように濾過膜の目詰まりが抑制されることで、濾過対象液の濃縮率の低下が防止される効果と相俟って、例えば、1〜100μlの溶液中にある1個〜数十個程度の細胞をロスすることなく回収したり、或いは、その細胞を捕捉した状態で溶解し、溶解液を高収率で回収したりすることが出来る。また、1〜100μlの濾過対象液(分析サンプル)から低分子のみを除き、微量高濃度で回収したり、高分子を除き低分子を微量高濃度で回収したりすることが出来る。
【0049】
また、本実施形態では、第一流通管22と第二流通管30とが協働して本発明の流通管体を構成し、それら第一流通管22と第二流通管30が取り外し可能に連結されていることから、上述の使用例で説明したように、外した状態で第二流通管30に濾過対象物を入れて、第一流通管22と第二流通管30を連結して、濾過を行ったり、濾過物を第一流通管22から第二流通管30に吸引して、第一流通管22と第二流通管30の連結を解除して、第二流通管30から濾過物を吐出したりする等、多様な使用方法が選択可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態では、第一流通管22と第二流通管30との取り外しに際して、図3に示されるような取り外し器具32が用いられることから、第一流通管22や第二流通管30に直接に手を触れる必要がなくなり、濾過対象液又は濾過物が直接に手で触られるおそれが軽減されて、人と濾過対象液又は濾過物の相互の衛生面が向上される。
【0051】
更にまた、本実施形態では、第二流通管30の外径寸法:D2に対する内径寸法:d3の比が0.2〜0.5とされており、比較的に肉厚な管体とされている。それ故、第二流通管30の外径寸法が比較的に小さくても、強度が確保され易くなって、濾過対象液が第二流通管30内を流通する際に、第二流通管30が不規則に変形し難くなり、不規則な変形に起因して、濾過対象液が第二流通管30内で目詰まりすることが防止される。
[第2実施形態の構成説明]
図4には、本発明の第2実施形態としての濾過装置50が示されている。この濾過装置50は、装置本体52と複数の濾過チップ54が設けられている。なお、以下の説明において、第1実施形態と実質的に同一の構成とされた部材及び部位については、第1の実施形態と同一の符号を付することにより詳細な説明を省略する。
【0052】
装置本体52は、矩形箱状のハウジング本体56を備え、ハウジング本体56の内部に第1実施形態と同様なポンプ部材(図示せず)が収容されている。また、ハウジング本体56の内部には、複数の管路が収容されており、各管路の一方の端部がポンプ部材に接続されていると共に、各管路の他方の端部が、ハウジング本体56から外方に突出する円筒形状の円筒状部58とされている。複数の円筒状部58は、ハウジング本体56の下端部においてハウジング本体56の横幅方向に互いに所定の距離を隔てて配置されている。円筒状部58の先端外周面には、ねじ溝が設けられている。この各円筒状部58に対して濾過チップ54が取り付けられている。
【0053】
濾過チップ54は、図5にも拡大して示されるように、流通管体58と中空糸膜24とを含んで構成されている。流通管体58は、全体として略円筒形状を有しており、ガラス素材を用いて形成されている。また、軸方向の中間部分にテーパ筒状部60が設けられていて、流通管体58においてテーパ筒状部60の大径端部側に位置する軸方向一方の端部が、テーパ筒状部60の小径端部側に位置する軸方向他方の端部に比して、大径の大径筒部を62とされており、この大径筒部62の内側にねじ溝が設けられている。また、流通管体58の小径筒部64(軸方向他方の端部)の先端開口部分には、第1実施形態と同様に、中空糸膜24が被せられて、接着剤を介して固着されている。これにより、流通管体58の上記先端開口部分が、中空糸膜24によって流体密に閉塞されている。
【0054】
このような濾過チップ54の複数は、流通管体58の大径筒部62が装置本体12の各円筒状部58にねじ着けられることによって、装置本体12の先端開口部分に取り付けられるようになっている。
[第2実施形態を用いて濾過対象液を濾過する使用例の説明]
「A:濾過対象液から細胞や高分子等の濾過物を回収する場合」
(1)装置本体12のハウジング本体56の各管路に濾過対象液を入れて、ポンプ部材の吐出力により濾過対象液を各流通管体58を通じて各中空糸膜24に入れて濾過する。試料中に存在する膜の孔径より小さい物質が中空糸膜24の外側に排出され、孔径より大きな物質は中空糸膜24の内側に残る。
(2)濾過対象液を中空糸膜24に吐出したのち、中空糸膜24に針先を用いて穴を開け、中空糸膜24の内側の濾過物を分析用容器等の目的位置に吐き出す。あるいは、ポンプ部材で吸引して、中空糸膜24内の濾過物を流通管体58に収容した後に、中空糸膜24をはさみなどでカットして、そこから濾過物を分析用容器等に吐き出すことも可能である。
【0055】
また、「B:濾過対象液から細胞内の物質を回収する場合」や「C:微量血液から血漿成分のみを回収する場合」、「D:濾過対象液を濃縮する場合」においては、中空糸膜をはさみでカットして、流通管体58から濾過物を吐出する以外の工程が、第1実施形態のABCと同様であるため、本実施形態においてそれらの説明は省略する。
【0056】
以上、説明したように本実施形態の濾過装置50によれば、中空糸膜24が固着された流通管体58からなる濾過チップ54を備えていることから、第1実施形態と同様に、濾過対象液から目的とする回収量の濾過物を確実に回収したり、濾過対象液から1μlの極小スケールで高濃度の液を回収したりすることが出来るのである。
【0057】
特に本実施形態では、装置本体12に複数の濾過チップ54が取り付けられていることから、複数の濾過を同時に行うことも可能となり、濾過作業の効率化が図られる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これら実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能である。また、そのような実施態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0058】
例えば、前記実施形態では、流通管体として、ガラス製の第一流通管22や流通管体58が採用されていたが、空調機器の圧力膨張弁やマイクロヒータの電熱管、高周波同軸ケーブル等に採用される公知のキャピラリチューブ(毛細管)を採用することも可能である。
【0059】
また、前記実施形態の第一流通管22や第二流通管30、流通管体58は、ストレートな円筒形状を呈していたが、屈曲乃至は湾曲した筒状を呈していても良い。
また、第1実施形態において、第二流通管30が濾過チップ14を構成する一部材とされていたが、例えば第二流通管を装置本体の先端部分に設けられる円筒状部として構成し、この装置本体の円筒状部の先端部分を、装置本体の先端開口部分としても良い。即ち、濾過チップ10において、第二流通管30は必須の構成要件でない。
【0060】
また、第2実施形態では、流通管体58が装置本体52の円筒状部58にねじ着けられることで、濾過チップ54が装置本体52に取り付けられるようになっていたが、例えば、ねじ着け構造をやめて、円筒状部の先端部分を流通管体のテーパ筒状部に差し込んで固定するようにしても良い。
【0061】
また、本発明の濾過チップ(濾過膜)は、例示のように、細胞とバクテリアが混合した溶液や血漿が溶解した血液等の濾過対象液を濾過するだけに限定されるものでなく、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の前処理フィルターや合成酵素連鎖反応(PCR)後のDNA溶液の脱塩フィルター、シーケンシング反応後の脱塩フィルター、2次元電気泳動後、酵素消化後のタンパク質の回収・脱塩フィルター、蛍光色素の除去フィルター等に採用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
10…濾過装置、12…装置本体、14…濾過チップ、22…第一流通管、24…濾過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端開口部分を介して濾過対象液を内部から外部に吐出し又は外部から内部に吸引する装置本体を備えた濾過装置において、該装置本体の先端開口部分に取り付けられて、該濾過対象液を濾過する濾過チップであって、
内径寸法が0.01〜6mm、外径寸法が0.1〜10mmの管状を呈し、一方の開口部分が前記装置本体の先端開口部分に接続され、他方の開口部分が、該装置本体から外部に突出した流通管体と、
平均径が0.01〜10μmの細孔を有する多孔質膜によって形成された袋状の部材であり、その内部空間が前記流通管体の前記他方の開口部分を介して該流通管体の内孔に連通する濾過膜と、
を備えたことを特徴とする濾過チップ。
【請求項2】
前記濾過膜は、中空糸膜からなり、該中空糸膜の一方の開口端部が前記流通管体に嵌め着けられると共に、該中空糸膜の他方の開口端部が塞がれていることを特徴とする請求項1に記載の濾過チップ。
【請求項3】
前記流通管体は、光透過性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の濾過チップ。
【請求項4】
前記流通管体は、室温にて5MPa以下の圧力に耐える耐圧性能を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の濾過チップ。
【請求項5】
先端開口部分を介して濾過対象液を内部から外部に吐出し又は外部から内部に吸引する装置本体と、該装置本体の先端開口部分に取り付けられて、該濾過対象液を濾過する濾過チップとを備えた濾過装置であって、
前記濾過チップは、
内径寸法が0.01〜6mm、外径寸法が0.1〜10mmの管状を呈し、一方の開口部分が前記装置本体の先端開口部分に接続され、他方の開口部分が、該装置本体から外部に突出した流通管体と、
平均径が0.01〜10μmの細孔を有する多孔質膜によって形成された中空の部材であり、その内部空間が前記流通管体の前記他方の開口部分を介して該流通管体の内孔に連通する濾過膜と、
を備えたことを特徴とする濾過装置。
【請求項6】
前記装置本体は、内部から外部に向かって突出する円筒状部を備え、該円筒状部の内孔の先端部分によって前記装置本体の先端開口部分が構成され、
前記流通管体は、前記濾過膜が取り付けられる他方の開口部分側から前記装置本体の先端開口部分に接続される一方の開口部分側に向かって次第に拡径するテーパ筒状部を備えており、
前記円筒状部の外径寸法は、該テーパ筒状部の最小外径寸法より大きくされ、且つ該テーパ筒状部の最大外径寸法よりも小さくされることを特徴とする請求項5に記載の濾過装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−102761(P2011−102761A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258040(P2009−258040)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(505073004)アルテア技研株式会社 (7)
【出願人】(596175810)財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所 (40)
【Fターム(参考)】