説明

濾過装置及びその運転方法

【課題】複数の膜モジュールに洗浄用空気を均等に供給することが可能な濾過装置及びその運転方法を提供する。
【解決手段】中空糸膜モジュール1a,1bを空気洗浄するときには、弁11,22が閉とされ、弁32,41が開とされる。空気が管40,42a,42b及び管12a,12bを通って中空糸膜モジュール1a,1bに供給され、膜面が空気洗浄された後、管31a,31b,30を介して取り出される。ここで、原水用分岐管12aに流入した空気は、逆止弁13aによって逆流することが防止されるため、その総てが膜モジュール1a内に流入する。同様に、原水用分岐管12bに流入した空気も、その総てが膜モジュール1b内に流入する。これにより、中空糸膜モジュール1aへの空気の供給量が少なくなって空気洗浄が不十分となることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の膜モジュールを備えた濾過装置と、この濾過装置の運転方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
膜濾過装置を用いて原水の濾過処理を行う場合、膜面に堆積した異物、濁質等の夾雑物を除去するために、定期的に又は必要時に不定期に膜の洗浄を行うことがある。この膜の洗浄としては、濾過処理時の通水方向とは逆方向に水を通水させる逆洗や、膜濾過装置に空気を供給する空気洗浄(スクラビング)や、膜濾過装置に水と空気の両方を供給して洗浄する水・空気洗浄などが行われる。
【0003】
また、大量の水を膜濾過処理する必要がある場合、通常は複数の膜モジュールを並置する。このように複数の膜モジュールを有する膜濾過装置においては、膜モジュールを空気洗浄等するための空気洗浄機構の空気圧源の数を少なくするために、1つの空気圧源から総ての膜モジュールに空気を供給し得るようにすることがある。
【0004】
例えば、特開2009−262087号公報の図1には、3本の膜モジュールを並列に備えた膜濾過装置において、原水用の主管に対し、空気用配管を介してブロワを接続した構成が開示されている。水・空気洗浄時には、ブロワからの空気が空気用配管及び原水用の主管を通り、さらに原水用の主管の下流側で分岐した分岐管を通って各膜モジュールに供給されると共に、透過水が透過水用配管から各膜モジュールに供給される。
【0005】
第2図は別の従来例を示す系統図である。第2図において、原水(被処理水)は、原水用集合管10から分岐した原水用分岐管12a,12bを介して各中空糸膜モジュール1a,1b内に供給される。膜モジュール1a,1b内において中空糸膜を透過した透過水(処理水)は、透過水用分岐管21a,21bを介して透過水用集合管20に流入し、取り出される。膜モジュール1a,1b内において中空糸膜を透過せずに濃縮された濃縮水は、濃縮水用分岐管31a,31bを介して濃縮水用集合管30に流入し、取り出される。空気洗浄時や水・空気洗浄時には、洗浄用空気がコンプレッサ(図示略)等の空気圧源から空気用集合管40に供給され、空気用分岐管42a,42b及び原水用分岐管12a,12bを通って中空糸膜モジュール1a,1bに供給される。さらにこの中空糸膜モジュール1a,1b内の空気は、濃縮水用分岐管31a,31b及び濃縮水用集合管30を介して抜き出される。なお、各集合管10,20,30,40にはそれぞれ弁11,22,32,41が設けられており、これらの弁11,22,32,41は弁制御装置(図示略)により制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−262087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の膜濾過装置のように、原水用の主管に対して空気用配管を接続する場合、空気用配管を膜モジュールの近傍に接続することができない。また、この原水用の主管の下流側で分岐した各分岐管の長さが各膜モジュール毎に異なる場合、より長い分岐管に接続された膜モジュールに空気が流れ難くなり、各膜モジュールに気体が均等に流れないことがある。このように各膜モジュールに気体が均等に流れない場合、空気の流れ難い膜モジュールが早期に閉塞の程度が大きくなるという問題が生じる。
【0008】
第2図の膜濾過装置によると、原水用分岐管12a,12bのうち膜モジュール1a,1bから同程度に近接した位置に、空気用分岐管42a,42bを接続することができる。しかしながら、この第2図の膜濾過装置においても、各モジュールにおける中空糸膜間の閉塞の程度が異なる場合等に、各膜モジュールに空気が均等に流れないことがある。
【0009】
本発明は、複数の膜モジュールに洗浄用空気を均等に供給することが可能な濾過装置及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の濾過装置は、複数の膜モジュールを備えた濾過装置であって、水用集合管と、該水用集合管から分岐して各膜モジュールにそれぞれ接続された水用分岐管と、各水用分岐管に接続された空気用分岐管と、各空気用分岐管と共通の空気圧源とを接続している空気用集合管とを有する濾過装置において、各水用分岐管には、それぞれ、該水用分岐管と該空気用分岐管との接続部よりも該水用集合管側の箇所に、空気洗浄用分岐管を介して供給された空気の該水用集合管側への流れを阻止する逆流防止手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の濾過装置は、請求項1において、該逆流防止手段が逆止弁であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の濾過装置は、請求項2において、該逆流防止手段が前記膜モジュールの空気洗浄時に閉止される弁であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の濾過装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記水用集合管及び水用分岐管を介して前記膜モジュールに原水が供給されるよう構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明(請求項5)の濾過装置の運転方法は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の濾過装置を運転する方法であって、該膜モジュールに原水を通水して透過水を得る濾過工程と、該空気洗浄用集合管、該空気洗浄用分岐管及び該水用分岐管を介して該膜モジュールに空気を導入し、該膜モジュールを空気洗浄する空気洗浄工程とを有することを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の濾過装置の運転方法は、請求項5において、前記膜モジュールに空気と共に水を導入し、該膜モジュールを水・空気洗浄する水・空気洗浄工程を有することを特徴とするものである。
【0016】
請求項7の濾過装置の運転方法は、請求項5又は6において、前記膜モジュールの一部を交換する交換工程を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
第2図の濾過装置における空気洗浄及び水・空気洗浄について鋭意検討した結果、原水用分岐管12a,12bの一方に供給された空気の一部が、該一方の原水用分岐管12a,12b内を逆流して他方の原水用分岐管12b,12aに回り込み、他方の膜モジュール1b,1aに流入するために、各膜モジュール1a,1bに洗浄用空気を均等に供給することができなくなることを本発明者は見出した。
【0018】
本発明の膜濾過装置及びその運転方法によると、各水用分岐管に逆流防止手段が設けられているため、各水用分岐管に流入した空気の総てが該水用分岐管に接続された膜モジュールに流入する。これにより、複数の膜モジュールに洗浄用空気を均等に供給することができる。
【0019】
この逆流防止手段が逆止弁である場合には、弁操作を行うことなく、空気の逆流を確実に防止することができる。
【0020】
この逆流防止手段が膜モジュールの空気洗浄時及び水・空気洗浄時に閉止される弁である場合、この弁を閉止することにより、空気の逆流が確実に防止される。
【0021】
これら水用集合管及び水用分岐管が原水供給用管である場合、一次側の膜面を良好に空気洗浄することができる。
【0022】
なお、本発明の濾過装置の運転方法において、膜モジュールの一部が破損したり膜面の閉塞の程度が酷くなったりした場合等には、該膜モジュールの一部を交換する交換工程を実行してもよい。この交換工程後において、新品の膜モジュールと未交換の膜モジュールとのモジュール間の閉塞の程度に差がある場合でもこれらの膜モジュールに洗浄用空気を均等に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係る濾過装置の系統図である。
【図2】従来例に係る濾過装置の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。第1図は本発明の実施の形態に係る濾過装置の系統図である。なお、本実施の形態では2個の中空糸膜モジュール1a,1bが並列設置されているが、3個以上設置されてもよい。
【0025】
<濾過装置の構成>
第1図の濾過装置は、第2図の濾過装置において、原水用分岐管12a,12bに逆止弁13a,13bを設けたものである。
【0026】
すなわち、原水(被処理水)は、原水用集合管10及びその下流側で分岐した原水用分岐管12a,12bを介して各中空糸膜モジュール1a,1b内の一次側に供給される。膜モジュール1a,1b内において中空糸膜を透過した二次側の透過水(処理水)は、透過水用分岐管21a,21bを介して透過水用集合管20に流入し、取り出される。膜モジュール1a,1b内において中空糸膜を透過せずに濃縮された一次側の濃縮水は、濃縮水用分岐管31a,31bを介して濃縮水用集合管30に流入し、取り出される。洗浄用空気は、コンプレッサ(図示略)等の空気圧源から空気用集合管40に供給され、空気用分岐管42a,42b及び原水用分岐管12a,12bを通って中空糸膜モジュール1a,1bに供給される。
【0027】
各原水用分岐管12a,12bには、それぞれ、該原水用分岐管12a,12bと該空気用分岐管42a,42bとの接続部よりも該原水用集合管10側の箇所に、該原水用集合管10側への流れを阻止する逆止弁13a,13bが設けられている。また、各集合管10,20,30,40にはそれぞれ弁11,22,32,41が設けられており、これらの弁11,22,32,41は弁制御装置(図示略)により制御される。なお、この原水用分岐管12a,12bの口径(D)と空気用分岐管42a,42bの口径(D)との口径比(D/D)は、1/15〜1/4特に1/10〜1/3程度が好ましい。
【0028】
<濾過運転>
このように構成された濾過装置を濾過運転するときには、弁11,22,32が開とされ、弁41が閉とされる。
【0029】
これにより、原水が管10,12a,12bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給され、透過水が管21a,21b,20を介して取り出され、濃縮水が管31a,31b,30を介して取り出される。
【0030】
なお、弁32を閉とし、濃縮水の抜き出しを停止して全量濾過方式としてもよいが、上記の通り濃縮水の抜き出しを行うクロスフロー方式とした方が、膜面への夾雑物の堆積による透過水量の低下を防止する点では好ましい。また、透過水用集合管20内の透過水の一部を原水用集合管10に返送してもよい。
【0031】
<空気洗浄>
中空糸膜モジュール1a,1bを空気洗浄するときには、弁11,22が閉とされ、弁32,41が開とされる。
【0032】
これにより、空気が管40,42a,42b及び管12a,12bを通って中空糸膜モジュール1a,1bに供給され、膜面が空気洗浄された後、管31a,31b,30を介して取り出される。
【0033】
ここで、この濾過装置は逆止弁13a,13bを有するため、複数の膜モジュール1a,1bを均等に空気洗浄することができる。この点について、第1図の濾過装置と第2図の従来例に係る濾過装置とを比較しながら以下に説明する。
【0034】
[第2図(従来例)]
この第2図の濾過装置においては、原水用分岐管12a,12bには弁が設けられていないため、空気用分岐管12a,12bから該原水用分岐管12a,12bに供給された空気は、各中空糸膜モジュール1a,1b側に流れることも、逆流して原水用分岐管10側に流れることも容易な構造となっている。従って、原水用分岐管12a,12bの一方に供給された空気の一部が、該一方の原水用分岐管12a,12b内を逆流して他方の原水用分岐管12b,12aに回り込み、他方の膜モジュール1b,1aに流入することがある(以下、この現象を「空気の回り込み」ということがある)。
【0035】
例えば中空糸膜モジュール1aの方が中空糸膜モジュール1bよりも中空糸膜間の閉塞の程度が大きくモジュール間差圧が大きい場合、原水用分岐管12a内に流入した空気の少なくとも一部が、該原水分岐管12a内を逆流し、さらに原水分岐管12a,12bの分岐点を通って原水分岐管12bに回り込み、中空糸膜モジュール1bに流入することがある。これにより、中空糸膜モジュール1aへの空気の供給量が少なくなって空気洗浄が不十分となり、複数の膜モジュール1a,1bを均等に空気洗浄することができなくなる。
【0036】
同様に、中空糸膜モジュール1bの方が中空糸膜モジュール1aよりも中空糸膜間の閉塞の程度が大きくモジュール間差圧が大きい場合には、中空糸膜モジュール1bへの空気の供給量が少なくなって空気洗浄が不十分となり、この場合にも複数の膜モジュール1a,1bを均等に空気洗浄することができなくなる。
【0037】
なお、ここで「モジュール間差圧」とは、上記濾過運転時における、以下の式(1)で示される膜間差圧ではなく、式(2)で示される各モジュール間のモジュール差圧の差のことをいう。モジュール差圧は0〜400kPaで運転されるが低ければ低い程良い。
【0038】
膜間差圧=(原水用集合管10内の圧力+濃縮水用集合管30内の圧力)/2
−透過水用集合管20内の圧力 (1)
モジュール差圧=原水用集合管10内の圧力−濃縮水用集合管30内の圧力 (2)
【0039】
[第1図(本実施の形態)]
これに対して本実施の形態に係る濾過装置(第1図)には逆止弁13a,13bが設けられているため、上記の空気の回り込みが防止され、複数の膜モジュール1a,1bをより均等に空気洗浄することができる。
【0040】
すなわち、原水用分岐管12aに流入した空気は、逆止弁13aによって逆流することが防止されるため、その総てが膜モジュール1a内に流入する。同様に、原水用分岐管12bに流入した空気は、逆止弁13bによって逆流することが防止されるため、その総てが膜モジュール1b内に流入する。これにより、中空糸膜モジュール1aへの空気の供給量が少なくなって空気洗浄が不十分となることが防止され、複数の膜モジュール1a,1bがより均等に空気洗浄される。
【0041】
なお、第1図の濾過装置においても、膜モジュール1a,1bの閉塞の程度に著しい相違がある場合には、空気用集合管40から空気用分岐管42a,42bに流入する空気量に不均等が生じる結果、複数の膜モジュール1a,1bに空気が不均等に供給されることがある。しかしながら、第2図の濾過装置のような空気の回り込みが無い分だけ、この不均等の程度は小さくなる。
【0042】
<水・空気洗浄>
中空糸膜モジュール1a,1bを水・空気洗浄するときには、弁11が閉とされ、弁22,32,41が開とされる。
【0043】
これにより、図示しない貯留タンク内に貯留された透過水が、管20,21a,21bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給されると共に、空気が管40,42a,42bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給され、気液混合物が管31a,31b,30を介して取り出される。この水と空気の2相流により、膜面に堆積した夾雑物が洗い流される。
【0044】
この水・空気洗浄の場合も上記空気洗浄の場合と同様に、逆止弁13a,13bが設けられているために上記の空気の回り込みが防止され、複数の膜モジュール1a,1bに均等に空気が供給される。
【0045】
<水洗>
濾過運転に復帰する際には、弁11,32が開とされ、弁22,41が閉とされる。
【0046】
これにより、中空糸膜モジュール1a,1b内に残った空気が流入水で押し出されると共に、膜面の水洗が行われる。次いで、弁22が開とされ、濾過運転に復帰する。
【0047】
本実施の形態では、上記濾過運転、空気洗浄、水・空気洗浄及び水洗をこの順に繰り返し実行する。
【0048】
本実施の形態によると、各原水用分岐管12a,12bに逆流防止手段としての逆止弁13a,13bが設けられているため、各原水用分岐管12a,12bに流入した空気の総てが該原水用分岐管12a,12bに接続された中空糸膜モジュール1a,1bに流入することになり、複数の膜モジュール1a,1bに洗浄用空気を均等に供給することができる。また、逆止弁13a,13bの弁操作を行うことなく、空気の逆流が確実に防止される。
【0049】
なお、上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では逆流防止手段として逆止弁13a,13bを用いたが、膜モジュールの空気洗浄時に閉止される弁としてもよい。この弁は手動弁であってもよいが、電気制御で開閉操作される電磁弁等の自動弁であることが好ましい。
【0050】
上記実施の形態では、空気用分岐管42a,42bを原水用分岐管12a,12bに接続したが、透過水用分岐管21a,21bに設けてもよい。この場合、中空糸膜を良好に空気逆洗することができる。また、空気用分岐管42a,42bを濃縮水用分岐管31a,31bに接続してもよい。この場合、空気は濃縮水用分岐管31a,31bから膜モジュール1a,1bに供給され、原水用分岐管12a,12bから抜き出される。
【0051】
なお、上記実施の形態では、濾過運転、空気洗浄、水・空気洗浄及び水洗の総てをこの順に繰り返し行っているが、その一部を省略してもよい。例えば、
濾過運転→空気洗浄→水・空気洗浄→水洗
濾過運転→水・空気洗浄→水洗
濾過運転→空気洗浄→水洗
の3パターンのいずれか1パターンを繰り返し実行してもよく、少なくとも2パターンを規則的に又は運転状況に合わせて適宜に組み合せて実行してもよい。
【0052】
上記実施の形態において、膜モジュール1a,1bの一方が破損したり閉塞の程度が酷くなったりした場合等には、該膜モジュール部を交換する交換工程を実行してもよい。かかる交換後にあっても、逆止弁13a,13bが設けられているために両膜モジュール1a,1bに空気が均等に供給され、両膜モジュール1a,1bが均等に空気洗浄ないし水・空気洗浄される。これにより、複数の膜モジュール1a,1bに洗浄用空気を均等に供給することが可能となる。
【0053】
本実施の形態では、膜モジュールとして中空糸膜モジュール1a,1bを用いているが、これに限定されるものではない。例えば、平板型や管型の濾過膜等でもよく、MF(精密濾過)膜やUF(限外濾過)膜等でもよく、カートリッジフィルターのようなものでもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0055】
[実施例1]
第1図の濾過装置を用いて以下の運転を行った。なお、原水としては、栗田工業(株)クリタ開発センター内の生物処理排水装置の沈殿槽上澄み水を用い、3ヶ月間にわたって運転を行った。中空糸膜モジュール1a,1bとして、旭化成社製PVDF中空糸膜(型式UNV−3003)のハウジングを透明の塩化ビニル製に改良したものを用いた。また、原水用分岐管12aの逆止弁13aよりも膜モジュール1a側の一部(第1図の矢印Bの箇所)と、原水用分岐管12bの逆止弁13bよりも膜モジュール1b側の一部(第1図の矢印Cの箇所)及び逆止弁13bよりも原水用集合管10側の一部(第1図の矢印Aの箇所)とを透明の塩化ビニル製とし、内部流体を視認し得るようにした。各配管の内径及び長さは以下の通りである。
原水用集合管10:内径50mm
原水用分岐管12a:内径40mm、長さ0.35m
原水用分岐管12b:内径40mm、長さ0.35m
透過水用集合管20:内径50mm
透過水用分岐管21a:内径40mm、長さ0.30m
透過水用分岐管21a:内径40mm、長さ0.30m
濃縮水用集合管30:内径40mm
濃縮水用分岐管31a:内径15mm、長さ1.28m
濃縮水用分岐管31a:内径15mm、長さ1.28m
空気用集合管40:内径15mm
空気用分岐管42a:内径6mm、長さ0.5m
空気用分岐管42a:内径6mm、長さ0.5m
【0056】
<濾過運転>
弁11,22,32を開、弁41を閉とし、濾過運転を行った。すなわち、原水を管10,12a,12bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給し、透過水を管21a,21b,20を介して取り出し、濃縮水を管31a,31b,30を介して取り出した。
【0057】
なお、2つの膜モジュール1a,1bに供給する原水の合計流量が1.40m/h、該膜モジュール1a,1bへ返送する透過水の合計流量が0.16m/h、継続時間が30分となるように上記濾過運転を行った。
【0058】
<水・空気洗浄>
次いで、弁11を閉、弁22,32,41を開とし、水・空気洗浄を行った。すなわち、図示しない貯留タンク内に貯留された透過水を、管20,21a,21bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給すると共に、空気を管40,42a,42bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給した。また、中空糸膜モジュール1a,1b内の気液混合物を,管31a,31b,30を介して取り出した。
【0059】
なお、2つの膜モジュール1a,1bに供給する逆洗水の合計流量が1.86m/h、該膜モジュール1a,1bに供給する空気の合計流量が3.0Nm/h、継続時間が10分となるように上記水・空気洗浄を行った。
【0060】
<水洗>
その後、弁11,32を開、弁22,41を閉とし、中空糸膜モジュール1a,1bの水洗及び空気の抜き出しを行った。すなわち、原水を管10,12a,12bを介して中空糸膜モジュール1a,1bに供給し、中空糸膜モジュール1a,1b内に残った空気を押し出すと共に膜面の水洗を行った。次いで、さらに弁22を開とし、上記濾過運転に復帰した。
【0061】
なお、2つの膜モジュール1a,1bに供給する原水の合計流量が1.50m/h、継続時間が30秒となるように上記水洗を行った。
【0062】
<測定>
上記の運転開始前に膜モジュール1a,1bに水道水を通水し、運転開始前の膜間差圧を上記の式(1)を用いて算出した。また、運転開始時のモジュール差圧を上記の式(2)を用いて算出した。その結果を表1に示す。なお、3ヶ月の間塩化ビニル製の管を観察したところ、原水用分岐管12a,12b間の空気の回り込みは観察されなかった。
【0063】
<考察>
この結果から、逆止弁13a,13bを設けたことにより、洗浄用空気が膜モジュール1a,1bに均等に流れた結果、水・空気洗浄が均等に行われ、2つの膜モジュール1a,1b間の汚れ具合に大きな差が生じなかったものと推察される。
【0064】
[比較例1]
逆止弁13a,13bを省略した以外は実施例1と同様の濾過装置(すなわち、第2図の濾過装置)を用い、実施例1と同様の運転及び測定を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
運転開始から1ヶ月経過後に透明の塩化ビニル製の管を観察したところ、原水用分岐管12bから原水用分岐管12aに回り込む空気の流れが見え始めた。更に1ヶ月経過後(運転開始から2ヶ月経過後)には、当該空気の回り込みが顕著となった。更に1ヶ月経過後(運転開始から3ヶ月経過後)には、膜モジュール1bには空気が全く流入せず、総ての空気が原水用分岐管12b及び原水用分岐管12aを回り込んで膜モジュール1aに流入することが確認された。また、運転から3ヶ月経過後において、2つの膜モジュー1a,1b間に、膜間差圧及びモジュール間差圧に大きな差が現れた。
【0066】
この結果から、逆止弁13a,13bを設けない従来の方法では、たとえ新品の中空糸膜モジュール1a,1bを用いたとしても、これらの初期のモジュール間差圧に僅かな違いがあると、運転経過により膜の汚れが進行するに伴い、モジュール間差圧の差が大きくなることが確認された。これは、これらの膜モジュール1a,1bの初期のモジュール間差圧に僅かな違いがあると、水・空気洗浄時における両モジュール1a,1bへの供給量に大きな不均等が生じるために洗浄効果に差が生じるためであると推察される。
【0067】
[実施例2]
実施例1の運転終了後、膜モジュール1bだけを新品に交換した。この新品の膜モジュール1bの運転開始前の膜間差圧及び運転開始時のモジュール差圧は表1に示す通りである。この状態で上記運転を更に1ヶ月間継続した後、上記測定を行った。その結果を表1に示す。この1ヶ月間の運転の間、上記空気の回り込みは確認されなかった。
【0068】
この結果から明らかな通り、一部の膜モジュール1bを新品に交換した後に運転を継続しても、未交換の膜モジュール1aのモジュール間差圧ないし膜間差圧が急上昇することが防止された。このことから、逆止弁13a,13bを設けることにより、水・空気洗浄時に洗浄用空気が膜モジュール1a,1bに均等に流れて水・空気洗浄が良好に行われたものと推察される。
【0069】
[比較例2]
比較例1の運転終了後、膜モジュール1bだけを新品に交換した。この新品の膜モジュール1bの運転開始前の膜間差圧及び運転開始時のモジュール差圧は表1に示す通りである。この状態で上記運転を更に1ヶ月間継続した後、上記測定を行った。その結果を表1に示す。運転再開時において、水・空気洗浄時に上記空気の回り込みが確認され、膜モジュールaへの空気の流れは膜モジュールbへの空気の流れと比べて明らかに減少していた。2週間後には、膜モジュールaへの空気の流れは確認されず、原水用分岐管12aから原水用分岐管12bへの空気の流れが確認された。
【0070】
この結果から明らかな通り、一部の膜モジュール1bを新品に交換した後に運転を継続すると、未交換の膜モジュール1aのモジュール間差圧ないし膜間差圧が急上昇した。このことから、逆止弁13a,13bを設けないと、水・空気洗浄時に洗浄用空気が未交換の膜モジュール1aに十分に流れなくなり、該膜モジュール1aの水・空気洗浄を十分に行うことができなかったものと推察される。
【0071】
【表1】

【符号の説明】
【0072】
1a,1b 中空糸膜モジュール
10 原水用集合管
12a,12b 原水用分岐管
13a,13b 逆止弁
40 空気用集合管
42a,42b 空気用分岐管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の膜モジュールを備えた濾過装置であって、
水用集合管と、
該水用集合管から分岐して各膜モジュールにそれぞれ接続された水用分岐管と、
各水用分岐管に接続された空気用分岐管と、
各空気用分岐管と共通の空気圧源とを接続している空気用集合管と
を有する濾過装置において、
各水用分岐管には、それぞれ、該水用分岐管と該空気用分岐管との接続部よりも該水用集合管側の箇所に、空気洗浄用分岐管を介して供給された空気の該水用集合管側への流れを阻止する逆流防止手段が設けられていることを特徴とする濾過装置。
【請求項2】
請求項1において、該逆流防止手段が逆止弁であることを特徴とする濾過装置。
【請求項3】
請求項2において、該逆流防止手段が前記膜モジュールの空気洗浄時に閉止される弁であることを特徴とする濾過装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記水用集合管及び水用分岐管を介して前記膜モジュールに原水が供給されるよう構成されていることを特徴とする濾過装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の濾過装置を運転する方法であって、
該膜モジュールに原水を通水して透過水を得る濾過工程と、
該空気洗浄用集合管、該空気洗浄用分岐管及び該水用分岐管を介して該膜モジュールに空気を導入し、該膜モジュールを空気洗浄する空気洗浄工程と
を有することを特徴とする濾過装置の運転方法。
【請求項6】
請求項5において、前記膜モジュールに空気と共に水を導入し、該膜モジュールを水・空気洗浄する水・空気洗浄工程を有することを特徴とする濾過装置の運転方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記膜モジュールの一部を交換する交換工程を有することを特徴とする濾過装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−212586(P2011−212586A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83131(P2010−83131)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】