説明

濾過装置

【課題】 散気管からの気泡によるバブリング作用を中空糸膜の全体に効果的に作用させることによって膜面や膜間に付着した懸濁成分を効率よく剥離除去することができ、しかも、コンパクトで中空糸膜を高密度に設置できる濾過装置を提供する。
【解決手段】懸濁成分を含む被処理液12を浸漬型吸引濾過用又は外圧濾過用の膜モジュール14に透過させて固液分離を行う濾過装置11において、前記膜モジュール14を、軸線を鉛直方向に向けた多数本の中空糸膜15の上下両端をそれぞれ相互に密接させた膜集束体16で形成するとともに、該膜集束体16下端の中空糸膜密接部の直上に、前記多数本の中空糸膜15の間を縫うようにして軸線方向の長さが異なる複数の散気管21を交互に挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過装置に関し、詳しくは、懸濁成分を含む被処理液を膜モジュールに透過させて固液分離を行う濾過装置であって、特に、散気管からの気泡によりエアーバブリングを行う散気装置を備えた濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数本の中空糸膜を集束して配置し、その片端部又は両端部を開口状態で固定部材に固定して集水部とした膜モジュールが、浸漬型吸引濾過装置あるいは外圧式濾過装置に装着されて使用されている。従来、膜モジュールは、河川水、湖沼水の浄化といった、いわゆる精密濾過の分野において広く使用されてきた。また、近年、この浄水分野に限らず、下水の二次処理、三次処理や、排水、産業廃水、工業用水等の濾過といった高汚濁性水処理用途への検討も多くなされている。
【0003】
浄水及び高汚濁性水処理のいずれの場合も、膜モジュールを用いた濾過装置により濾過処理を継続すると、膜表面又は膜間に、被処理液中に含まれる懸濁成分が堆積し、これが膜閉塞の原因となる。すなわち、堆積物を介して中空糸膜同士が固着一体化して膜モジュール内の中空糸膜の有効膜面積が減少し、透過流量の低下を招く。
【0004】
このため、定期的に膜面の堆積物を取り除く洗浄操作が行われる。この洗浄操作として、浸漬槽内に被処理液を満たした状態で膜モジュールの下部から空気を導入し、供給される気泡によって中空糸膜に振動を与えるエアーバブリングで膜面の堆積物を剥離する方法が行われている。
【0005】
このエアーバブリングの方法としては、シート状の平型中空糸膜モジュールを、シート面が垂直方向、中空糸膜が水平方向になるように配置し、中空糸膜モジュールの下方に、散気孔を備えた散気板を設け、中空糸膜のみをエアーバブリングによって振動させるようにしたもの(例えば、特許文献1参照。)、中空糸膜の片端部又は両端部を開口させた状態で固定部材により固定して集水機能を持たせるとともに、片端部(下端部)に散気孔を設けてエアーバブリングを行うようにしたもの(例えば、特許文献2参照。)、多数の中空糸を外筒内に配列した中空糸の束中に挿入した多孔質パイプの下方から空気を導入し、気泡を多孔質パイプに沿って上昇させながら中空糸を振動させ、エアーバブリングを行うようにしたもの(例えば、特許文献3参照。)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3014248号公報
【特許文献2】特開平8−215548号公報
【特許文献3】特公平7−61420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のものは、散気板の散気孔から中空糸膜の全域にわたって散気を行うものであるため、散気を十分に行うためには、隣接するシート状の平型中空糸膜モジュールをある程度離間させて配置する必要があり、膜を高密度で設置することは難しかった。したがって、膜設置部の容積が大きくなり、濾過装置が大型化していた。さらに、膜モジュールの下方から全体的に散気を行うだけでは、中空糸膜の表面のみが散気され、膜間、特に膜の閉塞が進みがちな集水部近辺への散気が不十分となる問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載のものは、膜モジュールの片端部に散気構造を持たせ、散気孔より散気させているため、中空糸膜の外面側にのみ散気され、内面側には散気が及ばず、洗浄効率の面から十分とはいえなかった。また、多数の中空糸膜を円形状に集束配列した膜モジュールには適用できないという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献3に記載のものは、多数の中空糸濾過膜を円形状に配列した中空糸の束中に複数本の多孔質パイプを混入させているだけであるから、膜間への散気が不十分となる問題があった。
【0010】
いずれの場合でも、膜モジュールを構成する中空糸膜の本数が多くなると洗浄効率が悪化するため、膜モジュールを構成する中空糸膜の本数に制限があり、したがって、濾過効率の向上にも限界があった。
【0011】
そこで本発明は、散気管からの気泡によるバブリング作用を中空糸膜の全体に効果的に作用させることによって膜面や膜間に付着した懸濁成分を効率よく剥離除去することができ、しかも、コンパクトで中空糸膜を高密度に設置できる濾過装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、懸濁成分を含む被処理液を浸漬型吸引濾過用又は外圧濾過用の膜モジュールに透過させて固液分離を行う濾過装置において、第1の発明は、前記膜モジュールを、浸漬槽内に軸線を鉛直方向に向けて浸漬配置される多数本の中空糸膜の上下両端をそれぞれ相互に密接させた膜集束体で形成するとともに、該膜収束体の上端部及び下端部を、前記中空糸膜の端部を開口状態で保持する固定部材及び集水部材を介してそれぞれ処理液取出管に連通し、前記膜収束体下端の中空糸膜密接部の直上の中空糸膜を押し広げて変形させて、前記中空糸膜の軸線と交差する方向から、多数本の中空糸膜の間を縫うように、軸線方向の長さが異なる複数の散気管を交互に、平面視互いに平行にして前記膜収束体の一側から挿入したことを特徴としている。また、前記膜収束体を、水平断面矩形状にすることができる。
【0013】
さらに、第2の発明は、前記膜モジュールを、浸漬槽内に軸線を鉛直方向に向けて浸漬配置される多数本の中空糸膜の上下両端をそれぞれ相互に密接させた平面断面が矩形状の膜集束体で形成し、該膜収束体の上端部及び下端部を、前記中空糸膜の端部を開口状態で保持する固定部材及び集水部材を介してそれぞれ処理液取出管に連通し、複数の前記膜収束体を、空気導入管を介して空気圧縮機に接続されたヘッダーの両側に沿ってそれぞれ配列するとともに、該ヘッダーを前記膜収束体下端の中空糸膜密接部の直上レベルと同位置に配置し、前記各膜収束体下端の中空糸膜密接部の直上の中空糸膜を押し広げて変形させて、前記中空糸膜の軸線と交差する方向から、多数本の中空糸膜の間を縫うように、前記ヘッダーに接続する軸線方向の長さが異なる複数の散気管を交互に、平面視互いに平行にして前記各膜収束体の一側から挿入したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の濾過装置によれば、散気管から噴出した気泡が上昇する際の振動を膜集束体の全体に伝達することができ、膜表面や膜間に堆積した懸濁成分を効率よく剥離して除去することができる。また、散気管は、中空糸膜間を縫って挿入することができる小径の管体で形成することから、一つの膜集束体内に複数の散気管を挿入しても設置スペースを取らず、中空糸膜を高密度に配置することができ、濾過性能を向上させて濾過装置のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の濾過装置を浸漬型吸引濾過装置に適用した一形態例を示す概略正面図である。
【図2】同じく濾過装置の概略平面図である。
【図3】同じく膜集束体と散気管と関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1乃至図3は、本発明の濾過装置を浸漬型吸引濾過装置に適用した一形態例を示すもので、図1は濾過装置の概略正面図、図2は同じく概略平面図、図3は膜集束体と散気管と関係を示す平面図である。
【0017】
本形態例に示す濾過装置11は、被処理液12が導入されて満たされた浸漬槽13内に膜モジュール14を浸漬配置したものであって、膜モジュール14は、軸線を鉛直方向に向けた多数本の中空糸膜15の上下両端をそれぞれ相互に密接させた膜集束体16を、5本ずつ2列に並べて10本を組み合わせて形成されている。
【0018】
各膜収束体16は、図3に示すように、水平断面が矩形状となるように多数本の中空糸膜15を収束したものであって、膜収束体16の上端部及び下端部は、中空糸膜15の端部を開口状態で保持する固定部材及び集水部材17を介してそれぞれ処理液取出管18に連通しており、処理液取出管18内をポンプ19で吸引して中空糸膜15の内部側を減圧状態にすることにより、中空糸膜15による濾過操作が行われる。
【0019】
さらに、膜収束体16の下部側(膜収束体16の下端の中空糸膜密接部の直上)には、前記多数本の中空糸膜15の間を縫うようにして散気管21が挿入されている。この散気管21は、空気圧縮機22を備えた空気導入管23に、ヘッダー24を介して接続しており、空気圧縮機22で圧縮した空気を、先端部に設けた散気孔25から噴出するように形成されている。
【0020】
散気管21は、ステンレス鋼等の金属材料、あるいは、ポリ塩化ビニル、その他の硬質プラスチック材料で形成することができる。散気管21の形状は、膜収束体16の中空糸膜15を押し広げて変形させ、中空糸膜15の間を縫うようにして挿入するため、かつ、中空糸膜15を傷付けないように、先端を丸く面取りした小径の管体によって形成し、さらに先端部又は全体を保護チューブで被覆しておくことが好ましい。一つの膜収束体16における散気管21の本数や間隔、散気孔25の位置は、膜収束体16の水平断面形状や断面積等の条件に応じて適宜設定することができる。さらに、隣接する膜収束体16の間に散気管21を設けてもよい。
【0021】
散気管21に設ける散気孔25は、任意の位置に設けることができ、管先端を閉塞して側面に散気孔25を穿孔してもよいが、管先端をそのまま開口させて軸線方向に空気を噴出させることにより、散気管21を容易に製造することができる。また、散気孔25の数は、先端部に1箇所で十分であるが、必要に応じて複数箇所に設けてもよい、さらに、散気管21は、通常は直管で形成するが、多少の屈曲があってもよい。
【0022】
前記中空糸膜15の材質は特に限定されるものではないが、ポリスルフォン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の各種の材料からなるものが使用できる。また、これらの樹脂の共重合体や一部に置換基を導入したものであってもよく、更には二種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。
【0023】
また、中空糸膜15の端部を開口状態で保持する固定部材は、通常、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の液状樹脂を硬化させて使用される。さらに、集水部材17は、機械的強度及び耐久性を有する材質のものであればよく、例えば、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ABS樹脂、変性PPE樹脂等によるものを用いることができる。
【0024】
このように形成した濾過装置は、ポンプ19を作動させることにより、浸漬槽13内に流入した被処理液12を中空糸膜15で固液分離する濾過操作が行われ、被処理液12中の懸濁成分が中空糸膜15の表面で捕捉されるとともに、懸濁成分を分離除去した処理液が中空糸膜15の内部を通り、処理液取出管18に吸引されて回収される。
【0025】
このような濾過操作の継続により、中空糸膜15の表面や膜間に懸濁成分が次第に堆積し、中空糸膜15における透過流量が低下し、ポンプ19の吸引圧力が低下してくるので、定期的に、あるいは、ポンプ19の吸引圧力に応じて、中空糸膜15の表面や膜間に堆積した懸濁成分を剥離させて除去するバブリング洗浄操作を行う。
【0026】
バブリング洗浄操作は、空気圧縮機22を作動させて空気導入管23及びヘッダー24を介して散気管21に圧縮空気を供給し、散気管21に設けた散気孔25から膜収束体16の下部に気泡を噴出させることにより行われる。このとき、膜収束体16の下部側の中空糸膜15の間を縫うようにして散気管21を挿入し、散気孔25を膜収束体16の内部に配置しているので、散気孔25から噴出した気泡は、膜収束体16の内部を上昇することになる。
【0027】
さらに、上昇する気泡は、密集状態となっている中空糸膜15の間を上昇するので、大きな気泡となりにくく、細かな気泡が膜間を複雑に移動しながら上昇するため、気泡が膜間を上昇するときに発生する細かな振動が、膜収束体16の内部から気泡によって直接的に、また、中空糸膜15の間に存在する間隙水の移動によって間接的に、膜収束体16を構成する中空糸膜15の全体に伝達され、中空糸膜15を効果的に振動させて膜表面や膜間に堆積した懸濁物質を効率よく剥離除去することができる。したがって、バブリング洗浄操作における洗浄効率を大幅に向上させることができる。なお、膜収束体16内への空気の噴出は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0028】
さらに、従来の特許文献3に記載されたもののように、比較的大径の多孔質パイプを膜収束体内に挿入したものに比べて、細い散気管21を使用することができるので、膜収束体16における単位断面積当たりの中空糸膜15の設置本数を多くでき、濾過装置全体としての容積当たりの膜面積が大きくなり、濾過性能を向上させて濾過装置の小型化を図ることができる。また、洗浄効率の向上により、少ない空気量で効果的なバブリング洗浄操作を行えるので、膜設置面積当たりの洗浄空気量を従来より低減することができる。
【0029】
なお、上記形態例においては、本発明を浸漬型吸引濾過装置に適用した例について説明したが、外圧濾過装置に適用しても同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0030】
11…濾過装置、12…被処理液、13…浸漬槽、14…膜モジュール、15…中空糸膜、16…膜集束体、17…集水部材、18…処理液取出管、19…ポンプ、21…散気管、22…空気圧縮機、23…空気導入管、24…ヘッダー、25…散気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁成分を含む被処理液を浸漬型吸引濾過用又は外圧濾過用の膜モジュールに透過させて固液分離を行う濾過装置において、前記膜モジュールを、浸漬槽内に軸線を鉛直方向に向けて浸漬配置される多数本の中空糸膜の上下両端をそれぞれ相互に密接させた膜集束体で形成するとともに、該膜収束体の上端部及び下端部を、前記中空糸膜の端部を開口状態で保持する固定部材及び集水部材を介してそれぞれ処理液取出管に連通し、前記膜収束体下端の中空糸膜密接部の直上の中空糸膜を押し広げて変形させて、前記中空糸膜の軸線と交差する方向から、多数本の中空糸膜の間を縫うように、軸線方向の長さが異なる複数の散気管を交互に、平面視互いに平行にして前記膜収束体の一側から挿入したことを特徴とする濾過装置。
【請求項2】
前記膜収束体は、水平断面が矩形状であることを特徴とする請求項1記載の濾過装置。
【請求項3】
懸濁成分を含む被処理液を浸漬型吸引濾過用又は外圧濾過用の膜モジュールに透過させて固液分離を行う濾過装置において、前記膜モジュールを、浸漬槽内に軸線を鉛直方向に向けて浸漬配置される多数本の中空糸膜の上下両端をそれぞれ相互に密接させた平面断面が矩形状の膜集束体で形成し、該膜収束体の上端部及び下端部を、前記中空糸膜の端部を開口状態で保持する固定部材及び集水部材を介してそれぞれ処理液取出管に連通し、複数の前記膜収束体を、空気導入管を介して空気圧縮機に接続されたヘッダーの両側に沿ってそれぞれ配列するとともに、該ヘッダーを前記膜収束体下端の中空糸膜密接部の直上レベルと同位置に配置し、前記各膜収束体下端の中空糸膜密接部の直上の中空糸膜を押し広げて変形させて、前記中空糸膜の軸線と交差する方向から、多数本の中空糸膜の間を縫うように、前記ヘッダーに接続する軸線方向の長さが異なる複数の散気管を交互に、平面視互いに平行にして前記各膜収束体の一側から挿入したことを特徴とする濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−115794(P2011−115794A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41278(P2011−41278)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【分割の表示】特願2005−129719(P2005−129719)の分割
【原出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】