説明

火山灰を原料とする多孔質セラミック及びその製造方法

【課題】 水質浄化要素として有用なまた、微生物担持能をもつ、表面に開口をもち連続細孔(トンネル構造)を有する多孔質セラミックをまた、火山灰および廃ガラスを原料として多孔質セラミックを製造する方法を提供すること。
【解決手段】重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の微粉末を加熱、部分的に溶融して得られた、表面に開口をもつ10nm〜数10μmの孔径の連続細孔(トンネル構造)を有する多孔質セラミックまた、重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料を粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、混合、均質化した後、坩堝等の容器に収納して容器に蓋をし、然る後空気中750℃〜1100℃で30分間〜90分間加熱して容器中の原料を部分的に溶融した後加熱を止め、放冷する多孔質セラミックの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火山灰および廃ガラスを原料とする、連続細孔(トンネル構造)を有する多孔質セラミック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国は火山国であり、随所に火山がある。火山はその噴火により多量の火山灰を降下させる。火山灰は主として火山ガラス、鉱物結晶、古い岩石の破片などからなり、粒径2mm以下のものをいう。火山灰の降下は、都市から地方まで広い範囲に亘っており、農家や一般家庭にも大きな被害をもたらし、道路等を含めその除去には大きなコストを伴う。この火山灰を水質浄化要素(濾過材)等有用な材料の資源とすることができれば、火山灰を負の存在から正の存在とすることができる。
【0003】
火山灰を原料として多孔質の窯業製品を得る技術が既知である(特許文献1、第8頁、段落0036、実施例5参照)。この先行技術は、火山灰を20メッシュ以下、55メッシュ以上即ち、840μm〜250μmで分級して粗粒子とし、55メッシュ以下のものは水を加えてさらに細かくした後、標準篩115メッシュ以下即ち125μm以下で分級して微粒子とし、重量で、粗粒子:微粒子=100:0、80:20、60:40、40:60、20:80、0:100の配合比率で計量して水を加えて造粒、タイル状に成形後、1120℃で焼成し、多孔質構造の窯業製品を得るものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多孔質セラミックを水の浄化要素(濾過材)として用いる場合、表面に開口をもつ連続細孔(トンネル構造)を有するものである必要がある。わけても、微生物による水質浄化を行おうとする場合、微生物担持のためには、表面に開口をもつ連続細孔(トンネル構造)を有するものである必要がある。
【0005】
然るに、特許文献1に開示の技術にあっては、同文献における図6に示されるように、粗粒子2間に介在する微粒子の溶融凝固物3に空隙4が生じて多孔質構造となったものであり、空隙4は個々独立に存在し、連続細孔(トンネル構造)ではない。
【0006】
本発明は、水質浄化要素として有用なまた、微生物担持能をもつ、表面に開口をもつ連続細孔(トンネル構造)を有する多孔質セラミックをまた、火山灰および廃ガラスを原料として、さらに木炭、竹炭といった炭素質原料を気泡生成要素として加えて出発原料として多孔質セラミックを得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の微粉末を加熱し、部分的に溶融して得られた、表面に開口をもつ10nm〜数10μmの孔径の連続細孔(トンネル構造)を有する火山灰を原料とする多孔質セラミックである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料に該原料の5%〜10%の炭素質材を加えて加熱して部分的に溶融して得られた表面に開口をもつ10nm〜数10μmの孔径の連続細孔(トンネル構造)を有する火山灰を原料とする多孔質セラミックである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、 重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料を粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、混合、均質化した後、坩堝等の容器に収納して容器に蓋をし、然る後空気中750℃〜1100℃で30分間〜90分間加熱して容器中の原料を部分的に溶融した後加熱を止め放冷する、火山灰を原料とする多孔質セラミックの製造方法である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、 重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料に該原料の5%〜10%の炭素質材を加えて原料および炭素質材の粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、混合、均質化した後、坩堝等の容器に収納して容器に蓋をし、然る後空気中750℃〜1100℃で30分間〜90分間加熱して容器中の原料を部分的に溶融した後加熱を止め放冷する、火山灰を原料とする多孔質セラミックの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の、火山灰と廃ガラスを原料として得られる多孔質セラミックは、比較的安価で優れた浄化材として知られる鹿沼土とBOD値において同等、或はCOD値においてより優れた水質浄化率を示す。これは、活性汚泥中の微生物にとって、鹿沼土よりも本発明の多孔質セラミックの、表面に開口をもつ無数の連続細孔(トンネル構造)の方が生息しやすい環境であったものと考えられる。
【0012】
請求項2および請求項4に記載の発明によるときは、さらに水質浄化能を高め得る。これは、木炭、竹炭といった炭素質原料の添加によってその酸化に伴うガスの生成により多数の細孔を生成し、次いで細孔の連結によって連続細孔(トンネル構造)の数が多くなった(接触界面の面積が拡大した)ためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係る多孔質セラミックによる水の浄化率(COD)の経時変化を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1に係る多孔質セラミックによる水の浄化率(BOD)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明においては、火山灰と廃ガラス合計重量に対し14%〜43%(重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3)となる廃ガラスを配合することによって、火山灰の70重量%を占める火山ガラス(耐熱性を有するアルミノ珪酸塩ガラス)の溶融温度を1200℃から750℃〜1100℃の温度域に降下させ得る。これによって、配合原料の加熱・焼結が容易となり低コスト化に資する。発明者の実験を伴う研究結果では、重量で、火山灰:廃ガラス=5:2(71.4%:28.6%)で最も良好な結果が得られた。
【0015】
火山灰と廃ガラス合計重量に対し14%〜43%となる廃ガラスを配合することによって火山ガラスの溶融温度を大きく降下せしめ得るとともに、火山灰中に微量含まれている硫黄や塩素が半溶融状態のガラス相中に二酸化硫黄や塩素ガスの形で放出され、無数の微細な孔を形成する。これをさらに加熱することによって、微細な孔が互いに連結して連続細孔(トンネル構造)を形成する。而して、広範囲に直径が10nm〜数10μmの均一な連続細孔(トンネル構造)をもつセラミックを得ることができる。
【0016】
本発明の、火山灰を原料とする多孔質セラミックを製造する際の原料配合比率は、重量で、火山灰:廃ガラス=6:1(85.7%:14.3%)〜4:3(57.1%:42.9%)である。火山灰の配合比率が6:1を超えて即ち、85.7%を超えて多くなると、半溶融状態のガラス相の割合が小さくなり多孔質セラミックとすることが困難となる。一方、廃ガラスの配合比率が4:3即ち42.9%を超えて多くなると、得られるセラミックは表面がガラス質の濡れた構造となり、微細な孔が互いに連結することにより生成する連続細孔(トンネル構造)が消失する。
【0017】
好ましくは、上記配合比率(火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3)の原料に対し、その5%〜10%の炭などの炭素質材を添加する。炭素質材の添加によって、その酸化による二酸化炭素ガスによって気泡(細孔)を生成し、続く加熱により細孔相互が連結し、表面に開口をもつ連続細孔(トンネル構造)を形成する。炭素質材としてペットボトル等のプラスチックを用いることもできる。
【0018】
配合原料の加熱・溶融過程における到達温度は、750℃〜1100℃、好ましくは800℃〜1000℃である。加熱・溶融温度が750℃に満たないと、上記配合原料比率領域において、ガラスの部分的な溶融が困難であり表面に開口をもつ連続細孔(トンネル構造)を有するセラミックを得ることができない。一方、1100℃を超えると、ガラスの大部分が溶融し、加熱途中で生成した細孔(直径10nm〜数10μm)が潰れてしまい、最終的に細孔は消滅してしまう。上記配合原料比率領域においては、900℃前後で最も良好な結果が得られる。
【0019】
配合原料の加熱・溶融時間は、30分間〜90分間である。30分間に満たないと、細孔の生成およびそれに次ぐ細孔相互の連結による連続細孔(トンネル構造)が十分に形成されない。一方、たとえば1100℃で90分間を超えて配合原料を加熱・溶融すると、加熱途中でガラス相中に生成した細孔(直径10nm〜数10μm)が潰れてしまい、最終的に細孔は消滅してしまう。
【0020】
上記配合比率の原料をたとえばボールミルによって、粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、混合、均質化した後、坩堝或はステンレス鋼製の容器に収納して容器に蓋をし、750℃〜1100℃の温度域に昇温されている電気炉等の炉中に容器を装入して750℃〜1100℃、好ましくは800℃〜1000℃の温度域で30分間〜90分間原料を加熱、焼結する。
【0021】
配合原料の加熱・焼結は、電気炉等の炉中空気雰囲気下に遂行される。炉内空気によって配合原料中の硫黄、塩素や炭素質材が酸化されてガスを生じ、配合原料中ガラス相のガラス相が半溶融状態で細孔を生成する。続く加熱によって細孔相互が連結し、連続細孔(トンネル構造)を形成する。このとき、磁性坩堝やステンレス鋼製の容器には蓋が被せられ、外部から容器中への空気を程よく遮断して配合原料中の硫黄や炭素の過度の酸化を防止する。
【実施例1】
【0022】
この実施例に用いた火山灰(桜島火山)の化学組成を表1に示す。また、表1の火山灰における火山ガラスの化学組成を表2に、廃ガラス(市販の清涼飲料水用瓶)の化学組成を表3に示す。この火山灰および廃ガラスを、それぞれボールミルによって粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、火山灰の微粉と廃ガラスの微粉を、重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の範囲内で種々変えて混合、均質化し、磁性坩堝に装入した。なお、バインダとなる成分、たとえばゴム、高分子化合物等は一切用いなかった。
【0023】
表1

【0024】
表2

【0025】
表3

【0026】
配合原料の加熱・溶融に際しては750℃〜1100℃の電気炉中に磁性坩堝を装入し、この電気炉中で配合原料を60分間加熱、焼結した。配合原料の加熱、焼結後、電気炉から磁性坩堝を取り出し、磁性坩堝に蓋をした状態で大気中自然放冷した。60分間経過後、磁性坩堝中のセラミック温度は室温前後まで降下し、連続細孔(トンネル構造)を有する多孔質セラミックを得ることができた。
【0027】
表4に、火山灰と廃ガラスの種々の配合比率の原料を900℃で60分間加熱、焼結して得られた多孔質セラミックの吸水率(質量%:多孔質セラミックの単位質量に対する吸水質量の割合)を示す。
【0028】
表4

【0029】
表4から明らかなように、吸水率に関しては火山灰の配合比率が57.1%(火山灰:廃ガラス=4:3)以上と高い方がよく、配合原料比率が、重量で、火山灰:廃ガラス=6:1(85.7%:14.3%)のものが最も吸水率が高い。一方、廃ガラスの比率が57.1%(火山灰:廃ガラス=3:4)以上と高くなると、ガラス成分が溶けてナノメートルサイズの連続細孔が塞がり、細孔同士が結合して大きな独立孔となるため吸水率が低くなると考えられる。これとは逆に、廃ガラスの配合比率が42.9%(火山灰:廃ガラス=4:3)以下と低くなると、独立孔が小さくなり密度が高くなるとともに、廃ガラスの比率が57.1%(火山灰:廃ガラス=3:4)のものに比し、吸水率が6.25倍と格段に高くなる。さらに廃ガラスの配合比率を28.6%(火山灰:廃ガラス=5:2)以下と低くすると、連続した微細孔(トンネル構造)が生成されるので密度が少しだけ減少するとともに吸水率が上昇する。
【0030】
実施例1で得られた、火山灰:廃ガラス=5:2(重量比)の原料配合比率のものを加熱、溶融温度:900℃で加熱、60分間加熱、焼結したときに得られた多孔質セラミックについて、水質浄化試験を次のようにして行った。
1)上記多孔質セラミック750gを水槽中に入れた。
2)模擬汚水とすべく、超純水15リットルを入れた水槽中に牛乳100ミリリットル、活性汚泥15ミリリットルを加えた。
3)水を循環させ、15日間試験を行った。
4)定期的に、COD値とBOD値を測定した。
【0031】
試験の結果を表5に示す。COD値およびBOD値の経時的変化の模様を、図1および図2に示す。表5および図1、図2から明らかなように、最終的な浄化率はCOD値で95.4%(鹿沼土:91.6%)、BOD値で97.8%(鹿沼土:99.3%)であった。
【0032】
表5

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の多孔質セラミックは吸水性、透水性に優れており、水質浄化要素のほか、透水性ブロック、耐火、断熱壁材などにも活用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開平06−339672号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の微粉末を加熱、部分的に溶融して得られた、表面に開口をもつ10nm〜数10μmの孔径の連続細孔(トンネル構造)を有する火山灰を原料とする多孔質セラミック。
【請求項2】
重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料に該原料の5%〜10%の炭素質材を加えて加熱して部分的に溶融して得られた表面に開口をもつ10nm〜数10μmの孔径の連続細孔(トンネル構造)を有する火山灰を原料とする多孔質セラミック。
【請求項3】
重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料を粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、混合、均質化した後、坩堝等の容器に収納して容器に蓋をし、然る後空気中750℃〜1100℃で30分間〜90分間加熱して容器中の原料を部分的に溶融した後加熱を止め、放冷することを特徴とする火山灰を原料とする多孔質セラミックの製造方法。
【請求項4】
重量で、火山灰:廃ガラス=6:1〜4:3の配合比率の原料に該原料の5%〜10%の炭素質材を加えて原料および炭素質材の粒径が数μm以下となるまで微粉砕し、混合、均質化した後、坩堝等の容器に収納して容器に蓋をし、然る後空気中750℃〜1100℃で30分間〜90分間加熱して容器中の原料を部分的に溶融した後加熱を止め、放冷することを特徴とする火山灰を原料とする多孔質セラミックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−112533(P2013−112533A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257211(P2011−257211)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(802000031)公益財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】