火炎センサ
【課題】NOxを生成しない燃焼において、高い精度で火炎を検出することが可能な火炎センサを提供する。
【解決手段】アノード電極とカソード電極からなる一対の電極を備えたUVチューブを用いた火炎センサにおいて、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であるので、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することができる。
【解決手段】アノード電極とカソード電極からなる一対の電極を備えたUVチューブを用いた火炎センサにおいて、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であるので、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、火炎中に含まれる紫外線を検出する火炎センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火炎センサの一種として、ユニット化した紫外線検出用放電管(UVチューブ)を用いて火炎中に含まれる紫外線を検出する火炎センサがある。このUVチューブは、紫外線を受けて放電を生起する一対の放電電極を円筒形のガラス管内に封止し、上記一対の放電電極それぞれのリード線をガラス管の一端部から導出したものである。
このような構造のUVチューブは、火がついていることを確実に検知するための安全確保の役割を担っており、例えばボイラ内の燃焼状態をモニタするための火炎センサとして用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、図1は、従来のUVチューブの構造を示す構成図である。ガラス管5の中に、網目状のアノード電極1と、カソード電極2とが、リード線3,4によってそれぞれ支持されており、ガラス管5には例えば水素とネオンを成分とする混合ガスが封入されている。このアノード電極1とカソード電極2とは、平行平面構造であり、両電極間は任意の距離を保って配置されている。そして、ガラス管5の端部(図1の上部)及び側面から入射した紫外線が、アノード電極1の網目を抜けてカソード電極2に当たることにより放電する(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
この際、紫外線がカソード電極2に当たることにより、放電が起こる紫外線の波長の範囲の上限、すなわちUVチューブの光感受領域の上限は、カソード電極2に用いられている金属の光電効果が起こる波長の上限を示す限界波長によって決定される。従来のUVチューブでは、カソード電極2として限界波長が271.98nmであるタングステンを用いており、従来のUVチューブの光感受領域の上限は271.98nmである。
【0005】
図2は、アセチレンを燃料、空気を酸化剤として燃焼させた場合の反応時の発光スペクトルを示しており、この燃焼の際、NOx,COといった燃焼生成物が生成されると共に図2に示すようなスペクトルの発光が観測される。
【0006】
図3は、図2の発光スペクトルのうちNOxの発生に伴う発光スペクトルを示しており、約200nm−275nmの波長の発光が観測されている。この図3に示す、NOx生成に伴う発光は、上述した従来のUVチューブの光感受領域内の波長であり、従来のUVチューブが検出していた紫外線には、NOx生成時の発光が含まれていたことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−12581号公報
【特許文献2】特公昭44−1039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、燃焼中にNOxが生成されることを削減するため、低NOxバーナや、高温燃焼に伴うThermal NOxの生成を防ぐ水蒸気噴霧、などによる低NOx化が進められつつある。低NOx化が進むと、燃焼中にNOxが生成されにくくなるため、図3に示すスペクトルの光が発光されにくくなり、従来のUVチューブが検出していた紫外線の量が大幅に減ることになり、従来のUVチューブを用いた火炎センサは火炎検出の精度が低下するという課題がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、NOxを生成しない燃焼において、高い精度で火炎を検出することが可能な火炎センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明に係る火炎センサは、アノード電極とカソード電極からなる一対の電極を備えたUVチューブを用いた火炎センサにおいて、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であることを特徴とする。
【0011】
また、この発明に係る火炎センサは、カソード電極の表面の組成が、水素及び窒素が吸着しない金属であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明に係る火炎センサは、カソード電極の表面の組成が、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウムのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明における火炎センサによれば、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であるとしたので、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の紫外線検出用放電管(UVチューブ)の構造を示す模式図である。
【図2】アセチレンを燃料、空気を酸化剤として燃焼させた場合の反応時の発光スペクトルを示す図である。
【図3】図2の発光スペクトルのうちNOxの生成に伴う発光スペクトルを示す図である。
【図4】51種類の金属元素の限界波長を示した表である。
【図5】代表的な金属について、代表的なガスに対する吸着性を示した図である。
【図6】カソード電極がタングステンの場合とタングステンに亜鉛粉を付着させた場合について光波長と30秒間の放電カウント数を測定した結果を示す。
【図7】カソード電極がタングステンの場合とアルミニウムの場合について光波長と1分間の放電カウント数を測定した結果を示す図である。
【図8】金属のイオン化傾向と反応の強さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
光感受領域の上限が271.98nmである従来のUVチューブが検出していた光のほとんどは、NOxの生成に伴う発光である。しかしながら、NOxは環境にとって有害とされる物質であるため、近年、低NOx化が進められつつあり、今後、燃焼においてNOxは生成されなくなり、NOxの生成に伴う発光もなくなっていくものと予想される。これにより、光感受領域の上限が271.98nm以下である従来のUVチューブでは、火炎を検出できなくなることが懸念されている。
【0016】
ここで、ほとんどの燃焼において、燃焼生成物として水と二酸化炭素が必ず生成され、水が生成される反応過程において下式のような反応経路を有し、OH基が生成されるのに伴って発光が生じることが知られている。
H+O⇔OH+h・c/λ(λは発光波長) (1)
上式のようなOH基の生成に伴う発光は、図2において発光強度が高いとされている波長が306.3nm付近の波長の光であり、この発光はたとえ低NOx化が進んだとしても、燃焼が起きれば必ず発光されるため、このOH基に伴う発光を検出することができれば、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することが可能となる。
【0017】
上述のように、UVチューブの光感受領域の上限は、カソード電極2に用いられている金属の限界波長によって決定されるため、UVチューブの光感受領域を変更するには、カソード電極2を限界波長の異なる金属に変更すればよい。
【0018】
ここで、図3に示されているように、NOxの生成に伴って発光される光の波長は約200nm−275nmであるので、275nmよりも大きな限界波長を有する金属元素をカソード電極2に用いることで、NOxの生成に伴う光より長波長の光を検出することが可能なUVチューブとすることができる。
【0019】
図4は、51種類の金属元素の限界波長を示した表であり、限界波長の小さいものから順に上から下へ記載されている(出典:仕事関数と電気陰性度;CRC handbook等)。
図4において、限界波長が275nmよりも大きな金属元素としては、Fe(鉄)よりも下方に記載された金属元素が該当する。よって、これらの元素をカソード電極2として用いることにより、OH基の生成に伴う発光を検出することが可能となり、NOxの発生に伴う発光がなくても、火炎を検出することができると考えられる。
【0020】
一方、UVチューブのガラス管5内には、水素とネオンを成分とする混合ガスが封入されており、この水素がカソード電極2に吸着すると、カソード電極2の素材の限界波長が変化する。例えば、タングステンの場合、水素の吸着等により限界波長は約210nm〜290nmまで変化してしまう。
また、このように水素が電極やリード線の表面に吸収されてしまうと、ガラス管5内の水素が規定量に対して不足し、ガラス管5内で放電が起こりやすくなり、実際には火が消えており、紫外線の照射が終わっているにもかかわらず、アノード電極1とカソード電極2間でいわゆる疑放電(擬似火炎、自己放電)が発生してしまうことがある。
そこで、カソード電極2には、水素と吸着しない金属を採用することが望ましい。
【0021】
また、UVチューブを製作する過程で電極やリード線が空気に触れることにより、電極やリード線が窒素を吸着する性質の金属である場合、電極の表面に窒素が吸着することで、限界波長が窒素を吸着した金属に引っ張られる形で影響を及ぼし、放電が乱れてしまうことがある。
そこで、カソード電極2には、窒素も吸着しない金属を採用することが望ましい。
【0022】
よって、カソード電極2に用いられる金属は水素及び窒素に対する吸着性を有さないものの方がよりよい。図5は、代表的な金属について、代表的なガスに対する吸着性を示した表である(出典:吸着の科学)。上述した限界波長が275nmよりも大きな金属元素のうち、図5に基づいて、水素及び窒素に対して吸着性がない元素を選択すると、スズ、亜鉛、アルミニウム、銀、カドミウム、マグネシウム、カリウムがこれに該当する。
【0023】
これら7つの金属元素を電極に用いることにより、電極に水素が吸着することがないので、水素が混入した混合ガスの吸着による限界波長の変化は起きず、また、UVチューブのガラス管5内の水素が不足しにくくなるので、疑放電が起こりにくくなり、UVセンサの寿命を延ばすことが可能となる。
【0024】
また、これらの7つの金属元素を電極に用いることにより、電極に窒素が吸着することもないので、カソード電極2に用いられる金属の限界波長に影響が及ぶことがなく、放電が乱れない。
【0025】
そこで、限界波長が275nmよりも大きな金属であり、かつ、水素及び窒素に対する吸着性を有さない上述の7つの金属(スズ、亜鉛、アルミニウム、銀、カドミウム、マグネシウム、カリウム)のうち、限界波長が286nmの亜鉛と、限界波長が289nmのアルミニウムを選択し、それぞれをカソード電極2としてUVチューブを試作し、実験を試みた。
亜鉛を選択した理由は、金属構造が温度/圧力で変化がないため、製作工程中の熱による構造の変化がないこと及び比較的安価で入手が容易であるためである。
また、アルミニウムを選定した理由としては、熱伝導率及び熱拡散率が大きく、金属表層部に熱がこもらないと考えられ、電極間の混合ガスの温度上昇の度合いも、従来のUVチューブで使用されているタングステンに比べて小さく、ガス温度上昇に伴う感度低下を防止する効果もあり、比較的安価で且つ純度の高い素材を容易に入手できることが挙げられる。
【0026】
[亜鉛電極の実験]
溶接の難しさから、試作モデルを作るのは困難なため、当初使用している受光電極タングステン側に亜鉛粉を作為的に付け、仕事関数が変化するのか観察を行うこととした。
タングステンに亜鉛粉を付着させたものをカソード電極2とし、UVチューブとして組み上げ試作した。図6は、カソード電極2がタングステンの場合とタングステンに亜鉛粉を付着させた場合について光波長と30秒間の放電カウント数を測定した結果を示す。
【0027】
図6から、タングステンに亜鉛粉を付着させたものをカソード電極2とした結果、タングステンを電極とした場合よりもグラフが全体的に右方向に移動し、かつ、限界波長の値が亜鉛の理論値である286nmの付近となっていることが読み取れ、高い限界波長に律則していることが分かる。
【0028】
[アルミニウム電極の実験]
次に、0.2mm厚のアルミニウム板を抜き打ち加工によりカソード電極2とし、UVチューブとして組み上げ試作した。図7は、カソード電極2がタングステンの場合とアルミニウムの場合について光波長と1分間の放電カウント数を測定した結果を示す。
【0029】
図7から、アルミニウムをカソード電極2とした結果、タングステンを電極とした場合よりもグラフが全体的に右方向に移動し、かつ、限界波長の値がアルミニウムの限界波長の理論値である289nmの付近となっていることを読み取ることができる。
なお、この実験は純アルミを使用しているが、この試験の前にカソード電極2に1円玉を擦りつけ、アルミニウム粉をタングステン表面に付着させたときも同様の結果となった。このことから、上述した亜鉛電極と同様に高い限界波長に律則していることが分かる。
【0030】
ここで、金属のイオン化傾向と反応の強さを、図8に示す。この図8によれば、実験を行った亜鉛及びアルミニウムは、空気と反応すると徐々に酸化され、また、水とも反応しやすい(イオン化傾向が大きい)ので、素材の管理や適切なガス封入プロセスによる十分な表面改質が必要である。なお、UVチューブのカソード電極2に用いる金属としては、安定しているものの方がよいので、カリウムのように水と室温で反応してしまうような金属より、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムの方がより適していると言える。
【0031】
以上のように、この発明の火炎センサによれば、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であるものとしたので、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することができる。
【0032】
また、この発明の火炎センサによれば、カソード電極の表面の組成が水素及び窒素が吸着しない金属を用いることにより、電極に窒素が吸着することもないので、カソード電極2に用いられる金属の限界波長に影響が及ぶことがなく、放電が乱れない。
【0033】
また、この発明の火炎センサによれば、カソード電極の表面の組成が、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウムのいずれかとすることにより、より安定した状態で火炎を検出することができる。
【0034】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 アノード電極
2 カソード電極
3,4 コバール線(リード線)
5 ガラス管
【技術分野】
【0001】
この発明は、火炎中に含まれる紫外線を検出する火炎センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火炎センサの一種として、ユニット化した紫外線検出用放電管(UVチューブ)を用いて火炎中に含まれる紫外線を検出する火炎センサがある。このUVチューブは、紫外線を受けて放電を生起する一対の放電電極を円筒形のガラス管内に封止し、上記一対の放電電極それぞれのリード線をガラス管の一端部から導出したものである。
このような構造のUVチューブは、火がついていることを確実に検知するための安全確保の役割を担っており、例えばボイラ内の燃焼状態をモニタするための火炎センサとして用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、図1は、従来のUVチューブの構造を示す構成図である。ガラス管5の中に、網目状のアノード電極1と、カソード電極2とが、リード線3,4によってそれぞれ支持されており、ガラス管5には例えば水素とネオンを成分とする混合ガスが封入されている。このアノード電極1とカソード電極2とは、平行平面構造であり、両電極間は任意の距離を保って配置されている。そして、ガラス管5の端部(図1の上部)及び側面から入射した紫外線が、アノード電極1の網目を抜けてカソード電極2に当たることにより放電する(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
この際、紫外線がカソード電極2に当たることにより、放電が起こる紫外線の波長の範囲の上限、すなわちUVチューブの光感受領域の上限は、カソード電極2に用いられている金属の光電効果が起こる波長の上限を示す限界波長によって決定される。従来のUVチューブでは、カソード電極2として限界波長が271.98nmであるタングステンを用いており、従来のUVチューブの光感受領域の上限は271.98nmである。
【0005】
図2は、アセチレンを燃料、空気を酸化剤として燃焼させた場合の反応時の発光スペクトルを示しており、この燃焼の際、NOx,COといった燃焼生成物が生成されると共に図2に示すようなスペクトルの発光が観測される。
【0006】
図3は、図2の発光スペクトルのうちNOxの発生に伴う発光スペクトルを示しており、約200nm−275nmの波長の発光が観測されている。この図3に示す、NOx生成に伴う発光は、上述した従来のUVチューブの光感受領域内の波長であり、従来のUVチューブが検出していた紫外線には、NOx生成時の発光が含まれていたことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−12581号公報
【特許文献2】特公昭44−1039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、燃焼中にNOxが生成されることを削減するため、低NOxバーナや、高温燃焼に伴うThermal NOxの生成を防ぐ水蒸気噴霧、などによる低NOx化が進められつつある。低NOx化が進むと、燃焼中にNOxが生成されにくくなるため、図3に示すスペクトルの光が発光されにくくなり、従来のUVチューブが検出していた紫外線の量が大幅に減ることになり、従来のUVチューブを用いた火炎センサは火炎検出の精度が低下するという課題がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、NOxを生成しない燃焼において、高い精度で火炎を検出することが可能な火炎センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明に係る火炎センサは、アノード電極とカソード電極からなる一対の電極を備えたUVチューブを用いた火炎センサにおいて、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であることを特徴とする。
【0011】
また、この発明に係る火炎センサは、カソード電極の表面の組成が、水素及び窒素が吸着しない金属であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明に係る火炎センサは、カソード電極の表面の組成が、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウムのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明における火炎センサによれば、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であるとしたので、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の紫外線検出用放電管(UVチューブ)の構造を示す模式図である。
【図2】アセチレンを燃料、空気を酸化剤として燃焼させた場合の反応時の発光スペクトルを示す図である。
【図3】図2の発光スペクトルのうちNOxの生成に伴う発光スペクトルを示す図である。
【図4】51種類の金属元素の限界波長を示した表である。
【図5】代表的な金属について、代表的なガスに対する吸着性を示した図である。
【図6】カソード電極がタングステンの場合とタングステンに亜鉛粉を付着させた場合について光波長と30秒間の放電カウント数を測定した結果を示す。
【図7】カソード電極がタングステンの場合とアルミニウムの場合について光波長と1分間の放電カウント数を測定した結果を示す図である。
【図8】金属のイオン化傾向と反応の強さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
光感受領域の上限が271.98nmである従来のUVチューブが検出していた光のほとんどは、NOxの生成に伴う発光である。しかしながら、NOxは環境にとって有害とされる物質であるため、近年、低NOx化が進められつつあり、今後、燃焼においてNOxは生成されなくなり、NOxの生成に伴う発光もなくなっていくものと予想される。これにより、光感受領域の上限が271.98nm以下である従来のUVチューブでは、火炎を検出できなくなることが懸念されている。
【0016】
ここで、ほとんどの燃焼において、燃焼生成物として水と二酸化炭素が必ず生成され、水が生成される反応過程において下式のような反応経路を有し、OH基が生成されるのに伴って発光が生じることが知られている。
H+O⇔OH+h・c/λ(λは発光波長) (1)
上式のようなOH基の生成に伴う発光は、図2において発光強度が高いとされている波長が306.3nm付近の波長の光であり、この発光はたとえ低NOx化が進んだとしても、燃焼が起きれば必ず発光されるため、このOH基に伴う発光を検出することができれば、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することが可能となる。
【0017】
上述のように、UVチューブの光感受領域の上限は、カソード電極2に用いられている金属の限界波長によって決定されるため、UVチューブの光感受領域を変更するには、カソード電極2を限界波長の異なる金属に変更すればよい。
【0018】
ここで、図3に示されているように、NOxの生成に伴って発光される光の波長は約200nm−275nmであるので、275nmよりも大きな限界波長を有する金属元素をカソード電極2に用いることで、NOxの生成に伴う光より長波長の光を検出することが可能なUVチューブとすることができる。
【0019】
図4は、51種類の金属元素の限界波長を示した表であり、限界波長の小さいものから順に上から下へ記載されている(出典:仕事関数と電気陰性度;CRC handbook等)。
図4において、限界波長が275nmよりも大きな金属元素としては、Fe(鉄)よりも下方に記載された金属元素が該当する。よって、これらの元素をカソード電極2として用いることにより、OH基の生成に伴う発光を検出することが可能となり、NOxの発生に伴う発光がなくても、火炎を検出することができると考えられる。
【0020】
一方、UVチューブのガラス管5内には、水素とネオンを成分とする混合ガスが封入されており、この水素がカソード電極2に吸着すると、カソード電極2の素材の限界波長が変化する。例えば、タングステンの場合、水素の吸着等により限界波長は約210nm〜290nmまで変化してしまう。
また、このように水素が電極やリード線の表面に吸収されてしまうと、ガラス管5内の水素が規定量に対して不足し、ガラス管5内で放電が起こりやすくなり、実際には火が消えており、紫外線の照射が終わっているにもかかわらず、アノード電極1とカソード電極2間でいわゆる疑放電(擬似火炎、自己放電)が発生してしまうことがある。
そこで、カソード電極2には、水素と吸着しない金属を採用することが望ましい。
【0021】
また、UVチューブを製作する過程で電極やリード線が空気に触れることにより、電極やリード線が窒素を吸着する性質の金属である場合、電極の表面に窒素が吸着することで、限界波長が窒素を吸着した金属に引っ張られる形で影響を及ぼし、放電が乱れてしまうことがある。
そこで、カソード電極2には、窒素も吸着しない金属を採用することが望ましい。
【0022】
よって、カソード電極2に用いられる金属は水素及び窒素に対する吸着性を有さないものの方がよりよい。図5は、代表的な金属について、代表的なガスに対する吸着性を示した表である(出典:吸着の科学)。上述した限界波長が275nmよりも大きな金属元素のうち、図5に基づいて、水素及び窒素に対して吸着性がない元素を選択すると、スズ、亜鉛、アルミニウム、銀、カドミウム、マグネシウム、カリウムがこれに該当する。
【0023】
これら7つの金属元素を電極に用いることにより、電極に水素が吸着することがないので、水素が混入した混合ガスの吸着による限界波長の変化は起きず、また、UVチューブのガラス管5内の水素が不足しにくくなるので、疑放電が起こりにくくなり、UVセンサの寿命を延ばすことが可能となる。
【0024】
また、これらの7つの金属元素を電極に用いることにより、電極に窒素が吸着することもないので、カソード電極2に用いられる金属の限界波長に影響が及ぶことがなく、放電が乱れない。
【0025】
そこで、限界波長が275nmよりも大きな金属であり、かつ、水素及び窒素に対する吸着性を有さない上述の7つの金属(スズ、亜鉛、アルミニウム、銀、カドミウム、マグネシウム、カリウム)のうち、限界波長が286nmの亜鉛と、限界波長が289nmのアルミニウムを選択し、それぞれをカソード電極2としてUVチューブを試作し、実験を試みた。
亜鉛を選択した理由は、金属構造が温度/圧力で変化がないため、製作工程中の熱による構造の変化がないこと及び比較的安価で入手が容易であるためである。
また、アルミニウムを選定した理由としては、熱伝導率及び熱拡散率が大きく、金属表層部に熱がこもらないと考えられ、電極間の混合ガスの温度上昇の度合いも、従来のUVチューブで使用されているタングステンに比べて小さく、ガス温度上昇に伴う感度低下を防止する効果もあり、比較的安価で且つ純度の高い素材を容易に入手できることが挙げられる。
【0026】
[亜鉛電極の実験]
溶接の難しさから、試作モデルを作るのは困難なため、当初使用している受光電極タングステン側に亜鉛粉を作為的に付け、仕事関数が変化するのか観察を行うこととした。
タングステンに亜鉛粉を付着させたものをカソード電極2とし、UVチューブとして組み上げ試作した。図6は、カソード電極2がタングステンの場合とタングステンに亜鉛粉を付着させた場合について光波長と30秒間の放電カウント数を測定した結果を示す。
【0027】
図6から、タングステンに亜鉛粉を付着させたものをカソード電極2とした結果、タングステンを電極とした場合よりもグラフが全体的に右方向に移動し、かつ、限界波長の値が亜鉛の理論値である286nmの付近となっていることが読み取れ、高い限界波長に律則していることが分かる。
【0028】
[アルミニウム電極の実験]
次に、0.2mm厚のアルミニウム板を抜き打ち加工によりカソード電極2とし、UVチューブとして組み上げ試作した。図7は、カソード電極2がタングステンの場合とアルミニウムの場合について光波長と1分間の放電カウント数を測定した結果を示す。
【0029】
図7から、アルミニウムをカソード電極2とした結果、タングステンを電極とした場合よりもグラフが全体的に右方向に移動し、かつ、限界波長の値がアルミニウムの限界波長の理論値である289nmの付近となっていることを読み取ることができる。
なお、この実験は純アルミを使用しているが、この試験の前にカソード電極2に1円玉を擦りつけ、アルミニウム粉をタングステン表面に付着させたときも同様の結果となった。このことから、上述した亜鉛電極と同様に高い限界波長に律則していることが分かる。
【0030】
ここで、金属のイオン化傾向と反応の強さを、図8に示す。この図8によれば、実験を行った亜鉛及びアルミニウムは、空気と反応すると徐々に酸化され、また、水とも反応しやすい(イオン化傾向が大きい)ので、素材の管理や適切なガス封入プロセスによる十分な表面改質が必要である。なお、UVチューブのカソード電極2に用いる金属としては、安定しているものの方がよいので、カリウムのように水と室温で反応してしまうような金属より、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムの方がより適していると言える。
【0031】
以上のように、この発明の火炎センサによれば、カソード電極のアノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属であるものとしたので、NOxを生成しない燃焼においても、高い精度で火炎を検出することができる。
【0032】
また、この発明の火炎センサによれば、カソード電極の表面の組成が水素及び窒素が吸着しない金属を用いることにより、電極に窒素が吸着することもないので、カソード電極2に用いられる金属の限界波長に影響が及ぶことがなく、放電が乱れない。
【0033】
また、この発明の火炎センサによれば、カソード電極の表面の組成が、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウムのいずれかとすることにより、より安定した状態で火炎を検出することができる。
【0034】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 アノード電極
2 カソード電極
3,4 コバール線(リード線)
5 ガラス管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極とカソード電極からなる一対の電極を備えたUVチューブを用いた火炎センサにおいて、
前記カソード電極の前記アノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属である
ことを特徴とする火炎センサ。
【請求項2】
前記カソード電極の表面の組成が水素及び窒素が吸着しない金属である
ことを特徴とする請求項1記載の火炎センサ。
【請求項3】
前記カソード電極の表面の組成が、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウムのいずれかである
ことを特徴とする請求項1記載の火炎センサ。
【請求項1】
アノード電極とカソード電極からなる一対の電極を備えたUVチューブを用いた火炎センサにおいて、
前記カソード電極の前記アノード電極と向かい合う面の表面の組成が限界波長が275nmより大きい金属である
ことを特徴とする火炎センサ。
【請求項2】
前記カソード電極の表面の組成が水素及び窒素が吸着しない金属である
ことを特徴とする請求項1記載の火炎センサ。
【請求項3】
前記カソード電極の表面の組成が、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウムのいずれかである
ことを特徴とする請求項1記載の火炎センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−29453(P2013−29453A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166795(P2011−166795)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
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