説明

灰溶融炉内金属の除去方法

【課題】灰溶融炉内に残って固化した金属層を短時間で除去する。
【解決手段】灰溶融炉10の炉室12内で溶融している廃棄物焼却灰に、廃棄物焼却灰中の金属が固化した際に、固化した金属層Mの分断を容易にする脆化剤Fを投入する。その後、灰溶融炉10を冷却して金属層Mを固化させ、固化した金属層Mを分断し、灰溶融炉10から除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却灰を溶融する灰溶融炉内に堆積した金属を除去する灰溶融炉内金属の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
灰溶融炉は、ごみ等の廃棄物の焼却灰を溶融することで、廃棄物焼却灰を、低沸点の揮散物、金属類、その他のスラグに分けて、これらをリサイクル等するために利用されている。
【0003】
このような灰溶融炉には、重油やコークス等の燃料の燃焼熱で廃棄物を溶融する燃料式灰溶融炉や、電力を用いて廃棄物を溶融する電気式灰溶融炉等がある。さらに、電気式灰溶融炉には、炉内の電気抵抗に電流を供給し、これにより発熱する電気抵抗のジュール熱で廃棄物を溶融する電気抵抗式灰溶融炉や、炉内にプラズマアークを発生させて、この輻射熱等で廃棄物を溶融するプラズマ式灰溶融炉等がある。
【0004】
プラズマ式灰溶融炉としては、例えば、以下の特許文献1に開示されているものがある。このプラズマ式灰溶融炉は、内部に炉室が形成されている炉本体と、この炉本体の天井壁に設けられた主電極と、この炉本体の底壁に設けられた底電極と、を有している。この灰溶融炉の投入口から投入された廃棄物焼却灰は、2つの電極間に生じたプラズマアークの輻射熱等で溶融し、一部が気化し、他の一部が溶融金属となり、残りがほぼ溶融スラグとなる。これらのうち、溶融金属は、溶融スラグに比べて比重が大きいため、炉底に沈む。一方、溶融スラグは、溶融金属上に存在し、溶融スラグの上面が炉の排出口より高くなると、この排出口からオーバーフローして外部に流出する。
【0005】
このプラズマ式溶融炉では、炉内の溶融金属の量が多くなると、炉内に投入された廃棄物焼却灰が溶融する前に、排出口から外部に流出してしまうため、炉内の溶融金属の量が一定量を超えると、炉が傾けられて、溶融金属が排出口から強制的に排出される。また、炉内壁を形成する耐火物の検査時や耐火物の更新時においても、炉が傾けられて、溶融金属が排出口から強制的に排出される。但し、いずれの場合においても全量は排出されずに一部が残る。
【0006】
耐火物の検査時や耐火物の更新時では、炉を傾けて、溶融金属を排出口からある程度排出した後、元の直立状態に戻して、炉を冷却する。そして、炉内の温度が所定温度以下になると、炉内に作業員が入り、炉底に残って固化した金属層を除去してから、耐火物の検査や更新を行う。固化した金属層を除去する際には、各種ハツリ作業で用いられるエアーブレーカーでは金属層を細かく分断できないため、例えば、酸素ランスを用いて、金属層を少しずつ細かく溶融切断し、これを炉外に出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−081634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、前述したように、炉底に残って固化した金属層を除去する際に、酸素ランスを用いて、金属層を時間をかけて少しずつ細かく溶融切断し、これを炉外に出すため、この金属層の除去作業に時間がかさむという問題がある。さらに、酸素ガスを大量に消費するため、この除去作業のコストがかさむ上に、閉塞空間で高温の炎を用いるために安全性の面で不安がある、等の問題もある。
【0009】
そこで、本発明は、灰溶融炉内で固化した金属層の除去作業時間を短くすることができる、灰溶融炉内金属の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記問題点を解決するための発明に係る灰溶融炉内金属の除去方法は、
廃棄物焼却灰を溶融する灰溶融炉内に堆積した金属を除去する灰溶融炉内金属の除去方法において、前記灰溶融炉内で溶融している前記廃棄物焼却灰に、該廃棄物焼却灰中の金属が固化した際に、固化した金属層の分断を容易にする分断補助剤を投入する補助剤投入工程と、前記補助剤投入工程後に、前記金属層を固化させる固化工程と、前記固化工程で固化した前記金属層を分断し、前記灰溶融炉から除去する除去工程と、を実行することを特徴とする。
【0011】
当該除去方法では、固化した金属層が分断容易になっているため、この金属層を簡単に分断し、除去することができる。よって、当該除去方法によれば、固化した金属層の除去作業時間を短くすることができる。
【0012】
ここで、前記灰溶融炉内金属の除去方法において、前記分断補助剤は、前記金属層を脆化させる脆化剤であってもよい。
【0013】
当該除去方法では、固化した金属層が脆化しているため、この金属層を各種ハツリ作業で用いられるエアーブレーカー等で簡単に破砕することができる。よって、当該除去方法によれば、固化した金属層の除去作業時間を短くすることができると共に、酸素ランスを用いて金属層を溶融切断しなくてもよいため、作業の安全性を高めることができる。さらに、酸素ガスを消費しないため、作業コストを抑えることができる。
【0014】
また、前記灰溶融炉内金属の除去方法において、前記補助剤投入工程後であって、前記固化工程前に、前記灰溶融炉内の金属の温度を低下させない保温工程を実行してもよい。
【0015】
当該除去方法では、溶融金属層中への分断補助剤の拡散を図ることができる。
【0016】
また、前記灰溶融炉内金属の除去方法において、前記灰溶融炉は、前記廃棄物焼却灰が投入される炉室が内部に形成されている炉本体と、該炉室内への投入物を加熱する加熱手段と、を有しており、前記炉本体は、側周壁と、該側周壁の上方開口を塞ぐ天井壁と、該側周壁の下方開口を塞ぐ底壁と、を有し、該底壁の内面は、中心側に向かうに連れて次第に炉室内側から炉外側に凹んだ形状を成し、該側周壁には、投入口及び排出口が形成されている場合、前記固化工程より前に、前記灰溶融炉内で溶融している前記廃棄物焼却灰の一部を、該灰溶融炉を傾けて、該灰溶融炉の前記排出口から強制的に流出させ、その後、該灰溶融炉の傾けを元に戻す強制流出工程を実行してもよい。
【0017】
この場合、強制流出工程で前記灰溶融炉を傾けている最中、前記分断補助剤を前記投入口から投入してもよい。
【0018】
このように、灰溶融炉を傾けている最中に分断補助剤を投入すると、分断補助際を炉底に導くことができ、しかも、灰溶融炉を元の直立状態に戻す過程での溶融金属の流動により、溶融金属層への分断補助剤の拡散を促すことができる。
【0019】
また、前記灰溶融炉内金属の除去方法において、前記分断補助剤は、Si、SiO及び当該SiOの還元剤、リン、リン酸塩化合物及び当該リン酸塩化合物の還元剤、Sb、Sb酸化物及びSb酸化物の還元剤、Sb合金、Sn、Sn酸化物及びSn酸化物の還元剤、Sn合金、Zn、La、La、h−BN(六方晶窒化ホウ素)のうち、少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0020】
また、前記灰溶融炉内金属の除去方法において、前記補助剤投入工程は、前記強制流出工程の前に、第一分断補助剤を前記投入口から投入する第一補助剤投入工程と、前記強制流出工程で前記灰溶融炉を傾けている最中に、第二分断補助剤を前記投入口から投入する第二補助剤投入工程と、を有し、
前記第一分断補助剤は、Si、SiO及び当該SiOの還元剤、SiOの還元剤、リン、リン酸塩化合物及び当該リン酸塩化合物の還元剤のうち、少なくとも一つを含み、
前記第二分断補助剤は、Sb、Sb酸化物及びSb酸化物の還元剤、Sb合金、Sn、Sn酸化物及びSn酸化物の還元剤、Sn合金、Zn、La、La、h−BN(六方晶窒化ホウ素)のうち、少なくとも一つを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、固化した金属層が分断容易になっているため、この金属層を簡単に分断し、除去することができる。よって、本発明によれば、固化した金属層の除去作業時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態における灰溶融炉(廃棄物焼却灰の処理中)の断面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態における灰溶融炉(溶融金属の強制流出及び脆化剤投入中)の断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態における灰溶融炉(溶融金属の冷却固化中)の断面図である。
【図4】本発明に係る一実施形態における灰溶融炉(固化した金属層の分断・除去中)の断面図である。
【図5】本発明に係る一実施形態における金属除去方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る実施例の脆化剤を示す説明図である。
【図7】本発明に係る実施例の脆化剤であるSiの添加量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る実施例の脆化剤であるPの添加量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフである。
【図9】本発明に係る実施例の脆化剤であるSbの添加量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係る実施例の脆化剤であるSnの添加量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係る実施例の脆化剤である(Sb+Sn)中のSnの添加量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフである。
【図12】本発明に係る実施例の脆化剤である(Sb+Sn)の添加量とシャルピー衝撃値との関係を示すグラフ図である。
【図13】本発明に係る実施例の脆化剤であるミッシュメタルを溶融金属に投入して、固化した金属層に対してビッカース硬さ試験を行った際の金属層表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る灰溶融炉内金属の除去方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0024】
まず、本実施形態の灰溶融システムについて、説明する。
【0025】
本実施形態の灰溶融システムは、図1に示すように、プラズマ式灰溶融炉(以下、単に灰溶融炉とする)10と、灰溶融炉10内に廃棄物焼却灰等を投入するためのフィーダ26と、灰溶融炉を傾ける傾動機構28,29とを備えている。灰溶融炉10は、内部に炉室12が形成されている炉本体11と、炉室12内にプラズマアークを発生させる主電極21及び炉底電極22と、両電極21,22間に電圧を印加する直流電源23と、主電極21を炉室12内で上下動させる昇降装置25と、を備えている。
【0026】
炉本体11は、側周壁13と、この側周壁13の上方開口を塞ぐ天井壁14と、この側周壁13の下方開口を塞ぐ底壁15と、を有している。各壁13,14,15は、いずれも、鋼板等で形成されている外板16と、外板16の内側に配置されている耐火物17a,17bと、を有して構成されている。天井壁14の耐火物には、不定形耐火材17aが用いられている。また、側周壁13の上部耐火物には、不定形耐火材17aが用いられ、下部耐火物には、耐火レンガ17bが用いられている。また、底壁15の耐火物には、主として炉室12内に面する側に耐火レンガ17bが用いられ、耐火レンガ17bと外板16との間に不定形耐火材17aが用いられている。
【0027】
底壁15の内面は、中心側に向かうに連れて次第に炉室内側から炉外側(下側)へ凹んだ形状を成している。また、側周壁13には、廃棄物焼却灰等の投入口18と、その溶融物の排出口19が形成されている。
【0028】
主電極21は、棒状を成し、その端部が天井壁14から炉室12内に挿入されている。
また、炉底電極22も棒状を成し、その端部が底壁15から炉室12内を臨める位置まで挿入されている。この主電極21と炉底電極22とは、直流電源23と電気的に接続されている。また、主電極21には、前述したように、この主電極21を上下動させる昇降装置25が設けられている。
【0029】
傾動機構28,29は、底壁15の外周側の一部を持ち上げる傾動シリンダ28と、灰溶融炉10を傾けるときの支点となる傾動軸29と、を有している。フィーダ26は、例えば、スクリューフィーダで、そのケーシングが灰溶融炉10の投入口18に固定されている。
【0030】
次に、以上で説明した灰溶融システムによる廃棄物焼却灰の処理方法について説明する。
【0031】
まず、灰溶融炉10の炉室12内を還元雰囲気にしてから、各電極21,22に直流電源23から電圧を印加し、両電極21,22間にプラズマアークを発生させる。続いて、フィーダ26に廃棄物焼却灰Aを投入する。この廃棄物焼却灰Aは、このフィーダ26により灰溶融炉10の投入口18から炉室12内に投入される。炉室12内の廃棄物焼却灰は、プラズマアークによる輻射熱等で加熱され、溶融される。なお、この際の炉室12内の温度、及び溶融した廃棄物焼却灰の温度は、例えば、1400℃程度である。
【0032】
溶融した廃棄物焼却灰は、一部が溶融金属となり、残りがほぼ溶融スラグとなる。これらのうち、溶融金属は、溶融スラグに比べて比重が大きいため、金属層Mとして炉底に沈む。一方、溶融スラグは、スラグ層Sとして金属層M上に浮く。金属層Mには、Cuを主成分とするCu層と、Feを主成分とするFe層とがある。Cuの比重(9.0)はFeの比重(7.9)よりも大きいため、Cu層が下に位置し、その上にFe層が形成される。
【0033】
ところで、廃棄物中には、CuやFeの他に、Alや他の金属も含まれている。しかしながら、これらの金属は、いずれも廃棄物焼却灰になるまでの過程で、ほとんどが除かれ、廃棄物焼却灰中の金属は、ほとんどがCuやFeである。例えば、Alや希土類金属は、廃棄物の焼却前に多くが取り除かれ、さらに、その焼却過程で、一部が蒸発する。よって、廃棄物焼却灰中の金属には、Alや希土類金属等がほとんど含まれず、その多くがCuやFeとなる。
【0034】
フィーダ26から炉室12内に廃棄物焼却灰が順次投入され、スラグ層Sの上面が排出口19よりも高くなると、この排出口19から溶融スラグがオーバーフローして外部に流出する。
【0035】
主電極21は、プラズマアークを形成している過程で消耗するため、主電極21の先端がスラグ層Sの上面から所定の高さに位置するよう、昇降装置25を駆動して、主電極21の先端高さを調整する。
【0036】
廃棄物焼却灰Aを順次投入し、この廃棄物焼却灰を溶融して、溶融スラグを外部に流出させると、次第に、炉室12内に溜まる溶融金属の量が多くなり、金属層Mの上面が灰溶融炉10の排出口19の高さに近づいてくる。金属層Mの上面が排出口19の高さに近づくと、炉室12内に投入された廃棄物焼却灰の一部が溶融する前に、炉室12から流出してしまう。このため、金属層Mの上面が排出口19の高さに近づくと、廃棄物焼却灰Aの投入を一時的に中止してから、傾動シリンダ28を駆動し、灰溶融炉10を傾けて、炉室12内から溶融スラグと共に溶融金属を強制的に排出する。その後、灰溶融炉10を元の直立状態に戻してから、再び、廃棄物焼却灰Aの投入を開始する。
【0037】
ところで、灰溶融炉10の耐火物17a,17bの検査時やその更新時にも、「背景技術」で述べたように、灰溶融炉10を傾けて溶融金属を排出口19から強制的に排出する。そして、溶融金属を排出口19からある程度排出した後、元の直立状態に戻して、灰溶融炉10を冷却する。そして、炉室12内の温度が所定温度(作業温度)以下になると、炉室12内に作業員が入り、炉底に残って固化した金属層を除去してから、耐火物の検査や更新を行う。
【0038】
そこで、以下では、灰溶融炉10内の金属除去方法について、図5に示すフローチャートに従って説明する。
【0039】
まず、灰溶融システムの管理者等は、廃棄物焼却灰の処理過程で、灰溶融炉10の耐火物の検査時やその更新時に至ったか否かを判断する(S1)。耐火物の検査時又は更新時であると判断すると、廃棄物焼却灰の投入を中止する(S2)。
【0040】
次に、図2に示すように、傾動シリンダ28を駆動し、灰溶融炉10を傾けて、炉室12内から溶融スラグと共に溶融金属を強制的に排出する(S3)。そして、溶融金属が固化した際に、固化した金属層Mの分断を容易にする分断補助剤である脆化剤Fを、フィーダ26から傾いている灰溶融炉10内に投入する(S4)。なお、分断補助剤である脆化剤Fの具体例については、脆化剤の実施例として後述する。
【0041】
脆化剤Fの投入が終了すると(S4)、図3に示すように、灰溶融炉10を元の直立状態に戻す(S5)。このように、傾いている状態の灰溶融炉10内に脆化剤Fを投入し、その後、灰溶融炉10を直立状態に戻すことで、脆化剤Fを溶融金属層Mへの拡散を促すことができる。すなわち、傾いている状態の灰溶融炉10内に、脆化剤Fを投入することで、脆化剤の一部を底壁15の内面に至らせることができる。その上で、灰溶融炉10を元の直立状態に戻すと、脆化剤Fの一部が溶融金属層M中に入り込むと共に、その際の溶融金属の流動により、溶融金属層M中に脆化剤Fが拡散される。
【0042】
以上のステップ2〜5において、各電極21,22間には、溶融金属の温度が低下しない程度の電圧を印加し、溶融金属層Mを保温する。そして、灰溶融炉10を元の直立状態に戻した後も、溶融金属層Mの保温を所定時間行う(S6)。このように、灰溶融炉10を元の直立状態に戻した後も溶融金属層Mの保温を所定時間行うことで、溶融金属層M内への脆化剤の更なる拡散を図る。なお、ここでは、灰溶融炉10を傾けている最中も、各電極21,22に電圧を印加しているが、システムの構成上、灰溶融炉10を傾けている状態では各電極21,22に電圧を印加できない場合には、灰溶融炉10を傾けている最中の各電極21,22への電圧印加を一時的に中止してもよい。
【0043】
溶融金属層Mの保温時間が終了すると、各電極21,22間への電圧印加を中止し、金属層Mを冷却固化させる(S7)。次に、炉室内温度Tが予め定めた作業温度T0以下になったか否かを判断する(S8)。炉室内温度Tが予め定めた作業温度T0以下になっていれば、作業員は、炉室12内に入り、図4に示すように、固化した金属層Mを分断し、分断した金属の破片を炉外へ出す(S9)。作業者は、固化した金属層Mを分断する際、例えば、各種ハツリ作業に用いられるエアーブレーカー30等で、固化した金属層Mに打撃を与えて、この金属層Mを細かく破砕する。また、場合によっては、カッター等で固化した金属層Mを部分的に順次切断し、この金属層Mを分断する。
【0044】
固化した金属層Mは、ステップ4で投入した脆化剤Fにより脆化しており、エアーブレーカー30等により簡単に破砕、カッター等で簡単に切断することができる。このため、本実施形態では、固化した金属層Mの分断・除去する時間を短くすることができる。さらに、本実施形態では、酸素ランスを用いなくても、固化した金属層Mを分断できるため、作業の安全性を高めることができる。
【0045】
「脆化剤の実施例」
次に、図6を用いて、脆化剤の実施例について説明する。
【0046】
脆化剤には、(1)Feを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤、(2)Cuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤、(3)Fe及びCuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤がある。そこで、以下ではこれらの脆化剤について説明する。
【0047】
(1)Feを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤
Feを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤としては、以下のa)〜c)がある。
【0048】
a)Si、Si酸化物(例えば、SiO)+還元剤(例えば、カーボン)
Feを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤を投入すると、FeSi、FeSi等の非常に脆いケイ化鉄が形成される。このため、固化した金属層中には、非常に脆いケイ化鉄が含まれ、この金属層は脆くなる。
【0049】
ここで、Feを主成分とする金属層に対して、Siを脆化剤として加えた際のこの金属層の脆化度について試験を行ったので、この試験結果について説明する。
【0050】
この試験は、対象となる金属の試験片に衝撃を加えて試験片を破壊し、この破壊に要したエネルギー(シャルピー衝撃値)を測定することで、その金属の粘り強さ(靭性又は脆性)を調べるシャルピー衝撃試験である。このシャルピー衝撃試験では、JIS B 7722に適合したシャルピー衝撃試験機を用いて、JIS Z 2202に適合した試験片、具体的には、10mm×10mm×55mmの角棒に深さ2mmのV形ノッチが形成された試験片に対して行った。また、このシャルピー衝撃試験では、現実の灰溶融炉から採取したFeを主成分とする金属層に、脆化剤としてSiを添加したものを坩堝内に投入し、これを箱型マッフル炉に入れて、坩堝内容物を溶融し、冷却後の金属魂から前述の試験片を作成した。この試験片中で、金属層に固溶したSiの質量パーセント濃度(mass%)は、EPMA(Electron Probe MicroAnalyser:電子線マイクロアナライザ)で分析した。
【0051】
シャルピー衝撃試験の結果、図7に示すように、Siの体積比(添加量)が多くなるに連れて次第にシャルピー衝撃値(J/m)が小さくなり50mass%以上になると、シャルピー衝撃値がほとんど低下しなくなることが分かった。
【0052】
ここで、シャルピー衝撃値が概ね4J/m以下であると、ブレーカーなどで固化した金属層を割れるようになり、シャルピー衝撃値が概ね3J/m以下になると、ブレーカーなどで固化した金属層を容易に割れるようになることが確認されている。よって、Siの添加量は、シャルピー衝撃値が4J/m以下になる28mass%以上であることが好ましく、さらに、シャルピー衝撃値が3J/m以下になる40mass%以上であることがより好ましことが分かった。一方で、Siの添加量が50mass%以上では、前述したように、シャルピー衝撃値がほとんど低下しなくなるため、コスト面からあまり好ましくない。
【0053】
したがって、Siの添加量としては、28〜50mass%が好ましく、40〜50mass%がより好ましい。
【0054】
b)Si酸化物の還元剤(例えば、カーボン)
スラグ層には、SiOが非常に多く含まれている。このため、スラグ層が残っている状態で、Si酸化物の還元剤を投入すると、スラグ層中のSiOが還元されて、Siとなり、このSiが溶融金属Feと反応して、FeSi、FeSi等の非常に脆いケイ化鉄が形成される。このため、固化した金属層中には、非常に脆いケイ化鉄が含まれ、この金属層は脆くなる。
【0055】
c)リン(P)、リン酸化合物(例えば、以下のもの)+還元剤(例えば、カーボン)
NaHPO(2HO)、NaHPO(12HO)、NaPO(12HO)、Na(10HO)、Na、NaP3O10、Na613、(NaPO、(Na(POx+y
Feを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤を投入すると、FeP、FeP、FeP等の非常に脆いリン化鉄が形成される。このため、固化した金属層中には、非常に脆いリン化鉄が含まれ、この金属層は脆くなる。但し、Naを含むリン酸化合物を用いて金属層を脆くする場合、同時に、Na塩が形成され、炉壁を形成する耐火物に悪影響を及ぼすおそれがあるため、耐火物の検査のみで耐火物の更新を伴わない場合には、以上のリン酸系の脆化剤を用いず、a)b)の脆化剤を用いることが好ましい。なお、P単体は、発火性を持つが、難燃剤としての樹脂がコーティングされたPが市販されているため、これを用いることで、安全に取り扱うことができる。
【0056】
ここで、Feを主成分とする金属層に対して、Pを脆化剤として加えた際のこの金属層の脆化度について前述のシャルピー衝撃試験を行ったので、この試験結果について説明する。なお、このシャルピー衝撃試験、さらに、以下で説明するシャルピー試験の条件は、Siを脆化剤とした際のシャルピー衝撃試験の条件と同じである。
【0057】
このシャルピー衝撃試験の結果、図8に示すように、Pの添加量(体積比)が多くなるに連れて次第にシャルピー衝撃値が小さくなり、Pの添加量が14mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の4J/mになり、27mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の3J/mになり、35mass%以上では、シャルピー衝撃値がほとんど低下しなくなることが分かった。
【0058】
したがって、Pの添加量としては、14〜35mass%が好ましく、27〜35mass%がより好ましい。
【0059】
ここで、繰り返すことになるが、以上のa)〜c)の脆化剤は、Feを主成分とする金属層を脆化させるものである。このため、Fe及びCuを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤を投入しても、固化した金属層中には、非常に脆いケイ化鉄やリン化鉄が含まれることになり、この金属層を脆くすることができる。この場合、以上の脆化剤を投入後、Feを主成分とする金属層とCuを主成分とする金属層とが完全に分離した状態にならないようにするために、脆化剤投入後(S4)の保温(S6)で金属層の対流状態を確保し、この対流状態をある程度保ったまま冷却固化(S7)させることが好ましい。
【0060】
また、以上のa)c)の脆化剤は、図5のフローチャートを用いて、前述したように、灰溶融炉10を傾けている状態で投入してもよいが(S4)、廃棄物焼却灰の投入中止後(S2)、灰溶融炉10を傾ける前に(S3)、投入してもよい(S4a)。これは、前述したように、溶融金属層中に、Feを主成分とするFe層とCuを主成分とするCu層とがある場合でも、Fe層はCu層の上に位置し、灰溶融炉10を傾けていなくても、a)c)の脆化剤をFe層に拡散させることができるからである。但し、灰溶融炉10を傾ける前に(S3)、a)c)の脆化剤を投入した場合(S4a)、この脆化剤がFe層中に十分に拡散するよう、脆化剤の投入後、所定時間経過してから、灰溶融炉10を傾ける(S3)ことが好ましい。
【0061】
また、b)の脆化剤は、スラグ層の存在を前提としているため、廃棄物焼却灰の投入中止後(S2)、灰溶融炉10を傾ける前に(S3)、投入する(S4a)。なお、この場合も、脆化剤の投入後、所定時間経過してから、灰溶融炉10を傾ける(S3)ことが好ましい。
【0062】
なお、以上のa)c)の脆化剤は、それぞれ単独でも脆化効果を得ることができるが、両方を混合したものも脆化剤として利用できる。例えば、a)の脆化剤中のSiとc)の脆化剤中のPとを混合して、これを脆化剤として利用する場合、それぞれ、先に述べた好ましい添加量の半分程度で、脆化効果を得ることができる。具体的に、シャルピー衝撃値を4J/mにするためには、Si単独の場合、このSiは添加量として28mass%必要であり、P単独の場合、このPは添加量として14mass%必要であるが、両方を混合したものを添加剤とする場合、Siの添加量は15mass%、Pの添加量は7mass%で足りる。
【0063】
(2)Cuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤
Cuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤としては、以下のa)b)がある。
【0064】
a)Sb、Sb酸化物(例えば、Sb、Sb)+還元剤(例えば、カーボン)、Sb合金(例えば、ホワイトメタル3種、4種、6〜10種)
Cuを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤を投入すると、CuSb、CuSb等の非常に脆い合金が形成される。このため、固化した金属層中には、非常に脆い合金が含まれ、この金属層は脆くなる。なお、ホワイトメタル3種、4種、6〜10種は、比較的多くのSbを含む合金であり、同量のSbを得ようとする場合、純度の高いSb単体や、純度の高いSb酸化物を得る場合よりも、これらのホワイトメタルの方が比較的低価格で得ることができる。このため、コスト的には、これらのホワイトメタルを用いることが好ましい。但し、Sbは、レアメタルで比較的高価であるものの、プラスチックの難燃剤として工業的に比較的多く流通しており、ホワイトメタルと比べて極端に高価というほどでもないので、Sb単体を脆化剤として利用してもよい。
【0065】
ここで、Cuを主成分とする金属層に対して、Sbを脆化剤として加えた際のこの金属層の脆化度について前述のシャルピー衝撃試験を行ったので、この試験結果について説明する。
【0066】
シャルピー衝撃試験の結果、図9に示すように、Sbの添加量が多くなるに連れて次第にシャルピー衝撃値が小さくなり、Sbの添加量が6mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の4J/mになり、8mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の3J/mになり、17mass%以上では、シャルピー衝撃値がほとんど低下しなくなることが分かった。
【0067】
したがって、Sbの添加量としては、6〜17mass%が好ましく、8〜17mass%がより好ましい。
【0068】
b)Sn、Sn酸化物(例えば、SnO、SnO、SnO)+還元剤(例えば、カーボン)、Sn合金(例えば、ホワイトメタル1〜4種、6種、7種))
Cuを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤を投入すると、非常に脆いCu‐Sn合金が形成される。このため、固化した金属層中には、非常に脆い合金が含まれ、この金属層は脆くなる。なお、ホワイトメタル1〜4種、6種、7種は、比較的多くのSnを含む合金であり、同量のSnを得ようとする場合、純度の高いSn単体や、純度の高いSn酸化物を得る場合よりも、これらのホワイトメタルの方が比較的低価格で得ることができる。このため、コスト的には、これらのホワイトメタルを用いることが好ましい。
【0069】
ここで、Cuを主成分とする金属層に対して、Snを脆化剤として加えた際のこの金属層の脆化度について前述のシャルピー衝撃試験を行ったので、この試験結果について説明する。
【0070】
シャルピー衝撃試験の結果、図10に示すように、7mass%程度まではSnの添加量(体積比)が多くなるに連れて次第にシャルピー衝撃値(J/m)も大きくなるものの、それ以降、Snの添加量が多くなるに連れて逆にシャルピー衝撃値が小さくなり、Snの添加量が12mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の4J/mになり、20mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の3J/mになり、30mass%以上では、シャルピー衝撃値がほとんど低下しなくなることが分かった。
【0071】
したがって、Snの添加量としては、12〜30mass%が好ましく、20〜30mass%がより好ましい。
【0072】
以上のa)b)の脆化剤は、Cuを主成分とする金属層を脆化させるものである。このため、Fe及びCuを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤を投入しても、固化した金属層中には、非常に脆いCu−Sb合金やCu−Sn合金が含まれることになり、この金属層を脆くすることができる。この場合、以上の脆化剤を投入後、Feを主成分とする金属層とCuを主成分とする金属層とが完全に分離した状態にならないようにするために、脆化剤投入後(S4)の保温(S6)で金属層の対流状態を確保し、この対流状態をある程度保ったまま冷却固化(S7)させることが好ましい。
【0073】
なお、以上のa)b)の脆化剤は、それぞれ単独でも脆化効果を得ることができるが、両方を混合したものも脆化剤として利用できる。ここで、a)の脆化剤中のSbとb)の脆化剤中のSnとを混合したものを脆化剤とした場合について試験を行ったので、この試験について説明する。
【0074】
まず、添加量30mass%に固定した上で、SbとSnとの比を変えた脆化剤を、Cuを主成分とする金属層に加えた際のこの金属層の脆化度について前述のシャルピー衝撃試験を行ったので、この試験結果について説明する。
【0075】
このシャルピー衝撃試験の結果、図11に示すように、(Sb+Sn)の添加量が30mass%で、Snの添加量15mass%のとき、つまり、SbとSnとの比が1:1のとき、シャルピー衝撃値が最小になることが分かった。
【0076】
続いて、脆化剤(Sb+Sn)中のSbとSnとの比を1:1にし、Cuを主成分とする金属層に対して、この脆化剤を各量加えた際のこの金属層の脆化度について前述のシャルピー衝撃試験を行ったので、この試験結果について説明する。
【0077】
このシャルピー衝撃試験の結果、図12に示すように、脆化剤(Sb+Sn)の添加量が多くなるに連れて次第にシャルピー衝撃値が小さくなり、脆化剤(Sb+Sn)の添加量が10mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の4J/mになり、16mass%になると、シャルピー衝撃値が前述の3J/mになり、35mass%以上では、シャルピー衝撃値がほとんど低下しなくなることが分かった。
【0078】
したがって、SbとSnとの比が1:1の脆化剤(Sb+Sn)の添加量としては、10〜35mass%が好ましく、16〜35mass%がより好ましい。
【0079】
前述したように、SbやSnを含むホワイトメタルは存在するものの、SbとSnとの比が1:1に近いホワイトメタルは存在しない。このため、SbとSnとの比が1:1の脆化剤(Sb+Sn)を用いる場合には、Sb単体及びSn単体を個別に購入し、これらを灰溶融炉へ投入する前に混ぜ合わせる、または灰溶融炉へ投入した後に混ぜ合わせることが好ましい。但し、SbとSnとの比が1:1に近いホワイトメタルは存在しないものの、両方を含んでいれば、Sb単体やSn単体を脆化剤として用いる場合よりも脆化効果が高いため、SbとSnとの両方を含んでいるホワイトメタル3種、4種、6種、7種を脆化剤として用いてもよい。
【0080】
(3)Fe及びCuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤
Fe及びCuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤としては、以下のa)〜c)がある。
【0081】
a)Zn、ZnO、Zn合金(例えば、ホワイトメタル5種)
Fe及びCuを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤と投入した場合、同一気圧下でのZnの融点(大気圧下で419℃)が、CuやFeの融点に比べて極めて低いため、冷却固化工程(S7)において、CuやFeが固化した後もZnの蒸発は継続する。このため、炉室12内温度が作業温度T0以下になった時点で(S8)、Fe及びCuを主成分とする金属層には、微細な多数の空隙が形成される、言い換えると、この金属層が多孔質化する。よって、Fe及びCuを主成分とする金属層は脆くなる。
【0082】
b)La、La酸化物(例えば、La
Laは、空気中等の水分と結合して水酸化物を形成し粉状に変化する性質がある。このため、Fe及びCuを主成分とする溶融金属に、これらの脆化剤と投入すると、Laが水酸化物を形成して、粒状化するに伴って、固化した金属層が脆くなる。
【0083】
ミッシュメタルは、LaやCeを主体とする混合希土類であり、同量のLaを得ようとする場合、純度の高いLa単体や、純度の高いLa酸化物を得る場合よりも、ミッシュメタルの方が比較的低価格で得ることができる。このため、コスト的には、このミッシュメタルを用いることが好ましい。
【0084】
ここで、Fe及びCuを主成分とする溶融金属にミッシュメタルを投入する実験を行ったので、以下で簡単に説明する。
【0085】
ミッシュメタルを投入していない溶融金属は、固化すると、その金属層の硬度が240(Hv)程度であった。また、ビッカース圧子を打ち込んだ後には、クラックを何ら観察することができなかった。一方、ミッシュメタルを投入した溶融金属は、固化すると、その金属層の硬度が420(Hv)程度にまで上がった。また、ビッカース圧子を打ち込んだ後には、図13に示すように、多数のクラックを観察することができた。よって、この実験からも、ミッシュメタルを投入することで、金属層を脆くすることができることは明確である。
【0086】
c)h−BN(六方晶窒化ホウ素)
h−BNは、低温状態でも高温状態でも極めて化学的に安定した物質で、他の材料とほとんど反応しないため、潤滑剤として知られている物質である。このため、溶融金属中にh−BNを投入しても、溶融金属とh−BNとは反応しないが、固化した金属層中の金属粒界中にh−BNが存在することで、金属結晶粒相互間での結合力が弱まる。このため、溶融金属中にh−BNを投入すると、固化した金属層を脆くすることができる。
【0087】
なお、このh−BNは、比重が2.3と小さく、溶融金属の上に単に載せただけでは、溶融金属中に入りこまないため、このh−BNを脆化剤として溶融金属に投入する際には、灰溶融炉10を傾けている状態で投入する必要がある。
【0088】
以上、(1)〜(3)の脆化剤を紹介したが、これらを単独で用いてもよいが、これらを組み合わせて用いてもよい。特に、(1)Feを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤と、(2)Cuを主成分とする金属層を脆化させる脆化剤とは、両脆化剤を組み合わせて用いることが好ましい。これは、廃棄物焼却灰を溶融して得られる溶融金属は、廃棄物焼却灰の取得経路や取得時期によって、FeとCuとの比率が変化するものの、両金属を含んでいることがほとんどであるため、各金属層を脆化させる方が、炉室12内で固化した金属層の分割・除去が容易になるからである。
【0089】
(1)の脆化剤と(2)の脆化剤を組み合わせて用いる場合、灰溶融炉10を傾けている状態で、両脆化剤を同時に投入してもよいが(S4)、灰溶融炉10を傾ける前に(S3)、(1)の脆化剤を投入し(S4a)、灰溶融炉10を傾けている状態で、(2)の脆化剤を投入してもよい(S4b)。なお、(1)の脆化剤を投入した後(S4a)、灰溶融炉10を傾けている状態で、投入する脆化剤は、(3)の脆化剤であってもよい。また、灰溶融炉10を傾けている状態で、両脆化剤を同時に投入する場合、(1)の脆化剤中のb)の脆化剤は、前述したように、溶融スラグの存在を前提とし、灰溶融炉10を傾ける前に投入する必要があるため、灰溶融炉10を傾けている状態で同時に投入する脆化剤にはならない。
【0090】
これらの脆化剤は、投入口18から投入する以外に、灰溶融炉10の最初の立ち上げ時(炉内耐火物は浸食のため、定期的に交換する必要があり、交換後の最初の運転開始時)に、最初から炉底に敷いておいても良い。これらの脆化剤は、傾動時に多少流れてしまうものの、大部分は炉内にそのまま留まるので、メタルはつり時に脆化の効果を発揮する。この方法であれば、フィーダ26より上方に灰を貯めておくホッパにも何ら改造を加えることなく実施できる。
【0091】
以上、プラズマ式灰溶融炉10内に堆積した金属を除去する方法について説明したが、本発明はプラズマ式灰溶融炉10に限定されるものではなく、固化した金属層を除去する必要が生じる灰溶融炉10であれば、如何なるタイプの灰溶融炉10であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
10:灰溶融炉、11:炉本体、12:炉室、13:側周壁、14:天井壁、15:底壁、17a,17b:耐火物、18:投入口、19:排出口、21:主電極、22:炉底電極、26:フィーダ、28:傾動シリンダ、29:傾動軸、30:エアーブレーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物焼却灰を溶融する灰溶融炉内に堆積した金属を除去する灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記灰溶融炉内で溶融している前記廃棄物焼却灰に、該廃棄物焼却灰中の金属が固化した際に、固化した金属層の分断を容易にする分断補助剤を投入する補助剤投入工程と、
前記補助剤投入工程後に、前記金属層を固化させる固化工程と、
前記固化工程で固化した前記金属層を分断し、前記灰溶融炉から除去する除去工程と、
を実行することを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記分断補助剤は、前記金属層を脆化させる脆化剤である、
ことを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記補助剤投入工程後であって、前記固化工程前に、前記灰溶融炉内の金属の温度を低下させない保温工程、
を実行することを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記灰溶融炉は、前記廃棄物焼却灰が投入される炉室が内部に形成されている炉本体と、該炉室内への投入物を加熱する加熱手段と、を有しており、
前記炉本体は、側周壁と、該側周壁の上方開口を塞ぐ天井壁と、該側周壁の下方開口を塞ぐ底壁と、を有し、該底壁の内面は、中心側に向かうに連れて次第に炉室内側から炉外側に凹んだ形状を成し、該側周壁には、投入口及び排出口が形成されており、
前記固化工程より前に、前記灰溶融炉内で溶融している前記廃棄物焼却灰の一部を、該灰溶融炉を傾けて、該灰溶融炉の前記排出口から強制的に流出させ、その後、該灰溶融炉の傾けを元に戻す強制流出工程、
を実行することを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。
【請求項5】
請求項4に記載の灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記強制流出工程で前記灰溶融炉を傾けている最中に、前記分断補助剤を前記投入口から投入する、
ことを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記分断補助剤は、Si、SiO及び当該SiOの還元剤、リン、リン酸塩化合物及び当該リン酸塩化合物の還元剤、Sb、Sb酸化物及びSb酸化物の還元剤、Sb合金、Sn、Sn酸化物及びSn酸化物の還元剤、Sn合金、Zn、La、La、h−BN(六方晶窒化ホウ素)のうち、少なくとも一つを含む、
ことを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。
【請求項7】
請求項4に記載の灰溶融炉内金属の除去方法において、
前記補助剤投入工程は、前記強制流出工程の前に、第一分断補助剤を前記投入口から投入する第一補助剤投入工程と、前記強制流出工程で前記灰溶融炉を傾けている最中に、第二分断補助剤を前記投入口から投入する第二補助剤投入工程と、を有し、
前記第一分断補助剤は、
Si、SiO及び当該SiOの還元剤、SiOの還元剤、リン、リン酸塩化合物及び当該リン酸塩化合物の還元剤のうち、少なくとも一つを含み、
前記第二分断補助剤は、Sb、Sb酸化物及びSb酸化物の還元剤、Sb合金、Sn、Sn酸化物及びSn酸化物の還元剤、Sn合金、Zn、La、La、h−BN(六方晶窒化ホウ素)のうち、少なくとも一つを含む、
ことを特徴とする灰溶融炉内金属の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−107853(P2012−107853A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208970(P2011−208970)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(501370370)三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】