説明

炉心流量測定装置及び炉心流量測定方法

【課題】
ダウンカマ内に流速分布がある場合や流速分布が変化する場合でも、炉心流量を精度よく計測可能な超音波炉心流量計の配置方法を提供する。
【解決手段】
インターナルポンプを10個備えた原子炉圧力容器の周方向に7個,8個,9個,11個,12個,13個,14個のうちのいずれかの個数の超音波炉心流量計を配置する、又は、インターナルポンプを8個備えた原子炉圧力容器の周方向に5個,7個,9個,10個,11個のうちの何れかの個数の超音波炉心流量計を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉圧力容器内の炉心流量を計測する炉心流量測定装置及び炉心流量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉では炉心を冷却するために、インターナルポンプを用いて冷却材を循環させている。原子炉の運転は、給水流量,炉心流量などの計測誤差を含めて安全基準を満たすように制御されている。これらの流量計測精度が向上して誤差が減少すれば、その分出力を増加させても安全基準を満たして運転することが可能となり、経済的なメリットが大きい。
【0003】
このため、炉心流量を計測することが行われているが、炉心流量の計測方法としては、〔特許文献1〕に記載のように、インターナルポンプの差圧を計測し、事前の試験で得た差圧と流量との関係式を用いて個々のポンプの流量を換算し、換算値の合計から炉心流量を算出している。
【0004】
また、流量計測精度を向上させる方法の一つとして、差圧式流量計測に代わり、超音波流量計の導入が検討されている。現在のところ、超音波流量計が炉心流量の計測に採用されている例はないが、従来の技術として、〔特許文献2〕,〔特許文献3〕に記載の超音波流量計を用いた炉心流量計測方法がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−231090号公報
【特許文献2】特開2003−329792号公報
【特許文献3】特開2006−053082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダウンカマ内の流速は場所によって異なり、原子炉圧力容器の中心から外側に向かう径方向、原子炉圧力容器の周方向(θ方向)のいずれにも分布がある。特にインターナルポンプの配置位置に起因する周方向の分布が大きい。
【0007】
この流速分布の問題に対し、〔特許文献2〕に記載の従来の技術では、複数の超音波炉心流量計で流速を計測し、それぞれの計測値をもとに流速分布を考慮した補正をして、炉心流量を計算する方法を提案している。又、〔特許文献3〕に記載の従来の技術は、炉心部分を収納するシュラウド及び原子炉圧力容器の間のダウンカマ部の原子炉圧力容器外側に、一方の超音波トランスデューサをインターナルポンプ頂部よりも上側に設置され他方のトランスデューサをインターナルポンプの頂部よりも下側か頂部付近に設置することを提案している。
【0008】
しかし、補正による誤差が考えられる他、流速分布が変化する場合には適用できないという問題がある。また、流速分布は、流量,温度,圧力などによって変化する可能性があり、経年変化も考えられるため、流速分布の補正係数を得るためには、試験やシミュレーションが必要になる。
【0009】
〔特許文献2〕,〔特許文献3〕に記載の従来の技術は、超音波炉心流量計の原子炉圧力容器の周方向の配置位置については、配慮されておらず、インターナルポンプとの関係について述べられていない。
【0010】
本発明の目的は、ダウンカマ内に流速分布がある場合や流速分布が変化する場合でも、精度よく計測可能な炉心流量測定装置及び炉心流量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、インターナルポンプを10個備えた原子炉圧力容器の周方向に7個,8個,9個,11個,12個,13個,14個のいずれかの個数の超音波炉心流量計を配置するものである。
【0012】
また、インターナルポンプを8個備えた原子炉圧力容器の周方向に5個,7個,9個,10個,11個のうちのいずれかの個数の超音波炉心流量計を配置するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダウンカマ内に流速分布がある場合や流速分布が変化する場合でも、周方向の流速分布の影響を低減し、炉心流量を精度よく計測できる。また、流速分布の補正係数を調べる試験やシミュレーションの作業量とコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の各実施例を図面により説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1を図1から図9により説明する。超音波炉心流量計の設置例を図1に示す。
【0016】
沸騰水型原子炉は次のように構成されている。原子力圧力容器2内には、シュラウド4により包囲された炉心6が設置され、炉心6は燃料集合体を図示しない炉心支持板により保持している。原子炉圧力容器2の下部には、炉心6内に冷却材を再循環させるための複数台のインターナルポンプ3が設置されている。
【0017】
インターナルポンプ3により、原子炉圧力容器2内の冷却材は炉心6に供給され、強制循環される。炉心6で加熱され蒸気となって、シュラウド4の上方の汽水分離器で気液分離され、乾燥蒸気は図示しない主蒸気管からタービンへ導かれ、復水となって原子力圧力容器2内に流入する。流入した冷却材は、ダウンカマ5を下降し、インターナルポンプ3により再循環される。
【0018】
超音波炉心流量計1は、原子力圧力容器2の外側に取り付けられ、超音波信号を受送信し、炉心シュラウド4で反射した超音波信号の伝播時間差からダウンカマ5を流れる冷却材の流速を計測する。
【0019】
炉心流量は、ダウンカマ5の流路面積と流速の積から計算される。流速検出部分では、伝搬時間差法により流速を検出している。超音波による流速検出では、超音波が伝播する領域の流速を測定する。超音波は炉心中心に向かって伝播しており、図9に示す2つの超音波トランスデューサ7の設置位置と炉心中心軸とを含む平面上の矢印方向の流速を測定している。
【0020】
2つの超音波トランスデューサ7は送受信兼用であり、超音波送受信用の振動子をくさび材を介して配置してある。超音波は、原子炉圧力容器2を通り、冷却材の流れに対し、角度δで伝播する。角度δは、原子炉圧力容器2内面の法線と超音波の伝播経路とのなす角度である。流速測定には、超音波を、流れの下流側,上流側に交互に伝播させ、下流側と上流側への到達時間差Δtを測定する。冷却材の流速Vは、数1で表わされる。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、Cは冷却材の音速、Lはダウンカマ5の幅、すなわち原子炉圧力容器2の内
壁とシュラウド4の間の距離である。ダウンカマ5における冷却材の流速は、分布を有している。
【0023】
図2は原子炉圧力容器を上から見た断面図である。超音波炉心流量計1は、原子炉圧力容器2の周囲に複数取り付けられる。それぞれの超音波炉心流量計は取り付けられた角度θにおける流速を計測する。
【0024】
図3に周方向の流速分布の例を示す。この周方向の流速分布により、超音波炉心流量計1を配置する位置と個数が計測精度に影響する。超音波炉心流量計を周方向に隙間なく配置することは、空間的制限やコストなどの問題から実現できないため、精度を維持しつつ配置数を抑えることが求められる。
【0025】
ダウンカマ5内を流れる冷却材の流速には分布がある。この流速分布はインターナルポンプ3による循環が主な要因である。図3に示すように、周方向にはインターナルポンプ3の配置に対応して周期的な分布があり、インターナルポンプ3が設置される角度θ=0°,36°,72°,108°,144°,180°,216°,252°,288°,324°で流速が大きい。又、インターナルポンプ3に近いダウンカマ下部領域ほどこの周期的な分布が顕著になる。
【0026】
周方向の流速分布は、理想的にはインターナルポンプ3の配置による周期的な分布になるが、実際には、原子炉圧力容器2の形状の非対称性による分布、インターナルポンプ3の個体差などによる誤差を含んでいる。インターナルポンプ3の配置による周期的成分をvp(θ)、その他の要因によって生じる誤差をあわせてノイズ成分vn(θ)とすると、角度θでの計測流速v(θ)は数2で表される。
【0027】
【数2】

【0028】
ただし、周期的成分vp(θ)はインターナルポンプ3の数をNpとすると、周期的条件から数3を満たす。
【0029】
【数3】

【0030】
超音波炉心流量計の数NS、各超音波炉心流量計の配置角度θi、ダウンカマ断面積をSとすると、計測される炉心流量Wは数4で表される。
【0031】
【数4】

【0032】
以下、本実施例ではインターナルポンプ3の数Np=10として説明する。ここで、図2は、従来の差圧式流量計による計測位置と同様に、Ns=10個の超音波炉心流量計1をそれぞれインターナルポンプの位置に配置した例である。超音波炉心流量計はθ=0°,36°,72°,108°,144°,180°,216°,252°,288°,324°における流速を計測する。これは、図3に示す目盛線の位置に対応している。このときの計測流量は数5で表される。
【0033】
【数5】

【0034】
数5の第一項は周期的成分であり、全ての超音波炉心流量計は同じ流速、すなわち周期的成分の極大値を計測して平均した値となっている。
【0035】
一方、第二項であるノイズ成分については複数の異なる流速を平均することになる。図4にノイズ成分の例を示す。ノイズ成分は原子炉圧力容器2の非対称性による長周期的な成分や周期性のないランダムな成分などを含んでいる。このノイズ成分はθ=0°,36°,72°,108°,144°,180°,216°,252°,288°,324°で計測した値を平均すれば誤差の影響を低減できる。ただし、ノイズ成分が超音波炉心流量計1の数の10の倍数周期の場合は、同じ位相の値を平均することになるので誤差が大きくなることがある。
【0036】
この超音波炉心流量計1の配置では、周期的成分の極大値を計測しているので、真の流量を得るためには補正が必要である。流速分布の補正係数をkとすると炉心流量Wは数6で表される。
【0037】
【数6】

【0038】
この補正係数kはあらかじめ試験やシミュレーションで求めておく。しかし、流速分布は流量,温度,圧力などによって変化する可能性があり、経年変化も考えられる。例えば、流速分布の形状が図3から図5に示すように変化した場合には、正しい流量を求めることができない。
【0039】
本実施例による超音波炉心流量計1の配置例を図6に示す。10個のインターナルポンプ3のうち、9個の超音波炉心流量計を等間隔に配置している。超音波炉心流量計1の計測位置はθ=0°,40°,80°,120°,160°,200°,240°,280°,320°である。これは図7に示す目盛線の位置に対応している。このときの計測流量は数7で表される。
【0040】
【数7】

【0041】
数式7の第一項は周期的成分を示しており、θ=0°,40°,80°,120°,160°,200°,240°,280°,320°における計測値は、周期的条件によりそれぞれθ=0°,4°,8°,12°,16°,20°,24°,28°,32°における計測値と等価である。
【0042】
すなわち、図8に示すように、流速分布の一周期を全体的に計測することに相当し、周方向の流速分布の補正をしなくても真の流量に近い流量を計測できる。また、図5に示すように流速分布の形状が変化しても、一周期を全体的に計測するので真の流量に近い流量を計測できる。
【0043】
一方、第二項であるノイズ成分については、前述の図2に示す配置の場合と同様に、複数の異なる流速を平均することになる。ノイズ成分は原子炉圧力容器2の非対称性による長周期的な成分や、周期性のないランダムな成分などを含んでいるが、超音波炉心流量計1数の9の倍数周期のノイズ成分以外は平均化されるので、誤差を低減できる。
【0044】
超音波炉心流量計1は、冷却材と接触しないので、9の倍数周期の流速分布が生じることは考えにくい。もし、ノイズ成分が9の倍数周期である場合には、超音波炉心流量計1の数をノイズ周期と異なる数にすればよい。
【0045】
周期的成分の極大値と極小値を含み、それ以外の位相でも計測するために必要な最少の計測点は一周期あたり4点である。10個のインターナルポンプ3を備えた原子炉圧力容器では、7個,8個,9個,11個,12個,13個,14個の超音波炉心流量計を配置すると、周期的成分の一周期あたり4点以上の位相で流速を計測することに相当する。したがって、これらの数のうちノイズ成分の周期と重ならない数の超音波炉心流量計を配置すればよい。
【0046】
本実施例の超音波炉心流量計の配置により、流速分布の周期的成分は一周期を全体的に計測することに相当し、ノイズ成分は複数の計測点で平均化されるので、流速分布の影響を低減できる。したがって、周方向に関する流量補正は不要であるか、或いは簡易なものでよい。例えば、図6の配置例で図7の流速分布の場合を計算すると、真の平均流速1.492に対して計測される平均流速は1.488であり、補正がなくても真の値に近い計測を行えることが分る。
【0047】
なお、ダウンカマ5の下部領域に超音波炉心流量計1を配置すればインターナルポンプに近いので、周期的成分がノイズ成分に比べて大きく、より望ましい。
【0048】
このように、本実施例によれば、ダウンカマ内に流速分布がある場合や流速分布が変化する場合でも、周方向の流速分布の影響を低減し、炉心流量を精度よく計測できる。また、流速分布の補正係数を調べる試験やシミュレーションの作業量とコストを低減できる。
【実施例2】
【0049】
8個のインターナルポンプ3を備えた原子炉圧力容器2では、5個,7個,9個,10個,11個の超音波炉心流量計を配置すると、周期的成分の一周期あたり4点以上の位相で流速を計測することに相当する。したがって、これらの数からノイズ成分の周期と重ならない数の超音波炉心流量計を配置すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ダウンカマ内に流速分布がある場合や流速分布が変化する場合でも、周方向の流速分布の影響を低減し、炉心流量を精度よく計測できる。また、流速分布の補正係数を調べる試験やシミュレーションの作業量とコストを低減できる。流量計測の精度向上の結果として、効率的に発電することが可能となり、経済的に優れたプラントにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】超音波炉心流量計が配置された原子炉圧力容器の縦断面図である。
【図2】超音波炉心流量計が配置された原子炉圧力容器の横断面図である。
【図3】周方向の流速分布の説明図である。
【図4】周方向の流速分布のノイズ成分の説明図である。
【図5】周方向の流速分布の説明図である。
【図6】超音波炉心流量計が配置された原子炉圧力容器の横断面図である。
【図7】周方向の流速分布の説明図である。
【図8】周方向の流速分布の周期的成分の説明図である。
【図9】流速計測の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 超音波炉心流量計
2 原子炉圧力容器
3 インターナルポンプ
4 炉心シュラウド
5 ダウンカマ
6 炉心
7 超音波トランスデューサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターナルポンプを10個備えた原子炉であって、該原子炉の原子炉圧力容器の周方向に7個,8個,9個,11個,12個,13個,14個のうちのいずれかの個数の超音波炉心流量計を配置した超音波炉心流量測定方法。
【請求項2】
インターナルポンプを8個備えた原子炉であって、該原子炉の原子炉圧力容器の周方向に5個,7個,9個,10個,11個のうちのいずれかの個数の超音波炉心流量計を配置した超音波炉心流量測定方法。
【請求項3】
10個のインターナルポンプと、7個,8個,9個,11個,12個,13個,14個のうちのいずれかの個数の超音波炉心流量計を、原子炉圧力容器の周方向に備えた炉心流量測定装置。
【請求項4】
8個のインターナルポンプと、5個,7個,9個,10個,11個のうちのいずれかの個数の超音波炉心流量計を、原子炉圧力容器の周方向に備えた炉心流量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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