説明

炉心熱的制限値監視装置、炉心監視システムおよび炉心熱的制限値監視方法

【課題】炉心熱的制限値監視装置の計算周期を短縮する。
【解決手段】複数の監視領域10に分割された炉心3の熱的状態値を監視して制御装置1に信号を出力する炉心熱的制限値監視装置2に、複数の計算処理部12と、これらに対応した信号入力処理部11と同期処理部13と出力処理部14とを備える。計算処理部12は、信号入力処理部12が受信した炉心3の状態を示す信号に基づいて監視領域10の熱的状態値を算出して制御装置1への信号出力の要否を判定する。同期処理部13は、計算処理部12が制御装置1への信号出力が必要と判定した場合には他の同期処理部13に対して信号出力停止信号を伝達し、不要と判定したときには他の同期処理部13に対して信号出力停止解除信号を伝達する。出力処理部14は、同期処理部13が信号停止信号を受信していないときに信号処理部12の計算結果の信号を制御装置1へ出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の炉心の熱的状態値を監視して原子炉の制御装置に信号を出力する炉心熱的制限値監視装置、炉心監視システムおよび炉心熱的制限値監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、沸騰水型原子力発電プラントにおいては、制御棒操作と再循環流量制御による出力制御が行われている。このため、炉心監視システムによる熱的状態値の監視が行われている。このような炉心監視システムとしては、時間のかかる出力分布計算を行う炉心性能計算装置と、相対的に時間の短い炉心熱的制限値監視装置の組み合わせによる監視がある。
【0003】
炉心性能計算装置は、出力分布計算に長い時間を要する。そこで、炉心性能計算装置と炉心熱的制限値監視装置とを組み合わせた炉心監視システムでは、相対的に短い計算時間で結果が得られる炉心熱的制限値監視装置を補完的に用いて、監視を行う。
【0004】
炉心熱的制限値監視装置の計算時間は短い方が望ましいが、炉心の監視対象全領域に対応した計算処理が必要であるため、200ms程度の計算周期が限界であった。また、炉心は複数の領域に分けて複数のCPUを備えたコンピュータで監視される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−278991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炉心を複数の領域に分けて複数のCPUを備えたコンピュータで監視する場合、制御装置は全CPUからの信号出力状態を判定する。しかしながら、制御装置側では信号出力が不要なCPUについても信号出力状態を判定しなければならないので、制御装置側では炉心熱的制限値監視装置からの出力信号に従った処理を行うことができず、全体の計算時間を短縮することができない。
【0007】
そこで、本発明は、制御装置側で炉心熱的制限値監視装置からの出力信号に従った処理を行い、全体の計算周期を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明は、原子炉の炉心の熱的状態値を監視して前記原子炉の制御装置に信号を出力する炉心熱的制限値監視装置において、複数の監視領域に分割された前記炉心の状態を示す信号を受信する複数の信号入力処理部と、前記信号入力処理部のそれぞれに対応して設けられ、対応する前記信号入力処理部が受信した信号に基づいて前記監視領域の熱的状態値を算出して前記制御装置への信号出力の要否を判定する計算処理部と、前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられた同期処理部と、前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられた出力処理部と、を有し、前記同期処理部は、対応する前記計算処理部が前記制御装置への信号出力が必要と判定した場合には他の前記同期処理部に対して信号出力停止信号を伝達し、前記制御装置への信号出力が不要と判定したときには他の前記同期処理部に対して信号出力停止解除信号を伝達し、前記出力処理部は、対応する前記同期処理部が前記信号停止信号を受信していないときに前記信号処理部の計算結果の信号を前記制御装置に出力することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数のCPUを備えたコンピュータで原子炉の炉心の熱的状態値を監視して前記原子炉の制御装置に信号を出力する炉心熱的制限値監視方法において、前記CPUのそれぞれが複数の監視領域に分割された前記炉心の状態を示す信号を受信する信号入力処理ステップと、前記CPUのそれぞれが受信した信号に基づいて前記監視領域の熱的状態値を算出して前記制御装置への信号出力の要否を判定する計算処理ステップと、前記制御装置への信号出力が必要と判定した場合に他の前記CPUに対して信号出力停止信号を伝達するステップと、前記制御装置への信号出力が不要と判定した場合に他の前記CPUに対して信号出力停止解除信号を伝達するステップと、前記制御装置の信号出力が必要と判定した場合であって前記信号停止信号を受信していないときに前記制御装置に計算結果の信号を出力する出力処理ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制御装置側で炉心熱的制限値監視装置からの出力に従った処理を行えるので、計算周期を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第1の実施の形態におけるブロック図である。
【図2】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第1の実施の形態における炉心の領域分割方法を示す模式的横断面図である。
【図3】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第1の実施の形態における炉心熱的制限監視方法のフローチャートである。
【図4】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態におけるブロック図である。
【図5】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態における炉心のパターン1での領域分割方法を示す模式的横断面図である。
【図6】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態における炉心のパターン2での領域分割方法を示す模式的横断面図である。
【図7】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態における炉心のパターンXでの領域分割方法を示す模式的横断面図である。
【図8】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態における領域定義情報記憶部に記憶される情報の例を示すテーブルである。
【図9】本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態における炉心熱的制限監視方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第1の実施の形態におけるブロック図である。図2は、本実施の形態における炉心の領域分割方法を示す模式的横断面図である。
【0014】
本実施の形態の炉心熱的制限値監視装置2は、炉心3から局所出力モニター(LPRM:Local Power Range Monitor)などから受信した炉心3の状態を示す信号に基づいて炉心3が熱的制限値を満足していない可能性などを推定して、制御装置1に信号を出力する。炉心3は、M個の領域に分割されている。同じ番号の領域が離れて存在していてもよい。本実施の形態では、図2に示すように、炉心3の領域分割数Mは30であり、同じ番号の領域が4箇所に離れて存在している。
【0015】
炉心熱的制限値監視装置2は、複数のI/O(入出力装置)およびそれらに対応したCPUを備えている。本実施の形態では、I/OおよびCPUの個数をN個とする。また、炉心熱的制限値監視装置2は、#1から#NまでのN個のI/Oが信号入力処理部11を備えている。#1から#NまでのN個のそれぞれのCPUに対応して計算処理部12、同期処理部13および信号出力処理部14が設けられている。
【0016】
計算処理部12は、炉心3の対応する領域の計算を行う。信号出力処理部14は、制御装置1に対し信号出力を行う。同期処理部13は、他のCPUと信号出力停止/信号出力停止解除をやり取りする。信号入力処理部11は、計算処理に必要なデータを入力する。
【0017】
図3は、本実施の形態における炉心熱的制限監視方法のフローチャートである。
【0018】
まず、信号入力処理部11は、対応する炉心3の領域の状態を示す信号を受信して、計算処理部12に伝達する(ステップS1)。CPU#1の計算処理部12はI/O#1の信号入力処理部11から、CPU#2の計算処理部12はI/O#2の信号入力処理部11から、CPU#Nの計算処理部12はI/O#Nの信号入力処理部11から、データが入力される。
【0019】
計算処理部12は、炉心3内の対応する割付計算処理番号の領域について必要な計算処理を行って熱的状態値を算出する(ステップS2)。CPU#1の計算処理部12は領域01、05、09、13、17、21、25、29の計算を、CPU#2の計算処理部12は領域02、06、10、14、18、22、26、30の計算を、CPU#Nの計算処理部12は領域04、08、12、16、20、24、28、Mの計算を、それぞれ行う。さらに、計算処理部12は、制御装置1への信号出力が必要か否かを判定する(ステップS3)。
【0020】
計算の結果、信号出力が必要と判定したCPUの同期処理部13は、他のCPUから信号出力停止を受信していなければ、他のCPUの同期処理に対し信号出力停止を指示した上で、信号出力処理部14を介して信号出力を行う。信号出力を行ったCPUの同期処理部13は、信号出力が不要になった時点で、他のCPUの同期処理部13に対し信号出力停止解除を指示する。信号出力停止を同期処理部13で受けたCPUでは、計算処理部12の計算の結果、信号出力が必要となっても、信号出力停止解除を受けるまでは信号出力処理部14を介した信号出力は行わない。
【0021】
より具体的には、制御装置1への信号出力が不要の場合、その計算処理部12に対応する同期処理部13は、他の同期処理部13に対して信号出力停止信号を送信済みか否かを確認する(ステップS4)。当該同期処理部13が他の同期処理部13に対して信号出力停止信号を送信済みの場合、当該同期処理部13は他の同期処理部13に対して信号出力停止解除信号を送信する(ステップS5)。
【0022】
制御装置1への信号処理が必要である場合、その計算処理部12に対応する同期処理部13は、他の同期処理部13から信号出力停止信号を受信していないかどうかを確認する(ステップS6)。当該同期処理部13が他の同期処理部13から信号出力停止信号を受信していた場合は、ステップS1に戻る。当該同期処理部13が他の同期処理部13から信号出力停止信号を受信していない場合、当該同期処理部13は、他の同期処理部13に対して信号出力停止信号を送信し(ステップS7)、対応する信号出力処理部14に信号出力処理を指示する。この指示により、当該信号出力処理部14は、制御装置1に信号を出力する(ステップS8)。その後、ステップS1に戻る。
【0023】
本実施の形態によれば、必要な計算を複数のCPUの計算処理部12で分担しているため、一つのCPUの計算処理で全ての領域の計算を行っていた場合に比べて、1つのCPUあたりの計算量を減らし計算時間が短縮できる。また、各CPUがばらばらに制御装置1に対して信号出力を行うのではなく、同期処理により信号出力が必要なCPUのみが信号出力を行っている。このため、制御装置1側では全CPUからの信号出力状態を判定することなく、炉心熱的制限値監視装置2からの出力信号に従った処理を行うことができる。したがって、制御装置1に対し矛盾なく信号出力を行いながら、全体の計算時間を短縮することができる。
【0024】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明に係る炉心熱的制限値監視装置の第2の実施の形態におけるブロック図である。図5は、本実施の形態における炉心のパターン1での領域分割方法を示す模式的横断面図である。図6は、本実施の形態における炉心のパターン2での領域分割方法を示す模式的横断面図である。図7は、本実施の形態における炉心のパターンXでの領域分割方法を示す模式的横断面図である。図8は、本実施の形態における領域定義情報記憶部に記憶される情報の例を示すテーブルである。
【0025】
本実施の形態の炉心熱的制限値監視装置2は、炉心3の領域毎に、1〜MのM個の領域番号と、その各領域番号の計算を#1〜#NのどのCPUが担当するかを示す割付計算処理番号を、1〜Xの複数のパターンについて定義する。このパターンは、たとえば運転サイクル毎の燃料の装荷パターンに対応して設定する。炉心3の領域の位置は、X座標−Y座標で示される。これらの割付計算処理番号は、たとえば図8に示すテーブルの形で、領域定義情報記憶部4に記憶される。
【0026】
各CPUに対応して、設定処理部5、領域定義情報テーブル6および読込処理部7が設けられている。設定処理部5は、領域定義情報記憶部4に記憶された情報を各CPUに設定する。領域定義情報テーブル6は、設定された情報を保持する。読込処理部7は、領域定義情報テーブル6の情報を、計算処理部12に反映する。
【0027】
図9は、本実施の形態における炉心熱的制限監視方法のフローチャートである。
【0028】
まず、X座標−Y座標で示される領域毎に、1〜Mの領域番号と、その各領域番号の計算を#1〜#NのどのCPUが担当するかを示す割付計算処理番号を定義して、領域定義情報記憶部4に記憶する(ステップS11)。次に、領域定義情報記憶部4に記憶された当該運転サイクルのパターンの領域定義情報を、設定処理部5を介して各CPUの領域定義情報テーブル6に設定する(ステップS12)。各CPUの計算処理部12は、読込処理部17を介して領域定義情報テーブルに設定されたパターンを確認する(ステップS13)。
【0029】
この後、運転サイクルの切り替え、あるいはパターンの変更が不要な場合は(ステップS14)、繰り返し、第1の実施の形態における一連の処理(ステップS1ないしステップS8)を行う。これにより、当該運転サイクルに対応したパターンに従って、各CPUの計算処理部12に割り付けられた領域の計算が行われ、同期処理、信号出力処理が行われる。運転サイクルの切り替え、あるいはパターンの変更が必要な場合は(ステップS14)、ステップS1に戻り、再度パターンの定義、領域定義情報テーブルの設定を行う。
【0030】
本実施の形態によれば、必要な計算を複数のCPUの計算処理部12で分担しているため、一つのCPUの計算処理で全ての領域の計算を行っていた場合に比べて、1つのCPUあたりの計算量を減らし計算時間が短縮できる。また、各CPUがばらばらに制御装置1に対して信号出力を行うのではなく、同期処理により信号出力が必要なCPUのみが信号出力を行っている。このため、制御装置1側では全CPUからの信号出力状態を判定することなく、炉心熱的制限値監視装置2からの出力信号に従った処理を行うことができる。したがって、制御装置1に対し矛盾なく信号出力を行いながら、全体の計算時間を短縮することができる。さらに、領域定義情報が変更可能であるため、運転サイクルに応じて領域の定義を柔軟に変更することができる。
【0031】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1…制御装置、2…炉心熱的制限値監視装置、3…炉心、4…領域定義情報記憶部、5…設定処理部、6…領域定義情報テーブル、7…読込処理部、11…信号入力処理部、12…計算処理部、13…同期処理部、14…信号出力処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の炉心の熱的状態値を監視して前記原子炉の制御装置に信号を出力する炉心熱的制限値監視装置において、
複数の監視領域に分割された前記炉心の状態を示す信号を受信する複数の信号入力処理部と、
前記信号入力処理部のそれぞれに対応して設けられ、対応する前記信号入力処理部が受信した信号に基づいて前記監視領域の熱的状態値を算出して前記制御装置への信号出力の要否を判定する計算処理部と、
前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられた同期処理部と、
前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられた出力処理部と、
を有し、
前記同期処理部は、対応する前記計算処理部が前記制御装置への信号出力が必要と判定した場合には他の前記同期処理部に対して信号出力停止信号を伝達し、前記制御装置への信号出力が不要と判定したときには他の前記同期処理部に対して信号出力停止解除信号を伝達し、
前記出力処理部は、対応する前記同期処理部が前記信号停止信号を受信していないときに前記信号処理部の計算結果の信号を前記制御装置に出力することを特徴とする炉心熱的制限値監視装置。
【請求項2】
前記監視領域毎に領域番号と割付計算処理番号を複数のパターンについて記憶する領域定義情報記憶部と、
前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられて前記領域定義情報記憶部に記憶された前記パターンを前記計算処理部に設定する設定処理部と、
前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられて前記パターンを保持する領域定義情報テーブルと、
前記計算処理部のそれぞれに対応して設けられて前記領域定義情報テーブルの情報を計算処理部に反映する読込処理部と、
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の炉心熱的制限値監視装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の炉心熱的制限値監視装置と、
出力分布計算を行う炉心性能計算装置と、
を備えたことを特徴とする炉心監視システム。
【請求項4】
複数のCPUを備えたコンピュータで原子炉の炉心の熱的状態値を監視して前記原子炉の制御装置に信号を出力する炉心熱的制限値監視方法において、
前記CPUのそれぞれが複数の監視領域に分割された前記炉心の状態を示す信号を受信する信号入力処理ステップと、
前記CPUのそれぞれが受信した信号に基づいて前記監視領域の熱的状態値を算出して前記制御装置への信号出力の要否を判定する計算処理ステップと、
前記制御装置への信号出力が必要と判定した場合に他の前記CPUに対して信号出力停止信号を伝達するステップと、
前記制御装置への信号出力が不要と判定した場合に他の前記CPUに対して信号出力停止解除信号を伝達するステップと、
前記制御装置の信号出力が必要と判定した場合であって前記信号停止信号を受信していないときに前記制御装置に計算結果の信号を出力する出力処理ステップと、
を有することを特徴とする炉心熱的制限値監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−153948(P2011−153948A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16199(P2010−16199)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】