説明

炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイル

【課題】排熱の有効利用に資する蓄熱体の炉体耐火物からの落下を防止することが可能であるとともに、設備コストおよび施工手間の低減も達成可能な炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイルを提供する。
【解決手段】炉内空間Sを区画形成する炉体耐火物2,3と、炉体耐火物の外側に設けられた支持構造体6と、支持構造体に炉体耐火物を連結するために、当該支持構造体に一端が係止され他端が炉体耐火物に定着されるアンカー部7,8を有するとともに、アンカー部から一体的に延長されて炉内空間へ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間へ放射する蓄熱部9,10を有する蓄熱体兼用アンカータイル11,12とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排熱の有効利用に資する蓄熱体の炉体耐火物からの落下を防止することが可能であるとともに、設備コストおよび施工手間の低減も達成可能な炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、加熱炉の燃焼排ガス通路に設置した耐熱性の蓄熱体を、流通する燃焼排ガスで高温に加熱し、高温に加熱された蓄熱体から放射される輻射熱を、被加熱物の加熱に利用したり炉内温度分布の調整に利用するようにして、排熱の有効利用による省エネルギ化を図った技術が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
また、支持梁等の支持構造体にアンカータイルを介して連結した炉体耐火物によって炉内空間を区画形成するようにした工業炉構造が知られている(特許文献4〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−115055号公報
【特許文献2】実公昭63−19313号公報
【特許文献3】実公平02−23996号公報
【特許文献4】実開昭62−12499号公報
【特許文献5】特開平07−324875号公報
【特許文献6】特開2007−240053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄熱体を炉体耐火物に取り付ける場合、炉床に置くか、あるいは当該蓄熱体を炉体耐火物にその表面から埋め込んで固定する必要がある。
【0006】
蓄熱体を炉床に置く場合、蓄熱体が落下する心配はないが、炉床に置くだけでは、炉内上部の温度調整を十分になし得ない。また、炉内で熱処理を行ったときに生じるダストが炉床に落下してその表面が汚れると、蓄熱体の機能が低下するので、適宜に炉床の清掃が必要となる。
【0007】
他方、炉内空間に面する炉体耐火物の表面は、炉操業によって長期間高温に晒されるため、その劣化に伴って蓄熱体の固定が緩んでくることが想定される。炉の側壁や天井に埋め込んで固定した蓄熱体では、固定の緩みが生じると、蓄熱体が炉内に落下することとなり、被加熱物の不良品発生や炉操業の停止など、トラブルが発生するおそれがある。
【0008】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、排熱の有効利用に資する蓄熱体の炉体耐火物からの落下を防止することが可能であるとともに、設備コストおよび施工手間の低減も達成可能な炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる炉構造は、炉内空間を区画形成する炉体耐火物と、該炉体耐火物の外側に設けられた支持構造体と、該支持構造体に上記炉体耐火物を連結するために、当該支持構造体に一端が係止され他端が上記炉体耐火物に定着されるアンカー部を有するとともに、該アンカー部から一体的に延長されて炉内空間へ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間へ放射する蓄熱部を有する蓄熱体兼用アンカータイルとを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記蓄熱体兼用アンカータイルがセラミック製であることを特徴とする。
【0011】
前記蓄熱体兼用アンカータイルは、炉内温度分布を調整するために、高温な炉内空間領域よりも相対的に低温な炉内空間領域に、より多く配設されることを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる蓄熱体兼用アンカータイルは、炉内空間を区画形成する炉体耐火物を支持構造体に連結するために、該支持構造体に一端が係止され他端が該炉体耐火物に定着されるアンカー部と、該アンカー部から一体的に延長されて炉内空間へ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間へ放射する蓄熱部とを一体的に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイルにあっては、排熱の有効利用に資する蓄熱体の炉体耐火物からの落下を防止することができるとともに、設備コストおよび施工手間の低減も達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかる炉構造の要部正面断面図である。
【図2】図1に示した炉構造の天井用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部正面断面図である。
【図3】図1に示した炉構造の天井用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部側面断面図である。
【図4】図1に示した炉構造の側壁用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部平面断面図である。
【図5】図1に示した炉構造の側壁用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部側面断面図である。
【図6】図4および図5に示した側壁用耐火物に取り付けられる蓄熱体兼用アンカータイルの係止操作を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイルの好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は本実施形態にかかる炉構造の要部正面断面図、図2は天井用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部正面断面図、図3は天井用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部側面断面図、図4は側壁用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部平面断面図、図5は側壁用耐火物に蓄熱体兼用アンカータイルを取り付けた状態の要部側面断面図、図6は、側壁用耐火物に取り付けられる蓄熱体兼用アンカータイルの係止操作を示す要部斜視図である。
【0016】
本実施形態にかかる炉構造1は基本的には、炉内空間Sを区画形成する炉体耐火物2,3と、炉体耐火物2,3の外側に設けられた支持構造体6と、支持構造体6に炉体耐火物2,3を連結するために、当該支持構造体6に一端が係止され他端が炉体耐火物2,3に定着されるアンカー部7,8を有するとともに、アンカー部7,8から一体的に延長されて炉内空間Sへ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間Sへ放射する蓄熱部9,10を有する蓄熱体兼用アンカータイル11,12とを備えて構成される。
【0017】
蓄熱体兼用アンカータイル11,12はセラミック製であることが好ましい。また、蓄熱体兼用アンカータイル11,12は、炉内温度分布を調整するために、高温な炉内空間領域よりも相対的に低温な炉内空間領域に、より多く配設されることが望ましい。
【0018】
また、本実施形態にかかる蓄熱体兼用アンカータイル11,12は、炉内空間Sを区画形成する炉体耐火物2,3を支持構造体6に連結するために、支持構造体6に一端が係止され他端が炉体耐火物2,3に定着されるアンカー部7,8と、アンカー部7,8から一体的に延長されて炉内空間Sへ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間Sへ放射する蓄熱部9,10とを一体的に形成したものである。
【0019】
図1に示すように、炉体耐火物2,3は、天井となる天井用耐火物2と、側壁となる左右一対の側壁用耐火物3と、床となる図示しない床用耐火物とからなる。これら耐火物2,3を正面断面四角形状に組むことで、炉体耐火物2,3は、被加熱物の搬送方向に沿って長い角筒状に形成され、その内部に炉内空間Sが区画形成される。炉体耐火物2,3の正面断面形状は四角形状に限らず、円形状であっても、多角形状であってもよい。天井用、側壁用の耐火物2,3や床用耐火物には一般に、キャスタブルなどの不定形耐火物が用いられる。
【0020】
天井用耐火物2は図示しないけれども、型枠となる容器に蓄熱体兼用アンカータイル11を立てて設置した後、当該容器内に不定形耐火物を充填固化して型取りすることで作成される。従って、蓄熱体兼用アンカータイル11は、型取りする際に、天井用耐火物2に定着される。
【0021】
この際、天井用耐火物2には、蓄熱体兼用アンカータイル11が当該天井用耐火物2を厚さ方向に貫通して、すなわち上下方向に貫通して、炉内空間Sに向けて連通される複数の縦向き貫通部4が形成される。
【0022】
側壁用耐火物3も、天井用耐火物2と同様に形成され、蓄熱体兼用アンカータイル12が当該側壁用耐火物3を厚さ方向に貫通して、すなわち横向きに貫通して、炉内空間Sに向けて連通される複数の横向き貫通部5が形成される。
【0023】
蓄熱体兼用アンカータイル11,12の表面にはその長さ方向に複数の凹凸が形成されるので、貫通部4,5の内面には、対応する凹凸が形成される。蓄熱体兼用アンカータイル11,12の表面は、雄ねじ条であっても良く、この場合、貫通部4,5の内面には雌ねじ条が形成される。ねじ形態を利用して、炉体耐火物2,3に予め雌ねじ条を形成しておき、この雌ねじ条に蓄熱体兼用アンカータイル11,12の雄ねじ条をねじ込んで定着させるようにしても良い。
【0024】
炉体耐火物2,3の外側には、左右一対のポスト13と、これらポスト13間に掛け渡されるビーム14とからなる支持構造体6が設けられる。支持構造体6は、角筒状の炉体耐火物2,3の長さ方向に間隔を隔てて複数配設される。これら支持構造体6は、鋼材などを用いて、炉体耐火物2,3を支持し得る強度で構成される。左右一対のポスト13は、横向き貫通部5に面して設置される。ビーム14は、縦向き貫通部4に面して設置される。
【0025】
蓄熱体兼用アンカータイル11,12は、全体的に中実のシャフト状で、炉体耐火物2,3の厚さよりも長く形成される。これら蓄熱体兼用アンカータイル11,12は、耐熱性および蓄熱性を備える金属製など、好ましくはセラミック製で形成される。
【0026】
図2および図3に示すように、天井用耐火物2に定着される天井用の蓄熱体兼用アンカータイル11は、上半部のアンカー部7と、下半部の蓄熱部9とから構成される。これらアンカー部7と蓄熱部9とは一体成形される。
【0027】
アンカー部7は、凹凸が形成されて天井用耐火物2の縦向き貫通部4に定着される定着部7aと、定着部7aよりも上方で、天井用耐火物2上方に露出される係止部7bとから構成される。
【0028】
係止部7bは、蓄熱体兼用アンカータイル11上端の鍔部で形成される。支持構造体6のビーム14にはパイプ材15が吊り下げられ、このパイプ材15にはクリップ16が取り付けられる。蓄熱体兼用アンカータイル11は、クリップ16を係止部7bに係止することにより、ビーム14に吊り下げて支承される。
【0029】
従って、天井用の蓄熱体兼用アンカータイル11は、定着部7aが天井用耐火物2の縦向き貫通部4に定着される一方、係止部7bがパイプ材15およびクリップ16を介してビーム14に支持され、これにより、天井用耐火物2はビーム14に連結されて支持される。アンカー部7から一体的に延長される蓄熱部9は、天井用耐火物2から炉内区間Sへ突出される。炉内空間Sへ突出された蓄熱部9は、炉内雰囲気で加熱されて蓄熱し、蓄熱分を輻射熱の形で炉内空間Sへ放射する。図示例にあっては、蓄熱部9は表面が無垢に形成されているが、定着部7aと同様の凹凸で形成するなどして、受熱面積を増大させるようにしてもよい。
【0030】
図4および図5に示すように、側壁用耐火物3に定着される側壁用の蓄熱体兼用アンカータイル12も、左右方向一方のアンカー部8と、他方の蓄熱部10とから構成される。これらアンカー部8と蓄熱部10も一体成形される。
【0031】
アンカー部8は、凹凸が形成されて側壁用耐火物3の横向き貫通部5に定着される定着部8aと、定着部8aの側方で、側壁用耐火物3側方に露出される係止部8bとから構成される。
【0032】
係止部8bには、蓄熱体兼用アンカータイル12端部の掛け止め穴が形成される。支持構造体6のポスト13にはL字状金物17が取り付けられる。蓄熱体兼用アンカータイル12は図6に示すように、L字状金物17を係止部8bの掛け止め穴に差し入れて係止することにより、ポスト13に支持される。
【0033】
従って、側壁用の蓄熱体兼用アンカータイル12は、定着部8aが側壁用耐火物3の横向き貫通部5に定着される一方、係止部8bがL字状金物17を介してポスト13に支持され、これにより、側壁用耐火物3はポスト13に連結されて支持される。アンカー部8から一体的に延長される蓄熱部10は、天井用の蓄熱体兼用アンカータイル11と同様に、側壁用耐火物3から炉内区間Sへ突出される。炉内空間Sへ突出された蓄熱部10は、炉内雰囲気で加熱されて蓄熱し、蓄熱分を輻射熱の形で炉内空間Sへ放射する。図示例にあっては、蓄熱部10も表面が無垢に形成されているが、定着部8aと同様の凹凸で形成するなどして、受熱面積を増大させるようにしてもよい。
【0034】
蓄熱体兼用アンカータイル11,12は、炉体耐火物2,3に適宜に配設することができるが、蓄熱部9,10から輻射熱を放射するので、排熱利用による省エネルギ化を図るために、高温な炉内空間領域よりも相対的に低温な炉内空間領域に、より多く配設することが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態にかかる炉構造1およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイル11,12の作用について説明する。蓄熱体兼用アンカータイル11,12は、例えばセラミック製であれば、アンカー部7,8から蓄熱部9,10にわたって一体的に焼成して生産する。金属製の場合も、冷間加工などによって、一体品として生産することができる。生産過程で、定着部7a,8aや係止部7b,8bとなる鍔部や掛け止め穴を形成すればよい。
【0036】
炉を構築する際には、不定形耐火物で天井用耐火物2および側壁用耐火物3を製作する際に、蓄熱体兼用アンカータイル11,12を定着させる。支持構造体6を構築した後、天井用の蓄熱体兼用アンカータイル11は、クリップ16に係止し、また、側壁用の蓄熱体兼用アンカータイル12は、L字状金物17に係止する。これにより、炉体耐火物2,3の支持構造物6への連結を完了する。
【0037】
炉操業では、蓄熱体兼用アンカータイル11,12の蓄熱部9,10が炉内雰囲気で加熱され、加熱された蓄熱部9,10は、蓄熱分に応じて輻射熱を炉内空間Sへ放射する。
【0038】
以上説明した本実施形態にあっては、支持構造体6に炉体耐火物2,3を連結するために、当該支持構造体6に一端が係止され他端が炉体耐火物2,3に定着されるアンカー部7,8を有するとともに、アンカー部7,8から一体的に延長されて炉内空間Sへ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間Sへ放射する蓄熱部9,10を有する蓄熱体兼用アンカータイル11,12であるとともに、これを備えた炉構造1であるので、蓄熱部9,10とアンカー部7,8が一体的であることにより、アンカー部7,8が支持構造体6に係止されるため、炉体耐火物2,3の表面が劣化したとしても、排熱の有効利用に資する蓄熱部9,10が炉体耐火物2,3から脱落して炉内空間Sに落下することを確実に防止することができる。
【0039】
従って、蓄熱体兼用アンカータイル11,12が落下することによる被加熱物の不良品発生や炉操業の停止などのトラブル発生を防止することができる。
【0040】
また、蓄熱部9,10とアンカー部7,8が一体なので、これらを別々に用意して施工する場合に比べて、炉構造1への設備コストおよび施工手間を低減することができる。
【0041】
さらに、高温な炉内空間領域よりも相対的に低温な炉内空間領域に、より多くの蓄熱体兼用アンカータイル11,12を配設するようにしたので、低温な炉内空間領域の昇温に対し、蓄熱部9,10の輻射熱を利用することができ、炉内温度分布の調整を適切に行うことができる。
【0042】
本発明にかかる炉構造およびこれに用いる蓄熱体兼用アンカータイルは、工業炉全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 炉構造
2 天井用耐火物
3 側壁用耐火物
6 支持構造体
7,8 アンカー部
9,10 蓄熱部
11,12 蓄熱体兼用アンカータイル
S 炉内空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内空間を区画形成する炉体耐火物と、該炉体耐火物の外側に設けられた支持構造体と、該支持構造体に上記炉体耐火物を連結するために、当該支持構造体に一端が係止され他端が上記炉体耐火物に定着されるアンカー部を有するとともに、該アンカー部から一体的に延長されて炉内空間へ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間へ放射する蓄熱部を有する蓄熱体兼用アンカータイルとを備えたことを特徴とする炉構造。
【請求項2】
前記蓄熱体兼用アンカータイルがセラミック製であることを特徴とする請求項1に記載の炉構造。
【請求項3】
前記蓄熱体兼用アンカータイルは、炉内温度分布を調整するために、高温な炉内空間領域よりも相対的に低温な炉内空間領域に、より多く配設されることを特徴とする請求項1または2に記載の炉構造。
【請求項4】
炉内空間を区画形成する炉体耐火物を支持構造体に連結するために、該支持構造体に一端が係止され他端が該炉体耐火物に定着されるアンカー部と、該アンカー部から一体的に延長されて炉内空間へ突出され、蓄熱して輻射熱を炉内空間へ放射する蓄熱部とを一体的に形成したことを特徴とする炉構造に用いる蓄熱体兼用アンカータイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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