説明

炎症バイオマーカーを用いて動脈硬化性狭窄を決定する手段及び方法

本発明は、被験体の試料中のCRP又はLPa量を測定するステップ、及び測定された量を参照と比較するステップであって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が決定される前記ステップを含む、被験体の動脈硬化性狭窄の程度を診断する方法に関する。本発明は、動脈硬化の予防又は治療の必要な被験体を同定する方法も意図する。さらに、前記方法を実施するための装置及びキットが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動脈硬化に関する診断方法を提供することに関する。具体的には、被験体の試料中のCRP又はLPa量を測定するステップ、並びに測定された量を参照と比較するステップであって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が決定される前記ステップを含む、被験体の動脈硬化性狭窄の程度を診断する方法に関する。本発明は動脈硬化の予防又は治療の必要な被験体を同定する方法も意図する。さらに、前記方法を実施するための装置及びキットが含まれる。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化は血管の構造に影響を及ぼす心血管疾患である。それは喫煙、高脂血症、動脈性高血圧、又は糖尿病を含む様々な危険因子に左右される。
【0003】
動脈硬化は、血管の閉塞又は狭窄によって引き起こされる重い合併症を進行期に有する病理過程である。前記血管狭窄又は閉塞によって引き起こされる顕著な合併症は冠動脈疾患、特に狭心症、間欠性跛行、心筋梗塞又は卒中である。しかし、これらの合併症は90%を超える血管が閉塞した場合に臨床的に明らかになるに過ぎない。この場合でさえ、大抵運動中にのみ明らかになる。従って、通常の状態では、大部分の前記疾患及び障害は未診断のままである。
【0004】
動脈硬化プラークによる狭窄の程度は、動脈硬化プラークの量及び残存する血管腔のサイズを考慮に入れるスコア決定システムによって分類することができる。このスコアにより、個々の動脈硬化性狭窄又は閉塞が、上で言及される合併症を引き起こす高い可能性を有するかどうか評価することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、動脈硬化性狭窄の程度は、血管造影法を含む、負担が大きく、費用がかかり、及び/又は侵襲的な技術によって決定される。これらの技術は調べられる患者にとって不便であり、全体的な健康管理の観点からすると時間及び費用がかかる。さらに、侵襲的血管造影法は患者に重い副作用さえ生じ得る(全てBraunwald's Heart Disese 第7版 2005 Elevier Publishersに記載のC.J. Davidson, R.O. Bonow Cornorary catherization p 345; D. Pennell Cardiovascular Magnetic Resonance p 335; S. Achenbach, W.G. Daniel Computed tomography of the heart p. 255)。
【0006】
信頼でき効率のよい、動脈硬化性狭窄の程度の決定を可能にし、上で言及される動脈硬化の重い合併症を発症する危険性を評価する手段及び方法は、まだ得られていないが強く望まれている。
【0007】
本発明の基底にある技術的な課題は、前述のニーズを満たす手段及び方法を提供することだと考えられ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その技術的な課題は、特許請求の範囲及び以下本明細書に記述される実施形態によって解決される。
【0009】
従って、本発明は被験体の動脈硬化性狭窄の程度を診断する方法であって、
a) 被験体の試料において、CRP又はLPaから選択される炎症マーカーの量を測定するステップ、及び
b) ステップa)で測定された量を参照と比較するステップであって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が決定される前記ステップ
を含む、前記方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法はin vitro法であることが好ましい。さらに、上に明示的に記述されたステップの他にステップを含み得る。例えば、さらなるステップは試料の前処理又は本方法によって得られた結果の評価に関し得る。本発明の方法はまた、被験体のモニター、確認、及び下位分類のためにも使用され得る。本方法は手動で実施してもよいし、又は自動化によって支援してもよい。好ましくは、ステップ(a)及び/又は(b)は、全体的又は部分的に自動化によって、例えば、ステップ(a)の測定又はステップ(b)のコンピューターによって実行される計算のために適したロボット及びセンサーの機器によって支援され得る。
【0011】
本明細書で使用される「診断」という用語は、被験体において動脈硬化負荷を評価することを意味する。当業者によって理解されるように、そのような評価は通常、調べる全て(すなわち100%)の被験体にとって正確であることを意図しない。しかし、その用語は被験体の統計的に有意な一部(例えばコホート調査における1コホート)を同定することができることを要する。一部が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価手段、例えば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等を用いて、当業者によって造作なく決定され得る。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001であることが好ましい。集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%が、本発明の方法によって適切に評価され得ることがより好ましい。
【0012】
「動脈硬化性狭窄の程度」という用語は、動脈硬化プラーク、好ましくはアテローム性動脈硬化プラークによる血管の閉塞の強度、及び動脈硬化プラークの量、好ましくはアテローム性動脈硬化プラークの量に関する。閉塞は100%までであり得、このとき、血管中に血流が全く観察されない。しかし、本明細書で使用される動脈硬化プラーク、好ましくはアテローム性動脈硬化プラークによって引き起こされる狭窄は、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の血管の閉塞をもたらすことが好ましい。動脈硬化性狭窄の程度は、ALS採点システムによって決定することもできる。本発明の方法によって決定することができる程度は、ALSクラス1〜5(軽度の狭窄)、ALSクラス6〜10(中度の狭窄)又はALSクラス11〜18(重度の狭窄)を含むことが好ましい。本明細書で使用される狭窄は、末梢動脈の閉塞疾患を伴うことが好ましい。これに関して狭窄は、狭心症、間欠性跛行又は卒中を発症する危険性の増加(ここで、危険性の増加は、動脈硬化性狭窄の程度と相関する)をさらに伴うことがより好ましい。採点について、末梢性動脈硬化の量は、血管造影法によって測定され、スコア0〜6内に分類される。さらに、両頚動脈の狭窄の量は、血管造影法によって測定され、0〜6で採点される。最後に、冠動脈硬化症が測定され、0〜6で採点される。
【0013】
本明細書で使用される「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。被験体は動脈硬化を患っていることが好ましい。動脈硬化はまだ臨床的に明らかになっていないことがより好ましい。
【0014】
「試料」という用語は、体液の試料、分離した細胞の試料、又は組織若しくは器官に由来する試料を指す。体液の試料は周知技術によって得ることができ、好ましくは血液、血漿、血清、又は尿の試料を含み、より好ましくは血液、血漿又は血清の試料を含む。組織又は器官試料は、例えば生検によって、任意の組織又は器官から得られる。分離した細胞は、遠心又は細胞選別等の分離技術によって体液又は組織若しくは器官から得ることができる。細胞、組織又は器官試料は、本明細書に言及されるペプチドを発現又は産生する細胞、組織又は器官から得ることが好ましい。
【0015】
CRP(本明細書中、C反応性タンパク質とも称する)は、75年以上も前に肺炎球菌のC多糖に結合する血液タンパク質であることが発見されている急性期タンパク質である。CRPは反応性の炎症マーカーとして知られ、原発病巣部位から生じるケモカイン又はインターロイキンに応答又は反応して遠位器官(すなわち肝臓)によって生成される。CRPは5つの単一サブユニットを有し、これらは非共有結合し、分子量約110〜140 kDaを有する環状五量体として集合している。「CRP」という用語は、CRPのバリアントにも関することが好ましい。本明細書で使用されるCRPは、ヒトCRPに関することが好ましい。ヒトCRPの配列は周知であり、好ましくは、Woo 1985, J. Biol. Chem. 260 (24), 13384-13388に開示されている。CRPのレベルは、正常個体において通常は低いが、炎症、感染又は損傷によって100〜200倍又はそれ以上に上昇し得る(Yeh 2004, Circulation 109:II-11〜II-14)。被験体の試料中のCRP量は、高感度のCRPアッセイを用いて測定することが好ましい。そのようなアッセイによって測定されたCRPは、しばしば、高感度CRP(hsCRP)とも称される。hsCRPアッセイは、例えば、心疾患の危険性を予測するために使用される。適切なhsCRPアッセイは当技術分野で周知である。本発明において特に好ましいhsCRPアッセイは、0.1 mg/lの検出限界を有するRoche/Hitachi CRP (Latex) HS試験である。さらに、本発明に従って言及されるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加によって異なるアミノ酸配列を有し、ここで該バリアントのアミノ酸配列は、依然、特定のCRPポリペプチドのアミノ配列と好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有することは理解されるべきである。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定することができる。好ましくは、同一性の程度は、比較ウインドウ中のアミノ酸配列の断片が、最適なアライメントにおいて参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(例えばギャップ又はオーバーハング)を含み得る、2つの最適にアライメントした配列を比較ウインドウに渡って比較することによって決定されるべきである。パーセンテージは以下によって計算される:両配列に同一アミノ酸残基が出現する位置数を決定し、一致した位置数を得て、一致した位置数を比較ウインドウ中の総位置数で割り、その解に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得る。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)によって、又は目視検査によって実行され得る。2つの配列が比較のために同定されたら、それらの最適なアライメント、及びそこから同一性の程度を決定するためにGAP及びBESTFITを用いることが好ましい。ギャップウェイト(gap weight)に5.00及びギャップウェイトレングス(gap weight length)に0.30のデフォルト値を用いることが好ましい。上で言及されるバリアントは対立遺伝子多型又は他の種に特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログであってよい。さらに、本明細書に言及されるバリアントは、特定のCRPポリペプチド又は前述した種類のバリアントの断片を、その断片が上に言及される基本的な免疫学的及び生物学的特性を有する限り含む。そのような断片は、例えばCRPポリペプチドの分解産物又はスプライスバリアントであってよい。リン酸化又はミリスチル化等の翻訳後修飾のために異なるバリアントがさらに含まれる。
【0016】
本明細書で使用される「LPa」という用語は、リポタンパク質(a)を指す。LPaは、LDL様粒子、及びLDL様粒子のapoBに共有結合している特定のアポリポタンパク質(a)から成る。本明細書で使用されるLPaは、ヒトLPa及びそのバリアントを指すことが好ましい。ヒトLPaは、Gene Bankデータベースにアクセッション番号XP 946885.2; GI: 113418363で示されるか、又はMcLean 1987, Nature 330 (6144): 132-7に開示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。LPaを測定するためのアッセイは当技術分野で周知であり、Genest 1991, American J Cardiology 67(13): 1039-1045に記述されている。本発明に従って言及されるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加によって異なるアミノ酸配列を有し、ここで該バリアントのアミノ酸配列は、依然、特定のLPaポリペプチドのアミノ配列と好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有することは理解されるべきである。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定することができる。好ましくは、同一性の程度は、比較ウインドウ中のアミノ酸配列の断片が最適なアライメントにおいて参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(例えばギャップ又はオーバーハング)を含み得る、2つの最適にアライメントした配列を比較ウインドウに渡って比較することによって決定されるべきである。パーセンテージは以下によって計算される:両配列に同一アミノ酸残基が出現する位置数を決定し、一致した位置数を得て、一致した位置数を比較ウインドウ中の総位置数で割り、その解に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得る。比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)によって、又は目視検査によって実行され得る。2つの配列が比較のために同定されたら、それらの最適なアライメント、及びそこから同一性の程度を決定するためにGAP及びBESTFITを用いることが好ましい。ギャップウェイト(gap weight)に5.00及びギャップウェイトレングス(gap weight length)に0.30のデフォルト値を用いることが好ましい。上に言及されるバリアントは対立遺伝子多型又は他の種に特異的なホモログ、パラログ若しくはオルソログであってよい。さらに、本明細書に言及されるバリアントは、特定のLPaポリペプチド又は前述した種類のバリアントの断片を、その断片が上に言及される基本的な免疫学的及び生物学的特性を有する限り含む。そのような断片は、例えばLPaポリペプチドの分解産物又はスプライスバリアントであってよい。リン酸化又はミリスチル化等の翻訳後修飾のために異なるバリアントがさらに含まれる。
【0017】
本明細書に言及されるポリペプチド量の測定は、好ましくは半定量的又は定量的に、量又は濃度を測定することに関する。測定は直接的又は間接的に行うことができる。直接的な測定は、ペプチド又はポリペプチドそれ自体から得られ、その強度が試料中に存在するペプチドの分子数に直接相関するシグナルに基づいて、ペプチド又はポリペプチドの量又は濃度を測定することに関する。そのようなシグナル(本明細書で強度シグナルと称することもある)は、例えばペプチド又はポリペプチドの特異的な物理的又は化学的特性の強度値を測定することによって得ることができる。間接的な測定は、二次的要素(すなわちペプチド若しくはポリペプチドそれ自体ではない要素)から得られるシグナル、又は生物学的読み出し系(biological read out system)、例えば測定可能な細胞性応答、リガンド、標識、若しくは酵素反応生成物の測定を含む。
【0018】
本発明において、ポリペプチド量の測定は、試料中のペプチド量を測定するあらゆる周知な手段によって達成され得る。前記手段は、様々なサンドイッチ、競合、又はその他のアッセイ形式において標識された分子を利用し得る免疫アッセイ装置及び方法を含む。前記アッセイは、ポリペプチドの存在又は不在を示すシグナルを生じる。さらに、シグナル強度は試料中に存在するポリペプチドの量に直接的に又は間接的に(例えば反比例して)相関することが好ましい。さらなる適した方法は、正確な分子量又はNMRスペクトル等の、ポリペプチドに特異的な物理的又は化学的特性を測定することを含む。前記方法は、バイオセンサー、免疫アッセイと連関した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析装置、NMR解析装置、又はクロマトグラフィー装置等を含むことが好ましい。さらに、方法は、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化又はロボットによる免疫アッセイ(例えばElecsysTM分析計で利用できる)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ:Cobalt Binding Assay、例えばRoche-HitachiTM分析計で利用できる)、及びラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析計で利用できる)を含む。
【0019】
ポリペプチド量の測定は、(a) その強度がポリペプチドの量を示唆する細胞性応答を誘発することができる細胞を、前記ペプチド又はポリペプチドと十分な時間にわたり接触させるステップ、(b) 細胞性応答を測定するステップ、を含むことが好ましい。細胞性応答を測定するためには、試料又は処理した試料を細胞培養に添加し、内部又は外部の細胞性応答を測定することが好ましい。細胞性応答としては、レポーター遺伝子の測定可能な発現、又は例えばペプチド、別のポリペプチド、若しくは小分子等の物質の分泌が挙げられる。その発現又は物質はポリペプチドの量に相関のある強度シグナルを発生させる。
【0020】
また、ポリペプチド量の測定は、試料中のポリペプチドから得られる特異的な強度シグナルを測定するステップを含むことが好ましい。上述のように、そのようなシグナルは、マススペクトルで観察されるポリペプチドに特異的な質量対電荷(m/z)変数において、又はペプチド若しくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルにおいて見られるシグナル強度であってよい。
【0021】
ポリペプチド量の測定は、(a) ポリペプチドを特異的なリガンドと接触させるステップ、(b)(場合により)非結合リガンドを除去するステップ、(c) 結合したリガンドの量を測定するステップ、を含むことが好ましい。結合したリガンドは強度シグナルを発生する。本発明において結合は共有結合及び非共有結合の両方を含む。本発明においてリガンドは、本明細書に記述されるポリペプチドに結合する任意の化合物、例えばペプチド、別のポリペプチド、核酸、又は小分子であり得る。好ましいリガンドとしては、抗体、核酸、ポリペプチドに対する受容体若しくは結合パートナー及びペプチドに対する結合ドメインを含むそれらの断片等のポリペプチド、並びにアプタマー、例えば核酸若しくはペプチドアプタマーが挙げられる。そのようなリガンドを調製する方法は当技術分野で周知である。例えば、適した抗体又はアプタマーの同定及び生成は商業的業者によっても提供される。当業者は、そのようなリガンドの、より高い親和性又は特異性を有する誘導体を開発する方法に精通している。例えば、ランダム変異を核酸、ペプチド又はポリペプチドに導入することができる。次いで、これらの誘導体について、当技術分野で公知のスクリーニング手法、例えばファージディスプレイに従って結合試験を行うことができる。本明細書に言及される抗体は、ポリクローナル及びモノクローナル両抗体、並びに抗原若しくはハプテンに結合することができるFv、Fab及びF(ab)2フラグメント等の抗体フラグメントを含む。本発明は、一本鎖抗体、並びに所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と結合されたヒト化ハイブリッド抗体も含む。ドナー配列は通常、少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を含むが、同様に、その他の構造的及び/又は機能的に関連のある、ドナー抗体のアミノ酸残基を含んでよい。そのようなハイブリッドは当技術分野で周知ないくつかの方法によって調製することができる。リガンド又は薬剤がペプチド又はポリペプチドに特異的に結合することが好ましい。本発明において特異的な結合は、リガンド又は薬剤が、分析する試料中に存在する別のペプチド、ポリペプチド又は物質に実質的に結合(「交差反応」)すべきでないことを意味する。好ましくは、特異的に結合されるペプチド又はポリペプチドは、他の関連するペプチド又はポリペプチドより少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、さらにより好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合されるべきである。非特異的な結合は、例えばウェスタンブロットにおけるサイズによって、又は試料中に比較的多量に存在することによって、明確に区別し測定することができる場合には許容され得る。リガンドの結合は、当技術分野で周知な任意の方法によって測定することができる。前記方法は半定量的又は定量的であることが好ましい。好適な方法を以下に記述する。
【0022】
第一に、リガンドの結合は、例えばNMR又は表面プラズモン共鳴によって直接的に測定することができる。
【0023】
第二に、リガンドが、対象のペプチド又はポリペプチドの酵素活性の基質としても機能する場合は、酵素反応生成物を測定することができる(例えばプロテアーゼの量は、例えばウェスタンブロットで、切断された基質の量を測定することによって測定し得る)。或いは、リガンドはそれ自体で酵素的特性を示してよく、そしてそれぞれペプチド又はポリペプチドが結合する「リガンド/ポリペプチド」複合体又はリガンドを、強度シグナルの発生によって検出を可能にする適切な基質と接触させてもよい。酵素反応生成物の測定には、基質の量が飽和していることが好ましい。基質はまた、検出可能な標識で反応前に標識化されてもよい。試料は基質と十分な時間にわたり接触することが好ましい。十分な時間は、検出できる、好ましくは測定できる量の生成物が生成されるのに必要な時間を指す。生成物の量を測定する代わりに、一定の(例えば検出できる)量の生成物の出現に必要な時間を測定することができる。
【0024】
第三に、リガンドは、リガンドの検出及び測定を可能にする標識に共有結合又は非共有結合で結合することができる。標識化は直接的又は間接的な方法によって行い得る。直接的な標識化は、標識の直接的な(共有結合又は非共有結合的)リガンドへの結合を含む。間接的な標識化は、二次リガンドの一次リガンドへの(共有結合又は非共有結合的)結合を含む。二次リガンドは一次リガンドへ特異的に結合すべきである。前記二次リガンドは適切な標識と結合されてよく、及び/又は二次リガンドに結合する三次リガンドの標的であってよい。二次、三次又はより高次なリガンドの使用は、シグナルを増強するためにしばしば用いられる。適切な二次及びより高次なリガンドとしては、抗体、二次抗体、及び周知なストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)がある。リガンド又は基質はまた、当技術分野で周知な1つ以上のタグで「タグ標識」されてもよい。次いで、そのようなタグはより高次なリガンドの標的であってよい。適切なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス・ヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合に、タグはN末端及び/又はC末端にあることが好ましい。適切な標識は、適当な検出法によって検出できる任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性を有する標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性及び超常磁性標識など)、並びに蛍光標識が含まれる。酵素活性を有する標識は、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体を含む。検出に適した基質は、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸、Roche Diagnosticsから既成のストック溶液として入手できる)、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)を含む。適切な酵素−基質の組み合わせは、当技術分野で公知の方法によって(例えば感光膜又は適切なカメラシステムを用いて)測定することができる、呈色反応生成物、蛍光又は化学発光を生じ得る。酵素反応の測定については、上記基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(GFP及びその誘導体等)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、並びにAlexa色素(例えばAlexa 568)が含まれる。別の蛍光標識は、例えばMolecular Probes(Oregon)から入手できる。また、量子ドットの蛍光標識としての使用も意図される。典型的な放射性標識には35S、125I、32P、33P等が含まれる。放射性標識は、周知で適切な任意の方法、例えば感光膜又はホスホイメージャーによって検出することができる。本発明において適切な測定方法は、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気によって発生する化学発光)、RIA(放射免疫測定法)、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチ免疫測定法(ECLIA)、解離促進ランタニド蛍光免疫アッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法(turbidimetry)、比濁分析法(nephelometry)、ラテックス増感比濁法若しくは比濁分析法、又は固相免疫試験も含む。当技術分野で周知なさらなる方法(ゲル電気泳動、2次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロッティング、及び質量分析法等)が、単独で、又は標識化若しくは上述される他の検出法と組み合わせて使用され得る。
【0025】
また好ましくは、ポリペプチド量は以下のように測定され得る:(a) 上述されるポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、ポリペプチドを含む試料と接触させるステップ、及び(b) 支持体に結合するポリペプチド量を測定するステップ。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体及びアプタマーからなる群より選択されるリガンドが、固定化された形で固体支持体に存在することが好ましい。固体支持体を製造するための材料は当技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロース片、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェル及び壁、プラスチックチューブ等を含む。リガンド又は薬剤は多くの様々な担体と結合し得る。周知な担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然及び修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、並びに磁鉄鉱が含まれる。本発明の目的に応じて、担体の性質は可溶性又は不溶性のいずれであってもよい。前記リガンドを定着/固定化するための適切な方法は周知であり、イオン性、疎水性、共有結合性相互作用等を含むがこれに限定されない。本発明では、アレイとして「懸濁アレイ」を使用することも意図される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイでは、担体、例えばマイクロビーズ又はマイクロスフェアが懸濁液中に存在する。該アレイは、場合により標識されていてもよい、様々なリガンドを含む様々なマイクロビーズ又はマイクロスフェアから構成される。そのようなアレイの作製方法は、例えば固相化学及び光解離性保護基に基づく方法が、一般的に知られている(米国特許第5,744,305号)。
【0026】
本明細書で使用される「量」という用語には、ポリペプチドの絶対量、前記ポリペプチドの相対量又は濃度、並びにそれらと相関のある又はそれから導かれる任意の値又はパラメーターが含まれる。そのような値又はパラメーターには、前記ペプチドから直接的な測定によって得られるあらゆる特異的な物理的又は化学的特性に由来する強度シグナル値、例えばマススペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値がある。さらに、本明細書の他の部分に記述される間接的な測定によって得られるあらゆる値又はパラメーター、例えば、ペプチドに応答して生物学的読み出し系から測定される応答レベル、又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが含まれる。前述の量又はパラメーターに相関のある値は、あらゆる標準的な数学的手法によっても得られることは理解されるべきである。
【0027】
本明細書で使用される「比較」という用語は、分析対象の試料に含まれるポリペプチドの量を、本明細書の他の部分に記述される適切な参照源の量と比較することを含む。本明細書で使用される比較は、対応するパラメーター又は値の比較、例えば、絶対量が絶対参照量と比較され、さらに、濃度が参照濃度と比較され、又は試験試料から得られる強度シグナルが参照試料の同じ種類の強度シグナルと比較されることを指すことは理解されるべきである。本発明の方法のステップ(b)において言及される比較は、手動で、又はコンピューター支援で実行し得る。コンピューター支援の比較において、測定された量の値は、コンピュータープログラムによってデータベースに保存されている適切な参照に対応する値と比較し得る。コンピュータープログラムは、比較の結果をさらに評価し得る。すなわち、適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供し得る。ステップa)において測定される量と参照量との比較に基づいて、動脈硬化性狭窄の程度を診断すること、より具体的には、被験体を、軽度、中度又は重度の動脈硬化性狭窄を有する被験体の群に割り振ることができる。従って、比較される量の差異又は類似性が被験体の割り振りを可能にするように、参照量を選ぶべきである。
【0028】
従って、本明細書で使用される「参照量」という用語は、測定された試験量を、軽度、中度又は重度の動脈硬化性狭窄を有する被験体の群に割り振ることを可能にするポリペプチドの量を指す。従って、参照は、(i) 軽度の動脈硬化性狭窄、(ii) 中度の動脈硬化性狭窄、又は(iii) 重度の動脈硬化性狭窄を有することがわかっている被験体のいずれかに由来し得る。さらに、参照量は閾値を規定することが好ましい。適切な参照量又は閾値量は、試験試料と共に、すなわち同時に又は続けて、解析される参照試料から本発明の方法によって測定し得る。さらに、被験体の集団におけるCRP又はLPaの生理的な量が、統計的に変動することは理解されるべきである。従って、前記集団はある範囲にわたる量を示すだろう。そのため、閾値量の標準偏差内の統計的変動も考慮に入れるべきである。2〜3 mg/L又はそれ以上のCRPの平均量は軽度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア1〜5)を示し、6〜7 mg/L又はそれ以上の平均量は中度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア6〜10)を示し、12〜13 mg/L又はそれ以上の平均量は重度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア11〜18)を示すことが好ましい。同様に、0.08〜0.1 mg/dL又はそれ以上のLPaの平均量は軽度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア1〜5)を示し、0.13〜0.15 mg/dL又はそれ以上のLPaの平均量は中度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア6〜10)を示し、0.44〜0.45 mg/dL又はそれ以上のLPaの平均量は重度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア11〜18)を示す。閾値量としての前記平均量に基づいて、被験体は、軽度、中度又は重度の動脈硬化性狭窄を有する被験体の群に属するとして分類することができる。
【0029】
有利には、本発明では、炎症バイオマーカーCRP及びLPaは、動脈硬化性狭窄の程度の独立した予測因子であり、診断目的に適宜に使用し得ることが見出された。動脈硬化負荷、すなわち被験体における動脈硬化プラークの全体についての指標は、炎症マーカーCRP又はLPaではなくPLGF等の血管形成マーカーによって予測されているため、この知見は驚くべきことである。両マーカーは、独立して又は一緒に、被験体における個々の血管について動脈硬化性狭窄の程度を、及びそれにより、動脈硬化に伴う重い合併症、好ましくは狭心症、間欠性跛行、又は脳卒中を含む冠動脈性心疾患を発症する危険性を、評価するのによく適している。従って、重い副作用を伴う可能性のある血管造影法等の費用及び時間がかかるモニター技術を用いる代わりに、本発明の方法は、迅速で、信頼でき、費用効率の良い、安全な評価を可能にする。CRP又はLPaに加えて、さらなるバイオマーカーを本発明の方法において測定し得ることは理解されるべきである。
【0030】
具体的には、ナトリウム利尿ペプチド、好ましくはNT-proBNPは、潜在的な心臓血管の関わりについて動脈硬化性狭窄の程度をさらに評価するために測定することができる。具体的には、少なくとも552 pg/mlのNT-proBNPの平均量は重度の動脈硬化性狭窄(ALSクラス11〜18)を示す。NT-proBNPは、前記診断についてCRP又はLPaとは独立して測定し得ることは理解されるべきである。従って本発明は、原則として、被験体における動脈硬化性狭窄の程度を診断するための試料中のNT-proBNPの使用も意図する。
【0031】
さらに、前記方法により狭窄の程度を決定する前に、被験体に見られる動脈硬化負荷、すなわち動脈硬化プラークの全体量を決定することは有利であり得る。このために、以下のステップ、
a) 被験体の試料中のPLGF量を測定するステップ、並びに
b) 測定された量とPLGFの正常上限(ULN)との比を計算するステップ、ここで
(i) 比が1の時、正常な動脈硬化負荷を示し、
(ii) 比が1より小さい時、動脈硬化負荷の減少を示し、
(iii) 比が1より大きい時、動脈硬化負荷の増加を示す
を含む方法によってPlGF量を測定することができる。
【0032】
被験体は調べられる被験体と同一種であることが好ましく、同一民族背景であることがさらに好ましい。ULNの決定方法は当技術分野で周知であり、既に様々なポリペプチドについて実施されている。特に、ULNの適切な範囲は25〜75パーセンタイル値に見出される量から導かれる。前記PLGFのULNは7〜10 pg/mlであることがより好ましく、8 pg/mlであることが最も好ましい。ULNが統計によって変動し得ることは理解されるだろう。従って、標準偏差内のULN量の変動も考慮に入れるべきである。
【0033】
本明細書で使用される計算は、被験体の試料において測定されたPLGF量とULNとの比を算定することを指す。試料において測定されたPLGF量がULNより大きい場合、比は1より大きい。測定されたPLGF量がULNより小さい場合、比は1より小さい。試料において測定されたPLGF量がULNと同じ場合、比は1である。さらに、比が1であることは、動脈硬化負荷が正常であり、従って動脈硬化に伴う重い合併症を発症する危険性が正常であることを示す、ということは理解されるべきである。比が1より小さいことは、動脈硬化負荷の減少、そして結果として、動脈硬化に伴う重い合併症を発症する危険性の減少を示す。比が1より大きいことは、動脈硬化負荷の増加、そしてその結果として、動脈硬化に伴う重い合併症を発症する危険性の増加を示す。
【0034】
従って本発明は、好ましい実施形態において、上記のようにPlGFに基づいた動脈硬化負荷の決定、及び高い動脈硬化負荷を有する被験体のための次なるステップとして、動脈硬化性狭窄の程度の決定を含む方法を提供する。また、心臓血管の関わりが、心臓マーカー、好ましくは、上記のようにNT-proBNP又はトロポニンT若しくはIを測定することによって、さらに判断され得ることが好ましい。
【0035】
上記用語の定義及び説明は、変更すべき所は変更して、以下に言及される好ましい方法、装置及びキットに適用する。
【0036】
本発明はさらに、前述の方法のステップ、並びに動脈硬化性狭窄の程度に基づいて動脈硬化の治療の必要な被験体を同定するさらなるステップを含む、動脈硬化の治療の必要な被験体を同定する方法に関する。
【0037】
「動脈硬化の治療」という用語は、薬物療法、並びに血管形成術、ステント移植術、レーザーを用いる血管再生術、バルーン拡張術、若しくは動脈手術等の介入療法を指す。好ましい治療は、高血圧に対する薬物、脂質低下薬、好ましくはスタチン、アスピリン、クロピドグレル、β-ブロッカー、ACE阻害剤、抗凝固薬、血管再生のための血管形成剤、エストロゲン補充、糖尿病に対する薬物である。治療は、生活習慣の提案、好ましくは禁煙及び運動も含む。
【0038】
好ましくは、ここで軽度の動脈硬化性狭窄のための前記治療は、生活習慣の提案を提供し、中度の動脈硬化性狭窄のための前記治療は、高血圧に対する薬物、脂質低下薬、好ましくはスタチン、アスピリン、クロピドグレル、β-ブロッカー、ACE阻害剤、抗凝固薬、血管再生のための血管形成剤、エストロゲン補充、糖尿病に対する薬物から選択される薬物療法であり、重度の動脈硬化性狭窄のための前記治療は、血管形成術、ステント移植術、レーザーを用いる血管再生術、バルーン拡張術、又は動脈手術から選択される介入療法である。
【0039】
軽度の動脈硬化性狭窄のための治療は、中度及び重度の場合にも加えて適用され得ること、そして中度の場合のための治療は、重度の場合にも適用され得ることは理解されるだろう。
【0040】
本発明は、被験体の動脈硬化性狭窄の程度を診断するための装置であって、
a) 前記被験体の試料中のCRP又はLPaを測定するための手段、並びに
b) a)の手段によって測定された量を参照と比較するための手段であって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が診断される前記手段
を含む、装置にも関する。
【0041】
本明細書で使用される「装置」という用語は、予測を可能にするように互いに機能的に連結された前記手段を少なくとも含む手段のシステムに関する。CRP又はLPaポリペプチドの量を測定する好ましい手段、並びに比較を実行する手段は、本発明の方法と関連して上に開示される。機能するように手段を連結させる方法は、装置に含まれる手段の種類に応じて異なる。例えば、ポリペプチドの量を自動的に測定する手段が利用される場合、前記自動的に機能する手段によって得られたデータは、所望の結果を得るために、例えばコンピュータープログラムによって処理され得る。そのような場合には、手段は単一の装置で構成されることが好ましい。従って前記装置は、アプライされた試料中におけるポリペプチド量の測定のための分析ユニット、並びに得られたデータを評価のために処理するコンピューターユニットを含み得る。コンピューターユニットは、本明細書の他の部分に記載の、保存された閾値参照量又はそれから導かれる値を含むデータベース、並びに測定されたポリペプチド量とデータベースの保存された参照量との比較を実行するための、コンピューターによって実行される(computer-implemented)アルゴリズムを含むことが好ましい。本明細書で使用される「コンピューターによって実行される」とはコンピューターユニットに実際に包含されるコンピューター可読プログラムコードを意味する。当業者は造作なく、手段を連結させる方法を理解するだろう。好ましい装置は、専門的な臨床医の特別な知識なしで作動させることができるものであり、例えば試料の投入しか必要としない電子装置である。臨床医の解釈を必要とする生データの出力として結果が与えられてもよい。しかし、装置の出力は、その解釈に臨床医を必要としない処理された、すなわち評価された生データであることが好ましい。さらに好ましい装置は、分析ユニット/装置(例えばバイオセンサー、アレイ、ポリペプチドを特異的に認識するリガンドと結合された固体支持体、プラズモン表面共鳴装置、NMR分析装置、質量分析装置等)及び/又は本発明の方法に従い上に言及される評価ユニット/装置を含む。
【0042】
最後に、本発明は、前記方法を実施するために適したキットであって、
a) 前記被験体の試料中のCRP又はLPaを測定するための手段、並びに
b) a)の手段の測定された量を参照と比較するための手段であって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が診断される前記手段
を含む、前記キットに関する。
【0043】
本明細書で使用される「キット」という用語は、前述の手段の集合を指し、別々に又は単一容器内で提供されることが好ましい。キットの成分は別々のバイアルで(すなわち別の部分のキットとして)構成されてもよいし、又は単一バイアルで提供されてもよい。さらに、本発明のキットは本明細書で上に言及される方法を実施するために使用されるべきであることは、理解されるべきである。好ましくは、全ての成分は、上に言及される方法を実施するためにすぐ使える様式で提供されることが想定される。さらに、キットは前記方法を実施するための説明書を含むことが好ましい。説明書は、紙又は電子形式でユーザー用マニュアルによって提供され得る。例えば、マニュアルは、本発明のキットを用いて前述の方法を実施する際に得られた結果を解釈するための説明を含み得る。
【0044】
本明細書に引用される全ての参考文献は、全体の開示内容及び本明細書で特に述べられた開示内容に関して、参照により本明細書に援用される。
【0045】
以下の実施例は本発明を説明するだけのものである。決して、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0046】
末梢動脈閉塞性疾患を患っている患者における血管形成バイオマーカー及び炎症バイオマーカーの測定
末梢動脈閉塞性疾患を患っている50人の患者を、血管形成バイオマーカーPLGF、可溶性(s)Flt-1、及びエンドグリン、並びに炎症マーカーCRP及びLPaの血漿レベルについて分析した。
【0047】
PlGF、sFLT1及びエンドグリンの血漿レベルを、R & D Systems、米国から市販の免疫アッセイ「Quantikine」(カタログ番号DVR100B、DPG00及びDNDG00)を用いて測定した。CRP及びLPaを、Roche Diagnostics, GermanyのCRP (Latex) HSアッセイによって、LPaについてはGenest 1991, American J Cardiology 67(13): 1039-45に記述されているように測定した。
【0048】
炎症バイオマーカーCRP及びLPaは共に、動脈硬化性狭窄の程度と相関することが見出されたが、そのような相関は血管形成マーカーでは見られなかった。動脈硬化性狭窄の程度はALSスコア決定システムによっても決定された。
【0049】
結果を以下の表1及び2にまとめて示す。
【実施例2】
【0050】
ステント移植術による再かん流後の患者においてCRPレベルは低下する
動脈硬化性冠動脈狭窄を患っている18人の患者について、ステント移植手術が行われる前及び30日後に、CRPの血漿レベルを測定した。血漿レベルは実施例1に記述されているように測定した。
【0051】
再かん流及びステント移植術後、CRPレベルは低下した。
【0052】
結果を以下の表3に示す。
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において動脈硬化性狭窄の程度を診断する方法であって、
a) 被験体の試料中においてLPa又はCRPから選択される炎症マーカーの量を測定するステップ、及び
b) ステップa)で測定された量を参照と比較するステップであって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が診断される前記ステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
0.08〜0.1 mg/dL又はそれ以上の量のLPaは軽度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア1〜5)を示し、0.13〜0.15 mg/dL又はそれ以上の量は中度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア6〜10)を示し、0.44〜0.45 mg/dL又はそれ以上の量は重度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア11〜18)を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2〜3 mg/L又はそれ以上の量のCRPは軽度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア1〜5)を示し、6〜7 mg/L又はそれ以上の量は中度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア6〜10)を示し、12〜13 mg/L又はそれ以上の量は重度の動脈硬化性狭窄(ALSスコア11〜18)を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験体がヒトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法のステップ、及び動脈硬化性狭窄の程度に基づいて動脈硬化の治療の必要な被験体を同定するさらなるステップを含む、動脈硬化の治療の必要な被験体を同定する方法。
【請求項6】
軽度の動脈硬化性狭窄のための前記治療は、生活習慣の提案を提供し、中度の動脈硬化性狭窄のための前記治療は、高血圧に対する薬物、脂質低下薬、好ましくはスタチン、アスピリン、クロピドグレル、β-ブロッカー、ACE阻害剤、抗凝固薬、血管再生のための血管形成剤、エストロゲン補充、糖尿病に対する薬物から選択される薬物療法であり、重度の動脈硬化性狭窄のための前記治療は、血管形成術、ステント移植術、レーザーを用いる血管再生術、バルーン拡張術、又は動脈手術から選択される介入療法である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
被験体において動脈硬化性狭窄の程度を診断するための、被験体の試料中のLPa又はCRPの使用。
【請求項8】
被験体において動脈硬化性狭窄の程度を診断するための装置であって、
a) 前記被験体の試料中のLPa又はCRPを測定するための手段、及び
b) a)の手段によって測定された量を参照と比較するための手段であって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が診断される前記手段
を含む、前記装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法を実施するために適したキットであって、
a) 前記被験体の試料中のPLGFを測定するための手段、及び
b) a)の手段によって測定された量を参照と比較するための手段であって、それによって動脈硬化性狭窄の程度が診断される前記手段
を含む、前記キット。
【請求項10】
被験体において動脈硬化性狭窄の程度を診断するための、被験体の試料中のNT-proBNPの使用。

【公表番号】特表2011−524533(P2011−524533A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514015(P2011−514015)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057438
【国際公開番号】WO2010/003776
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】