説明

炎症性サイトカインの発現を下方制御し敗血症を治療するためのアポトーシス特異的eIF−5AsiRNAの使用

本発明は、アポトーシス特異的eIF−5AまたはeIF5−A1と称されるアポトーシス特異的真核生物開始因子5A(eIF−5A)、核酸およびポリペプチド、ならびに敗血症および/または出血性ショックを治療・予防するための、eIF−5A1に対するsiRNAを哺乳類へ投与することによって哺乳類における炎症性サイトカインを下方制御する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2006年5月8日出願の米国仮出願第60/79833号および2006年3月20日出願の米国仮出願第60/783,413号に対する優先を主張し、両出願とも参照することにより本願に組み込まれる。
【0002】
本発明の分野
本発明は、「アポトーシス特異的eIF−5A」または「eIF−5A1」と称されるアポトーシス特異的真核生物開始因子(「eIF−5A」)および炎症性サイトカインの発現を下方制御するためのeIF−5A1に対するsiRNAの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
アポトーシスは、細胞収縮、クロマチン凝縮、核フラグメンテーション、および膜ブレブ形成などの明確な形態学的状態を特徴とする、遺伝子にプログラムされている細胞的事象である。Kerr et al.(1972)Br.J.Cancer,26,239−257;Wyllie et al.(1980Int.Rev.Cytol.,68,251−306.それは、正常な組織発達および恒常性において重要な役割を果たし、アポトーシスのプログラムにおける欠陥は、神経変性および自己免疫疾患から腫瘍まで幅広いヒトの疾患の一因となると考えられる。Thompson(1995)Science,267,1456−1462;Mullauer et al.(2001)Mutat.Res,488,211−231.アポトーシスを起こした細胞の形態学的特徴はかなり特徴的であるが、この過程を制御する分子経路は明らかになってきたばかりである。
【0004】
アポトーシスにおいて主要な役割を果たすと考えられるタンパク質群の1つは、カスパーゼと呼ばれるシステインプロテアーゼ族であり、それはアポトーシスのほとんどの経路に必要とされると考えられる。Creagh & Martin(2001)Biochem.Soc.Trans,29,696−701;Dales et al.(2001)Leuk.Lymphoma,41,247−253。カスパーゼは、多種の細胞タンパク質を開裂することによるアポトーシス刺激に反応してアポトーシスを引き起こし、それによって細胞収縮、膜ブレブ形成およびDNA断片化などのアポトーシスの典型的な兆候が生じる。Chang & Yang(2000)Microbiol.Mol.Biol.Rev.,64,821−846。
【0005】
BaxまたはBakなどのプロアポトーシスタンパク質も、ミトコンドリアシトクロムCなどのカスパーゼ活性化分子を放出することによってアポトーシス経路において中心的役割を果たし、それによりアポトーシスによる細胞死を促進する。Martinou & Green(2001)Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.,2,63−67;Zou et al.(1997)Cell,90,405−413。BcL−2などの抗アポトーシスタンパク質は、BaxおよびBakなどのプロアポトーシスタンパク質の活性を拮抗することによって細胞生存を促進する。Tsujimoto(1998)Genes Cells,3,697−707;Kroemer(1997)Nature Med.,3,614−620。Bax:Bcl−2の比率は、細胞の運命が決定される1つの方法であると考えられる。過剰のBAXはアポトーシスを促進し、過剰のBcl−2は細胞生存を促進する。Salomons et al.(1997)Int.J.Cancer,71,959−965;Wallace−Brodeur & Lowe(1999)Cell Mol.Life Sci.,55,64−75。
【0006】
アポトーシスに関与する別の主要なタンパク質は、腫瘍抑制遺伝子p53によってコードされたタンパク質である。このタンパク質は、推定上Baxの上方制御によって細胞増殖を制御し、損傷した遺伝的に不安定な細胞においてアポトーシスを誘発する転写因子である。Bold et al.(1997)Surgical Oncology,6,133−142;Ronen et al.,1996;Schuler & Green(2001)Biochem.Soc.Trans.,29,684−688;Ryan et al.(2001)Curr.Opin.Cell Biol.,13,332−337;Zoernig et al.(2001)Biochem.Biophys.Acta,1551,F1−F37.
【0007】
アポトーシス経路における変更は、癌を含む数多くの疾患過程において主要な役割を果たすと考えられる。Wyllie et al.(1980)Int.Rev.Cytol.,68,251−306;Thompson(1995)Science,267,1456−1462;Sen & D’Incalci(1992)FEBS Letters,307,122−127;McDonnell et al.(1995)Seminars in Cancer and Biology,6,53−60。腫瘍の発生および進行に関する調査は、従来から細胞増殖に集中している。しかしながら、アポトーシスが腫瘍形成において果たす重要な役割は、最近になって明らかになってきた。実際は、現在アポトーシスに関して知られていることのほとんどは、アポトーシスの制御が腫瘍細胞において常にいくつかの方法によって変化するため、腫瘍モデルを使用して得られている。Bold et al.(1997)Surgical Oncology,6,133−142。
【0008】
サイトカインもアポトーシス経路に関係があるとされる。生体系は、その制御のために細胞間相互作用を必要とし、細胞間のクロストークは通常、多種多様なサイトカインを伴う。サイトカインは、多くの異なる細胞型による様々な刺激に反応して産生されるメディエーターである。サイトカインは、多くの異なる細胞型に対して多くの異なる効果を発揮する多面性分子であるが、免疫反応の制御および造血細胞増殖および分化において特に重要である。標的細胞に対するサイトカインの作用は、特定のサイトカイン、相対濃度、他のメディエーターの有無によって、細胞生存、増殖、活性化、分化、またはアポトーシスを促進する。
【0009】
乾癬、関節リウマチ、およびクローン病などの自己免疫疾患を治療するための抗サイトカインの使用は注目されてきている。炎症性サイトカインIL−1およびTNFは、これらの慢性疾患の病理学において大きな役割を果たす。これら2つのサイトカインの生物活性を低減させる抗サイトカイン療法によって治療的有用性がもたらされる(Dinarello and Abraham,2002)。
【0010】
インターロイキン1(IL−1)は、局所性および全身性炎症反応を調節する重要なサイトカインであり、血管炎、骨粗しょう症、神経変性疾患、糖尿病、ループス腎炎を含む多くの疾患および関節リウマチなどの自己免疫疾患の発病においてTNFと共に相乗作用を与えることができる。腫瘍の血管新生および侵襲性におけるIL−1βの重要性も、メラノーマ細胞を注入した際の転移および血管形成に対するIL−1βノックアウトマウスの抵抗によって最近証明された(Voronov et al.,2003)。
【0011】
インターロイキン18(IL−18)は、IL−1族の中の最近発見された一員であり、構造、受容体、および機能においてIL−1と関連している。IL−18は、インターフェロンガンマ(IFN−γ)、TNF−α、およびIL−1を誘発する能力の結果として炎症性および自己免疫疾患と関与する主要なサイトカインである。IL−1βおよびIL−18は両者とも、心筋虚血に起こる心機能異常の一因となることが知られているサイトカインであるTNF−αの産出を誘発する能力を有する(Maekawa et al.,2002)。IL−18結合タンパク質を使用した中和によるIL−18の阻害は、超融合したヒト心房心筋の虚血/再還流モデルにおける虚血によって引き起こされた心筋機能障害を低下させると考えられた(Dinarello,2001)。また、マウスIL−18結合タンパク質を使用したIL−18の中和によっても、IFN−γ、TNF−α、およびIL−1βの転写量を低下させることができ、コラーゲン誘導関節炎マウスモデルにおける関節損傷を低減させることができた(Banda et al.,2003)。マウスメラノーマモデルにおけるIL−18結合タンパク質の注入によって転移を阻害することが成功したため、IL−18産生または可用性の低下も転移性腫瘍を制御することの有益を証明する可能性がある。(Carrascal et al.,2003)。炎症性サイトカインとしての重要性のさらなる表示として、IL−18の血漿中濃度は慢性肝疾患の患者において上昇し、濃度増加は疾患の重症度と相関した(Ludwiczek et al.,2002)。同様に、IL−18およびTNF−αは、腎症を有する糖尿病患者の血清において上昇した(Moriwaki et al.,2003)。外傷性脳損傷後の神経炎症も炎症性サイトカインによって調節され、IL−18結合タンパク質によるIL−18の阻害によって、脳損傷を受けたマウスにおいて神経学的回復を改善した(Yatsiv et al.,2002)。
【0012】
サイトカインのTNF族の一員であるTNF−αは、造血細胞に対する共分裂促進作用、炎症反応の誘発、多くの細胞型における細胞死の誘発など多様な効果を有する炎症性サイトカインである。TNF−αは、一般的に細菌性リポ多糖、寄生生物、ウイルス、悪性細胞およびサイトカインによって誘発され、通常、T細胞を感染および癌から保護するよう有用に作用する。しかしながら、TNF−αの不適当な誘発は、自己免疫疾患などの急性および慢性炎症から生じる疾患の腫瘍原因となり、癌、AIDS、心臓疾患、および敗血症の一員ともなり得る(AggarwalおよびNatarajanによる改訂、1996;SharmaおよびAnker,2002)。疾患(すなわち、敗血症性ショックおよび関節リウマチ)の実験動物モデルによって、ヒトの疾患(すなわち、炎症性腸疾患および移植片対宿主病)と同様に、TNF−αを阻止する有益な効果を証明した(Wallach et al.,1999)。TNF−αの阻害は、クローン病(van Deventer,1999)および関節リウマチ(Richard−Miceli and Dougados,2001)などの自己免疫疾患に苦しむ患者を緩和させることにおいても効果的である。Bリンパ球の生存及び成長を促進するTNF−αの能力もB細胞慢性リンパ球性白血病(B−CLL)の発病において役割を果たすと考えられ、B−CLLにおけるT細胞によって発現しているTNF−αの量は、確実に腫瘤および疾患の段階と相関した(Bojarska−Junak et al.,2002)。インターロイキン−1β(IL−1β)は、TNF−α産生を誘発することで知られているサイトカインである。
【0013】
eIF−5Aのアミノ酸配列は種の間でよく保存され、eIF−5Aにおいてハイプシン残留物を取り囲んでいるアミノ酸配列の徹底的な保存があり、それはこの組み換えは生存にとって重要である可能性があることを示唆する。Park et al.(1993)Biofactors,4,95−104。この仮説は、活性化における第1段階を触媒する、イーストから始まると考えられるeIF−5Aの両イソ型の不活性化またはDHS遺伝子の不活性化が細胞分裂を阻止するという観察によってさらに裏付けられる。Schnier et al.(1991)Mol.Cell.Biol.,11,3105−3114;Sasaki et al.(1996)FEBS Lett.,384,151−154;Park et al.(1998)J.Biol.Chem.,273,1677−1683。しかしながら、イーストにおけるeIF−5Aタンパク質の枯渇は、ほんの少ししか総タンパク質合成を低下させず、これはeIF−5Aがタンパク質グローバル合成よりもむしろmRNAの特定のサブセットの翻訳に必要とされる場合があることを示唆している。Kang et al.(1993),“Effect of initiation factor eIF−5A depletion on cell proliferation and protein synthesis,” in Tuite,M.(ed.),Protein Synthesis and Targeting in Yeast,NATO Series H。eIF−5Aを結合させるリガンドは高度に保存された基調を共有するという最近の所見もeIF−5Aの重要性を裏付ける。Xu & Chen(2001)J.Biol.Chem.,276,2555−2561。さらに、修正されたeIF−5Aのハイプシン残留物は、RNAへの配列特異的結合に対して必須であることが分かり、結合によってリボヌクレアーゼから保護されなかった。
【0014】
さらに、eIF−5Aの細胞内枯渇は、細胞核における特定のmRNAの有意な蓄積を引き起こし、これはeIF−5Aが特定のクラスのmRNAを細胞核から細胞質へ輸送することに関与する可能性があることを示している。Liu & Tartakoff(1997)Supplement to Molecular Biology of the Cell,8,426a。Abstract No.2476,37th American Society for Cell Biology Annual Meeting。核孔関連核内糸状体でのeIF−5Aの蓄積および一般的な核外輸送受容体とのその相互作用によって、eIF−5Aがポリソームの成分ではなく、むしろ核細胞質間輸送タンパク質であることがさらに示唆される。Rosorius et al.(1999)J.Cell Science,112,2369−2380。
【0015】
eIF−5Aの最初のcDNAは、Smit−McBrideらによってヒトからクローン化され、それ以来eIF−5AのcDNAまたは遺伝子は、イースト、ラット、鶏胚、アルファルファ、およびトマトなどの多種の真核生物からクローン化されている。Smit−McBride et al.(1989)J.Biol.Chem.,264,1578−1583;Schnier et al.(1991)(yeast);Sano,A.(1995)in Imahori,M. et al.(eds),Polyamines, Basic and Clinical Aspects,VNU Science Press,The Netherlands,81−88(rat);Rinaudo & Park(1992)FASEB J.,6,A453(chick embryo);Pay et al.(1991)Plant Mol. Biol.,17,927−929(alfalfa);Wang et al.(2001)J.Biol.Chem.,276,17541−17549(tomato)。
【発明の開示】
【0016】
本発明は、「アポトーシス特異的eIF−5A」または「eIF−5A1」と称されるアポトーシス特異的真核生物開始因子5A(eIF−5A)に関する。また本発明は、eIF−5A1 siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドを使用して、アポトーシス特異的eIF−5Aの発現を阻害することによって、ヒトの体内(および細胞外)を含む対象における炎症性サイトカインの発現を抑制または阻害することにも関する。eIF5A1 siRNAおよびeIF5A1のアンチセンス構築体は、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、IFN−γ、TNF−α、IL−3、IL−6、IL−12(p40)、IL−12(p70)、G−CSF、KC、MIP−1a、およびRANTESなどの炎症性サイトカインの発現を低下させるために投与され、それは敗血症および/または出血によって引き起こされたショックの治療または予防に有用である。
【0017】
また本発明は、eIF−5A1 siRNAおよび薬学的に許容される担体を含む、炎症性サイトカインの発現を減少させるための医薬組成物も提供する。本発明の医薬組成物は、ヒトを含む対象における敗血症の発症を治療または予防するために投与してもよい。特定の実施形態では、該医薬組成物は、ヌクレオチド配列CGG AAU GAC UUC CAG CUG Aを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の詳細な説明
真核生物開始因子5A(「eIF−5A」)のいくつかのイソ型が単離され、公開データバンクに保存されている。これらのイソ型は機能的に余剰であると考えられた。本発明者らは、1つのイソ型がアポトーシスの誘発の直前に上方制御されていることを見出し、アポトーシス特異的eIF−5AまたはeIF−5A1と指定した。本発明の目的は、アポトーシス特異的eIF−5Aおよび炎症性サイトカインの発現を下方制御するためのその発現の下方制御である。
【0019】
敗血症は、年間約21万件の死亡を引き起こしている悪性血管内炎症の過程である。それに応じて、補助療法が必要とされる。敗血症は、全身性炎症反応症候群(SIRS)としても知られている。敗血症は、体のあらゆるところに起こり得る細菌感染によって生じる。敗血症は、単に全身性炎症および凝固を特徴とする感染に対する患者の免疫反応によって生じる臨床症状のスペクトルとして定義されてよい。それには、全身性炎症反応(SIRS)から臓器機能不全、多臓器障害および最終的には死亡というあらゆる反応が含まれる。
【0020】
敗血症は、非常に複雑な配列の事象であり、患者がどのようにSIRSから敗血症性ショックへ移行するのかを完全に理解するためには、まだ多くの研究が必要とされる。敗血症性ショックを有する患者は、二相性の免疫反応を有する。まず、感染に対する重篤な炎症反応を示す。これは、腫瘍壊死因子(TNF)、IL−1、IL−12、インターフェロンガンマ(IFN−γ)、およびIL−6の炎症性サイトカインによる可能性が最も高い。そして、体は抗炎症性サイトカイン(IL−10)、溶解性阻害物質(TNF受容体、IL−1受容体タイプII、およびIL−IRA(不活性形のIL−1))を産生することによってこの反応を制御するが、これは免疫抑制の期間に患者に現れる。この低応答性の残留性は、院内感染および死亡の危険性の増加に関連する。
【0021】
この全身性炎症性カスケードは、多種の細菌産物によって始まる。グラム陰性菌=エンドトキシン、ホルミルペプチド、エクソトクシン、およびプロテアーゼ;グラム陽性菌=エクソトクシン、超抗原(毒素性ショック症候群毒素(TSST)、連鎖球菌発熱毒素A(SpeA))、エンテロトキシン、溶血素、ペプチドグリカン、およびリポタイコ酸、および真菌細胞壁物質などのこれらの細菌産物は、宿主のマクロファージ上の細胞受容体と結合し、核内因子κB(NFkB)などの調節タンパク質を活性化させる。エンドトキシンは、いくつかの受容体と相互に作用することによって調節タンパク質を活性化させる。CD受容体は、LPS−LPS結合タンパク質複合体を細胞の表面に貯めて、その後、TLR受容体は信号を細胞に翻訳する。
【0022】
上記のように、産生された炎症性サイトカインは、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン1、6および12およびインターフェロンガンマ(IFN−γ)である。これらのサイトカインは、臓器機能に影響を与えるよう直接作用する場合と、第2メディエーターを経由して間接的に作用する場合がある。第2メディエーターとして、一酸化窒素、トロンボキサン、ロイコトリエン、血小板活性化因子、プロスタグランジン、および補体がある。TNFおよびIL−1(エンドトキシンも同様)は、内皮細胞による組織因子の放出も引き起こし、線維素沈着および播種性血管内凝固(DIC)に至る。
【0023】
そして、これらの第1および第2メディエーターは、凝固カスケード、補体カスケード、およびプロスタグランジンおよびロイコトリエンの産生の活性化を引き起こす。凝血塊が血管につまり、多くの臓器を低下させ、複数の臓器系障害を引き起こす場合がある。やがてこの凝固カスケードの活性化によって、凝血塊を生成する患者の能力が消耗され、DICおよびARDSが引き起こされる。
【0024】
このカスケードの蓄積効果は不平衡状態であり、炎症優性遺伝子が消炎に優り、凝固優性遺伝子が線維素溶解に優る。微小血管血栓症、還流低下、虚血、および組織傷害が引き起こされる。重度の敗血症、ショック、および多臓器機能不全が引き起こされる場合があり、死亡に至る。
【0025】
本発明者らは、以前、eIF−5A1 siRNA(裸のsiRNAとして鼻腔内に送達される)は細胞系において敗血症の複数の潜在的メディエーターの産生または発現を低下させ(例えば、IL−1β、TNF−α、IL−8、iNOS、TLR−4発現)、鼻腔内リポ多糖体(LPS)の後に血液中の少数の炎症性サイトカインは体内で挑戦するということを断定したため、内毒素血症マウスにおける生存およびサイトカイン発現に対する影響が研究された。すべて参照することにより本願に組み込まれる、米国同時係属出願第11/134,445号(2005年5月23日出願)、第11/184,982号(2005年6月20日出願)、第11/293,391号(2005年11月28日出願)、および第11/595,990号(2006年11月13日出願)を参照されたい。
【0026】
BALB/Cマウスに大腸菌O111:B4 LPSを腹腔内(IP)に植菌したところ、対照の93%が死亡した。動物は、eIF5A1 siRNA(N=5)(3’−GCC UUA CUG AAG GUC GAC U−5’)または対照としてスクランブルRNA(N=15)のいずれかを接種した。1回分50μgのeIF5A1 siRNAをIPで、DOTAPから成る100μgのトランスフェクションミセルとともに投与した。siRNA−リポソーム複合体は、LPS投与前にt=−48および−24時間で投与された。生存実験が行われ、同様の条件下でマウスはLPS投与の90分または8時間後に死亡させ、血液を採取した。ビーズベースの多重サンドイッチ免疫測定法によって、循環サイトカインを定量化した。結果として、eIF5A1 siRNAでのBALB/Cマウスの治療によって、60%の保護(p<0.01)が得られた。治療により、IL−1βは90分後で5909から658pg/mLに、8時間後で2478から1032pg/mLに減少した。治療により、TNF−αも90分後で33649から3696pg/mLに、8時間後で1272から901に低下した。MIP−1αも治療によって、90分後で10499から3475pg/mLに、8時間後で680から413pg/mLに低下した。8時間後では、治療によってIFN−γが142から86pg/mLに低減し、IL−12(p40)が46570から14261pg/mLに低減した。抗炎症性サイトカインIL−10は治療により90分後で719から898pg/mLに増加した。これらの研究によって、siRNAによって炎症性メディエーターを標的にすると、エンドトキシン血症マウスにおいて保護が得られることが示され、これは敗血症患者の治療において有用な方法である可能性があることを示唆する。
【0027】
上記で検討した敗血症モデルの他に、本発明者らは出血性ショックを研究するための新規マウスモデルも開発した。このモデルの雄マウスC−57BL/6J(週齢8〜12)において、60秒間以上の心穿刺(メトキシフルラン麻酔下)によって、計量された血液量(0.55ml)の30%を除去することによって出血ショックを誘発した。肺は出血後1時間に摘出し、20mM HEPES(PH7.4)、20mMグリセロリン酸エステル、20mMピロリン酸ナトリウム、0.2mM Na3VO4、2mM EDTA、20mMフッ化ナトリウム、10mMベンズアミジン、1mM DTT、20ng/mlロイペプチン、0.4mM Pefabloc SC、および0.01% Triton X−100を含有する1mlのよく冷えた抽出緩衝液において均質にした。ホモジネートは14,000gで15分間4℃で遠心分離機にかけた。浮遊物を収集し、タンパク質濃度はビシンコニン酸アッセイで決定した。得られた浮遊物は、製造業者の指示通りにECL(液相ELISA)によるTNF、IL−1、およびIL−6の決定に使用した。最終結果は、タンパク質1ミリグラムごとに、サイトカインタンパク質をピコグラムで表した。
【0028】
他の出血モデルでは、本発明者らはeIF5A siRNAによってTNF−αおよびIL−1βの発現を低減させることができることを示した。5匹のipで誘発した雄マウスC−57BL/6Jは、出血の24時間前に50μgのeIF5A siRNAで治療した。最終的に、5匹のipで誘発した雄マウスC−57BL/6Jは、出血の24時間前に50μgのスクランブルsiRNAで治療した。出血ショックは、60秒間以上の心穿刺(メトキシフルラン麻酔下)による0.55mLの除去により引き起こされた。図21は、出血ショック誘因前のsiRNAの投与がI1−1βおよびTNF−αの発現を低下させることによって保護的利点をもたらしたことを示す。
【0029】
したがって、本発明の一実施形態は、対象における体内の炎症性サイトカインの発現を低下させる方法を提供し、それは対象にeIF5A1 siRNAを投与するステップを含み、それによってeIF5A1 siRNAは炎症性サイトカインの発現を低下させる。対象は、ヒトを含むいかなる動物であってよい。
【0030】
炎症性サイトカインは、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、IFN−γ、TNF−α、IL−3、IL−6、IL−12(p40)、IL−12(p70)、G−CSF、KC、MIP−1a、およびRANTESなどの炎症カスケードに関与するいかなるサイトカインである。図1〜18および21〜22は、eIF5A1 siRNAでの治療は、eIF5A1 siRNAを受けていない動物と比較して、炎症性サイトカインの量を低下させたことを示す。
【0031】
上記に示すように、本発明者らは、炎症性サイトカイン発現が減少した際、eIF5A siRNAはエンドトキシン血症マウスにおいて保護をもたらすことを証明した。したがって、本発明の一実施形態は、対象にeIF5A1 siRNAを投与することによって対象における敗血症を治療する方法も提供し、それによりIF5A1 siRNAの投与はeIF5A1の発現を低下させ、炎症性サイトカインの発現の低下をもたらす。発現の低下は、発現の減少を意味するとともに、eIF5A1 siRNAではなく他のeIF5A1アンチセンス構築物で治療された対象における発現レベルまたはタンパク質の量と比較すると、特定のタンパク質のレベルの低下または減少を意味する。
【0032】
本発明の他の実施形態は、ヒトを含む対象における出血性ショックを防止する方法をさらに提供し、それはIL−1βおよび/またはTNF−αの発現を低下させるための、eIF5A1 siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドを投与するステップを含む。
【0033】
eIF5A1の発現を阻害するいかなるeIF−5A1 siRNAを使用してもよい。「阻害」という用語は、低下または減少も意味する。1つの典型的なeIF−5A1 siRNAは、配列:CGG AAU GAC UUC CAG CUG Aを含む。米国同時係属出願第11/134,445号(2005年5月23日出願)、第11/184,982号(2005年6月20日出願)、第11/293,391号(2005年11月28日出願)、および第11/595,990号(2006年11月13日出願)(参照することにより本願に組み込まれる)は、他の細胞型においてeIF−5A1の発現を阻害するために使用されており、炎症性サイトカインの発現を阻害するとも思われる追加の典型的なeIF−5A1 siRNAおよび他のアンチセンス構築物を提供する。当業者は、eIF51A配列を前提として、他のeIF5A1 siRNAを設計することができ、必要以上の実験をせずに発現を阻害するsiRNAの能力について簡単に試験することができる。図22〜27は、eIF5A1、典型的なeIF−5A1 siRNAおよびアンチセンス構築物の配列が提供される。
【0034】
また本発明は、eIF−5A1 siRNAまたは上記で検討された、炎症性サイトカインの発現を低下させるために有用なアンチセンスポリヌクレオチドを含む医薬組成物も提供する。組成物は、eIF5A1 siRNAまたはアンチセンスポリヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含んでよい。媒体、アジュバント、担体または希釈剤などの薬学的に許容される賦形剤は、一般で容易に入手可能である。また、pH調整剤・緩衝剤、等張化剤、安定剤、湿潤剤などの薬学的に許容される補助剤も一般で容易に入手可能である。
【0035】
一般的に、上述のeIF5A1 siRNAまたはeIF5A1アンチセンスヌクレオチドの有効量は、受容者の年齢、体重および疾患の状態または重症度によって決定される。投薬は、1日1回以上またはそれ以下であってよい。本発明はここに記載されるいかなる用量に限られているわけではないことに注意すべきである。
【0036】
医薬組成物は、例えば、経口、非経口(皮下、筋肉内、および静脈内など)、直腸内、経皮、口腔、または経鼻など、対象の状態に適切ないかなる方法で投与されるよう薬剤として調製されてよく、または溶液として目に入れてもよい。
【0037】
siRNAまたはアンチセンス構築物は、「裸」のsiRNAまたはアンチセンスヌクレオチドとして運ばれてよく、または、例えば、コアセルベーション法または界面重合(例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルのそれぞれ)、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)、またはマクロエマルジョンで調整されたマイクロカプセルに封入されてよい。そのような手法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Oslo,A.,Ed.,(1980)において公開されている。
【0038】
アンチセンスポリヌクレオチドおよび/またはsiRNAは、化学的に修正されてよい。これによって、ヌクレアーゼに対する抵抗が強化される可能性があり、細胞内に入る能力が強化される可能性がある。例えば、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドが使用されてよい。他のデオキシヌクレオチド類似体には、メチルホスホネート、ホスホルアミデート、ジチオリン酸、N3’P5’−ホスホルアミデートおよびオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエートとその2’−O−アルキル類似体および2’−O−メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートがある。
【0039】
あるいは、混合バックボーンオリゴヌクレオチド(MBO)を使用してよい。MBOは、ホスホチオエートオリゴデオキシヌクレオチドの切片および修正されたオリゴデオキシまたはオリゴリボヌクレオチドの適当に置かれた切片を含有する。MBOは、ホスホロチオエート連鎖の切片および非イオンで、ヌクレアーゼまたは2’−O−アルキルオリゴリボヌクレオチドに対して強い耐性を示すメチルホスホネートなどの他の修正されたオリゴヌクレオチドの他の切片を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、炎症性サイトカインの効果に対する、eIF−5A1に対するsiRNAの効果を示す。図1は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−1βの発現を低下させることを示す。
【図2】図2は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−2の発現を低下させることを示す。
【図3】図3は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−4の発現を低下させることを示す。
【図4】図4は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−5の発現を低下させることを示す。
【図5】図5は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−10の発現を低下させることを示す。
【図6】図6は、eIF−5A1に対するsiRNAがGM―CSFの発現を増加させることを示す。
【図7】図7は、eIF−5A1に対するsiRNAがIFN−γの発現を低下させることを示す。
【図8】図8は、eIF−5A1に対するsiRNAがTNF−αの発現を低下させることを示す。
【図9】図9は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−1αの発現を増加させることを示す。
【図10】図10は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−3の発現を低下させることを示す。
【図11】図11は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−6の発現を低下させることを示す。
【図12】図12は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−12(p40)の発現を低下させることを示す。
【図13】図13は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−12(p70)の発現を低下させることを示す。
【図14】図14は、eIF−5A1に対するsiRNAがIL−17の発現を増加させることを示す。
【図15】図15は、eIF−5A1に対するsiRNAがG−CSFの発現を低下させることを示す。
【図16】図16は、eIF−5A1に対するsiRNAがKCの発現を低下させることを示す。
【図17】図17は、eIF−5A1に対するsiRNAがMIP−1αの発現を低下させることを示す。
【図18】図18は、eIF−5A1に対するsiRNAがRANTESの発現を低下させることを示す。
【図19】図19は、eIF−5A1 siRNA構築体を提供する。
【図20】図20は、心穿刺の効果および1時間後の出血性肺の出血を示す。IL−1β発現は有意に増加する。
【図21】図21は、出血ショック誘因の前に行われたeIF5A1 siRNAの投与によって、I1−1ΒおよびTNF−αの発現が低下したことを示す。
【図22】図22は、eIF5A2に対して配列されたヒトeIF5A1のヌクレオチド配列を提供する。
【図23】図23は、eIF5A2に対して配列されたヒトeIF5A1のアミノ酸配列を提供する。
【図24】図24は、典型的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを有するヒトeIF5A1のヌクレオチド配列を提供する。
【図25】図25は、典型的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを有するヒトeIF5A1のヌクレオチド配列を提供する。
【図26A】典型的なsiRNAを有するヒトeIF5A1のヌクレオチド配列を提供する。
【図26B】典型的なsiRNAを有するヒトeIF5A1のヌクレオチド配列を提供する。
【図27】図27は、典型的なsiRNAを有するヒトeIF5A1のヌクレオチド配列を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における体内の炎症性サイトカインの発現を低下させる方法であって、eIF5A1 siRNAを前記対象に投与するステップを含み、それにより前記eIF5A1 siRNAが前記対象における炎症性サイトカインの発現を低下させる、方法。
【請求項2】
前記対象はヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炎症性サイトカインは、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、IFN−γ、TNF−α、IL−3、IL−6、IL−12(p40)、IL−12(p70)、G−CSF、KC、MIP−1a、およびRANTESから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炎症性サイトカインはTNF−αである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炎症性サイトカインはI1−6である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記炎症性サイトカインはKCである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記炎症性サイトカインはMIP−1αである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症性サイトカインの発現の低下は、敗血症の治療をさらに提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記eIF5A1 siRNAは、CGG AAU GAC UUC CAG CUG Aの配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
eIF5A siRNAおよび薬学的に許容される担体を含む、炎症性サイトカインの発現を低下させるための医薬組成物。
【請求項11】
前記siRNAは、ヌクレオチド配列CGG AAU GAC UUC CAG CUG Aを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項12】
対象における出血性ショックを予防する方法であって、前記対象においてIL−1βおよび/またはTNF−αの発現を低下させるために、eIF5A1 siRNAまたはeIFA1アンチセンスポリヌクレオチドを投与するステップを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【公表番号】特表2009−530417(P2009−530417A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501700(P2009−501700)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/064417
【国際公開番号】WO2007/109674
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(502458132)セネスコ テクノロジーズ,インコーポレイティド (16)
【Fターム(参考)】