炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤および前記疾患の治療または予防方法
本発明は、ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤、前記製剤を用いて炎症性呼吸器疾患を治療または予防する方法、および前記製剤を含むキットに関するもので、前記ペプチドを注射で全身投与する場合に比べて、直接呼吸器に投与することにより呼吸器炎症抑制効果が顕著に向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤、前記製剤を用いて炎症性呼吸器疾患を治療または予防する方法、および前記製剤を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器疾患は一般に炎症を随伴し、これは気管支や肺などの状態を悪化させる。これに関連して、炎症性呼吸器疾患としては急性上気道感染症、Th1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性副鼻腔塩、アレルギー性鼻炎、慢性下気道感染症、慢性気管支炎、肺気腫、肺炎、気管支喘息、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性繊維症、肺繊維症などがある。
【0003】
よって、呼吸器の炎症を抑えることにより前記炎症性呼吸器疾患を治療または予防することができるが、依然として、満足すべき薬効を持つ、炎症性呼吸器疾患を治療または予防する薬剤の開発が要求されている。
【0004】
一方、人体は、食細胞、特に好中球(neutrophil)および単球(monocyte)に対する化学誘引物質として、バクテリアから生産されたN−ホルミルメチオニルペプチドを用いて、バクテリアの感染に対する防御メカニズムを開発するように進化した。N−ホルミルペプチドのうち、f−Met−Leu−Phe(FMLP)が食細胞を補充し、好中球によるリソソーム性酵素の放出を促進するという能力面で最も効能があるものと確認された[Showell et al., J, Exp. Med, 143:1154-1169, 1976]。また、合成テトラペプチド、特にf−Met−Ile−Phe−Leuおよびf−Met−Leu−Phe−Ileは以後に好中球反応を誘発させるものと明らかになった[Rot et al., Proc. Natl, Acad, Scie, USA 84:7967-7971, 1987]。初期に、前記ペプチドの効能は1)N末端のホルミルグループ、2)メチオニン側鎖、並びに3)ロイシンおよびフェニルアラニン側鎖に起因するものと思われた。
【0005】
N−ホルミルペプチド受容体(FPR=formyl peptide receptor)は細胞外空間または細胞内空間に露出された親水性配列によって連結された原形質膜に置かれた7つの疎水性領域を含む(Murphy, Annu. Rev. Immunol. 12: 593-633, 1994)。第1および第3の細胞内ループ(loop)は、相対的に小さく、それぞれ5つおよび6つのアミノ酸から構成される。カルボキシル末端は細胞内空間に露出されるが、N末端は細胞外空間に露出される。また、細胞内配列はG−タンパク質−結合領域(受容体の作用に必須的な領域)および潜在性リン酸化領域を含む。
【0006】
6つのアミノ酸からなるTrp−Lys−Tyr−Met−Val−d−Met(WKYMVm;配列番号4)がFPR(formyl peptide receptor)およびその類似体FPRL1(formyl peptide receptor-like 1)に結合するものと知られており、WKYMVmは広い範囲の受容体に対して高い親和度を持つ短いペプチドであるから、FPRまたはFPRL1媒介信号伝達の研究に有用でありうる[国際特許出願公開WO/2005/077412;Le, Y., Oppenheim, J. J., and Wang, J. M. (2001) Cytokine Growth Factor Rev. 12, 91-105); Bae YS et al., Journal of Leukocyte Biology 71(2): 329-338 (2002); Christophe T et al., Journal of Biological Chemistry 276(24): 21585-21593 (2001); He R et al., Journal of Immunology 165(8): 4598-4605 (2000); Li BQ et al., Blood 97(10): 2941-2947 (2001); Seo JK et al., Journal of Immunology 158(4): 1895-1901 (1997); Seo JK et al., Clinical Biochemistry 31(3): 137-141 (1998)]。
【0007】
ところが、FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドを疾病の治療に用いた例は多くない。WKYMVm(配列番号:4)を用いて白血病患者または化学治療を受けた癌患者がバクテリアに対する抵抗力を高めたと報告された[H. Kim et al., Leukemia Research 32(5):717-725 (2008); H. Kim et al., Experimental Hematology 34(4):407-413 (2006)]。WKYMVmおよびこれとアミノ酸配列が類似したペプチドを用いて免疫反応を調節する方法が報告された[WO2005/077412]。ところが、FPRまたはその類似受容体に作用するWKYMVmなどのペプチドを呼吸器の炎症抑制に使用した例は知られておらず、特に、他の投与経路に比べて、呼吸器内に投与することにより呼吸器の炎症を顕著に抑制することができることについてはまだ報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、前記FPRまたはその類似受容体に作用する特定のペプチドを呼吸器を通して投与する場合、顕著な呼吸器の炎症抑制効果を示して炎症性呼吸器疾患の治療または予防に顕著な効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
そこで、本発明の技術的課題は、FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドを含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤、前記製剤を含むキット、および前記製剤を呼吸器内に投与することにより呼吸器の炎症を抑制して炎症性呼吸器疾患を治療または予防することが可能な方法を提供することにある。
【0010】
ところが、本発明が解決しようとする技術的課題は上述した課題に限定されず、言及されていない別の課題は下記の記載から当業者にとって明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある側面は、呼吸器内投与が可能な薬学的または獣医学的許容担;およびホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドまたはその薬学的に許容される塩を、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤を提供する。
【0012】
本発明の他の側面は、前記呼吸器内投与用薬学製剤および投与装置を含むキットを提供する。
【0013】
本発明の別の側面は、前記呼吸器内投与用薬学製剤を哺乳動物の呼吸器内に投与することを含む、炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
マウスモデルにおいて、FPRに作用するペプチドを腹腔に注射して全身投与した場合には呼吸器の炎症抑制効果がなかったが、ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤を吸入によって呼吸器に投与した場合には呼吸器炎症抑制効果が顕著に示された。よって、前記ペプチドを注射で全身投与する場合と比べて、本発明によって直接呼吸器に投与することにより呼吸器炎症抑制効果が顕著に向上する。それ故に、このような本発明の前記FPRまたはその類似受容体に作用する特定のペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤を呼吸器を通して投与する場合、顕著な呼吸器炎症抑制効果を示して炎症性呼吸器疾患の治療または予防に顕著な効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Th1+Th17免疫反応を示す喘息モデルをマウスを用いて作った方法を図式的に示す。
【図2】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目に炎症反応を観察したもので、気管支肺胞洗浄液における炎症細胞の数から得た結果を示す。
【図3】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目にTh1免疫反応を観察したもので、肺組織および気管支肺胞洗浄液におけるサイトカインの発現結果を示したものである。
【図4】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目にTh17免疫反応を観察したもので、肺組織および気管支肺胞洗浄液におけるサイトカインの発現結果を示したものである。
【図5】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目にTh17免疫反応およびIL−17によって浸潤した炎症細胞から分泌されるサイトカインを気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図6】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与48時間後である24日目に測定した炎症反応を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図7】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与48時間後である24日目にTh1およびTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌されるサイトカインの分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図8】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目に気管支肺胞洗浄液で測定した炎症反応結果を示したものである。
【図9】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh1免疫反応を観察したもので、局所リンパ節、肺組織および気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図10】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh17免疫反応を観察したもので、局所リンパ節、肺組織および気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図11】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh2免疫反応などを観察したもので、肺組織で測定した結果を示したものである。
【図12】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh1およびTh17免疫反応による炎症細胞の浸潤および浸潤された炎症細胞から分泌される炎症性媒介体の分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図13】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の24時間後である23日目に気管支過敏性を測定した結果を示したものである。
【図14】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の48時間後である24日目に炎症反応を観察したもので、気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図15】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の48時間後である24日目にTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインの分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図16】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の48時間後である24日目にTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインの分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用された用語「約」または「実質的に」とは、一般に正確な数字による限定に余地を提供するためのものである。例えば、ペプチド配列の長さを示す文章に使用される場合、「約」または「実質的に」は記載されたアミノ酸の個数に限定されないことを示す。結合活性などの機能的活性が存在する限り、N末端またはC末端に対して添加されるか或いは除去された若干のアミノ酸が含まれ得る。
【0017】
本明細書で使用された用語「担体(carriers)」は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または安定化剤であって、使用された濃度および容量で前記物質に露出された細胞または哺乳類に対して毒性がないものを含む。薬学的に許容可能な水溶性pHバッファ溶液の場合もある。薬学的に許容される担体の例として、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸のようなバッファ;アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量ポリペプチド(約10残基以下);血清アルブミン、ゼラチンまたはイムノグロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの単糖類、二糖類またはその他の炭化水素類;EDTAのようなキレート剤;マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成カウンターイオン;および/またはTWEEN、ポリエチレングリコール(REG)およびPLURONICSのような非イオン性界面活性剤を含むが、これに限定されるものではない。
【0018】
本明細書で使用された用語「効果的な量(effective amount)」または「有効量」は有利または所望の臨床的または生化学的結果を示すのに十分な量を意味する。有効量は1回または2回以上投与され得る。本発明の目的のために、活性化合物の有効量は疾病状態の進行を緩和、改善、安定化、逆転、減速化または遅延させるのに十分な量である。本発明の好適な具体例において、「有効量」はFPR系受容体およびその作用剤の結合を抑制することが可能な化合物の量として定義される。
【0019】
本明細書で使用された「FPR類似体」として、例えばFPR1(formyl peptide receptor-like 1)、FPRL2などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0020】
本明細書で使用された用語「Wペプチド」は、FPRおよびその類似体に高い親和度を有するリガンドを示すものであって、Wペプチドアミノ酸配列を含むペプチド、ポリペプチド、および/またはタンパク質を含み、Wペプチドアミノ酸配列を含むポリペプチドのできる限り全ての変異体または断片を含む。
【0021】
以下、添付の図面を参照して、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の具現例および実施例を詳細に説明する。しかし、本発明は様々な形態に具現でき、ここで説明する具現例および実施例に限定されない。そして、図面において、本発明を明確に説明するために、説明と関係のない部分は省略し、明細書全体にわたって同様の部分に対しては同様の符号を付した。
【0022】
本発明の一側面は、呼吸器内投与が可能な薬学的および獣医学的許容担体;ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドまたはその薬学的に許容される塩を、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤を提供する。
【0023】
前記本発明の一具現例において、前記ペプチドは、Wペプチドであって、例えばヘキサペプチド(hexapeptide)が挙げられるが、本発明が前記ヘキサペプチドに限定される意図ではない。前記ペプチドはややもっと長いか、もっと短いこともある。前記ペプチドがホルミルペプチド受容体およびその類似受容体媒介信号伝達を拮抗する限り、前記ペプチドは4乃至15個のアミノ酸からなるか、好ましくは4乃至10個のアミノ酸、さらに好ましくは4乃至7個のアミノ酸、または約6個のアミノ酸からなり得る。前記本発明の好適な具現例において、前記ペプチドは下記表1に示した配列番号1乃至28よりなる群から選ばれるアミノ酸配列から構成され得るが、これに限定されるものではない。下記表1に記載されたペプチドについて、国際特許出願公開WO/2005/077412を参考にすることができる。下記表1において、標準アミノ酸の略語を下記表1で使用し、小文字はD−残基を示す。前記ペプチドの作用性誘導体、前駆体または薬学的に許容可能な塩もまた本発明で使用できる。
【0024】
【表1】
【0025】
前記本発明の他の具現例において、前記ペプチドが配列番号4のアミノ酸配列から構成されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
前記本発明の別の具現例において、前記担体が気体、液体または固体であることもあり得る。
【0027】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、鼻腔、吸入、呼吸可能、肺内または気管内投与が可能な製剤であることもある。
【0028】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、前記ペプチドが担持された担体の液体粒子または粉末粒子を含むエアロゾルまたはスプレーであることもある。
【0029】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む実質的に粒径約10μm以下の粒子を含む、吸入可能または呼吸可能製剤であることもある。
【0030】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む実質的に粒径約100μm以下の粒子を含む、鼻腔、肺内または気管内投与用製剤であってもよい。
【0031】
本発明の別の側面は、前記本発明の一側面に係る呼吸器内投与用薬学製剤および投与装置を含むキットを提供する。
【0032】
前記本発明の一具現例において、前記投与装置がエアロゾルまたはスプレー発生器を含んでいることもあるが、これに限定されるものではない。
【0033】
前記本発明の他の具現例において、前記エアロゾル発生器が吸入器を含んでいることもあるが、これに限定されるものではない。
【0034】
前記本発明の別の具現例において、前記吸入器が、予め計量化された製剤の投薬量を運搬するものであることもあるが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記本発明の別の具現例において、前記吸入器がネブライザー(nebulizer)またはインサフレーター(insufflator)を含んでいることもあるが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記本発明の別の具現例において、前記キットは、前記投与装置が圧縮吸入器を含み、前記製剤が水性または非水性液体の懸濁液または溶液、または、水中油または油中水エマルジョンを含むものであり得る。
【0037】
前記本発明の別の具現例において、前記キットは、貫通できるかもしくは開放可能なカプセル、カートリッジまたはブリスターでありうる、カプセル、カートリッジまたはブリスターとして提供されるものであり得る。
【0038】
前記本発明の別の具現例において、前記投与装置は、加圧され、プロペラント(propellant)の助けで作動してもよい。
【0039】
本願発明において、有効成分である前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチド、その作用性誘導体、前駆体または薬学的に許容される塩は、吸入、呼吸、鼻腔投与による呼吸システム内にまたは任意の適切な手段として対象の肺内点滴注射で(肺内に)投与でき、好ましくは粉末化されるか、或いは液体鼻腔、肺内、呼吸可能または吸入可能粒子を含有するエアロゾルまたはスプレーを発生させることにより投与される。前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチド有効成分を含有する呼吸可能または吸入可能粒子は、呼吸器または肺自体内部へ対象により、すなわち吸入で或いは鼻腔投与で或いは点滴注射で吸入される。例えば、前記呼吸器内投与用薬学製剤は前記ペプチド有効成分の呼吸可能または吸入可能液体または固体粒子を含有することができ、本発明によって、口腔および喉頭を通して通過し吸入され、肺の気管支および肺胞内に持続されるように十分小さいサイズの呼吸可能または吸入可能粒子を含有する。一般的に、前記呼吸器内投与用薬学製剤に含まれた粒子は粒径約10μm以下、例えば、約0.05、約0.1、約0.5、約1、約2乃至約4、約6、約8、約10μmの範囲である。さらに具体的には、粒径約0.5乃至約5μm以下の粒子は呼吸可能または吸入可能である。エアロゾルまたはスプレー中に含有され、呼吸不可能なサイズの粒子は、喉に沈着され、そして嚥下される傾向がある。エアロゾル中の呼吸不可能なサイズの粒子の量は好ましくは最小化される。鼻腔投与または肺内点滴注射のために、約8、約10、約20、約25乃至約35、約50、約100、約150、約250および約500μmの範囲の粒子サイズが、鼻腔内に滞留保障、または点滴注射をするために、直接肺内に沈着させるのが好ましい。特に新生児および胎児に投与されたとき、液体製剤が呼吸器(鼻)および肺内に噴出し得る。
【0040】
例えば、エアロゾルタイプの呼吸器内投与用薬学製剤を製造するために、前記ペプチド有効成分を安定してビヒクル(vehicle)、例えばパイロジェンフリー無菌水と組み合わせることによって製造できる。或いは、微小化された前記ペプチド有効成分の呼吸可能乾燥粒子を含有する固体微粒子組成物は、乾燥活性化合物を臼と杵で粉砕することにより、その後400メッシュスクリーンを通された組成物を通過させることによって、大きい塊を粉砕または分離させて製造できる。前記ペプチド有効成分を含有する固体微粒子組成物は、選択的にエアロゾルの形成を促進するように提供される分散剤を含み得る。適切な分散剤はラクトースであり、これは任意の適切な比、例えば1:1の重量比で活性化合物と混合できる。前記ペプチド有効成分を含有する液体粒子のエアロゾルは任意の適切な手段、例えばネブライザー(nebulizer)で製造できる[例えば、米国特許4,501,729参照]。ネブライザーは狭小なベンチュリオルフィス(venture orfice)を通して圧縮気体、典型的に空気または酸素の加速化を手段として或いは超音波振動を手段として、前記ペプチド有効成分の溶液または懸濁液を治療用エアロゾルミストに転換させる、商業上購入することが可能な装置である。ネブライザーに使用するための適切な組成物は液体担体中に前記ペプチド有効成分40%w/w、好ましくは20%w/w以下を含有し、典型的に水または薄いアルコール水溶液である担体、好ましくは例えば塩化ナトリウムを追加することによって体液と等張になった担体を含む。選択的追加剤は、もし組成物が無菌で製造されなかったら、保存剤、例えばメチルヒドロキシベンゾエート、抗酸化剤、芳香剤、揮発性オイル、緩衝剤および界面活性剤を含む。前記ペプチド有効成分を含有する固体粒子のエアロゾルは、同様に任意の固体微粒子薬物エアロゾル発生器として製造できる。固体微粒子薬物を対象に投与するためのエアロゾル発生器は、前述したように呼吸可能な粒子を発生させ、ヒトへの投与に適切な速度で薬物の所定の計量された投薬量を含有するエアロゾル体積で発生させる。そのようなエアロゾル発生器の例としては計量投薬量吸入器およびインサフレーター(insufflator)を含む。
【0041】
本発明の別の側面は、前記本発明の一側面に係る呼吸器内投与用薬学製剤を哺乳動物の呼吸器内に投与することを含む、炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法を提供する。
【0042】
前記本発明の一具現例において、前記炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法は、前記製剤を前記哺乳動物の鼻腔内、肺内、吸入で或いは呼吸気道内に投与することを含む。
【0043】
前記本発明の他の具現例において、前記炎症性呼吸器疾患が急性上気道感染症、Th1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、慢性下気道感染症、肺気腫、肺炎、 気管支喘息、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性繊維症および肺繊維症よりなる群から選ばれる1種または2種以上であることがあり得るが、これに限定されるものではない。
【0044】
前記本発明の別の具現例において、前記急性上気道感染症が風邪、急性咽頭炎、急性鼻炎、急性副鼻腔炎、急性扁桃炎、急性喉頭炎、急性喉頭蓋炎および急性気管炎よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であることもあり得る。
【0045】
前記本発明の別の具現例において、前記慢性下気道感染症が慢性気管支炎、彌慢性汎細気管支炎および気管支拡張症よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であってもよい。
【0046】
前記本発明の別の具現例において、前記疾患がアレルギー性鼻炎を含み得る。前記本発明の別の具現例において、前記疾患がTh1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患を含み得る。
【0047】
前記本発明の別の具現例において、前記疾患が慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含み得る。
【0048】
本発明によって、前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤は、呼吸器を通して投与されることにより顕著な呼吸器炎症の抑制効果を示して前記炎症性呼吸器疾患の治療または予防の効果を示す。
【0049】
本発明の前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドは、1回量、多重分割投与量(multiple discrete doses)、または連続注入によって投与できる。
【0050】
本発明の前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドは、前記呼吸器内投与用薬学製剤において広い含量範囲内で提供される。例えば、前記ペプチドは、前記呼吸器内投与用薬学製剤の全体に対して約0.001%、約1%、約2%、約5%、約10%、約20%、約40%、約90%、約98%、または約99.999%の量で含有できる。そして、もし追加薬剤および添加剤などが含まれた場合、前記ペプチドの含量が調整できる。しかし、前記ペプチドの含量の投薬量は対象の年齢、体重および疾病によって異なる。
【0051】
本発明の前記呼吸器内投与用薬学製剤内に含有される前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチド有効成分は、約0.001mg/kg/d乃至約100mg/kg/dに属する投与量の水準が本発明の方法のために有用である。一つの具体例において、前記投与量の水準は約0.1mg/kg/d乃至約100mg/kg/dである。他の具体例において、前記投与量の水準は約1mg/kg/d乃至約10mg/kg/dである。ある特別な患者のための特定の投与量水準は、使用される特定の有効成分の活性および可能な毒性;患者の年齢、体重、全般的な健康状態(general health)、性別および食餌(diet);投与時間;排出速度;薬物の組み合わせ;疾病の深刻性;および投与の形態を含む様々な因子に依存して変更されるであろう。典型的に、試験管内の容量−効果の結果は患者投薬のための適切な投与量に対する有用なガイドラインを提供する。また、動物モデルにおける研究は有用である。適切な投与量の水準を決定するために考慮すべき事項は当該分野でよく知られており、一般的な医者が持つ技術に属する。
【0052】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。これらの実施例は本発明を説明するためのものに過ぎず、これらの実施例によって本発明の範囲が限定されないということは、本発明の属する分野で通常の知識を有する者にとって自明なことである。
【0053】
[実施例]
以下、実施例および比較例においてTh1およびTh17免疫反応を特徴として炎症を引き起こす喘息動物モデルを通してWKYMVmの効能を評価した。
【0054】
比較例1:腹腔注射で全身投与したWKYMVm(配列番号4)の効能評価
TH1+TH17免疫反応を示す喘息モデルを作るために、BALB/c(雌、6週)マウスの実験群と陽性対照群の各5匹に0、1、2および7日目にアレルゲンとしてのオボアルブミン(ovalbumin、OVA)75μgと補強剤としてのLPS(Lipopolysaccharide)10μgを麻酔の後に鼻腔に投与して感作(sensitization)した。14、15、21および22日目にアレルゲン(OVA50μg)を麻酔の後、鼻腔に投与(challenge)する際、実験群に属したマウスにはWKYMVm4mg/kgを腹腔に注射して全身投与した。この際、陽性対照群に属したマウスにはリン酸化緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline、PBS)を腹腔に同量注射した。陰性対照群は、0、1、2および7日目に感作させる過程と、14、15、21、22日目のアレルゲン投与の際にアレルゲンの代わりに同量の前記リン酸化緩衝生理食塩水(PBS)を使用したことを除いて前記陽性対照群と同様にして作った。図1にマウス喘息モデルを用いて作った方法図式的に示した。
【0055】
最後のアレルゲン投与24時間後(23日目)にメタコリンに対する気道過敏性を測定した。マウスをチャンバー(chamber)に入れて噴霧器(nebulizer)を用い、3分間リン酸化緩衝生理食塩水(PBS)溶液を吸入させた後、非侵襲体プレシスモグラフィー(non-invasive whole body plethysmography)(Allmedicus、Korea)を用いて3分間penh(enhanced pause)値を測定した。同様の方法で濃度6.25、12.5、25、50mg/mlのメタコリンPBS溶液を順次マウスに吸入させた後、各濃度に対するpenh値を測定した。3分間測定したpenh値の平均を気道閉塞の指標として使用した。
【0056】
肺炎症は最後のアレルゲン投与6時間後(22日目)と48時間後(24日目)に測定した。22、24日目にケタミン(ketamin)とキシラジン(xylazine)とを混合した麻酔液をマウスの腹腔に注射して麻酔した後、胸部を切開し気管を露出させてカテーテルを気道に挿入し、結紮させた。無菌性リン酸化緩衝生理食塩水を1mLずつ2回注入し、気道を洗浄して気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid、以下「BAL液」という)を得た。そして、肺組織内Tリンパ球の分析のために肺を摘出し、局所リンパ節から細胞を抽出した。
【0057】
BAL液を摂氏4度で3000rpmにて10分間遠心分離した後、セルペレット(cell pellet)をPBS溶液に溶かした。前記セルペレットをサイトスピン(cytospin)してスライドに塗抹し、ディフ・クイック(Diff Quick)染色を施行して光学顕微鏡1000倍視野で300個以上の炎症細胞を観察し、マクロファージ(Macrophage)、リンパ球(Lymphocyte)、好中球(Neutrophil)、好酸球(Eosinophil)に分類して各炎症細胞数を測定した。また、BAL液における、Th1炎症反応を反映するサイトカインとしてのγ−インターフェロン、インターフェロン−g−誘導タンパク質10[interferon-g-inducible protein 10(IP-10)]、IL−12、Th2炎症反応を反映するインターロイキン(IL)_4[interleukin(IL)-4]、IL−13、Th17炎症反応を反映するIL−17、TNF−α、IL−6、そしてTh2およびTh27炎症反応を反映するTGF−βをELISA方法で測定した。
【0058】
摘出した肺組織をコラゲナーゼ(collagenase)タイプIV(Sigma)で処理して細胞を分離した。細胞の表面を蛍光物質が府着されたanti−CD3、anti−CD4、anti−CD8(BD Pharmingen)抗体で染色した後、トリトン(triton)で細胞膜に穿孔を行い、anti−IFN−γ、anti−IL−17、anti−IL−10、およびanti−IL−4で細胞内サイトカイン染色(intracellular cytokine staining)を行った。発現分析は、蛍光標識細胞スキャナ(fluorescence activated cell scanner)としてのFACS Calibur(Becton Dickinson)を用いて、肺に流入したTリンパ球の種類を決定した。
【0059】
リンパ節から得た細胞をOVA100μg/mL濃度のリン酸化緩衝生理食塩水溶液で72時間培養した後、溶液に含まれたTh1、Th17、Th2炎症反応を反映するサイトカインとしてのγ−インターフェロン、IL−17、IL−4などをELISA方法で測定した。
【0060】
図2は最後のアレルゲン投与6時間後である22日目に測定した結果を示す。BAL液内の炎症細胞数は、OVAとLPSで共に感作させた喘息モデルが、腹腔内薬物投与に関係なく、アレルゲン単独で感作させた陰性対照群に比べて増加した(図2)。アレルゲンとLPSで感作させたマウスにおいて、Wペプチドを全身投与した実験群では偽薬を全身投与した陽性対照群に比べて炎症細胞の数が増加した。これと共に、肺組織から分離した炎症細胞におけるγ−インターフェロンの分泌も増加した(図3a)。これはBAL液内のIP−10(図3b)、IL−12p40(図3c)の分泌増加に同伴した。また、肺組織から分離した炎症細胞でIL−17を発現するCD4+T細胞も増加し(図4a)、BAL液内のIL−17分泌も増加した(図4b)。このような変化はBAL液内のIL−17のダウンストリーム分子(downstream molecule)として思われるIL−6(図5a)およびTNF−α(図5b)の分泌増加に同伴した。
【0061】
図6と図7は最後のアレルゲン投与48時間後である24日目に測定した結果を示す。図6に示すように、肺炎症の指標であるBAL液内の炎症細胞数は、アレルゲンと共にLPSで感作させた場合が、アレルゲン単独で投与した陰性対照群に比べて増加したが、アレルゲンとLPSで感作させたマウスにおいて、Wペプチドを全身投与した実験群と、偽薬を全身投与した陽性対照群とは差異がなかった。また、図7に示すように、BAL液でELISA方法によって測定したサイトカインIL−12p40(図7a)、TGF−β(図7b)の量も、アレルゲンとLPSで感作させたマウスにおいて、Wペプチドを全身投与した実験群と、偽薬を全身投与した陽性対照群とは差異がなかった。IL−12p40濃度はTh1免疫反応の度合いを、TGF−β濃度はTh17/Th2免疫反応の度合いをそれぞれ示すため、肺炎症に変化がないことが分かる。
【0062】
実施例1:鼻腔に投与したWKYMVm(配列番号:4)の効能評価
WKYMVmを腹腔に注射して全身投与する代わりに、鼻腔に投与して比較例と同様に効能を評価した。14、15、21および22日目にアレルゲン[OVA50μg]をWKYMVm200μg/kgと共に鼻腔に投与(challenge)した。その他の手続きは前記比較例と同様にした。
【0063】
図8乃至図12は最後のアレルゲン投与6時間後である22日目に測定した結果を示した。BAL液内の炎症細胞数は、Wペプチドを鼻腔投与した実験群と、偽薬を鼻腔投与した陽性対照群との間に差異がなかった(図8)。免疫学的指標の変化をみれば、アレルゲンとLPSで感作させた場合、陰性対照群に比べてTh1免疫反応の場合に局所リンパ節から分離した免疫細胞における、体外(in vitro)にてアレルゲンで刺激するときのγ−インターフェロンの分泌は、Wペプチドを鼻腔投与した実験群が、偽薬を鼻腔投与した陽性対照群に比べて増加し(図9a)、肺組織から分離した炎症細胞において、Wペプチドを鼻腔投与した実験群が、偽薬を鼻腔投与した陽性対照群に比べて、γ−インターフェロンを発現するCD4+T細胞数も増加した(図9b)。ところが、BAL液内のγ−インターフェロンの分泌は、実験群が陽性対照群に比べて減少した(図9c)。Th17面積反応の場合、局所リンパ節から分離した免疫細胞における、体外でアレルゲンで刺激するときのIL−17の分泌は、実験群が陽性対照群に比べて増加し(図10a)、肺組織から分離した炎症細胞における、IL−17を発現するCD4+T細胞の数は実験群が陽性対照群に比べて増加した(図10b)。ところが、BAL液で測定したIL−17の分泌は、実験群が陽性対照群に比べて減少した(図10c)。一方、Th2サイトカインの場合、実験群では陽性対照群に比べて肺組織内のT細胞での発現が減少したが(図11a)、IL−10の場合には却って増加した(図11b)。これと共に、炎症細胞の浸潤後に炎症が増幅する後期炎症反応と関連のある炎症媒介体の分泌様相をみれば、γ−インターフェロンのダウンストリーム分子IP−10(図12a)とIL−12p40(図12b)の分泌は実験群が陽性対照群に比べて減少し、IL−17のダウンストリーム分子として思われるTNF−α(図12c)とIL−1β(図12d)の分泌も実験群が陽性対照群に比べて減少した。また、Th1およびTh17サイトカインによって誘導される炎症誘発サイトカイン(chemokine)としてのMCP−1(図12e)、MIP−1a(図12f)の分泌も、実験群が陽性対照群に比べて減少した。
【0064】
図13は最後のアレルゲン投与24時間後である23日目に測定した気道過敏性の結果である。鼻腔にWKYMVmを投与した実験群では、気道閉塞の指標であるPenhが陽性対照群に比べて減少した(図13)。図14乃至、図16は最後のアレルゲン投与48時間後である24日目に測定した結果である。肺炎症の指標であるBAL液内の炎症細胞数(BAL cellularity)も実験群が陽性対照群に比べて有意に減少した(図14)。また、BAL液におけるTh17免疫反応の指標であるIL−17分泌は、実験群が陽性対照群に比べて増加したが(図15a)、IL−17によって浸潤した炎症細胞から分泌されるTGF−βの分泌は、実験群が陽性対照群に比べて有意に減少した(図15b)。また、Th1免疫反応の結果により浸潤した炎症細胞から分泌されるサイトカインIL−12p40(図16a)とIP−10(図16b)の分泌も、実験群が陽性対照群に比べて減少した。
【0065】
以上の結果をまとめると、WKYMVmを鼻腔を通して気道に直接投与した場合は、腹腔注射によって全身投与した場合とは異なり、気道過敏性と肺炎症を抑制する効果に優れた。これは、免疫学的にTh1、Th17免疫反応を亢進させると同時にTh2免疫反応を抑制することで、既存の免疫調節剤が持っている副作用により問題となっている局所的Th1およびTh17免疫反応の抑制による感染などを減らすことができ、また、肺炎症により発生する喘息および慢性閉塞性肺疾患などの病因に関連して、Th1およびTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌される炎症性媒介体分泌を抑制することで、抗炎症効果を示すものと判断することができる。
【0066】
前述した本発明の説明は例示するためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想または必須的な特徴を変更することなく、様々な具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるはずである。よって、上述した実施例は全ての面において例示的なもので、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型に説明されている各構成要素は分散して実施されてもよいし、同様に分散したものとして説明されている構成要素も結合して実施されてもよい。
【0067】
本発明の範囲は前記詳細な説明より後述の特許請求の範囲によって定められるもので、特許請求の範囲の意味および範囲並びにその均等概念から導出される全ての変更または変形形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤は、顕著な呼吸器炎症抑制効果を示すので、炎症性呼吸器疾患の治療または予防に有用であると期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤、前記製剤を用いて炎症性呼吸器疾患を治療または予防する方法、および前記製剤を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器疾患は一般に炎症を随伴し、これは気管支や肺などの状態を悪化させる。これに関連して、炎症性呼吸器疾患としては急性上気道感染症、Th1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性副鼻腔塩、アレルギー性鼻炎、慢性下気道感染症、慢性気管支炎、肺気腫、肺炎、気管支喘息、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性繊維症、肺繊維症などがある。
【0003】
よって、呼吸器の炎症を抑えることにより前記炎症性呼吸器疾患を治療または予防することができるが、依然として、満足すべき薬効を持つ、炎症性呼吸器疾患を治療または予防する薬剤の開発が要求されている。
【0004】
一方、人体は、食細胞、特に好中球(neutrophil)および単球(monocyte)に対する化学誘引物質として、バクテリアから生産されたN−ホルミルメチオニルペプチドを用いて、バクテリアの感染に対する防御メカニズムを開発するように進化した。N−ホルミルペプチドのうち、f−Met−Leu−Phe(FMLP)が食細胞を補充し、好中球によるリソソーム性酵素の放出を促進するという能力面で最も効能があるものと確認された[Showell et al., J, Exp. Med, 143:1154-1169, 1976]。また、合成テトラペプチド、特にf−Met−Ile−Phe−Leuおよびf−Met−Leu−Phe−Ileは以後に好中球反応を誘発させるものと明らかになった[Rot et al., Proc. Natl, Acad, Scie, USA 84:7967-7971, 1987]。初期に、前記ペプチドの効能は1)N末端のホルミルグループ、2)メチオニン側鎖、並びに3)ロイシンおよびフェニルアラニン側鎖に起因するものと思われた。
【0005】
N−ホルミルペプチド受容体(FPR=formyl peptide receptor)は細胞外空間または細胞内空間に露出された親水性配列によって連結された原形質膜に置かれた7つの疎水性領域を含む(Murphy, Annu. Rev. Immunol. 12: 593-633, 1994)。第1および第3の細胞内ループ(loop)は、相対的に小さく、それぞれ5つおよび6つのアミノ酸から構成される。カルボキシル末端は細胞内空間に露出されるが、N末端は細胞外空間に露出される。また、細胞内配列はG−タンパク質−結合領域(受容体の作用に必須的な領域)および潜在性リン酸化領域を含む。
【0006】
6つのアミノ酸からなるTrp−Lys−Tyr−Met−Val−d−Met(WKYMVm;配列番号4)がFPR(formyl peptide receptor)およびその類似体FPRL1(formyl peptide receptor-like 1)に結合するものと知られており、WKYMVmは広い範囲の受容体に対して高い親和度を持つ短いペプチドであるから、FPRまたはFPRL1媒介信号伝達の研究に有用でありうる[国際特許出願公開WO/2005/077412;Le, Y., Oppenheim, J. J., and Wang, J. M. (2001) Cytokine Growth Factor Rev. 12, 91-105); Bae YS et al., Journal of Leukocyte Biology 71(2): 329-338 (2002); Christophe T et al., Journal of Biological Chemistry 276(24): 21585-21593 (2001); He R et al., Journal of Immunology 165(8): 4598-4605 (2000); Li BQ et al., Blood 97(10): 2941-2947 (2001); Seo JK et al., Journal of Immunology 158(4): 1895-1901 (1997); Seo JK et al., Clinical Biochemistry 31(3): 137-141 (1998)]。
【0007】
ところが、FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドを疾病の治療に用いた例は多くない。WKYMVm(配列番号:4)を用いて白血病患者または化学治療を受けた癌患者がバクテリアに対する抵抗力を高めたと報告された[H. Kim et al., Leukemia Research 32(5):717-725 (2008); H. Kim et al., Experimental Hematology 34(4):407-413 (2006)]。WKYMVmおよびこれとアミノ酸配列が類似したペプチドを用いて免疫反応を調節する方法が報告された[WO2005/077412]。ところが、FPRまたはその類似受容体に作用するWKYMVmなどのペプチドを呼吸器の炎症抑制に使用した例は知られておらず、特に、他の投与経路に比べて、呼吸器内に投与することにより呼吸器の炎症を顕著に抑制することができることについてはまだ報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、前記FPRまたはその類似受容体に作用する特定のペプチドを呼吸器を通して投与する場合、顕著な呼吸器の炎症抑制効果を示して炎症性呼吸器疾患の治療または予防に顕著な効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
そこで、本発明の技術的課題は、FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドを含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤、前記製剤を含むキット、および前記製剤を呼吸器内に投与することにより呼吸器の炎症を抑制して炎症性呼吸器疾患を治療または予防することが可能な方法を提供することにある。
【0010】
ところが、本発明が解決しようとする技術的課題は上述した課題に限定されず、言及されていない別の課題は下記の記載から当業者にとって明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある側面は、呼吸器内投与が可能な薬学的または獣医学的許容担;およびホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドまたはその薬学的に許容される塩を、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤を提供する。
【0012】
本発明の他の側面は、前記呼吸器内投与用薬学製剤および投与装置を含むキットを提供する。
【0013】
本発明の別の側面は、前記呼吸器内投与用薬学製剤を哺乳動物の呼吸器内に投与することを含む、炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
マウスモデルにおいて、FPRに作用するペプチドを腹腔に注射して全身投与した場合には呼吸器の炎症抑制効果がなかったが、ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤を吸入によって呼吸器に投与した場合には呼吸器炎症抑制効果が顕著に示された。よって、前記ペプチドを注射で全身投与する場合と比べて、本発明によって直接呼吸器に投与することにより呼吸器炎症抑制効果が顕著に向上する。それ故に、このような本発明の前記FPRまたはその類似受容体に作用する特定のペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤を呼吸器を通して投与する場合、顕著な呼吸器炎症抑制効果を示して炎症性呼吸器疾患の治療または予防に顕著な効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Th1+Th17免疫反応を示す喘息モデルをマウスを用いて作った方法を図式的に示す。
【図2】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目に炎症反応を観察したもので、気管支肺胞洗浄液における炎症細胞の数から得た結果を示す。
【図3】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目にTh1免疫反応を観察したもので、肺組織および気管支肺胞洗浄液におけるサイトカインの発現結果を示したものである。
【図4】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目にTh17免疫反応を観察したもので、肺組織および気管支肺胞洗浄液におけるサイトカインの発現結果を示したものである。
【図5】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与6時間後である22日目にTh17免疫反応およびIL−17によって浸潤した炎症細胞から分泌されるサイトカインを気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図6】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与48時間後である24日目に測定した炎症反応を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図7】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの腹腔に注射して全身投与し、最後のアレルゲン投与48時間後である24日目にTh1およびTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌されるサイトカインの分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図8】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目に気管支肺胞洗浄液で測定した炎症反応結果を示したものである。
【図9】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh1免疫反応を観察したもので、局所リンパ節、肺組織および気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図10】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh17免疫反応を観察したもので、局所リンパ節、肺組織および気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図11】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh2免疫反応などを観察したもので、肺組織で測定した結果を示したものである。
【図12】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、21日目のアレルゲン投与の6時間後である22日目にTh1およびTh17免疫反応による炎症細胞の浸潤および浸潤された炎症細胞から分泌される炎症性媒介体の分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図13】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の24時間後である23日目に気管支過敏性を測定した結果を示したものである。
【図14】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の48時間後である24日目に炎症反応を観察したもので、気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図15】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の48時間後である24日目にTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインの分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【図16】FPRに作用するペプチドをマウス喘息モデルの鼻腔に吸入させて投与し、22日目のアレルゲン投与の48時間後である24日目にTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインの分泌を気管支肺胞洗浄液で測定した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用された用語「約」または「実質的に」とは、一般に正確な数字による限定に余地を提供するためのものである。例えば、ペプチド配列の長さを示す文章に使用される場合、「約」または「実質的に」は記載されたアミノ酸の個数に限定されないことを示す。結合活性などの機能的活性が存在する限り、N末端またはC末端に対して添加されるか或いは除去された若干のアミノ酸が含まれ得る。
【0017】
本明細書で使用された用語「担体(carriers)」は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または安定化剤であって、使用された濃度および容量で前記物質に露出された細胞または哺乳類に対して毒性がないものを含む。薬学的に許容可能な水溶性pHバッファ溶液の場合もある。薬学的に許容される担体の例として、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸のようなバッファ;アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量ポリペプチド(約10残基以下);血清アルブミン、ゼラチンまたはイムノグロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの単糖類、二糖類またはその他の炭化水素類;EDTAのようなキレート剤;マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成カウンターイオン;および/またはTWEEN、ポリエチレングリコール(REG)およびPLURONICSのような非イオン性界面活性剤を含むが、これに限定されるものではない。
【0018】
本明細書で使用された用語「効果的な量(effective amount)」または「有効量」は有利または所望の臨床的または生化学的結果を示すのに十分な量を意味する。有効量は1回または2回以上投与され得る。本発明の目的のために、活性化合物の有効量は疾病状態の進行を緩和、改善、安定化、逆転、減速化または遅延させるのに十分な量である。本発明の好適な具体例において、「有効量」はFPR系受容体およびその作用剤の結合を抑制することが可能な化合物の量として定義される。
【0019】
本明細書で使用された「FPR類似体」として、例えばFPR1(formyl peptide receptor-like 1)、FPRL2などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0020】
本明細書で使用された用語「Wペプチド」は、FPRおよびその類似体に高い親和度を有するリガンドを示すものであって、Wペプチドアミノ酸配列を含むペプチド、ポリペプチド、および/またはタンパク質を含み、Wペプチドアミノ酸配列を含むポリペプチドのできる限り全ての変異体または断片を含む。
【0021】
以下、添付の図面を参照して、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の具現例および実施例を詳細に説明する。しかし、本発明は様々な形態に具現でき、ここで説明する具現例および実施例に限定されない。そして、図面において、本発明を明確に説明するために、説明と関係のない部分は省略し、明細書全体にわたって同様の部分に対しては同様の符号を付した。
【0022】
本発明の一側面は、呼吸器内投与が可能な薬学的および獣医学的許容担体;ホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドまたはその薬学的に許容される塩を、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤を提供する。
【0023】
前記本発明の一具現例において、前記ペプチドは、Wペプチドであって、例えばヘキサペプチド(hexapeptide)が挙げられるが、本発明が前記ヘキサペプチドに限定される意図ではない。前記ペプチドはややもっと長いか、もっと短いこともある。前記ペプチドがホルミルペプチド受容体およびその類似受容体媒介信号伝達を拮抗する限り、前記ペプチドは4乃至15個のアミノ酸からなるか、好ましくは4乃至10個のアミノ酸、さらに好ましくは4乃至7個のアミノ酸、または約6個のアミノ酸からなり得る。前記本発明の好適な具現例において、前記ペプチドは下記表1に示した配列番号1乃至28よりなる群から選ばれるアミノ酸配列から構成され得るが、これに限定されるものではない。下記表1に記載されたペプチドについて、国際特許出願公開WO/2005/077412を参考にすることができる。下記表1において、標準アミノ酸の略語を下記表1で使用し、小文字はD−残基を示す。前記ペプチドの作用性誘導体、前駆体または薬学的に許容可能な塩もまた本発明で使用できる。
【0024】
【表1】
【0025】
前記本発明の他の具現例において、前記ペプチドが配列番号4のアミノ酸配列から構成されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
前記本発明の別の具現例において、前記担体が気体、液体または固体であることもあり得る。
【0027】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、鼻腔、吸入、呼吸可能、肺内または気管内投与が可能な製剤であることもある。
【0028】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、前記ペプチドが担持された担体の液体粒子または粉末粒子を含むエアロゾルまたはスプレーであることもある。
【0029】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む実質的に粒径約10μm以下の粒子を含む、吸入可能または呼吸可能製剤であることもある。
【0030】
前記本発明の別の具現例において、前記呼吸器内投与用薬学製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む実質的に粒径約100μm以下の粒子を含む、鼻腔、肺内または気管内投与用製剤であってもよい。
【0031】
本発明の別の側面は、前記本発明の一側面に係る呼吸器内投与用薬学製剤および投与装置を含むキットを提供する。
【0032】
前記本発明の一具現例において、前記投与装置がエアロゾルまたはスプレー発生器を含んでいることもあるが、これに限定されるものではない。
【0033】
前記本発明の他の具現例において、前記エアロゾル発生器が吸入器を含んでいることもあるが、これに限定されるものではない。
【0034】
前記本発明の別の具現例において、前記吸入器が、予め計量化された製剤の投薬量を運搬するものであることもあるが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記本発明の別の具現例において、前記吸入器がネブライザー(nebulizer)またはインサフレーター(insufflator)を含んでいることもあるが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記本発明の別の具現例において、前記キットは、前記投与装置が圧縮吸入器を含み、前記製剤が水性または非水性液体の懸濁液または溶液、または、水中油または油中水エマルジョンを含むものであり得る。
【0037】
前記本発明の別の具現例において、前記キットは、貫通できるかもしくは開放可能なカプセル、カートリッジまたはブリスターでありうる、カプセル、カートリッジまたはブリスターとして提供されるものであり得る。
【0038】
前記本発明の別の具現例において、前記投与装置は、加圧され、プロペラント(propellant)の助けで作動してもよい。
【0039】
本願発明において、有効成分である前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチド、その作用性誘導体、前駆体または薬学的に許容される塩は、吸入、呼吸、鼻腔投与による呼吸システム内にまたは任意の適切な手段として対象の肺内点滴注射で(肺内に)投与でき、好ましくは粉末化されるか、或いは液体鼻腔、肺内、呼吸可能または吸入可能粒子を含有するエアロゾルまたはスプレーを発生させることにより投与される。前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチド有効成分を含有する呼吸可能または吸入可能粒子は、呼吸器または肺自体内部へ対象により、すなわち吸入で或いは鼻腔投与で或いは点滴注射で吸入される。例えば、前記呼吸器内投与用薬学製剤は前記ペプチド有効成分の呼吸可能または吸入可能液体または固体粒子を含有することができ、本発明によって、口腔および喉頭を通して通過し吸入され、肺の気管支および肺胞内に持続されるように十分小さいサイズの呼吸可能または吸入可能粒子を含有する。一般的に、前記呼吸器内投与用薬学製剤に含まれた粒子は粒径約10μm以下、例えば、約0.05、約0.1、約0.5、約1、約2乃至約4、約6、約8、約10μmの範囲である。さらに具体的には、粒径約0.5乃至約5μm以下の粒子は呼吸可能または吸入可能である。エアロゾルまたはスプレー中に含有され、呼吸不可能なサイズの粒子は、喉に沈着され、そして嚥下される傾向がある。エアロゾル中の呼吸不可能なサイズの粒子の量は好ましくは最小化される。鼻腔投与または肺内点滴注射のために、約8、約10、約20、約25乃至約35、約50、約100、約150、約250および約500μmの範囲の粒子サイズが、鼻腔内に滞留保障、または点滴注射をするために、直接肺内に沈着させるのが好ましい。特に新生児および胎児に投与されたとき、液体製剤が呼吸器(鼻)および肺内に噴出し得る。
【0040】
例えば、エアロゾルタイプの呼吸器内投与用薬学製剤を製造するために、前記ペプチド有効成分を安定してビヒクル(vehicle)、例えばパイロジェンフリー無菌水と組み合わせることによって製造できる。或いは、微小化された前記ペプチド有効成分の呼吸可能乾燥粒子を含有する固体微粒子組成物は、乾燥活性化合物を臼と杵で粉砕することにより、その後400メッシュスクリーンを通された組成物を通過させることによって、大きい塊を粉砕または分離させて製造できる。前記ペプチド有効成分を含有する固体微粒子組成物は、選択的にエアロゾルの形成を促進するように提供される分散剤を含み得る。適切な分散剤はラクトースであり、これは任意の適切な比、例えば1:1の重量比で活性化合物と混合できる。前記ペプチド有効成分を含有する液体粒子のエアロゾルは任意の適切な手段、例えばネブライザー(nebulizer)で製造できる[例えば、米国特許4,501,729参照]。ネブライザーは狭小なベンチュリオルフィス(venture orfice)を通して圧縮気体、典型的に空気または酸素の加速化を手段として或いは超音波振動を手段として、前記ペプチド有効成分の溶液または懸濁液を治療用エアロゾルミストに転換させる、商業上購入することが可能な装置である。ネブライザーに使用するための適切な組成物は液体担体中に前記ペプチド有効成分40%w/w、好ましくは20%w/w以下を含有し、典型的に水または薄いアルコール水溶液である担体、好ましくは例えば塩化ナトリウムを追加することによって体液と等張になった担体を含む。選択的追加剤は、もし組成物が無菌で製造されなかったら、保存剤、例えばメチルヒドロキシベンゾエート、抗酸化剤、芳香剤、揮発性オイル、緩衝剤および界面活性剤を含む。前記ペプチド有効成分を含有する固体粒子のエアロゾルは、同様に任意の固体微粒子薬物エアロゾル発生器として製造できる。固体微粒子薬物を対象に投与するためのエアロゾル発生器は、前述したように呼吸可能な粒子を発生させ、ヒトへの投与に適切な速度で薬物の所定の計量された投薬量を含有するエアロゾル体積で発生させる。そのようなエアロゾル発生器の例としては計量投薬量吸入器およびインサフレーター(insufflator)を含む。
【0041】
本発明の別の側面は、前記本発明の一側面に係る呼吸器内投与用薬学製剤を哺乳動物の呼吸器内に投与することを含む、炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法を提供する。
【0042】
前記本発明の一具現例において、前記炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法は、前記製剤を前記哺乳動物の鼻腔内、肺内、吸入で或いは呼吸気道内に投与することを含む。
【0043】
前記本発明の他の具現例において、前記炎症性呼吸器疾患が急性上気道感染症、Th1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、慢性下気道感染症、肺気腫、肺炎、 気管支喘息、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性繊維症および肺繊維症よりなる群から選ばれる1種または2種以上であることがあり得るが、これに限定されるものではない。
【0044】
前記本発明の別の具現例において、前記急性上気道感染症が風邪、急性咽頭炎、急性鼻炎、急性副鼻腔炎、急性扁桃炎、急性喉頭炎、急性喉頭蓋炎および急性気管炎よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であることもあり得る。
【0045】
前記本発明の別の具現例において、前記慢性下気道感染症が慢性気管支炎、彌慢性汎細気管支炎および気管支拡張症よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であってもよい。
【0046】
前記本発明の別の具現例において、前記疾患がアレルギー性鼻炎を含み得る。前記本発明の別の具現例において、前記疾患がTh1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患を含み得る。
【0047】
前記本発明の別の具現例において、前記疾患が慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含み得る。
【0048】
本発明によって、前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤は、呼吸器を通して投与されることにより顕著な呼吸器炎症の抑制効果を示して前記炎症性呼吸器疾患の治療または予防の効果を示す。
【0049】
本発明の前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドは、1回量、多重分割投与量(multiple discrete doses)、または連続注入によって投与できる。
【0050】
本発明の前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチドは、前記呼吸器内投与用薬学製剤において広い含量範囲内で提供される。例えば、前記ペプチドは、前記呼吸器内投与用薬学製剤の全体に対して約0.001%、約1%、約2%、約5%、約10%、約20%、約40%、約90%、約98%、または約99.999%の量で含有できる。そして、もし追加薬剤および添加剤などが含まれた場合、前記ペプチドの含量が調整できる。しかし、前記ペプチドの含量の投薬量は対象の年齢、体重および疾病によって異なる。
【0051】
本発明の前記呼吸器内投与用薬学製剤内に含有される前記FPRまたはその類似受容体に作用するペプチド有効成分は、約0.001mg/kg/d乃至約100mg/kg/dに属する投与量の水準が本発明の方法のために有用である。一つの具体例において、前記投与量の水準は約0.1mg/kg/d乃至約100mg/kg/dである。他の具体例において、前記投与量の水準は約1mg/kg/d乃至約10mg/kg/dである。ある特別な患者のための特定の投与量水準は、使用される特定の有効成分の活性および可能な毒性;患者の年齢、体重、全般的な健康状態(general health)、性別および食餌(diet);投与時間;排出速度;薬物の組み合わせ;疾病の深刻性;および投与の形態を含む様々な因子に依存して変更されるであろう。典型的に、試験管内の容量−効果の結果は患者投薬のための適切な投与量に対する有用なガイドラインを提供する。また、動物モデルにおける研究は有用である。適切な投与量の水準を決定するために考慮すべき事項は当該分野でよく知られており、一般的な医者が持つ技術に属する。
【0052】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。これらの実施例は本発明を説明するためのものに過ぎず、これらの実施例によって本発明の範囲が限定されないということは、本発明の属する分野で通常の知識を有する者にとって自明なことである。
【0053】
[実施例]
以下、実施例および比較例においてTh1およびTh17免疫反応を特徴として炎症を引き起こす喘息動物モデルを通してWKYMVmの効能を評価した。
【0054】
比較例1:腹腔注射で全身投与したWKYMVm(配列番号4)の効能評価
TH1+TH17免疫反応を示す喘息モデルを作るために、BALB/c(雌、6週)マウスの実験群と陽性対照群の各5匹に0、1、2および7日目にアレルゲンとしてのオボアルブミン(ovalbumin、OVA)75μgと補強剤としてのLPS(Lipopolysaccharide)10μgを麻酔の後に鼻腔に投与して感作(sensitization)した。14、15、21および22日目にアレルゲン(OVA50μg)を麻酔の後、鼻腔に投与(challenge)する際、実験群に属したマウスにはWKYMVm4mg/kgを腹腔に注射して全身投与した。この際、陽性対照群に属したマウスにはリン酸化緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline、PBS)を腹腔に同量注射した。陰性対照群は、0、1、2および7日目に感作させる過程と、14、15、21、22日目のアレルゲン投与の際にアレルゲンの代わりに同量の前記リン酸化緩衝生理食塩水(PBS)を使用したことを除いて前記陽性対照群と同様にして作った。図1にマウス喘息モデルを用いて作った方法図式的に示した。
【0055】
最後のアレルゲン投与24時間後(23日目)にメタコリンに対する気道過敏性を測定した。マウスをチャンバー(chamber)に入れて噴霧器(nebulizer)を用い、3分間リン酸化緩衝生理食塩水(PBS)溶液を吸入させた後、非侵襲体プレシスモグラフィー(non-invasive whole body plethysmography)(Allmedicus、Korea)を用いて3分間penh(enhanced pause)値を測定した。同様の方法で濃度6.25、12.5、25、50mg/mlのメタコリンPBS溶液を順次マウスに吸入させた後、各濃度に対するpenh値を測定した。3分間測定したpenh値の平均を気道閉塞の指標として使用した。
【0056】
肺炎症は最後のアレルゲン投与6時間後(22日目)と48時間後(24日目)に測定した。22、24日目にケタミン(ketamin)とキシラジン(xylazine)とを混合した麻酔液をマウスの腹腔に注射して麻酔した後、胸部を切開し気管を露出させてカテーテルを気道に挿入し、結紮させた。無菌性リン酸化緩衝生理食塩水を1mLずつ2回注入し、気道を洗浄して気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid、以下「BAL液」という)を得た。そして、肺組織内Tリンパ球の分析のために肺を摘出し、局所リンパ節から細胞を抽出した。
【0057】
BAL液を摂氏4度で3000rpmにて10分間遠心分離した後、セルペレット(cell pellet)をPBS溶液に溶かした。前記セルペレットをサイトスピン(cytospin)してスライドに塗抹し、ディフ・クイック(Diff Quick)染色を施行して光学顕微鏡1000倍視野で300個以上の炎症細胞を観察し、マクロファージ(Macrophage)、リンパ球(Lymphocyte)、好中球(Neutrophil)、好酸球(Eosinophil)に分類して各炎症細胞数を測定した。また、BAL液における、Th1炎症反応を反映するサイトカインとしてのγ−インターフェロン、インターフェロン−g−誘導タンパク質10[interferon-g-inducible protein 10(IP-10)]、IL−12、Th2炎症反応を反映するインターロイキン(IL)_4[interleukin(IL)-4]、IL−13、Th17炎症反応を反映するIL−17、TNF−α、IL−6、そしてTh2およびTh27炎症反応を反映するTGF−βをELISA方法で測定した。
【0058】
摘出した肺組織をコラゲナーゼ(collagenase)タイプIV(Sigma)で処理して細胞を分離した。細胞の表面を蛍光物質が府着されたanti−CD3、anti−CD4、anti−CD8(BD Pharmingen)抗体で染色した後、トリトン(triton)で細胞膜に穿孔を行い、anti−IFN−γ、anti−IL−17、anti−IL−10、およびanti−IL−4で細胞内サイトカイン染色(intracellular cytokine staining)を行った。発現分析は、蛍光標識細胞スキャナ(fluorescence activated cell scanner)としてのFACS Calibur(Becton Dickinson)を用いて、肺に流入したTリンパ球の種類を決定した。
【0059】
リンパ節から得た細胞をOVA100μg/mL濃度のリン酸化緩衝生理食塩水溶液で72時間培養した後、溶液に含まれたTh1、Th17、Th2炎症反応を反映するサイトカインとしてのγ−インターフェロン、IL−17、IL−4などをELISA方法で測定した。
【0060】
図2は最後のアレルゲン投与6時間後である22日目に測定した結果を示す。BAL液内の炎症細胞数は、OVAとLPSで共に感作させた喘息モデルが、腹腔内薬物投与に関係なく、アレルゲン単独で感作させた陰性対照群に比べて増加した(図2)。アレルゲンとLPSで感作させたマウスにおいて、Wペプチドを全身投与した実験群では偽薬を全身投与した陽性対照群に比べて炎症細胞の数が増加した。これと共に、肺組織から分離した炎症細胞におけるγ−インターフェロンの分泌も増加した(図3a)。これはBAL液内のIP−10(図3b)、IL−12p40(図3c)の分泌増加に同伴した。また、肺組織から分離した炎症細胞でIL−17を発現するCD4+T細胞も増加し(図4a)、BAL液内のIL−17分泌も増加した(図4b)。このような変化はBAL液内のIL−17のダウンストリーム分子(downstream molecule)として思われるIL−6(図5a)およびTNF−α(図5b)の分泌増加に同伴した。
【0061】
図6と図7は最後のアレルゲン投与48時間後である24日目に測定した結果を示す。図6に示すように、肺炎症の指標であるBAL液内の炎症細胞数は、アレルゲンと共にLPSで感作させた場合が、アレルゲン単独で投与した陰性対照群に比べて増加したが、アレルゲンとLPSで感作させたマウスにおいて、Wペプチドを全身投与した実験群と、偽薬を全身投与した陽性対照群とは差異がなかった。また、図7に示すように、BAL液でELISA方法によって測定したサイトカインIL−12p40(図7a)、TGF−β(図7b)の量も、アレルゲンとLPSで感作させたマウスにおいて、Wペプチドを全身投与した実験群と、偽薬を全身投与した陽性対照群とは差異がなかった。IL−12p40濃度はTh1免疫反応の度合いを、TGF−β濃度はTh17/Th2免疫反応の度合いをそれぞれ示すため、肺炎症に変化がないことが分かる。
【0062】
実施例1:鼻腔に投与したWKYMVm(配列番号:4)の効能評価
WKYMVmを腹腔に注射して全身投与する代わりに、鼻腔に投与して比較例と同様に効能を評価した。14、15、21および22日目にアレルゲン[OVA50μg]をWKYMVm200μg/kgと共に鼻腔に投与(challenge)した。その他の手続きは前記比較例と同様にした。
【0063】
図8乃至図12は最後のアレルゲン投与6時間後である22日目に測定した結果を示した。BAL液内の炎症細胞数は、Wペプチドを鼻腔投与した実験群と、偽薬を鼻腔投与した陽性対照群との間に差異がなかった(図8)。免疫学的指標の変化をみれば、アレルゲンとLPSで感作させた場合、陰性対照群に比べてTh1免疫反応の場合に局所リンパ節から分離した免疫細胞における、体外(in vitro)にてアレルゲンで刺激するときのγ−インターフェロンの分泌は、Wペプチドを鼻腔投与した実験群が、偽薬を鼻腔投与した陽性対照群に比べて増加し(図9a)、肺組織から分離した炎症細胞において、Wペプチドを鼻腔投与した実験群が、偽薬を鼻腔投与した陽性対照群に比べて、γ−インターフェロンを発現するCD4+T細胞数も増加した(図9b)。ところが、BAL液内のγ−インターフェロンの分泌は、実験群が陽性対照群に比べて減少した(図9c)。Th17面積反応の場合、局所リンパ節から分離した免疫細胞における、体外でアレルゲンで刺激するときのIL−17の分泌は、実験群が陽性対照群に比べて増加し(図10a)、肺組織から分離した炎症細胞における、IL−17を発現するCD4+T細胞の数は実験群が陽性対照群に比べて増加した(図10b)。ところが、BAL液で測定したIL−17の分泌は、実験群が陽性対照群に比べて減少した(図10c)。一方、Th2サイトカインの場合、実験群では陽性対照群に比べて肺組織内のT細胞での発現が減少したが(図11a)、IL−10の場合には却って増加した(図11b)。これと共に、炎症細胞の浸潤後に炎症が増幅する後期炎症反応と関連のある炎症媒介体の分泌様相をみれば、γ−インターフェロンのダウンストリーム分子IP−10(図12a)とIL−12p40(図12b)の分泌は実験群が陽性対照群に比べて減少し、IL−17のダウンストリーム分子として思われるTNF−α(図12c)とIL−1β(図12d)の分泌も実験群が陽性対照群に比べて減少した。また、Th1およびTh17サイトカインによって誘導される炎症誘発サイトカイン(chemokine)としてのMCP−1(図12e)、MIP−1a(図12f)の分泌も、実験群が陽性対照群に比べて減少した。
【0064】
図13は最後のアレルゲン投与24時間後である23日目に測定した気道過敏性の結果である。鼻腔にWKYMVmを投与した実験群では、気道閉塞の指標であるPenhが陽性対照群に比べて減少した(図13)。図14乃至、図16は最後のアレルゲン投与48時間後である24日目に測定した結果である。肺炎症の指標であるBAL液内の炎症細胞数(BAL cellularity)も実験群が陽性対照群に比べて有意に減少した(図14)。また、BAL液におけるTh17免疫反応の指標であるIL−17分泌は、実験群が陽性対照群に比べて増加したが(図15a)、IL−17によって浸潤した炎症細胞から分泌されるTGF−βの分泌は、実験群が陽性対照群に比べて有意に減少した(図15b)。また、Th1免疫反応の結果により浸潤した炎症細胞から分泌されるサイトカインIL−12p40(図16a)とIP−10(図16b)の分泌も、実験群が陽性対照群に比べて減少した。
【0065】
以上の結果をまとめると、WKYMVmを鼻腔を通して気道に直接投与した場合は、腹腔注射によって全身投与した場合とは異なり、気道過敏性と肺炎症を抑制する効果に優れた。これは、免疫学的にTh1、Th17免疫反応を亢進させると同時にTh2免疫反応を抑制することで、既存の免疫調節剤が持っている副作用により問題となっている局所的Th1およびTh17免疫反応の抑制による感染などを減らすことができ、また、肺炎症により発生する喘息および慢性閉塞性肺疾患などの病因に関連して、Th1およびTh17免疫反応によって浸潤した炎症細胞から分泌される炎症性媒介体分泌を抑制することで、抗炎症効果を示すものと判断することができる。
【0066】
前述した本発明の説明は例示するためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想または必須的な特徴を変更することなく、様々な具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるはずである。よって、上述した実施例は全ての面において例示的なもので、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型に説明されている各構成要素は分散して実施されてもよいし、同様に分散したものとして説明されている構成要素も結合して実施されてもよい。
【0067】
本発明の範囲は前記詳細な説明より後述の特許請求の範囲によって定められるもので、特許請求の範囲の意味および範囲並びにその均等概念から導出される全ての変更または変形形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドを含有する呼吸器内投与用薬学製剤は、顕著な呼吸器炎症抑制効果を示すので、炎症性呼吸器疾患の治療または予防に有用であると期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器内投与が可能な薬学的または獣医学的許容担体;およびホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドまたはその薬学的に許容される塩を、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項2】
前記ペプチドは、配列番号1乃至28よりなる群から選ばれるアミノ酸の配列から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項3】
前記ペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列から構成されることを特徴とする、請求項2に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項4】
前記担体が気体、液体または微細粒子粉末である、請求項1に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項5】
前記製剤は鼻腔投与、吸入可能、呼吸可能、肺内投与または気管内投与が可能な製剤である、請求項1に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項6】
前記製剤は、前記ペプチドが担持された担体の液体または微細粒子粉末を含むエアロゾルまたはスプレーである、請求項5に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項7】
前記製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む粒径10μm以下の粒子を含む吸入可能または呼吸可能製剤である、請求項5に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項8】
前記製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む粒径100μm以下の粒子を含む、鼻腔投与、肺内投与または気管内投与用製剤である、請求項5に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項9】
請求項1の呼吸器内投与用薬学製剤および投与装置を含むキット。
【請求項10】
前記投与装置がエアロゾルまたはスプレー発生器を含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記エアロゾル発生器が吸入器を含むことを特徴とする、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記吸入器が、予め計量化された製剤の投薬量を運搬することを特徴とする、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記吸入器がネブライザー(nebulizer)またはインサフレーター(insufflator)を含むことを特徴とする、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記投与装置が圧縮吸入器を含み、前記製剤が水性または非水性液体の懸濁液または溶液、または、水中油または油中水エマルジョンを含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項15】
前記キットは、貫通または開放することが可能なカプセル、カートリッジまたはブリスターでありうる、カプセル、カートリッジまたはブリスターとして提供されることを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項16】
前記投与装置が加圧され、プロペラント(propellant)の助けで作動することを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項17】
請求項1の呼吸器内投与用薬学製剤を哺乳動物の呼吸器内に投与することを含む、炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項18】
前記製剤を前記哺乳動物の鼻腔内、肺内、吸入で、または呼吸気道内に投与することを含む、請求項17に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項19】
前記炎症性呼吸器疾患が、急性上気道感染症、Th1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性副鼻腔塩、アレルギー性鼻炎、慢性下気道感染症、肺気腫、肺炎、気管支喘息、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性繊維症および肺繊維症よりなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項17に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項20】
前記急性上気道感染症が、風邪、急性咽頭炎、急性鼻炎、急性副鼻腔炎、急性扁桃炎、急性喉頭炎、急性喉頭蓋炎および急性気管炎よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であることを特徴とする、請求項19に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項21】
前記慢性下気道感染症が、慢性気管支炎、彌慢性汎細気管支炎および気管支拡張症よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であることを特徴とする、請求項20に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項1】
呼吸器内投与が可能な薬学的または獣医学的許容担体;およびホルミルペプチド受容体(forymyl peptide receptor、FPR)またはその類似受容体に作用するペプチドまたはその薬学的に許容される塩を、呼吸器の炎症を抑制する上で効果的な量で含有する、炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項2】
前記ペプチドは、配列番号1乃至28よりなる群から選ばれるアミノ酸の配列から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項3】
前記ペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列から構成されることを特徴とする、請求項2に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項4】
前記担体が気体、液体または微細粒子粉末である、請求項1に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項5】
前記製剤は鼻腔投与、吸入可能、呼吸可能、肺内投与または気管内投与が可能な製剤である、請求項1に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項6】
前記製剤は、前記ペプチドが担持された担体の液体または微細粒子粉末を含むエアロゾルまたはスプレーである、請求項5に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項7】
前記製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む粒径10μm以下の粒子を含む吸入可能または呼吸可能製剤である、請求項5に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項8】
前記製剤は、前記ペプチドが担持された担体を含む粒径100μm以下の粒子を含む、鼻腔投与、肺内投与または気管内投与用製剤である、請求項5に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防のための呼吸器内投与用薬学製剤。
【請求項9】
請求項1の呼吸器内投与用薬学製剤および投与装置を含むキット。
【請求項10】
前記投与装置がエアロゾルまたはスプレー発生器を含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記エアロゾル発生器が吸入器を含むことを特徴とする、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記吸入器が、予め計量化された製剤の投薬量を運搬することを特徴とする、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記吸入器がネブライザー(nebulizer)またはインサフレーター(insufflator)を含むことを特徴とする、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記投与装置が圧縮吸入器を含み、前記製剤が水性または非水性液体の懸濁液または溶液、または、水中油または油中水エマルジョンを含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項15】
前記キットは、貫通または開放することが可能なカプセル、カートリッジまたはブリスターでありうる、カプセル、カートリッジまたはブリスターとして提供されることを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項16】
前記投与装置が加圧され、プロペラント(propellant)の助けで作動することを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項17】
請求項1の呼吸器内投与用薬学製剤を哺乳動物の呼吸器内に投与することを含む、炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項18】
前記製剤を前記哺乳動物の鼻腔内、肺内、吸入で、または呼吸気道内に投与することを含む、請求項17に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項19】
前記炎症性呼吸器疾患が、急性上気道感染症、Th1或いはTh17免疫反応による炎症性呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性副鼻腔塩、アレルギー性鼻炎、慢性下気道感染症、肺気腫、肺炎、気管支喘息、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性繊維症および肺繊維症よりなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項17に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項20】
前記急性上気道感染症が、風邪、急性咽頭炎、急性鼻炎、急性副鼻腔炎、急性扁桃炎、急性喉頭炎、急性喉頭蓋炎および急性気管炎よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であることを特徴とする、請求項19に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【請求項21】
前記慢性下気道感染症が、慢性気管支炎、彌慢性汎細気管支炎および気管支拡張症よりなる群から選ばれる1種または2種以上の疾患であることを特徴とする、請求項20に記載の炎症性呼吸器疾患の治療または予防方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−526800(P2012−526800A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510747(P2012−510747)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003015
【国際公開番号】WO2010/131909
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511276415)ポハン工科大学校 産学協力団 (3)
【氏名又は名称原語表記】POSTECH ACADEMY−INDUSTRY FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】San 31benji, Hyoja−dong, Nam−gu, Pohang−si, Gyeongsangbuk−do 790−784 Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003015
【国際公開番号】WO2010/131909
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511276415)ポハン工科大学校 産学協力団 (3)
【氏名又は名称原語表記】POSTECH ACADEMY−INDUSTRY FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】San 31benji, Hyoja−dong, Nam−gu, Pohang−si, Gyeongsangbuk−do 790−784 Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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