説明

炎症性疾患の処置用医薬の製造におけるガバ類縁体、たとえばガバペンチンの使用

【課題】炎症性疾患の予防および処置に有用な医薬を提供すること。
【解決手段】炎症性疾患の予防または治療のための医薬の製造における式I:
【化1】


(式中、R1は水素または低級アルキルであり、nは4〜6の整数である)
の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一部、National Institute of Healthにより管理される補助金番号第IR01NS32778-01A1号のもとにアメリカ合衆国政府の援助によって行われた。合衆国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明はγ−アミノ酪酸(GABA)類縁体を投与することによる炎症性疾患の処置方法に関する。
【背景技術】
【0003】
炎症性疾患は、血管の透過性亢進および血流の増大とともに動脈、毛細管血管および静脈の弛緩、血漿タンパク質を含む液体の滲出、ならびに炎症の焦点への白血球の遊走を含む一連の複雑な組織学的現象を特徴とするものである。多くの型の炎症は、組織の損傷または破壊によって誘発される局所的保護反応であり、それは有害物質および損傷を受けた組織の両者の破壊、希釈または分離に役立つものである。炎症応答それ自体がまた、病因組織の損傷に関与する。関節炎は、とくに荒廃的な炎症性疾患であり、一般に高齢者が冒され、主に関節の接合部に限定された炎症性の病変を特徴とする。この疾患は、疼痛、発熱、発赤、腫脹および組織の破壊が顕著である。慢性関節リウマチは関節の慢性的な全身性の疾患であり、滑膜組織および関節構造における炎症性変化ならびに骨の萎縮および希薄化を特徴とする。この型の炎症性疾患は一般に関節の変形および強直へと進行する。
【0004】
多くの抗炎症剤処置が知られていて、一般的に使用されている。最も共通して用いられるのは、ナプロキセン、ジフルニザール、メフェナム酸、およびケトロラックトロメタミンのような非ステロイド性抗炎症剤である。これらの薬剤は、一般的に、軽い炎症および痛みを短期間処置するために使用される。さらに重篤な炎症性疾患、たとえば関節炎は、ステロイドホルモンおよびグルココルチコイドたとえばプレドニソロン、酢酸ヒドロコルチゾンおよびベタメサゾンリン酸ナトリウムによって処置される。
【0005】
多くの抗炎症剤が短時間作用型であり、多くの場合重篤な副作用を生じるので新しい治療剤の要求が続いている。本発明者らはγ−アミノ酪酸(GABA)の類縁体である化合物が、炎症性疾患の処置に有用であることを今般発見した。本発明によって炎症性疾患を防止または処置するために要求されるすべては、このような処置を必要とする患者に対して抗炎症量のGABA類縁体を投与することである。
【0006】
数種のGABA類縁体が知られている。ガバペンチン、環状GABA類縁体は現在市販されていて、てんかんおよび神経疾患による痛みの処置に、臨床的に広く使用されている。このような化合物は特許文献1に記載されている。他の一連のGABA類縁体は特許文献2に記載されている。
【特許文献1】US特許4,024,175号
【特許文献2】US特許5,563,175号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炎症性疾患の予防および処置方法において、このような疾患に冒されている患者またはこのような疾患を発症しやすい患者でこのような処置を必要とする患者に、GABA類縁体の有効用量を投与することからなる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましい実施態様においては、式I:
【化1】

(式中、R1は水素または低級アルキルであり、nは4〜6の整数である)の環状アミノ酸化合物およびその医薬的に許容される塩を使用する。とくに好ましい実施態様は、式IにおいてR1が水素であり、nは5である化合物、一般にガバペンチンとして知られている1−(アミノメチル)−シクロヘキサン酢酸を使用する。他の好ましいGABA類縁体は、式Iにおいてシクロ環がたとえばメチルまたはエチルのようなアルキルで置換されている構造を有する。このような化合物の代表的な例には(1−アミノメチル−3−メチルシクロヘキシル)酢酸、(1−アミノメチル−3−メチルシクロペンチル)酢酸、および(1−アミノメチル−3,4−ジメチルシクロペンチル)酢酸が包含される。
【0009】
他の実施態様においては、本発明の抗炎症方法は、式II:
【化2】

(式中、R1は炭素原子1〜6個の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル、フェニル、または炭素原子3〜6個のシクロアルキルであり、
R2は、水素またはメチルであり、
R3は、水素、メチルまたはカルボキシルである)
のGABA類縁体を使用する。
式IIの化合物のジアステレオマーおよびエナンチオマーも本発明において使用することができる。
【0010】
本発明のとくに好ましい方法では、R2およびR3がいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9の化合物を(R)、(S)または(R,S)異性体として使用する。
本発明のさらに好ましい実施態様においては、3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸、およびとくに現在は一般にプレガバリンとして知られる(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸を使用する。また、プレガバリンは、「CI-1008」および「S−(+)−3−IBG」としても知られている。式IIにおける他の好ましい化合物は3−(1−アミノエチル)−5−メチルヘパン酸、R−(3)−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸、3−(1−アミノエチル)−5−メチルヘキサン酸である。
【0011】
発明の詳細な説明
上述したように、本発明の方法はGABA類縁体を使用する。GABA類縁体はγ−アミノ酪酸に由来するかまたはそれをベースとし、本発明による抗炎症作用を生じる任意の化合物である。これらの化合物は、市販品を容易に入手できるかまたは有機化学の技術の熟練者には周知の合成方法により容易に得ることができる。本発明の方法において使用される好ましいGABA類縁体は式Iの環状アミノ酸である。これらは、US特許4,024,175号(引用により本明細書に導入される)に記載されている。他の好ましい方法においては式IIのGABA類縁体が使用され、これらはUS特許5,563,175号(引用により本明細書に導入される)に記載されている。
本発明の抗炎症方法の実施に要求されるすべては、GABA類縁体を炎症状態の予防または処置に有効な量で投与することにある。このような抗炎症量は一般に約1〜約300mg/kg患者体重である。通常の1日用量は、成人の標準体重あたり約10〜約5000mgである。
【0012】
GABA類縁体またはその塩の医薬組成物は、活性化合物を医薬用担体と投与量単位剤形に製剤化することによって製造される。投与量単位剤形の一部の例としては錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、水性および非水性の経口投与用溶液および懸濁液ならびに1投与量単位またはそれ以上の投与量単位を含有する容器にパッケージして個々の用量に分割できる非経口投与用溶液がある。適当な医薬用担体の例としては、医薬用希釈剤を含めて、ゼラチンカプセル;糖たとえばラクトースおよびスクロース;デンプンたとえばトウモロコシデンプンおよび馬鈴薯デンプン;セルロース誘導体たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、メチルセルロースおよびセルロースアセテートフタレート;ゼラチン;タルク;ステアリン酸;ステアリン酸マグネシウム;植物油たとえば落花生油、綿実油、胡麻油、オリーブ油、コーン油およびカカオ脂;プロピレングリコール、グリセリン;ソルビトール;ポリエチレングリコール;水;アガール;アルギン酸;等張性生理食塩水およびリン酸緩衝溶液;ならびに他の医薬製剤に通常使用される適合性物質を挙げることができる。本発明に使用できる組成物にはまた、他の成分たとえば着色剤、着香剤および/または防腐剤を含有させることができる。これらの材料を含有させる場合には通常、比較的少量用いられる。これらの組成物には所望により、炎症の処置に一般的に使用される他の治療剤、たとえばアスピリン、ナプロキセンおよび類似の抗炎症剤を含有させることもできる。
【0013】
上述の組成物中の活性成分の百分率は広い限界内で変動させることが可能であるが、実用上の目的では、固体組成物中では少なくとも10%、基本的液体組成物中では少なくとも2%の濃度で存在させるのが好ましい。最も満足できる組成物は活性成分がはるかに高濃度で、たとえば約95%までの濃度で存在する組成物である。
【0014】
GABA類縁体またはその塩の投与経路は経口または非経口である。たとえば有用な静脈内投与量は5〜50mgであり、有用な経口投与量は20〜800mgである。この投与量は、炎症性疾患たとえば関節炎の処置に使用される用量範囲であり、または医師により指示されたように患者の必要に応じて決定される。
本発明に使用されるGABA類縁体の単位用量剤形は炎症性疾患の治療に有用な他の化合物から構成されてもよい。
【0015】
本発明において、式IおよびIIの化合物とくにガバペンチンおよびプレガバリンを使用する利点には、これらの化合物の比較的非毒性な性質、製造の容易性、これらの化合物が優れた耐性を示すこと、薬剤の静脈内投与および経口投与の容易なことである。さらにこの薬剤は代謝されない。
この場合に使用される対象は、ヒトを含めた哺乳動物である。
炎症性疾患を処置する本発明によるGABA類縁体の能力は、炎症および関節炎の数種の動物モデルにおいて確立された。
【0016】
添付図面において:
図1は、プレガバリン(S−(+)−3−IBGと呼ぶ)、その相当するR光学エナンチオマー、R−(−)−3−イソブチルGABA(R−(−)−3−IBGと呼ぶ)、およびaCSF(人工脳脊髄液)の熱PWL(足蹠回避潜時)、膝関節の周囲長および急性関節炎の発症前における動物の疼痛に対する効果を示す。
図2は、0.9および10mg/mlの用量のプレガバリン、R−(−)−3−IBG、およびaCSFの、急性関節炎の発症後に投与された場合の熱足蹠回避潜時に対する効果を示す。
図3は、0.9および10mg/mlの用量のプレガバリン、R−(−)−3−IBG、およびaCSFの、急性関節炎の発症後に投与された場合の関節の腫脹に対する効果を示す。
図4は、0.9および10mg/mlの用量のプレガバリン、R−(−)−3−IBG、およびaCSFの、急性関節炎の発症後に投与された場合の疼痛関連行動に対する効果を示す。
【実施例】
【0017】
以下の詳細な実施例はGABA類縁体の特異的な抗炎症活性を例示する。
実施例1
ガバペンチンは連鎖球菌細胞壁(SCW)誘発足蹠浮腫モデルにおいて評価した。雌性Lewisラットの右脛距骨関節を日0にSCW(6μg/ラット)で感作した。ビヒクル(0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース/0.2%Tween 30)または薬剤(100mg/kg, BID)を経口的に(10ml/kg)、日21のSCW(100μg/ラット)の全身投与による遅延型過敏反応の開始前1時間に始めて日24まで継続して与えた。後肢足蹠の浮腫の評価は日22から日25まで水銀プレチスモメトリーにより測定した。
ガバペンチンは、日22、23、24および25における腫脹を有意に阻害することが見いだされた(それぞれ、58%、77%、83%および81%)。
【0018】
実施例2
プレガバリンを同様のアッセイで評価し、劇的な抗炎症活性を示した。アッセイは連鎖球菌細胞壁(SCW)誘発反応性関節炎アッセイである。雌性Lewisラットの関節内に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁したペプチドグリカンポリサッカライド(PG-PS)の100p分画10μlを注射した。対側の関節には対照としてPBSを注射した。100μgのPG-PSによる全身チャレンジは、尾静脈を介して最初の接種後21日目に投与した。動物には1日に3回12−時間サイクルで72時間、プレガバリン(3、10および30mg/kg)を投与した。最初の用量は全身チャレンジの1時間前に与えた。
SCWで以前に感作した動物の日21における全身チャレンジは、感作した足関節に急性の腫脹を生じた。足関節の容量は72時間以内に約0.5ml増大した。10および30mg/kg用量のプレガバリンに依存して、72−時間の観察期間内に浮腫の増加は40%まで緩和した。結果は表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
上述のアッセイは、ガバペンチンおよびプレガバリンのようなGABA類縁体が有効な抗炎症剤であり、関節炎に冒された患者が遭遇するタイプの腫脹の低下を生じることを確立するものである。
【0021】
実施例3
プレガバリン(これはS−異性体で、CI-1008およびS−(+)−3−IBGとしても知られる)は、相当するR-異性体、(R)−3−(アミノメチル)−5−メチル−ヘキサン酸(R−(−)−3−IBGとも呼ぶ)とともに、以下の抗炎症試験によっても評価された。急性実験的関節炎はラットの膝関節にカオリンまたはカラゲナンを注射して誘発した。起炎剤のカラゲナンは、関節腔へのニューロペプチドおよび他の炎症メディエーターの放出後に血漿遊出および浮腫を起こす。関節組織に対する傷害と同時に末梢および中枢の両者に感作を生じ、これは覚醒ラットに疼痛過敏として発現し、放射熱源に対する足蹠回避潜時の低下を測定することにより容易に定量化することができる。プレガバリンおよびそのR−立体異性体(R−(−)−3−IBG)は炎症が誘導される前および炎症が発症した後に投与された。
【0022】
36匹の雄性Sprague-Dawleyラット(235〜380g)をペントバルビタールナトリウム(ネンブタール;50mg/kg-1腹腔内)により麻酔した。微小透析ファイバー(200μm o.d., 45000 MWカットオフ,Hospal AN69)を2mm部分を除きエポキシ樹脂でコートした。背部に最終肋骨のレベルで短い中線切開を施した。ついで、T12脊椎の周囲から筋肉を除去して両側部に孔を開けた。微小透析ファイバーをついで腰椎セグメントL4-L6の間の脊髄の後角を横に通過させ、透過性の2mmファイバーを後角に配置した。微小透析ファイバーはPE20チューブ(Becton & Dickson)に連結し、ついで皮下を通して首の項部まで到達させた。ファイバーを歯科用セメントで安定化した。人工脳脊髄液(aCSF)をチューブを通して5ml/分の速度で、PE20をシールする前に1時間ポンプにより送り、動物を回復させた。
【0023】
熱痛覚過敏の指標として動物は放射熱に対する足蹠回避により試験した。ファイバー設置1日後動物を傾斜したガラス板上のルーサイトの小分画に収容した。後肢の踵の足蹠表面に放射熱をラットが足を挙げるまで適用した。これが起こるまでの時間を足蹠回避潜時(PWL)とみなした。5分の間隔で両足蹠を計5回独立に試験した。これら5回の読みの平均をPWLとして使用した。処置前ラットでは、PWLをGABA類縁体の投与前に測定し(ベースライン)、GABA類縁体を1.5時間注入したのち、この時点で、カオリンおよびカラゲナンを膝関節に注射した。PWLを関節炎誘導4時間後に最終回として測定した。処置後群では、動物は、膝関節に関節炎の誘発前(対照)、誘導4時間後、および薬剤注入1.5時間後すなわち関節炎誘導5.5時間後に試験した。膝関節の炎症を有する動物における放射熱に対するPWLの低下は二次疼痛過敏を指示する。
【0024】
膝関節の周囲長も可撓性テープのメジャーでカオリンおよびカラゲナン注射前に測定した(対照)。関節炎を誘導したのち、後肢のガードの程度も記録した。これらの変化を定量化するため、動物を主観的痛みの評点尺度(0〜5)によりランク付けした。すなわち0:正常、1:足指のカーリング、2:足首の外転、3:部分的体重負荷、4:体重負荷なくガード、5:後肢のすべての接触回避である。
【0025】
関節炎の誘導
コントロール行動試験(処置後群)または薬剤注入後(処置前群)ラットを、メトヘキシタール(Brevital; 60mg/kg-1 i.p.)で軽く麻酔した。ついで滅菌生理食塩水に懸濁した3%カオリンおよび3%カラゲナンを膝関節に注射した(0.1ml, pH7.4)。ついで、ラットが覚醒するまで(約5分)手で膝関節を曲げていた。
【0026】
GABA類縁体の投与
GABA類縁体はすべて人工脳脊髄液(sCSF)に溶解し(pH7.4, 95%CO2/5%O2を泡立てて通じて調整)、5μl/分-1で脊髄を通して注入した。動物にはまた、プレガバペンチン、R−(−)−3−IBG、またはaCSFを投与した。処置後群にはGABA類縁体を0.1、0.9および10mg/mlの濃度で注入した。これに反し、処置前群には10mg/mlの単回用量を投与した。
【0027】
統計解析
データは正規分布した。統計解析は同じ時点での処置群間の差を比較するため対のないtテストを用いて実施した。同一群内の処置前および後の比較には対のあるtテストを使用した。0.05未満のP値を有意性の指示に用いた。データは平均±semとして表示する。テストはStatistica(JandelCorporation)を用いて実施した。
【0028】
結果
急性関節炎の発症前に脊髄中に注入したプレガバリンおよびそのR−異性体の効果
脊髄の後角への10mg/mlのプレガバリン、そのR−異性体またはaCSFの注入は単独ではベースライン値に比べた場合、熱疼痛過敏試験におけるPWLを変化させなかった。炎症を誘導する前にaCSFで処置したラットのPWLはカオリンおよびカラゲナンの注射後4時間には、注射直前に記録した値に比べて有意に低下した(P<0.01、対のあるtテスト)。この時点において、注射した後肢と注射しなかった後肢との間にも、有意の差が認められた(P<0.05、対のないtテスト)。
【0029】
しかしながら、カオリンおよびカラゲナンを膝関節に注射する1.5時間前に脊髄を介してプレガバリンまたはそのR−異性体を10mg/mlの濃度で注入したラットでは、注射4時間後に二次熱疼痛過敏は観察されなかった(図1、最上部のパネル)。炎症後4時間に記録されたPWL値とカオリンおよびカラゲナンの注射前に記録された値との間にも、またカオリンおよびカラゲナンの注射4時間後の炎症後肢と非炎症後肢の間にも有意差は認められなかった。
関節炎の誘導前に1.5時間、脊髄中にプレガバリンまたはそのR−異性体を注入した場合もまた、カオリンおよびカラゲナンの膝関節への注射後通常の腫脹量を約30%、aCSFを注射したラットに比べて有意に(P<0.05、対のないtテスト)低下させた(図1、中央のパネル)。さらに、プレガバリンまたはそのR−異性体の前処置は、自発痛を指示する異常な足蹠のポーズの発症を防止した(図1、最下部のパネル)。
【0030】
急性関節炎の発症後に脊髄へ注入されたプレガバリンおよびそのR−異性体の効果
膝関節の急性炎症の誘導後4時間には、対照値に比較して、試験したすべての動物(n=30)において同側の足蹠の放射熱に対するPWLは低下し、二次痛覚過敏の存在を指示した(図2)。この低下は有意であった(対のあるtテスト、p<0.01)。膝関節の炎症後4時間には、カオリンおよびカラゲナンの注射直前に記録された測定値に比べ膝関節周囲の有意な増大が認められた(P<0.05、対のあるtテスト;図3)。炎症後には、ラットに与えられた自発痛評点の上昇を反映するラットのポーズの変化(腫脹した後肢への体重負荷の低下、および足指の外転)も認められた(図4、白色のバー)。
【0031】
脊髄の後角への0.9mg/mlのプレガバリンまたはそのR−異性体の注入は、5.5時間に熱痛覚過敏を低下させた(図2、上部パネル)。いずれの薬剤の注入後に記録されたPWLも、炎症4時間後に記録された値とは有意差を示したが、それは依然として対照値よりも有意に小さかった。プレガバリンは熱痛覚過敏の低下に関してはそのR−異性体よりも有効であった。膝関節の炎症後におけるより高用量、プレガバリンまたはそのR−異性体10mg/mlの注入はPWLの対照値への回復を生じた(図2、下部パネル)。これに反し、後角へのaCSFの注入は熱痛覚過敏を低下させなかった。すなわち、炎症およびaCSF注入後4時間のPWLには有意差はなかった。
自発痛はまた、両用量のプレガバリンおよびそのR−異性体の注入によっても低下した。いずれの異性体の薬剤の注入後にも、足蹠のポーズはほぼ正常で、一方、aCSFの注入後には足指のカーリングおよび足蹠の外転が見られた。
【0032】
これらの試験の結果は、ラットの膝関節へのカオリンおよびカラゲナンの注射が、二次熱痛覚過敏、膝関節の腫脹および自発痛を特徴とする急性関節炎を生じることを示した。カオリンおよびカラゲナンの注射前1.5時間に脊髄の後角にプレガバリンおよびR−(−)−3−IBGを注入すると、観察される腫脹量の低下が認められ、二次痛覚過敏および自発痛が遮断された。すなわちGABA類縁体は炎症性疾患とくに関節炎の処置に有用である。
【0033】
実施例4
他のGABA類縁体、ガバペンチンを同様のアッセイで評価し、カオリン/カラゲナン膝関節炎症の状態、二次熱痛覚過敏、ならびに自発痛関連行動の防止および逆転の両者に有効であることを示した。
【0034】
方法
2実験群の30匹の動物を実験的関節炎の誘導の(1)前および(2)後に処置した。炎症はカオリン/カラゲナンの注射により膝関節内に誘発した。ガバペンチンまたはaCSFは、脊髄処置のために後角に配置した微小透析ファイバーを介して、または全身放出のために首の項部の皮下に投与した。実験はすべて、薬剤の処置に盲検とした観察者によって実施された。
【0035】
微小透析ファイバーの設置.Sprague-Dawleyラット(220-270g)をペントバルビタールナトリウム(ネンブタール、50mg/kg腹腔内)によって麻酔した。微小透析ファイバー(200μm o.d., 45000MWカットオフ、HospalAN 69)を2mm部分を除いてエポキシ樹脂でコートした。24匹の動物の後角に微小透析ファイバーを設置した。L1腰椎レベルの皮膚に短い中線切開を施した。L1腰椎から筋肉を除去し、薄層の両側部に孔を開けた。微小透析ファイバーをついで脊椎のこの孔部を通過させ、脊髄の後角を横切らせた。L4-L6セグメントの間に微小透析ファイバーを設置し、後角に透過性の2mmのファイバーが配置された。微小透析ファイバーは、PE20チューブ(Becton & Dickinson)に連結し、ついで皮膚の下を通して首の項部まで到達させた。微小透析ファイバーとPE20チューブの間の連結部を歯科用セメントで安定化した。aCSFをチューブを通して5μl/分の速度で、PE20チューブをシールする前に1時間ポンプにより送り、ついで動物を24時間回復させた。ラットが覚醒したならば、運動欠陥についてラットを検査し、運動に欠陥があるラットは試験から除いた。他の6匹のラットには薬剤投与の全身対照として、微小透析ファイバーを首の項部の皮下組織内に移植した。
【0036】
行動試験および関節炎の評価.有害な放射熱に対するPWLを熱痛覚過敏の指標として試験した。膝関節炎症を有する動物におけるPWLの低下は二次痛覚過敏を指示するものと解釈した。放射熱刺激は、炎症を有する膝関節からはかなりの距離のある後肢の足蹠表面に適用されるので、記録された値は二次熱痛覚過敏を表す。
ファイバーの配置の翌日、動物を傾斜したガラス板上のルーサイトの小分画に収容した。後肢足蹠の表面に放射熱をラットが足を挙げるまで適用した。これが起こるまでの時間をPWLとみなした。5分の間隔で両足蹠を計5回独立に試験した。これらの5回の読みの平均値を各時点でのPWLとして使用した。処置前ラット(n=12)ではPWLを薬剤投与前(ベースライン)、薬剤の注入後1.5時間後(薬剤後)、および関節炎後4時間に測定した。処置後群(n=18)では動物は膝関節における関節炎の誘導前(ベースライン)、関節炎誘導後4時間、および薬剤注入後1.5時間、すなわち関節炎誘導後5.5時間に試験した。
【0037】
疼痛関連の行動、関節炎後肢の足蹠のガードの程度を2名の独立した観察者により評点を付した。これらの変化を定量化するために、動物を主観的痛みの評価尺度(0〜5)によりランク付けした。すなわち0:正常、1:足指のカーリング、2:足蹠の外転、3:部分的体重負荷、4:体重負荷なくガード、5:後肢のすべての接触回避である。
膝関節の周囲長も可撓性テープのメジャーを用いて、関節炎の誘導前(ベースライン)、関節炎の誘導4時間後(処置前群および処置後群)、および処置後群では薬剤注入後1.5時間(すなわち、関節炎誘導後5.5時間)に試験した。
【0038】
関節炎の誘導.ベースライン行動試験後(処置後群)または薬剤の注入後(処置前群)ラットをメトヘキシタールナトリウム(Brevital sodium; 60mg/kg腹腔内)にて軽く麻酔した。ついで、滅菌生理食塩水に懸濁した0.1mlの3%カオリンおよび3%カラゲナンを膝関節に注射し、ラットが覚醒するまで(約5〜10分)手で膝関節を曲げていた。
【0039】
薬剤の投与.動物には、ガバペンチンまたは対照としてaCSFのいずれかを投与した。ガバペンチンはaCSFに溶解して用いた。ガバペンチンおよびaCSFの両者は微小透析ファイバーを介し5μl/分の速度で注入した。ガバペンチン溶液およびaCSFのpHは、使用前に95%CO2/5%O2を泡立てて通じて調整した(約7.4)。
この試験にはガバペンチンの10mg/mlの単回用量を使用した。
【0040】
統計解析.各群の結果はベースラインからの平均百分率変化±平均の標準誤差(sem)で表した。各動物の試験応答のそれ自身のベースラインに対する比較には、対のあるtテスト(P<0.01)を使用した。
【0041】
結果
ベースラインの測定.これらの試験に使用されたすべてのラットのベースラインPWL、自発行動、および膝関節周囲長を、脊髄または皮下より薬剤またはビヒクルを注入する前に測定した(表2)。平均PWLおよび膝関節周囲長はそれぞれ10.52±0.39秒および5.26±0.03cmであった。痛みに関連する自発行動は認められず、与えられた評点は0であった。
【0042】
関節炎症の結果としての変化.表2には関節炎動物におけるすべての測定値の期待された結果を表す。データは両処置群からaCSF関節炎対照群の合わせた測定値を包含する。aCSF処置関節炎対照群ラット(n=12)では、カオリンおよびカラゲナンの注射4時間後、有害な放射熱に対するPWLはベースライン値の76%に低下した。この低下は有意であり(対のあるtテスト、P<0.01)、二次疼痛過敏の存在を指示した。
関節炎動物では、ラットの後肢足蹠のポーズに有意な変化をもたらし、これは継続中の自発性疼痛関連行動を表す。これらのポーズの変化は1.25±0.13(p<0.01)の評点により表される。ベースラインに比べて膝関節の周囲の有意な14%の増大が記録された(対のあるtテスト、P<0.01)。
【0043】
【表2】

【0044】
膝関節炎症前に脊髄に直接注入したガバペンチンの効果.ガバペンチンは適用された放射熱に対する二次疼痛過敏応答の発症を防止するのに有効であった。ガバペンチンまたはaCSFは、膝関節にカオリンおよびカラゲナンを注射する前に、微小透析ファイバーを介して脊髄に注入した。脊髄に薬剤を注入して1.5時間後、ベースラインに比較して放射熱に対するPWLの有意な変化はなかった(表3)。膝関節にカオリンおよびカラゲナンを注射して4時間後、放射熱に対するPWL応答および関節炎を有する後肢のポーズは非関節炎ベースラインから有意な変化はなかった。これに反して、aCSF処置動物には、それらのPWL応答に有意な低下が認められ、有意な自発性疼痛関連行動が証明された。炎症関節の周囲は、aCSF対照ラットと同様に、関節炎4時間後に有意に増大した。すなわち、ガバペンチンは二次熱疼痛過敏の発症の防止および自発性疼痛関連行動の指標としてきわめて有効である。
【0045】
【表3】

【0046】
膝関節炎症後に脊髄または皮下に注入したガバペンチンの効果.関節炎動物のガバペンチンによる後処置は、脊髄に投与した場合、二次熱疼痛過敏および自発性疼痛関連行動を逆転した。2群の動物が後処置試験でガバペンチンを投与された(表4)。1群のラットは脊髄に直接移植した微小透析ファイバーを介して薬剤を投与し、他の群には首の項部の皮下の移植した微小透析ファイバーを介して全身的にガバペンチンを投与した。
カオリンおよびカラゲナンの注射4時間後に、すべての動物で、PWL応答および自発性疼痛関連行動は低下した。ガバペンチンを脊髄に注入した群では、PWLはベースライン測定値の約81%に有意に低下した(対のあるtテスト、p<0.01)。脊髄へのガバペンチンの注入1.5時間後までに、PWL測定値はベースラインに復帰し、足指はほとんど平らになった。
【0047】
【表4】

【0048】
ガバペンチンを皮下に注入された群では、有害な放射熱に対するPWLは関節注射4時間後にベースライン測定値から15%だけ有意に低下し、薬剤注入1.5時間後にもPWLは低下を続けてaCSF対照関節炎ラットに類似のベースライン値の82%に低下した。疼痛関連行動評点および炎症関節の周囲の両者は、関節炎4時間後および薬剤注入1.5時間後(5.5時間後)に、すべての群で有意に上昇した。
以上の試験はGABA類縁体たとえばガバペンチンは、カオリンおよびカラゲナン膝関節炎症の二次熱疼痛過敏および自発性疼痛関連行動に対する影響の防止および逆転の両者に有効であることと確信した。いずれの処置群においても、重要な所見は、ガバペンチンがPWLの潜在的評点をベースラインに維持(または復帰)させる能力であった。関節炎後に、疼痛過敏および疼痛関連行動を減少させるその有効性はこのモデルで完全に発現し、ガバペンチンおよび類似のGABA類縁体は臨床的炎症状態に臨床的に有用であることを指示する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】プレガバリン(図中、S−(+)−3−IBGで示す)、その相当するR光学エナンチオマー、R−(−)−3−イソブチルGABA(図中、R−(−)−3−IBGで示す)およびaCSF(人工脳脊髄液)の、Aは熱PWL(足蹠回避潜時)、Bは膝関節の周囲長、Cは急性関節炎の発症前における動物の疼痛に対する効果を示すグラフである。
【図2】プレガバリン、R−(−)−3−IBG、およびaCSFの、急性関節炎の発症後に投与された場合の熱足蹠回避潜時に対する効果を示すグラフであり、Aは0.9mg/mlの、Bは10mg/mlの用量である。
【図3】プレガバリン、R−(−)−3−IBG、およびaCSFの、急性関節炎の発症後に投与された場合の関節の腫脹に対する効果を示すグラフであり、Aは0.9mg/mlの、Bは10mg/mlの用量である。
【図4】プレガバリン、R−(−)−3−IBG、およびaCSFの、急性関節炎の発症後に投与された場合の疼痛関連行動に対する効果を示すグラフであり、Aは0.9mg/mlの、Bは10mg/mlの用量である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性疾患の予防または治療のための医薬の製造における式I:
【化1】

(式中、R1は水素または低級アルキルであり、nは4〜6の整数である)
の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項2】
ガバペンチンを使用する請求項1記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−298929(P2006−298929A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143571(P2006−143571)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【分割の表示】特願平11−505021の分割
【原出願日】平成10年6月24日(1998.6.24)
【出願人】(503181266)ワーナー−ランバート カンパニー リミティド ライアビリティー カンパニー (167)
【出願人】(506140479)ボード・オブ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・テキサス・システム (5)
【Fターム(参考)】