説明

炎症症状のマーカー

【課題】炎症症状、特に急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞、突然心臓死、冠動脈プラーク破裂または血栓症)の、発症中におけるすべての段階での診断に血清中の妊娠関連血漿タンパク質(PAPP−A)レベルを利用する。
【解決手段】PAPP−Aに特異的な抗体を用いて、PAPP−Aの生物学的サンプル中のレベルをイムノアッセイにより測定する。診断イメージとして、ポジトロン放出断層撮影、γ−シンチグラフィー、シングルホトン放出断層撮影解析、磁気共鳴イメージング、血管内超音波法または機能的核磁気共鳴イメージングを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPP-A)を、炎症症状、特に急性冠症候群のマーカーおよび治療標的としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPP-A)は、ヒト妊婦血清から最初に単離された高分子量糖タンパク質である。該タンパク質は、胎盤の機能の指標および3ヶ月目のダウン症のスクリーニングの指標として用いられている。インスリン様増殖因子(IGF)軸、すなわち、IGF依存性細胞事象の程度を最終的に決定するIGF-I、IGF結合タンパク質(IGFBP)およびIGFBPプロテアーゼ間における動的バランスに関連することが最近示されたが、それまで、PAPP-Aの生物学的機能は何ら知られてなかった。PAPP-Aが特異的にIGFBP-4を切断し、それによってIGF-Iが放出されIGF-Iによる受容体の活性化が可能となる。Lawrenceら(1999)Proc. Natl. Acad. Sci.USA 96:3149-3153(非特許文献1)およびDurhamら(1994)J. Bone Min. Res. 9:111-117(非特許文献2)を参照のこと。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Lawrenceら(1999)Proc. Natl. Acad. Sci.USA 96:3149-3153
【非特許文献2】Durhamら(1994)J. Bone Min. Res. 9:111-117
【発明の概要】
【0004】
発明の概要
本発明は、炎症症状、特に急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞、突然心臓死、冠動脈プラーク破裂(coronary plaque rupture)または血栓症)の、発症中における全ての段階での診断に血清中のPAPP-Aレベルを利用することに基づく。急性冠症候群の患者は、死または重篤な合併症の危険性が高く、また、予後は適切な治療により改善可能である。従って、胸痛の迅速かつ正確な診断が患者にとっては重要である。また、急性冠症候群が発症する前に該症候群のリスクのある患者を予測することに重大な意味がある。本明細書に記載する結果は、血清PAPP-Aレベルが不安定狭心症および急性心筋梗塞で上昇するが、安定狭心症では正常範囲内にあり、かつ、高感度C反応性タンパク質(CRP)および遊離IGF-Iの血清レベルと相関があることを示す。さらに、PAPP-Aは、突然心臓死の患者由来の不安定プラークで高発現される。したがって、PAPP-Aは、炎症症状、特に急性冠症候群の早期マーカーとして利用できる。
【0005】
1つの態様において、本発明は、炎症症状(例えば、不安定狭心症、突然心臓死、もしくは急性心筋梗塞などの急性冠症候群、関節リウマチ、クローン病または炎症性腸疾患)を診断する方法に関する。該方法は、妊娠していない患者由来の生物学的サンプル(例えば、全血液、血漿または血清)中のPAPP-Aレベルを測定し、対照検体のレベルと比較して、対照検体のPAPP-Aレベルに比較した患者サンプルのPAPP-Aレベルに基づいて炎症症状を診断することを含む。患者のPAPP-Aレベルが対照検体のレベルより増大している場合、該患者は炎症症状を有すると診断することができる。PAPP-Aレベルは、ELISAなどのイムノアッセイを用いて測定することができる。PAPP-Aは、抗PAPP-Aポリクローナル抗体または抗PAPP-Aモノクローナル抗体により捕捉することができる。さらに、該方法は、高感度C反応性タンパク質、クレアチンキナーゼMB、トロポニンI、トロポニンT、クレアチンキナーゼ、クレアチニン、フィブリノーゲン、インターロイキン-1、およびインターロイキン-6からなる群より選択されるポリペプチドのレベルの測定、ならびに対照検体の該レベルに比較した該ポリペプチドおよびPAPP-Aレベルに基づいて炎症症状を診断すること、を含んでもよい。
【0006】
もう1つの態様では、本発明は、妊娠していない患者の炎症症状を診断するための製品に関する。該製品は、抗PAPP-A抗体および添付文書を含み、抗PAPP-A抗体は患者由来の生物学的サンプル(例えば、全血液、血漿または血清)中のPAPP-Aレベルを測定するために用いることができ、かつ添付文書は、抗PAPP-A抗体は炎症症状を診断するために用いることができる旨の表示または添付資料を含み得る。
【0007】
さらに他の態様では、本発明は、患者由来の生物学的サンプル中の複数のポリペプチドのレベルを測定するための試薬を含む、妊娠していない患者の炎症状態を診断するための製品に関する。複数のポリペプチドには、PAPP-Aならびに、高感度C反応性タンパク質、クレアチンキナーゼMB、トロンポニンI、トロンポニンT、クレアチンキナーゼ、クレアチニン、フィブロノーゲン、インターロイキン-1、およびインターロイキン-6からなる群より選択される1以上のポリペプチドが含まれる。生物学的サンプルは、全血液、血漿および血清からなる群より選択されるものであってよい。
【0008】
本発明はまた、炎症症状の診断方法であって、PAPP-Aに検出可能な形で結合するのに有効な量のPAPP-Aに対する特異的結合親和性を有する抗体を患者に投与(例えば静脈投与)すること、ここで、該抗体は標識されており、患者内でPAPP-Aに結合した抗体のレベルを検出すること、およびPAPP-Aに結合した抗体のレベルに基づいて炎症症状を診断すること、を含む、上記方法に関する。検出ステップは、ポジトロン放出断層撮影、γ-シンチグラフィー、シングルフォトン放出断層撮影解析、磁気共鳴イメージング、血管内超音波法または機能的磁気共鳴イメージングなどの診断イメージングを含み得る。標識は、放射性同位元素(例えば123I、18F、111In、67Ga、および99mTc)であってよい。
【0009】
特に定義がない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野の通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味である。本発明の実施に用いる適切な方法と材料は後述するが、本明細書に記載の方法および物質と類似または同等の方法および物質を本発明の実施に用いることができる。本明細書中に示す全ての文献、特許出願、特許、および他の参考文献は全文を参照として本明細書中に援用する。
【0010】
矛盾がある場合、定義を含む本発明の明細書を優先する。さらに、材料、方法および実施例は例示に過ぎず、限定的な意味ではない。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0012】
詳細な説明
本発明は、哺乳動物(例えば、ヒト患者)における、急性および慢性炎症症状を含む炎症症状、特に血管に関連する炎症症状の診断方法に関する。炎症症状の非限定的な例としては、急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞、突然心臓死、冠動脈プラーク破裂、または血栓症)、クローン病、炎症性腸疾患および関節リウマチがあげられる。本明細書に記載の通り、PAPP-Aレベルは、かかる炎症症状を有する患者では有意に高い。例えば、PAPP-Aレベルは、関節リウマチ患者では100倍以上高い。不安定狭心症および心筋梗塞の患者でもPAPP-Aレベルは有意に高い。PAPP-Aレベルの増大が、不安定狭心症および急性心筋梗塞で一般的であり、PAPP-Aは突然心臓死患者に由来する不安定プラークではアップレギュレートされているので、PAPP-Aはかかる症状のマーカーとして用いることができる。本明細書に記載のとおり、10mIU/Lを上回るPAPP-Aレベルが不安定狭心症患者20例中17例(85%)で検出され、かつ心筋梗塞患者では17例中16例(94.1%)で認められた。対照的に、不安定狭心症での心臓特異的トロポニンおよびC反応性タンパク質の診断感度は低い。本明細書に記載のとおり、不安定狭心症患者中、トロポニンIは3例(15%)およびC反応性タンパク質は10例(50%)で上昇していた。他の調査では、トロポニンTについての肯定的な結果は22%の患者が有するに過ぎず、トロポニンIについての肯定的な結果は36%の患者が、C反応性タンパク質レベルの増加は65%の患者が示すとされている。Hammら、N. Engl. J. Med., 1997, 337: 1648-1653およびLiuzzoら、N. Engl.J. Med., 1994, 331: 417-424参照のこと。にもかかわらず、これら両マーカーとも、上昇が好ましくない症状と関連している。したがって、PAPP-Aは、トロポニンおよびC反応性タンパク質が上昇しない場合でも、不安定プラークの有用なマーカーであり、また未診断の患者であっても潜在的にリスクの高い患者を同定することができる。特定の機序に拘束されることなく、PAPP-Aは、急性冠症候群の病理生理学に、メタロプロテアーゼとして直接的に、かつIFG-Iの放出を介して間接的に関与している。
【0013】
PAPP-AのcDNA配列は、PAPP-A血清型が、推定22残基のシグナルペプチド、58残基のプロ体部分、および1547残基の体循環性成熟ポリペプチドを有するプレプロ体タンパク質に由来することを示唆する。該配列は、既知のタンパク質のいずれにも全体的な同一性は認められないが、メタロプロテアーゼスーパーファミリー、メチンシン(metzincin)に共通な2つの配列モチーフを含む。該配列はまた、ノッチタンパク質スーパーファミリーにより知られている3つのLin-12/ノッチリピートを含み、補体系の構成成分により知られている5つの短いコンセンサス繰返し配列も含む。
【0014】
PAPP-A活性の阻害は炎症状態の治療に有用である。本明細書に記載の通り、PAPP-A発現は、不安定プラークの炎症ショルダー(inflammatory shoulder)で最も高い。したがって、PAPP-A発現および/またはタンパク質分解機能の阻害はプラークの安定性を増大させる。特定の機序に拘束されることなく、プラークが臨床的に顕著になる前でも、PAPP-Aはメタロプロテアーゼとしてプラークの脆弱性に直接関与していると考えられる。妊婦血清中ではPAPP-Aにジスルフィド結合して約500kDaの2:2複合体(PAPP-A/proMBP)を形成している好酸球主要塩基性タンパク質のプロ体(proMBP)は、PAPP-A活性の阻害剤としてproMBPが作用することにより、炎症症状の治療に有用であると考えられる。
【0015】
一般的に、本発明の方法は、妊娠していない患者由来の生物学的サンプル中のPAPP-Aのレベルを測定すること、および該レベルを対照検体のレベルと比較することを含む。炎症状態は、対照と比較したPAPP-Aのレベルに基づいて診断される。したがって、PAPP-Aレベルが増加しているか、減少しているか、または対照検体と同等であるかを判定する。PAPP-Aレベルが対照検体に比べて増大している場合、炎症症状が存在すると診断される。特に、急性冠症候群の患者の正確な特定に用いることができるPAPP-Aの閾値は10mIU/Lである。PAPP-AのレベルはPAPP-Aタンパク質、メッセージRNA(mRNA)または活性を測定することにより調べることができる。PAPP-Aのレベルに適切な生物学的サンプルは、例えば、血液(全血液、血漿および血清など)、尿、唾液、口腔洗浄液、および皮膚、骨、または血管プラークなどの組織生検サンプルなどである。生物学的サンプルとして血液が特に有用である。
【0016】
PAPP-Aタンパク質の検出
PAPP-Aタンパク質は、例えば免疫学的手法で検出できる。例えば、生物学的サンプル由来のPAPP-AをPAPP-Aに対する特異的結合親和性を有する抗体で捕捉させることによりサンドイッチアッセイを実施することができる。その後、PAPP-AをPAPP-Aに対する特異的結合親和性を有する標識抗体により検出することができる。あるいは、かかる抗体を用いて免疫組織学的手法を用いてPAPP-Aタンパク質を検出することもできる。PAPP-A/proMBP複合体に対する親和性を有する抗体を利用することができる。例えば、Qinら、Clin. Chem., 1997 , 43(12): 2323-2332を参照のこと。PAPP-A/proMBP複合体に対する結合親和性を有しないが、PAPP-Aに対する特異的結合親和性を有するモノクローナル抗体は、標準的な方法で作製することができる。
【0017】
一般に、proMBPとは複合体形成していないPAPP-Aを、遺伝子組換えなどの種々の方法で作製するか、または生物学的サンプルから精製して、PAPP-Aを動物に免疫するのに用いることができる。組換えPAPP-Aを作製するには、PAPP-Aポリペプチドをコードする核酸配列を発現ベクターに連結して、これを用いて宿主の細菌または真核細胞にトランスフォームする。一般的には、核酸構築物にはPAPP-A核酸配列と機能し得る形で連結された制御配列が含まれる。制御配列は典型的には遺伝子産物をコードするのではなく、核酸配列の発現に作用する。細菌系では、BL-21などの大腸菌株を用いることができる。適切な大腸菌ベクターには、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質を産生するpGEXベクターシリーズなどがある。トランスフォームした大腸菌を典型的には対数関数的に増殖させた後、回収前にイソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)で刺激する。一般に、このような融合タンパク質は可溶性であり、溶解した細胞から、グルタチオンアガロースビーズに吸収させて、遊離グルタチオンの存在下で溶出することにより簡単に精製することができる。pGEXベクターは、GST部分とクローニングした目的の遺伝子産物とを分離することができるように、スロンビンまたはXa因子プロテーゼ切断部位を含むように設計されている。
【0018】
PAPP-Aを恒常的に発現する哺乳動物細胞系は、適切な制御エレメントと選択マーカーを含む発現ベクターを用いて作製することができる。例えば、真核細胞発現ベクターpCDNA.3.1+(Invitrogen, San Diego, CA)が、例えばCOS細胞またはHEK293細胞でのPAPP-Aの発現には適している。エレクトロポレーション、DEAEデキストラン法、または他の適切な方法によって発現ベクターを導入した後、恒常的発現細胞株を選択する。pCDNA.3.1+とHEK293細胞を用いた発現系では、タンパク質の回収は約5μg/mlである。分泌された産物はproMBPを含まない二量体であった。これとは別に、コムギ胚芽抽出物またはウサギ網状赤血球溶解液を用いてin vitroでPAPP-Aを転写・翻訳させることもできる。
【0019】
宿主真核細胞内では、PAPP-Aを発現させるために多くのウイルスによる発現系を用いることもできる。PAPP-Aをコードする核酸を例えばバキュロウイルスベクター内にクローニングした後、これを利用して昆虫細胞にトランスフェクトすることも可能である。あるいは、PAPP-Aをコードする核酸をSV40、レトロウイルス、またはワクシニアウイルスに基づくウイルスベクターに導入することができ、これを宿主細胞に感染させてもよい。
【0020】
組換えPAPP-A(rPAPP-A)は、ELISAおよびウェスタンブロッティングにおいて、市販のモノクローナル抗体の全てに対して免疫反応性がある。組換えPAPP-Aは、約400kDaのホモ二量体として分泌され、還元後約200kDaの単量体として回収することができる。rPAPP-Aは活性があり、IGF依存的な様式でIGFBP-4を切断する。組換えPAPP-Aは、妊婦血清中のPAPP-A/proMBP複合体より約100倍活性が高い。
【0021】
PAPP-Aは、標準的タンパク質精製技法により精製することができる。例えば、PAPP-Aは、コンディションド培地をZn2+をロードしたイミノ二酢酸固定化Sepharose6Bを通すことにより、精製することができる。pH勾配を段階的に下げることにより、結合したタンパク質を溶出させた後、pH5.0の画分をコムギ胚芽アグルチニンカラムをさらに通すことにより精製することができる。結合したタンパク質をTris塩溶液で溶出した後、N-アセチルグルコサミンにより溶出する。あるいは、ヘパリンセファロースカラムを用いてPAPP-Aを塩濃度を1000mMまで上昇させることにより溶出することもできる。PAPP-Aを含む画分を、PAPP-A特異的抗体または特異的プロテアーゼ活性測定により特定し、回収して、濃縮後、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認する。還元SDS/PAGEでは、PAPP-Aの単量体の分子量は約200kDaである。
【0022】
種々の宿主動物にPAPP-Aを注射することにより免疫することができる。宿主動物には、ウサギ、ニワトリ、マウス、モルモットおよびラットが含まれる。宿主の動物種に応じて種々のアジュバントを用いて免疫応答を増大させることができ、例えば、フロイントアジュバント(完全または不完全アジュバント)、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチン、多価ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニンおよびジニトロフェノールなどの表面活性化剤を含む。ポリクローナル抗体は免疫動物の血清に含まれる異種抗体分子集団である。モノクローナル抗体は、特定の抗原に対する同種抗体集団であり、PAPP-Aポリペプチドおよび標準的ハイブリドーマ技法を用いて作製することができる。特に、モノクローナル抗体は、Kohler, G.ら、Nature, 256:495(1975)などに記載の連続的細胞株培養、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kosborら、Immunology Today, 4:72(1983); Coleら、Proc. Natl. Acad. Sci USA, 80:2026(1983))、およびEBV-ハイブリドーマ技法(Coleら、「モノクローナル抗体および癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy)」Alan R. Liss, Inc., pp77-96(1983))などの抗体分子を産生するあらゆる技法により得ることが可能である。かかる抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDおよびこれらのあらゆるサブクラスを含む任意のイムノグロブリンクラスであってよい。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、in vitroまたはin vivoで培養可能である。
【0023】
PAPP-Aポリペプチドに対する特異的結合親和性を有する抗体断片を公知の方法で産生することができる。これらの断片としては、例えば、限定はしないが、抗体分子のペプシン消化により作製できるF(ab')2断片、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより作製できるFab断片などがあげられる。あるいは、Fab発現ライブラリーを構築してもよい。例えばHuseら、Science, 246:1275(1989)を参照のこと。作製後、抗体またはその断片を、ELISA法、ラジオイムノアッセイおよびウェスタンブロッティング法などの標準的イムノアッセイ法によりPAPP-Aの認識について試験する。Short Protocols in Molecular Biology,第11章、Green Publishing Associates and John Wiley & Sons, Ausubel, F.M.ら編、1992を参照のこと。PAPP-Aに対する親和性を有する抗体を陽性選択により同定する。このような選択で同定された抗体は、PAPP-A/proMBPに対する陰性選択に供することができ、これにより、PAPP-AとproMBPとの特定の複合体においては認識され得ないPAPP-Aのエピトープに対する特異的結合親和性を有する抗体を同定することができる。
【0024】
PAPP-AメッセージRNAの検出
PAPP-AメッセージRNAは、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイにより検出可能である。一般的には、PCRは、対象とする領域の末端の配列情報または該末端を超えた位置にある増幅したいテンプレートの逆鎖と同じまたは近似した配列となるように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーの配列情報を用いて対象とする核酸を増幅することを指す。PCRを用いてDNAまたはRNAから特定の配列を増幅することができ、全ゲノムDNAまたは全細胞性RNAからでも増幅可能である。プライマーは典型的には、14〜40ヌクレオチド長であるが、10〜数百ヌクレオチド長の範囲内の長さであってもよい。PCRは、例えば、PCRプライマー:A Laboratory Manual, Dieffenbach, C.およびDveksler,G.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995に記載されている。核酸はまた、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅、自立配列複製または核酸配列に基づく増幅により増幅することもできる。例えば、Lewis, R., Genetic Engineering News, 12(9):1(1992); Guatelliら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 1874-1878(1990)、およびWeiss, R., Science, 254:1292(1991)など参照のこと。
【0025】
例えば、PAPP-AmRNAレベルは、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイを用いて検出することができる。例えば、WO00/54806参照のこと。特に、PAPP-AcDNAは、内部標準(IS)として欠失変異体と一緒に増幅させることができる。PAPP-Aの量は、サンプル中の全mRNA量に対して標準化し、βアクチンの量と比較して決定できる。RT-PCRは、従来のRNAブロッティング法より1000〜10000倍以上の感度を示し、組織サンプル中のPAPP-AおよびproMBPの両方のmRNAを検出および定量することができる。
【0026】
競合的PCRによる産物を、HPLCシステムに接続したイオン交換クロマトグラフィで定量でき、これはPCR後の取り扱いが最も少ない確実な方法である。あるいは、リアルタイム定量的PCRを、例えばABI PRISM 7700 Sequence Detection SystemおよびTaqman 蛍光プローブ、またはLightCycler(商標)装置(Roche)を用いて実施してもよい。プライマー濃度を制限した28SrRNAの増幅などによる内部対照を用いてもよい。該方法は、標的配列の約500コピーという少量でも定量可能である。
【0027】
あるいは、異なる組織における特定のmRNAの存在を調べることは、ノーザンもしくはドットブロッティングなどのRNAブロッティング法またはマイクロアレイ法により、簡単に達成できる。
【0028】
PAPP-A活性の検出
PAPP-A活性は、生物学的サンプルにおけるIGFBP-4タンパク質分解活性を調べることにより検出できる。例えば、検出可能な標識を付した基質を、適切な条件で生物学的サンプルの存在下でインキュベートすることができ、これによりタンパク質分解産物が検出される。該基質は、例えばIGFBP-4またはその断片であってよい。一般には、IGF-IIもしくはその断片、または他のプロテアーゼ活性化剤を含む2mM CaCl2/50mM Tris(pH 7.5)などのバッファー中で37℃にて反応させる。典型的には、基質は、125Iもしくは32Pなどの同位元素で放射性標識するか、またはビオチン、ジゴキシゲニン、または蛍光色素で非放射性標識する。IGFBP-4のタンパク質分解は、例えば分解産物(IGFBP-4の18および14kDaの反応産物)を調べることにより検出可能である。放射活性タンパク質を還元15%SDS/PAGEにより分離し、オートラジオグラフィにより可視化することができる。タンパク質分解産物はまた、イムノブロッティングにより検出可能である。
【0029】
PAPP-A活性はまた、マイクロタイタープレートのウェル等に固定化したポリクローナルまたはモノクローナル抗体でPAPP-Aを捕捉した後に検出してもよい。生物学的サンプル中の結合していないタンパク質を洗い出した後、PAPP-Aの活性を分光光度計により検出可能な着色産物を遊離させる低分子合成基質を用いて測定することができる。IGF-IIまたは他のPAPP-A活性化剤を基質とともに添加してもよい。
【0030】
さらに、PAPP-A活性を基質(例えば、IGFBP-4)を固定化したウェルの中でサンプルをインキュベートすることによって検出することもできる。基質を特異的に(放射性または非放射性)標識する。基質のタンパク質分解によって、標識断片が液相中に遊離し、これを検出することができる。基質は、例えば抗体またはIGF-IIを用いてコーティングすることにより固定化できる。
【0031】
標識は、タンパク質のN末端またはC末端に異なるタグ(例えば、N末端にFLAGタグ、C末端にc-mycタグ)を付けて発現されたIGFBP-4を用いることにより達成することもできる。これにより、これらのタグの1つに結合するモノクローナル抗体によってIGFBP-4を固定化することが可能となる。その後、結合したIGFBP-4の検出は、例えば他方のタグを認識するペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗体を用いる標準的ELISA法によって達成することができる。IGFBP-4はまた、N末端およびC末端をそれぞれに認識するモノクローナル抗体を用いて固定化および検出可能である。タンパク質分解活性は、プロテイナーゼ活性の量およびインキュベーションの時間に応じてシグナルを減少させる。
【0032】
in vivoでのPAPP-Aの可視化による炎症症状の診断
また、PAPP-Aに対する特異的結合親和性を有する抗体をPAPP-Aをin vivoで可視化するのに有効な量で患者に投与することにより、炎症症状を診断することもできる。さらに、PAPP-Aの可視化は、体内の異常蓄積部位(例えば、潜在的に脆弱なプラークなど)の特定を可能とする。適切な抗体および抗体作製法は上述の通りである。典型的には抗体を標識し、診断イメージングを用いてPAPP-Aに結合した抗体を検出する。炎症症状の診断は、上述の通り、PAPP-Aの増加に基づいている。閾値は正常値を超えるレベルが検出できるよう任意に設定してよい。したがって、診断は、PAPP-Aに結合した抗体の存否に基づいてなされ得る。
【0033】
有用な典型的な標識には、ヒトのイメージング法に用いる放射性同位元素が含まれる。標識の非限定的な例としては、123I(ヨード)、18F(フッ素)、99mTc(テクネチウム)、111In(インジウム)、および67Ga(ガリウム)などの放射性同位元素が挙げられる。標準的な技法で抗体を標識できる。例えば、抗体をクロラミンTまたは1,3,4,6-テトラクロロ-3α,6α-ジフェニルグリコウリルを用いてヨード化するとよい。例えばN-サクシイミジル4-[18F]フルオロベンゾエートを介して18Fで抗体を標識してもよい。このような放射性同位元素を付した抗体についての総説としては、Muller-Gartner, H., TIB Tech., 16:122-130(1998); Saji, H., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 16(2):209-244(1999);ならびにMaidyanathanおよびZalutsky, Bioconjug.Chem. 5(4):352-6(1994)を参照のこと。
【0034】
標識した抗体を、製薬上許容し得る担体とともに製剤し、患者に投与する。一般には、抗体を静脈投与(i.v.)するが、皮下投与、筋肉内投与、動脈投与、頚動脈投与、くも膜下腔内投与などの非蛍光投与を用いてもよい。非経口投与のための製剤は、滅菌した水または生理的食塩水、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、植物油、硬化ナフタレンなど)等の製薬上許容し得る担体を含み得る。
【0035】
標識した抗体の投与量は、薬剤の作用に関与することが知られている様々な要因を考慮の上、担当の医者によって決定される。これらの要因としては、健康状態、体重、性別、食事、投与時間および投与経路、他の薬剤および他のあらゆる臨床的要因が挙げられる。
【0036】
PAPP-Aをin vivoで検出するために用いることができる診断イメージングには、ポジトロン放出断層撮影(PET)、γ-シンチグラフィー、磁気共鳴イメージング(MRI)、機能的磁気共鳴イメージング(FMRI)、シングルフォトン放出断層撮影解析(SPECT)および血管内超音波法が含まれる。
【0037】
炎症症状の診断用の製品
PAPP-Aに対する特異的結合親和性を有する抗体を添付文書と組合わせて、炎症症状の診断用キットとして販売することができる。構成成分および製品を生産する方法は公知である。該製品は、本明細書記載の1種以上の抗PAPP-A抗体またはその断片を組合わせてもよい。さらに、生物学的サンプル中の複数のポリペプチドのレベルを測定するための試薬、例えば特定のポリペプチドに対する特異的結合親和性を有する抗体、二次抗体、指示薬分子、固相(例えばビーズ)および/または炎症症状の診断に有用な他の試薬などをさらに含み得る。各種試薬の炎症症状の診断における有効性を記載した指示書もまた、キットに含むことができる。PAPP-Aと組合わせて測定するのに有用なポリペプチドは、炎症のポリペプチドマーカー、不安定狭心症または心筋梗塞のリスクの増大と関係するマーカー(例えばホモシステイン)、心臓傷害のマーカー、および他の炎症の非特異的マーカーなどが挙げられる。例えば、インターロイキン-1(IL-1)、IL-6、またはネオプテリンを炎症マーカーとしてPAPP-Aと組合わせて診断することができる。心臓に関するマーカーおよび炎症の非特異的マーカーとしては、例えばトロポニンIもしくはT、hs-CRP、クレアチンキナーゼ(CK)、CK-MB、クレアチニン、ミオグロビンおよびフィブリノーゲンが挙げられる。
【0038】
急性冠症候群の患者の診断に用いることができるポリペプチドの特定の組み合わせとしては、例えばPAPP-A、トロポニンIおよびCK-MB;PAPP-A、トロポニンIおよびおよびhs-CRP;PAPP-A、CK-MBおよびミオグロビン;PAPP-Aおよびミオグロビン;PAPP-Aおよびhs-CRP;PAPP-AおよびトロポニンIまたはT;ならびにPAPP-AおよびCK-MBが挙げられる。一般的には、ミオグロビンは心臓に特異的ではなく、心筋梗塞の早い段階(梗塞後約2〜3時間)から放出され、約24時間以内に正常に戻る。トロポニンIおよびトロポニンTの心臓型アイソフォームは特異的であるが、ミオグロビンより遅れて(梗塞後5〜48時間)体循環中に出現する。心筋組織は、CK-MBの1つのアイソフォームを含んでおり、骨格筋組織は異なるアイソフォームを有している。かかる心臓についてのマーカーに対する特異的結合親和性を有する抗体は市販されている。
【0039】
抗PAPP-A抗体は、蓋付きのチューブまたはビンの容器(例えばプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、またはプロピレン製の容器)に入っていてもよい。かかるキットに包含され得る他の試薬の非限定的な例としては、例えば抗PAPP-A抗体に結合する標識二次抗体および洗浄バッファーまたはPAPP-A検出バッファーなどが挙げられる。他のポリペプチドのレベルを測定するための試薬は、独立した容器に入っていてもよく、または、抗PAPP-A抗体の付いた固相上(例えば、抗PAPP-A抗体と炎症マーカーもしくは特に心臓傷害マーカーに対する特異的結合親和性を有する1つ以上の抗体を含むベッドサイド試験用の手で扱う器具)に含まれていてもよい。
【0040】
以下の実施例においてさらに詳細に本発明を説明するが、これは特許請求の範囲に記載の発明の範囲を限定する意味ではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、体循環PAPP-Aレベルのボックスプロット(box plot)である。PAPP-AのKruskal-Wallis分析は、群間有意差が高いことを示している(p<0.0001)。
【図2】図2は、非アテローム性硬化症対照、安定狭心症、不安定狭心症および急性心筋梗塞の4つの実験群についてのC反応性タンパク質レベルのグラフである。C反応性タンパク質のKruskal-Wallis分析は、群間有意差が高いことを示している(p=0.0015)。
【図3】図3は、急性冠症候群の患者における、PAPP-AとC反応性タンパク質(A)およびPAPP-Aと遊離IGF-Iレベルとの相関を示すグラフ(B)である(n=37)。PAPP-AとC反応性タンパク質(N=0.61、p<0.001)、PAPP-Aと遊離IGF-Iレベル(N=0.39、p<0.018)の間で有意な関連性が認められた。
【図4】図4は、急性心筋梗塞の患者のPAPP-Aレベルと、心臓ネクローシス(cardiac necrosis)マーカーであるトロポニンI(A)、CK-MB(B)の相関を示すグラフである。PAPP-AレベルとトロポニンIレベル(N=0.33、p<0.18)、またはCK-MBレベル(N=0.23、p<0.36)の間で有意な関連性はなかった。
【図5】図5は、急性心筋梗塞の患者における(A)、または不安定狭心症の患者(B)におけるPAPP-AとC反応性タンパク質の受信者動作特性分析のグラフである。PAPP-Aの曲線下面積(AUC)は、急性心筋梗塞の患者では0.94(標準誤差(SE)=0.03)、不安定狭心症の患者では0.88(標準誤差(SE)=0.05)であった。この2つのマーカー間のAUCの統計学的有意差が、急性心筋梗塞(p=0.026)および不安定狭心症(p=0.011)で認められた。CRPはC反応性タンパク質である。
【実施例】
【0042】
実施例1 方法と材料
患者集団
研究対象のグループは、急性心筋梗塞患者17例、不安定狭心症患者20例、安定狭心症19例、および冠動脈アテローム性動脈硬化症の臨床的または血管造影による所見のない年齢を合わせた対照患者13例からなるものとした。急性心筋梗塞は、正常値の上限の2倍以上のCK-MB画分の上昇、およびトロポニンI>0.5mg/mLにより確定された病理学的Q波またはT波の逆行をもたらすST-T部の上昇または低下を伴う、長期間に渡る胸痛として定義された。不安定狭心症は、血管造影によって冠動脈疾患が明らかであるが、CK-MB画分は正常値の上限内であり、2以上の連続した心電図の指標においてST-T部の低下((0.1mV以上)またはT波逆行のいずれかを伴う安静時の胸部不調として定義された。慢性的安定労作狭心症は、少なくとも6ヶ月以上胸痛があり、冠動脈血管造影により重症の冠動脈疾患が明らかであり、かつ過去1週間に虚血性エピソードの臨床所見がないことと定義された。除外する基準は、進行した腎不全または肝不全、明らかな心不全、および過去1ヶ月以内に大きな外科手術または外傷のあるものとした。全身性血栓障害(冠動脈に起因するもの以外)、炎症性疾患または妊娠が分かっているかまたは疑われる患者もまた除外した。血管造影所見による重篤な冠動脈疾患は、いずれかの主要冠動脈で直径の70%以上が減少している1以上の狭窄があるものとして定義された。PAPP-Aレベルと血管造影で見つかった冠動脈疾患の程度および重篤度との間に考えられる関連を特定するために、各患者からジェンキンススコアを得た。Jenkinsら、Br.Med.J.,1978、2:388-391参照のこと。血液サンプルは、冠動脈血管造影で採取し、氷上に静置して30分以内に1600Gで5分遠心した。全てのサンプルを臨床データのわからない状態のままで分析した。最後の虚血性エピソードから血液採取までの平均時間は、心筋梗塞の場合8.4±3時間、不安定狭心症の場合9.4±3.9時間であった。
【0043】
本研究は、Mayo Clinic and Foundationの施設内倫理委員会により承認されたものであり、全ての患者に対してインフォームドコンセントを行った。
【0044】
ヒト組織および分析
アテローム性動脈硬化症の動脈を突然死から24時間以内の8遺体から剖検で採取した。突然心臓死はBurkeら、N.Engl.J.Med.,1997、336:1276-1282の記載のとおり定義した。急性プラーク破裂、プラーク糜爛、および安定プラークの特徴は、上述のBurkeらに記載されている通りに定義した。
【0045】
免疫組織的染色は、5mm厚のパラフィン切片でペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン-ビオチン法により行った。スライドグラス標本を脱パラフィン化して、以下の溶液:キシレンで5分2回、100%エタノールで1分2回、および95%エタノールで1分2回を通して再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性は、1.5%H2O2/50%メタノール中に室温(RT)で10分間ブロッキングし、流水で洗浄した。非特異的タンパク質結合部位は、PBS/0.05% Tween 20(pH=7.2〜7.4)で希釈した5%正常ヤギ血清をスライドグラス標本に室温で10分間のせることによってブロッキングした。血清を除去して、指示の通りに希釈した一次抗体をのせて湿潤チャンバー内で室温にて1時間インキュベートした。一次抗体を水道水で洗浄後拭き取り、1/400希釈したビオチン化ヤギ抗マウスIgGと室温で30分間スライドグラス上にのせてインキュベートした。スライドガラスを流水で洗浄後拭き取り、1%の正常ヤギ血清を添加したPBS/0.05% Tween 20で1/500希釈したストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼをのせて室温で30分間インキュベートした。スライドグラスを3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)で発色させ、ヘマトキシリンで対比染色した。ヒトPAPP-Aモノクローナル抗体(234-5)は、20mg/mlで用いた(Qinら、Clin. Chem. 1997, 43: 2323-32)。切片をα平滑筋アクチンに対する抗体(クローン1A4、Dako:1/50)またはマクロファージCD68に対する抗体(クローンKP-1、Dako:1/200)でも染色した。陰性対照は一次抗体を省いて染色した。全プラーク領域およびPAPP-Aで染まったプラーク領域の割合を求めた。免疫組織学的定量解析は、定量性カラー画像解析システム(Diagnostic Instruments, Inc., Sterling Heights, MI)を用いて行った。
【0046】
実験室でのアッセイ
PAPP-Aは、捕捉用PAPPA-Aポリクローナル抗体と検出用PAPP-Aモノクローナル抗体を組合わせて用いて、ビオチン-チラミド増幅サンドイッチELISAで測定した(0.03mIU/L;WHO IRP 78/610による単位)。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体についてはOxvigら、(1994)Biochim. Biophus. Acta 1201: 415-423およびQinら(1997)Clin. Chem. 43: 2323-2332参照のこと。
【0047】
CRPの定量測定については、増強ラテックス粒子免疫濁度試験(Kamiya Biomedical Corp., Seattle, WA)により行った。血清CRP形成免疫複合体の存在下で抗ヒトCRP抗体でコートしたラテックス粒子が凝集する。形成された免疫複合体は、血清中のCRPの濃度に比例して濁度の増加をもたらす(572nmで測定する)。
【0048】
全IGF-Iは市販のアッセイ系(DSL-5600 活性IGF-I、Diagnostic Systems Laboratories Inc., Webster, TX)で測定した。血漿IGF-IのアッセイはIGF結合タンパク質の存在により複合体を形成し、反応混合液中でIGF-Iを分離することができる。DaughadayおよびRotwein (1989) Endocrin. Rev. 10: 68-91参照。手法は、血清中のIGF-I結合タンパク質からIGF-Iを分離する単純な抽出ステップを含むツーサイト(two-site)放射性免疫アッセイ(IRMA)を用いた。Powellら、(1986)J. Clin.Endcrinol. Metab. 63: 1186-1192参照。遊離IGF-Iを市販のコートチューブIRMAキット(DSL-9400 活性遊離IGF-I、DLS Inc., Webster, TX)によりアッセイした。遊離IGF-IのIRMAは、IGF-Iの解離画分を測定するのに用いる非競合アッセイとした。Frystykら、(1994) 348: 185-191参照。
【0049】
CK-MBイソ酵素と心臓トロポニンI(cTnI)を免疫化学発光アッセイで測定した(Chiron Corp, Emeryville, Ca)。
【0050】
統計学的分析
組織学的データを平均±SDとして示す。student'sテストにより、糜爛または破裂したプラークを、安定プラークと比較した。グループ間での群統計学的および血管造影による特徴の相違を、妥当な場合はχ2を用いた二元相互表(two-way cross-tabulation)
または分散分析を用いて比較した。正常に分布していない、PAPP-A、遊離IGF-I、全IGF-IおよびC反応性タンパク質のデータは、平均値およびボックスプロットによりまとめ、Kruskal-Wallis試験によりグループ間で比較した。グループ間で有意差が合った場合、Wilcoxon順位和検定を用いて、2つのグループを比較した。これらのタンパク質の体循環中のレベルの関連をSpearman's順位相関係数により評価した。PAPP-Aの患者の危険因子との関連、およびこれらのリスク因子について調整されたPAPP-Aの群比較は、従属変数としてPAPP-Aの対数との多重線形回帰を用いて評価した。受信者動作特性(receiver operatin characteristc;ROC)解析を心筋梗塞および不安定狭心症におけるPAPP-AおよびC反応性タンパク質について行った。曲線下面積を、DeLongら(Biometrics, 1988, 44: 837-845)の方法によりPAPP-AとC反応性タンパク質との間で比較した。0.05未満のP値を統計学的有意差とみなした。
【0051】
実施例2 不安定プラークの組織PAPP-A発現
4つの破裂プラークおよび4つの糜爛プラークが、一連の剖検において原因となる不安定プラークとして同定された。4つの安定プラークも特定された。破裂プラーク(7.1±1.4mm2)、糜爛プラーク(8.0±3.7mm2)および安定プラーク(5.7±2.1mm2)間ではプラーク面積に有意差はなかった。大きな脂質コアとキャップ破裂(cap rupture)を有するプラークにおいて、PAPP-Aは炎症性ショルダー領域(inflammatory shoulder region)でよく染色され、脂質コアの周辺領域においては、CD-68陽性細胞と共存していた。表面の糜爛がある繊維性プラークにおいて、PAPP-Aは紡錘形平滑筋細胞内、細胞外マトリックス、および非糜爛上皮細胞内で同定された。定量的画像解析では、繊維性糜爛プラークにおけるPAPP-A発現(28.3±16.8%)は破裂プラークでの発現(18.5±8%)を上回っていたが、統計的有意差はなかった(p=0.34)。PAPP-Aの発現は安定プラークで最も低かった。定量解析によると、安定プラークでのPAPP-Aの発現は(3.2±1.9%)、破裂プラーク(p=0.01)および糜爛プラーク(p=0.02)より有意に低かった。
【0052】
実施例3 急性冠動脈疾患患者の体循環中のマーカータンパク質
組織の不安定プラーク内でのPAPP-Aの豊富な発現が、体循環レベルの上昇に反映されているか否かを判断するために、PAPP-Aレベルを急性冠症候群の患者(心筋梗塞および不安定狭心症の患者)、および安定患者(安定狭心症および非アテローム性硬化症の対照患者)で測定した。表1は、対象の4群についての年齢、性別、危険因子プロファイル、基本的治療法、および血管造影の結果を示す。安定狭心症の患者は、心筋梗塞の患者より3つの血管性疾患を有する場合が多かった(p=0.004)が、3つの疾患群(安定狭心症、不安定狭心症、および心筋梗塞)の間では、血管造影によるJenkinsスコアにより評価した冠動脈のアテローム性動脈硬化については有意差は認められなかった(p=0.88)。種々の危険因子のレベルは、正常の対照群は3つの疾患群より低い傾向があったが、3つの疾患群同士では同等であった。
【0053】
各群のPAPP-Aレベルは図1にボックスプロットで示している。Krushkal-Wallis試験では、群間で明らかな有意差が示された(p<0.0001)。対照群患者の血清PAPP-Aレベルの平均値は、7.4mIU/L(範囲:3.8〜11.3mIU/L)であり、安定狭心症の該レベル(平均値:8.3mIU/L、範囲:4.4〜22.5mIU/L)との間に有意差は認められなかった(p=0.068)。不安定狭心症では、PAPP-Aレベルの平均値は15.0mIU/L(範囲:4.4〜22.5mIU/L)であり、対照(p<0.0001)および安定狭心症(p=0.0002)における該レベルより有意に高かった。急性心筋梗塞では、PAPP-Aレベルは20.6mIU/L(範囲:9.2〜46.6mIU/L)であり、対照(p<0.0001)および安定狭心症(p<0.0001)における該レベルより有意に高かった。PAPP-Aの分布は、不安定狭心症および心筋梗塞の患者との間に有意差はなかった(p=0.75)。この試験において、トロポニンIおよびCK-MBのレベルは急性冠症候群の患者のPAPP-Aとの関連はなく、PAPP-Aの応答が心筋壊死により誘導されるのではないことが示された。
【0054】
重回帰モデルを用いた場合、PAPP-Aレベルは年齢、性別、危険因子または投薬とは関連していなかった。3つの疾患群の間では、PAPP-Aレベルは明らかな管腔狭窄を有する血管の数(1〜3血管疾患)により評価したアテローム性動脈硬化症と有意に逆の相関があった(p=0.037)が、Jenkinsスコアでは相関はなかった(p=0.27)。このことは、活性がある、脆弱な、または亀裂のあるプラークとともに、樹状の冠動脈の静止状態アテローム性硬化性プラークが共存することを反映している。
【表1】

【0055】
CRPについてのKruskal-Wallis解析により、群間に非常に有意差があることが示された(p=0.0015)。CRPレベルは不安定および安定狭心症患者に比べて心筋梗塞で有意に高かった(それぞれ、p=0.018およびp=0.001)(図2)。不安定狭心症では、安定狭心症患者に対してわずかではあるが有意に高かった(p=0.0445)(表2)。対照群のCRPレベルは、唯一心筋梗塞の該レベルより有意に低かった(p=0.0057)。CRPは急性冠症候群の患者のPAPP-Aと有意に相関があった(N=0.61、p<0.0001)(図3A)。CRPレベルは年齢、性別、危険因子、または冠動脈アテローム性動脈硬化とは関連性がなかった。
【0056】
PAPP-AとCRPとの間の有意な相関は、急性冠症候群で、かつhs-CRPレベルが>0.3ng/mL(心筋梗塞を発祥するリスクの増大と関連するレベル:Haverkateら、(1997)Lancet, 349: 462-466参照のこと)である患者全てのPAPP-Aレベルが>8.9mIU/Lに上昇していた。しかし、急性冠症候群の患者13例(35.1%)(心筋梗塞患者5例と不安定狭心症患者8例)は、CRPレベルが<0.3ng/mLおよび抗PAPP-Aレベルを示した。
【表2】

【0057】
生物学的活性のあるIGF-I体循環レベルを決定するために遊離IGF-Iを測定した。PAPP-Aレベルの増大はIGFBP-4のタンパク質分解による遊離IGF-Iレベルの増大をもたらすと考えられた。群間の遊離IGF-Iレベルの統計学的な差は認められなかったが、急性冠症候群の患者では弱いながらも有意にPAPP-Aレベルとの相関が認められた(N=0.39;p=0.018;図3B)。体循環中の遊離画分および局部的に合成されたIGF-Iは、血管平滑筋細胞の遊走を誘導し、かつ、アテローム性動脈硬化損傷における単球の走化性、活性化およびサイトカインの放出にとって重要である。不安定および安定の患者間の全IGF-Iレベルには差がなく、PAPP-Aレベルとの関連性は認められなかった(表2)。
【0058】
CK-MBレベルは、不安定狭心症患者から採取した血液サンプルでは増大していなかった。また、不安定狭心症の患者20例中3例のみがトロポニンIレベルが正常(1.6±0.7ng/mL)より上回っていた。心筋梗塞患者のトロポニンIのピークおよびCK-MBレベルは、それぞれ60.9ng/mL(範囲;1.3〜368ng/mL)および76.3ng/mL(範囲;4.4〜341ng/mL)に上昇していた。これらの患者では、トロポニンI(N=0.34;p=0.19)またはCK-MB(N=0.24;p=0.36)とPAPP-Aレベルとの有意な相関は認められなかった(図4Aおよび4B)。不安定狭心症患者と心筋梗塞患者との組合わせでも、トロポニンI(N=0.07;p=0.69)またはCK-MB(N=0.10;p=0.57)とPAPP-Aレベルとの有意な相関は認められなかった。したがって、これらの患者におけるPAPP-Aレベルの増大は心筋壊死の原因ではない。
【0059】
実施例4 急性冠症候群の診断マーカーとしてのPAPP-A
PAPP-AのROC解析の曲線下面積(AUC)は、心筋梗塞では0.94(標準誤差0.03)、不安定狭心症では0.88(標準誤差0.05)であった。安定狭心症患者と対照患者は安定グループとしてまとめた。同様の解析では、C反応性タンパク質のAUCは、心筋梗塞では0.81(標準誤差0.07)、不安定狭心症では0.67(標準誤差0.08)であった。これらの2つのマーカー間でのAUCの差は、心筋梗塞(p=0.026)および不安定狭心症(p=0.011)の両方で有意であった(それぞれ図5Aおよび5B)。これらのデータは、急性冠症候群患者の同定において、PAPP-Aが有用なマーカーであり、C反応性タンパク質より顕著に優れていることを示唆する。
【0060】
急性冠症候群の識別能力(感度および特異性の組み合わせ)は、PAPP-Aレベル10mIU/Lが最良であった。急性冠症候群を特定するPAPP-Aレベルが>10mIU/Lの場合の感度および特異性は、それぞれ89.2%および81.3%であった。PAPP-Aレベルが>10mIU/Lの場合の感度は、心筋梗塞については94.1%であり、不安定狭心症については85.0%であった。非アテローム性動脈硬化症の対照群では、患者13例のうち1例のみ(7.7%)がPAPP-Aレベル>10mIU/Lを示し、安定狭心症の患者19例のうち5例(26.3%)がPAPP-Aレベル>10mIU/Lを示した。
【0061】
実施例5 関節リウマチ患者におけるPAPP-Aレベル
関節リウマチの患者16例から採取した血清サンプル中のPAPP-Aレベルを調べた。その値は3〜>2000mIU/mLの範囲であった。16例のうち13例で、PAPP-Aレベルは>119mIU/mL(119〜>2000)であった。比較のための正常検体(n=30)のPAPP-Aレベルは4.32±1.54mIU/mLであった。表3は、関節リウマチ患者16例それぞれの値を示している
【表3】

【0062】
他の実施形態
本発明は、詳細な説明と関連付けて記載されているが、これらの記載は例示であって、本発明の範囲を限定するものではない。発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。他の態様、利点および改変も、特許請求の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症症状の診断方法であって、
a) 妊娠していない患者由来の生物学的サンプル中の妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPP-A)のレベルを測定すること、
b) 該レベルを対照検体のレベルと比較すること、および
c) 対照検体のレベルに対するPAPP-Aレベルに基づいて炎症症状を診断すること、
を含む、上記方法。
【請求項2】
患者のPAPP-Aのレベルが対照検体のレベルと比べて高い場合、該患者は炎症症状があると診断する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炎症症状が急性冠症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
急性冠症候群が不安定狭心症、突然心臓死、または急性心筋梗塞である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
炎症症状が関節リウマチである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
炎症症状がクローン病、または炎症性腸疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
PAPP-Aレベルをイムノアッセイを用いて測定する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
イムノアッセイがELISAである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
PAPP-Aを抗PAPP-Aポリクローナル抗体で捕捉する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
PAPP-Aを抗PAPP-Aモノクローナル抗体で捕捉する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
生物学的サンプルが全血液、血漿および血清からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
高感度C反応性タンパク質、クレアチンキナーゼMB、トロポニンI、トロポニンT、クレアチンキナーゼ、クレアチニン、フィブリノーゲン、インターロイキン-1、およびインターロイキン-6からなる群より選択されるポリペプチドのレベルを測定することをさらに含み、かつ診断ステップが該ポリペプチドレベルおよびPAPP-Aレベルを対照検体のレベルと比較することに基づくものである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
抗PAPP-A抗体および添付文書を含む、妊娠していない患者の炎症症状を診断する製品であって、抗PAPP-A抗体は患者由来の生物学的サンプル中のPAPP-Aレベルを測定するために用いることができ、かつ添付文書は、抗PAPP-A抗体は炎症症状を診断するために用いることができる旨の表示または添付資料を含むものである、上記製品。
【請求項14】
生物学的サンプルが全血液、血漿および血清からなる群より選択される、請求項13記載の製品。
【請求項15】
患者由来の生物学的サンプル中の複数のポリペプチドのレベルを測定するための試薬を含む、妊娠していない患者の炎症症状を診断する製品であって、複数のポリペプチドに、PAPP-Aならびに、高感度C反応性タンパク質、クレアチンキナーゼMB、トロンポニンI、トロンポニンT、クレアチンキナーゼ、クレアチニン、フィブロノーゲン、インターロイキン-1、およびインターロイキン-6からなる群より選択される1以上のポリペプチドを含む、上記製品。
【請求項16】
生物学的サンプルが全血液、血漿および血清からなる群より選択される、請求項15記載の製品。
【請求項17】
炎症症状の診断方法であって、
a) PAPP-Aに検出可能な形で結合するのに有効な量のPAPP-Aに対する特異的結合親和性を有する抗体を患者に投与すること、ここで該抗体は標識されている、
b) 該患者内でPAPP-Aに結合した抗体のレベルを検出すること、および
c) PAPP-Aに結合した抗体のレベルに基づいて炎症症状を診断すること、
を含む、上記方法。
【請求項18】
検出ステップが診断イメージングを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
診断イメージングが、ポジトロン放出断層撮影、γ-シンチグラフィー、シングルフォトン放出断層撮影解析、磁気共鳴イメージング、血管内超音波法または機能的磁気共鳴イメージングを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
標識が放射性同位元素である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
放射性同位元素が123I、18F、111In、67Gaおよび99mTcからなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
抗体を静脈投与する、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−198510(P2009−198510A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102875(P2009−102875)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【分割の表示】特願2002−556219(P2002−556219)の分割
【原出願日】平成14年1月11日(2002.1.11)
【出願人】(598091963)マヨ ファウンデーション フォー メディカル エデュケーション アンド リサーチ (17)
【Fターム(参考)】