説明

炭化ケイ素粉末の製造法

【課題】物理的手法によって熱伝導率を制御する炭化ケイ素粉末の製造法、および高熱伝導率炭化ケイ素の提供。
【解決手段】 アチソン法により製造された炭化ケイ素をバッチ式にて粉砕し、得られた粉砕品を分級して、熱伝導率の異なる炭化ケイ素粉末を製造することを特徴とする、炭化ケイ素粉末の製造法。より小さい平均粒子径に粉砕し、より大きな平均粒子の粉末を分級により分取することで、熱伝導率の高い炭化ケイ素を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粉末の製造法に関するものである。具体的には、アチソン法により製造された炭化ケイ素を原料とした炭化ケイ素粉末を製造するにあたって、炭化ケイ素の熱伝導率を制御することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は従来、研磨・研削材料、セラミック成型品、導電性材料、熱伝導性材料など、工業用材料として各種の用途に用いられている。そして、そのような炭化ケイ素はアチソン法により工業的に製造される場合が多い。アチソン法は、ケイ石またはケイ砂とコークス等とを原料としてアチソン炉(電気抵抗炉)によって製造するものである。このようなアチソン法により製造された炭化ケイ素はインゴットの形状であり、通常は粉砕して各用途に用いられる。
【0003】
本発明者らの検討によると、このアチソン法により製造された炭化ケイ素のインゴットは物理的または化学的特性の観点から見ると均一ではない。これは電気炉内部に温度分布があり、そのために特性の異なる炭化ケイ素が合成されるものと考えられる。
【0004】
一方、炭化ケイ素はその高い耐熱性と熱伝導率に着目され、半導体分野などにおいて発熱体やバリスタなどへの応用がなされている。しかし、前記したような特性の相違のために、単純に炭化ケイ素粉末を利用すると目的とする熱伝導率が得られなかったり、製品に熱伝導率のばらつきが発生することがあり、改良の余地があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アチソン法により製造された炭化ケイ素を用いて炭化ケイ素粉末を製造するにあたって、物理的な手法で炭化ケイ素粉末の熱伝導率を制御し、ひいては熱伝導率の高い炭化ケイ素粉末を製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による炭化ケイ素粉末の製造法は、アチソン法により製造された炭化ケイ素を粉砕し、得られた粉砕品を分級して、熱伝導率の異なる炭化ケイ素粉末を製造すること、を特徴とするものである。
【0007】
また本発明によるもうひとつの炭化ケイ素粉末の製造法は、アチソン法により製造された炭化ケイ素を平均粒子径Rに粉砕し、得られた粉砕品を分級して、平均粒子径Rの炭化ケイ素を製造するものであって、前記RとRとが、下記の関係を満たすものであること、を特徴とするものである。
0.35≦R/R≦2.00
【0008】
さらに本発明による炭化ケイ素粉末は、前記の方法により製造されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、炭化ケイ素粉末の熱伝導率を制御することが可能となり、その熱伝導率に応じた熱伝導用機材向け材料を設計し、製造することができる。特に本発明によれば、高熱伝導率の炭化ケイ素粉末を製造することが可能であり、その際に化学的に精製するための特別な工程も必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による炭化ケイ素粉末の製造法に用いられる原料は、アチソン法により製造された炭化ケイ素である。この炭化ケイ素はインゴットであっても、それを粉砕した粉末であってもよい。炭化ケイ素は、一般に不純物として未反応のC、SiOなどを含んでいる。
【0011】
本発明による方法では、まずアチソン法により形成された炭化ケイ素を粉砕し、次いで得られた粉砕品を分級することからなる。
【0012】
本発明者らの検討によれば、炭化ケイ素が粉砕されることによって、生成する粒子はその粒子の大きさに応じて熱伝導率が異なる。すなわち、粉砕後の個々の粒子はその粒子径が小さいほど熱伝導率が低く、粒子径が大きいほど熱伝導率が高い。粉砕によって得られた大きさの異なる粒子を分級によって整粒した場合、分級後に得られた粒子の大きさが同じであったとしても、粉砕後の平均粒子径が異なっているとその熱伝導率も異なる。具体的には粉砕後の平均粒子が大きい場合は、熱伝導率が低く、逆に粉砕後の平均粒子が小さい場合には、熱伝導率が高い。言い換えれば、分級後の平均粒子径が同じであるにもかかわらず、熱伝導率の異なる炭化ケイ素粉末を製造することができる。
【0013】
通常、結晶中に含まれる欠陥、すなわち不純物により性能劣化が起きている場合には、化学的に精製することでその問題を解消するのが一般的である。しかし、そのためには特別の工程が必要になる。さらには炭化ケイ素は化学的に極めて安定な化合物であり、それを化学的に精製することは極めて困難である。本発明のように、化学的な精製手段を用いなくても、物理的な操作によってこのような熱伝導率の分布が発生すること、そしてそれを利用して熱伝導率を制御することができることは驚くべきことであった。 このような現象が起こることの理由は明確ではないが、原料のインゴットまたは粒子中における結晶構造は均一ではなく、結晶構造に欠陥がある部分は物理的応力に対して破壊されやすく、粉砕の際には結晶構造に欠陥の多い部分から破壊されて粉砕されるため、粉砕後の粒子は内部に結晶構造の欠陥が少なく、一方粉砕により生成した微小な粒子は結晶構造に欠陥があるためと推測される。すなわち、各粒子に含まれる結晶構造に欠陥部位が無いか少ないと熱伝導率が高く、結晶の大きさに対して熱伝導率が分布を有するものであると考えられる。
【0014】
したがって、粉砕された粒子はある程度の粒度分布を有するが、粉砕により生じた粉末のうち、小さな粒子は熱伝導率が低く、粒子の大きさが大きくなればなるほど熱伝導率が高くなる。
【0015】
このように粉砕された粒子を分級すると、得られた分級品は粉砕後の粒度に応じた熱伝導率を有するものとなる。この結果、物理的な手法によって、得られる粒子、すなわち粉末、の熱伝導率を制御することが可能となる。
【0016】
具体的には、熱伝導率の高い炭化ケイ素粉末を得ようとする場合は、炭化ケイ素を可能な限り小さな平均粒子径に粉砕し、分級によって可能な限り大きな平均粒子径のものを分取すればよい。より具体的には、熱伝導率の高い炭化ケイ素粉末を得ようとする場合、原料である炭化ケイ素を平均粒子径Rの粉末に粉砕し、平均粒子径Rの炭化ケイ素粉末を分級により分取するのであれば、0.35≦R/R≦2.00であることが好ましく、0.40≦R/R≦2.00であることがより好ましい。目的とする粉末の平均粒子径Rに対して、粉砕により得られる炭化ケイ素粉末の平均粒子径Rが過度に小さいと収率の低下の原因となり、目的とする粉末の平均粒子径Rに対して、粉砕により得られる炭化ケイ素粉末の平均粒子径Rが近いと本発明による効果を得ることが困難となることがあるので注意が必要である。
【0017】
このような本発明の方法によれば、一般的に、JIS R6001による#800の炭化ケイ素の熱伝導率が0.16W/mK〜0.17W/mKであるのに対して、熱伝導率が0.18W/mK以上、好ましくは0.19W/mK以上、のものを得ることもできる。
【0018】
高熱伝導率の炭化ケイ素粉末を目的とする場合、分級により目的とする炭化ケイ素粉末を取り除いた残余の炭化ケイ素は、化学的な処理を行わないために変性しないので熱伝導率の制限されない用途に適用することもできる。
【0019】
本発明による炭化ケイ素粉末の製造法においては、粉砕および分級を2回以上繰り返すこともできる。すなわち、原料である炭化ケイ素のインゴットまたは粉末を粉砕し、分級した後、得られた分級品をさらに粉砕し、分級することもできる。このような方法により、求める粒度と熱伝導率の炭化ケイ素粉末をより高い精度で製造することもできる。
【0020】
本発明による方法において、炭化ケイ素の粉砕は、ボールミル、ジェットミル、ローラーミルなど、任意の方法で行うことができる。ここで粉砕をバッチ式で行うことにより、全ての粒子を同じ条件下で粉砕することができ、粉砕にムラが生じにくいので好ましい。これらのうち、コストの観点からボールミルにより粉砕を行うことが好ましい。
【0021】
また、得られた粉砕品は、引き続いて分級される。分級は乾式、湿式など、任意の方法で行うことができる。これらのうち、分級精度の観点から湿式により分級を行うことが好ましい。
【0022】
本発明による炭化ケイ素粉末の製造法において製造される炭化ケイ素粉末の大きさは、目的とする用途に応じて任意に選択することができる。しかし、一般的には電気抵抗法により測定された平均粒子径が250〜14μm、好ましくは100〜15μm、の粉末を製造するのに用いられる。
【0023】
本発明により製造された炭化ケイ素粉末は熱伝導率が制御されているものであるから、各種の熱伝導用基材向けの材料に用いることができる。特に、本発明の方法により、熱伝導率が高い炭化ケイ素粉末が必要とされる用途に適した炭化ケイ素粉末を提供することができる。
【実施例1】
【0024】
アチソン法により形成された炭化ケイ素のインゴットから製造された、炭化ケイ素粉末A(平均粒径65μm)をボールミルにより粉砕して、平均粒径が15μmの粉砕品A1を得た。この粉砕品A1を湿式により分級して平均粒径14μmの整粒品A1を得た。
【0025】
また、炭化ケイ素粉末Aをボールミルにより粉砕して、平均粒径40μmの粉砕品A2を得た後、この粉砕品A2を湿式により分級して平均粒径14μmの整粒品A2を得た。
【0026】
原料のインゴットA、ならびに得られた整粒品の熱伝導率を京都電子工業製迅速熱伝導率計QTM−500により測定した。得られた結果は表1に示すとおりであった。なお、平均粒子径の測定はBeckman Coulter社製Multisizer 2 により行った。
【0027】
【表1】

【実施例2】
【0028】
炭化ケイ素粉末B(平均粒径35μm)を用いて、実施例1と同様に平均粒径がそれぞれ15μmおよび35μmの粉砕品B1およびB2を得た。さらに、これらの粉砕品をそれぞれ分級して、平均粒径14μmの整粒品B1およびB2を得た。得られた粉砕品および熱伝導率は表2に示すとおりであった。
【0029】
【表2】

【0030】
表1、表2の結果より、同一原料を粉砕した場合、粉砕品の平均粒径が小さい粉砕品A1及びB1から得られる整粒品A1及びB1は、粉砕品の平均粒径が大きい粉砕品A2及びB2から得られる整粒品A2及びB2に比べて、それぞれ整粒品の平均粒子径が同じにもかかわらず熱伝導率の値が高くなった。このことより、同じ原料粉末から同じ平均粒径の炭化ケイ素粉末を得るのにより小さい粒子に粉砕してから分級することによって、より高い熱伝導率、具体的には1.80W/mK以上の粒子を得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アチソン法により製造された炭化ケイ素を粉砕し、得られた粉砕品を分級して、熱伝導率の異なる炭化ケイ素粉末を製造することを特徴とする、炭化ケイ素粉末の製造法。
【請求項2】
炭化ケイ素を平均粒子径Rに粉砕し、得られた粉砕品を分級して、平均粒子径Rの炭化ケイ素を製造する炭化ケイ素粉末の製造法であって、前記RとRとが、下記の関係を満たすものであることを特徴とする、炭化ケイ素粉末の製造法。
0.35≦R/R≦2.00
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で製造された、平均粒子径が250〜14μmである炭化ケイ素粉末。
【請求項4】
熱伝導率が0.18W/mK以上である、請求項3に記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項5】
炭化ケイ素の粉砕をバッチ式にて行う、請求項1〜2に記載の炭化ケイ素粉末の製造法。

【公開番号】特開2006−83041(P2006−83041A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272023(P2004−272023)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】