説明

炭化水素油の製造方法及び炭化水素油の製造システム

【課題】FT合成反応用触媒に由来する触媒微粉末がFT合成油のアップグレーディング工程の反応系へ流入することを抑制できる炭化水素油の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の炭化水素油の製造方法は、触媒で懸濁した液体炭化水素のスラリーを内部に保持するスラリー床反応器C2を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、触媒に由来する触媒微粉末を含む炭化水素油を得て、精留塔C4により炭化水素油を留出油と触媒微粉末を含む塔底油とに分留し、塔底油の少なくとも一部を貯槽T2に移送し、触媒微粉末を貯槽T2の底部に沈降させて捕集し、塔底油の残余の精留塔C4から水素化分解装置C6への移送、及び/又は貯槽T2により触媒微粉末が捕集された塔底油の上澄みの貯槽T2から水素化分解装置C6への移送を行い、水素化分解装置C6を用いて塔底油の残余及び/又は塔底油の上澄みを水素化分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素油の製造方法及び炭化水素油の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素の含有量が低く、環境にやさしいクリーンな液体燃料が求められている。このような観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素を含まず、脂肪族炭化水素に富む燃料油基材、特に灯油・軽油基材を製造するための原料炭化水素を製造する技術として、一酸化炭素ガスと水素ガスを原料としたフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、場合により「FT合成反応」という。)を利用する方法が検討されている。
【0003】
また、天然ガス等のガス状炭化水素原料の改質により一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする合成ガスを製造し、この合成ガスからFT合成反応により炭化水素油(以下、場合により「FT合成油」という。)を合成し、さらにFT合成油を水素化、精製して各種液体燃料油基材等を製造する工程であるアップグレーディング工程を経て、灯油・軽油基材及びナフサ、あるいはワックス等を製造する技術はGTL(Gas To Liquids)プロセスとして知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
FT合成反応により炭化水素油を合成する合成反応システムとしては、例えば、炭化水素油中に固体のFT合成反応に活性を有する触媒(以下、場合により「FT合成触媒」という。)粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでFT合成反応を行う気泡塔型スラリー床FT合成反応システムが開示されている(下記特許文献2参照)。
【0005】
気泡塔型スラリー床FT合成反応システムとしては、例えば、スラリーを収容してFT合成反応を行う反応器と、合成ガスを反応器の底部に吹き込むガス供給部と、反応器内でのFT合成反応により得られた炭化水素油を含むスラリーを反応器から抜き出す流出管と、流出管を介して抜き出されたスラリーを炭化水素油とFT合成触媒粒子とに分離する触媒分離器と、触媒分離器により分離されたFT合成触媒粒子及び一部の炭化水素油を反応器に返送する返送管とを備えた外部循環式のシステムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2007/0014703号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記気泡塔型スラリー床FT合成反応システムにおける触媒分離器は、目開きが例えば10μm程度であるフィルターを備える。このフィルターによりスラリー中のFT合成触媒粒子が捕集され、炭化水素油と分離される。
【0008】
ところが、FT合成触媒粒子は、FT合成触媒粒子どうしの摩擦、反応器の内壁等との摩擦、又はFT合成反応による熱的ダメージ等によってその一部が徐々に微細化して微粉末となる。粒径が触媒分離器のフィルターの目開きよりも小さくなった微粉末(以下、場合により「触媒微粉末」という。)は炭化水素油と共にフィルターを通過し、FT合成油のアップグレーディング工程の反応系に流入してしまうことがあった。触媒微粉末の前記反応系への流入は、同反応系で使用する触媒の劣化や反応器の圧力損失の上昇、更には液体燃料基材及び液体燃料製品の品質低下の原因となる。しかし、FT合成反応により得られるFT合成油が大きな流量で流通する流路に触媒微粉末の粒径よりも小さな目開きを有するフィルターを設けて触媒微粉末を捕集することは、フィルターにおける圧力損失が大きい上に、触媒微粉末の捕集により圧力損失が更に上昇することから困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、FT合成反応に用いる触媒由来の触媒微粉末がアップグレーディング工程の反応系に流入することを抑制できる炭化水素油の製造方法及び製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の炭化水素油の製造方法は、液体炭化水素と液体炭化水素中に懸濁した触媒とを含むスラリーを内部に保持するスラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、触媒に由来する触媒微粉末を含有する炭化水素油を得る工程と、精留塔を用いて炭化水素油を少なくとも1種の留出油と触媒微粉末を含む塔底油とに分留する工程と、塔底油の少なくとも一部を貯槽に移送して、触媒微粉末を貯槽の底部に沈降させて捕集する工程と、塔底油の残余の精留塔から水素化分解装置への移送、及び/又は貯槽において触媒微粉末が捕集された塔底油の上澄みの貯槽から水素化分解装置への移送を行い、水素化分解装置を用いて塔底油の残余及び/又は塔底油の上澄みを水素化分解する工程と、を備える。
【0011】
上記本発明に係る炭化水素油の製造方法によれば、FT合成油中に含まれる触媒微粉末が精留塔の塔底油中に濃縮され、この触媒微粉末が濃縮された塔底油の少なくとも一部を貯槽に移送して、触媒微粉末を貯槽の底部に沈降させて捕集することにより、触媒微粉末が塔底油の水素化分解のための反応系(水素化分解装置)に流入することを効率的に抑制することができる。
【0012】
本発明の炭化水素油の製造方法においては、貯槽が、底部に沈降した触媒微粉末の移動を抑制するための構造を底部に備えることが好ましい。これにより、触媒微粉末が塔底油の水素化分解のための反応系(水素化分解装置)に流入することをより効率的に抑制することができる。
【0013】
本発明に係る炭化水素油の製造システムは、液体炭化水素と前記液体炭化水素中に懸濁した触媒とを含むスラリーを内部に保持するスラリー床反応器を有し、触媒に由来する触媒微粉末を含有する炭化水素油を得るためのフィッシャー・トロプシュ合成反応装置と、炭化水素油を少なくとも1種の留出油と塔底油とに分留するための精留塔と、塔底油の水素化分解を行うための水素化分解装置と、精留塔の塔底と水素化分解装置とを結ぶバイパスラインと、バイパスラインの分岐点から分枝する移送ラインと、移送ラインに接続され、触媒微粉末を底部に沈降させて捕集する貯槽と、を備える。
【0014】
上記本発明に係る炭化水素油の製造システムによれば、上記本発明に係る炭化水素油の製造方法を実施することが可能となる。
【0015】
本発明の炭化水素油の製造システムにおいては、貯槽が、底部に沈降した触媒微粉末の移動を抑制するための構造を底部に備えることが好ましい。これにより、触媒微粉末が塔底油の水素化分解のための反応系(水素化分解装置)に流入することをより効率的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、FT合成反応に用いる触媒に由来する触媒微粉末がFT合成油のアップグレーディング工程の反応系へ流入することを効率的に抑制できる炭化水素油の製造方法及び製造システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る炭化水素油の製造システムの一例の模式図である。
【図2】図2(a)、図2(b)、図2(c)、図2(d)、図2(e)、図2(f)及び図2(g)は、本発明の実施形態に係る炭化水素油の製造システムが備える貯槽における底部の構造の具体例を示す模式図である。
【図3】図3(a)、図3(b)及び図3(c)は、本発明の実施形態に係る炭化水素油のシステムが備える貯槽の配置形態の具体例を示す模式図である。
【図4】図4(a)及び図4(b)は、本発明の実施形態に係る炭化水素油のシステムが備える貯槽の配置形態の具体例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜4を参照しながら、本発明の一実施形態に係る炭化水素油の製造システム及び当該製造システムを用いた炭化水素油の製造方法について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。
【0019】
(炭化水素油の製造システムの概要)
本実施形態において使用する炭化水素油の製造システム100は、天然ガス等の炭化水素原料を軽油、灯油及びナフサ等の液体燃料(炭化水素油)基材に転換するGTLプロセスを実施するためのプラント設備である。本実施形態の炭化水素油の製造システム100は、改質器(図示省略。)、気泡塔型スラリー床反応器C2、第1精留塔C4、バイパスラインL12及びL16、移送ラインL14a及びL14b(場合によりL14aのみ)、貯槽T2、水素化分解装置C6、中間留分水素化精製装置C8、ナフサ留分水素化精製装置C10及び第2精留塔C12を主として備える。バイパスラインを形成するラインL12は、第1精留塔C4とミキシングドラムD6とを接続する。バイパスラインを形成するラインL16は、ミキシングドラムD2と水素化分解装置C6とを接続する。なお、図1においては、炭化水素油の製造システム100は貯槽T2が移送ラインL14a及びL14bの間に配設される例を示したが、貯槽T2が移送ラインL14aに接続され、移送ラインL14bを有さなくてもよい。この場合、第1精留塔C4の塔底から流出する触媒微粉末を含む粗ワックス留分の少なくとも一部は移送ラインL14aを通じて貯槽T2に供給され、貯槽T2において触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄みは、移送ラインL14aを逆方向に流通させることにより排出される。なお、「ライン」とは流体を移送するための配管を意味する。
【0020】
(炭化水素油の製造方法の概要)
製造システム100を用いた炭化水素油の製造方法は、下記の工程S1〜S9を備える。
【0021】
工程S1では、改質器(図示省略。)において、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを製造する。
【0022】
工程S2では、気泡塔型スラリー床反応器C2において、FT合成触媒を用いたFT合成反応により、工程S1で得た合成ガスから炭化水素油(FT合成油)を合成する。工程S2では、FT合成触媒の一部から触媒微粉末が発生し、該触媒微粉末の一部は、炭化水素油とFT合成触媒粒子を分離するフィルターを通過して、以下に述べる工程S3に供されるFT合成油に混入することがある。
【0023】
工程S3では、第1精留塔C4において、工程S2で得たFT合成油を少なくとも1種の留出油と触媒微粉末を含む塔底油とに分留する。本実施形態においては、この分留により、FT合成油を粗ナフサ留分と、粗中間留分と、粗ワックス留分とに分離する。ここで、粗ナフサ留分及び粗中間留分は、第1精留塔C4においてFT合成油から一旦気化した後凝縮し、それぞれ、第1精留塔C4の塔頂及び中段から抜き出される留出油であり、粗ワックス留分はFT合成油から気化することなく液体のまま塔底から抜き出される塔底油である。この塔底油は、工程S2において発生し、FT合成油に混入した触媒微粉末を含有する場合がある。なお、粗ナフサ留分、粗中間留分、及び粗ワックス留分とは、FT合成油から分留により得られたそれぞれの留分であって、水素化精製あるいは水素化分解処理を受けていないものをいう。
【0024】
以下に説明する工程S4以下の工程は、FT合成油のアップグレーディング工程を構成する。
【0025】
工程S4では、工程S3で分離された第1精留塔C4の塔底油であり、触媒微粉末を含む粗ワックス留分の少なくとも一部を、ラインL12及びラインL12の分岐点から分枝する移送ラインL14aを通じて貯槽T2へ移送し、貯槽T2において粗ワックス留分中に含まれる触媒微粉末を貯槽T2の底部に沈降させて分離、捕集することにより、粗ワックス留分から触媒微粉末を除去する。
【0026】
工程S5では、工程S3で分離された触媒微粉末を含む粗ワックス留分のうち、工程S4で貯槽T2に移送されなかった残余分を、バイパスラインを形成するラインL12及びL16を通じて第1精留塔C4から水素化分解装置C6へ移送する。また、貯槽T2において触媒微粉末が沈降・分離によりその底部に捕集された粗ワックス留分の上澄みを、移送ラインL14b(場合によりラインL14a)及びラインL16を通じて貯槽T2から水素化分解装置C6へ移送する。
【0027】
工程S6では、水素化分解装置C6において、工程S3で分離され、工程S4でその少なくとも一部から触媒微粉末が除去され、工程S5で移送された粗ワックス留分の水素化分解を行う。
【0028】
工程S7では、中間留分水素化精製装置C8において粗中間留分の水素化精製を行う。
【0029】
工程S8では、ナフサ留分水素化精製装置C10において粗ナフサ留分の水素化精製を行う。更に、水素化精製されたナフサ留分をナフサ・スタビライザーC14において分留して、GTLプロセスの製品であるナフサ(GTL−ナフサ)を回収する。
【0030】
工程S9では、粗ワックス留分の水素化分解生成物と粗中間留分の水素化精製生成物との混合物を第2精留塔C12において分留する。この分留により、GTLプロセスの製品である軽油(GTL−軽油)基材及び灯油(GTL−灯油)基材を回収する。
【0031】
以下、工程S1〜S9をそれぞれ更に詳細に説明する。
【0032】
(工程S1)
工程S1では、まず、脱硫装置(図示省略。)により、天然ガス中に含まれる硫黄化合物を除去する。通常この脱硫装置は、公知の水素化脱硫触媒が充填された水素化脱硫反応器及びその後段に配設された、例えば酸化亜鉛等の硫化水素の吸着材が充填された吸着脱硫装置から構成される。天然ガスは水素とともに水素化脱硫反応器に供給され、天然ガス中の硫黄化合物は硫化水素に転化される。続いて吸着脱硫装置において硫化水素が吸着除去されて、天然ガスが脱硫される。この天然ガスの脱硫により、改質器に充填された改質触媒、工程S2で使用されるFT合成触媒等の硫黄化合物による被毒を防止する。
【0033】
脱硫された天然ガスは改質器内において、二酸化炭素及び水蒸気を用いた改質(リフォーミング)に供され、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。工程S1における天然ガスの改質反応は、下記の化学反応式(1)及び(2)で表される。なお、改質法は二酸化炭素及び水蒸気を用いる水蒸気・炭酸ガス改質法に限定されず、例えば、水蒸気改質法、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
CH+HO→CO+3H (1)
CH+CO→2CO+2H (2)
【0034】
(工程S2)
工程S2においては、工程S1において製造された合成ガスが気泡塔型スラリー床反応器C2に供給され、合成ガス中の水素ガスと一酸化炭素ガスから炭化水素が合成される。
【0035】
気泡塔型スラリー床反応器C2を含む気泡塔型スラリー床FT反応システムとしては、例えば、FT合成触媒を含むスラリーを収容する気泡塔型スラリー床反応器C2と、合成ガスを反応器の底部に吹き込むガス供給部(図示省略。)と、FT合成反応により得られたガス状炭化水素及び未反応の合成ガスを気泡塔型スラリー床反応器C2の塔頂から抜き出すラインL2と、ラインL2から抜き出されたガス状炭化水素及び未反応の合成ガスを冷却、気液分離する気液分離器D2と、炭化水素油を含むスラリーを反応器から抜き出す流出管L6と、流出管を介して抜き出されたスラリーを炭化水素油とFT合成触媒粒子とに分離する触媒分離器D4と、触媒分離器D4により分離されたFT合成触媒粒子及び一部の炭化水素油を反応器に返送する返送管L10とを主として含む。また、気泡塔型スラリー床反応器C2の内部には、FT合成反応により発生する反応熱を除去するための、内部に冷却水が流通される伝熱管(図示省略。)が配設されている。
【0036】
気泡塔型スラリー床反応器C2において使用されるFT合成触媒としては、活性金属が無機担体に担持された公知の担持型FT合成触媒が用いられる。無機担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア等の多孔性酸化物が用いられ、シリカ又はアルミナが好ましく、シリカがより好ましい。活性金属としては、コバルト、ルテニウム、鉄、ニッケル等が挙げられ、コバルト及び/又はルテニウムが好ましく、コバルトがより好ましい。活性金属の担持量は、担体の質量を基準として、3〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。活性金属の担持量が3質量%未満の場合には活性が不充分となる傾向にあり、また、50質量%を超える場合には、活性金属の凝集により活性が低下する傾向にある。また、FT合成触媒は上記活性金属の他に、活性を向上させる目的、あるいは生成する炭化水素の炭素数及びその分布を制御する目的で、その他の成分が担持されていてもよい。その他の成分としては、例えば、ジルコニウム、チタニウム、ハフニウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム等の金属元素を含む化合物が挙げられる。FT合成触媒粒子の平均粒径は、該触媒粒子がスラリー床反応器内において液体炭化水素中に懸濁したスラリーとして流動し易いように、40〜150μmであることが好ましい。また、同様にスラリーとしての流動性の観点から、FT合成触媒粒子の形状は球状であることが好ましい。
【0037】
前記活性金属は公知の方法により前記担体に担持される。担持の際に使用される活性金属元素を含む化合物としては、前記活性金属の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸の塩、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸の塩、アセチルアセトナート錯体等の錯化合物などを挙げることができる。担持の方法としては特に限定されないが、前記の活性金属元素を含む化合物の溶液を用いた、Incipient Wetness法に代表される含浸法が好ましく採用される。活性金属元素を含む化合物が担持された担体は、公知の方法により乾燥され、更に好ましくは空気雰囲気下に、公知の方法により焼成される。焼成温度としては特に限定されないが、一般的に300〜600℃程度である。前記焼成により、担体上の活性金属元素を含む化合物は金属酸化物に転化される。
【0038】
FT合成触媒がFT合成反応に対する高い活性を発現するためには、上記活性金属原子が酸化物の状態にある触媒を還元処理することにより、活性金属原子を金属の状態に転換することが必要である。この還元処理は、通常加熱下に触媒を還元性ガスに接触させることにより行われる。還元性ガスとしては、例えば、水素ガス、水素ガスと窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガス等の水素ガスを含むガス、一酸化炭素ガス等が挙げられ、好ましくは水素を含むガスであり、より好ましくは水素ガスである。還元処理における温度は特に限定されないが、一般的に200〜550℃であることが好ましい。還元温度が200℃よりも低い場合、活性金属原子が充分に還元されず触媒活性が充分に発現しない傾向にあり、550℃を超える場合には、活性金属の凝集等に起因して触媒活性が低下する傾向にある。還元処理における圧力は特に限定されないが、一般的に0.1〜10MPaであることが好ましい。圧力が0.1MPa未満の場合には、活性金属原子が充分に還元されず触媒活性が充分に発現しない傾向にあり、10MPaを超える場合には、装置の耐圧を高める必要から設備コストが上昇する傾向にある。還元処理の時間は特に限定されないが、一般的に0.5〜50時間であることが好ましい。還元時間が0.5時間未満の場合には、活性金属原子が充分に還元されず触媒活性が充分に発現しない傾向にあり、50時間を超える場合には、活性金属の凝集等に起因して触媒活性が低下する傾向にあり、また効率が低下する傾向にある。還元処理を行う設備は特に限定されないが、例えばFT合成反応を行う反応器内で液体炭化水素の非存在下に還元処理を行ってもよい。また、FT合成反応を行う反応器に接続された設備内で還元処理を行い、大気に接触することなく、配管を通してFT合成を行う反応器に触媒を移送してもよい。
【0039】
一方、触媒製造設備等のFT合成反応を実施する設備とは異なる立地にある設備において還元処理を行う場合には、還元処理により活性化された触媒は、輸送等の過程で大気に接触させると失活する。この失活を防止するためには、活性化された触媒に安定化処理を施すことが好ましい。安定化処理としては、活性化された触媒に軽度な酸化処理を施し、活性金属表面に酸化皮膜を形成して、大気との接触によりそれ以上の酸化が進行しないようにする方法、あるいは、活性化された触媒を大気と非接触下に、炭化水素ワックス等によりコーティングして大気との接触を遮断する方法等が挙げられる。前記酸化皮膜を形成する方法においては、輸送後そのままFT合成反応に供することができ、またワックス等による被覆を行う方法においても、触媒を液体炭化水素に懸濁させてスラリーを形成する際に、被覆に使用したワックス等は液体炭化水素中に溶解して活性が発現される。
【0040】
気泡塔型スラリー床反応器C2におけるFT合成反応の反応条件としては限定されないが、例えば次のような反応条件が選択される。すなわち、反応温度は、一酸化炭素の転化率及び生成する炭化水素の炭素数を高めるとの観点から、150〜300℃であることが好ましい。反応圧力は0.5〜5.0MPaであることが好ましい。原料ガス中の水素/一酸化炭素比率(モル比)は0.5〜4.0であることが好ましい。なお、一酸化炭素の転化率は50%以上であることがFT合成油の生産効率の観点から望ましい。
【0041】
気泡塔型スラリー床反応器C2の内部には、液体炭化水素(好ましくはFT合成反応の生成物)中にFT合成触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容されている。工程S1において得られた合成ガス(CO及びH)は気泡塔型スラリー床反応器C2の底部に設置された分散板を通して、該反応器内のスラリー中に噴射される。スラリー中に吹き込まれた合成ガスは、気泡となってスラリー中を気泡塔型スラリー床反応器C2の上部へ向かって上昇する。その過程で、合成ガスは液体炭化水素中に溶解し、FT合成触媒粒子と接触することによりFT合成反応が進行し、炭化水素が生成する。FT合成反応は、例えば、下記化学反応式(3)で表される。
2nH+nCO→(−CH−)+nHO (3)
【0042】
気泡塔型スラリー床反応器C2内に収容されたスラリーの上部には気相部が存在する。FT合成反応により生成した気泡塔型スラリー床反応器C2内の条件にてガス状である軽質炭化水素及び未反応の合成ガス(CO及びH)は、スラリー相からこの気相部に移動し、更に気泡塔型スラリー床反応器C2の頂部からラインL2を通じて抜き出される。そして、抜き出された軽質炭化水素及び未反応の合成ガスはラインL2に接続される冷却器(図示省略。)を含む気液分離器D2により未反応の合成ガス及びC以下の炭化水素ガスを主成分とするガス分と、冷却により液化した液体炭化水素(軽質炭化水素油)とに分離される。このうちガス分は気泡塔型スラリー床反応器C2へリサイクルされ、ガス分に含まれる未反応の合成ガスは再びFT合成反応に供される。一方、軽質炭化水素油はラインL4及びラインL8を経て第1精留塔C4へ供給される。
【0043】
一方、FT合成反応により生成した、気泡塔型スラリー床反応器C2内の条件にて液状である炭化水素(重質炭化水素油)及びFT合成触媒粒子を含むスラリーは、気泡塔型スラリー床反応器C2の中央部からラインL6を通じて触媒分離器D4へ供給される。スラリー中のFT合成触媒粒子は、触媒分離器D4内に設置されたフィルターで捕集される。スラリー中の重質炭化水素油はフィルターを通過してFT合成触媒粒子と分離されてラインL8により抜き出され、ラインL4からの軽質炭化水素油と合流する。重質炭化水素油及び軽質炭化水素油の混合物は、ラインL8の中途に設置された熱交換器H2において加熱された後に第1精留塔C4へ供給される。
【0044】
FT合成反応の生成物としては、気泡塔型反応器C2内の条件にてガス状の炭化水素(軽質炭化水素)、及び気泡塔型反応器C2内の条件にて液体である炭化水素(重質炭化水素油)が得られる。これらの炭化水素は実質的にノルマルパラフィンであり、芳香族炭化水素、ナフテン炭化水素及びイソパラフィンはほとんど含まれない。また、前記軽質炭化水素及び重質炭化水素油を合わせた炭素数の分布は、常温でガスであるC以下から常温で固体(ワックス)である、例えばC80程度の広い範囲に及ぶ。また、前記反応生成物は、副生成物として、オレフィン類及び一酸化炭素由来の酸素原子を含む含酸素化合物(例えばアルコール類)を含む。
【0045】
触媒分離器D4が備えるフィルターの目開きは、FT合成触媒粒子の粒径よりも小さければ特に限定されないが、好ましくは10〜20μm、更に好ましくは10〜15μmである。触媒分離器D4が備えるフィルターで捕集されたFT合成触媒粒子は、適宜通常の流通方向とは逆方向に液体炭化水素を流通させること(逆洗)により、ラインL10を通じて気泡塔型反応器C2へ戻され、再利用される。
【0046】
気泡塔型スラリー床反応器C2内においてスラリーとして流動するFT合成触媒粒子の一部は、触媒粒子どうしの摩擦、器壁や反応器内に配設される冷却のための伝熱管との摩擦、あるいは反応熱によるダメージ等により、摩滅あるいは崩壊を生じ、触媒微粉末を生成する。ここで触媒微粉末の粒子径としては特に限定されないが、前記触媒分離器D4が備えるフィルターを通過する大きさ、すなわちフィルターの目開き以下である。例えばフィルターの目開きが10μmである場合には、10μm以下の粒子径を有する触媒粒子を触媒微粉末という。スラリーに含まれる触媒微粉末は、重質炭化水素油と共にフィルターを通過し、第1精留塔C4へ供給される。
【0047】
(工程S3)
工程S3では、気泡塔型スラリー床反応器C2から供給された軽質炭化水素油と重質炭化水素油の混合物からなる炭化水素油(FT合成油)を第1精留塔C4において分留する。この分留により、FT合成油を、概ねC〜C10であり沸点が約150℃より低い粗ナフサ留分と、概ねC11〜C20であり沸点が約150〜360℃である粗中間留分と、概ねC21以上であり沸点が約360℃を超える粗ワックス留分とに分離する。
【0048】
粗ナフサ留分は、第1精留塔C4の塔頂に接続されたラインL20を通じて抜き出される。粗中間留分は、第1精留塔40の中央部に接続されたラインL18を通じて抜き出される。粗ワックス留分は、第1精留塔C4の底部に接続されたラインL12を通じて抜き出される。
【0049】
第1精留塔C4に供給されるFT合成油に含まれる触媒微粉末は、第1精留塔C4内で一旦気化しその後凝縮して得られる留出油(粗ナフサ留分及び粗中間留分)には同伴せず、実質的に、第1精留塔C4内で気化することなく液体状態を保ち塔底油となる粗ワックス留分中にのみ同伴する。したがって、FT合成油(全留分)に含まれていた触媒微粉末は粗ワックス留分中に濃縮されることとなる。これにより、詳細には後述する触媒微粉末の捕集・除去を行う工程において、その対象となる粗ワックス留分中の触媒微粉末の濃度が高まるとともに、処理を行う液量が低減されるため、触媒微粉末の捕集・除去を効率的に行うことが可能となる。
【0050】
(工程S4)
工程S4では、第1精留塔C4の塔底からラインL12及び移送ラインL14aを通じて、工程S3で分離された粗ワックス留分の少なくとも一部を貯槽T2に移送し、貯槽T2において粗ワックス留分中に含まれる触媒微粉末を貯槽T2の底部に沈降させ、粗ワックス留分と分離して捕集する。
【0051】
第1精留塔C4の塔底に接続されたラインL12はミキシングドラムD6に接続され、ミキシングドラムD6と水素化分解装置C6とはラインL16により接続されている。ミキシングドラムD6を介したラインL12及びラインL16はバイパスラインを形成する。ここでバイパスラインとは、粗ワックス留分から触媒微粉末を捕集・除去するための貯槽T2を経由しないで第1精留塔C4の塔底と水素化分解装置C6とを結ぶラインを意味する。移送ラインL14aは、ラインL12上の分岐点から分枝し、貯槽T2に接続する。また、貯槽T2から触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄みを排出するための移送ラインL14bは前記分岐点の下流のラインL12に接続する。なお、前述のように、製造システム100は、移送ラインL14bを有さず、移送ラインL14aを使用して粗ワックス留分の上澄みを貯槽T2から排出する構成としてもよい。バイパスラインを形成するラインL12(好ましくは移送ラインL14aとの分岐点の下流、且つ、移送ラインL14bとの合流点の上流の位置)及び移送ラインL14a及び移送ラインL14bには、それぞれ流量計及びそれぞれのラインの閉止/開通並びに流量の調整を行うためのバルブが備えられていることが好ましい。
【0052】
なお、上記の例では、移送ラインL14aはラインL12から分枝する構成となっているが、移送ラインL14aはラインL16から分枝し、移送ラインL14bはラインL16に戻る構成であってもよい。但し、この場合、ラインL38を通じてリサイクルされる第2精留塔C12の塔底油(未分解ワックス留分)により粗ワックス留分中に含まれる触媒微粉末が希釈されることから、工程S3における触媒微粉末の濃縮効果が減じられるため、移送ラインL14aは上述のラインL12から分枝し、ラインL12に戻る構成であることが好ましい。
【0053】
貯槽T2は通常の貯槽(タンク)であってよく、工程S3で分離される粗ワックス留分の流出速度と水素化分解装置C6への粗ワックス留分の供給速度のバランスとるために粗ワックス留分を一時的に貯留するための貯槽を兼ねていてもよい。
【0054】
貯槽T2の底部は、該底部に沈降した触媒微粉末の移動を抑制するための構造を備えることが好ましい。底部に沈降した触媒微粉末の移動を抑制するための構造とは、底部に沈降した触媒微粉末及び/又はその周囲の粗ワックス留分の移動又は流動を幾何学的に、あるいはその他の機構により阻害することにより、触媒微粉末を一旦貯槽T2の底部に沈降させ、捕集された触媒微粉末の移動(舞い上がり)を抑制するものである。このような構造としては、底板又は底板の上に凹凸部又は凹部を有し、該凹部に触媒微粉末を捕集する構造、底板上に仕切板を有し、該仕切板で区分された各区画に触媒微粉末を捕集する構造、底板上に三次元の網目様の構造を有し、これにより形成される空間に触媒微粉末を捕集する構造、底板の上部に、底板と所定の間隔をもって略平行に設置され、開口部を有する板状体を有し、前記開口部を通過した触媒微粉末を底板上に捕集する構造、底板に磁性を有する材料を配し、磁性を有する触媒微粉末を捕集する構造などが挙げられる。
【0055】
以下に貯槽T2の底部の各構造について、図2を参照して更に具体的に説明する。
【0056】
<凹凸部又は凹部を有する構造>
底板又は底板の上に凹凸部又は凹部を有し、該凹部に触媒微粉末を捕集する構造の例としては、例えば図2(a)に示す波板を有する構造が挙げられる。図2(a)においては、平板状の底板の上に波板20が設置された例を示しているが、貯槽T2の底板自体がこのような構造を有していてもよい。また、波板は底板の全面を覆うものであってよい。また、波板の繰り返し単位の幅(ピッチ)及び波型形状の高さ等は適宜決定される。沈降した触媒微粉末は波板の凹部に捕集される。前記底板又は底板の上に凹凸部又は凹部を有し、該凹部に触媒微粉末を捕集する構造の他の例としては、例えば図2(b)に示すような凹部22を有する構造が挙げられる。図2(b)においては凹部の形状が円柱状である例を示したが、これに限定されることはなく、角柱状、半球状等の他の形状であってもよい。また、各凹部の大きさ、深さ、数等は適宜決定される。
【0057】
<仕切板を有する構造>
前記底板上に仕切板を有し、該仕切板で区分された各区画に触媒微粉末を捕集する構造の例としては、例えば図2(c)に示すような構造が挙げられる。仕切板24は底板に対して垂直に配置されていることが好ましいが、これに限定されることはない。また、図2(c)においては、仕切板は互いに並行に底板上に配置されているが、このような形状に限定されることはなく、図2(c)に示す互いに平行な仕切板に更に直交する仕切板を組み合わせた、平面図において格子状の仕切板を有するもの、平面図において同心円状に配置された仕切板を有するもの、平面図において螺旋状に配置された仕切板を有するもの、平面図において中心から放射上に配置された仕切板を有するもの、あるいはこれらを互いに組み合わせた配置の仕切板を有するものなどが挙げられる。ここで、各仕切板の高さ、間隔等は任意に決定される。
【0058】
<三次元網目構造を有する構造>
前記底板上に三次元の網目様の構造を有し、これにより形成される空間に触媒微粉末を捕集する構造の例としては、例えば図2(d)に示すような、互いに絡み合った繊維状の構造26が底板上に設置された構造が挙げられる。該構造を形成する材料としては、例えば鉄の繊維を絡み合わせたもの(スチール・ワイヤー)等の金属繊維からなるもの、あるいは耐熱性を有する合成繊維等から形成される織布、不織布等であってよい。これらの構造中には、例えば絡み合った繊維の間に空間が形成され、沈降した触媒微粉末が該空間に捕捉される。
【0059】
<底板の上部に開口部を有する板状体を有する構造>
前記底板の上部に、底板と所定の間隔をもって略平行に設置され、開口部を有する板状体を有し、前記開口部を通過した触媒微粉末を底板上に捕集する構造の例としては、例えば図2(e)に示すような、底板の上部にメッシュ28を有する構造が挙げられる。メッシュの目開きは、触媒微粉末が通過可能なものであれば特に限定されないが、触媒微粉末沈降の際の通過の容易さと、一旦底板まで沈降した触媒微粉末がメッシュを再度通過してその上部に舞い上がることの抑制効果との兼ね合いから決定される。前記底板の上部に、底板と所定の間隔をもって略平行に設置され、開口部を有する板状体を有し、前記開口部を通過した触媒微粉末を底板上に捕集する構造の他の例としては、図2(f)に示すような、底板の上部に、周囲から中心に向かって傾斜を有し中心部に開口部を有する漏斗状の構造をもつ板状体30を有する構造が挙げられる。図2(f)においては、貯槽T2の水平方向の断面をひとつの漏斗状の構造をもつ板状体が覆う例を示しているが、漏斗状の構造は複数であってよい。その場合、漏斗状の構造間の水平部分の面積は極力小さくすることが好ましい。また、漏斗状の構造の形状は円錐状だけでなく四角錐等の多角錐状であってもよい。これらの漏斗状の構造の数、傾斜部の傾き、開口部の大きさ等は適宜決定される。
【0060】
以上の貯槽T2の底部の構造は、沈降により捕集された触媒微粉末の周囲の粗ワックスの対流等による流動を幾何学的に阻害すること、あるいは前記流動があったとしても、捕集された触媒微粉末を幾何学的に区分された区画の外に移動することを阻害することにより、「舞い上がり」による触媒微粉末の貯槽T2からの排出を抑制するものである。
【0061】
<底部に磁性を有する材料を配する構造>
前記底部に磁性を有する材料を配し、磁性を有する触媒微粉末を捕集する構造の例としては、例えば図2(g)に示すような、底板に例えば永久磁石のような磁性体32が設けられた構造が挙げられる。FT合成触媒としては、シリカ等の担体に活性金属としてコバルト、鉄、ニッケル等の磁性を有する金属が担持された触媒が一般的に使用される。よって、これらの金属を有するFT合成触媒由来の触媒微粉末は、貯槽T2の底部に沈降すると、該底部に設けられた磁性体の磁力に吸引され、周囲の粗ワックス留分に流動が生じた場合でも、移動が抑制される。磁性を有する材料としては、永久磁石以外に電磁石であってもよく、その場合、貯槽T2の底部には、単数又は複数の電磁石が設置され、更にこの電磁石に磁性を発生させるため電気設備が設けられ、貯槽T2において触媒微粉末の捕集を行なう際には、該電気設備に通電を行なう。
【0062】
貯槽T2の底部に沈降した触媒微粉末の移動を抑制するための構造は、上記の例に限定されず、上記と同様あるいは類似の作用・効果によって、貯槽T2の底部に沈降した触媒微粉末及び/又はその周囲の粗ワックス留分の移動又は流動を抑制できるものであれば、使用することができる。
【0063】
移送ラインL14a、移送ラインL14b及び貯槽T2は、それぞれ単一のライン並びにその間に配設された単一の貯槽から構成されてもよいし、移送ラインL14a及び移送ラインL14bがそれぞれ並列する複数のラインに分枝し、これらの分枝した各ラインのそれぞれの間にそれぞれ貯槽が配設された複数のライン及び貯槽から構成されてもよい。
【0064】
貯槽T2における粗ワックス留分中に含まれる触媒微粉末の捕集は、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分の少なくとも一部を貯槽T2に移送する移送工程、及び貯槽T2に移送された粗ワックス留分中の触媒微粉末を沈降させて得られる上澄みを貯槽T2から排出する排出工程とから構成され、この移送工程と排出工程とを同時に実施してもよい。また、前記移送工程の終了後に前記排出工程を行ってもよい。更に、移送工程と排出工程の間に、移送及び排出を行わず、粗ワックス留分を静置する静置工程を更に設けてもよい。粗ワックス留分中の触媒微粉末の捕集を確実に行うためには、触媒微粉末の捕集は移送工程、静置工程、及び排出工程からこの順に構成されることが好ましい。これらの具体的な操作方法については後述する。
【0065】
(工程S5)
工程S5では、工程S3で分離した第1精留塔C4の塔底油であり触媒微粉末を含む粗ワックス留分のうち、工程S4で貯槽T2に移送されなかった残余分を、バイパスラインを形成するラインL12及びラインL16を通じて第1精留塔C4から水素化分解装置C6へ移送、及び/又は貯槽T2において触媒微粉末が沈降によりその底部に捕集された粗ワックス留分の上澄みを、移送ラインL14b(場合により移送ラインL14a及びラインL12)及びラインL16を通じて貯槽T2から水素化分解装置C6へ移送する。
【0066】
次に、工程S4及び工程S5において、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分について、その少なくとも一部を貯槽T2に移送して触媒微粉末の捕集を行い、触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄み及び/又は貯槽T2に移送されなかった残余の粗ワックス留分を水素化分解装置C6に移送する具体的な方法について説明する。なお、水素化分解装置C6における粗ワックス留分の水素化分解(工程S6)は連続的に行われることが好ましく、そのためには、工程S5において、バイパスライン及び/又は貯槽T2からの移送ラインL14b(場合により移送ラインL14a及びラインL12)及びラインL16を通じた粗ワックス留分の水素化分解装置C6への移送は連続的に行われる必要がある。
【0067】
貯槽T2が単一の貯槽により構成される場合、第1精留塔の塔底から流出する粗ワックス留分の少なくとも一部をラインL12及び移送ラインL14aを通じて貯槽T2へ移送し(貯槽T2からの排出を同時に行わない。)、同時に残余の粗ワックス留分をバイパスライン(ラインL12及びラインL16)を通じて直接水素化分解装置C6へ移送してもよい。この場合、貯槽T2に粗ワックス留分を移送した後、又は更に静置を行った後、触媒微粉末が捕集された上澄みを貯槽T2から排出し、移送ラインL14b及びライン16を通じて水素化分解装置C6へ移送する(図3(a)参照。)。なお、炭化水素油の製造システム100が移送ラインL14bを有せず移送ラインL14aのみを有する場合は、移送ラインL14bに代えて移送ラインL14aを用いて前記上澄みを排出し、更にラインL12及びラインL16を通じて、水素化分解装置C6へ移送する(図3(b)参照。)。
【0068】
また、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分の少なくとも一部をラインL12及び移送ラインL14aを通じて貯槽T2に移送し、同時に貯槽T2からラインL14bを通じて触媒微粉末が捕集された上澄みを排出し、更にライン16を通じて水素化分解装置C6へ供給してもよい(図3(c)参照。)。この際に、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分のうち貯槽T2に移送されない残余分がある場合には、当該残余分をバイパスライン(ラインL12及びラインL16)を通じて水素化分解装置C6へ供給する。
【0069】
貯槽T2が並列に配設された2基の貯槽(第1の貯槽及び第2の貯槽)により構成される場合、例えば、以下のように当該2基の貯槽を切り替えて使用してもよい。すなわち、第1精留塔C4の塔底から第1の貯槽に粗ワックス留分を移送して貯留する(同時に第1の貯槽からの排出を行わない。)。第1の貯槽への粗ワックス留分の移送終了後、触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄みを第1の貯槽から排出して移送ラインL14b及びラインL16を通じて水素化分解装置C6へ移送するのと同時に、第1精留塔C4の塔底から第2の貯槽に粗ワックス留分を移送して貯留する(同時に第2の貯槽からの排出を行わない。)。第2の貯槽への粗ワックス留分の移送終了後、触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄みを第2の貯槽から排出して移送ラインL14b及びラインL16を通じて水素化分解装置C6へ移送するのと同時に、今度は第1精留塔C4の塔底から第1の貯槽に粗ワックス留分を移送して貯留する。以後同様に2基の貯槽を切り替えて、交互に移送・貯留及び排出を繰り返すことにより、連続的に触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄みを水素化分解装置C6に供給することができる(図4(a)参照。)。この際に、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分のうち貯槽T2に移送されない残余分がある場合には、当該残余分をバイパスライン(ラインL12及びラインL16)を通じて水素化分解装置C6へ供給する。
【0070】
貯槽T2が並列に配設された3基の貯槽(第1の貯槽、第2の貯槽、及び第3の貯槽)から構成される場合、例えば、以下のように当該3基の貯槽を切り替えて使用してもよい。すなわち、第1の貯槽に粗ワックス留分を移送し(移送工程)、第2の貯槽では既に移送が終了した粗ワックス留分を静置して触媒微粉末を沈降させ(静置工程)、第3の貯槽では既に静置による触媒微粉末の沈降・捕集が終了した粗ワックス留分の上澄みを排出して水素化分解装置C6へ移送する(排出工程)。次に、粗ワックス留分の移送が完了した第1の貯槽において粗ワックス留分を静置して触媒微粉末を沈降させ(静置工程)、静置による触媒微粉末の沈降・捕集が完了した第2の貯槽において粗ワックス留分の上澄みを排出して水素化分解装置C6へ移送し(排出工程)、上澄みの排出が完了した第3の貯槽に、第1精留塔C4の塔底から粗ワックス留分を移送する(移送工程)。以後同様にして3基の貯槽を順次切り替えてそれぞれにおいて移送工程、静置工程、及び排出工程を繰り返すことにより、触媒微粉末が除去された粗ワックス留分を連続的に水素化分解装置C6に供給することができる(図4(b)参照。)。なお、この際に、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分のうち貯槽T2に移送されない残余分がある場合には、当該残余分をバイパスライン(ラインL12及びラインL16)を通じて水素化分解装置C6へ供給する。
【0071】
以上、本発明に係る炭化水素油の製造システム100において、貯槽T2がそれぞれ単独の貯槽、並列して配設される2基の貯槽、及び並列して配設される3基の貯槽から構成される実施形態の例、並びにそれらの各場合についてそれぞれ、本発明に係る炭化水素油の製造方法における工程S4及び工程S5の好ましい実施形態の例を述べたが、当該実施形態はこれらの例に限定されるものではない。例えば貯槽T2は並列に配設される4基以上の貯槽から構成されてもよいし、また、直列に配設される複数の貯槽、あるいは並列及び直接に配設される3基以上の貯槽から構成されてもよい。また、本発明に係る炭化水素油の製造方法における工程S4及び工程S5の実施形態は、第1精留塔C4の塔底から流出する粗ワックス留分が、バイパスライン及び/又は貯槽T2からの排出ラインを通じて連続的に水素化分解装置C6に供給され、且つ、貯槽2において触媒微粉末が捕集される限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0072】
(工程S6)
工程S6では、工程S5において、貯槽T2から移送ラインL14b(場合により移送ラインL14a及びラインL12)及びラインL16を通じて水素化分解装置C6に移送された貯槽T2において触媒微粉末が捕集された粗ワックス留分の上澄み、及び/又は第1精留塔C4の塔底からバイパスライン(ラインL12及びL16)を通じて水素化分解装置C6に移送された触媒微粉末が除去されていない粗ワックス留分を、水素化分解装置C6において水素化分解する。工程S5により移送された粗ワックス留分は、ラインL16に接続される水素ガスの供給ライン(図示省略。)により供給される水素ガスとともに、ラインL16に設置された熱交換器H4により粗ワックス留分の水素化分解に必要な温度まで加熱された後、水素化分解装置C6へ供給されて水素化分解される。なお、水素化分解装置C6において水素化分解を十分に受けなかった粗ワックス留分(以下、場合により「未分解ワックス留分」という。)は、工程S9において第2精留塔C12の塔底油として回収され、ラインL36によりラインL12にリサイクルされ、ミキシングドラムD6において第1精留塔C4及び/又は貯槽T2からの粗ワックス留分と混合されて、水素化分解装置C6へ再び供給される。
【0073】
水素化分解装置C6の形式は特に限定されず、水素化分解触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0074】
水素化分解装置C6に充填される水素化分解触媒としては公知の水素化分解触媒が用いられ、固体酸性を有する無機担体に、水素化活性を有する元素の周期表第8〜10族に属する金属が担持された触媒が好ましく使用される。
【0075】
前記水素化分解触媒を構成する好適な固体酸性を有する無機担体としては、超安定Y型(USY)ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びβゼオライトなどの結晶性ゼオライト、並びに、シリカアルミナ、シリカジルコニア、及びアルミナボリアなどの耐熱性を有する無定形複合金属酸化物の中から選ばれる1種類以上の無機化合物から構成されるものが挙げられる。さらに、前記担体は、USYゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアの中から選ばれる1種以上の無定形複合金属酸化物とを含んで構成される組成物がより好ましく、USYゼオライトと、アルミナボリア及び/又はシリカアルミナとを含んで構成される組成物が更に好ましい。
【0076】
USYゼオライトは、Y型ゼオライトを水熱処理及び/又は酸処理により超安定化したものであり、Y型ゼオライトが本来有する細孔径が2nm以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、2〜10nmの範囲に細孔径を有する新たな細孔が形成されている。USYゼオライトの平均粒子径に特に制限はないが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USYゼオライトにおいて、シリカ/アルミナのモル比(アルミナに対するシリカのモル比)は10〜200であることが好ましく、15〜100であることがより好ましく、20〜60であることが更に好ましい。
【0077】
また、前記担体は、結晶性ゼオライト0.1〜80質量%と、耐熱性を有する無定形複合金属酸化物0.1〜60質量%とを含んでいることが好ましい。
【0078】
前記担体は、上記固体酸性を有する無機化合物とバインダーとを含む担体組成物を成形した後、焼成することにより製造できる。固体酸性を有する無機化合物の配合割合は、担体全量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。また、担体がUSYゼオライトを含んでいる場合、USYゼオライトの配合割合は、担体全体の質量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。さらに、担体がUSYゼオライト及びアルミナボリアを含んでいる場合、USYゼオライトとアルミナボリアの配合比(USYゼオライト/アルミナボリア)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。また、担体がUSYゼオライト及びシリカアルミナを含んでいる場合、USYゼオライトとシリカアルミナとの配合比(USYゼオライト/シリカアルミナ)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。
【0079】
バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。バインダーの配合量は、担体全体の質量を基準として20〜98質量%であることが好ましく、30〜96質量%であることがより好ましい。
【0080】
前記担体組成物を焼成する際の温度は、400〜550℃の範囲内にあることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることが更に好ましい。このような温度で焼成することにより、担体に十分な固体酸性及び機械的強度を付与することができる。
【0081】
前記担体に担持される水素化活性を有する周期表第8〜10族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、パラジウム及び白金の中から選ばれる金属を1種単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。これらの金属は、含浸やイオン交換などの常法によって上述の担体に担持することができる。担持する金属量には特に制限はないが、金属の合計量が担体質量に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。なおここで元素の周期表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期表をいう。
【0082】
水素化分解装置C6においては、粗ワックス留分及び未分解ワックス留分(概ねC21以上の炭化水素)の一部が水素化分解により概ねC20以下の炭化水素に転化されるが、更にその一部は、過剰な分解により目的とする中間留分(概ねC11〜C20)よりも軽質なナフサ留分(概ねC〜C10)、更にはC以下のガス状炭化水素に転化される。一方、粗ワックス留分及び未分解ワックス留分の一部は十分に水素化分解を受けず、概ねC21以上の未分解ワックス留分となる。水素化分解生成物の組成は使用する水素化分解触媒及び水素化分解反応条件により決定される。なおここで「水素化分解生成物」とは、特に断らない限り、未分解ワックス留分を含む水素化分解全生成物を指す。水素化分解反応条件を必要以上に厳しくすると水素化分解生成物中の未分解ワックス留分の含有量は低下するが、ナフサ留分以下の軽質分が増加して目的とする中間留分の収率が低下する。一方、水素化分解反応条件を必要以上に温和にすると、未分解ワックス留分が増加して中間留分収率が低下する。沸点が25℃以上の全分解生成物に対する沸点が25〜360℃の分解生成物の比率(〔沸点が25〜360℃である分解生成物の質量/25℃以上の全分解生成物の質量〕×100(%))を「分解率」とする場合、通常、この分解率が20〜90%、好ましくは30〜80%、更に好ましくは45〜70%となるように反応条件が選択される。
【0083】
水素化分解装置C6においては、水素化分解反応と並行して、粗ワックス留分及び未分解ワックス留分、あるいはそれらの水素化分解生成物を構成するノルマルパラフィンの水素化異性化反応が進行し、イソパラフィンを生成する。当該水素化分解生成物を燃料油基材として使用する場合には、水素化異性化反応により生成するイソパラフィンは、その低温流動性の向上に寄与する成分であり、その生成率が高いことが好ましい。更に、粗ワックス留分中に含有されるFT合成反応の副生成物であるオレフィン類及びアルコール類等の含酸素化合物の除去も進行する。すなわち、オレフィン類は水素化によりパラフィン炭化水素に転化され、含酸素化合物は水素化脱酸素によりパラフィン炭化水素と水とに転化される。
【0084】
水素化分解装置C6における反応条件は限定されないが、次のような反応条件を選択することができる。すなわち、反応温度としては、180〜400℃が挙げられるが、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃が特に好ましい。反応温度が400℃を越えると、軽質分への分解が進行して中間留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し燃料油基材としての使用が制限される傾向にある。一方、反応温度が180℃を下回ると、水素化分解反応が十分に進行せず、中間留分の収率が減少するだけでなく、水素化異性化反応によるイソパラフィンの生成が抑制され、また、アルコール類等の含酸素化合物が十分に除去されずに残存する傾向にある。水素分圧としては0.5〜12MPaが挙げられるが、1.0〜5.0MPaが好ましい。水素分圧が0.5MPa未満の場合には水素化分解、水素化異性化等が十分に進行しない傾向にあり、一方、12MPaを超える場合は装置に高い耐圧性が要求され、設備コストが上昇する傾向にある。粗ワックス留分及び未分解ワックス留分の液空間速度(LHSV)としては0.1〜10.0h−1が挙げられるが、0.3〜3.5h−1が好ましい。LHSVが0.1h−1未満の場合には水素化分解が過度に進行し、また生産性が低下する傾向にあり、一方、10.0h−1を超える場合には、水素化分解、水素化異性化等が十分に進行しない傾向にある。水素/油比としては50〜1000NL/Lが挙げられるが、70〜800NL/Lが好ましい。水素/油比が50NL/L未満の場合には水素化分解、水素化異性化等が十分に進行しない傾向にあり、一方、1000NL/Lを超える場合には、大規模な水素供給装置等が必要となる傾向にある。
【0085】
水素化分解装置C6から流出する水素化分解生成物及び未反応の水素ガスは、この例では、気液分離器D8及び気液分離器D10において2段階で冷却、気液分離され、気液分離器D8からは未分解ワックス留分を含む比較的重質な液体炭化水素が、気液分離器D10からは水素ガス及びC以下のガス状炭化水素を主として含むガス分と比較的軽質な液体炭化水素とが得られる。このような2段階の冷却、気液分離により、水素化分解生成物中に含まれる未分解ワックス留分の急冷による固化に伴うラインの閉塞等の発生を防止することができる。気液分離器D8及び気液分離器D10においてそれぞれ得られた液体炭化水素は、それぞれラインL28及びラインL26を通じてラインL32に合流する。気液分離器D12において分離された水素ガス及びC以下のガス状炭化水素を主として含むガス分は、気液分離器D10とラインL18及びラインL20とを接続するライン(図示省略。)を通じて中間留分水素化精製装置C8及びナフサ留分水素化精製装置C10へ供給され、水素ガスが再利用される。
【0086】
(工程S7)
工程S7では、第1精留塔C4からラインL18により抜き出された粗中間留分は、ラインL18に接続される水素ガスの供給ライン(図示省略。)により供給される水素ガスとともに、ラインL18に設置された熱交換器H6により粗中間留分の水素化精製に必要な温度まで加熱された後、中間留分水素化精製装置C8へ供給され、水素化精製される。
【0087】
中間留分水素化精製装置C8の形式は特に限定されず、水素化精製触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0088】
中間留分水素化精製装置C8に用いる水素化精製触媒としては、石油精製等において水素化精製及び/又は水素化異性化に一般的に使用される触媒、すなわち無機担体に水素化能を有する活性金属が担持された触媒を用いることができる。
【0089】
水素化精製触媒を構成する活性金属としては、元素の周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属からなる群より選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン等が挙げられる。
【0090】
水素化精製触媒を構成する無機担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物は1種であってもよいし、2種以上の混合物あるいはシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の複合金属酸化物であってもよい。前記無機担体は、水素化精製と同時にノルマルパラフィンの水素化異性化を効率的に進行させるとの観点から、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の固体酸性を有する複合金属酸化物であることが好ましい。また、無機担体には少量のゼオライトを含んでもよい。さらに前記無機担体は、担体の成型性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、アルミナ、シリカ、マグネシア等が挙げられる。
【0091】
水素化精製触媒における活性金属の含有量としては、活性金属が上記の貴金属である場合には、金属原子として担体の質量基準で0.1〜3質量%程度であることが好ましい。また、活性金属が上記の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。活性金属の含有量が前記下限値未満の場合には、水素化精製及び水素化異性化が充分に進行しない傾向にある。一方、活性金属の含有量が前記上限値を超える場合には、活性金属の分散が低下して触媒の活性が低下する傾向となり、また触媒コストが上昇する。
【0092】
中間留分水素化精製装置C8における粗中間留分(概ねC11〜C20であるノルマルパラフィンを主成分とする)の水素化精製では、粗中間留分に含まれるFT合成反応の副生成物であるオレフィン類を水素化してパラフィン炭化水素に転化する。また、アルコール類等の含酸素化合物を水素化脱水素によりパラフィン炭化水素と水とに転化する。また、前記水素化精製と並行して、粗中間留分を構成するノルマルパラフィンの水素化異性化反応が進行し、イソパラフィンが生成する。当該中間留分を燃料油基材として使用する場合には、水素化異性化反応により生成するイソパラフィンは、その低温流動性の向上に寄与する成分であり、その生成率が高いことが好ましい。
【0093】
中間留分水素精製装置C8における反応条件は限定されないが、次のような反応条件を選択することができる。すなわち、反応温度としては、180〜400℃が挙げられるが、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃が特に好ましい。反応温度が400℃を越えると、軽質分への分解が進行して中間留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色する傾向にあり、燃料油基材としての使用が制限される傾向にある。一方、反応温度が180℃を下回ると、アルコール類等の含酸素化合物が十分に除去されずに残存し、また、水素化異性化反応によるイソパラフィンの生成が抑制される傾向にある。水素分圧としては0.5〜12MPaが挙げられるが、1.0〜5.0MPaが好ましい。水素分圧が0.5MPa未満の場合には水素化精製及び水素化異性化が十分に進行しない傾向にあり、一方、12MPaを超える場合には装置に高い耐圧性が要求され、設備コストが上昇する傾向にある。粗中間留分の液空間速度(LHSV)としては0.1〜10.0h−1が挙げられるが、0.3〜3.5h−1が好ましい。LHSVが0.1h−1未満の場合には軽質分への分解が進行して中間留分の収率が減少し、また生産性が低下する傾向にあり、一方、10.0h−1を超える場合には、水素化精製及び水素化異性化が十分に進行しない傾向にある。水素/油比としては50〜1000NL/Lが挙げられるが、70〜800NL/Lが好ましい。水素/油比が50NL/L未満の場合には水素化精製及び水素化異性化が十分に進行しない傾向にあり、一方、1000NL/Lを超える場合には、大規模な水素供給装置等が必要となる傾向にある。
【0094】
中間留分水素化精製装置C8の流出油は、ラインL30が接続される気液分離器D12において未反応の水素ガスを主に含むガス分が分離された後、ラインL32を通じて移送され、ラインL26により移送された液状のワックス留分の水素化分解生成物と合流する。気液分離器D12において分離された水素ガスを主として含むガス分は、水素化分解装置C6へ供給され、再利用される。
【0095】
(工程S8)
工程S8では、第1精留塔C4からラインL20により抜き出された粗ナフサ留分は、ラインL20に接続される水素ガスの供給ライン(図示省略。)により供給される水素ガスとともに、ラインL20に設置された熱交換器H8により粗ナフサ留分の水素化精製に必要な温度まで加熱された後、ナフサ留分水素化精製装置C10へ供給され、水素化精製される。
【0096】
ナフサ留分水素化精製装置10の形式は特に限定されず、水素化精製触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0097】
ナフサ留分水素化精製装置10に用いる水素化精製触媒は、粗中間留分の水素化精製に用いるものと同様の水素化精製触媒であってよい。
【0098】
ナフサ留分水素化精製装置C10における粗ナフサ留分(概ねC〜C10であるノルマルパラフィンを主成分とする。)の水素化精製では、粗ナフサ留分中に含まれる不飽和炭化水素が水素化によりパラフィン炭化水素に転化される。また、粗ナフサ留分に含まれるアルコール類等の含酸素化合物が、水素化脱酸素によりパラフィン炭化水素と水とに転化される。なお、ナフサ留分は炭素数が小さいことに起因して、水素化異性化反応はあまり進行しない。
【0099】
ナフサ留分水素化精製装置C10における反応条件は限定されないが、上述の中間留分水素化精製装置C8における反応条件と同様の反応条件を選択することができる。
【0100】
ナフサ留分水素化精製装置C10の流出油は、ラインL34を通じて気液分離器D14に供給され、気液分離器D14において水素ガスを主成分とするガス分と液体炭化水素に分離される。分離されたガス分は水素化分解装置C6へ供給され、これに含まれる水素ガスが再利用される。一方、分離された液体炭化水素は、ラインL36を通じてナフサ・スタビライザーC14に移送される。また、この液体炭化水素の一部はラインL48を通じてナフサ留分水素化精製装置C10の上流のラインL20にへリサイクルされる。粗ナフサ留分の水素化精製(オレフィン類の水素化及びアルコール類等の水素化脱酸素)における発熱量は大きいため、前記液体炭化水素の一部をナフサ留分水素化精製装置C10へリサイクルし、粗ナフサ留分を希釈することにより、ナフサ留分水素化精製装置C10における温度上昇が抑制される。
【0101】
ナフサ・スタビライザーC14においては、ナフサ留分水素化精製装置C10及び第2精留塔C12から供給された液体炭化水素を分留して、製品として炭素数がC〜C10である精製されたナフサを得る。この精製されたナフサは、ナフサ・スタビライザーC14の塔底からラインL46を通じて貯槽T8に移送され貯留される。一方、ナフサ・スタビライザーC14の塔頂に接続されるラインL50からは、炭素数が所定数以下(C以下)である炭化水素を主成分とする炭化水素ガスが排出される。この炭化水素ガスは、製品対象外であるため、外部の燃焼設備(図示省略)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0102】
(工程S9)
工程S9では、水素化分解装置C6の流出物ら得られる液体炭化水素及び中間留分水素化精製装置C8の流出物から得られる液体炭化水素からなる混合油は、ラインL32に設置された熱交換器H10で加熱された後に、第2精留塔C12へ供給され、概ねC10以下である炭化水素と、灯油留分と、軽油留分と、未分解ワックス留分とに分留される。概ねC10以下の炭化水素は沸点が約150℃より低く、第2精留塔C12の塔頂からラインL44により抜き出される。灯油留分は沸点が約150〜250℃であり、第2精留塔C12の中央部からラインL42により抜き出され、貯槽T6に貯留される。軽油留分は沸点が約250〜360℃であり、第2精留塔C12の下部からラインL40により抜き出され、貯槽T4に貯留される。未分解ワックス留分は沸点が360℃を超え、第2精留塔C12の塔底から抜き出され、ラインL38により水素化分解装置C6の上流のラインL12にリサイクルされる。第2精留塔C12の塔頂から抜き出された概ねC10以下の炭化水素はラインL44及びL36によりナフサスタビライザーに供給され、ナフサ留分水素化精製装置C10より供給された液体炭化水素とともに分留される。
【0103】
以上、本発明に係る炭化水素油の製造方法及び製造システムの好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0104】
例えば、上記実施形態では、GTLプロセスとして、合成ガス製造の原料として天然ガスを用いたが、例えば、アスファルト、残油など、ガス状ではない炭化水素原料を用いてもよい。また、上記実施形態では、第1精留塔C4において粗ナフサ留分と、粗中間留分と粗ワックス留分との3つの留分に分留し、粗ナフサ留分と粗中間留分とをそれぞれ別の工程において水素化精製したが、粗ナフサ留分と粗中間留分を合わせた粗軽質留分と粗ワックス留分との2つの留分に分留し、粗軽質留分をひとつの工程において水素化精製してもよい。また、本実施形態では、第2精留塔C12において灯油留分と軽油留分とを別な留分として分留したが、これらをひとつの留分(中間留分)として分留してもよい。
【0105】
なお、上記実施形態により説明したように、第1精留塔C4の塔底から流出する触媒微粉末を含む粗ワックス留分の一部は、触媒微粉末の捕集・除去が行われることなく水素化分解装置C6に移送される場合がある。この場合、水素化分解装置C6に流入した触媒微粉末は水素化分解装置C6内に充填された水素化分解触媒の活性低下等の前述の問題を引き起こす可能性がある。しかし、第1精留塔C4の塔底から流出する触媒微粉末を含む粗ワックス留分の少なくとも一部は貯槽T2において触媒微粉末が捕集・除去されることから、当該触媒微粉末の捕集・除去が行われない場合と水素化分解装置C6の同一の累積通油量において比較した場合、水素化分解装置C6に流入する触媒微粉末の量を低減することができる。その結果、前述の問題が顕在化するまでの運転時間を延長することが可能となる。
【符号の説明】
【0106】
T2・・・貯槽、C4・・・第1精留塔、C6・・・水素化分解装置、C8・・・中間留分水素化精製装置、C10・・・ナフサ留分水素化精製装置、C12・・・第2精留塔、L12、L16・・・バイパスライン、L14a、L14b・・・移送ライン、100・・・炭化水素油の製造システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素と前記液体炭化水素中に懸濁した触媒とを含むスラリーを内部に保持するスラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、前記触媒に由来する触媒微粉末を含有する炭化水素油を得る工程と、
精留塔を用いて前記炭化水素油を少なくとも1種の留出油と前記触媒微粉末を含む塔底油とに分留する工程と、
前記塔底油の少なくとも一部を貯槽に移送して、前記触媒微粉末を前記貯槽の底部に沈降させて捕集する工程と、
前記塔底油の残余の前記精留塔から水素化分解装置への移送、及び/又は前記貯槽において触媒微粉末が捕集された前記塔底油の上澄みの前記貯槽から前記水素化分解装置への移送を行い、前記水素化分解装置を用いて前記塔底油の残余及び/又は前記塔底油の上澄みを水素化分解する工程と、
を備える炭化水素油の製造方法。
【請求項2】
前記貯槽が、前記底部に沈降した前記触媒微粉末の移動を抑制するための構造を前記底部に備えることを特徴とする、請求項1記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項3】
液体炭化水素と前記液体炭化水素中に懸濁した触媒とを含むスラリーを内部に保持するスラリー床反応器を有し、前記触媒に由来する触媒微粉末を含有する炭化水素油を得るためのフィッシャー・トロプシュ合成反応装置と、
前記炭化水素油を少なくとも1種の留出油と塔底油とに分留するための精留塔と、
前記塔底油の水素化分解を行うための水素化分解装置と、
前記精留塔の塔底と前記水素化分解装置とを結ぶバイパスラインと、
前記バイパスラインの分岐点から分枝する移送ラインと、
前記移送ラインに接続され、前記触媒微粉末を底部に沈降させて捕集する貯槽と、
を備える炭化水素油の製造システム。
【請求項4】
前記貯槽が、前記底部に沈降した前記触媒微粉末の移動を抑制するための構造を前記底部に備えることを特徴とする、請求項3記載の炭化水素油の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−41450(P2012−41450A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184085(P2010−184085)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】