説明

炭化水素油の製造方法

【課題】含酸素炭化水素化合物を含有する原料油から炭化水素油を製造するに際し、酸素分が十分に低減されており且つ燃料油としての実用的な低温性能及び酸化安定性を有する炭化水素油を得ることが可能であり、さらに、設備費用及び消費エネルギーの削減並びに製造効率の点で有効な炭化水素油の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1の反応帯域において、水素及び第1の水素化触媒の存在下、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油について酸素分除去率が5〜80質量%となるように水素化脱酸素及び水素化異性化を行い、第1の生成油を得る。次いで、第1の反応帯域と直列に配置された第2の反応帯域において、水素及び第2の水素化触媒の存在下、第1の工程で得られた第1の生成油について水素化脱酸素を行い、炭化水素油を含有する第2の生成油を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の防止対策として、バイオマスエネルギーの有効利用に注目が集まっている。バイオマスエネルギーの中でも植物由来のバイオマスエネルギーは、植物の成長過程で光合成により二酸化炭素から変換された炭化水素を有効利用できるため、ライフサイクルの観点からすると大気中の二酸化炭素の増加につながらない、いわゆる、カーボンニュートラルという性質を持つ。
【0003】
このようなバイオマスエネルギーの利用は、輸送用燃料の分野においても種々検討がなされている。例えば、ディーゼル燃料として動植物油由来の燃料を使用できれば、ディーゼルエンジンの高いエネルギー効率との相乗効果により二酸化炭素の排出量削減において有効な役割を果たすと期待されている。動植物油を利用したディーゼル燃料としては、脂肪酸メチルエステル油(Fatty Acid Methyl Ester)が知られている。脂肪酸メチルエステル油は、動植物油の一般的な構造であるトリグリセリド構造に対し、アルカリ等によってメタノールとのエステル交換を行うことで製造されている。
【0004】
しかしながら、脂肪酸メチルエステル油を製造するプロセスにおいては、下記特許文献1に記載されている通り、副生するグリセリンの処理が必要であったり、生成油の洗浄などにコストやエネルギーがかかったりすることが指摘されている。
【0005】
また、動植物油由来の油脂成分やこれを原料として製造される燃料を使用するには、上記のような問題に加え、以下のような問題がある。すなわち、動植物油由来の油脂成分は、一般に分子中に酸素原子を有しているため、酸素分がエンジン材質に与える悪影響が懸念されること、並びに、当該酸素分を極低濃度まで除去することが困難であることなどである。また、動植物油由来の油脂成分と石油系炭化水素留分とを混合して使用する場合には、従来の技術では、当該油脂成分中の酸素分及び石油系炭化水素留分中の硫黄分の両方の含有量を十分に低減することができない。
【0006】
そこで、動植物由来の油脂成分について水素化処理による脱酸素(水素化脱酸素)を行い、炭化水素油からなる燃料油を製造する方法が検討されている。また、下記特許文献2には、動植物由来の油脂成分を水素化脱酸素し、さらに低温性能を向上せしめるべく、水素化脱酸素工程の後に異性化工程を組み合わせた製造方法が開示されている。また、下記特許文献3には、水素化脱酸素及び異性化を一段階で行う方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−154647号公報
【特許文献2】EP1396531A2公報
【特許文献3】WO2006/100584A2公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、動植物由来の油脂を構成する脂肪酸は直鎖の飽和又は不飽和の炭化水素骨格を有しているため、従来の水素化脱酸素方法により得られる直鎖パラフィンは、流動点や曇り点といった燃料油としての低温性能が必ずしも実用上十分とはいえない。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の方法の場合、異性化により生成油の低温性能は改善されるものの、後段の異性化工程で使用される触媒が貴金属を活性成分として含むため、水素化脱酸素工程と異性化工程との間では、硫化水素や他の硫黄化合物あるいは副生する一酸化炭素、二酸化炭素などの触媒を被毒し得るガス成分を除去することが望ましいと考えられる。そこで、反応流体からガス成分を分離除去するために冷却、降圧といった操作が必要となるが、その一方で、ガス成分を分離した後の反応流体を異性化工程にて処理するためには加熱、昇圧操作が必要となる。このように、上記特許文献2に記載の方法は、煩雑な操作が必要となり、また、エネルギー消費が大きいため、効率の観点から実用化に供し得るものとして十分であるとはいえない。
【0009】
また、上記特許文献3に記載の方法の場合、一段階で水素化脱酸素及び異性化が行われるというプロセス上の長所はあるが、得られる生成油の不飽和度が高く酸化安定性に欠ける等の製品性状の問題がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油から炭化水素油を製造するに際し、酸素分が十分に低減されており且つ燃料油としての実用的な低温性能及び酸化安定性を有する炭化水素油を得ることが可能であり、さらに、設備費用及び消費エネルギーの削減並びに製造効率の点で有効な炭化水素油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、第1の反応帯域において、水素及び第1の水素化触媒の存在下、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油について酸素分除去率が5〜80質量%となるように水素化脱酸素及び水素化異性化を行い、第1の生成油を得る第1の工程と、第1の反応帯域と直列に配置された第2の反応帯域において、水素及び第2の水素化触媒の存在下、第1の工程で得られた第1の生成油について水素化脱酸素を行い、炭化水素油を含有する第2の生成油を得る第2の工程と、を備えることを特徴とする炭化水素油の製造方法を提供する。
【0012】
ここで、本発明でいう「酸素分」とは、UOP−649に記載の方法に準拠して測定される酸素分をいう。また、本発明でいう「酸素分除去率」とは、以下の式で定義される値をいう。
(酸素分除去率[質量%])=[(処理後の酸素分含有量)/(処理前の酸素分含有量)]×100
【0013】
また、本発明でいう「水素化脱酸素」とは、含酸素有機化合物を構成する酸素原子を除去し、開裂した部分に水素を付加する処理を意味する。例えば脂肪酸トリグリセライドや脂肪酸は、それぞれエステル基、カルボキシル基等の含酸素基を有しているが、水素化脱酸素によって、これらの含酸素基に含まれる酸素原子が取り除かれ、含酸素有機化合物は炭化水素に転換される。脂肪酸トリグリセライド等が有する含酸素基の水素化脱酸素には、主として二つの反応経路がある。第1の反応経路は、脂肪酸トリグリセライド等の炭素数を維持しながらアルデヒド、アルコールを経由して還元される水素化経路である。この場合、酸素原子は水に転換される。第2の反応経路は、脂肪酸トリグリセライド等の含酸素基がそのまま二酸化炭素として脱離する脱炭酸経路であり、酸素原子は二酸化炭素として取り除かれる。本発明における水素化脱酸素では、これらの反応は並列に進行し、動植物由来の油脂類を含む被処理油の水素化処理では、炭化水素と水、二酸化炭素が生成する。
【0014】
また、本発明でいう「水素化異性化」とは、水素化処理による直鎖状炭化水素鎖骨格から分岐状炭化水素鎖骨格への異性化を意味する。すなわち、本発明でいう「水素化異性化」には、ノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化の他、直鎖状炭化水素鎖を有する含酸素有機化合物の当該直鎖状炭化水素鎖から分岐状炭化水素鎖への異性化反応も包含される。水素化異性化では、原系と生成系で分子式が変化せず、実質的な構成元素の増減を伴わない。
【0015】
なお、脂肪酸トリグリセライド等の脂肪酸単位を構成する炭化水素骨格は、不飽和及び/又は飽和の長鎖アルキル基からなるが、水素化脱酸素により生成する炭化水素の不飽和結合は、水素化処理により実質的に飽和結合となる。また、含硫黄化合物、含窒素化合物等は水素化処理により除去される。また生成した炭化水素等の分解反応等の副反応も一部起こる。
【0016】
本発明の炭化水素油の製造方法においては、前段(第1の工程)で、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油について酸素分除去率が5〜80質量%となるように水素化脱硫及び水素化異性化を行うことにより、第1の水素化触媒の活性の低下を十分に抑制しつつ、十分な異性化率をもって第1の生成油を得ることができる。また、第1の生成油には所定量の酸素分が残存しているが、後段(第2の工程)で第1の生成油について水素化脱酸素を行うことによって当該酸素分を十分に低減することができる。したがって、本発明の炭化水素油の製造方法によれば、酸素分が十分に低減されており且つ分岐パラフィンの比率が高められた、燃料油としての実用的な低温性能及び酸化安定性を有する炭化水素油を得ることができる。
【0017】
また、本発明の炭化水素油の製造方法は、上記構成を有するため、2つの処理工程の間で、反応流体からガス成分を分離除去するための冷却、降圧といった操作や、ガス成分を分離した後の反応流体を後段の工程に供するための加熱、昇圧操作を必要とせず、設備費用及び消費エネルギーの削減並びに製造効率の点で非常に有用である。
【0018】
本発明においては、炭化水素油の燃料油としての性状の観点から、第2の生成油中の酸素分含有量が1質量%以下であることが好ましい。
【0019】
また、原料油の酸素分の含有量は、原料油の全量を基準として0.1〜15質量%であることが好ましい。原料油の酸素分が上記の範囲内であると、第1の水素化触媒の触媒活性、特に脱酸素活性をより長期にわたって高水準に維持することができる。
【0020】
また、バイオマスエネルギーの有効利用の点から、含酸素炭化水素化合物は動植物油に由来する油脂成分であることが好ましい。
【0021】
さらに、原材料の加工に必要なエネルギーを低減できることから、含酸素炭化水素化合物に占めるトリグリセライド構造を有する化合物の割合は90モル%以上であることが好ましい。
【0022】
また、触媒の活性及び選択性の点から、第1の水素化触媒は、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムからなる群より選択される2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物と、該多孔性無機酸化物に担持された1種以上の第VIII族金属元素と、を含有することが好ましい。
【0023】
一方、第2の水素化触媒は、触媒の活性及び選択性の点から、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムからなる群より選択される1種又は2種以上の元素及びアルミニウムを含んで構成される多孔性無機酸化物と、該多孔性無機酸化物に担持された1種以上の周期律表第VIA族金属元素及び1種以上の第VIII族金属元素と、を含有することが好ましい。
【0024】
さらに、触媒の脱酸素活性を一層向上できることから、第2の水素化触媒に含まれる多孔性無機酸化物は、構成元素としてリンをさらに含有することが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、各反応帯域における水素化触媒の活性の維持の点から、第1の反応帯域の入口での原料油中の硫黄分含有量が1質量ppm未満であり、第2の反応帯域の入口での前記第1の生成油を含む全流体中の硫黄分含有量が1質量ppm以上であることが好ましい。
【0026】
さらに、第2の反応帯域における第2の水素化触媒の活性の維持の点から、第1の反応帯域と第2の反応帯域との間において、有機硫黄化合物及び/又は硫化水素を第1の生成油を含む流体に添加することが好ましい。
【0027】
また、製造設備の簡略化、消費エネルギーの低減及び製造効率の点から、本発明の炭化水素油の製造方法は、第1の反応帯域と第2の反応帯域との間において、実質的に硫化水素及び/又は水素以外の副生ガス成分を除去する工程を含まないことが好ましい。
【0028】
本発明の炭化水素油の製造方法によれば、第2の生成油又はその含有成分として、実用上十分な酸化安定性を有する炭化水素油を得ることができるが、酸化安定性の点から、第2の生成油は、115℃で16時間酸素ガスを吹き込んだ後の酸価増加量が、酸素ガスを吹き込む前の酸価を基準として0.25mg−KOH/g以下のものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油から炭化水素油を製造するに際し、酸素分が十分に低減されており且つ燃料油としての実用的な低温性能及び酸化安定性を有する炭化水素油を得ることが可能であり、さらに、設備費用及び消費エネルギーの削減並びに製造効率の点で有効な炭化水素油の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0031】
(原料油)
本発明の炭化水素の製造方法においては、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油が用いられる。含酸素炭化水素化合物としては、動植物油由来の油脂成分が好適である。ここで、「動植物油由来の油脂成分」とは、天然の動植物油由来の油脂成分、これを分離・精製した油脂成分、あるいはこれらを原料として化学的転換により生産、製造される油脂誘導体をいい、さらにこれらとこれらの製品性能を維持、向上させる目的で添加される成分との組成物を包含する。
【0032】
本発明の炭化水素の製造方法において好ましく使用される動植物油に由来する油脂成分は特に限定されないが、例えば、牛脂、菜種油、大豆油、パーム油などが挙げられる。これら油脂成分は、それを使用した後の廃油であってもよい。カーボンニュートラルの観点からは植物油脂成分がより好ましく、中でも脂肪酸アルキル鎖炭素数及びその反応性の観点から、菜種油、大豆油あるいはパーム油が特に好ましい。なお、上記の油脂成分は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
動植物油に由来する油脂成分は、一般に脂肪酸トリグリセリド構造を有しているが、本発明の炭化水素の製造方法に用いる原料油としては、脂肪酸や脂肪酸メチルエステルなどのエステル体に加工されている油脂成分を含んでいてもよい。ただし、動植物油に由来する油脂から脂肪酸や脂肪酸エステルを製造する際にはエネルギーを必要とし、二酸化炭素排出量の低減の観点から、本発明の炭化水素の製造方法に用いる原料油としては、植物油脂としてトリグリセリド構造を有する成分が主体であることが好ましい。本発明の炭化水素の製造方法に用いる原料油に含まれる含酸素炭化水素化合物に占めるトリグリセリド構造を有する化合物の割合が90モル%以上であることが好ましく、92モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましい。なお、本発明の炭化水素の製造方法に係る原料油は、含酸素炭化水素化合物として、上記の動植物油由来の油脂成分の他、プラスチックや溶剤等の化学品由来の化合物を含んでいてもよい。さらに、含酸素炭化水素化合物以外の成分として、一酸化炭素と水素とからなる合成ガスを原料としたフィッシャー・トロプシュ反応を経由して得られる合成油、あるいは石油由来の各種留分を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の炭化水素の製造方法に用いる原料油に含まれる酸素分は、原料油全量を基準として、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは3〜14質量%、特に好ましくは5〜13質量%である。酸素分の含有量が0.1質量%未満であると、脱酸素活性及び脱硫活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、酸素分の含有量が15質量%を超えると、副生する水の処理に要する設備が必要となり、また水と触媒担体との相互作用が過度となることにより触媒活性の低下及び触媒強度の低下等を引き起こすおそれがある。
【0035】
(第1の工程)
本発明の炭化水素の製造方法における第1の工程は、第1の反応帯域において、水素及び第1の水素化触媒の存在下、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油について酸素分除去率が5〜80質量%となるように水素化脱酸素及び水素化異性化を行い、第1の生成油を得る工程である。
【0036】
第1の反応帯域は単一の触媒床から構成されていてもよいし、また複数の触媒床から構成されていてもよい。また、第1の反応帯域が複数の触媒床から構成される場合、それらの触媒床は単一の反応器内に離隔して設置してもよいし、あるいは複数の反応器を直列または並列に配置し、各反応器内に触媒床を設置してもよい。
【0037】
第1の反応帯域における反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は被処理油に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0038】
また、第1の水素化触媒は、水素化脱酸素活性及び水素化異性化活性を有するものであれば特に制限されないが、第1の水素化触媒としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物、並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第VIII族の元素から選ばれる1種以上の金属元素を含有する触媒が好ましく用いられる。
【0039】
第1の水素化触媒の担体としては、水素化異性化活性を一層向上できる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましく、アルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)が更に好ましい。
【0040】
多孔性無機酸化物が構成元素としてアルミニウムを含有する場合、アルミニウムの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、アルミナ換算で、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。アルミニウムの含有量がアルミナ換算で1質量%未満であると、担体酸性質などの物性が好適でなく、十分な脱酸素活性が発揮されない傾向にある。他方、アルミニウムの含有量がアルミナ換算で60質量%を超えると、触媒表面積が不十分となり、活性が低下する傾向にある。
【0041】
アルミニウム以外の担体構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えばケイ素についてはケイ酸、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについてはリン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
【0042】
多孔性無機酸化物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタンのうち少なくとも二種類以上の元素を含んで構成されていることがより好ましい。多孔性無機酸化物は、非結晶性、結晶性のいずれの形態でもよく、ゼオライトを用いることもできる。ゼオライトを用いる場合には、国際ゼオライト学会が定める構造コードのうち、FAU、BEA、MOR、MFI、MEL、MWW、TON、AEL、MTTなどの結晶構造を有するゼオライトを用いることが好ましい。
【0043】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0044】
本発明の炭化水素の製造方法において、第1の水素化触媒の活性金属としては、周期律表第VIII族の元素から選ばれる1種以上の金属であることが好ましく、このうち、Pt、Pd、Ru、Rh、Au、Ir、Ni、Coから選ばれる1種以上の金属であることがより好ましく、Pt、Rd、Ru、Niであることが特に好ましい。なお、これらの活性金属は、2種類以上の金属を組み合わせてもよく、たとえば、Pt−Pd、Pt−Ru、Pt−Rh、Pt−Au、Pt−Irなどの例が挙げられる。
【0045】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の水素化触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。これらの金属は、硝酸塩、硫酸塩、あるいは錯塩の形態の金属源を水溶液あるいは適当な有機溶剤に溶解し、含浸溶液として使用することができる。
【0046】
第1の工程における原料油からの酸素分除去率は、上記の通り5〜80質量%であることが必要であり、10〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。酸素分除去率が前記下限値未満の場合には、異性化率が低く、燃料油基油としての低温特性が劣る傾向にあり、また、第2の反応帯域における水素化脱酸素反応における転化率を高める必要を生じるため、該帯域における大きな発熱により温度制御が困難になる傾向にある。他方、前記上限値を超える場合には、水素化脱酸素により副生する水、二酸化炭素によって水素化触媒が被毒され、活性低下をきたす傾向にある。
【0047】
また、第1の反応帯域入口においては、原料油に含まれる硫黄分含有量が1質量ppm以下であることが好ましく、0.5質量ppmであることがより好ましい。硫黄分含有量が1質量ppmを超えると第1の工程における水素化異性化の進行が妨げられる恐れがある。加えて、同様の理由で、原料油と共に導入される水素を含む反応ガスについても硫黄分濃度が十分に低いことが必要であり、1容量ppm以下であることが好ましく、0.5容量ppm以下であることがより好ましい。
【0048】
第1の工程における反応条件としては、好ましくは、水素圧力1〜10MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h−1、水素油比(水素/油比)100〜1500NL/Lであり;より好ましくは、水素圧力.2〜8MPa、液空間速度0.2〜2.5h−1、水素油比200〜1200NL/Lであり;さらに好ましくは、水素圧力2.5〜8MPa、空間速度0.2〜2.0h−1、水素油比250〜1000NL/Lである。これらの条件はいずれも触媒の反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり触媒活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向にある。
【0049】
第1の工程における反応温度は220〜390℃の範囲であることが好ましく、240〜380℃の範囲であることがより好ましく、250〜365℃の範囲であることが特に好ましい。反応温度が220℃より低い場合には、十分な水素化異性化反応が進行せず、390℃より高い場合には、過度の分解や原料油の重合、あるいは他の副反応が進行するおそれがある。
【0050】
第1の工程において、原料油と共に第1の反応帯域に導入される水素ガスは、所定の反応温度まで昇温するための加熱炉の上流もしくは下流において原料油に随伴させて反応帯域入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、第1の反応帯域内の温度を制御するとともに、第1の反応帯域全体にわたって水素圧力を維持する目的で、触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい(クエンチ水素)。または、生成油、未反応油、反応中間油などのいずれかまたは複数組み合わせて、一部を反応帯域入口や触媒床の間、複数の反応器の間などから導入してもよい。これにより反応温度を制御し、反応温度上昇による過度の分解反応や反応暴走を回避することができる。
【0051】
上記第1の工程で得られる第1の生成物は、通常、原料油の酸素分が水素化脱酸素反応により5〜80質量%除去され且つ水素化異性化により一部が分岐構造を有する炭化水素骨格となった中間油を包含する。そして、かかる第1の生成油は、水素化脱酸素反応に伴い副生する水、二酸化炭素等と共に、気液混相流体として第2の工程に供される。
【0052】
第2の工程は、第1の反応帯域と直列に配置された第2の反応帯域において、水素及び第2の水素化触媒の存在下、第1の工程で得られた第1の生成油について水素化脱酸素を行い、炭化水素油を含有する第2の生成油を得るものである。
【0053】
第2の反応帯域は単一の触媒床から構成されていてもよいし、また複数の触媒床から構成されていてもよい。また、反応帯域が複数の触媒床から構成される場合、それらの触媒床は単一の反応器内に間隔をおいて設置されてもよいし、あるいは複数の直列または並列に配置された反応器内に設置されていてもよい。
【0054】
第2の反応帯域における反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は被処理油に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0055】
第2の水素化触媒としては、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムからなる群より選択される1種以上の元素、及びアルミニウムを含んで構成される多孔性無機酸化物、並びに該多孔性無機酸化物に担持された1類以上の周期律表第VIA族金属元素と1種以上の第VIII族金属元素を含有してなる触媒が用いられる。多孔性無機酸化物の構成元素であるアルミニウムの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、アルミナ酸化物換算で、好ましくは1〜97質量%、より好ましくは10〜97質量%、更に好ましくは20〜95質量%である。アルミニウムの含有量がアルミナ換算で1質量%未満であると、担体酸性質などの物性が好適でなく、十分な脱酸素活性及び脱硫活性が発揮されない傾向にある。他方、アルミニウムの含有量がアルミナ換算で97質量%を超えると、触媒表面積が不十分となり、活性が低下する傾向にある。
【0056】
第2の水素化触媒を構成する多孔性無機酸化物は、構成元素としてさらにリンを含有することが好ましい。リンの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、更に好ましくは2〜6質量%である。リンの含有量が0.1質量%未満の場合には十分な脱酸素活性及び脱硫活性の向上効果が発揮されない傾向にあり、また、10質量%を超えると過度の分解反応が進行して目的とする生成油の収率が低下する恐れがある。
【0057】
アルミニウム以外の担体構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウムあるいはリンを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えば、ケイ素についてはケイ酸、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについてはリン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
【0058】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0059】
担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期律表第VIA族の1種以上の元素、及び第VIII族の1種以上の元素から選ばれる2種以上の活性金属が担持される。これらの活性金属の中でも、コバルト、モリブデン、ニッケル及びタングステンから選ばれる2種以上の金属を組み合わせて用いることが好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステンが挙げられる。これらのうち、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン及びニッケル−タングステンの組み合せがより好ましい。水素化処理に際しては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用することが好ましい。
【0060】
触媒質量を基準とする活性金属の合計担持量としては、タングステン又はモリブデンは酸化物換算で12〜35質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。タングステン又はモリブデンの担持量が12質量%未満であると活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向にある。他方、35質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向にある。コバルト及び/又はニッケルの合計担持量は酸化物換算で1.0〜15質量%が好ましく、1.5〜12質量がより好ましい。コバルト及び/又はニッケルの合計担持量が1.0質量%未満であると、十分な助触媒効果が得られず、活性が低下する傾向がある。他方、15質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0061】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の脱硫触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0062】
第2の工程においては、第2の水素化触媒の水素化脱酸素活性を維持するために、第2の反応帯域に流入する硫黄分量が全流体中の1質量ppm以上となるように、適宜調整することが好ましい。硫黄分濃度を調整するために、第1の反応帯域と第2の反応帯域の間(例えば第2の反応帯域の入口)において、硫黄化合物および/または硫化水素を流体に注入することが好ましい。硫黄分濃度は、1質量ppm以上が好ましく、2〜100質量ppmの範囲であることがより好ましく、3〜60質量ppmの範囲であることがさらにより好ましい。硫黄分濃度が1質量ppm以下の場合には、第2の水素化触媒の触媒活性が低下し、十分な水素化脱酸素性能が期待できないおそれがある。一方、硫黄分濃度が高くなると、生成油に硫黄分が混入し硫黄分濃度が上昇したり、燃料としての品質を示すドクター試験、銅板腐食試験などの性状が悪化するおそれがある。なお、本発明における硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」又はASTM−5453に記載の方法に準拠して測定される硫黄分の質量含有量を意味する。また、ドクター試験は、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」又はASTM D−4952、に記載の方法に準拠して測定されるものであり、銅板腐食試験は、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」に記載の方法に準拠して測定されるものである。
【0063】
硫黄分濃度の調整に用いる硫黄源としての硫黄化合物としては、例えばポリサルファイド類、ジアルキルジスルフィド類、チオフェン類、メルカプタン類が挙げられる。さらに、原油を蒸留して得られる留分を混合してもよく、該留分を精製処理して得られる精製留分を用いて所定の硫黄濃度に調整してもよい。また、硫化水素ガスを注入してもよい。このうち、分解反応が生じる温度や触媒上の活性金属の硫化効率を考慮すると、ポリサルファイド類、ジアルキルジスルフィド類が好ましく、ジアルキルスルフィド類の中では、ジメチルジスルフィド、ジブチルジスルフィドが好ましい。
【0064】
第2の工程における反応条件としては、好ましくは水素圧力1〜10MPa、液空間速度(LHSV)0.3〜5.0h−1、水素油比(水素/油比)100〜1500NL/Lであり;より好ましくは、水素圧力.2〜8MPa、液空間速度0.3〜3.0h−1、水素油比200〜1200NL/Lであり;さらに好ましくは、水素圧力2.5〜8MPa、空間速度0.5〜2.5h−1、水素油比250〜1000NL/Lである。これらの条件はいずれも反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。
【0065】
第2の工程における反応温度は200〜390℃の範囲であることが好ましく、220〜380℃の範囲であることがより好ましく、250〜365℃の範囲であることが特に好ましい。反応温度が220℃より低い場合には、十分な水素化異性化反応が進行せず、390℃より高い場合には、過度の分解や原料油の重合、その他の副反応が進行するおそれがある。
【0066】
第2の工程において、原料油にと共に第2の反応帯域に導入される水素ガスは、所定の反応温度まで昇温するための加熱炉の上流もしくは下流において原料油に随伴させて反応器の入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、第2の反応帯域内の温度を制御するとともに、第2の反応帯域内全体にわたって水素圧力を維持する目的で、触媒床の間から、あるいは第2の反応帯域が複数の反応器で構成される場合には当該反応器の間から、水素ガスを導入してもよい(クエンチ水素)。または、生成油、未反応油、反応中間油などのいずれかまたは複数組み合わせて、その一部を、第2の反応帯域入口や触媒床の間から、あるいは第2の反応帯域が複数の反応器で構成される場合には当該反応器の間から、導入してもよい。これにより反応温度を制御し、反応温度上昇による過度の分解反応や反応暴走を回避することができる。
【0067】
第2の工程において使用される水素は、反応用水素、クエンチ水素のいずれも実質的に硫化水素を含有してもよい。しかしながら、硫化水素濃度が上昇すると、水素化脱酸素反応性の低下を招くおそれがあるため、第2の反応帯域に導入される水素の硫化水素濃度は1容量%以下、好ましくは0.1容量%であることが好ましい。
【0068】
なお、第1の工程で副生する二酸化炭素、水等は水素化処理反応の反応阻害物となる可能性があるが、第2の工程において使用する第2の水素化触媒は、前段で使用する触媒に比べ、これらの阻害に対する耐性が高い傾向にあるため、本発明では実質的にこれらの成分を除去する工程を省くことができる。つまり、一般的にこれらの成分を除去するには圧力を下げ、液相へのこれらの成分の溶解度を下げる必要がある。さらに圧力を下げて気液分離後、減少した水素を補い、液相とともに昇圧して再び後段の反応帯域に導入することになるが、このように降圧・昇圧を繰り返すことにより機器が複雑になるだけでなく、エネルギー効率が低下してしまう恐れがあるが、本発明ではこのような問題を回避することができる。
【0069】
このようにして得られる第2の生成油は、15℃で16時間酸素ガスを吹き込んだ後の酸価増加量が、酸素ガスを吹き込む前の酸価を基準として0.25mg−KOH/g以下であることが好ましく、0.15mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価は、試料1g中の酸性成分量をあらわす指標であり、酸価増加量が0.25mgKOH/gを超える場合には、生成油の貯蔵安定性が悪化する傾向にある。なお、本明細書における酸価はJIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」にある酸価試験方法に記載の方法に準拠して測定した酸価を意味する。
【0070】
また、第2の生成油のよう素価は、0.1以下であることが好ましい。よう素価が、0.1を超える場合には、前述した酸価が著しく上昇する傾向にある。なお、本発明におけるよう素価は、JIS K 0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」に記載の方法に準拠して測定した値である。
【0071】
第2の生成油は、軽油に相当する沸点範囲の留分が主成分となる。その沸点は、10容量%留出点200〜300℃の範囲であり、90容量%留出点250〜330℃の範囲である。一般に、脂肪酸由来のアルキル鎖は直鎖構造であり、水素化脱酸素反応によって生成する炭化水素は、そのままでは直鎖パラフィンとなる可能性がある。しかしながら、低温流動性を考慮すると直鎖パラフィン以外に分岐パラフィンが含有されていることが好ましい。本発明で得られる生成油には、水素化異性化反応によって生成した分岐パラフィンが含まれており、良好な低温流動性を有することが期待できる。パラフィンの分岐度は、例えばゲートデカップリング法による13C−NMR分析によって測定することができる。
【0072】
また、第2の生成油は、軽油に相当する沸点範囲の留分の他、ガス、ナフサ留分、灯油留分も含まれることがある。そこで、必要に応じて第2の工程の後段に気液分離工程や精留工程等を設けることにより、これらの留分を分画することができる。また、反応に伴い副生する水、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素などは、第2の反応帯域の下流側に所定の回収・処理装置や気液分離装置を設けることにより、分離・除去することができる。
【0073】
本発明の炭化水素の製造方法によって得られる第2の生成油又はその画分が実質的に炭化水素からなる場合には、特にディーゼル軽油や重油基材として好適に用いることができる。この場合、第2の生成油又はその画分は、単独でディーゼル軽油や重油基材として用いてもよいが、他の基材などの成分を混合したディーゼル軽油又は重質基材として用いることができる。他の基材としては、一般的な石油精製工程で得られる軽油留分及び/又は灯油留分、本発明の炭化水素の製造方法で得られる残さ留分を混合することもできる。さらに、水素と一酸化炭素から構成される、いわゆる合成ガスを原料とし、フィッシャー・トロプシュ反応などを経由して得られる合成軽油もしくは合成灯油を混合することができる。これらの合成軽油や合成灯油は芳香族分をほとんど含有せず、飽和炭化水素を主成分とし、セタン価が高いことが特徴である。なお、合成ガスの製造方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0074】
本発明の炭化水素の製造方法では、硫黄分の含有量が0.1質量%以下であり、酸素分の含有量が1質量%以下である残さ留分を得ることができ、この残さ留分を低硫黄重質基材として使用することができる。また、当該残さ留分は、接触分解用原料油として好適である。このように低硫黄レベルの残さ留分を接触分解装置に供することにより、硫黄分の少ないガソリン基材やその他燃料油基材を製造することができる。さらに、当該残さ留分は、水素化分解用原料油として用いることもできる。このような残さ留分を水素化分解装置に供することにより、分解活性の向上や生成油各留分性状の高品質化を達成することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
(触媒の調製)
<触媒A>
水ガラス3号をpH14でゲル化させた後、pH7で2時間熟成したスラリーに、硫酸ジルコニウム4水和物を含む水溶液を加え、さらにこのスラリーをpH7に調整してシリカジルコニア複合水酸化物を生成した。これに、硫酸アルミニウムを含む水溶液を加えてpH7とし、シリカジルコニアアルミナ複合水酸化物を生成した。このスラリーをろ過、洗浄し、加熱濃縮によって水分を調整した後に、押出し成型、乾燥、焼成を経て担体を得た。
【0077】
得られた担体に、ジアミノジニトロ白金(II)とジアミノジニニトロパラジウム(II)の共存水溶液を用いて金属を含浸させた。含浸した固形物を110℃で乾燥させた後に、350℃で焼成し、触媒Aを得た。触媒Aの組成を表1に示す。
【0078】
<触媒B>
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液に水ガラス3号を加え、65℃に保温した容器に入れた。他方、65℃に保温した別の容器において濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液にリン酸(濃度85%)を加えた溶液を調製し、これに前述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液を滴下した。混合溶液のpHが7.0になる時点を終点とし、得られたスラリー状の生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。
【0079】
次に、ケーキ状のスラリーを、還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水150mlと27%アンモニア水溶液10gを加え、75℃で20時間加熱攪拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。混練物にケイバン比45のZSM−22を添加し、しばらく混練した後に、押出し成型、乾燥、焼成を経て担体を得た。
【0080】
得られた担体に、ジアミノジニトロ白金(II)とジアミノジニニトロパラジウム(II)の共存水溶液を用いて金属を含浸させた。含浸した固形物を110℃で乾燥させた後に、350℃で焼成し、触媒Bを得た。触媒Bの組成を表1に示す。
【0081】
<触媒C>
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液に水ガラス3号を加え、65℃に保温した容器に入れた。他方、65℃に保温した別の容器において濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液にリン酸(濃度85%)を加えた溶液を調製し、これに前述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液を滴下した。混合溶液のpHが7.0になる時点を終点とし、得られたスラリー状の生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。
【0082】
次に、ケーキ状のスラリーを、還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水150mlと27%アンモニア水溶液10gを加え、75℃で20時間加熱攪拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmシリンダーの形状に押し出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、成形担体を得た。
【0083】
得られた成形担体50gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ−で脱気しながら三酸化モリブデン、硝酸ニッケル(II)6水和物、リン酸(濃度85%)及びリンゴ酸を含む含浸溶液をフラスコ内に注入した。含浸した固形物を120℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、触媒Aを得た。調製した触媒Cの組成を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
(実施例1)
触媒A(65ml)を充填した第1反応管(内径20mm)と、触媒C(35ml)を充填した第2反応管(内径20mm)を、第1反応管が上流側、第2反応管が下流側となるように直列に固定床流通式反応装置に取り付けた。なお、第1反応管及び第2反応管は、予め以下の前処理を行ってから反応装置に取り付けた。触媒Aを充填した第1反応管は、触媒層平均温度300℃、水素分圧6MPa、液空間速度1h−1、水素/油比200NL/Lの条件下で予備還元を行った。触媒Cを充填した第2反応管は、ジメチルジサルファイドを加えた直留軽油(硫黄分3質量%)を用いて触媒層平均温度300℃、水素分圧6MPa、液空間速度1h−1、水素/油比200NL/Lの条件下で、4時間触媒の予備硫化を行った。
【0086】
上記の反応装置に、原料油としてパーム油(15℃における密度:0.916g/ml、酸素分含有量:11.4質量%、硫黄分:0.1質量ppm以下、含酸素炭化水素化合物に占めるトリグリセライド構造を有する化合物の割合:99.6モル%)を通油し、第1反応管における水素化脱酸素及び水素化異性化並びに第2反応管における水素化脱酸素(以下、これらの処理を便宜的に「水素化処理」と総称する)を行った。また、本実施例においては、第2反応管入口における全流体中の硫黄濃度が15質量ppmとなるように、第1反応管と第2反応管の間でジメチルジスルフィドを注入した。反応条件の詳細及び生成物の分析結果を表2に示す。本実施例では、第1反応管における酸素分除去率は67.5質量%であった。
【0087】
(実施例2)
第2反応管に充填する触媒を触媒Cとした以外は実施例1と同様にして、水素化処理を行った。反応条件の詳細及び生成物の分析結果を表2に示す。本実施例では、第1反応管における酸素分除去率は38.6質量%であった。
【0088】
(比較例1)
第1反応管の反応温度を370℃とした以外は実施例1と同様にして、水素化処理を行った。反応条件の詳細及び生成物の分析結果を表2に示す。本比較例では、第1反応管における酸素分除去率は92.1質量%であった。
【0089】
(比較例2)
第1反応管に触媒C35ml、第2反応管に触媒A65mlを充填し、第1反応管の触媒Cについて実施例1と同様の予備硫化を行い、第2反応管の触媒Aについて実施例1と同様の予備還元処理を行った。このようにして前処理が施された第1反応管及び第2反応管を、第1反応管が上流側、第2反応管が下流側となるように直列に固定床流通式反応装置に取り付けた。
【0090】
次に、実施例1と同様のパーム油にジメチルスルフィドを添加して、原料油中の硫黄分濃度を20質量ppmに調整した。この原料油を上記の反応装置に通油し、水素化処理を行った。反応条件の詳細及び生成物の分析結果を表2に示す。本実施例では、第1反応管における酸素分除去率は95.6質量%であった。
【0091】
(比較例3)
第1反応管に触媒Cを100ml充填し、第2反応管に不活性充填剤としてセラミックボールを充填し、実施例1に記載の予備硫化処理を行った以外は実施例1と同様にして水素化処理を行った。反応条件の詳細と実験結果を表2に示す。
【0092】
なお、表2に記載の事項のうち、パラフィン分岐度はゲートデカップリング法による13C−NMR分析によって測定した、全メチル炭素のピーク面積に占める分岐したメチル炭素のピーク面積の割合(%)を示している。また、各留分収率はJIS K 2254記載のガスクロマトグラフ法によって求めた。酸化安定性の指標である酸価増加量は以下に示す方法によって測定した。すなわち、酸化加速試験前後の酸価を、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」にある酸価試験方法に記載の方法に準拠して測定し、加速試験後の酸価から生成油の酸価を差し引いてその増加量を求めた。なお、酸化加速試験として生成油を115℃に保ち、16時間酸素ガスを吹き込む操作を行った。
【0093】
【表2】

【0094】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1及び2では、最終生成物である第2の生成油について、酸素分が十分低減されており、パラフィン分岐率が高く、酸化安定性に優れていることが確認された。一方、比較例1及び2においては、異性化が十分に進行せず、また不飽和分が多く酸化安定性が不十分であった。さらに、比較例2では酸素分の除去も不十分となっている。また、比較例3においては、異性化の進行が不十分であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の反応帯域において、水素及び第1の水素化触媒の存在下、含酸素炭化水素化合物を含有する原料油について酸素分除去率が5〜80質量%となるように水素化脱酸素及び水素化異性化を行い、第1の生成油を得る第1の工程と、
前記第1の反応帯域と直列に配置された第2の反応帯域において、水素及び第2の水素化触媒の存在下、前記第1の工程で得られた第1の生成油について水素化脱酸素を行い、炭化水素油を含有する第2の生成油を得る第2の工程と、
を備えることを特徴とする炭化水素油の製造方法。
【請求項2】
前記第2の生成油中の酸素分含有量が1質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項3】
前記原料油の酸素分の含有量が、前記原料油の全量を基準として0.1〜15質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項4】
前記含酸素炭化水素化合物が動植物油に由来する油脂成分であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項5】
前記含酸素炭化水素化合物に占めるトリグリセライド構造を有する化合物の割合が90モル%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項6】
前記第1の水素化触媒が、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムからなる群より選択される2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物と、該多孔性無機酸化物に担持された1種以上の第VIII族金属元素と、を含有することを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項7】
前記第2の水素化触媒が、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムからなる群より選択される1種又は2種以上の元素及びアルミニウムを含んで構成される多孔性無機酸化物と、該多孔性無機酸化物に担持された1種以上の周期律表第VIA族金属元素及び1種以上の第VIII族金属元素と、を含有することを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項8】
前記第2の水素化触媒に含まれる前記多孔性無機酸化物が、構成元素としてリンをさらに含有することを特徴とする、請求項7記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項9】
前記第1の反応帯域の入口での前記原料油中の硫黄分含有量が1質量ppm未満であり、前記第2の反応帯域の入口での前記第1の生成油を含む全流体中の硫黄分含有量が1質量ppm以上であることを特徴とする、請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項10】
前記第1の反応帯域と前記第2の反応帯域との間において、有機硫黄化合物及び/又は硫化水素を第1の生成油を含む流体に添加することを特徴とする、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項11】
前記第1の反応帯域と前記第2の反応帯域との間において、実質的に硫化水素及び/又は水素以外の副生ガス成分を除去する工程を含まないことを特徴とする、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項12】
前記第2の生成油に115℃で16時間酸素ガスを吹き込んだ後の酸価増加量が、酸素ガスを吹き込む前の酸価を基準として0.25mg−KOH/g以下であることを特徴とする、請求項1〜11のうちのいずれかに記載の炭化水素油の製造方法。